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26.帰宅

「アリナさん、貴方は無罪として自由の身になれる事が決まったわ」


 牢獄のアリナの部屋の前に来たアスイがあっさりと無罪を告げた。アリナの取り調べや荷物の確認、精神状態や魔法がかかってないかの確認は一通り終わっていた。それに加えアリナは魔族連合で見てきた内容をなるべく詳細に語り、その情報の取りまとめも行われていた。

 確かにアリナの持ってきた情報は王国にとって貴重なものだが、自分が無罪になるとはアリナは思っていなかった。


「ホント?あたしのせいで王国に被害が出たんだよ?兵士も直接殺してるし……」


「全てを加味した上で国王陛下が決定を下しました。

アリナさん、貴方が無罪になったのはスミナさんの力が大きいわ。闇術鎧ダルアに人の意思を操る力があった事を確認した事と、アリナさんの持ち物の記憶を確認してアリナさんの供述が正しかった事を証明してくれました。お姉さんには感謝しないとね」


「お姉ちゃん……」


 アリナはスミナが必死にアリナを助ける為に動いてくれたのが分かっていた。今度こそ自分は姉の為に出来る事の全てをしたいとアリナは心に誓う。


「アリナさんを解放するにあたり、国王陛下から直接話があるそうよ。そこにはスミナさんも含めて数人だけ関係者が呼ばれているの。行きましょう」


「分かりました」


 アスイが牢の扉を開け、アリナはアスイの後を付いていった。黙っているのも気まずいのでアリナは口を開く。


「アスイさん、本当にごめんなさい」


「もう謝罪は何度も聞いたじゃない。

それに私にとってもあの状態のアリナさんと戦えた事はマイナスじゃないの。私の能力を知っている強敵と戦う経験は今後の戦い方の参考になる。あの時は負けたけど、今度アリナさんと戦う時は絶対に負けないわ。

まあ、そんな日はもう来ないと思うけどね」


 アスイが笑って言う。アリナはアスイが思ったよりも負けず嫌いなんだなと少し可愛く見えた。


「あたしだって負ける気は無いですよ。あの時はお互い慣れない力を使ってて完璧な状態じゃ無かったし、本当に勝ったとは思って無いから」


「ふふっ。本当にアリナさんが戻って来てくれて嬉しいわ」


 アスイが微笑んだ。アリナはようやくアスイにも許してもらえた気がした。



「失礼します」


 アスイがお辞儀をして扉を開けたのでアリナもそれに倣う。アスイに勧められるまま部屋に入ると既に長机の上座に国王ロギラ・デインが座っていた。護衛の騎士もおらず、この場は正式なものでは無い事がアリナにも分かる。部屋には他に王国騎士団長のターンと剣の先生でもあるオルトが並んで座っていた。そのオルトの対面にスミナだけが座っており、アリナはその横に座り、隣の国王に一番近い席にアスイが座った。部屋に居るのはこの6人だけだった。


「皆の者、忙しい中よく集まってくれた。

今回集まってもらったのは知っての通り、アリナ・アイルの無罪放免についての説明の為だ。

なお、分かっていると思うがここで見聞きした情報は全て国としての非公式の見解であり、この場限りの情報と理解してもらいたい」


「「はい」」


 若き国王の発言に全員が返事する。


「そもそもの話だが、アリナ・アイルには正式な容疑はかかっていない。玉座の間を襲撃した魔族にアリナ・アイルが混ざっていた事を知る者は少なく、今回の王都への護送も少人数で行っている。全容を知る者はごくわずかである。

ただ、国家への反逆、並びに王へ剣を向ける行為は本来なら死罪に値する。なのでアリナ・アイルの処遇に関しては私が内々に決める事にした。国王の決定であれば不平を言う者はおらぬからな。

私は様々な情報を加味し、無罪放免と決定した。この事について意見のある者は遠慮なく言って欲しい」


 ロギラはそう言って一同を見回す。アリナにここで発言する資格は無く、アリナに味方するスミナ、アスイ、オルトの3人は不服など無いので何も言わないだろう。残るはアリナの正面に座るターンだけだ。


「では王国騎士団長として発言致します。アリナ殿と共に魔族連合が襲撃した回数は2回。その際に多くの王国騎士、兵士が亡くなり、市民の被害も出ております。アリナ殿が直接手を下した事は殆ど無いとはいえ、アリナ殿が手を貸した故に生まれた被害が無いとはいえません。

私は亡くなった者の為にも何かしらの罰が必要なのではと考えます」


 ターンが坦々と発言する。それ自体はアリナも感じていた事で、無罪はあり得ないと考えていた。


「ターン、意見をありがとう。

その事については勿論考えた。数度の襲撃により騎士団の状況がかなり厳しくなった事も把握している。

しかし、この件はアリナ・アイル個人の襲撃では無い為、一概に彼女の罪を問えるものでは無い。また、襲撃時のアリナ・アイルは魔族の鎧を着ており、正常な判断が出来ていないと報告を受けている。彼女と戦った者も異常な行動を何度も見かけたと報告にあり、正常では無かった話の信憑性が高い。

が、それを含めても無罪にするかどうか私は悩んだ。無罪に決めたのはある方の話を聞いたからだ。

まあ、直接聞いて貰った方がいいだろう」


 ロギラが何か合図すると部屋の奥の扉が開いた。少し待つと1人の女性が現れた。ロギラ王の祖父の妹であり、現在も名誉女性騎士団長の座にいる老齢の女性騎士であるネーラ・デインだった。


「起立は必要無いわ。そのままでいいわよ」


 ネーラは皆が畏まるのを止め、ターンの横の席に着席した。アリナはネーラの無事にホッとしたと共にダルアによって力を奪った事を思い出して心が痛くなる。


「アリナさん、あの時はありがとうね」


「ネーラ様、何をおっしゃってるんですか。あたしはネーラ様にとんでも無い事をしてしまいました……」


 アリナはネーラにお礼を言われて即座に否定する。


「いいえ、アリナさんに助けられたのは事実なのよ。貴方は立ち塞がる私に対し自分1人で何とかしようとして他の者を戦わせ無かった。そして素顔で近付く事で油断した私の力を奪い、気絶させる事で生かそうとしてくれましたね。他の者に手出しされないように玉座の間の人がいるところまで運んでもくれました。

その後、お兄さんであるライトさんにも同様の手段で生かそうとしてくれましたね。おかげで私もライトさんもこうして生き延びる事が出来ました。もしあの場にアリナさんがいなければ私は死んでいたでしょうね」


「そんな事ありません。ネーラ様の力を奪ったのはそれが一番手早く倒せるからで、あれでネーラ様が死んでもおかしくありませんでした」


「たとえそうだとしても、私とライトさんが助けられたのは事実です。

それと、これは王国の老騎士としての見解を話します。

アリナさんはあくまで一つの攻撃手段として王都襲撃に組み込まれていました。これはアリナさんから得た魔族側の情報からも分かります。今回の一連の襲撃は綿密に練られ、準備されたものです。もしアリナさんが敵側に居なかったとしても、別の敵が配置され、同様の被害が起きていたでしょう。

アリナさんが撤退した後も王城には再度襲撃があり、スミナさんが王都の敵を一掃してくれなければ王城が陥落していた可能性すらあります。全てに言えるのは我々騎士と王都の防衛が甘く、隙があったという事です。その責任はアリナさんだけにあるとはとても言えません」


 ネーラが断言する。確かにアリナは自分が襲撃の駒の一つでしか無かったと後で思い知らされた。ネーラを出来れば助けたかったのも事実だ。それでも国王に剣を向けたのをそれで済まされていいとは思わなかった。


「大叔母様、ご説明ありがとうございます。

私も防衛対策の甘さは自分の無能さの表れと考えている。二度とこのような事が起こらないように対策を練る必要があると。

それともう一つ、皆に隠していた事がある。これは私と一部の王族しか知らない事だ。

襲撃のあったあの日、玉座に座っていた私は私本人では無かったのだ。ただし、影武者では無く、限りなく私に近い存在だ。

詳しく説明すると、国王のみが使える半日ほど本人の分身を作り出す魔導具が存在する。襲撃が報告された直後、私はそれを使って分身を作り出し、本人は秘密の部屋に隠れていたのだ。

あの分身は完全に瓜二つで、記憶も共有し、簡単な受け答えは本人そのものと変わらない。時間が来ると私の元に戻り、その時にあった記憶は継承される。だから、あの時攻撃されたのは私本人では無いし、あの場で死んでも最悪の事態は避けられたのだ」


 ロギラは衝撃的な事実を打ち明けた。ここまで話したのはこの場に居る者を信用しているという事だろう。


「分身の私を守り死んでいった兵達には申し訳ない事をしたと思っている。しかし、私はまだ死ぬわけにはいかなかった。

この話は勿論この場だけの事で、口外禁止だ。敵から逃げた国王と噂されては恥ずかしいからな」


「ロギラ国王陛下、立派な判断だと思います」


 ネーラはロギラをフォローした。ロギラは若い国王だが国を守りたい気持ちは本物だとアリナも感じるのだった。


「あと、私も皆に伝えたい事があります。

私は名誉女性騎士団長の座を降ります。今回戦ってもう私の時代は終わったと実感しました」


「そんな事ありません。ネーラ様はまだお強いままだと感じます」


「アスイ、ありがとうね。

でも、今回の件で私が出て行っても皆の足を引っ張るだけだと自覚したの。正直魔法で腰を支えるのも限界なのよ。

ただ、騎士は止めるけど口出しはするわよ。貴方達がまだまだ未熟なのは分かっていますからね。

スミナさん、アリナさん」


「「はい」」


 ネーラに呼ばれて2人は返事をする。


「貴方達2人がこれからこの国を、人間を守る要だと思っています。私に代わってこの国を守ってくれますか?」


「はい、勿論です」


「あたしに出来る事なら何でもやります」


 スミナに続いてアリナも答える。正直アリナは今まで国の為に戦うつもりなどまるで無かった。だが、魔族連合に行き、外から王国を見た事で自分がいかに国という枠組みに守られていたのか分かった気がした。家族や家を含む集合体が国なのだと。姉の為に力を使う事が国を守る事に繋がるなら、力を使う事を惜しまないと思った。


「課題は山積みだが、魔族連合の情報を得た今こそデイン王国に回って来たチャンスだと私は考えている。今後も皆の力を合わせ、平和を勝ち取りたいと考えている」


 ロギラがそう言って話し合いは解散となった。アスイとオルトとターンはこの後話し合いがあるのでアリナはスミナと2人でアイル家の屋敷へと戻る事となった。


「お姉ちゃん、あたしの為に色々頑張ってくれたんだよね。ありがとう」


 馬車に乗る為に城の通路を歩きながらアリナが言う。


「大したことはしてないよ。何か生き返ってから道具の記憶を見るのがずっと楽になったんだ。どこをどう見れば見たい情報が得られるか分かるようになったみたいな。

そうだ、ごめんね、アリナの私物の記憶を勝手に覗いて」


「それはいいよ。ホントはお姉ちゃんに隠し事なんかしたく無かったし」


「アリナが大変な思いをしたって分かったよ。それにみんなと戦って苦しかっただろうって。わたしが死んだせいでみんなに苦労させたって改めて思った」


 スミナが苦しそうに言う。


「何言ってんの。お姉ちゃんのおかげでみんな生きてるんだよ。

それよりお姉ちゃんの身に何があったか色々教えてよ」


「うん、家に帰ったら全部話すよ。まずは家族に顔を見せなくっちゃ」


「そうだね」


 アリナは屋敷に戻るのが少しだけ不安だった。色々あったにしろ一度は敵に寝返り、兄を攻撃したのだから。


「大丈夫だよ。みんなアリナの事凄く心配してたんだから。お兄様なんて帰ってきたら何でも言う事を聞くって言ってたし」


「ホント?それは楽しみだな」


 アリナはスミナと一緒なら大丈夫だと安心したのだった。



「アリナお嬢様、無事お帰りになれるそうで何よりです」


 馬車の停車場の近くまで来るとメイルが待っていた。そのまま魔導馬車まで案内すると馬車の中でアリナはメイルに服を着替えさせられ、身嗜みも整えられる。メイドの仕事は離れていたと聞いたが、身に付いた技はそのままのようだ。


「旦那様も奥様もライト様もお屋敷でお待ちですよ」


 メイルが魔導馬車を運転しながら言う。いつの間にか魔宝石マジュエルのエルも人間形態で馬車に乗っていた。アリナは自分の私物も馬車の中で返してもらい、指輪を嵌めてなんか落ち着いた気分になった。


「そうだ、アリナが言ってたデビルの呪闇術カダルを覚える為に使った闇術書ダルブって本は魔導具のアンクレットの中に無かったよ。どこかで返した覚えはある?」


「無い。だとすると、元々あたしが裏切ったら処分されるような術がかかってたんだと思う」


 ダルブがあればカダルを調べるのに役立ったのだろうが、レオラは人間側にダルブが渡らないように細工していたようだ。


「その魔導具のアンクレットはレオラに貰った物だよね。そのまま使うの?」


「お姉ちゃんが調べて問題無かったんでしょ?だったら貰った物は有効活用するよ。お姉ちゃんのベルトほどじゃなくても、あたしも色々出来る事が増えるし」


 アリナは手の中にあるレオラに貰ったアンクレットを見る。嫌な思い出が多いが、それでも魔族連合に居た時の記憶も大事なものに思えた。そしてもう一度あの地へ行くだろうという予感がアリナにはあった。


 魔導馬車は王城を出るとすぐにソードエリアにあるアリナ家の屋敷に到着した。着くとすぐに両親のダグザとハーラと兄のライトが屋敷の玄関まで出迎えに出て来た。先にスミナが馬車を降り、それに続いてアリナが降りた。少しだけ躊躇するアリナの背中を優しくスミナが押し出す。


「お帰り、アリナ。無事に帰って来てくれて本当に嬉しいぞ……」


 ダグザが感極まる。


「本当に無事で良かった。またこうして家族5人が揃うなんて奇跡だわ」


 いつもは強気なハーラも涙ぐんでしまう。


「アリナ、力になれなくて本当に済まなかった。お帰りなさい」


 ライトは優しく微笑む。


「ただいま、パパ、ママ、お兄ちゃん……」


 アリナがそう言うと同時に3人はアリナに近付いて抱き締めた。スミナもそれに加わりアリナを後ろから包み込む。アリナは安堵し、涙が自然と流れていた。魔族連合に連れて行かれた時は強がって家族などどうでもいいと考えたが、やはり自分の本当の家族はここに居るのだと強く感じるのだった。

 メイルとエルは遠慮してくれたのか、久しぶりの家族5人の時間をアリナ達は満喫していた。ハーラの手作りの料理を食べ、下らない雑談をした。アリナに魔族連合に居た時の事を聞いたりせず、王都の被害の話もしなかった。スミナもそういった話題を避けてくれて、まるで学校に入る前のような雰囲気が続いていた。


「ところでその可愛らしい動物は新しいペットなの?」


 少し話し疲れたなと思ったところでハーラが変な指摘をする。アリナはハーラが見ている方を見るといつの間にか小竜姿のホムラが当たり前のようにスミナの上に浮いていた。


「えっと、これは、そう。新しい使い魔のホーリーです。可愛いでしょ」


 スミナは慌ててホムラを捕まえ、何も喋らせないように抱き締める。


「でもまだ躾けてる最中だから部屋に置いてきます」


 スミナは流れるようにホムラを部屋へと連れて行った。


「あたしもちょっと用事を済ませて来る」


 アリナもスミナを追いかけて屋敷の自分達の部屋へと向かった。


「ちょっとホムラ、今までどこに居たの?呼んでも出てこなかったのに突然お父様達の前に現れて」


 スミナが怒り気味に言う。どうやらアリナが牢獄に居た時もホムラは消えたままだったようだ。


「どこに居てどこで出て来ようがわらわの勝手じゃろ。

まあ、わらわも自分の役目があるのでしばらくスミナのベルトの中に身を潜めておっただけじゃ。アリナが戻って来たからわらわもいいタイミングじゃと出て来たのじゃ。

それよりわらわの名前をホーリーなどと勝手に変えるんじゃない。しかも使い魔とはどういう了見じゃ」


「竜神が地上に居るのがバレないようにアスイさん達の前から姿を消したんじゃ無いんですか?だからお父様達にも隠しておいた方がいいかと思ったんです」


「まあ、それは確かにそうじゃな。しかし使い魔扱いは少しな。

じゃが、その方が都合がいいかもしれぬ。スミナ、お主の好きなようにしていいぞ」


「相変わらずよく分からないな、ホムラは。

学校はどうするの?」


 アリナはホムラが学生をしていた事を思い出して聞いてみる。


「あれはあれで楽しかったがもう十分じゃ。知識も運動も魔法もわらわに敵う者はおらぬしな。スミナのそばに居られればそれでいい」


「マスター、ワタシは学生を続けた方がいいでしょうか?」


「うーん、エルもあくまでホムラの付き添いだったし、ホムラが学生を止めるなら続ける意味は無いかな。

それに学校も校舎が壊れて春まで休校みたいだし」


「そんな事になってたんだ。あたしが王都を去ってからの事はちゃんと聞いて無かったから知らなかった」


 アリナは学校にまで被害が及んでいたとは思ってなかった。


「わたしも王都の被害をちゃんと確認する前にアリナのところに行ったからきちんとは知らないの。アリナ、そこら辺の情報を今度一緒に見て回ろう」


「そうだね。手伝える事があるかもしれないしね」


 アリナは前向きに答えた。

 結局ホムラには屋敷に居る間はエルと共になるべく部屋で大人しくしてもらうようにスミナが言いつけた。もし守れないなら一緒には居られないと言ったのでホムラも渋々納得したようだった。


 家族での団欒が一段落し、アリナの調子が戻って来たところでアリナとスミナはお互いの情報交換を始めた。2人の部屋にはエルとホムラもいたが隠し事が意味をなさない2人なので気にせず話し出す。

 アリナの情報はスミナがかなり正確に把握してるのでその補強から始める事にした。投獄されている時にアスイ達に一通り話した内容に漏れは無いし、隠し事もしていない。それでもアリナの感想や不確定な情報は話していなかった。そういった内容をアリナは説明する。例えばディスジェネラルで誰が信用出来て誰が疑わしいとかの話だ。それにデビルのミボが最後に伝えてきた王国の騎士団に内通者がいるという話はアスイ達には言わずにここで初めて喋った。


「あたしはミボは信用出来ないと思う。でも、内通者がいるのは本当な気がする。じゃなくちゃあんな簡単に玉座の間まで襲撃が行えなかったと思うから」


「うーん、難しいところね。別に内通者は騎士団である必要は無いし、わざと混乱させる目的もあるかもしれない。アリナがみんなにこの話をしなかったのは正解ね」


 スミナに褒められアリナは嬉しくなる。


「話した通りエルフや人間には魔族連合に不満がある人はいるし、ドワーフ達や東のヤマトの国みたいな利害の一致で手を組んでる人達もいる。あと魔族やモンスターでもデビルに不満を持ってる人も。

だから、そこら辺を上手く利用すれば魔族連合は崩壊するんじゃないかな?」


「アリナの話を聞く限りだとそうね。でも、多分そんな簡単な話じゃないとも思う。みんなが王国に好意的とは限らないから。

それよりも私が気になるのは黒騎士とその力の方かな。あれは魔導帝国の技術みたいだし、魔王を倒したシャドウと同一人物かどうかで話は変わってくる」


「黒騎士とはあの忌々しい魔導人造超人の事か?」


 口を挟んで来たのは今まで黙って話を聞いていたホムラだった。


「魔導人造超人って言葉は初めて聞く。エルは知ってる?」


「いいえ、ザンネンながらワタシの記憶上にはありません。魔宝石を作成する前段階に魔導超人計画というのはありましたが、上手く行かずに頓挫したと記録にはあります」


「魔導帝国の記録には残っておらんし、一部の者しか知らんじゃろう。

魔導帝国の覇権自体は魔導要塞とグスタフで十分じゃった。だから、それ以降の兵器はあくまで魔導士の趣味で作られた物が多い。

魔導人造超人のコンセプトは魔神ましん神機しんきも転生者をも破壊出来る学習拡張性のある兵器じゃ」


 ホムラが侮蔑するような態度で言う。


「確かに物騒に聞こえるけど、忌々しいって言うほどの物じゃ無くない?どんな兵器も最強を目指して作ってるんだし」


「あれが魔導帝国の純粋な技術だけで作られたのならな。

しかし魔導人造超人は人を元として改造して作られた、人体実験の延長にあるものじゃ。しかもその素体となったのは転生者じゃ。だからあの1体しか作られておらぬ」


 ホムラはスミナに説明する。人体実験と聞いてアリナも確かにいい気分はしなかった。


「じゃああの黒騎士は転生者って事?それなのにあたし達転生者を倒そうとしたの?」


「あれには転生者の頃の自我も記憶も残っておらぬ。肉体も殆どが別のモノに入れ替わっておる。そしてその転生者本人も捕らえられ、本人の意思を無視して改造されたのじゃ。

だが、転生者を素体とした為の弱点もある。寿命じゃ。だから魔導人造超人は周囲に強敵がいる時しか目覚めぬのじゃ。魔王討伐したのもあの黒騎士じゃろう」


「自我が無いならどうしてあんな行動を?」


「作った魔導士が命令を組み込んだのじゃ。自分より強い者を探し出し、それを倒せと。やつは負けても逃げて対策を取って再度戦いを挑んでくる。その為の施設や兵器が地上に点在しておるのじゃ。

だが、魔導帝国が滅び、魔導炉が無くなったのでそれも不完全になったようじゃがな」


 ホムラの話を聞いてアリナは少しだけ黒騎士が可哀想な存在に思えて来た。主人を失ったエルと似たようなものだと。それでも命令を守って戦い続けているのだから。


「ホムラの話は分かったし、あの時戦った黒騎士はその魔導人造超人だと思う。

でも魔王討伐の時はお父様達と協力して戦ったと聞きました。やはり別人なのでは?」


「気になるならスミナが祝福ギフトの力で確認すればいいじゃろ」


「そっか、お父様が会ってるなら何かの道具に記憶が残ってる筈。今度調べてみる」


 黒騎士の話題は一旦それで終わった。

 続いてスミナが自分が死んでどうして生き返ったかを説明する。それはホムラのおかげだと改めて詳しく説明された。それに加えてスミナが死後の世界のような場所でオルトの恋人だったユキアと出会い、会話した事と、そこで知ったオルト達の昔話も全てスミナは話した。

 アリナはスミナが思っていたより凄い事を経験して戻って来たのだと感じた。


「ホムラ、お姉ちゃんを助けてくれてありがとう。勝手に恨んだりしてたけど訂正する」


「感謝されるような事では無いぞ。これはわらわが勝手にやった事だからな。

わらわも少しだけ謝罪しよう。わらわの行動はアリナを追い詰めると分かっておった。アリナの魔族堕ちはわらわの我儘が招いた結果だ。すまぬ」


「それこそお姉ちゃんが生きてた事に比べたら些細な事だよ。まあ、これでお互い恨みっこ無しでいいよ」


 アリナは本当にホムラに感謝していたし、辛い出来事も許せる気持ちになっていた。


「アリナ」


 スミナは突然アリナに抱き付いてきた。よく見るとスミナは涙を流していた。


「どうしたの急に、お姉ちゃん」


「ちゃんと言ってなかったから。ごめんなさい。わたしが死ぬ事でアリナがあんなに苦しむとは思わなかった。アリナに辛い役目を押し付けちゃったって。全部、全部わたしが悪いの……」


「そんな事無いって。あの時お姉ちゃんがあたしを庇おうとしたのはあたしがお姉ちゃんだけ守ろうとしたせいだし。ダルアを使ったのはあたしの判断だし、レオラから接触があったのをずっと黙ってたあたしが悪いんだよ。

ゴメンね、お姉ちゃんの為って思った事が全部裏目に出ちゃった。そのせいでお姉ちゃんにも他の人達にも沢山迷惑かけた。だからお姉ちゃんは何も悪く無いんだよ……」


 アリナはスミナを抱き返しながら涙が溢れてくる。それと同時に感じるスミナの体温にとても安心感を覚えていた。ようやく自分がこの場所に帰って来たのだと思えた。


「そうだよね、どっちが悪いって話をしてもきりが無いよね。わたし達でみんなにちゃんと謝りに行こう」


「うん。こうしてここに居られるのはみんなのおかげなんだよね。パパ達にもちゃんと感謝を言わないとダメだよね」


 ホムラもエルも2人を穏やかに見守っていた。アリナはスミナの隣に戻れた事で色んな事がリセットされたような気分になる。ここから新しい自分の人生が始まるんだとアリナは思うのだった。


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