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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ジーグとオズマ
11/91

◇ 最凶の片鱗

 レミーたちにすれば、確かにドノヴァンの情報を少しでも手に入れたい。だが、彼と戦うことになれば、生きて帰れる保証はどこにもない。


 彼との戦闘は正直、避けたいところだ。


 ──しかし……


 頭が混乱してくるレミーとリナを前に、ドノヴァンがすぐさま行動に移る。


「ちょっと重くなるけど、がまんしてね」


 その直後、いきなり彼女たちの上から、ズンッと圧力がのしかかる。


「ぐっ」

「うっ」


 膝まづいた二人を中心に、半径二メートルほどの浅いクレーターのような円ができる。


 さらに、装着しているアーマーが、だんだん熱を発してくる。

 アーマーだけでなく、レミーが手にしている銃も熱くなってくる。


「あつッ」


 持てなくなるほど発熱した銃が、レミーの手から落ちた。


 ──ま、まずいっ


 高温になった銃が暴発すると思ったが、銃のコア・セイフティが作動して事なきを得る。しかし、この銃はもう使えない。

 通信機は最初に受けた重力で内部が破損し、役に立たなくなっている。


 リナの顔から、汗が吹き出てくる。


 ──あ、熱い……


 レミーの鋭い感性が、彼女自身に危機を知らせる。このままでは装着しているアーマーが熱で変形する上に、ロック回路が焼き切れて解除できず、蒸し焼きになってしまう。


 戦闘モードのまま強制解除すると、アーマースーツは分解して、もう使えなくなる。だが、迷っている暇はなかった。


 レミーはリナに叫んだ。


「アーマーを解除しろ、はやく!」


 アーマーの強制解除スイッチは、腰のベルトの左側にある。外枠の円形のロックスイッチを時計方向にまわし、中のツマミを反時計方向にひねった。

 アーマースーツのロックが解除され、彼女たちの身体から、分解されたアーマーの部品がバラバラッと地に落ちる。ロック解除に連動するヘッドギアも、割れるようにバラけて落ちた。


 しかし、熱さはまだ止まらない。二人のインナースーツがじわじわと溶けるようにボロボロになり、彼女たちの肌があらわになってゆく。


 この二人より驚愕したのは、ドノヴァンの方だった。彼は、予期せぬことが起こったという顔をして、焦った声を出す。


「ああっ、ごめんよ!」


 自分が発動したレイズをあわてて止める。


「こっちの方は、微調整が難しいんだ。ここまでやるはずじゃなかったんだけどな、ははは……ごめんね」


 ほとんど裸にされ、胸を腕で隠すリナとレミーから、軽蔑するような視線がドノヴァンに突き刺さる。

 彼女たちの心の声が、きこえてきそうだ。


 ──エッチっ

 ──このドスケベ変態クソ野郎!


 二人の視線に気圧され、後ずさりするドノヴァンは、彼女たちに別れを告げる。


「じゃ、じゃあ、帰るね。さよなら-」


 最凶の片鱗を見せつけたあと、まるで負け犬のようにすごすごと去ってゆくドノヴァンである。

 リナとレミーは複雑な想いを胸に抱きながら、そんな彼をただただ見送るばかりだった。




 セシルの乗った装甲車は、ターレルの町中を突き進む。


 その最中、前方に人影をとらえた。


「隊長、あそこに誰かいます」

「二人……だな?」

「はい、サーモセンサーでチェックしました。二人です」


 さらに進むと、その人影がリナとレミーであることが確認された。装甲車が、彼女たちの数メートル手前で止まる。


 セシルが降りると、銃を携えた隊員たちが次々と降りてくる。彼らは、ほとんど裸のリナとレミーを目にして驚いた。


 白衣を着たメディカルチームのマスター、ティナ・フォーゼリエが目をつりあげて、彼らに向かって声をはりあげる。


「男は全員、後ろを向きなさいっ。二人の方を見るな!」


 男どもは、あわてたようにみんな後ろを向くのだった。


 セシルが「やれやれ」と、ため息をついた。彼女はリナたちに歩み寄ると、安堵の想いを口に出す。


「ぶじだったか。心配したぞ」


 レミーがその言葉に応える。


「今回は、本当にもうダメかと思いました」


 それはセシルも同じだった。


「間に合わないんじゃないかと、気が気じゃなかったよ。生きててなによりだ」


 ただ、なぜ二人が裸同然でいるのか、わからない。


 彼女が通信機で最後にきいたのは、ドノヴァンの「ちょっと重くなるけど、がまんしてね」という声だった。




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