37.鋼のドレス
スミナ達はドワーフの工房で久しぶりの休息を取っていた。王国との同盟が結ばれ、この場の安全が確保出来たからだ。
ゴンボとの戦いの後、工房に辿り着いた時には既にドワーフ達は自らの意思で魔族連合を抜ける為の準備が行われていた。なので、ゴンボが指示をするとすぐに行動が開始された。即座に闇機兵の工場は止まり、中に居た魔族も排除された。他にも魔族が監視の為に仕込んでいた工房内の道具も全て廃棄され、魔族連合が襲ってきても対応出来る機械兵が配置された。大規模な侵攻でも無い限り工房は大丈夫だろうという事だ。
スミナはゴンボ達に王国の希望や今後の話をし、ゴンボは全ての要求を了承してくれた。結局ドワーフ達もデビルの生物をエネルギーとする技術は嫌っており、魔族連合を抜けるきっかけが欲しかったようだ。それと同時に別の技術を試した事で新たな切り口が見つかったとも言っていた。スミナはドワーフ達は独立した勢力としても問題無さそうだと感じていた。
ドワーフ達との話し合いの後、彼らは新たな同盟祝いで宴を始め、工房内は大騒ぎになっていた。食事は楽しめたものの、ドワーフ達のテンションに慣れないスミナ達は戸惑ってしまう。そんなところを見計らってゴンボの孫であるギンナが自分の研究室にスミナ達を連れ出してくれた。そこでようやくスミナ達は休息を取れたという状況だ。
「騒がしくてごめんなさい。それにお爺ちゃんが襲った事を改めて謝らせて下さい……」
「それは大丈夫ですよ。
ギンナさんの事はアリナに聞いてましたが、他のドワーフの方と随分雰囲気が違うんですね」
「私はみんなと居るより1人が好きなので……。
でもお爺ちゃんといるのは好きですが……」
ギンナがドワーフとしては大きく鍛えられた身体で小声で話す。喋る事が面倒なソシラとはまた違った喋り方だなとスミナは思う。
「魔導機械が好きだってアリナから聞いてますよ。わたし達のところに乗って来た魔導機械もギンナさんが直したんですよね」
「はい。あれは修理するのと同時に私の方で他の魔導具を組み込んで改造してあるんです。今は更に追加の機能も考えてるんですよ」
魔導機械の話になるとギンナは急に元気になった。スミナはギンナが魔導機械などを隠し持っている事をアリナから聞いているが、知ってると言ってしまうとアリナが秘密を洩らした事になってしまう。なのでギンナに自分から見せて貰いたいとスミナは考えていた。
「わたしも色々魔導具を使ってるんだけど、ここに出していいかな?」
「はい、是非見せて下さい!」
「今の手持ちだとこんな感じです」
スミナは魔導具のベルトに収納していた魔導具で見せても問題無い物をギンナの作業机いっぱいに広げて出す。
「ちゃんと見た事無かったけど、そんなに色々持ってるんだ、やっぱり」
横で2人の話を聞いていたレモネ達もスミナの道具の量に驚く。
「凄いです!見た事の無い魔導具がこんなに……。
あの、触ってもいいですか?」
「いいよ、ただ扱いには注意してね」
「勿論です!」
ギンナは早速魔導具のゴーグルを付けて丁寧にスミナの魔導具を観察していく。本当に魔導具や魔導帝国の技術が好きなようだ。スミナはエルをこっちに連れて来てあげたかったなと思ってしまう。
そんな事を考えていたらアリナとの連絡用の小さな魔導具が“ピコッ”と鳴って青く光った。
「みんな、アリナ達もヤマトの国との話し合いが上手くいったみたい」
「そうですか、それはとても良かったです」
「まあアリナが居れば問題無いよね、やっぱり」
ミアンが安堵し、レモネは当然のように振る舞う。スミナは流れとしてメイルが酷い目にあってるのではと少し心配していた。
「わたし達も明日にはここを出てエルフの森に行こう」
「スミナさん、その事なんですが、少し不穏な噂が流れてます……」
ギンナも魔導具を見ながらスミナ達の話を聞いていたようで、魔導具を置いて話に加わってきた。
「不穏な噂って何でしょうか?」
「詳しくは私も知らないのですが、エルフの森がある森林地帯が荒らされていると聞きました。私達はそれも王国の人達がやっているのかと思ったんですが、スミナさん達の話を聞く限り、そうではないみたいなので……」
「確かに王国からはわたし達以外はこちら側には来ていない筈なので、わたし達では無いですね。魔族連合内での争いでも無いでしょうし、気にはなりますね」
スミナは以前エルフの森でアリナが黒騎士と戦った件を思い出す。だが黒騎士はスミナ達が倒し、黒騎士の部下の機械が勝手に動く事も無い筈だ。スミナ達の知らない新たな脅威が出てきた可能性もある。もしかしたらエルフの代表者であるエリワがこちらの話を聞かずに襲って来たのはそれが原因だったのではとスミナは思った。
「なのでもしエルフの森の方へ行くのでしたら、きちんと準備してからがいいと思います。
時間が貰えるならドワーフからも兵器を持って行けるように対応しますし……」
「それは助かるけど、時間との勝負でもあるし、魔導馬車で行く予定だから厚意だけ頂きます」
「でしたら……。スミナさん、後で少しだけ話をさせて下さい」
「いいですよ」
恐らくギンナは自分の魔導帝国の機械や兵器をスミナに見せるつもりなのだろう。その後、スミナ達はお風呂を借り、寝室も準備して貰った。スミナはギンナと2人で話す為に他のみんなを寝室に残して自分だけでギンナに会いに行く。
「ギンナさん、少しお話しませんか」
「スミナさん、時間を取って貰ってすみません……。スミナさんに見て貰いたいものがあるんです……」
「はい」
ギンナはスミナを隠し通路へと案内する。
「以前アリナさんには見て貰ったのですが、この工房には隠された倉庫があって、そこに古代魔導帝国の遺物があるんです」
「そうなんですね」
スミナは案内されるまま地下へと下って行った。
「ここはドワーフでも知っている者が限られていて、今ここに来るのは私ぐらいです。私はここで独自に魔導機械や魔導兵器の研究をしています」
「これは……」
スミナは地下に思ったよりも広い空間が広がっていて驚く。ここは元々魔導帝国の遺跡だったのかもしれない。
「最初、ここにはドワーフ達が研究の為に集めた残骸しかなかったんです。ドワーフ達はそれを再利用したり、修理したりするつもりはありませんでした。
でも私はここにある物がドワーフでは作れない凄い物だと思い、直せそうな物から修理したんです。これが私が修理した魔導帝国の兵器です」
「凄い、この数を1人で?」
ギンナに案内された先には無数の魔導帝国製のガーディアンが並んでいた。ただ、どれも動きそうにない。
「はい。壊れた箇所が少ない物や、部品が応用出来そうな物を選んでですが。
ですが、問題がありました……」
「エネルギー源である魔力が確保出来ないんですね」
「その通りです」
魔導帝国製の魔導機械や魔導兵器、ガーディアンは全て魔力で動いている。大きな物ほど魔力を大量に使い、それは何らかの方法で補給が必要だ。魔導遺跡にあるガーディアンは遺跡に残っている魔力を使用し、それが尽きたものは動かなくなっていた。魔導帝国全盛期の大型のガーディアンは全て魔導炉から魔力を供給し、動いていた。だからここで修理されたものは動かないのだろう。
「私が乗っていた魔導兵器に関しては魔導帝国初期の物なので現存する魔力タンクを使って長時間動かす事が出来ます。ただ、戦闘をするとそれにも限度がありますが。
ここにあるガーディアンにも魔力タンクで動かせるか試したのですが、数秒しか動かせませんでした。他の魔導機械も同様です」
ギンナがガーディアンの他にも魔導機械や魔導兵器を見せてくれる。確かに修理は出来てそうだが、どれも魔力が空になっている事がスミナには分かった。ドワーフが直さなかった理由は自分達の作った物に誇りがあるのもそうだが、エネルギー問題を解決出来ない事が分かっていたからだろう。だが、スミナはギンナの努力を無駄な物だとは思わなかった。
並ぶ沢山の機械の中で一つだけ特別な魔導機械がある事にスミナは気付く。
「これは、凄い物ですね」
「分かりますか?これはお爺ちゃんの鎧に似たコンセプトの魔導機械なんです。これも魔導帝国初期の物です。着るというより乗り込むタイプで、これなら私も使えるかと思って直したのですが、やっぱり魔力の供給が上手く出来なくて」
ギンナが残念そうに言う。それは4メートルぐらいの人型のパワードスーツのような魔導機械で、装甲の硬さと重さとスピードのバランスが取れた、人が着込むタイプの機械だった。魔導帝国はこの後に魔導鎧という鎧型で軽く丈夫で防御面も優れた魔導具を作りだしたのでこのタイプの魔導機械は見た事が無かった。それでもこの魔導機械は魔導鎧よりも優れた部分があるとスミナは思った。
魔導鎧は装着する者の魔力と運動能力に左右される。鎧自体に内蔵される魔力もあるが、ポテンシャルを引き出すには使用者が魔力を使う必要がある。動かす身体も使用者そのものなので生身が強い者が着る程により活用出来るのだ。
一方この魔導機械は使用者の魔力に左右されず、積まれた魔力により常に一定の力を出す事が出来る。それに加えて着込む形だが動作は機械自体が行い、使用者の運動能力は関係ない。あくまで操縦する際の判断をするだけでかなりの強さを出せるのだ。問題は魔力を魔導鎧よりも使う為、その供給が欠かせない事だった。
「見たところ直ってるようなので、元々失敗作なのか、特殊な魔力の供給方法があったのかもしれませんね」
「そうですか……。
スミナさん、これよりも凄い物が奥にあります」
ギンナはそう言って更に奥へとスミナを案内する。
「凄い、完全状態のグスタフですね」
「アリナさんもグスタフと呼んでいたので、これはグスタフという名称で正しいのですね。
これもどうやっても動きませんでした。搭乗する場所も無いですし、自律型のガーディアンのような兵器だとは思うんですが」
「触ってもいいですか?」
「どうぞ」
スミナは許可を得て巨大なグスタフに触れる。ただ、スミナは触れる前からこのグスタフが以前レオラが使っていた物では無く、エルの記憶を見た時に出てきたタイプだと分かっていた。
スミナの中にグスタフの記憶と使用方法が流れ込んでくる。これは魔宝石と同時に開発された物で、魔宝石が一体化する事で動作する兵器だ。魔力の供給は魔宝石から行われるので、単体で動く事は無い。このグスタフは初期の戦争の際の予備機で、作られてから使われる事は無かった。
「これは魔宝石が乗り込んで動かすタイプの初期型のグスタフです。これ自体に問題はありませんが、魔力は魔宝石から供給されるのでこのままでは動きませんね」
「アリナさんもそう言ってました。
スミナさんは魔法石を所持しているんですよね。なので、このグスタフはスミナさんに差し上げます」
「そんな、これはドワーフの所有物なのでは?」
「いえ、動かなければただのガラクタですし、私は道具は動いてこそだと思ってるんです。お爺ちゃんが迷惑をかけたお詫びにもならないと思いますが、スミナさんが使って下さい」
「分かりました。
ただ、エルは今いないですし、移動させるだけでも一苦労なのでしばらくはここに置かせて下さい」
スミナはグスタフはドワーフの工房を守る為に使えればと考えていたので、貰うつもりは無かった。貰ったとしても転送装置には入らないので王国には持って帰れない。どのみちしばらくはここに保管してもらうしかない。
スミナは自分ばかり得をしてはと考え、何か自分に出来る事はないかと思案する。
「そうだ、先ほどの魔導機械の鎧、調べてみてもいいですか?」
「あれですか?別に構いませんが……」
スミナはギンナに許可を得てさっきの人型の魔導機械に触れてみた。使用方法はスミナが見立てた通り、背中側から中に入って着込む形で動かす機械だった。武器や武装も多く、出来る事も多彩だ。ただ、魔力の供給だけは内部の球に魔力を注ぐとだけ理解出来て、その方法が分からない。スミナは実際にどう使われていたのか機械の記憶を読み取った。
「レベガ、わたくしのドレスが出来たそうですね」
「はい、エンニ様。こちらが完成した魔導装甲、ドレニスにございます。
しかし本当に戦場に出られるおつもりで?」
「無論です。皆が苦しんでいるのにわたくしだけ安全な場所にいるわけにはいきません。
それに、このままではこの国が滅んでしまいますわ」
城の広間のような場所で豪華なドレスを着た美しい少女と、装飾がされたローブを着た若い魔術師が会話をしていた。エンニと呼ばれた少女は病的にまでに白い肌に銀髪を長く伸ばし、儚げな雰囲気だ。2人の前にはドレニスという名の魔導機械が乗り込める態勢で置かれている。
「エンニ姫様、大変です!!魔族の大軍が街の外に押し寄せてきています!!」
そんな2人のところに鎧を着た兵士がやって来る。
「間に合って良かったです。今すぐわたくしが出ますわ」
「エンニ様、無茶です。まだ動作テストも出来てませんし、魔導装甲はこの1体しか完成していません」
「ドレニスはわたくしの為に作らせた特注品。そもそもわたくし以外が使えない代物でしょう?」
「それはそうなのですが……」
エンニは周りに人が居ながらもドレスを脱ぎ始めた。ほぼ下着のような恰好になったエンニの身体は痩せ細り、とても戦えるようには見えなかった。
「わたくしは病弱で運動も出来ず、魔法もろくに使えません。
ですが、この身体だからこそドレニスは動かせるんですよね?」
「その通りです。エンニ様のお身体は病弱ゆえに魔力が特殊な循環をし、他の者と異なる形でお身体を守っていました。それをドレニスに流し込む事で他の魔導機械とは大きく異なる動きが出来ます。
ですが、それはエンニ様ご自身の命を削る事になると説明した筈です」
「わたくし1人の命で国が守れるなら十分では無いでしょうか。それにわたくしはここで死ぬつもりはありませんわ」
エンニは全身にぴったりとくっつくような衣装を身に着け、ドレニスに乗り込んだ。主人が収納された事でドレニスは命を宿す。
「皆の者にエンニ様の援護を。
エンニ様、ご武運を祈ります」
「ええ、やっつけて参りますわ」
エンニを乗せたドレニスは城の窓から夜空へと飛び立った。
「流石に苦しいですわね……」
魔力を吸われる事と移動の衝撃でエンニは苦悶の表情を浮かべる。それでも彼女の決意がドレニスを動かし続けた。
「皆の者、わたくしエンニがやって参りました。もう安心ですわ」
「エンニ姫様がいらっしゃったぞ!!」
魔族と戦っていた騎士や魔術師達がエンニの到着で沸き立つ。周囲は既に死体だらけで、魔族に押されているのは見て取れた。
「わたくしの国で好き勝手はさせませんわ!!」
ドレニスが両腕を前に出すとそこから銃口が現れ、太く大きな弾が発射される。それはモンスターに当たると爆発し、周囲のモンスター達が砕け散った。だが、魔族は爆風を防ぎ、反撃してくる。
「皆さん、行きますわよ」
エンニはそう言うとドレニスの腕の銃口を仕舞い、足から半円形の刃を腕に取り付けた。両足にも刃が現れ、全身刃のような形態に変わる。エンニは敵の真っ只中へ飛び込み、魔族を次々と切断していった。魔族は突如現れた金属の巨人圧倒され、戦の流れが変わっていた。傷付いたエンニの部下達もその流れに乗って反撃を始める。
ドレニスは速く、硬く、凶暴だった。エンニの儚げな雰囲気とは正反対のように容赦なく敵を切り刻み、踏み潰した。数で圧倒していた筈の魔族は総崩れになり、半数を割ったところで撤退していった。敵の死体の真ん中には動きを止めたドレニスが佇んでいた。
「エンニ様、大丈夫ですか?」
戦いが終わり、先ほどの魔術師レベガがエンニの元にやって来る。ドレニスは搭乗態勢になりゆっくりと背中が開いた。
「はい、大丈夫ですよ、生きてます」
疲弊はしたが笑顔のエンニが中から出てきたのだった。
それ以降ドレニスは国の守護神として長く戦い続けた。だがエンニの国はやがて魔導帝国に合併され、他の魔導兵器が主流となった事でドレニスは宝物庫に仕舞われてしまった。そして魔導帝国の崩壊と共に瓦礫に埋まり、ドワーフが見つけるまで地面の下に埋まっていたのだ。
「スミナさん、大丈夫ですか?」
ギンナに声をかけられてスミナは記憶を見る能力から戻ってくる。必要な箇所だけ見れるようにはなったが、それでも大昔の記憶を見るのにはそれなりに疲労するのだと気付かされた。
「大丈夫です。
この魔導機械は魔導装甲のドレニスといい、魔導帝国とは別の場所で作られたようです。
あと、装着者の魔力を使って動作するようですが、普通の人では使えない仕組みになっていました」
「そうでしたか。
魔導帝国製では無かったんですね。魔力で動くのは私も何となく分かったのですが、やはり普通の物とは異なっていましたか」
ギンナはスミナの話を聞いて少し残念そうな顔をする。ただ、スミナはまだ手立てがある気がした。
「ドワーフの方達は魔法が使えないと聞きました。合っていますか?」
「はい、ドワーフにも魔力はあるんですが魔法を覚える事が出来た者は今まで存在しません。私が聞いた話ですとドワーフは物作りの為の能力に魔力を使えるようになっていて、その代わりに魔法は使えないと。ただ、魔力を使用する魔導具などは人間ほどでは無いですが使えます」
ギンナの答えを聞いて、ドワーフも魔力を持っているのを理解する。このドレニスにその魔力を流せれば動かせるのではないだろうか。スミナはギンナに頼んでもう少し調べてみる事にした。
(やっぱり難しいか……)
スミナは自分でドレニスを動かそうとしたりしてみて、上手くいかずに悩んでいた。操縦する場所の球に魔力を込めるのは分かったが、スミナがどうやっても魔力を受け付けてくれなかった。記憶で見た通り、エンニという少女用に出来ており、普通の人間の魔力は受け付けず、それを直すのは難しいようだ。
「スミナさん、もういいですよ。疲れたでしょうし今日は休んで下さいな」
「そうだね。ごめんなさい、長い時間待たせてしまって」
しばらくスミナを1人にしてくれたギンナが戻って来た。流石にこれ以上迷惑はかけられないとスミナも考え、諦めようとした。
そんな時、スミナはギンナが手に持っている小さな魔導具が気になった。
「ギンナさん、それは?」
「これは音を流す魔導具です。壊れていたのを直してたんですよ」
「見せて下さい」
スミナはギンナから魔導具を渡されて手に取る。だが、スミナが気になったものは魔導具からは感じなかった。
「ギンナさん、少し手を見せてもらってもいいですか?」
「手ですか?はい」
スミナはギンナの自分より小さな手を触ってみる。するとギンナの手から少量の魔力が放出されているのが分かった。恐らく道具を直す際に魔力が流れるのだろう。その魔力は人間が魔法や魔導具を使う時とは異なっていた。
「ギンナさんは意識的に魔力を手から放出する事は出来ますか?」
「いいえ、それは出来ないと思います。魔導具を使う時も意識的に使うのは難しいです」
「このドレニスの中の球状の部分に触れてもらっていいですか?」
「はい」
ギンナはスミナの指示した通りにドレニスに乗り込んで球に触ってみた。その時一瞬だけ光がドレニスに流れたが、すぐに消えてしまった。反応したという事はドワーフの魔力は記憶で見たエンニの魔力と近いのかもしれない。
「今のは?」
「ギンナさんの魔力にドレニスが反応したんです。ですが、意識的に出せないのではエネルギーには出来ないですね。
そうだ、あれが使えるかもしれない」
スミナは持っている魔導具で使えそうな物を思い付き、それをベルトから取り出す。
「ギンナさん、もう少しだけ時間を下さい。
魔導具を加工出来る工具とギンナさんが手に付けられるグローブはありますか?」
「はい、それならここにあります」
地下の倉庫はギンナの作業場もある為、スミナが求める物はすぐに用意された。スミナは取り出した二つの魔導具を調整し、加工した。
「これを両手に嵌めてもらってもいいですか?」
「はい。
それで、このグローブは何なのですか?」
「これはギンナさんの魔力を吸収し、任意の対象に放出する為のグローブです」
スミナが使った二つの魔導具のうちの一つはモンスターやガーディアンから魔力を吸収する為に使おうと思った魔導具だった。この魔導具は抵抗力が低い敵からは魔力を吸収し、それを電池のように他の魔導具に使える物だ。
もう一つの魔導具は魔法を保存し、任意のタイミングで任意の方向に使える魔導具だ。罠やフェイント用に使えるかと思い持っていた物だった。
スミナはギンナのグローブの左右にこの二つの魔導具を埋め込み、吸収した魔力が放出出来るように機能を繋ぎ合わせた。これなら意識的に魔力を放出出来ないギンナでも魔力を上手く放出出来るだろうと。
「すみませんがもう一度ドレニスに乗ってもらっていいですか」
「はい」
ギンナはドレニスに乗り、手で球に触れてみる。だが、反応は何も無かった。
「ギンナさん、手で触れる必要な無いんです。
気を楽にして、グローブからの吸収に抵抗しないで下さい。魔力の流れを想像し、それが球体に向かうように意識して下さい」
「やってみます」
ギンナが言われた通りにやろうと集中する。そうすると一瞬だけ球が光ってドレニス全体に広がったが、すぐに消えてしまった。ギンナが抵抗しなくても魔力が吸収されていないようだ。スミナはどうすればいいか少し考える。
「そうだ、魔力を流すとか、機械を動かすとか、そういった意識では無く、その球体を直すイメージをしてみて下さい」
「これを直すんですね。やってみます」
ギンナがそう言ってしばらくすると球体が激しく輝き出す。
「これ、動きます!!」
「ギンナさん、そのまま続けて動かしてみて下さい」
「ドレニス、起動!!」
ギンナの特殊な魔力が注がれたのか、ドレニスは正常に起動し、背中のハッチが閉まる。そして搭乗用の姿勢からゆっくりと立ち上がった。ギンナが確かめるようにドレニスの手を動かしている。
「ギンナさん、自分の身体を動かすみたいに考えて下さい。それで自在に動く筈です」
「やってみます!!」
中のギンナから興奮気味な声が聞こえてくる。ギンナが装着したドレニスは巨人のようにゆっくりと歩き出した。ギンナはドレニスを走らせてみたり、物を持ってみたりする。
「スミナさん、凄いです!!」
ギンナはドレニスの武器を取り出してみたり、搭載されている様々な機能をここで出来る範囲で試していた。
「ギンナさん、魔力が減って疲れたり意識が薄くなったりしてませんか?」
「大丈夫です。魔力が減っているのは何となく感じますが、全然平気です!!」
ギンナは一通り動かした後、ドレニスから降りて来た。ギンナの魔力をスミナは魔法で調べてみて、まだまだ余裕があるのが分かった。ギンナ自身の元々の魔力が大きいのに加え、長時間の作業が日常化していた事で魔力が増えたのかもしれない。
「まだ全部試してませんが、このドレニスは魔導機械より様々な機能があるのが分かりました。
スミナさんは凄いです、本当に動くようになるなんて!!」
「いえ、わたしは大した事はしてません。ドレニスとギンナさんを繋いだだけで、ドレニスを直したのも、動かせたのもギンナさんですよ」
「そんな事無いです。本当にありがとうございます!!」
ギンナは興奮しながらお礼を言った。ギンナはもう少し調べたいと言ったので、スミナは明日のことを考えて寝室に戻った。流石に全員寝ているかと思ったが、ミアンが起きていた。
「スミナさん、お疲れ様です。その感じだと上手くいったんですねぇ」
「ミアンまだ起きてたんだ。
ギンナさんに案内されて地下を見せて貰ったんだけど、望んだ物はあったよ。
あと、ギンナさん用の新しい鎧も動くようになって、ここも安全だと思う」
「そうですか、それは良かったですねぇ。
やっぱりスミナさんは特別なんだと思います」
「そんな事無いよ。明日も頑張らないといけないしもう寝るよ」
スミナはミアンに褒められれてまんざらでもない気持ちで眠りについたのだった。
一晩休んだ翌日の朝、スミナ達はすぐに旅立つ事をドワーフの王であるゴンボに伝えた。
「もっとゆっくりしていけばいいものの、とはいかんのじゃな。
ワシらは後日来るであろう王国の者を待っておこう。ここの防衛なら心配せんでもいい。ワシらも戦いの準備をしておくし、闇機兵の工場と技術を再利用した機械兵も作り始めておる。
それにダロン相手なら戦い方を心得ておる。何せ造ったのはワシなんじゃからな。
アリナにもよろしく伝えておいてくれ」
ゴンボは戦った時の悲壮感は一晩で消え去り、豪快な老人に戻っていた。スミナも彼らなら問題無いだろうと思った。
「分かりました。連絡用の魔導具だけ置いていくので、緊急の場合はこれで伝えて下さい」
スミナはアリナに渡したのと同型の遠距離でも通信出来る魔導具をゴンボに渡す。
「お爺ちゃん!!お願いがあるの」
スミナ達が別れを告げて工房から出ようとした時、ギンナがゴンボに大きな声で話しかける。スミナ達はそれを聞いて出て行くのを止めた。
「何じゃ、急に」
「私もスミナさん達に同行したいの」
「何じゃと?お前、何を言ってるのか分かっとるのか?」
ゴンボの顔が急激に険しくなる。
「勿論よ。スミナさん達が向かうのは今問題が起こってるエルフの森。いくらスミナさん達が強くてもこの人数で行くのは危険だと私は思う。本当ならドワーフの人達を沢山連れて行った方がいい。
でもスミナさん達は急いでるからそれも難しいって。だから私がついて行こうと思うの」
「ダメじゃ。ギンナ、お前は今までここを離れた事すら無いじゃろう。
それならワシが行こう。それで心配事も消える筈じゃ」
「お爺ちゃんはここを守るのに必要な人でしょ。私は別にいなくなっても問題無い。
それに私も新しい武器を手に入れたの。それを見てからちゃんと考えて」
ギンナはそう言うと近くに持って来ていたドレニスに乗り込む。
「どう、お爺ちゃんならこの機械の凄さが分かるでしょ」
「お前、いつの間にそんなものを。
じゃが、同行を決めるのはワシじゃない。スミナ殿、ギンナを連れて行くつもりはあるのかい?」
突然沸いたギンナの同行の話を振られてスミナは考える。確かにギンナとドレニスは戦力になるが、その分ドワーフの工房が手薄になってしまう。それにギンナの安全をスミナが守れるとは限らない。ギンナの身に何かあったらドワーフとの同盟もおかしくなってしまう可能性がある。
「ギンナさんの提案は嬉しいのですが、もしものことを考えると許可出来ないですね」
「ほら、ギンナ、スミナ殿もそう言っておる。お前は外の世界を知らな過ぎるのじゃ」
「お爺ちゃんもスミナさんも決めるのは待って欲しい。
スミナさんはドワーフとの関係を気にしてると思いますが、それとこれとは別の話です。私が怪我をしたり、命を落としてもドワーフとの友好関係は壊れません。これは私の勝手なお願いでついて行く話なので。
お爺ちゃん、私は外の世界を知らないからこそついて行きたいの。そのタイミングは今しかない。それに私はスミナさん達が勝利する事がドワーフの未来にも繋がると思ってる。
だからお願い、2人とも私の同行を許して欲しい」
ギンナの願いは切実に感じた。普段大人しい彼女がここまではっきりと意見を言うのは珍しい事なのだろうとスミナは思っていた。
「ギンナ、わしは本当にお前を大事に思っておる。だから本当はお前をずっとここに置いて守っておきたかった。
じゃが、お前が魔導帝国の道具や機械を直し、その鎧のように活用しているのを見ていてお前に可能性を感じておる。ここに閉じ込めておくのは間違いなのかもしれんとな。
ギンナ、お前のやりたいようにやって来い。だが、責任は全てお前にある事を忘れんようにな」
「お爺ちゃん……」
先に折れたのはゴンボの方だった。スミナはギンナの能力は今後の戦いにおいても重要だと考えている。そしてギンナの願いは自分の考えと似ていると思った。
「ギンナさん、これからは本当に危険になります。貴方の想像しているよりも恐ろしい障害が待ち受けているでしょう。
それでも貴方は付いて来ますか?」
「はい。私を連れて行って下さい。どんな命令も聞きますし、どんなに危険な目に遭っても弱音は吐きません」
「分かりました。
ゴンボさん、ギンナさんをお預かりします」
「スミナ殿、祖父としてギンナをよろしくお願いしますじゃ」
こうしてギンナはスミナ達のグループに加わる事になったのだった。
「ギンナさんってあんな雰囲気なのに意外と積極的なんだね」
魔導馬車で移動中に後部の座席に座っているレモネが話しかけた。ギンナのドレニスは魔導馬車に積めるか心配だったが、後部の荷物庫に積んだ物を座席側に移動したらサイズを合わせたかのように格納する事が出来ていた。
運転席は前と変わらずスミナが運転し、助手席にミアンが座っている。座席の方にレモネとソシラ、エレミとギンナがそれぞれ並んで座っていた。
「いえ、あの時は自分でもどうかしていました……。でも、ああでもしないと後悔すると思って……」
「ドレニスという機械も凄かったです。あれはギンナさんが作ったんですか?」
「作ったなんてとんでも無いです。あれは工房に眠っていた物を少し直しただけで、動かせたのもスミナさんのおかげなんです」
エレミに聞かれてギンナは慌てて修正する。
「ドワーフは物作りが得意だって聞いた……。確かに工房の中の物はどれも立派だった……」
「ありがとうございます。みんなが聞いたら喜ぶでしょう……。
ところでソシラさんの腕の中にいるその生物は一体?」
ギンナがドワーフの工房では出てこなかった小竜状態のホムラを見つけて質問する。ギンナにいきなり竜神の事を話しても困ると思い、スミナが答える事にした。
「あまり気にしないで下さい。その生物はわたしの使い魔で喋るペットみたいなものなので。
そうだよね、ホムラ」
「そうじゃ、わらわの事は気にせんでいい」
「可愛いですね」
「そうでしょ……」
ギンナに褒められてソシラが喜んでいた。ギンナもドワーフではあるが見た目はスミナ達と大して変わらない少女なのでスミナ達と打ち解けていた。ギンナは普段は小声で大人しいが魔導具などの話になると早口になるので、同じく魔物の事になると饒舌になるソシラと波長が合っているようだった。
「ここから先がエルフが住んでいると思われる領域になります……」
ギンナがドワーフの工房から持ってきた最新の地図により、スミナ達は山道を安全にエルフの森付近まで移動する事が出来た。
「見たところ危険は無いですし、争いがあった形跡もありませんねぇ」
「このままエルフの住んでいる森まで行ってみよう」
ミアンが辺りを確認し、スミナは魔導馬車を森の中へと進めていく。しばらく進むとスミナは急激な不快感に襲われた。
「スミナさん、とても嫌な感じがします」
「わたしも感じた。この先は危険な気がする。
みんな、一旦馬車を降りよう」
エルフの森はまだ先だが、危険を感じた一行は戦闘出来る準備をして徒歩で確認する事にした。スミナ達は魔導鎧を身に着け、ギンナもドレニスに乗って起動する。見たところ周囲は普通の森だがモンスターや野生動物の姿は見当たらなかった。鳥の声もせず静かである。
「行こう」
スミナが先導して道沿いに歩いていく。進むにつれてスミナは不快感が増していった。魔族とも異界災害とも異なる、生理的な嫌悪感だとスミナは感じていた。腐った生ごみや生き物の死体に感じる物と一緒だ。
「スミナさん、前方に人のような反応があります。道を反れた右の方です」
人らしき反応を最初に確認したのはギンナだった。ドレニスの機能で広範囲の索敵が出来るようだ。その人物はこちらに寄って来ているのか、スミナも感知出来る距離に入っていた。
「みんな、飛び道具が来るかもしれないから気を付けて」
スミナは以前エリワが襲って来た事を考慮して注意を促す。しかし、攻撃は来なかった。
「安心していいよ、アタイはもう戦うつもりはないからさ」
そう言ってエリワは堂々と姿を現した。
「エリワさん、ですね。わたしはデイン王国のスミナ・アイルです。アリナの姉といえば分かりますよね。
わたし達も貴方と戦うつもりはありません。話し合いに来ました」
「ああ、その件だけど、ザンネンだけど無理だよ。エルフ達はもう隠れちゃったんだからね」
「どういう事でしょうか?」
エリワの言葉にミアンが不安げに質問する。
「まあ実際見て貰った方が早いよな。付いて来て」
エリワは何も説明せずに歩き始める。スミナ達は顔を見合わせた後、エリワに素直について行く事にした。
「これは……」
スミナはその光景を目の当たりにして絶句する。森はある場所を境にして色彩を失っていた。木々は枯れ、生き物は死に、どす黒く腐敗している。大地さえも全く生命力を感じられなかった。
「何があったのでしょうか?」
「突然現れた銀色の植物みたいなヤツラが歌うと周りの物全てが死に絶えたんだよ。ヤツラはいくら倒しても後から次々と湧いて来て、ゆっくりと、確実に森を死滅させていった。何をやっても無駄だった。
だからエルフの長老達は戦うのを諦め、ヤツラから逃げる事に決めたんだ。エルフの森を中から封印し、数百年隠し続けるってね」
「エリワさんはなんで残ってるんですか?」
「アタイは最期まで諦めたく無かったから。まあ魔族連合に助けを求めに行ったら、アンタ達に砦を壊されちゃったんだけどさ」
「それは……。
ごめんなさい、こんな事になっているなんて知らなかったんです」
スミナはエリワの境遇を聞いて素直に謝る。
「謝らなくていいよ、どうせ魔族連合でもどうにも出来なかったと思うから。
むしろヤツラはエルフを囮にして変な生物を捕まえようとしただろうしね。
それにもうどうでもいいから。アタシは疲れたし、アンタらにこの事を伝えたら帰るつもりだったんで」
エリワはそう言って立ち去ろうとする。
「待って下さい。帰ると言ってもエルフの森は封印されてしまったんですよね。魔族連合に帰るんですか?」
「まさか。エルフが居なければヤツラにとってアタイに価値なんて無いよ。
昔の家に帰るだけさ。じゃあね」
「悔しく無いんですか、ここまで無茶苦茶にされて!!」
そう言ったのはドレニスを降りていたギンナだった。
「アンタ、ドワーフだよね。誰?」
「私は元ディスジェネラルのゴンボの孫のギンナといいます。
私はもしドワーフの土地がこんなにされたら悔しくて仕方が無いと思います。絶対にやられたままにはしたくないです」
「ああ、ゴンボ王の孫娘ね、話は少しだけ聞いたよ。
アタイは別に関係ないね。元々アタイはハーフエルフで、エルフの森とは無関係なんだ。色々あって魔族連合に入っただけで、こうなったら手を引くよ。面倒だしね」
「昔からドワーフとエルフは性質が合わず、共存出来ないと聞いてました。
でも私の知っているエルフは自然を愛し、自然を破壊する行為は絶対に許さないって聞きました。
エリワさんはハーフエルフだからあまり気にしないんですね」
「なんだと?好き勝手言いやがって!!」
今まで自堕落な感じで話していたエリワの雰囲気が変わる。
「だってそうじゃないですか。こんなにされて、みんな逃げたから自分も諦めて逃げるんですよね。
ドワーフは違いますよ。仲間や土地を荒らされたら絶対に諦めません。何度でも立ち上がり、不屈の精神で立ち向かいます。私達は魔族連合からも自分の意思で抜けて独立したんですから」
「それだって王国の人間の干渉があったからだろ。魔族連合の事もよく知らない癖に好き勝手言いやがって。
アタイが諦めただ?違うね、面倒だからやめただけだよ」
「それを諦めたって言うんです!!」
スミナはギンナがこんなに激しく言い合うとは思わず圧倒されていた。ドワーフが土地を思う気持ちは思ったよりも強いのかもしれない。だがこのまま2人を放ってはおけない。
「2人とも落ち着いて下さい。
エレミさん、貴方の境遇はアリナから聞いています。そして貴方がこっちに来て慣れていないアリナを助けてくれた事も。
もしもこの正体不明の敵を倒せるなら倒したくないですか?」
「アタイだって倒したい気持ちはあるさ。でも、戦ってみて分かったんだ。近寄る事すら危険で、遠くから攻撃してもムダだったって。こんなの諦める他にないだろ?」
「そうとも限りませんよ。わたしは異界災害だって封印出来たんです。倒せない敵なんていないと思います。
エリワさん、一緒に戦ってみませんか?そしてもしその敵に勝てたらわたし達と一緒に来ませんか?」
スミナは笑顔をエリワに向ける。
「ホント、アンタ達双子は厄介だね。
いいよ、ホントにあのバケモノを倒せたなら仲間になってあげる。そこのドワーフよりも優秀だって分かるだろうしね」
「いいですよ、見せて下さいね」
ギンナがエリワを睨みつける。新たな火種は生まれたが、ひとまずエリワと行動を共にする事が出来そうでスミナは一安心だった。
「行きましょう、この脅威が魔族連合の手に渡る前に」
スミナはそう言って未知の存在の退治へと向かうのだった。