◇ ラムド政府と抵抗組織シグマッハ
ラゼッタ星雲が擁する惑星アーカス──この星では、ラムド政府軍とシグマッハ反政府部隊の激しい戦闘が続いている。
ラダモストの戦地において、シグマッハの先攻部隊が窮地に立たされていた。
「シグマッハ本部、こちら先攻部隊の隊長ガラム、きこえるか」
「こちら本部。ガラム隊長、どうした?」
「われわれは、もうダメだっ。全滅する!」
「ガラム隊長、いったいなにが……」
「敵の部隊に恐ろしいヤツがいる。そいつ一人に、ほとんど壊滅させられた。そいつは……グハッ」
「ガラム隊長、応答しろっ。ガラム隊長!」
いくら呼びかけても、現場で戦っている隊長ドルフ・ガラムは応答しない。
ラムド政府に対抗する組織、シグマッハ本部の通信兵パダンは、総隊長のファルコ・ウォーゼスに顔を向けた。
不安を顔にあらわしているパダンに、ファルコは告げる。
「通信機は、まだ死んでいない。通信は切るな、そのままにしておけ」
しばらくして、ザッザッという足音と思われるかすかな音を、現場の通信機がひろう。敵がその場所に近づいている。
やがて、会話の声が耳に入ってくる。どうにかききとれるボリュームである。
女の声だ。
「終わったな」
次に、別の女の声が響く。
「ええ。ジーグがひとりで片づけたようなものですね、隊長」
「たいしたものだ」
ファルコは、「隊長」と呼ばれた女が誰なのか知っている。
──ファーマイン……ラムド特機隊の隊長、そっちへ行ってたのか
セシル・ファーマイン──ラムド政府軍特別機動部隊、通称「特機隊」の女隊長である。
肩まで真っ直ぐのばした黒髪を目の前で切りそろえ、鋭い目つきをした彼女の顔が、瞬時に思い浮かぶ。
シグマッハにすれば、第一級の危険人物だ。
「本部、こちらファーマインだ。これより、ラダモストから帰還する。……え?」
基地に帰ることを本部に連絡する彼女に、悪い知らせが伝えられる。
「わかった、すぐに行く」
「隊長、なにかあったのですか?」
「ナルバンへ向かった部隊が、危機に瀕しているらしい」
「まさか! あそこは、もっとも人員を割いて送り出した部隊ですよ」
「とにかく行くぞ。急ごう、モルダン」
「はい」
彼らの会話は、これで終わる。ファルコはパダンに命令した。
「よし、通信を切れ」
「はっ」
ファルコは眉をよせ、右手を顎にもってゆく。彼にとっては、予想外の事態だ。
ラダモストの戦地で戦う先攻部隊を支援するため、他の部隊を応援に向かわせようとしていた矢先、これほどはやく先攻部隊が壊滅させられるとは思ってもみなかった。
ラムドの特別機動部隊は、ただでさえやっかいな存在だ。その上、ほぼ一人でこちらの部隊を壊滅する力がある人材を、あの部隊はひき入れたか、あるいは育ててモノにしたというのか。
──ジーグ、か。いったい、どんなヤツなんだ?
早急に、ジーグという謎の兵士の情報を収集せねばならない。
一方、別の戦地であるナルバンでは──
「ラムド本部、ラムド本部、きこえるか。こちら、ハーシュ」
「こちらラムド本部、どうぞ」
「シグマッハの悪魔だ、やられる!」
「ハーシュ隊長、落ち着いて状況を説明してください」
「あれは、オズマにちがいない。もうダメだっ、みんな……」
バキャッ、という破壊音が絶望を伝えたあと、通信は完全に途絶えた。
ラムド統合本部の司令官、ワイアード・ロディオンは眉をゆがめる。
「なんてことだ。シグマッハの悪魔が、オズマがナルバンにいたとは」
通信隊員のルビンが、彼に指示をあおぐ。
「ファーマイン隊長の特機隊がナルバンに向かっていますが、どうしますか?」
ワイアードは、すぐに決断する。
「統合本部へ来るように伝えろ。絶対にナルバンへは行かせるな」
「了解」
惑星アーカスにおける先の見えない戦いは、まだ終わりそうにない。