第6話 王立魔剣学校
あれから約1か月経ち、僕は王立に入学する日が来た。
「迎えが来たみたいです。」
朝ごはんを食べ、支度を終えたころ、シロがそう教えてくれた。僕はカバンを持ち、外に出る。
「おし、頑張ってこい。」
「いってらっしゃい。辛かったら帰ってきていいからね。」
お父さんはいつもの優しい笑顔で背中を押してくれた。お母さんはいつもの怪しい笑みだが、僕はそれがお母さんにとって普通の笑顔なのを知っている。
「さっさと行ってこい。」
お姉ちゃんはふんっとそっぽを向いてしまった。多分照れ隠しというやつだろう。素直じゃないなぁお姉ちゃんは。
「頑張ってください。家のことは私がいるので、安心していいですよ。」
シロ以上に家を任せられる人などいないだろう。安心して家から出れる。
「んじゃ、いってきます!」
『いってらっしゃい!』
そんな感じで僕は王都へと向かって言った。
王都へは馬車で向かう。大体1時間から1時間半ってところだ。
「…ガムでも噛むか。」
お姉ちゃんが結構なガム中毒だから、僕もガムは結構好きだ。少し寂しい気分を紛らわすためにガムを噛みたくなったのだ。カバンの中のガムを取りだすと、一緒にメモが入っていた。
『頑張れよ』
この字はお姉ちゃんのものだ。多分恥ずかしくて口では言えなかったのだろう。
「うん。頑張るよお姉ちゃん。」
ガムはお姉ちゃんが好きな味だった。めっちゃ辛い。
王都で馬車を降りると、賑やかな町が広がっていた。
「ここが王都か…実は行ったことなかったんだよね。」
特訓時にめっちゃ高く飛んで見たことはあるが、来たのは初めてだ。
「シロの地図によると…ここを右か…?」
シロは地図というか絵全般が恐ろしく下手糞で、正直何が書いてあるのか分からない。お姉ちゃんも下手糞だが、なんとか分かるレベルまで修正してくれたのだ。
「最初からお姉ちゃんに描いてほしかったよね。」
てかお母さんに頼めばよかった。めっちゃ上手いんだよねお母さんの絵。
「よぉ色男。貴族様がこんなところで何してんだぁ?」
地図を見ながら歩いていると、何やらガラの悪い男が寄ってきた。
「何の用?」
「ここは王都だが平民街だぜ?金目の物出してけよ。痛い目にあいたくなかったらなぁ!」
そう言ってガラの悪い男は僕に殴りかかってる。見た目や言動とは裏腹に技術はかなりあるようで、洗練された拳が飛んできた。ま、それでも2流程度だけどね。
僕は半歩下がってその攻撃を避け、お姉ちゃん直伝のぐーぱんちを喰らわせて倒した。
「まだやる?」
「ひいぃいいっ!」
悲鳴を上げながら男たちは逃げて行った。王都なのに平民街は治安悪いんだな。
さっきの出来事もあり、僕はスムーズに平民街を抜け、王立魔剣学校に着くことができた。
「でっっっっっっっっか!」
お姉ちゃんから聞いてはいたが、学校の敷地が滅茶苦茶広かった。地図魔法を使わないと迷うレベルだぞこれ。
「えっと…大聖堂?に集まればいいんだっけか。」
多分こっちだと思う方向に進み、僕は大聖堂までたどり着いた。
「うおっ、結構人いるな。」
皆、お母さんみたいな笑顔で牽制するように会話をしている。後全体的に顔が良い。
感じられるのはそれくらいで、あんまり強そうな人はいなかった。ま、実力を隠しているだけなのかもしれないから、油断はしないようにしよう。
「あんた、かなり強いでしょ。あたしと勝負してみない?」
「うおっ!?」
気が付くと、真横から声がした。驚いてそちらを見てみるが、誰もいない。
「こっちこっち。下下。」
少し下を見てみると、桜色の髪をした少女が僕を見上げていた。にしてもこいつ…僕に気付かれずにここまで近づいたのか?だとしたら相当気配を消すのが上手いぞ。
「えっと…誰だお前。」
「言葉の使い方は気を付けた方がいいよ。少なくとも初対面の人にお前は駄目だね。」
少女は手でバッテンを作りながらそう言った。驚いて直すのを忘れてたから、気を付けないと。
「それで、私はラミン・ローゼ。ローゼ家の次女だよ。」
「えっと…ローゼ家?」
聞いたことある気はするんだけどな…全然思い出せない。やっぱり興味ないことに対しての記憶力の無さはどうにかした方がいいな。
「知らないの?一応結構有名な貴族なんだけど…ま、いっか。ローゼ家は様々な分野で活躍する逸材を生み出してきた「天才」の一族なの。例えば、私のお父さんはこの国の軍団長だし、おばあちゃんは元魔王だよ。」
「あー、聞いたことはある。血を継いでる全員が特別な才能を持っている一族なんだっけ?」
その程度で天才を名乗られるのは心外だが、実際天才がいたのは事実なので気にしないことにしよう。
「まぁね。それで、あんたはめっちゃ強いでしょ。立ち方歩き方目の使い方その他全部があんたを強者だって言ってる。私と勝負しない?」
なるほど。それで実力が気付かれるのか。癖だから直すのが大変そうだな。
「なんで僕と勝負がしたいの?」
そう聞くと、少しラミンの表情が曇った気がした。
「なんでか…私の存在証明?」
存在証明…?意味はよく分からないが、多分自分の実力を確かめたいのだろう。僕も強くなっているかを図るためにシロやお姉ちゃんとよく戦ったものだ。
自分の実力を知ることは大切だし、自分の為にも受けていいだろう。
「ま、減る物じゃないしいいよ。これが終わったらね。」
「ありがと。」
ノータイムでラミンが感謝を告げてきた。別に感謝されることはしてないと思うが…
「どういたしまして?」
「じゃ、またね。」
そう言って、ラミンはどこか行ってしまった。
「様々な事を見透かす観察眼。一瞬で気配を完璧にする隠密術。あいつめっちゃ強いな。」
やっぱり油断はしない方がいいと、僕はそう再認識したのだった。
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