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25.黒騎士襲来

 アリナ・アイルは王城の地下深くにある牢獄の一室に閉じ込められていた。牢獄といっても普通のベッドと個室の形のトイレもあり、生活するのに厳しいというほどでは無い。周りの部屋も無人で他に掴まってる人も通路に見張りもおらず、むしろ快適とすら思える。ただ、私物は何も無く、服も簡素なものを着ている。それに娯楽のようなものは無く、暇つぶしにと置かれた本があるが今のアリナに読む気は無くただボーっとしていた。


「アリナお嬢様、大丈夫ですか?何か必要なものがあれば何でも言って下さいね」


 いつの間にかメイドのメイルが部屋の前に来ていた。ここに入ってから定期的に顔を出しに来ている。


「メイル、いつもありがと。特に不便して無いし大丈夫だよ」


「アリナお嬢様は正式に罪を課せられたわけでは無いのでお屋敷に戻って来てもいいんですよ」


「いいの。これは自分で決めた事だから」


 アリナはそう言ってメイルに帰ってもらった。


(まあ、あたしのした事を考えたら死刑だっておかしく無いんだ。みんなと無事に帰って来れただけで十分だ)


 アリナは少し前の魔導結界を超えた直後の事を思い出す。



 アリナ達がゲートを抜けて出た先はゲートでも建物の中でも無く、何も無い深夜の雪原だった。


「ここは……」


「マスター、ここは魔導結界の中で王国の領地です」


 戦闘形態の魔宝石マジュエルのエルが周囲を確認して報告する。スミナが地図を広げて確認すると王国の北東の魔導結界に近い何も無い土地だと分かった。敵が居ないのはいいが、荒涼としていてとにかく寒かった。アリナ達は魔法で寒さを和らげ、急いで近くの町を目指す事になった。

 周囲には魔族が使っていた転移の中継地点も無く、魔導馬車のような移動手段も無いので移動速度は上げられない。疲労した身体を休める為にも人が住む町に行くのが最善だろう。


「ミボさんが助けてくれたのは事実だったわね。その事には感謝しないと」


「そうみたいね。何かしらの思惑はあるとあたしは思うけどね」


 アリナはスミナに言う。疑いはしたが、ミアンが嘘をついてないと判定したのは正しかったようだ。


「本当に善意で助けてくれた可能性もあるんじゃ……」


「ソシラ、それは無いよ。魔族が人間に近付く時は騙そうとしてる時だって知ってるでしょ。

ミアンが魔法を使っててあれだけ喋るのはボロが出ないという自信があるからだよ。

ミボってデビルは誰よりも自分が優位に立っていると考えてるんだと思う」


 モンスター好きのソシラの期待をレモネが厳しく否定する。ミアンの場合は聖教会に関しての拒絶で否定していたが、レモネは思ったよりも感情的にミボを否定していた。アリナはそこまでレモネが強く出るとは思わず意外に感じる。レモネの発言でミボの話題は途切れ、寒さと疲労もあったので、その後は自然と会話は少なくなっていた。


 しばらく移動し町の灯りが見えて来た時、アリナは何かの気配を察知した。


「マスター、上空から何かが降ってきます!」


 アリナが感じたのとほぼ同時にエルが警告した。空には流星のような何かが見え、こちらに向かって一直線に落ちて来ていた。アリナ達は臨戦態勢を取る。ただ、アリナは降って来る何かに危険は感じられなかった。それはピンク色に光り輝き、どんどんとこちらに近付いて来る。そのまま地面に衝突すると光は一気に収まった。そしてそこには30センチぐらいの仄かに光る小さい何かが浮いていた。


「戻って来るのに随分時間がかかったようじゃな」


「もしかしてホムラ?」


 スミナが喋る小さな物体に言う。確かにホムラの声に似てる気がするが、少し甲高い気がする。それにホムラにしては小さ過ぎる。


「そうじゃ。皆も久しぶりじゃな。アリナもよく戻って来たな」


「ホントにホムラ?何その姿」


 アリナはまじまじとホムラらしき物体を見る。すると丸かった形が変形し、羽根が生え、尻尾が伸び、長い首から角のある竜の顔が現れた。ただ、前の巨体の竜神の姿に比べると全体がちんまりしていてデフォルメ化されたドラゴンになっている。しかも首と尻尾が伸びても40センチぐらいだった。


「可愛いじゃろ?」


「あの、ホムラはわたし達に手を貸すつもりは無いって言ってませんでしたっけ?地上にも来ないって」


 スミナはホムラが地上に降りて来た事に疑問を持つ。


「ああ、手は貸さんぞ。それにわらわの本体はまだ星界におる。この姿はあくまで地上を見聞きする為の分身のようなものじゃ。戦闘力も無ければわらわの力の殆どは使えぬただのマスコットじゃ」


「竜神様可愛い……」


 久しぶりにソシラがモンスターを愛でる状態になる。


「つまり、ホムラはお姉ちゃんのことを諦めないし、付き纏いを続けるって事?」


「なんじゃその言い方は。わらわはお主らの周りに色々な事が起こるので近くで監視するだけじゃ。

勿論スミナの事は諦めておらぬぞ」


「わたしはホムラには借りがありますし、近くで話が出来るのは嬉しいです」


 スミナはホムラとの別れに思うところがあったようで、素直に喜んでいた。アリナもホムラの事は嫌いじゃ無いが、うるさくなりそうだなとは思うのだった。


 ホムラと合流して町に着くとまさかの人物がアリナ達を待っていた。


「アスイさん!?それにオルト先生も」


「謎の連絡があって、スミナさん達がこの町に来る情報を得たの。嘘か本当か分からないけど、私はそれを信じて見る事にしたのよ。

正解だったみたいね」


 アスイに連絡を入れたのはホムラだろうかとアリナは考える。そのホムラ自身は急に姿を消していた。アスイ達には近くにいる事を知られたく無いのかもしれない。


『アリナさん、何も聞かずに私の言う事に従って下さい。それが一番問題無く話が進む筈です』


『分かった』


 アスイからアリナに直接魔法のメッセージが来たのでアリナは素直に返事する。アリナはこの国にとって重罪人なのでその対応をアスイがするという事だろう。


「アリナさん、お帰りなさい。貴方には色々と聞くべき事があります。

全ての装備を外し、大人しく従って下さい」


「分かりました」


 アリナは魔導鎧の腕輪や収納が出来るアンクレット、それに付け直した左手の中指の指輪も外す。するとアスイに命じられた騎士の1人が魔導具の手枷をアリナに付けた。アリナは歯向かわずに従う。


「アスイさん、何もそこまで―」


「スミナさん、ここはアスイの指示に従うんだ」


 アリナへの対応に意見しようとするスミナをオルトが宥める。アリナはスミナに目配せし、大丈夫だと伝えた。スミナはそれで大人しくなる。既に町の中に護送用の魔導馬車が用意され、アリナはアスイと2人きりで逃げられないよう加工された馬車の方に乗せられた。スミナ達は国王が使うような豪華な魔導馬車に案内される。スミナ達はみなアリナの事を不安そうに見つめていたのだった。


「アスイ先輩、ごめんなさい。酷い事をしました」


「謝らないで。そもそもアリナさんをあの状態にさせたのは私の力不足からだと思ってるの。私は2人に頼り過ぎて、いざという時も役に立てなかった。

まあ、お互い思うところはあるだろうけれど、王都に戻るまでその感情は置いておきましょう。

今の私の役目はアリナさんが魔導結界外で得た情報を記録する事。それによってアリナさんの罪も軽くなると思うわ。隠さず話してくれるわよね?」


「それは問題ないです。ただ、少しだけ休んでからでいいですか?」


「ああ、ごめんなさい。そうよね、色々あって疲れてたわよね。

アリナさんは反逆罪の容疑者ではあるけど、保護した時点で丁重に扱うように言われてるの。だから飲食も休憩も希望を叶えられるわ」


「ありがとうございます」


 アリナは色々話すにしても心も身体も疲れていたので食事と睡眠をとらせてもらう事にした。快適な環境では無いが、今までの事を考えれば十分安心して休めたのだった。

 魔導馬車で移動している最中に陽が昇り、アリナは目を醒ました。アスイは寝たのか分からないが、既に目を醒ましていた。外の景色は雪景色から冬の平原に変わっていて大分南下した事が分かる。


「アスイ先輩、おはようございます。

あとどのぐらいで着きそうですか?」


「まだ出発地点から半分ぐらいで、半日以上はかかるわね。

それで、早速だけど話を聞いてもいい?」


「はい、元気になったので。

じゃあ、あたしにレオラが接触してきたところから話すね」


 アリナは今まで誰にも話して来なかった事をアスイに話し始めた。レオラはアリナの前にだけ現れ、自分の身の上を話して信用を得ようとし、強力な闇術鎧ダルア闇術書ダルブをアリナに与えたと。アリナもそれを拒否する事はせず、誰かに話す事も無かった。アスイに伝える際になるべく簡潔に状況と結果だけを伝え、アリナがその時どう考えていたかなどは伝えなかった。

 結局アリナはレオラの事を最後まで信用出来ず、ダルアやダルブを試したのも異界災害が起こる直前の、スミナが自分より強くなっていくのを感じた時だった。そして確認してみてやはり使うべきでは無いと結論付けたと伝えた。

 アリナがダルアを使う事になったのはアスイも知っている通り、スミナが死んだ後だった。ダルアを使った事でそれがレオラに伝わり、アリナはレオラに魔導結界の外の拠点の一つである砦に連れて行かれたと説明する。

 ここまで話してアリナはアスイが何か言ってくるかと思っていた。しかしアスイは話を深堀したり、質問をしたり、アリナの気持ちを聞いたりはしてこなかった。勿論同情や謝罪も。あくまで聞く事に徹するようだ。


「じゃあここからはあたしが魔族の砦で見た事や知った事を順を追って話すから」


 アリナはそれならそれでさっさと話してしまおうと記憶を辿りながら説明を始める。自慢では無いがアリナは自分が記憶しようと思った事は忘れない性質で、砦の中での出来事はかなり詳細に覚えていた。アリナがその話を始めるとアスイはメモを取って記録をし始める。やはり知りたい情報は魔導結界の外の様子なのだろう。

 アリナは砦の中の状況を説明し、最初は軟禁されていた事を伝える。そしてディスジェネラルの会議に呼ばれて処刑されそうになった事も。アリナはここでディスジェネラルの面々について後に知った情報も含めて知りうる内容を全て語った。アスイはそれを手早く記録していた。

 結局アリナは魔族連合にとって価値があると思われる必要があり、そこから魔族連合で起こっている問題の対応に当たる事になったと説明する。最初に対応したのはエルフの森との交渉の仲介だったのを思い出しつつ話した。そこで第3勢力と思われる黒騎士と戦った事を説明すると初めてアスイが話を止めた。


「アリナさん、少し待って。その黒騎士について詳しく聞きたいわ」


「分かった、あとで見たのも含めて覚えてる事は全部説明する」


 アリナは自分が戦った時の話と、その後獣人が襲われて、黒騎士が使ったと思われる魔導遺跡の事も合わせて話す。それに加え、ディスジェネラルのダブヌに“流浪の黒騎士”では無いかと言われた事も思い出したので説明した。


「シャドウがこんな時に出てくるなんて……」


「シャドウ?アスイ先輩は黒騎士を知ってるの?」


「直接の面識は無いわ。ただ、流浪の黒騎士やシャドウの名で呼ばれた凄腕の騎士が魔王を討伐した人物だと聞いていたの。

でも、シャドウは魔王討伐後に姿を消し、彼のその後の足取りは分かっていなかった。私が王国に仕えるようになった後も彼の力を期待して探し回ってたけど見つからなかった。

アリナさんが強いと感じたならシャドウと同一人物の可能性が高いわ」


 アスイの話にアリナはディスジェネラル達が話していたのと同じ、時間が空き過ぎている事について疑問を感じる。


「魔王が倒されたのって30年ぐらい前の話だよね?似た鎧を着た別人って事は無い?声を聞いた感じでもそんな歳とってそうに思えなかったし。

それに魔族連合も初めて接触したって言ってたし、その消えた数十年は何してたの?」


「私はシャドウがただの人間では無いと思ってるの。王国に残っていた記録を見た範囲でも人間離れしていたし、アリナさんの話で魔導帝国の技術を使っていた事を聞いて、それは確信に近付いたわ。

もしシャドウが再び王国の仲間になってくれたなら魔族連合に支配された外の世界も救えるかもしれない」


「あたしはそんな仲間になってくれそうな感じも、戦力として魔族連合と匹敵する感じもしなかったけどなあ」


 アリナはあくまで自分の感想を述べた。

 アリナは再び話の続きを始める。エルフの森の問題を解決した後、砦に戻って少しだけ信頼を得たアリナは次の指示を受けた話をする。そして今度はドワーフの工房へと向かう事になり、アリナとドワーフの王ゴンボが飛行機械で危うく事故になりかけた話をする。そこまで話してアリナは何か危険を感じた。


「アスイ先輩、馬車を止めて!!何か前に居る!!」


 アリナは魔導馬車の進行方向上に巨大な危険を察知してアスイに伝える。アスイはアリナの能力を信用し、馬車を運転している騎士に伝えに行こうとした。


「遅かった、防御して!!」


 敵と思われる存在からの攻撃を察知したアリナは叫んだ。次の瞬間、魔導馬車は衝撃を受け吹っ飛ぶ。中に居たアリナとアスイは回転する魔導馬車の中で衝撃を受けないように対処する。アリナは魔力をゼリーのような緩衝材に変えて身体を包み込み、アスイは魔導馬車に魔法で身体を固定させた。最終的に魔導馬車は横倒しになった状態で止まり、アスイが上向きの扉を開けて外に出て、アリナもそれに続いた。馬車の運転手は動けないようで出てこない。スミナ達が乗った魔導馬車はアスイの魔導馬車が攻撃されたのを見て少し遠くに停車していた。


「何者ですか?」


「アスイ先輩、あれが例の黒騎士だよ!!」


 魔導馬車の本来の進行方向上に複数の黒い姿の集団が見え、その真ん中に居るのが全身黒い鎧に身を包んだ黒騎士だとアリナは確認する。察知した危険度の高さも以前会った時とほぼ同じで別人だとは思えない。気になるのはなぜ魔導結界の中に黒騎士がいるのかだった。


「!!」


 アリナは複数の敵が光弾を撃って来たので回避する。攻撃は黒騎士からでは無く、周囲に居る黒騎士の部下と思われる敵から放たれていた。ただ、以前は人間の兵士のように振る舞っていた黒い鎧の兵士は今は身体が変形し、四つん這いになってトカゲのような姿勢をして頭から光弾を撃っていた。完全に機械である事を隠していないようだ。

 アスイは敵の攻撃を軽々と避けたが、横にある魔導馬車は光弾によって炎上してしまった。これでは中の騎士も助からないかもしれない。


「攻撃を止めて下さい。

貴方は以前魔王討伐に参加したシャドウさんですよね?私達が戦う必要があるとは思えません」


 アスイが一歩前に出てシールドを張って光弾を止めつつ言う。すると黒騎士が手で部下に指示を出して攻撃を止めた。


「ワタシはシャドウという名などでは無い。過去に関わりがあったとしても関係無い。ダレにもワタシを止める権利など無い」


「ですが、少しだけ話を聞いて下さい。貴方は魔族連合と戦っていたと聞きました。でしたら、私達の目的は同じという事です。手を組むとまではいかなくても、お互いの利を考えて争いを避ける事は出来る筈です」


 アスイは必至に説得しようとした。


「ザンネンだがワタシは誰と手を組む事も、協力する事も無い。そもそもワタシの目的はキサマ達なのだよ」


「アスイさん、何があったんですか?」


 黒騎士とアスイが会話しているところにスミナ達もやってくる。全員が戦闘態勢で、アスイも魔導鎧を着ているのでここで無防備なのは手錠をかけられて私服しか着ていないアリナだけだった。


「お姉ちゃん、こいつが少しだけ話した黒騎士だよ」


「転生者、アスイ・ノルナにスミナ・アイルとアリナ・アイル。それに加えて魔宝石マジュエルの完全体と聖女と特別な魔導鎧を持ったモノ達が集っているな。

間違いなく、ここがインガの中心点だ」


「因果?何を言ってるの?」


 スミナが黒騎士に質問する。


「ワタシは強いモノを倒す。それだけだ。

話は終わりにする」


 黒騎士はそう言うとアスイに斬りかかった。アスイは祝福ギフトの行動予測があるので黒騎士の高速の攻撃を軽々と避ける。それと同時に黒騎士の部下の兵士達も再び射撃を再開するのだった。


「みんな、あの兵士は連携して行動するから気を付けて!!」


 アリナは以前戦った経験からみんなにアドバイスを出す。


「しょうがないですね」


 アスイは話が通じない相手だと割り切り、剣で黒騎士と戦い始めた。アスイと黒騎士はお互い一進一退の攻防をし、他の人が割り込めそうにない。なのでスミナ達は黒い姿の兵士達と戦い始めていた。アリナは手錠をされた身なので戦闘に加われない。もう一つの魔導馬車に乗っていたオルトや騎士達は魔導馬車を守るのと炎上した魔導馬車の騎士の救助に徹して戦闘には参加しなかった。


(見てるだけでいいのかな)


 アリナは黒騎士と戦った経験があり、ある程度相手の動きが読めていた。ダルアを失った今のアリナでも黒騎士と戦うぐらいの力はある。現状アスイが黒騎士を押していたが、アリナが加われば一気に形勢は傾くだろう。

 スミナ達は兵士達を少しずつ破壊していたが、再生能力が高く、連携して防御するので予想以上に手間取っていた。兵士達の動きはエルフと戦っていた時より確実に強く、人間離れした動きをしている。これが本来の戦い方なのだろう。


「はっ!」


 アスイが気合を入れて切り込み、黒騎士の剣が弾かれて宙へと飛んで行った。やはりアスイは強く、経験も豊富で、黒騎士の強さを上回っていた。スミナ達も優勢であり、アリナの出番は無さそうだと感じていた。


「やはり転生者相手に生半可な攻撃は効きませんか。では、次の段階に移りましょう」


 黒騎士は性別不明な魔導鎧を通した声で言う。するとスミナ達と戦っていた兵士達の一部が黒騎士の方へと走って行った。スミナ達はそれを止めようとしたが、他の兵士達が身を挺してそれを邪魔する。アスイも黒騎士が何かしようとしてる事に気付いて動いたが、それは黒騎士が投げた短剣によって止められる。

 黒騎士の近くに来た兵士達は近くに来た途端に糸が切れた人形のように地面に倒れ、更に手足などがバラバラになった。バラバラになった手足やボディは更に細かく分解され、兵士が魔導帝国のガーディアンに近い存在である事がよく分かった。黒騎士がそれらをどうするかアリナが観察していると、分解されたパーツは黒騎士に吸い寄せられ、黒騎士の右手を中心に次々と合体していく。みるみる内に黒騎士の姿が一回り大きくなり、特に右腕が巨大な鉤爪のような形状になっていた。


(ヤバい、かなり強化されてる!!)


 アリナは黒騎士の危険度が今までの比でない程高くなっているのに気付いた。黒騎士は一気にアスイへと鉤爪を振り上げ襲い掛かった。アスイはそれを回避しようとしたが、鉤爪の周りから無数の鋭利な糸が飛び出す。アリナは緊急事態だと手錠を破壊し、アスイの周りに魔力で壁を作りだして糸を防ごうとした。壁は糸によって簡単に切断されたがそのわずかな時間にアスイは退避する事が出来た。


「アリナさん助かったわ」


「かなり強化されてる。あたしも戦う。

スミナ、手強いからこっちに」


「分かった」


 アリナは魔力を物質化した自作の鎧を身に着け、剣も魔力で作り出す。スミナもアリナ達の方に来て、強化された黒騎士に転生者3人が対峙する形になった。


「行くわよ!!」


 アスイが号令を出して3人で一気に黒騎士に攻撃を仕掛ける。アスイは中央から斬りかかり、アリナは左から攻撃を避けつつ敵の隙に物質化した刃を複数飛ばし、スミナは右からレーヴァテインで足を斬り付けた。黒騎士はアスイの攻撃を全力で受け、アリナの攻撃はそのまま受け入れ、スミナの攻撃は斬られないように足の分厚い脛あてで受け止めた。

 黒騎士は今度は自分の番と反撃を仕掛ける。アリナから飛ばされた刃を跳ね返し、アスイには刃の鞭と化した左腕を振るい、スミナには蹴りを繰り出した。しかしアリナ達3人はそれを見切って避けきる。


(行ける!!)


 アリナは神機しんきやダルアが無くとも自分とスミナが強くなり、アスイと力を合わせる事で黒騎士を上回っていると実感した。それに加えてアリナがスミナやアスイと戦った事でお互いの力量を把握出来たのも大きい。スミナとは勿論だがアスイとも息を合わせて戦う事が出来るようになったのだ。

 黒騎士の攻撃は強力だが危険察知が出来るアリナと行動予測が出来るアスイにとっては回避が可能だった。それに加え、強力な攻撃が行えるスミナが隙を突く事で黒騎士の鎧はどんどん傷付いていく。


「流石に転生者3人相手に今の装備ではムリなようだな」


「貴方は危険です。逃がしはしません!!」


 黒騎士が撤退する気配をさせたのでアスイが攻撃してトドメを刺そうとする。アリナとスミナも協力しようとしたが、アリナは急な危険を感じて動きを止める。危険を感じたのはメイル達が兵士と戦ってる方だ。急に兵士達個々の危険度が増したのだ。


(自爆させる気だ!!)


 アリナは黒騎士が状況を変える為に部下を自爆させるのだと気付く。


「エル、ミアン、そいつら自爆する気だ!!みんなを守って!!」


 アリナはそう叫びつつメイル達の方へ援護へと向かう。スミナもアリナの意図に気付いてアリナの後を追った。アスイだけはチャンスを逃さねないと黒騎士を追い詰める。

 メイル達が敵と離れてエルとミアンが強力なシールドを張ったのを見て、アリナは兵士の周りに何重もの壁を作りだす。それに加えてスミナも何か爆発を抑える効果があるだろう魔導具をその周りに展開した。それと同時に兵士達が爆発し、アリナが作った壁が全て破壊された。その周りのスミナの魔導具の効果で爆発の威力が弱まる。それでも周囲には突風が吹き荒れ、アリナとスミナは地面に伏せて魔法で飛んで来る破片を防いだ。ミアンとエルのシールドは流石に強固でメイル達全員を守る事が出来た。

 辺りは爆発で煙り、周囲が見えにくくなる。アリナは安全を確認してアスイと黒騎士の方を見ると既に黒騎士の姿は無かった。


「ごめんなさい、逃げられました」


「いいんじゃない、みんな無事だし、敵の兵士も減らせたし」


 アリナは炎上した馬車に乗っていた騎士がオルト達に救助されて生きていたのを見てそう言った。


 魔導馬車が1台になった事でアリナの護送はうやむやになり、手錠を勝手に外した事も皆を守った事で問題無しとされた。アリナへの聞き取りも馬車を失った事で中断し、アリナ達はとにかく安全に王都に戻る事が目的となった。


 ただ、その後は特に大きな問題も無く魔導馬車は王都へ辿り着き、皆一安心する。馬車は王都に入ってから止まる事無く、そのまま王城へと入っていった。王城の門を通る時に身体検査などされるかとアリナは思ったが、それも無く一度止まっただけでスムーズに王城の堀の中の馬車を止める停車場まで進む。ただ、そこから馬車は更に城の奥の通路に入っていく。警戒もされないが、歓迎もされず、アリナ達の帰還は一般的には極秘扱いのようだ。

 魔導馬車は最終的に城の奥の方にある知られていない通路で止まった。出迎えに現れたのは王国騎士団長であるターンとアスイの部下である特殊技能官のナナルの2人だけだ。アスイとオルトが先に馬車を出て、その後にアリナ達が馬車から降りていく。


「アスイ、オルトお迎えご苦労だった。詳細は聞いてる。その話はまた後にしよう。

スミナさんに他の方々も無事に任務を達成出来たようで本当に良かった。

そしてアリナさん、貴方には色々と聞きたい事がある。アスイから話は聞いてると思うが、それとは別に取り調べをさせてもらう必要がある。すまないがしばらく城に留まってもらう必要がある」


 ターンが一気に言う。アリナは覚悟出来ていたので逆らう気は無かった。


「いいですよ。あたしも疑われて当然だと思ってるので」


「ターン、牢に入れたりはしないだろうな?」


「勿論だ。我々はアリナさんを犯罪者として扱うつもりは無い」


 オルトが確認するとターンはすぐに答えた。だが、アリナはそれはそれで嫌な気がした。


「いや、それも変じゃない?

容疑者なのは変らないし、あたしは牢に入るよ」


「アリナさん、何もそこまで」


「例え操られてたとしても、あたしが国王様に攻撃した事実は変わらない。

あたしも自分が正常か分かるまでは牢に居た方がいい気がする」


「わたしもアリナの意見に賛成です。まだ何かアリナの私物に仕掛けられてる可能性もありますし、アリナの安全の為にも一度牢に入って貰った方がいいと思います。勿論生活出来る環境は整えてですが」


 スミナがアリナのフォローをしてくれる。スミナにそこまで言われて反対を言う者はいなかった。アリナはやっぱりスミナは凄いなと少し誇りに思った。


 こうしてアリナは牢獄での生活をし、身体検査や持ち物の確認などが行われたのだった。

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