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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ジーグとオズマ
10/91

◇ 思わぬ行動

 話をきいていたレミーの顔から、汗がにじんでくる。


 ──やはり、当時の噂は本当だったのか


 彼女は以前、ダーモス元大統領が、レイズを使えない一般人を(しいた)げているときいたことがある。


 ──さらに、あの噂が……


 大統領がダーモスからレズリーに交代するに及び、ダーモスは殺害されたのではないかと、軍の一部でささやかれたことがあった。


 あくまで噂で、くわしいことはわからない。大統領官邸で急に倒れ、未知の伝染病に感染したとされるダーモスの情報は、感染病棟に送られて以降は国民はもとより、軍にもまったく伝えられていない。

 大統領がレズリーに交代した時点で、彼は殺されていたのだと考える人もいた。


 これが本当だとすると、ごく一部の人間しか詳細を知らない「ウルトラシークレット」と呼ばれる、超極秘情報が関わっている可能性がある。

 

 そう思うレミーだが、彼女は腑に落ちない。


 ──本当に大統領を殺害するなら、軍の一個分隊が、少なくともその中の編成チームが動くはず


 だが、ダーモス・コーネンが大統領に就任してから死亡するまで、軍が動いた形跡はまったくないのだ。


 リナがドノヴァンに伝える。


「ダーモス・コーネン元大統領は、すでに病気で亡くなっていますよ」


 ドノヴァンは、彼女の言葉に応える。


「それは嘘だ。穏健派と呼ばれるレズリー・マット大統領が、君たちのような強力な部隊を操れるとは思えない」


 レミーは、ドノヴァンに対する見識をあらためなければならなかった。

 シグマッハの悪魔と呼ばれるほどの男だ。何事も力ずくで突っ走ろうとする脳筋野郎だと思ったところが、意外なほど頭がキレる。


 ──やっかいな相手だ


 彼は言葉を続ける。


「ダーモス・コーネン。あいつを殺すまで、俺の戦いは終わらない。じゃまするヤツは、誰であろうが」


 ドノヴァンの目が、凄味を帯びる。


「絶対にゆるさない」


 ズオッと、威圧感が彼女たちに押し寄せる。二人は、思わず身体の前で両腕を交差させて、足をふんばった。

 物理的な圧力にさらされるレミーは、全身を硬直させる。


「くっ、なんという威圧感だっ」


 そのとき、電磁波を操るリナに、感じるものがあった。


 ──磁場が……乱れている?


 これはレイズだ。だが、ドノヴァンはそれを意識しているわけではなかった。ドノヴァンの身体から、怒りで抑えきれないレイズが漏れ出ているのである。


 彼女たちの知っているドノヴァンに関する情報は、彼のレイズは強大な炎を使うということだ。しかし、リナが磁場の乱れから感じるのは、別の能力だ。


 ──これは?


 リナは、ドノヴァンの秘密に近づきつつある。戦うまえから、彼の強さを思い知らされる。


 一方、レミーは懸念する。はたして、リナはこの男に勝てるのか?


 不意に、潮がひくように威圧感が消えてゆく。

 ドノヴァンのスイッチが入ったと思ったレミーに、戦慄が走った。


 ──くるっ!


 相手の攻撃に対して身構える彼女たち。そのとき、ドノヴァンの顔つきがかわり、ふだんの飄々とした表情にもどると、彼は右手を上げながら二人に伝えるのだった。


「じゃあ、帰るね。縁があったら、また会おう」


 ドノヴァンは彼女たちに背を向けると、そのまま歩いてゆく。


 あまりにも予想外なドノヴァンの行動に、レミーもリナも唖然となって、その場に固まってしまった。


 ハッと、われにかえったレミーは、思わずドノヴァンを呼び止める。


「ま、待てっ」


 ドノヴァンがふり向く。


「なに?」

「わたしたちと戦わないのか」

「なんで?」


 いや、なんでじゃないだろう。こういう状況になって帰るか、ふつう。戦闘になるのが当たり前ではないか。


 困惑しているレミーたちに、彼は答える。


「さっきもいったが、俺の敵は君たちじゃない。無理に俺と戦わなければならない理由でも、あるの?」


 いや、そんな理由はない。彼女たちが戸惑っていると、ドノヴァンは思いついたように「ああ、そうか」といって、上に向けた左手の掌を右手の拳でポンッと叩いた。


「俺と戦ったという痕跡が必要なんだね。なるほど、手ぶらで帰れないのか。難儀だねえ、君たちも」


 いや、全然ちがうのだが。




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