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33.進軍開始

 双子達は特殊技能官の施設に作戦会議の為に再び集まっていた。双子とエルとメイルの4人にアスイとオルトとミアンとエレミとゴマル、そしてレモネとソシラもレモネの父の葬儀が終わったので王都に戻っていて参加している。ホムラは相変わらず会議には姿を現さなかった。


「レモネ、お父君の葬儀に参加出来なくてごめんなさい」


「気持ちだけで十分だわ。遠いし優先する事があるんだからしょうがないよ。

それに王都では被害に遭ってる人はもっとたくさんいる。それを言ったらガリサの葬儀には私も出れなかったし」


「そうだよね。ガリサには申し訳ないことしてるね。

落ち着いたらみんなでお墓参りに行こうよ」


 アリナは明るく言って話を引きずらないようにした。ガリサの葬儀が行われたのはちょうどアリナとスミナが戦っていた頃だと後で聞き、アリナは最期を看取った身として参加出来なかった事を後悔している。

 会議の準備が終わり大きなテーブルを囲んで会議が始まった。テーブルには地図が広げられていた。


「皆さん忙しいところありがとうございます。今回の会議も私、アスイが仕切らせて貰います。

スミナさんとアリナさんのおかげで有益な情報が集まりました。

聞いての通り黒騎士を倒した事でエルさんが魔導遺跡の一部施設を使用可能になり、別遺跡への移動が出来、魔導結界を超える事も出来ました。これは間違いないですね?」


「はい、敵に気付かれない位置の魔導遺跡に転移して結界を超えられた事は確認済みです」


 この間の調査の後、双子とエルは実際に転移装置を起動して魔導結界内の他の遺跡、そして結界外の遺跡に移動出来る事を確認した。エルが動作すると認識している施設は確かに使える事が確認出来た。


「地図に魔導結界外で移動出来る遺跡の場所をマークしてあります。全部で8つ、王国の周りに点在している形です。

ただ、王国の北東にある獣人の里の近くの遺跡は魔族に知られている為使えません。なので7つという事になります」


「あたしが見つけた遺跡ね。まあ辺鄙な場所だったし、あそこから移動するのも大変だし問題無さそう」


 アリナは以前ソルデューヌと黒騎士を追って見つけた遺跡の事を思い出しながら言う。


「それと転移装置は1度に10人ぐらいしか運べない筒型の装置と大部隊や魔導馬車が転移出来る箱型の装置があります。

箱型は王国内に一つ、王国外に一つしか無いのでその遺跡が重要になると思います」


 地図の国内の遺跡は王都の南の海岸沿いのこの間見つけた遺跡になり、王国外の遺跡は王国の北に位置していた。国内の遺跡に関しては既に騎士団に重要施設として防衛して貰っている。ただ、内通者がいると情報が洩れるので、アスイが団員全員の情報を確認した女性騎士団である薔薇騎士団に内密に頼んでいた。なので遺跡の情報はまだここにいる者と薔薇騎士団にしか知られていない。


「そして重要なのが魔族連合の拠点です。アリナさんから聞いた話ですと各種族が元々持っている拠点の他に人間が作った砦や城を再利用して各地に拠点を作っているのが分かっています。ただ、実際にアリナさんが見た砦以外は規模や状態は分かっていない状況です」


 地図にはアリナが実際に転移で行った砦やエルフの森やドワーフの工房の場所が記されていた。それに加えてアリナが噂で聞いた魔族連合が使っていそうな城も記されている。こうして地図にして見ると世界中を飛び回っていたんだなとアリナは改めて実感した。


「まず王国として行うのが敵の拠点への奇襲です。これは1度しか出来ませんし、敵に情報が漏れても失敗します。更に発見されても駄目です。そう考えると一番確実なのが北の箱型の転移装置がある施設から場所も近いアリナさんが長く身を置いていたボーブ砦への奇襲だと思えます。

ここには幹部であるディスジェネラルがいる可能性も高く、エルフの森からも近いので落とせれば魔族連合にかなりの打撃を与えられると思います。

この案に関して何か意見のある人は是非言って下さい」


「じゃあ、あたしから。

砦の事をあたしに知られてるって事は何らかの対策を取られたり、破棄されたりしてる可能性は無い?」


「可能性は勿論あります。ただ、その確率は低いと私は踏んでいます。なぜかと言うと、敵は魔導結界を超えて攻めて来ると考えていない事、それとこの周囲に他に拠点に出来そうな場所が無い事です。ここを破棄してしまったら北側の中継地点が無くなり、東西で分断されてしまうからです」


 アリナの疑問に対しアスイが丁寧に説明する。


「ではわたしからも。

逆に砦の守りを強化されて、奇襲が失敗する可能性は無いでしょうか?

奇襲を行うのはグイブさんの部隊になるんですよね。我々は補給は出来ないので1度で落とせなければ敗退し、逆に魔導遺跡を見つけられて使えなくなってしまうのでは無いでしょうか」


「そうね、そこが問題よね。でも、奇襲が失敗したならそもそも魔導結界外への攻撃は不可能だという気付きになります。その場合は魔導遺跡の一つを取られてもしょうがないでしょう。

ですが、それは避けたいと思います。その為に私達がいると考えてはどうでしょう。もしグイブさんの部隊が失敗しても私達がその後に攻撃すれば砦は落とせると私は思います。

アリナさん、どう?」


「確かにディスジェネラル勢ぞろいとか、あのルブとかいうガキが出て来なければ負けないとは思うよ。

グイブの尻ぬぐいするのはイヤだけど、国の為ならしょうがないか」


 アリナは考えられる最悪の展開を想像しながら話す。ディスジェネラルも1対1ならアリナは負ける気はしない。レオラだって傷付いた状態のアリナとスミナで倒せる寸前だった。リターンマッチ出来るならそれはそれで望むところだとアリナは思う。


「オルトさんはどう考えますか?」


「俺もボーブ砦を攻めるのが一番現実的なやり方だと思う。

ただ、気にしているのはその後の展開だ。砦を維持するのか、破壊するのか、そして魔族連合に対してどう動くかだ」


「そうですね、その話もしましょう。

砦に関してですが、維持するのは難しいでしょう。破壊し、部隊は即時撤退させるのがいいと考えています。

そして、その後が私達の出番です。以前話した通り、魔族連合を離反しそうな勢力に接触し、離反させるんです。離反する勢力が出始めれば魔族連合を各個撃破出来るようになる筈です」


 アスイが一番戦争経験があるオルトに確認しつつ、その後の対応を説明する。魔族連合の各勢力と接触して魔族連合から離脱させる事については以前の会議で話し合い、どの勢力が離反してくれそうかの見当は付いていた。


「ここで重要なのが奇襲後から接触するまでのスピードです。急がないと魔族連合が敵対する王国に対して団結し、逆に同盟が強固になるからです。

なので私は2つのグループに分け、魔族連合が対応を取る前に離反の可能性が高い勢力から接触して回る事を考えています」


 アスイが分かりやすくなるようにグループのプレートとここに居る人物の名前が書かれた小さいプレートをテーブルに並べる。


「第1グループは魔導馬車を使ってボーブ砦に近い勢力に即座に接触して貰います。このグループはスミナさん、アリナさん、エルさん、ミアンさん、エレミさんの5名にお願いします。担当はエルフとドワーフの亜人の2勢力です。

第2グループは転移装置を使って近場に移動し、そこからは徒歩で移動して接触して貰います。このグループは私アスイと、オルトさん、メイル、ゴマルさん、レモネさん、ソシラさんの6名です。担当は東のヤマトの国と獣人の2勢力です」


「あの、人間の人達とは接触しないのですか?」


 説明を聞いて真っ先に聖女のミアンが疑問を口にする。確かに魔族連合に居るとはいえ、隷属されている人間達が一番離反する可能性が高い筈だとアリナも思った。勿論以前の会議でも人間の代表であるディスジェネラルのシホンに接触する話は出ていた。


「ミアンさんの言いたい事は分かりますが、人間の、他の国の人達を解放するのは最後になります。理由としては人数が多過ぎ、各地に点在し、武器や戦える人達を徴収されているからです。下手に離反させてしまうと無駄な虐殺が行われる可能性があります。

それに人間には裏切り者であるダブヌとデビルで人間に溶け込んでいるミボがいるのでこちらの情報が敵に流れる恐れがあります。

逆に魔族連合に所属したままなら下手に手出しされる事は無いでしょう」


 アスイの説明でアリナも納得した。アリナは自分が人間の虐殺を命令された事もあり、魔族にとっては単なる道具でしか無いとよく分かっている。そして道具だからこそ意味のない虐殺をしない事も。


「アスイさん、もし魔族連合が兵として人間を出してきた時、どうするつもりですか?」


「人間同士の戦いは出来るだけ避けるようにします。魔族も反逆を恐れて兵士にしている人間に強力な武器を持たせたりはしていないでしょうし、戦闘になっても逃げる事は可能でしょう。

しかし、砦の守りについていたり、不意の攻撃で避けられない場合はあるでしょう。その時は倒すしかありません。勿論なるべく殺さぬようにしたいですが、戦争となるとこちらの命もかかっていますのでそればかりに気を取られてはいけません。

グイブさんの部隊が人間を攻撃したとしても責めてはいけませんよ」


「俺もアスイの意見に賛成だ。魔族連合と戦う事はいずれそういう事態になるとは思っていた。殆どの人間は人間同士の戦いを避けたいと考えているが、裏切り、魔族に付くのが正しいと思っている者もいる。そうした者と戦う事は避けられない」


 オルトの言葉にメイルが悲し気な顔をした。オルトもメイルもかつての仲間と戦った事があり、それが今でもメイルの心の傷として残っている事をアリナは知っている。


「大丈夫です、今度は私が手を汚します。多くの人を救う為には避けられない事だと分かっていますので」


「メイル、そうじゃないよ。わたしはなるべく多くの人間を救いたい。わたし達にはそれだけの力がある。そうだよね、アリナ」


「うん、普通の人間なら殺さず捕らえるのなんて簡単だよ。人間同士が争う事態はあたし達が避けてみせる」


 スミナの言葉にアリナも同意する。理想論だろうと、今の自分達なら出来る気がした。


「そうですね、2人の言う通り悲観的に考えてばかりでは駄目ですね。私も出来る限り力を出そうと思います」


「それなんですが、アスイさんのグループ分けに関してわたしに意見があります」


「スミナさん、なんでしょうか?」


 ある程度話がまとまったかと思ったところでスミナが意見を出す。


「アスイさんには王都に残って貰いたいんです。アスイさんまで王都を出てしまうと王都の守りがかなり手薄になってしまう。もし内通者がいた場合、魔族連合は王都を攻撃します。その時は騎士団だけでは守れないのではとわたしは思うんです」


「ですが、魔族連合は先の攻撃以降大軍を出す余裕は無い筈です。それに私が抜けるとなると申し訳無いですが2グループのどちらかのグループがかなり危険になってしまいます」


「それですが、わたしに考えがあります。わたしとアリナを別グループにしてそれぞれリーダーとして動きます。それならある程度のフォローが可能です。アリナ、いいよね?」


 突然話を振られ、アリナは一瞬答えに迷う。以前のアリナだったら危険な場所で姉と分かれる事は拒否しただろう。だが、今は違っていた。


「うん、それでいいよ。確かに王国に転生者が1人も残らなかったら危険だもんね。

大丈夫、あたしとお姉ちゃんがそれぞれリーダーなら何とでもなるって」


「話は分かりました。

そうですね、王都が落ちてしまったら元も子も無いのは確かです。

ですが、接触も話し合いも難しい事には変わりありません。どのようにグループを分けるつもりですか?」


「それも考えてあります。

面識のあるアリナが全て回ってくれれば一番話が早いんですが、それが出来ないとなると、話が出来そうなエルフとドワーフに関してはわたしが行き、ヤマトと獣人はアリナに行って貰います。ドワーフの工房には魔導兵器もあるという話なので、わたしが行く事でそれも調べられますし。

なので第1グループはわたしとミアン、レモネとソシラ、そしてエレミの5名で、第2グループがアリナとオルト先生、メイル、ゴマルさん、そしてエルは転移の役目もあるので第2グループに行ってもらいます。

こんな感じでどうでしょうか?」


 スミナの話を聞いて、アリナは必死に状況を考えて整理する。ハーフエルフのエリワやドワーフの王の孫のギンナならアリナが話せば直ぐに力になってくれると思っていた。だから自分がその役目から外されるとは思っていなかった。だが、スミナなら何とか出来るのは確かだとも納得する。ドワーフが作っている魔族の闇機兵ダロンもスミナなら簡単に停止させたり、奪ったり出来るだろう。

 問題は危険と思われるヤマトや獣人族相手に自分達が上手く出来るかだとアリナは考える。アリナは見て無いが、ヤマトの王のマサズがメイルに惚れているというのなら、確かに話し合いが出来て、魔族連合を抜けてくれるかもしれない。獣人の長のグラガフも話が出来ない相手ではなく、オルトとも因縁はある。アリナは自分が間に挟まれば上手く行くのではと思えるようになっていた。


「確かにバランスは取れているわね。スミナさんが判断したなら私はいいと思います」


「俺もいいと思う」


 アスイとオルトが納得し、スミナの案で行く事に決まった。その後、細かい打ち合わせが続く。


「これは、全てが上手く行った場合の話ですが、その時はアリナさんに魔族のディスジェネラルであるソルデューヌに連絡を取って貰おうと思います」


「ソルデューヌ?ああ、あの連絡用の魔導具ね。でも、絶対信用ならないよ?」


「それでいいんです。相手が罠に嵌めて来るなら、それを上手く利用するんです。その際、敵の情報を聞き出せればいいんです。逆に敵に偽の情報を流す事も出来ると思います」


 アスイはソルデューヌを利用する案を提示する。アリナはそれに関してはあまり乗り気になれなかった。裏があったとしてもソルデューヌに助けられたのは事実だったからだ。


「アスイさん、その話はまた後にしましょう。作戦前に余計な事を考えて動いてしまいますし」


「そうですね、まずは最初の奇襲を成功させる事を考えましょう」


 スミナはアリナの気持ちを汲んで話を後回しにさせてくれた。それによってアリナの気持ちは少し軽くなった。


「さて、最初の難関はこの作戦を国王陛下に納得してもらう事です。頑張りましょう」


 アスイがそう言って会議は終わった。それぞれ作戦を実行する為の準備を始めるのだった。



 会議から数日後、双子は城の地下にある極秘の会議室に呼ばれて来ていた。部屋には若き国王であるロギラ・デインと現在対魔族の総司令官に任命されているグイブ・デンシと転生者アスイが席に着いていた。極秘のやり取りの為、双子を含めた5人のみでの会議になる。

 最初にアスイがこの間の会議で決まった魔族連合への奇襲方法、並びにその後の各勢力への接触について説明する。その際双子達の細かい割り振りまでは説明せず、どの勢力にどの順番で接触するかだけ説明した。


「なるほど、アスイ達の作戦についてはよく理解した。

グイブ、今の話をどう思う?」


 ロギラは自分の感想は述べず、グイブに意見を求めた。グイブは以前と同じく自信がありそうな少しにやけた表情で答える。


「素晴らしい作戦では無いでしょうか。僕としては賛成ですよ。

この間の戦いではお見苦しい姿を晒してしまいましたし、まだ僕の部隊は魔族全体へ攻撃するには数が足りていない状態なので、先に砦を攻撃するのはとてもいい案だと思います」


 グイブは何か文句を付けるかと思ったが、さらっとアスイの出した案に乗っかってきた。


「なら決まりだ。私も魔導結界を解除せずに魔族連合を弱体化出来るならそれに越した事は無いと思っている。

ただ、今回の奇襲は絶対に敵に気付かれてはならない。なので決行日までは双方極秘で準備を進めて欲しい。日付に関しては私とアスイで決め、それを直接知らせる。それでいいかね?」


「「はい」」


 想像以上にあっさりと作戦の決行が決まり、アリナは少し肩透かしを食らった気分だった。双子達が退室しようとした時、グイブが声をかけて来た。


「少しだけ3人でお話出来ないでしょうか」


「構いませんが」

「別にいいけど」


 アリナは極力嫌な顔を隠しつつ、グイブの提案にのり、国王とアスイに許可を取って3人で残って話をする事になった。


「改めてお2人にはきちんと挨拶をしておきたいと思っていました。僕は南のサウラ地方の領主の息子で、グイブ・デンシと申します。お2人の噂はよく聞いておりますし、それ以前もアイル家のご令嬢として知っておりました。

ああ、例の件については忘れて頂いて結構ですよ、あれは父が役立たずだった僕に良縁だけでもと急いだせいですので」


 グイブが例の件と言っているのは双子が入学前に話があったお見合いの事だ。無下にされた事をグイブ自身は何とも思ってないようだ。


「お心遣いありがとうございます。

わたし達も改めて自己紹介を。ノーザ地方の領主ダグザ・デインの長女のスミナ・デインです」


「同じく双子の次女のアリナ・デインです」


 アリナは最低限の発言で挨拶する。どうにもキザっぽいグイブがタイプじゃ無いからだ。ただ、これでも軍師としての力はきちんとあるようで、油断はならないと思っている。


「お時間を作って頂きありがとうございます。

お声がけしたのは、今後共に活動するにあたり、少しでも僕のことを知っておいてもらいたかったからです。

少しだけ自分の事を話させて下さい。僕の家はデイン家と同じく地方領主なのですが、ダグザ様とは異なり、強さや功績で地位を築いたのではなく、昔からの貴族であり、それも強さでは無く交渉でその座を保っていた貴族でした。

貴族に身を置いている僕が言うのは何ですが、僕はこの家柄で地位にのさばっている貴族制度が嫌いでした。なので不正貴族を排除してくれたロギラ国王陛下の事は本当に尊敬しています」


 グイブが自分語りを始めたので双子はそれを聞くしかない。


「僕は個人としての偉業を成し遂げたいとこころざしだけは高い子供でした。ですが、僕は運動や剣や他の武器の才能も無く、魔法も人より少し優れた程度の凡庸さで戦技学校にも受からないだろうと言われました。父は裏から入学させると言いましたが、それは断りましたよ。

ただ、家には財産があり、叔父が蔵書家だったのもあって僕は戦術に関する本を必死に読み漁りました。自分が戦えなくても作戦を考えたり、指揮を執ったりは出来るのではと考えたのです。そこで過去の有名な軍師の話を読んで軍師になりたいと思ったんです。

まあ、この時はただ飯喰らいの貴族の息子でしかなかったんですがね。箔を付ける為にお見合いの話が出たのもこの頃なんです。断ってくれて感謝してますよ」


 グイブの話が長くてあくびが出そうなのを我慢しつつアリナは適当に流し聞いていた。グイブは痩せ細っていて、確かに戦闘出来ないだろうなとアリナは感じる。


「結局モンスターとまともに戦った事も無く、戦場に出た事も無い僕が軍師になるのなんて荒唐無稽な話だったんですけどね。あの日までは。

ある日、僕の住む町に行商人が来たんです。珍しい魔導具を多く持ってきたといって、町は少しだけ賑わいました。僕も興味本位でそれを覗きに行ったんですよ。

これでも僕は物の目利きは出来る方で、騙して高価で売りつけようとしている魔導具や、本来の使い道が分からず叩き売られてる魔導具なんかはすぐに分かりました。僕はそんな掘り出し物を買って小遣い稼ぎでもしようと思ってたんです。

そんな中にあの魔導具、“覇者の王冠スプリームクラウン”と呼ばれる古代魔導帝国の魔導具を見つけたんです。商人が言うには他人を操れる危険な魔導具だと聞きましたが、僕にはそれ以上の使い道がある物だとすぐに分かりました」


 グイブが興奮気味に話す。誰かに話したくてたまらなかったようだ。


「ただ、行商人も価値のある魔導具であるのは分かっているようで、とてつもない値段が付いてました。それこそ家を一つ建てられるほどの。僕はこれが他の金持ちのコレクションや王家の宝物庫に飾られるのだけは避けなければと本能で感じたんです。だから、自分の財産を全部出し、足りない分は親から借金して準備して、一括で買い取りました。

さすがに行商人もその値段で売れると思って無かったようで、一緒に見つかったという大量の兜も付けてくれました。それがあの兵士が付けている兜です。

僕はそれから覇者の王冠を使いこなせるように色々な事を試し、家の部下の兵士を使って最初は簡単なモンスター退治から始めました。僕の見立ては正しく、覇者の王冠はとてつもない力を秘めてました。僕を見下していた兄弟や父も僕を認めるようになり、僕は不敗の軍師として名が通るようになったんです」


 グイブが誇らしげに言う。確かに凄い話かもしれないが、アリナにはよくある自慢話ぐらいにしか聞こえなかった。どうしても自分で戦わないグイブが凄いと思えなかったのもある。


「そうだったんですね。確かにあの魔導具は凄い物だとわたしも思いました」


 スミナは丁寧にグイブの話の感想を言った。グイブはそれを聞いて更に笑顔になる。


「流石スミナさん、貴方の鑑定眼が凄い事は噂に聞いてますよ。

それで、ここからが本題です。僕も有名になるにつれ、お2人の話をよく耳にするようになったんです。そして国王陛下に呼ばれ、僕を信用して頂き、魔導結界などの事実を聞いた時、転生者としてのお2人の活躍を聞かせて頂きました。

お2人やアスイ様の活躍はこの国にとって無くてはならないものだと感じました。ただ、それと同時に危うさも感じたのです。転生者3人にだけ頼っていては今後耐えられないのではと。

事実として、異界災害後にお2人が居なくなった時に王宮は未曽有の危機に陥りましたよね。僕の懸念は当っていたのです。なので僕は国王陛下に話を持ち掛けたのです。転生者や今の騎士団を頼らない、新しい軍隊を作る事を」


 グイブの言ってる事は正しいように聞こえた。ただ、アリナは素直に頷けなかった。


「軍隊を作るのはいいけど、グイブさんが仕切らず、今の騎士団と合流するんじゃダメなんですか?」


 アリナはなるべく感情を出さないように質問する。


「それは不可能ですね。僕の部隊は僕が全て指揮を執る事で初めて真価を発揮します。他の部隊と共同作業をするとなると効率が落ち、ミスが増えるんです。

勘違いしないで欲しいのですが、僕は今の騎士団や転生者の皆さんに成り代わるつもりでは無いんです。皆さんとは別に動き、皆さんが楽になり、無駄な命を減らす事を避けたいと思っているんです」


「グイブさんの気持ちは分かりました。今は協力して奇襲を成功させる事を考える時期ですので、話はここで終わりにしましょう。今後、わたし達も全力で協力しますので何でもおっしゃって下さい」


「スミナさん、ありがとうございます。

僕も奇襲に向けて最終調整が必要なので今日はこれで解散としましょう」


 スミナが口論になるのを避けてか、話を打ち切った。グイブもそれで納得したようだ。アリナだけは心の中にわだかまりが残るのだった。



 城での会議から数日後、アリナ達は2台の魔導馬車を使ってそれぞれ別行動のように装って王都の南にある魔導遺跡に訪れた。アスイから連絡があり、この日、この時間に集合するように決められたのだ。アスイは周囲に気付かれないように王都で通常通り仕事をする為に残っていた。


「サニアさん、フルアさん、ご無沙汰しています。警備ありがとうございます」


「久しぶりだな、スミナにアリナ。こっちは問題無いぜ」


「お久しぶりです、スミナさん、アリナさん」


 薔薇騎士団の団長であるサニアとその部下のフルアに双子は挨拶する。


「ごめんね、損な役回りやらせちゃって。退屈じゃ無かった?」


「ここの重要性は分かってるし、あたし達じゃなきゃ頼めないってのも重々承知だ。

まあ、近頃は魔族の襲撃も無いし、少なくとも王都に居るよりはこっちで雑魚狩ってる方が有意義だったぞ」


「団長張り切り過ぎて訓練に力入れて、こっちはたまったもんじゃ無いです……」


「フルアはもっと真面目にやれよ。期待してんだからさ」


 アリナの心配をよそに2人は元気そうだった。魔導遺跡も転移装置も無事で、作戦は決行出来そうだ。


「皆さん、お待たせしました」


 複数の馬車で商隊のように装ったグイブの部隊が遅れて到着する。最終的に兵士は50人ぐらいまで増えたようだ。双子達10人とグイブと兵士達50人全員が箱型の転移装置に入る。それでもまだ余裕はあるが、魔導馬車は今回の転移には入れなかった。何かの問題があって装置が壊れた時、魔導馬車の大きさでは小さい方の転移装置に入れられないからだ。


「それではサニアさん、行ってきます」


「ああ、いつでも戻って来られるようにここは死守するから安心して行ってこい」


 転移装置の外で警備するサニアにスミナが挨拶をする。


「エル、お願い」


「マスター了解です。

では転移装置を起動します」


 エルがそう言うと箱型の転移装置が光り輝いた。次の瞬間には周囲の景色が変わり、海沿いだった景色は薄暗い洞窟の中になっていた。転移は成功したようだ。


「ここが魔導結界の外なんですね」


 初めて王国外に出たエレミが感想を述べる。オルトとメイルとゴマルとエレミの4名は遺跡の見張りとして残ってもらう事になっていた。装置を守る事も重要な役目だからだ。


「行きましょう」


 スミナが先導し、大部隊は魔族連合のボーブ砦を目指して出発したのだった。


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