第1話 かっこいいは正義
「おぎゃぁあぁああ!おぎゃぁあぁああ!」
産声が鳴り響いた。膨大な魔力が辺りを蔓延る。
「おぉ!遂に生まれてきてくれたか!」
そう言うのは、この赤子の父、ヘクセライ。このサムハ帝国でも高名な貴族であるバークンスト家を継いでいる公爵で、整った髭を撫でながら子供が生まれてきてくれたことを喜ぶ。
「この膨大な魔力、きっと将来は騎士団長だわ!」
彼女はテュール。この赤子の母だ。まるで子供自体は興味がないかのように、その魔力量を喜んでいる。私はこの人が好きじゃない。悪人の臭いがプンプンするのだ。胡散臭い糸目に、いつも胡散臭い笑顔。これで裏切り者じゃなかったらそれはそれで怖い。
「そうですねー。何なら魔王にもなれますよー。」
そういう私はこの家のメイド長をしているシロ。16歳。今日からこの子の担当になるので、居合わさせてもらった。
「そうだな!私の子だ。魔王にも慣れるかもしれないな!」
ちなみに言うと、私達メイドの仕事は超ブラックだ。時間外労働なんて当たり前だし、ヘクセライ様もテュール様も散らかし癖があって毎日掃除が大変。更に言えば分家やその他諸々の関係者が同じ家に住んでいるため、食事の用意がものすごく大変。
そして私は心に決めた。この子が10歳になるまで育てたら、転職しよう。と。
~10年後~
10年前の私!転職すると言ったな、あれは嘘だ!何でかって?それには大きな理由がある。
「忙しそうですねシロ、なんか手伝いましょうか?」
おっと、噂をすればその理由がやってきた。
「すみませんミスカティア様。これお願いします。」
「了解。」
この子は私が担当している子、ミスカティア様だ。丁度昨日10歳になり、盛大に祝った。今日はその片付けで、いつも忙しいのが更に忙しくなっている。
普通なら、ここまで片づけるのがめんどくさい飾りは付けないのだが、ミスカティア様なら話は別だ。
この子、滅茶苦茶いい子なのだ。父と母よりも私達メイドと関わることが多かったからなのか、幼少の頃から礼儀正しく、父に似て凄く優しい子に育った。
顔は10歳ながらかなりのイケメンで、遺伝子の強さを感じられる。両親とも、顔はいいのだ。
「さぁさ、早く片付けて昼食の準備するよ!」
私はほかのメイド達に指示を出す。余談だが、実は幼少の頃、ミスカティア様は「将来、シロと結婚する!」と言っていて、その後テュール様にボコボコにされた。
僕はミスカティア。バークンスト家の長男だ。バークンスト家は代々歴史に残る大魔法使いや魔王を出してきた名家で、僕もそんな先祖様達に並べるよう、努力をしている。
ちなみに、魔王とはこのサムハ帝国の8つの州をそれぞれ治める王様のこと。その魔王達をまとめる人のことを帝王と呼ぶのだが、現在は不在だ。普通なら内争の1つや2つ起こるものだと思うが、今代の魔王達は仲が良く、何の問題も起こっていない。
「それじゃあ少し散歩して来ます。」
「分かりました。晩御飯までには帰ってきてくださいね。」
扉の外で立っていたシロにそう言い、僕は窓から外に出た。
「全く、ミスティも困った子ですね。」
ミスカティア様を見届けると、ヘクセライ様が隣に立っていた。
「別に隠れて修行することもないでしょうに。」
「それはそうですね。でもきっと、ミスカティア様なりの「かっこよさ」があるんですよ。」
私はそう言い残し、私は仕事に戻った。ミスカティア様はいつも泥まみれで帰ってくるので、お風呂も沸かしておかないと。
僕は近くの森に入り、いつもの開けた場所に行く。ここは人も来ないし、魔法の特訓もしやすいのだ。
「今日も陰ながら特訓頑張るぞ!」
ここだけの秘密だが、僕はかっこいいのが大好きなのだ。きっかけは覚えていないが、それに僕は脳を焼かれていた。
世の中に沢山あるかっこいい人の中でも、僕が憧れているのは知らない人だ。頭に根ずいて離れない、白髪の人。少しだけシロに似ている、綺麗な女性。彼女は天才として活躍していたが、裏では死に物狂いで努力していた。それを誰にも悟らせることなく、「天才」として活躍し続けた。調べても出てこないから、昔読んだ本の主人公か何かなのだろう。
でもそれは、僕の行動理念を決めるには十分なかっこよさでだったのだ。
「えーと、まずはいつもの精神を鍛えるトレーニングだね。」
そう言って、僕は日課のトレーニングを始めた。
読んでいただきありがとうございます!下から評価をお願いします!ブックマークも頂けたら嬉しいです!次回は明日5時に投稿します!お楽しみに!