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35.説得

「じゃあアリナ達も気を付けてね」


「お姉ちゃんも。お互い連絡取り合っていこう」


 スミナは小さい方の転移装置の前でアリナ達と別れる前の言葉を交わす。場所が離れる為、これからは魔法での連絡やエルを介した会話も出来なくなる。なので敵に気付かれずに連絡が取り合えるよう、5色の灯りを距離が離れても送り合える魔導具をスミナとアリナが持つ事になっていた。青なら説得成功、赤なら失敗のようにあらかじめ色に意味を持たせておき、相手の状況が分かるようにしたのだ。


「エル、離れたらアリナがマスターだからね」


「マスター了解しました。アリナ、宜しくデス」


「あたしもエルって呼び捨てするから。命令する時はその方が早いし」


 スミナはここで初めてエルを自ら他人に託すことになる。まあ他人といっても妹のアリナだし、アリナとエルは付き合いも長いので大丈夫だろうとは思っていた。

 エルが転移装置を動かし、アリナ達のグループは別の遺跡へと転移した。グループ分けは予定通り、エルフとドワーフをスミナ、ミアン、レモネ、ソシラ、エレミの5人で、ヤマトと獣人をアリナ、エル、メイル、オルト、ゴマルの5人になっていた。


 スミナは遺跡の扉を閉めて入り口も偽装し、外に出した魔導馬車に乗り込んだ。いつも運転してるメイルもエルもいないので運転出来るスミナが運転手になり、助手席にはミアンが座っていた。


「では、予定通りドワーフの工房目指して出発します」


 スミナのグループの最初の目的地はドワーフの工房だった。距離的にはエルフの森の方が少し近いが、魔族連合の兵器である闇機兵ダロンの工場もあるのでそれを先に抑えたいからだ。アリナの話で王の孫娘であるギンナが魔族連合に否定的なので彼女と話せれば和解の道も早いと思っている。

 それともう一つ、スミナが気にしているのはギンナが隠し持っているという魔導帝国の兵器群だ。巨大な人型兵器であるグスタフもあったという話なので、魔族に知られるより先に味方側の兵器としたかった。


「王国外もそんなに変わらん景色じゃな」


「ホムラ?いつの間に」


 魔導馬車を発車させてしばらくすると声が聞こえたのでスミナが後方の座席の方を見ると小竜姿のホムラが浮いていた。


「竜神様可愛い……」


「ちょっとソシラさん、そんな扱いして大丈夫なんですか?」


「ソシラはわらわを慕っておるので問題無いぞ」


 ソシラがホムラを膝の上に抱いて撫でたのに対してエレミが驚いた反応をする。エレミはホムラと一緒の期間が短いので当然の反応だろう。


「ホムラはわたし達の作戦について知ってるんですよね。どう思いますか?」


 スミナはあえてホムラに聞いてみる事にした。今は中立の立場だろうし、答えないかもしれないし、適当な事しか言わない可能性もある。


「スミナだろうと有利になるような情報は喋らんぞ。

まあ第3者の意見とすればお主らが考える事は相手も考えてるかもしれんという事じゃ。油断すると痛い目に合うかもしれんぞ」


「それは重々承知です。それでもわたし達に出来る事をするだけですから」


 ホムラの言う通り、こちらの情報が漏れてないにしても、やりそうな行動を読んで対策を取られている可能性は高い。魔族連合としては脱退する勢力が出るのは問題だろうし、相互監視や罠を張っていてもおかしくない。それでもこちらが奇襲をかけ、速攻で説得する事は相手にとってかなりの痛手になる筈だ。最悪4つの勢力を回って半分でも脱退させたら成功だとスミナは思っていた。

 逆に避けたいのは仲間が捕まったり、死んだり、遺跡がバレて王国に戻れなくなる事だった。そうなってしまったらスミナ達は孤立状態になり、生き残る事は難しくなるだろう。だがスミナは自分とアリナが分かれたことでそんな最悪な事態にはならないと確信していた。


「スミナさん、ミアンが警戒をするので運転に集中して下さいねぇ」


「ありがとう、ミアン。助かるよ」


 助手席のミアンが敵の接近を見張ってくれることはかなり重要だった。周囲の索敵が出来るエルや危険を察知するアリナがいつも一緒だったので今まで魔導馬車で移動する時もある程度安心出来ていた。だが、2人とも今回は別グループになってしまったのでいつもより敵襲に気を回す必要がある。ミアンは2人ほどでは無いが、スミナと同程度の魔法での索敵が出来るのでここはミアンを頼る他なかった。

 魔導馬車は最高速度でドワーフの工房へ向けて走っていた。事前に地図を入力し、位置関係は合っている筈だ。ただし細かい道までは昔の地図と一致しているか分からない為、入力は出来ていない。だから古い地図にあった通行出来ないだろう川や山を避け、なるべく平地を進んでいた。魔族連合の警戒はまだされていないようで、途中でモンスターにすれ違っても襲ってきたりはしない。この辺りの野生のモンスターは人を襲う事がそんなに無いのだろう。


「一旦魔導馬車を止めます」


 出発して4時間ほど過ぎ、スミナは目の前に広がる山々を前に魔導馬車を止める。ドワーフの工房が北の山岳地帯を超えた先にあるので、どのルートで魔導馬車を進ませるか検討する必要があるのだ。一応山の間を縫う馬車を走らせるような広い道が見えるが、魔導馬車なら普通の馬車では進めない荒れた道もある程度進められる。アリナはドワーフの作った飛行機械で飛んでいったと聞いていて、確かに山を越えるならそれが正解かもとスミナは思うのだった。


「既にある街道を進むのと、最短ルートの山越えをするのとどっちがいいと思う?」


 スミナは皆の意見を聞いてみる事にした。街道は敵に出会いやすく、山越えは進めなくなった時に引き返す時間が取られる。スミナはどちらも一長一短だと思っていた。


「ミアンは街道を進むのがいいと思います。既にある道でしたら確実に進めますのでぇ」


「私も街道がいいかな。知らない土地で山に入って進めなくなるのは困るだろうし」


 ミアンとレモネは街道を進む事を選んだ。確実性を考えるとそうなるだろう。


「私は逆に山を行った方がいいと思う……。街道は敵の待ち伏せがある……」


「私は迷いますが、街道だとくねくねと時間がかかるので山を進んだ方が早く到着するので山越えを選びますね。

ある程度でしたら山道の安全な進み方を知ってますし、この魔導馬車が思ったより荒れ地を進めるのが分かりましたので」


 ソシラとエレミは山越えを選んでいた。敵との遭遇や時間を考えれば多少リスクがあっても山越えをしたいという考えだ。ホムラは当然のようにアドバイスも口出しもせずふわふわと浮いている。


「多数決だと結局わたし次第か。

うん、山越えをしよう。急ぎたいのもあるし、敵と遭遇したくないのもある。ある程度の障害なら壊して進もう」


「ミアンはスミナさんの決定に合わせますよ」


「私も」


 ミアンとレモネも同意し、魔導馬車は山越えをする事にした。エレミのアドバイスでなるべく安全で進みやすいルートを選び、山道を魔導馬車で進んで行く。結果としてスミナ達の選択は正解で、街道を進んでいた場合よりも速く山岳地帯の殆どを抜けていた。ただ、最後にそびえる巨山に関しては直進して超えるのは無理で、谷にある街道に降りる必要があった。街道に降りたところでスミナ達は街道に巨大な門が設置されている事に気付く。


「やっぱりあるよね、こういう場所には砦が」


「迂回しても見つかるだろうし、見つからない位置だと山を大きく回る必要がある。ここは正面突破しかないね」


 ガッカリするレモネに対して地図を見ながらスミナは答える。戦闘はなるべく避けたいが、こういう事態になった時は迷わず戦うつもりでいた。


「どうやって突破するつもりなんですかぁ?」


「わたしが潜入して門を開けて来る。1人で大丈夫だから」


「門を開けるんなら私に任せてよ。魔導馬車の運転はスミナしか出来ないんだし、ここは私とソシラでやる」


「私も……?」


 レモネが砦の門を開ける役目に手を挙げる。ソシラは嫌そうな顔をしてるが、2人ならやるだろう。スミナは確かに自分が魔導馬車を進めた方が手早く突破出来ると思い、危険を考えてから判断した。


「分かった、2人に任せる。ミアンも魔法で援護をお願い」


「勿論です」


「じゃあ行ってくる」


「しょうがないから頑張る……」


 ミアンに能力向上の魔法をかけて貰ってから装備を整えたレモネとソシラが魔導馬車を降りた。2人は全速力で砦へと進んで行く。スミナは魔導馬車で速度を上げ過ぎずに2人の後を追った。砦には予想通りダロンが設置されていて、敵と見なされれば攻撃してくる。レモネとソシラがある程度近付いた所で警告も無しにダロンは攻撃してきた。恐らく通行するには何かの手順が必要で、それがされなかったからだろう。

 2人は最初の攻撃を避けると、ソシラは複数の分身を作り出した。虚像と本体を入れ替え出来るソシラの祝福ギフトの力だ。ダロンの攻撃は分散し、ソシラはそれを上手く避け続けた。攻撃がソシラに集中したのでレモネは大きな門へと距離を詰める。金属と石で出来た巨大で重く、硬い門だ。並大抵の攻撃では壊れないし、開かない。門に接近する事でダロンからの射撃は無くなるが、どうやって門を開けるかが問題だ。スミナなら中に潜入して門の開閉装置を操作しようとしただろう。


「どりゃああああ!!!!」


 レモネは掛け声と共に刃の部分を大きくした魔導具の斧を門の中央部分に向けて振り下ろした。レモネの祝福は瞬間的にパワーを増幅させるもので、門の正面には衝撃で人1人分ぐらいの穴が空いていた。


「ミアン、魔導馬車にシールドを!!」


「はい!!」


 スミナは今がそのタイミングだと思い、魔導馬車を門へと向かわせる。ダロンが射撃をしてくるが、魔導馬車の速度とミアンのシールドによって防ぐことが出来た。魔導馬車が近付くと同時にレモネは門に出来た穴に入ると下から上へ門の重くて分厚い板を跳ね上げた。本来は魔法で鎖を動かして門を上下に開閉する仕組みだが、それをレモネは力で無理矢理開けたのだ。魔導馬車は門が上がったタイミングで中に滑り込む事が出来た。


「援護します!!」


 いつの間にかエレミが魔導馬車の窓から身を乗り出し、迫って来るモンスターに槍を突き刺していた。砦の中に入ったレモネとソシラも魔導馬車を守るように戦った。砦の中には建物がいくつかあり、奥には砦を抜ける為の入り口よりは小さい門があった。スミナは魔導馬車の速度を落とさず門を抜ける方法を考える。


「ミアン、運転席に座って、このレバーをそのまま維持して」


「え?スミナさん何を?」


「頼んだよ!!」


 スミナはミアンに席を譲って魔導馬車の窓から魔導馬車の屋根へと移動する。そしてレーヴァテインを取り出した。魔導馬車を阻止しようと敵が正面に回ってくる。それをスミナはレーヴァテインで薙ぎ払った。ミアンはどうしていいか分からず、とにかく言われた通り速度のレバーを維持し続けた。魔導馬車はそのまま門へと接近していく。


(チャンスは一瞬!!)


 スミナはレーヴァテインの長さと魔導馬車が門にぶつかるタイミングを計算し、剣を振った。門は粉々に破壊され、魔導馬車は残骸にぶつかりつつ砦の外に出る。スミナは運転席に戻ると速度を落としてレモネとソシラを回収した。


「スミナさん、無茶しないで下さい!!」


「でも、上手く行ったでしょ」


 怒るミアンにスミナは返す。まともに砦の中で戦っても勝てただろうが、時間を取られたのは確かだ。


「レモネとソシラもありがとうね。2人のおかげで突入も、突破も出来たよ」


「いや、スミナの方が凄いでしょ。まさかあんな強行策に出るなんて」


「疲れた……」


 レモネはそう言うが、2人が抜ける時に門の上のダロンを破壊してくれなければスムーズに突破出来なかったとスミナは感謝していた。シールドを常に張ってくれたミアンは勿論、近付く敵を排除してくれたエレミとも息が合わなければ上手く行かなかっただろう。


「エレミは大丈夫だった?私達無茶ばっかりやるから」


「大丈夫です。皆さん凄いので私も頑張らないとと思いました」


「エレミさん、ご自身を大事にして下さいねぇ」


 レモネとエレミも大分打ち解けてきてるようだなとスミナは思う。魔法使いは居ないものの、攻守混ざっていて5人のバランスはいいのではとスミナは考えていた。


 砦からの追手は追い付いて来なかった。魔導馬車が速いのもそうだが、辺境の砦としては想定外の奇襲で、その対応が追い付いて無いのだろう。ここにいる魔族も末端の方で、ボーブ砦が落ちた事すら連絡されてない可能性もある。


「もうすぐドワーフの領地に入るから、気を抜かずに行こう」


 スミナは地図と魔導馬車に表示される現在地を見比べながら言う。ドワーフに領地という考え方は無いが、工房の付近からドワーフが管理しているらしいので意味合い的には合ってるだろう。ディスジェネラルにはボーブ砦が落ちた事や、先ほど通った砦が襲撃された事は連絡されている筈だ。ドワーフ自体が好戦的では無いとしても何らかの対処はしていると考えられる。


「スミナさん、何か飛んで来ます!!」


 危険に気付いたのは周囲を監視していたミアンだった。スミナは急ブレーキをかけ、魔導馬車を街道横の岸壁沿いへと寄せる。すると“ドンッ!!”という音と共に魔導馬車の進行方向だった街道上に巨大な岩が落下していた。あのまま進んでいれば直撃していただろう。


「みんな装備を整えて外へ!!」


 スミナは念の為に魔導馬車にシールドの魔導具を展開しつつ、魔導鎧を身に着けて外に出る。ドワーフの攻撃が始まったと考えるのが正しいだろう。問題はどこからどういう攻撃をして来たかだ。


「わたしが先行して敵の攻撃元を何とかする。みんなは少し距離を開けて付いて来て!!」


「1人で大丈夫?」


「うん。レモネがまとめて判断して動いて」


「分かった」


 スミナは残った4人の指揮をレモネに任せる。レモネが一番状況を判断し、的確に指示を出せると思ったからだ。スミナは速度を上げて岩が落ちた場所を避けつつ弾道を考えて発射して来た方向へ急ぐ。


(ドワーフが指示してるなら話せば止められるかもしれない)


 ドワーフの土地なのでドワーフが管理してる筈だが、魔族の兵器も作っているので魔族が上に立っている可能性もある。その場合は説得を聞き入れて貰えないかもしれない。あまりやりたくは無いが、実力行使もスミナは考えていた。


(見えた!あそこだ)


 スミナは飛行して山の木々の間に偽装してある投石用の機械があるのが分かった。アリナの危険を察知する祝福が強化されたのと同様にスミナの道具を使う祝福も強化され、離れた位置にある道具もそれが優れた物なら場所がある程度特定出来るようになっていた。ただし、その道具の仕様は触るかかなり近寄らないと分からず、アリナの能力のようにその強さが遠くから分かるわけで無かった。

 スミナは接近して止めようとして、他にも兵器が少し離れた山の中に複数ある事に気付く。恐らく投石兵器を止めようとしたところを狙っているのだ。だがスミナは迷わず投石兵器へと急いだ。自分にはアリナのようなどこまで行ったら危険なのかを察知出来ないし、投石兵器を放置したら仲間に危害が加えられると考えたからだ。近付くスミナに投石兵器が岩を投げたがそれは簡単に避けられた。


(とにかく止める!!)


 スミナはそのまま投石兵器に接触すると遠隔操作されていた支配権を奪い、兵器を無効化した。その際兵器がドワーフ製の機械で、魔導具とは別の技術で作られている事を理解した。


(来る!!)


 予想通り付近に隠れていた兵器達からスミナに向けて射撃が行われた。姿はまだ確認出来ないが、ドワーフと魔族が協力して作った兵器のダロンだろう。ダロンの攻撃は速く威力はあるが、戦った事があるので予測出来る。スミナは攻撃を瞬間的にダッシュする事で回避した。しかし、ここで予想外の事態に陥る。


(攻撃が追って来る!?)


 スミナが逃げた先に針状の弾が追って来ており、このままでは避けきれない。スミナは瞬時に囮の魔導具を使い、攻撃は全て魔導具に引き受けさせた。


(いざという時の道具を使っちゃった。多分敵はアリナが以前戦った試作型だ)


 スミナは敵の攻撃から以前アリナから聞いたダロンを強化した試作型であると判別する。このままでは埒が明かないと思い、スミナは敵の親玉に直接交渉しなくてはと速度を上げた。


「そこにいるのはドワーフの王、ゴンボさんですね。

わたしはアリナの姉のスミナ・アイルといいます。わたしは貴方達ドワーフと戦うつもりはありません。話を聞いて貰えないでしょうか?」


 スミナは攻撃が来るのを身構えつつ、岩山の中腹にある窪みに向かって話しかけた。


「ほー、お主、よく気付いたな。流石道具を使いこなす祝福持ちといったところか」


 岩肌だと思った山が動き、5メートルはある巨大な人型へと変わる。これがアリナの言っていたゴンボ王のロボットのような機械を纏った姿なのだろう。ゴンボは攻撃して来ず、周りのダロンも攻撃を止めていた。指示は全てゴンボが行っているようだ。スミナはゴンボが話を聞いてくれる理知的な人物のようで安心する。


「勝手に領地に入った事は謝ります。ですが、わたし達はなるべく速くドワーフの人達と交渉がしたかったんです」


「ボーブ砦の事も近くの砦の事も聞いておる。

じゃが、ワシはそんな事はどうでもいい。お主の神機しんきと戦ってみたい。あと魔宝石マジュエルもな。さあ、どこからでもかかって来い!!」


 ゴンボは巨大な両手の拳をかち合わせて威嚇するようなしぐさをした。アリナから聞いていたが、ゴンボは機械に興味があり、戦う事でそれを理解したいようだ。全身機械で包んでいる巨人のような姿なのでゴンボ本人が本当に中に居るか分からない。だが、スミナは目の前の機械は自動でも遠隔でも無く中でゴンボが動かしている事を確信していた。


「言った通りわたしは戦う意思はありません。それに神機はもう持っていませんし、魔宝石のエルはここには居ません。

ゴンボさん、今貴方が着ているのは貴方達が作った機械ですよね?わたしにはそれがとても素晴らしい機械に見えます。是非どういった物かお話が聞きたいです」


 スミナの言った事は本音だった。魔導帝国が天下を取った後の世界では武器も機械も魔導具が主流になっていた。魔導帝国製でなくても人間が作った魔導具がドワーフの作る武器や道具より便利だったからだ。ドワーフの道具はその繊細な見た目から主に観賞用の目的で流通していた。

 だがスミナは子供の時ドワーフの作った道具を始めて見て美しさよりも使用する道具としての価値があると思ったのだ。だからドワーフの作った道具に魔法を組み合わせればもっといい物が出来るのではと思っていた。


「神機も魔宝石も無いか。それは残念だ。

スミナとやら、お主は機械の素晴らしさが分かるのか。敵で無ければ語り合いたかったな。

だがワシはディスジェネラルが1人、鋼鉄はがねのゴンボじゃ。お主らはワシとこの機械達が倒す!!」


 ゴンボがそう言うと周囲から無数のダロンが姿を現す。どれも量産化されたダロンとは色も大きさも異なり、能力を特化した特殊な物だとスミナは理解する。


「スミナ、これはどういう状況?」


 スミナに追い付いたレモネが無数の敵の出現について確認する。


「ごめん、王様は話合いするつもりは無いみたい。

ダロンはわたしが無力化するから、それまで王様を引き付けてて」


「このでっかいのが王様なのね。分かった、任せて」


 スミナはゴンボをしばらくレモネ達に任せ、自分は周囲のダロンをどうにかする事に決めた。そうはさせまいとゴンボが巨大な拳でスミナを潰そうと振り下ろす。しかしそれはレモネの斧の攻撃によって逸らされた。


「おお、小さいのに大したパワーだな。だが、力比べでは負けんぞ」


「それはこっちもだよ」


 ゴンボの興味がレモネに向き、スミナは移動する事が出来た。しかしダロン達も動き出し、激しい攻撃が始まってしまった。レモネ達はミアンがシールドを張り、ソシラとエレミが強力な攻撃を防ぐ事で何とかしのいでいる。スミナもギリギリのところで何とか攻撃を避けつつ、近場のダロンの集団に接近した。


(速い!!)


 ダロン達は攻撃を近接に切り替え、様々な武器をスミナに繰り出す。スミナはそれらを紙一重で何とか避けていた。今まで戦ったダロンとは大きく異なり、まともに戦っていては消耗する事が分かる。だが、スミナには勿論考えがあった。


「これで!!」


 スミナはベルトから一つの魔導具を取り出して発動する。すると“ギュイイーン!!”という爆音と共に閃光が周囲を照らした。ダロンは機械の兵器なので視界と音で状況を把握している。なので閃光と爆音によって一時的に相手の行動を止められるのだ。スミナの予想通り周囲のダロン達は一斉に動きを止めていた。その隙にスミナはダロンに近寄り接触する事で次々と機能を止めていく。魔導具の効果が収まっても敵の数が減った事で近くのダロンは全て動きを止める事が出来た。

 ダロンの支配権を奪って同士討ちさせる事もスミナは考えたが、止めるよりも時間がかかり、周囲に被害が出る事もあると思い止めたのだった。スミナはレモネ達が持ち応えているのを確認してから少し距離の離れたダロン達の方へと移動しようとする。


「なるほど、それが転生者の機械を使いこなす祝福か。羨ましい能力だ。

だが、そう簡単には行かぬぞ!!」


 ゴンボがそう言うと停止した筈のダロン達が再び立ち上がった。


「どういう事?完全に機能を停止させた筈」


「通常のダロンだったらそうだろう。だが、ここに居るダロン達は対策済みじゃ。

今のこいつらは機械ではなく、生物としての本能で動いておる」


 ゴンボの言う通り、ダロン達の動きは先ほどまでの精密さは無くなり、機械の触手に付いた武器をとにかく振り回してスミナを攻撃しようとしていた。敵味方の区別はついているようだが、他のダロンに当たるのを気にせずに武器を振り回している。近距離攻撃だけになってはいたが、ある意味この状態の方が凶暴に思えた。


(どうしよう)


 スミナはどうするべきか迷ってしまう。巨大で強力なゴンボに暴れるダロン、そして遠距離から攻撃してくるダロンもいる。判断ミスをしたら全滅だ。


「スミナさん、相手が生物なら私が対処出来ます!!」


 そんな中ミアンが大きな声を上げた。確かにミアンの聖女の力で生物としてのダロンは何とかなるかもしれない。スミナは最善策を考え、指示を出す。


「レモネ、交代で王様はわたしがやる。レモネとソシラは遠くのダロンを、ミアンとエレミはこのダロン達をお願い!!」


「「了解!!」」


 スミナ達は急いで場所を変える。それを邪魔しようとするゴンボに対してスミナは一旦巨大な質量をぶつける魔導具で怯ませた。スミナは武器を持たずにゴンボの前に再び立った。


「ワシと素手でやり合うつもりか?」


「試してみたい事があるので」


 スミナは自分の祝福でゴンボを倒せるのではと考えていた。中の生物が暴れているダロンとは異なり、触れさえすればゴンボが着ている機械を操り無力化出来ると。


「本気で行くぞ!!」


 巨大な機械から大量の爆弾が放出される。爆弾はスミナに向かって誘導して飛んできた。スミナは速度でそれらを振り切り、山に接触させ爆発させる。しかし、爆発したところ狙ってゴンボは巨大な拳でスミナを殴ろうとした。


(今だ!!)


 スミナはそのタイミングを見計らってギリギリで避け、通り過ぎた腕に飛び付いて触れる。これで機械を止められる筈だった。


(なんで?)


 しかしいつも出来ている道具の操作がゴンボの着ている機械には効かず、ゴンボは腕に張り付いたスミナをそのまま山肌に叩き付けた。スミナはその瞬間に衝撃を吸収する魔導具を出して何とか致命傷を防ぐ。そして次の攻撃が来る前に急いでその場を抜け出した。


「どうして止められないかと思ったな?

これは普通の鎧や機械では無い。ワシがワシの為に作った、ワシだけが使える、ワシの為の身体じゃ。これは道具でも兵器でも機械でも鎧でも無く、ワシのカラダだから他人には操れんのじゃ!!」


「分かりました。ゴンボさんが戦うのを止めないなら実力で止めます!!」


 スミナはそれを聞いて覚悟を決めた。ゴンボを叩きのめし、嫌でも話し合いをさせようと。


「お主がワシに勝てるかな?」


 ゴンボはそう言って右腕の形状を変えた。右腕は展開して円状に並んだ刃が開いた状態になり、閉じられたら中に居たものがみじん切りにされる武器なのが分かる。つまりその中に入りさえしなければいいのだ。

 スミナはレーヴァテインを取り出して、攻撃を開始する。相手は巨大な分、繊細な動きは出来ず、どうやっても大振りになり腕に掴まる事は無い。逆にスミナはゴンボがいると思われる巨人の胸の部分の分厚い装甲を切り裂こうとした。


(え!?)


 そんなスミナの足にいつの間にかカエルの舌のようなゼリー状の紐が結びついていて、急激に引っ張られる。死角から忍び寄っていたのだろう。スミナは急いでそれを斬ろうとしたが、それより先にスミナの身体が右腕の刃の並んだ中心に移動させられていた。紐は斬れたが、周囲の刃が既に襲い掛かってきている。


(それなら!!)


 スミナは迷わず円の中心を破壊して腕の中に逃げ込もうとした。刃は自らの身体には刺さらないようになっており、内部は逆に安全だからだ。しかし、そんな行動に対する対策は取られており、腕の中心の装甲を斬ると中には真っ赤に燃え盛る高熱が溜まっていた。スミナの目の前は炎、背後には刃の形に追い詰められる。


(ここで使いたく無かったけど!!)


 スミナはこれも最終手段にしたかった、瞬間移動の魔導具を取り出して使う。移動先はランダムだが、少し離れた安全な場所に一瞬で移動出来る魔導具だ。スミナは巨人の斜め後ろに移動しており、巨人の右腕からは火柱が発射され、地面を高熱で溶かしていた。刃自体がブラフで、炎が本命の攻撃だったのだろう。

 ゴンボはスミナが逃げたのに気付き、すぐに左腕をトゲの付いた大量の鞭状に変えて振り向きざまに攻撃してくる。スミナは距離を取ってそれを何とか避けた。


(巨体な分、複数のカメラで死角が無いようにしてる)


 スミナはゴンボが気付いた早さで巨人には死角がないのだと理解する。それならばとスミナは魔導具を用意した。その魔道具を地面に叩き付けると濃い霧が発生し、周囲が見づらくなる。巨体の巨人はそれでも分かるが、対するスミナは小さく、高速で移動すればどこに居るか分からなくなるのだ。

 スミナは周囲を高速で周った後、狙いを左腕に定める。何をするにも相手の手数を減らす事で攻略しやすくなると考えたからだ。レーヴァテインを上段に構え、肩から左腕を切り離そうとした。しかし、スミナは剣を振り下ろす事が出来なかった。急激な腕の痛みを感じて即座に退いたからだ。腕には小さな針が刺さっており、スミナが攻撃しようとした場所には大量の針が降って来ていた。その上には小型の鍋のような兵器が浮いていて、針を降らせている。スミナは短剣を取り出してそれを破壊した。

 スミナが目を凝らすと周囲には複数の小型の兵器が浮いているのが分かる。魔導具で出した霧を相手が逆に利用していたのだ。スミナはそれらの兵器を壊して回り、結局霧が晴れるまで攻撃を止めるしかなかった。


「お主、なかなかやるのぉ」


「それはこっちの台詞です。どれだけ武器を隠してるんですか?」


「それを教えたら面白くないじゃろ」


 ゴンボは余裕そうだ。スミナは相手が様々な手段でどんな場面でも対応する、自分と似たタイプだと理解する。そしてそれが自分にとって相性の悪い相手だと思い知らされていた。アリナだったら危険を察知して攻撃が来る前に対応出来る。だが今回はアリナはおらず、自分がやるしかないのだ。


(わたしはわたしのやり方でやるしかない!!)


 スミナは覚悟を決めて再び攻撃を開始した。



 ミアンは複数の暴れ回るダロンを相手にシールドの魔法で防戦するしかなくなっていた。スミナには何とかすると言ったものの、ダロンの中の生物がデビルによって無理矢理合成されたもので、上手く対応出来なかったからだ。エレミも懸命に戦ってくれているが、やはりこの数の相手に圧倒されている。このままでは2人とも物量に圧し潰されてしまうだろう。


(何とかミアンが打開しなければ)


 祈りに集中したいのだが、それにはシールドの魔法を解く必要があり、今はその隙が無い。


「ミアンさん、時間があれば対応出来るんですよね?」


「はい、集中して相手の状態が把握出来さえすれば」


「分かりました、シールドを解いて下さい。しばらくの間私が敵を引き付けます」


 エレミがそう言うが、ミアンは無茶だと思ってしまう。


「駄目です、そんな事をしたらエレミさんが……」


「この鎧の能力については聞いてますよね。大丈夫です、数分間なら魔力が持ちますので」


「分かりました。お願いします」


 ミアンもエレミが着ている魔導鎧がスミナから貰った攻撃を反射するものだと聞いていた。それでも無茶だと思ったが、真剣なエレミの目を見て彼女を信じないのは失礼だとミアンは思ったのだった。


「それではシールドを解きます」


「はい、任せて下さい!!」


 ミアンがシールドを解いたのと同時にエレミは敵の中心に飛び込む。勿論ダロン達はエレミに集中攻撃しようとした。エレミはそれを魔導鎧の力で反射し、別のダロンへと攻撃を流す。エレミは見事にタイミングを合わせて攻撃を反射して防いでいた。ただ、それに集中する為に槍での攻撃や防御は出来ず、反射の際の衝撃がエレミの体力を削っているのがミアンには分かった。


(心配していては駄目。集中しないと)


 ミアンは自らの身は自分で守りつつ、ダロンの内部に対して集中する。すると中から取り込まれたモンスターや人の怨嗟えんさが聞こえて来た。彼らは望んで取り込まれたのではなく、無理矢理囚われ、生かされ、吸収されたのだ。ミアンはそれを解放しなければいけないと自覚する。


(聖なる印では解放出来ない。彼らに必要なのは温かさだ)


 ミアンは慈愛の心を魔法に変えるのだと理解する。それが分かると同時にミアンの身体は薄桃色に光輝いていた。


「エレミさん、もう大丈夫です。私に任せて下さい」


「ミアンさん、それは?」


「もう彼らは私を敵だと思わなくなります」


 ミアンがそう言って暴れ回るダロンに近寄ると、ミアンに振り下ろそうとした攻撃は止まり、ダロン自体が大人しくなる。やがてミアンの周りにダロンが集まり、従順な犬のようにおとなしくなった。


「神よ、この者達に安らぎを与えたまえ」


 ミアンの光が増し、ダロン達は永遠の眠りについていった。



「ソシラ、速攻で終わらせるよ!!」


「分かった……」


 レモネはそう言って自分を鼓舞していた。様々な強敵と戦って来た経験から、目の前にいるダロンの集団が他のダロンと異なりかなりの強さだと理解しているからだ。そして自分がスミナのような実力も、ミアンのような才能も無い事をレモネは知っている。それでも、頑張って以前より強くなったという誇りもあった。


「射撃は私が引き寄せる……」


「助かる」


 ソシラが虚像を使った祝福で遠距離攻撃を引き寄せ、全ての弾を外してくれた。その間にレモネは1体目のダロンに接近する。だが、普通のダロンと異なり、近接攻撃が強化されており、レモネの接近を許さない。レモネは魔導具の盾で攻撃を防ぎつつ、攻撃のチャンスを伺う。


(恐れていては駄目だ。私には速度がある!!)


 ダロンが複数の触手に付いた武器でレモネを攻撃しようとした瞬間、レモネは防がず、避けず、敵へと突っ込んだ。手に持った魔道具の斧が攻撃を弾きつつ、そのまま縦に一回転して斧を振り下ろす。ダロンは真っ二つに裂け、徐々に動かなくなった。ようやく1体目を仕留めたが、次々と周りにダロンが集まってくる。


(このペースで戦ってたらキリが無い!!)


 そんなレモネの横に敵を引き付けてたソシラがやって来た。


「あれをやろう」


「頑張る……」


 レモネの決意を受け、ソシラもやる気を振り絞っているのが感じられた。レモネは斧を腰に付け、魔導具の盾を腕輪状に縮めた。そしてレモネは両手でソシラの左手をしっかりと握る。ソシラは魔導具の鎌の刃を最大に伸ばして右手で構えた。そんな2人に向かってダロン達が攻撃を始める。が、2人への攻撃は空振りし、そこに2人は居なかったからだ。


「行くよーーーー!!」


 ソシラが2人分の虚像を作ってダロンの背後に移動し、レモネが両手で握ったソシラを自分を中心にして回転して振り回した。ソシラは鎌を横に構え、巨大な刃はダロンを上下に切断した。2人はそのまま回転し、巨大な刃の付いた独楽のようになる。ダロン達はそれを攻撃しようとするが、その瞬間に別の場所の虚像に入れ替わり、次々とダロンを破壊していく。まさに1撃必殺の大技が繰り広げられていた。



(どこにこんなエネルギーがあるの?)


 スミナは様々な攻撃に圧倒されつつもゴンボの巨大な兵器の弱点を考えていた。同じような巨大な魔導兵器のグスタフは魔導炉のエネルギーがあるからこそ長時間の稼働が可能だった。だが、ゴンボの機械は魔力が動力源では無いようで、その巨体や様々な武器を使用し続けるのは難しい筈だとスミナは考えていた。道具の使い方が分かるスミナもゴンボの身体と一体化した巨人兵器がどういう仕組みか理解出来ていない。


「もう限界か?転生者というからもっと恐ろしいもんかと思っておったぞ」


「まだです!!」


 スミナは飛んで来る複数の刃を回避しながら叫ぶ。ゴンボがエネルギーの残量を気にして戦っている様子は無く、攻撃も防御も惜しみなくしてくる。こちらが集中して攻撃しようとすると妨害や的確な変形で防ぎ、隙を見せると圧倒的なパワーや大量の武器で倒そうとしてくる。与えたダメージも自動修復し、少しは装甲を削れたものの、今だ機能が壊れた様子は見えない。むしろスミナの魔導具や魔力を消費させられ、このままでは先にスミナが倒されるだろう。


(となると身体のどこかにダロンと同じような魔族由来のエネルギー源があるのか)


 スミナは最初ゴンボがドワーフの誇りとして魔族の力無しに巨人兵器を作ったのではと予想していた。だが、ここまでエネルギー切れが無い以上、魔族の技術が使われていると考えるほかは無い。スミナの見方が変わった事で分かって来た事があった。それは巨人兵器の武器が上半身に集中し、下半身は蹴りが繰り出されるぐらいで他の攻撃が無い事だった。


(下半身を調べられれば……)


 そうスミナが考えた時、巨人兵器の胸の装甲が開いた。何か攻撃が来るとスミナは瞬時に身構えると、“ボオオオン”という奇妙な音が胸から発せられる。音波攻撃だと気付き、スミナは瞬時に音を遮断する魔法を展開して対処した。それと同時に巨人の拳がスミナを狙い、それを何とか避ける。この時スミナは音を遮断したせいで周りの音が聞こえていなかった。


(嘘!?)


 気付いた時には音波によって崩された岩山の岩が周囲から大量に降って来ていた。拳はスミナをここへ誘導する為の攻撃だったのだ。


(避けられない!!)


 周りを岩に囲まれ、攻撃で斬るのも間に合わないとスミナは死を予感する。だが、岩はスミナを潰す前に破壊され、堰き止められていた。


「スミナ油断したんじゃない?」


「遅くなりました」


 スミナを助けたのはソシラの祝福で移動してきたレモネの攻撃と、ミアンの張った巨大なシールドだった。


「助かったよ。

済まないけどそのまま巨人の相手をしてくれる?」


「「はいっ!!」」


 スミナはレモネ達に巨人兵器を調べる為の時間稼ぎをして貰う。ソシラは複数の虚像を作って攻撃を分散し、大量の攻撃に対してはミアンが強力なシールドで防いでくれる。こちらを狙った素早い攻撃に対してはエレミが鎧で攻撃を反射させ、拳などの力技に対してはレモネが力で押し返してくれた。スミナは改めてみんなの協力があるからこそ自分は戦えるのだと感謝する。

 だが、巨人兵器の攻撃の激しさが変わらないのに対して、みんなが消耗しているのは見て取れる。スミナは一刻も早く状況を覆す為に突破口を探った。


(ゴンボさんは身体の一部だと言ったけど、魔族の技術をそこまで信頼してない筈)


 スミナは巨人兵器を観察し、違和感を洗い出していく。本当はドワーフの技術だけで作りたかったものが出来なかった悔しさ。それを隠しているのだと。巨体を支える為に太くなった足、その膝より下の部分の作りが他と違う事がスミナは気付いた。そしてそこが巨人兵器の弱点だと。


「ゴンボさん、これで終わりです!!」


 スミナは攻撃を避けつつレーヴァテインで巨人の脛を斬り付けた。そして砕けた装甲の下の機械に触れる。すると巨人の動きが急に止まった。スミナが触れた場所には複数のダロンの胴体だけが連結して埋まっていた。


「気付かれてしまったか。

じゃが、まだ終わらんよ!!」


 巨人の身体が崩れ出し、機械がバラバラになっていく。スミナ達は危険を感じて距離を離す。すると巨人の中から機械を纏った2メートルほどのゴンボが姿を現した。だが、その姿は既にボロボロで、スミナから見ても美しい道具に見えなかった。


「もうやめましょう。そんな身体では戦えません」


「バカにするな。ワシ本来の力はここからじゃ!!」


 ゴンボが叫ぶとバラバラになった機械の残骸の一部が再びゴンボにまとわりつき、巨大な腕と身体を守る装甲が出来上がる。ただ、下半身は貧弱で、アンバランスな形状になっていた。


「これを喰らえ!!」


 ゴンボの右腕が切り離されスミナに向かって飛んでいく。


「みんなは手出ししないで!!」


 スミナはゴンボと一騎打ちする覚悟を決めた。レーヴァテインで拳を切り裂き、距離を詰める。するともう一つの拳もスミナに向かって飛んできた。スミナはそれも斬り払うが、そこにゴンボが身体ごと頭突きの姿勢で飛んで来る。スミナはそれを紙一重で避けるしかなかった。ゴンボは再び機械を寄せ集めて腕を再生する。ただ、ゴンボの息が荒くなっている事にスミナは気付いた。


「どうしてそこまでして戦うんですか?他の仲間は?」


「これはワシ1人の戦いじゃ。他の者は無用。ワシは絶対にお主達を止めねばならんのじゃ!!」


 ゴンボが両腕を振り回してスミナを攻撃する。スミナはゴンボの必死さが伝わり、どうしたらいいか分からなくなっていた。


「話し合いでは駄目なんですか?」


「ワシは魔族に魂を売ったのじゃ。もうこうするしか無い!!」


 ゴンボは回転して両腕でラリアットをしてくる。だが、スミナはそれを避け続けた。


「スミナ、そ奴はもう覚悟を決めておる。トドメを刺してやれ」


「でも……」


 どこからともなく姿を現した小竜姿のホムラが告げるがスミナは覚悟を決められない。


「スミナが出来ないなら私がやるよ」


「おお、何人だろうと相手になるぞ」


 レモネが斧を持って前に出て、ゴンボはレモネへも攻撃を開始する。このままでは終わらないのは確かだ。レモネが手を汚す前にとスミナは覚悟を決めた。


「ごめんなさい。わたし達にもやるべき事があるんです」


「ああ、それでいい!!」


 スミナがレーヴァテインを構えてレモネを手で制して前に出る。ゴンボも拳を振り上げ、スミナを本気で倒す姿勢を示す。


「いざ!!」


「はい!!」


 ゴンボの攻撃を見切り、スミナはレーヴァテインを振り下ろそうとする。しかしゴンボもそれを予測して自らジャンプして攻撃を避けた。が、空中に出たのはむしろスミナには好都合で、スミナはレーヴァテインの刃を長くした。上空から叩き付けようと拳を下ろすゴンボに向かってスミナはレーヴァテインを突き上げる。


「やめてっ!!!!」


 少女の叫びとともにゴンボの身体が横に吹き飛び、ゴンボは地面に転がっていた。


「お爺ちゃん、もういいの。1人で罪を背負おうとしないで!!」


「ギンナ、お前なんで……」


 2足歩行の魔導機械に乗ったドワーフの少女が倒れたゴンボのもとに駆け寄っていた。


「皆さんごめんなさい。お爺ちゃんは魔族連合から私達が抜けられるように、自分1人で全ての責任を負うつもりでここに来たんです。でも、それは間違いだって私は思い、みんなを説得してここへ来ました。

お爺ちゃんのやった事は許されないかもしれないけど、お爺ちゃんを殺すのは待って貰えないでしょうか」


「ギンナ、それではドワーフとしての威厳が保てなくなるぞ」


「威厳なんてどうでもいいでしょ!!

私達はこれからどんな酷い事になっても、魔族連合を離れる覚悟を決めました。だから、お願い、お爺ちゃんを殺さないで」


「大丈夫です、最初から殺すつもりなんて無かったですよ。

わたしはアリナの姉のスミナ・アイルです。ドワーフの方達と話がしたくてここまで来たんです」


 スミナは泣きじゃくるギンナに笑顔で答えるのだった。


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