36.武士道
アリナ達を乗せた馬車は東へ向かって走っていた。ただし、車をひいてるのは馬では無く、魔族が馬の代わりに使っている鳥型のドーバというモンスターだ。アリナ達が転移に使ったのは小型の転送装置の為に魔導馬車は持ってこれなかった。徒歩で移動すると魔力の無駄遣いになるのでアリナがこの馬車を提案したのだ。
アリナはデビルの呪闇術を覚えた事で弱いモンスターなら使役出来て、馬車の車の部分はアリナが魔力で作る事で問題無く走っている。魔導馬車よりも速度は出ないのはしょうがないが、代わりに敵からは魔族連合の馬車と思われて疑われないのが利点だった。運転手を魔族に変装したアリナとエルがやって、残りの3人が後ろの座席に隠れているのもバレない理由である。
「ホントにこの道で合ってるの?」
「昔の地図と見比べても地形に大きな変化は無く、間違いなく目的地の砦に近付いています」
紫色のリザードマンの姿に変形したエルが答える。エルの頭の中には地形と地図が入っているのでエルが居てくれて助かったとアリナは思っていた。ちなみにアリナの姿は赤色の屈強なデビルになっている。
「そもそもその砦が本当にヤマトのサムライが集まってる場所なのかな?」
「その可能性はかなり高いですよ。ヤマトは自分の国が攻められるのには敏感で、絶対にゲートを島国の方には置かないそうです。そしてデマジ砦は昔からヤマトとの交流に使われていた大陸唯一の接点だったそうです」
そう答えたのは後ろの席のゴマルだった。ゴマルは大きい身体に反して頭も良く、調査部隊で仕事をして多くの知識を持っていた。ゴマルが言うにはここにヤマトの王のマサズが居なくても彼の居場所を知っている者は絶対いるだろうというので目的地にしたのだった。
「問題は本当に話し合いに応じてくれるかですよ。出向いて追い返されたり、戦いになったりしたら意味が無いですから」
「だからこそのメイルだろ。向こうの大将がお前のことを気に入ってるって言うんだから安心だ」
「絶対にそんなに上手く行かないです!!」
オルトに恋愛話を持ち出されてメイルが強く否定する。ただ、否定するメイルには悪いがアリナもその縁を期待していた。マサズは少し話した際には話が通じる人物だと思ったし、メイルの美貌ならまだ惚れ続けている可能性は高いと思っているからだ。
そんな時アリナが首からかけていた小さな魔導具が“ピコッ”という音と共に青く光った。スミナが同じ魔導具で青色の成功のボタンを押したのに反応したのだ。
「お姉ちゃんドワーフの交渉上手く行ったんだ。あたし達も頑張らないと」
「マスターご無事なのですね」
「こりゃ幸先いいな」
オルトも心配していたようで嬉しそうな声を上げる。アリナはスミナ達なら大丈夫だと思っていたが、万が一他のディスジェネラルやレオラがドワーフの工房に居た場合を心配していた。上手く行ったという事は魔族連合はまだこちらの動きに対応出来ておらず、ヤマトの国も手が回っていないだろうとアリナは予想する。
エルが安全な道を割り出して進んでいたのもあり、アリナ達は大きな問題も無くデマジ砦の近くまで来ていた。馬車であと1時間もかからずに着く筈だ。そんな時、エルが街道の先に人間らしき集団がいるのに気付く。
「人数はおよそ10人です。ただ、魔族である可能性もあります。避けていきますか?」
「あたしはそこまで危険は感じないなあ。ヤマトの国の人なら話を聞けるかもしれない。あたしはこのまま直進したいかな」
「俺は賭けにはなると思うが、避けて通って挟み撃ちになるのも面倒だからアリナさんの案に乗りたい」
「私もお嬢様の判断に任せますよ」
反対意見が出なかったのでアリナ達はその集団に接触してみる事にした。近付いて見て、着物のような服装や武者の鎧のようなヤマトの国の服装の集団だったのでアリナの予想が当たっていた事が分かる。とりあえずアリナ達は変装を解かずに集団に近付く。
「すまぬが止まってくれ。魔族連合の方でござるか?この先はデマジ砦、ご用件を聞かせて欲しいでござる」
集団は徒歩と和風な馬車の集まりで、その先頭に立つ武者の鎧を着たサムライがアリナ達に声をかけた。完全にアリナを魔族として認識しているようだ。
「急用でマサズ殿に会いに来た。マサズ殿は砦にいるのだろう?」
アリナは屈強なデビルの姿に合わせた低い声で聞く。すると止めたサムライは横のサムライと顔を見合わせ、どう答えたらいいか悩んでいるように見えた。アリナはここで変装を解こうか迷う。
「お前達は下がれ。ここは拙者が対応するでござる」
すると馬車の中から年老いた男の声が聞こえ、1人の着物姿の老人が馬車のすだれを上げて出て来た。白髪と皺からかなりの高齢だと分かる。しかし老人の姿勢はよく、筋肉もまだ引き締まってるように見えた。
アリナはこの人物は他のサムライより危険なのが分かった。そしてその奥の馬車の中に更に危険な人物がいるのも分かる。魔族に対してここまで敵意を抱いているなら逆に正体を明かした方が安全だとアリナは思った。
「ヤマトの国の方ですよね。魔族に変装していてごめんなさい。あたしはアリナ・アイルといいます。
マサズさんとは知り合いで、話をしたくてここまで来ました。デマジ砦に居るなら会わせて下さい」
アリナは変装を解いて馬車から降りて老人に言う。すると逆に老人の敵意が増し、他の者の危険も増したのを感じた。アリナは失敗したかと思いつつ、何とか穏便に済まさなければと考える。
「アリナ殿と申したな。お名前は確かに聞いているでござる。
しかしそなたは魔族連合を裏切ったと聞く。そのような者を通すわけにはいかんでござる」
「確かにその通りですが、あたしはあなた達と戦うつもりは無いです。通してもらわなくてもいいので、マサズさんに来た事を伝えて貰えませんか。勿論魔族には伝えずに」
アリナは必死に頼み込むが既に周りのサムライ達も戦闘の姿勢を取っていた。
「皆さん、少しだけ話を聞いて貰えませんか。
あの、私はメイル・ハバモと申します。以前マサズ様と少しだけ関りがあります。私の名前を出して貰えればきっとマサズ様も会って下さると思いますのでどうかよろしくお願い致します」
メイルが忍者のような魔導鎧を着て馬車の客車から飛び出して言った。アリナの交渉が成功するように助け舟を出してくれたのだ。が、このメイルの名乗りが問題だったのか、敵の馬車の中の危険が一気に増したのだった。
「今、メイルと名乗ったな、あんた」
馬車の奥から空気が震えるような恐ろしい女性の声が響いてくる。アリナはどうすればいいか迷ってしまう。
「はい、私がメイルです」
「ならば、死ね!!」
敵の馬車の中から何かが凄い勢いでメイルに向かって飛んできた。アリナはそれを撃ち落とそうかと思ったが、メイルが軽快に避けていたので手出しはしなかった。見るとそれは鎖に繋がった巨大な鎌だった。外れた鎌は地面に巨大な穴を開けて刺さっていた。
「キサハ姫様、そのような事をしてはいけませんでござる!!」
「黙れ!!マサズ様をたぶらかす女など生かしてはおけぬ!!」
老人が慌てて止めようとしたが、キサハと呼ばれた女性は怒声でそれをかき消した。そして敵の馬車の屋根が豪快に吹き飛んで彼女は姿を見せた。
「ウソ!?でっかい……」
アリナは素直な感想が口に出てしまう。出てきた女性は美しい和風の着物を着ていたが、袖はまくられてたすきで縛られ、太い腕が出ていた。長く美しい黒髪をしているが、それも真っ赤に怒った鬼のような形相と、頭から2本伸びた角がまさに鬼としか思えない。何よりマサズも2メートルを超える長身だったがキサハもそれと同等か、それ以上の背の高さだった為アリナは驚いたのだ。
「余の事を大きいと申したな!!お主ら皆殺しじゃ!!」
引き抜かれた鎖鎌が今度は円を描いてアリナへと飛んで来る。アリナはそれを避けて魔導鎧を装着する。
「くっ、予定が狂ってしまったでござる。
皆の者、ここで打ち倒すぞ。オンミョウ衆、出番でござる」
「「心得た」」
老人がそう言うとサムライ達の後ろに黒い着物を着て、顔に黒い幕を張った者達が現れる。彼らはむにゃむにゃと呪文のような言葉を唱えていた。すると“ドロドロドロ”という不気味な音と共に明るかった周囲が急に暗くなる。アリナはそれが召喚系の魔法のようなものだと分かった。
「みんな気を付けて。何か出て来る」
「「了解」」
エルは戦闘形態になっていて、馬車からオルトとゴマルも魔導鎧を着た姿で出て来て身構えた。
「アリナお嬢様、キサハという女性は私を狙っているようです。私が説得してみます」
「分かった、気を付けてね」
メイルが攻撃されながら言ったので、アリナはメイルに任せる事にした。相手は強敵だがメイルなら何とかなると思ったからだ。それよりも今アリナが気になっているのはオンミョウ衆と呼ばれる者達だった。
「ウソでしょ、妖怪じゃん」
「ほお、流石転生者殿、ヨウカイを御存知とは。しかし知っていても対処は出来ぬでござろうよ」
老人が自信ありげに言う。アリナ達の目の前に現れたのはアリナが転生前に漫画やゲームやアニメで見た事のある巨大な妖怪たちだった。牛の頭に蜘蛛のような身体の牛鬼。猿の頭に虎の身体で蛇が尻尾の鵺。巨大な女性の顔が大蛇にくっついたような姿のぬれ女。アリナがすぐに名前を思い出せる妖怪の他にも見た事のある妖怪が大量に並んでいる。しかもどれもまやかしや作り物では無く、生物のような実在する存在に思えた。
「この化け物達はあたしとエルで何とかする。先生とゴマルは人間達をお願い」
「分かった」「了解です」
サムライ達をオルトとゴマルに任せ、アリナはエルと共に妖怪退治に専念する。人間相手だと手加減が必要なので気にせずに戦える妖怪の相手の方がアリナは気が楽だった。
「エル、援護して」
「了解」
アリナは妖怪がまともに戦ってダメージが入るのか接近戦で試してみる事にした。遠距離でもダメージが入るハルバードのような形状に魔導具を変形させ、それを一番近くの毛が沢山生えた巨大な顔の妖怪に叩き込む。攻撃は手応えがあり、妖怪の頭の真ん中まで刃は食い込んでいた。普通の生物ならそれで倒せただろう。だが、その妖怪は痛みを感じた様子も無く、髪の毛を伸ばしてアリナを攻撃してくる。太い鞭のような複数の髪の毛の攻撃をアリナは避け、一旦武器を短くする。攻撃した傷口は徐々に修復してるのが見て取れる。
(これ、生き物じゃなくて、魔法生物みたいなヤツだ)
アリナはこの妖怪達が最初から存在するのではなく、生き物やモンスターを元にして魔導帝国のキメラのように妖怪の形に作り上げられたものだと推測する。なので首を斬り落としたり、心臓を貫いても倒せないのだろうと。1体1体の危険はそこまででは無いものの、この数の相手は正直面倒だとアリナは思った。
アリナを援護するようにエルが光線で空を飛ぶムササビのような妖怪を撃ち抜く。それは一瞬で蒸発したように見えたが、落下した身体の一部がブクブクと膨れ上がって元の姿に戻っていった。アリナの推測通り、完全に破壊しないと再生する、厄介な化け物だった。
「エル、面倒だけど1体ずつ確実に消滅させるよ!!」
「了解!!」
アリナは武器を剣に変え、エルも両腕を剣の形に変えて妖怪達へと突っ込んでいった。
「俺が攻撃を弾くからお前が死なない程度に殴れ!!」
「分かりました」
オルトが先陣を切ってサムライ達に突っ込み、敵の刀を次々と剣で弾いていく。後に続いたゴマルが相手の腹や鳩尾に祝福で硬化した拳を叩き込み、見事に倒していった。オルト達は順調にサムライを制圧するかに見えた。
「王国にもこれほどまでに腕が立つ剣士がおったでござるか。
拙者が相手するでござる」
オルトの前に着物姿の老人が立って刀を抜いた。
「爺さん、そんな恰好じゃ怪我では済まないぞ」
「年寄りに説教は無用でござる。
いざ、参る!!」
その刀の一振りはオルトでも見えなかった。避けられたのは今までの戦場の勘と高速移動の祝福があったおかげだ。
「よくぞ拙者の初撃を避けたでござる。
そなたの名を聞かせて欲しい」
「俺はオルト・ゴロフだ。爺さんの名前は?」
「拙者カウベ・シミスと申すでござる」
「分かった。カウベさん、一対一で勝負だ。
ゴマル、他は任せるぞ」
「はい」
「では今度は俺からだ」
オルトは王国最速の剣撃をカウベに手加減無しで放った。しかしオルトの刃はカウベの刀によって軌道を逸らされ傷一つ負わせられなかった。オルトは相手を老人だと思って舐めていた気持ちを改めるのだった。
メイルはキサハの大地を抉るような攻撃を何とか回避してしのいでいた。説得するつもりなので攻撃は出来ず、かといって話しかける余裕もない。どうにかして相手の隙を作らないとメイルは必死に考える。キサハと呼ばれた女性は角は生えているが恐らく人間で、魔法などは使っていない。ならばとメイルは煙幕の魔導具を地面に叩き付けて周囲を煙で包んだ。
「術を使って身を隠すなど卑怯者のする事ぞ」
「落ち着いて話をさせて下さい。
キサハさんは私がマサズ様をたぶらかしたと言いましたが、誤解です。私はマサズ様と戦っただけで、誘惑などしていません。
確かにマサズ様からお付き合いの話はされましたが、お断りしました。信じて下さい!!」
メイルがそう言うと煙の中のキサハの動きが止まった。ようやく話が通じたのだとメイルはホッとする。
「あ、あんた、マサズ様のお誘いを断っただと!!無礼にもほどがあろうに!!!!」
キサハの怒声が響き、薄くなる煙の中に異形のシルエットが浮かび上がる。頭の角が伸び、両手と両足の爪が黒く伸び、大きく開かれた口から牙が伸び、その体格も一回り大きくなって見える。
「死ね!!!!」
伸びた爪でキサハがメイルに襲い掛かる。その動きは巨体とは思えぬほど速く、メイルはギリギリのところで宙へジャンプしてそれを避けた。が、キサハは反転し、地面を蹴って空へと舞い上がる。そして鋭い爪をメイルへと突き出した。メイルは短刀でそれをギリギリ弾くが、バランスを崩して地面に落下してしまう。
「潰れろ!!」
キサハは魔法を使わずとも空中で移動出来るようで、落下したメイルを踏み潰そうと急降下してくる。メイルはそれを転がってギリギリ避けた。パワーもスピードも相手が上で、このままではメイルは消耗して負けてしまうだろう。相手はもう聞く耳を持って無さそうなので自分で何とかしないといけないとメイルは考える。
「すみませんが私もここで倒れるわけにはいかないんです!!」
メイルはキサハの攻撃を避けつつ、ある魔導具を取り出してそれをキサハに投げ付けた。反射的にキサハはそれを爪で破壊しようとする。爪が魔導具に触れた瞬間に効果が発動し、キサハの周りに魔力のワイヤーが巻き付いて身体を縛り付けた。
「ごめんなさい、動くと怪我しますので暴れないで下さい。
先程も話した通り、私達は貴方達と争うつもりはございません。話し合いをさせて下さい」
「黙れ、メギツネが。余に歯向かった事後悔させてやるわ!!」
キサハは体に巻き付くワイヤーが食い込むのに耐えて両手両足を開こうと藻掻いた。自傷行為に思えた行動だがキサハの肌は硬化し、キサハは無理矢理に力で魔導具の拘束を破壊してしまった。信じられない光景を目の前にしてメイルは絶望する。キサハは規格外であり、自分とは別の生物だと感じたのだ。だが、メイルは諦めるわけにはいかなかった。
「私は負けません!!」
メイルは忍者装束のような魔導鎧の限界解除を行い、速度を上げてキサハの攻撃を避けつつ繰り出せる技を出し惜しみせず使うのだった。
「エル、大丈夫?」
「問題ありません」
蛇のような妖怪に締め付けられたエルをアリナは何とか助けた。妖怪たちは数や再生能力もそうだが、それ以上に攻撃手段が異なるのが厄介だった。それに加えて倒したと思ったら別の妖怪がいつの間にか増えていたりする。このままでは埒が明かないとアリナは感じていた。
周囲ではメイルの相手のキサハの危険度が増しているのと、オルトが老人相手に専念させられゴマルが守りに徹しているのも問題だった。アリナは自分が何とかしないといけないと必死に考える。
(いくら魔法生物みたいなのでもあんなに再生したり数が増えるのはやっぱりおかしい。オンミョウ衆とかいうのが最初に呼び出してたけど、やっぱり大元を何とかしないとダメってことかな)
アリナは以前デビルから託された闇術書に小悪魔の召還の事が書いてあり、それは召喚者の魔力が尽きなければ何度も再生出来る事を思い出した。この妖怪達も同様にオンミョウ衆をどうにかすれば消せるかもしれない。
『エル、これで聞こえてる?』
『はい、アリナなんですか?』
『ちょっと作戦があるんだけど――』
アリナはエルと魔法の会話で他人に聞こえない話をする。アリナはエルと協力して妖怪やサムライの後ろに隠れているオンミョウ衆をどうにかする作戦を伝えた。
『分かりました、ワタシはアリナに合わせて動きます』
『頼んだよ』
アリナは作戦を伝えると、反撃を開始した。エルが妖怪の攻撃を引き受けてる隙に上空に巨大な檻を作り出し、妖怪達をそれに閉じ込める。そして檻が破壊される前にアリナはオンミョウ衆に向かって高速で飛ぶ。
「いくよ!!」
アリナの攻撃がオンミョウ衆に届くかと思った瞬間、彼らの前に巨大な壁が現れる。壁に手足が付いた妖怪のぬりかべだ。アリナの攻撃はぬりかべに防がれ、さらにアリナを近付けまいと空を飛ぶ妖怪たちが出現してアリナに襲い掛かった。
(想定通りだ!!)
アリナはあくまでオンミョウ衆の目を引く為の囮だった。本命は猫に変化して妖怪たちの下を通り抜けたエルだった。
「ワタシの勝ちです」
エルはオンミョウ衆の背後に元の姿で現れると相手を気絶させる閃光を放つ。するとオンミョウ衆の精神が乱れた為か、妖怪達が一気に薄ぼんやりと消え始めた。アリナは今のうちにとオンミョウ衆を魔力で作った縄で縛り付ける。丁度同じタイミングでオルトが老人の刀を剣で飛ばして勝利していた。ゴマルもサムライ達をほぼ無力化し、残りはメイルとキサハだけになっていた。
メイルの動きを封じる為の行動は全てキサハに破られていた。怒りで思考が鈍っているかと思いきや、キサハは冷静に対処したからだ。逆にメイルは直撃は無かったがキサハの攻撃がかすり、所々傷を負っていた。速度を上げる魔導鎧の力も終わり、完全に追い詰められた状態だ。
「先ほどから小細工ばかりでいやらしいな。余とは正々堂々と戦えぬというのか」
「戦う理由がありませんから」
「余にはあるぞ。
ならば、死ね」
キサハが両腕を開いて正面からメイルを狙う。メイルは覚悟を決め、防御から攻撃に転じる事にした。キサハは身体が大きい分、攻撃は当てやすい。メイルは姿勢を落としてキサハの足を狙った。突っ込んでくるキサハに対してメイルは攻撃を避けてすれ違いざまにキサハの太ももを切り裂く。メイルのカウンターは上手く決まり、キサハの着物からはだけて覗く太ももには大きな切り傷が出来ていた。
「なんだ、やれば出来るではないか。しかし、余にこの程度の傷は無意味ぞ」
キサハの言う通り彼女の太ももの傷口はみるみるうちに塞がっていく。人間とは異なる再生能力があるというのだろう。メイルは逆にキサハが簡単には死なないだろうと安心し、本気の攻撃で相手を黙らせようと思った。
「今度はこちらから行かせて貰います」
「余も本気でゆくぞ」
キサハもヤマトの国の血の為か、こちらと正面から戦える事に喜びの笑みを浮かべていた。ただし、鬼の形相での笑みなので物凄く不気味だ。
メイルは一旦横に飛び、キサハの死角を取ろうとする。キサハは動きを止め、メイルの攻撃に備えているようだ。メイルはキサハの反撃を注意しつつ、完全に死角に回り込む事が出来た。一度動きにフェイントをかけて、メイルはキサハの右足をを背後から斬り付けようとした。
「甘いぞ!!」
キサハは斬り付けられそうになった右足を軸に回転し、左足でメイルを蹴りつけた。蹴りはメイルの攻撃のタイミングと一致し、メイルは防御出来ずに蹴り飛ばされる。ただ、蹴られたのが胴体でなくメイルの腕だったので何とか耐える事が出来た。メイルは魔法で態勢を立て直そうとする。
(嘘!?)
着地しようとしたメイルの目の前には飛び蹴りで飛んで来るキサハの姿があった。メイルに出来るのは防御姿勢を取ってダメージを減らす事だけだ。キサハの蹴りはメイルの膝に入り激しい痛みが襲う。唯一の救いは吹き飛ばされた先は林で木々が衝撃を抑えてくれた事だ。起き上がるメイルにキサハは容赦せず頭上から爪を振り下ろす。
(諦めるな、私だってお嬢様に付いていけるように特訓したんだ!!)
メイルは自身を鼓舞し、魔法で前進してキサハの腹に体当たりする。キサハも相手が避けずに懐に入って来るとは思わなかったようで虚を突かれる。メイルは小刀を構えて腹へと突き刺した。
(やった)
そう思ったメイルだが突き刺した魔導具の小刀は引き抜けない。そんなメイルをキサハは両腕で抱き締める。
「懐に入ったのは失敗だったな。あんたの負けぞ」
キサハは自分の腹の刀が更に食い込むのを気にせず力を込めてメイルを圧縮するように抱き締める。このままでは全身の骨が折られるとメイルは本能で感じた。
(やるしかない!!)
メイルは最終手段を使う事にする。次の瞬間、キサハが包み込んだメイルが“ボンッ!!”という爆発音と共に爆発した。慌ててキサハは手を放し、刀を抜いて火傷を回復する。メイルはそこを狙って左手に残った小刀をキサハの頭へ叩き込もうとした。しかしキサハはそれをギリギリ右手の爪で防御する。
「あんた思ったよりやりおるな。
しかしその恰好ははしたないぞ」
「なりふり構ってられませんので」
メイルの魔導鎧は爆発する事で緊急回避出来たのだが、鎧部分が殆ど剥がれ、ほぼ下着姿のような露出度になっていた。メイルは追い詰められてはいたが、なぜか悪い気分はしなくなっていた。キサハの戦いを楽しむ姿勢に影響されてしまったのかもしれない。
「そこまででござる!!」
そんな2人に1人の男が割って入っていた。その瞬間キサハはもの凄い速さで動いていた。
「マサズ様、なぜこのような場所にお出でになったのですか」
「なぜもあるか。オニの力を使えば同じ力を持つそれがしにも伝わる事を分かっておろうに。
あれほど無闇に使ってはいかんと申したのに、それを人前で使うなど言語道断でござる!!」
怒声を上げているのはアリナ達が会いに来たマサズ本人だった。メイルも気付かない間にここまで来ていたのだ。キサハは元の人の姿に戻り、マサズの前でかしこまって頭を下げていた。その姿はかなり小さく見え、声も言葉遣いも今までと別人のようだ。
「ですが、この者がマサズ様を愚弄しましたので、それを許す事など到底出来ず……」
「言い訳はいらぬ。そもそもそなたらはここで何をしておった。貴重なオンミョウ衆まで連れだしおって。
それがしが命じたのは王国の者を見かけたら丁重にもてなして連れて来るようにという内容だった筈でござるぞ?」
「しかし、その命令に疑問を持つ者も多く……」
どうやらマサズ自身は王国に対して戦うつもりでは無かったようだ。必死に頭を下げ、声が消えそうなキサハがメイルは可哀想に思えて来た。
「マサズ様、戦いになったのは突然来訪した私達にも非があったと思います。
きちんとご説明させて下さい」
「メイル殿、再会出来て嬉しいぞ。
しかし、流石にその恰好はいささか目に毒でござる」
マサズが目を逸らしながら言う。そこでメイルは自分の今の恰好を思い出して顔が真っ赤になる。
「失礼しました。
これでいいですね。キサハさんはマサズ様を思って動いていたようですし、あんまり責めないであげて欲しいのですが」
「メイル殿、その姿もまた美しいな。
しかしキサハ達の件は我が国の問題、後できちんと処理させてもらうでござる」
魔導鎧を解除して私服のメイド服になったメイルをマサズは褒める。その瞬間キサハから殺意の視線が向けられたのをメイルは気付いていた。そんなところにアリナ達もやって来る。
「マサズさん、戦いを止めてくれたんだね。ありがとう」
「アリナ殿、ご無沙汰しておった。
色々ご迷惑をかけて申し訳ない。砦にてきちんと話し合いをさせて欲しいでござる」
こうして戦いは終わり、アリナ達はデマジ砦へと案内されたのだった。
アリナ達はデマジ砦の和室のような豪華な部屋に通されていた。土足厳禁で床が畳なので和室に近いのだが、建物自体が武骨な造りで、そこにヤマトの国の物と思われる異様な飾りがされていて、アリナには偽物の日本感がとてもするのだった。
来る途中で戦闘で負った傷はマサズ達の持っていた薬で治してもらっていた。ヤマトの国の秘薬らしく、飲むだけで傷も体力も魔力も少し回復する、とても便利なものだ。戦闘を仕掛けた詫びとして出されたのでアリナ達はありがたく貰った。アリナやメイルは回復魔法を使えるものの、こっちのグループには回復が得意なミアンがいないのでとても嬉しい申し出だった。
「先ほどの非礼、もう一度詫びさせて欲しい。大変失礼し申した。
顔見知りの者のもおるが、再度こちらから自己紹介させて頂くとしよう。
それがしはヤマトの国の取りまとめを行っておる、マサズ・ヨシバと申すでござる」
「拙者はヨシバ家の家老を勤めている、カウベ・シミスと申すでござる。
今回の件、全ては拙者の責任、マサズ様には何一つ非はござらぬ」
「余はキサハ・スズミと申します。スズミ家の姫であり、マサズ様の許嫁であります。
皆様にははしたないところをお見せしてしまい大変申し訳ございませんでした」
部屋の一段高い上座の座布団にマサズが座り、その一段下の左右にカウベとキサハが座っている。他のヤマトの者は皆部屋から出ていき、部屋には3人とアリナ達だけだ。キサハは髪や服装を直し、綺麗な着物を着て、髪を縛って角も完全に隠れていた。興奮して戦っていた時の印象と180度違って見える。
「さっきの件はもういいよ。あたしは話合いに来たんだし、ヤマトの人達が強いのも改めて分かったから。
あたしはアリナ・アイル。知ってるとは思うけど、転生者で、一時は魔族連合でマサズさんと一緒に戦ってた。
でも、今は王国に戻って魔族連合と敵対してる。
先に言っとくと、横のはエルっていう魔導帝国の魔宝石。本当の主人はお姉ちゃんのスミナなんだけど、今は別行動であたしが仮の主人をしてる」
「はい、ワタシがエルです」
「自分はオルト・ゴロフです。今はデイン王国の騎士団の補佐をしている騎士です」
「私はアイル家に使えるメイドで、今はデイン王国の特別部隊に所属してるメイル・ハバモといいます」
「自分も特殊部隊所属のゴマル・イニキといいます。戦技学校でのアリナさんの同級生でもあります」
アリナ達5人も自己紹介をする。エルは今は人間の学生の姿をしていた。
「マサズさんはあたしがここに来た理由ある程度分かってる感じだよね?」
「ああ、おおよそは想像がつく。ボーブ砦が落ち、警戒を強めるように魔族連合から連絡が来た。
それがしも魔族連合を去る事の潮時かと考えていたところだった。
少しだけこちらの話をさせてもらうおう。
アリナ殿が裏切るきっかけとなった戦いの責任を何かしら取らされるとそれがしは思っていた。だが、魔族連合はそれがし達に待機を命じるとそれ以降情報があまり入らなくなった。レオラ殿が負けた事もあり、連合が混乱している様子が伺えた。
それと同時に各地に魔族連合の新たな兵器である闇機兵が配備された情報が伝わってきた。あの兵器は我らから戦いを奪い、不要とする為の物だとそれがしは考えている。
これらの情報を踏まえ、いずれアリナ殿達王国の者が接触してくると考え、その保護を命令していたのでござる」
マサズがアリナが知らなかった情報を教えてくれる。ここまで話すのなら魔族連合を抜けるのに問題無さそうだ。ただ、アリナにも懸念点がある。
「カウベさん達が襲って来たのはやっぱりヤマトの国としても纏まってないって事?」
「情けない話だが、その通りだ。
それがしが王国のメイル殿の話を先にしてしまったのが問題だった。
それがしとしては嫁取りの話と国の方針は別と考えていたのだが、そう思わない者がおったのでござる」
「それについては家老の拙者から話をさせて欲しいでござる。
マサズ様が戦に明け暮れ、婚姻を進めない事はヤマトの国としては大きな問題でござった。せめて跡取りさえ出来ていれば周囲の者も何も言わないのでござるが。
そんな中、メイル殿の話をされて、大ごとになってしまったのでござる。他国の、しかも敵対している国の者を嫁に考えるなど以ての外、キサハ姫という許嫁もいるというのにとんでもない話だ、というのがお偉方の意見でござった。
そんな時に王国との和睦の話が出ればどうなるかマサズ様も分かる筈。拙者は取り返しがつかない事態になる前に王国の者と話し、その者達の立ち振る舞いを見て追い返す事を考えておったのでござる」
メイルがヤマトとの話し合いの縁だと思ったのだが、実際は問題の中心になっていたようだ。しかしメイルの心中とは関係ないところでこんな状況になっていてアリナは心の中で少し笑ってしまう。
「あの、失礼ですが、私にも発言させて下さい。
私は王国の者としてはヤマトとの和睦に賛成しております。
ですが、それとは別に私個人としてはマサズ様との交際はきちんとお断りしたつもりです」
「分かっておる。今すぐその話をするつもりはそれがしも無いでござる。
だからキサハ、メイル殿にきちんと謝るでござる」
「はい。
メイル殿、余の暴走で戦い、傷付けた事を心からお詫び申し上げます。
今回の件は余の恋心から始まった部分でもあります。他の皆様にもこのような騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「キサハは普段は穏やかで礼儀正しいのだが、オニの血が強く出た為か激情に駆られて暴走する事がある。
今後はこのような事が起きぬよう気を付けるでござる」
「はい、マサズ様の仰せのままに」
キサハは床に額が付く勢いで頭を下げた。普段穏やかなのは本当なのかもしれない。その後、アリナは自分達がやってきた事と、王国の考えを説明する。ヤマトには魔族連合を抜けて王国と同盟を組んで欲しいとも。そして希望があれば戦場を用意するという話も。マサズは頷きながら話を聞いていた。
「――と、こんな感じだけど、ヤマトの国としては了承してくれる?」
「話は分かった。
だが、先程のカウベの話にあった通り、物事はそう簡単に決まらないのだ。
なのでアリナ殿、拙者との一騎討ちを受けて欲しいでござる」
「マサズ様、それはどういう意味でござるか?」
「言った通りだ。それがしが勝ったら申し出は断るという事だ。それなら問題無い筈でござる」
「それがヤマト流のやり方なら喜んで受けるよ」
慌てるカウベをよそに、アリナとマサズの一騎討ちが決まったのだった。
「武士道に則り、これより一騎討ちを行うでござる。
両者、胸当てが破壊された時点で敗北とする。相違ござるぬか?」
「勿論でござる」
「いいよ」
砦にある訓練場で審判の男を挟んでアリナとマサズは向き合った。それぞれ服の上に木製の胸当てを付け、それが先に破壊された方が負けという一騎討ちのルールだった。それ以外は反則も禁じ手も無く、魔法だろうが遠距離攻撃だろうが、何をしてもいいという。
アリナは手足にだけ魔導鎧を付け、武器は伸び縮みするいつもの魔導具を持つ。マサズは鎧は着ずに着物に胸当てを付け、腰には刀を差していた。アリナは一度本気のマサズと戦ってみたかったので嬉しい状況だった。ただ、戦いに負けたら同盟の話が無くなるので絶対に負けるわけにはいかない。このルールでの戦いは初めてだが勿論負ける気はしなかった。
「それではいざ尋常に勝負開始でござる!!」
審判が旗を下ろして勝負が始まった。ヤマトにとって戦いは神聖なものであり、特に武士道に基づく一騎討ちは何物にも代えがたいものだそうだ。なのでアリナとマサズはこの一騎討ちにそれぞれ勝利時の願いを決めてある。アリナが勝利した際は先ほど話した王国との同盟が締結される。そしてマサズが勝った場合は同盟の話は無くなり、アリナの身柄を魔族連合に引き渡す事になっていた。確かにそれがあれば過去の失敗も許され、魔族連合に残った場合でもヤマトの立場は上がるだろう。
2人の願いに反対する者はあったが、それが神聖な一騎討ちである以上、口出し出来る者はいなかった。そもそも1対1で2人に勝てる者は恐らくいないのだから2人の勝敗で決まった結果が全てだという事だ。
(動かないな。あれって抜刀術の居合ってヤツかな)
マサズが刀を鞘から抜かない状態で待っているのを見て漫画やゲームで見た居合を思い浮かべる。こちらの攻撃に合わせて刀を抜くカウンター攻撃というイメージだ。マサズからは危険をひしひしと感じ、うかつに近寄れない。マサズはアリナの危険察知の事を知っているのでカウンターに賭けているのだろう。だからこそアリナにはその対策も思い付くのだった。
「そっちが来ないならこっちから行くよ」
アリナは全速力でマサズへと武器を剣にして近付く。と同時にマサズの刀の範囲に入る前に自らを模した精巧な分身を魔力で作り出して自分の前を走らせた。マサズの居合は予想通りその分身を切り裂く。アリナは刀を振り切ったところへ剣の刃を伸ばしてマサズの胸当てを斬ろうとした。
(!!)
アリナは迫る危険を察知して剣を手放して全身を反る形で横に逸れる。マサズが振り上げた筈の刀が身体を逸らしたアリナの胸当てをかすっていた。
(最初から2撃目を狙ってた!?)
アリナは背後に転がりつつ態勢を立て直そうとする。
「よくぞ避けた!!」
マサズは更にアリナを追撃して刀の突きを連続して繰り出す。アリナはそれを避ける為に背後にバク転を続ける必要があった。訓練場に場外は無い。その代わりに端には壁がある。壁まで追い詰められたら恐らくアリナの負けだ。
(このままじゃダメだ)
アリナはマサズの猛攻を何とか避け続けながら反撃を考える。マサズの攻撃は明らかにオルトよりも速かった。オルトの場合は自身の加速に剣技を合わせて速度を速めているが、マサズは剣を振るうのが速いのだ。その理由は恐らくオニの力を瞬間的に使っているからだ。アリナも以前のように闇術鎧を着ていればその速度を上回っていただろう。だが、今は魔法の力で速度を速めているだけでマサズの動きの方が速かった。アリナは危険察知の能力でギリギリ回避出来ているだけだ。
(正々堂々やりたかったけど、やっぱりあたしらしくやらせてもらう!!)
アリナは逃げながら祝福で魔力を形にしていく。いつの間にか周囲には複数の柱が生えていた。
「反撃行くよ!!」
アリナがそう言うと共に柱から周囲に向かってランダムに針状の攻撃が発射された。胸当てを破壊出来る最低限の威力の攻撃だが、速度があり、かわし辛い。アリナは危険察知の能力で避けたり防いだり出来るが、マサズはそうもいかない筈だ。
「この程度造作も無い!!」
マサズは胸当てに向かってくる針だけを刀で弾き、自分の身体の他の部分に当たる針は無視した。本来ならそれで傷だらけになる筈だが、マサズの身体はオニの力で硬化し、それを防いでいた。だが、アリナはマサズが針の対応に集中してくれればそれでよかった。
「そこ!!」
アリナは上空からマサズの胸当てを狙って槍状にした武器を振り下ろす。マサズはアリナに気付いてそれを避けて逆にアリナの胸当てを破壊しようとした。
「なんだと……」
しかしその時マサズの胸当ては既に破壊されていた。マサズがアリナに気を取られた瞬間に床から刃を作ってアリナが破壊したからだ。
「勝負ありでござる!!」
審判が旗を上げアリナの勝利が確定した。
「やはりアリナ殿には勝てないでござる」
「どうだろ、このルールじゃなかったらまだ色々出来たんじゃないの?」
「いや、どんなルールであれ、勝てなければ結果は同じになると思うぞ。
これでヤマトとデイン王国の同盟に文句を言う者もいなくなるだろう。
それで、アリナ殿、1つだけお願いしたい事があるでござる」
勝負の後、マサズが相談をしてくる。
「同盟を結んでくれるんならどんな内容でも聞くよ。勿論ムリなのもあるけど」
「アリナ殿はこの後、他の勢力にも同盟を組みに向かうのであろう?だったらそなた達の仲間としてキサハを加えて欲しいでござる」
「!?」
「待って下さい、マサズ様。それは一体どういう事なのでしょうか?」
突然の話にアリナ達以上にキサハは戸惑いを隠せないようだった。