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22.空前絶後の姉妹喧嘩

 アリナ・アイルは獣人の王グラガフとサムライの王マサズと共に明るい日差しの下を歩いていた。住人の殺害を依頼された翌日、グラガフが約束通りアリナを迎えに来たのだ。魔法のゲートをくぐった先でマサズと合流し、さらにいくつかのゲートをくぐって目的地である村の近くのゲートから出て村へ向かっているところである。


「余計な事を考えずに使命を果たせ。行動は全て記録されてるでござる」


 グラガフが先導した後ろでマサズがアリナに寄って来て小声で言った。彼なりの配慮なのだろう。


「分かってる、覚悟は出来てるよ」


 アリナは闇術鎧ダルアで顔まで隠した状態で答える。本当は覚悟など出来ていない。逃げ出したい気分だが、グラガフとマサズの他にもマサズの言う通り監視されているだろう。もしアリナが命令を拒否した時の対応も出来てると考えるのが妥当だ。アリナの味方をしてくれそうな他のディスジェネラルもみな余計な行動が取れないようになってるだろう。


(ダルア無しでどれだけ戦えるかな)


 今のアリナの力の殆どはダルアによるものだ。ダルアの最終的な支配権をデビルの転生者レオラが持っている以上、逃げる際にダルアを使う事は出来ない。それに最近はずっとダルアを身に付けて戦っているので素の自分の力量がいまいち実感出来なかった。

 結局ダルアは強力な武器であると同時に今のアリナを縛る鎖になっているのだ。ダルアを脱いで逃げ出すのは裸で放り出されるようなものだとアリナは思ってしまう。


(覚悟を決めるしかない)


 アリナは余計な考えを頭から消し去る。目の前には以前女性型のデビルのミボに連れて来られた町と似た感じの村が見えてきた。人間のディスジェネラルであるシホンが復興してる村なので場所的にも近いのだろう。人々は必至に農作業をして働いている。だが、グラガフを中心とした異様な集団が来たのでみな動きを止めた。


「これはこれは、グラガフ様ではありませんか。このような場所に起こし頂けるとは。

ただいまシホン様はこちらにおられません」


「いや、オレ達はシホンに会いに来たんじゃねえ。

村人を1人残らず全員ここに集めろ。今すぐにだ!!」


「分かりました。

みんな、呼んで来てくれ!!」


 グラガフの元にやって来た、村長と思われる老人はグラガフに言われるとすぐに村人を集めさせる。慣れているのか、次々と村人がこちらに集まってきた。威圧的なグラガフは勿論のこと、ダルアを着たアリナも、鬼の面を付けたマサズも禍々しい恰好なので村人たちは3人を見て怯えていた。


「村人は子供も含めて全員集めました」


「いいだろう。では、村人を半分に分けろ。基準は仕事が出来る者と出来ない者とでだ。

ただし、若い女性と将来性のある子供は仕事が出来る者の方に入れろ」


「それはどういった理由ででしょうか?」


「質問するな!!オマエらは黙って言う事を聞けばいい」


 グラガフは口答えさせず、ガズに命じられたのであろう手順で進めていく。村人を半数に減らすなら確かに働き手を残すのは正しいのだろう。しかし、仕事が出来ない者の方に分けられて行くのが老人や病人なのを見ているとアリナの気分は落ち込んでいく。村人全体を見ると元々若い男性は少なかったのが分かる。戦える男性は反乱を起こさないように下っ端の兵士として戦場に送られていると聞いた事をアリナは思いだす。


「グラガフ様、丁度半数に分かれるようにしました。右側が仕事が出来ない者になります」


「村長、オマエはまとめ役だ、左に行け。代わりにそこの痩せ細ったガキ、オマエは右だ」


 グラガフは子供の中で病弱そうな女の子を右側へ移させる。右側は老人や病人などの、まさに弱者の集まりだった。


「アリナ、あとはオマエの仕事だ。ここでやってもいいし、どこかへ連れて行ってからでもいいぞ」


「いい、ここでやる。左側の者達は邪魔にならないように離れなさい」


 アリナはここまで来てしまった以上、覚悟を決める。ゆっくり遠ざかる半数の村人を剣を出して威嚇して早足にさせた。


「待って下さい。そんな話は聞いておりません。この村の者は大丈夫だとシホン様に言われております」


「喋らないで」


 アリナは走り寄って来た村長を魔法で動きを止め黙らせる。そしてアリナは残った村人達の方へと近寄る。村人達は恐怖の表情でアリナを見つめ、肩を寄せ合って震えていた。逃げたら殺されるのを分かっているのか、逃げる者はいない。


『ワレノチカラガヒツヨウカ?』


 アリナの脳裏に不気味な声が聞こえてくる。以前も聞こえたダルアの声だ。その声は不気味なのに甘く感じ、全てを委ねてしまえば上手く行く気がしてくる。それと同時に頭がボーっとしてきた。


(駄目だ、お前の出番じゃない!!)


 アリナは声を頭から追い出した。すると意識が再びはっきりとする。


(あたし、やるよ)


 アリナは覚悟を決めた。グラガフとマサズが見ている以上、躊躇していると思われたくない。やるなら一気に跡形も無く消し去るのがいい。アリナはそう考え、魔力で巨大な質量の物体を村人達の頭上に作り出した。


「うわーーーっ!!」

「キャー!!」

「お願い助けて……」

「頼む、やめてくれ!!」


 殺される村人達と見ている村人達が阿鼻叫喚の声を上げる。時間をかければ自分が耐えられない。そうアリナは考え、一気に巨大な物体を村人達へと落下させた。


「えっ!?なんで?」


 しかしアリナの物体は輝くシールドに弾かれ、村人達は無事だった。そこで初めてアリナは自分達以外の人達が隠れていた事に気付く。いつものアリナならもっと早く気付いたが、焦っていたので今になるまで気付かなかったのだ。


「間に合って良かった」


 その声はアリナがよく知っている声で、ずっと聞きたかった声だった。


「何奴でござるか!?」


 マサズが異変に気付いて刀を構えてアリナのそばに来る。グラガフは既に誰もいない空間を睨んでいた。

 動かなくなった村長のそばの空間が歪み、そこに5人の人間の姿が現れた。2人は王城でグラガフも見かけたアリナの同級生のレモネとソシラだ。2人とも王城の時と同じく魔導鎧を着て斧と鎌を持っている。1人は見た事の無い聖教会の物と思われる

白と青の魔導鎧を着た聖女のミアンだった。もう1人、見た事の無い緑色の魔導鎧で全身を覆い、顔も目の部分以外隠れている女性がいた。アリナはその女性がメイドのメイルである事に気付く。そして最後の1人はアリナが持っている魔導鎧と対になった青い魔導鎧を着た姉である転生者スミナだった。


「皆さん、安全な場所まで逃げて下さい」


「あなた達は?こんな事をしたら大変な事になるのでは?」


「大丈夫です、私達を信じて下さい」


 ミアンが魔法を解かれた村長と話す。村人達は言われた通り急いで逃げて行く。


「アリナ、知ってるヤツラだよな。どうするんだ?」


「あたしはスミナと一対一で話す必要がある。グラガフとマサズは邪魔させないように他の子達をお願い」


「オレはソルデューヌみたいに手加減しないぞ」


「いいよ、それで。

マサズもいい?」


「――承知したでござる」


 アリナはレオラに言った通り、スミナを説得してみる事にする。その為には外野がいては問題だ。


「スミナ、1人でこっちに来い」


 アリナは強い口調でスミナに告げて、空を飛んで離れた場所へと向かう。


「スミナお嬢様、いいんですか?」


「アリナの事はわたしに任せて。みんなはここをお願い」


「「了解」」


 スミナはメイルに言うとアリナの後を追った。



(お姉ちゃん怒ってるかな……)


 アリナは移動しながら直前の自分の行動を思い出し不安になっていた。タイミング的には助かったのだが、状況的には最悪である。しかし、いつの間にこんなところまで来ていたのか不思議でならない。スミナの位置が分かる指輪で強化された双子の能力でも今になるまで近くにいる事が分からなかった。色々考えてみたいが、スミナなら、と考えるとアリナは何となく納得してしまう。姉なら自分が出来ない事を今までも何度もやって来たからだ。

 アリナは周囲に誰もおらず、村に居た人達からも見えない場所まで移動したので止まって岩の多い丘の上に降りる。付いてきたスミナもアリナと5メートルぐらい離れた場所に降り立った。


(弱気じゃダメだ。ここであたしがお姉ちゃんを説得してこちら側に誘うんだから)


 アリナは気合を入れ直し、兜を全部外して素顔を晒した。


「お姉ちゃん、生きてて良かった。あたし、お姉ちゃんが死んで、この世の終わりみたいな気分だったんだよ」


「アリナ、ごめんね。辛い思いをさせて。でも、もう大丈夫だから」


 スミナはいつもと同じ優しい笑顔で微笑む。偽物じゃない、本物の姉だとアリナは実感する。


「お姉ちゃん、お願いがあるの。あたしと一緒に魔族連合側に来て。

ここには良い人もいて、みんな頑張って生きてるの。魔族連合の望みはアスイ先輩と王族の命だけ。それさえ無くなれば王国の人間も助かって戦争も終わるの」


「アリナは本気でそんな事信じて無いよね。立場上それを信じないとやっていけなくなっただけ。

さっきも命じられて村の人達を殺そうとしたんだよね。王国と魔族の言ってる事のどちらが正しいか分かってるでしょ」


 スミナは正論で答える。アリナは勿論反論は出来ない。


「分かってる……。

でも、ここの人間や亜人達だって大変な状況で、助けを求めてる。魔族連合に居ればそれを内側から救う事が出来ると思う」


「弱者を犠牲にして?わたしは魔族がそんなに甘いとは思えない。アリナは今までだっていいように利用されてきただけ。勿論詳しくは知らないけど、王都での話を聞くだけでも望んで行動してなかったでしょ」


 アリナはスミナと話していて、自分が話し合いでは絶対勝てないと理解した。それと同時に自分の悩みも知らずにヒーローの立ち位置に居て正論を振りかざす姉に苛立ちを感じ始めていた。


「なんで戻って来たの?しかも戻って来るなり王都を救ったんでしょ?ズルいよ、お姉ちゃんばっかり。

あたしがどんな思いでここに居るかなんて分からないんでしょ」


「聞いたよ、わたしが死んだ後、アリナがみんなを助けてくれたって。本当は魔族の力を使いたく無かったけどみんなの為に使ってくれて、その代償で魔族に付いたんでしょ。

でも、アリナはこっちでも上手くやってたみたいだし凄いよ。獣人と侍みたいな人はアリナの事を短期間で信用してるみたいだし、やっぱりアリナだなって」


 スミナの言葉を聞いてアリナは泣きそうになってしまう。やはり自分の事を分かってくれるのはスミナだけなんだと。ただ、アリナの中にはこのままスミナの言葉を聞いてはダメだと思う気持ちがあった。スミナが正しくてアリナが間違っている、といういつもの事実が確定してしまうからだ。


(お姉ちゃんの言葉に流されちゃダメだ!!)


 今までのアリナだったら流されてすぐに姉に謝ってしまっただろう。ただ、この数週間の孤独がアリナを強くし、姉に負けたくないという気持ちが育っていた。


「あいつ等は仲間じゃないし、向こうも利害関係で関わってるだけだよ。

あたしはもうお姉ちゃんの言葉に騙されない。あたしの事分かった振りしてるだけで、本当は分かってないって知ってる。

こうしようよ。戦って勝ったら相手の言う事を聞く。あたしが勝ったらお姉ちゃんは魔族連合に来る。お姉ちゃんが勝ったらあたしの事は好きにしていい。どう?」


「いいよ。アリナの我儘には慣れてるから」


 スミナはあっさりとアリナの提案を受け入れた。アリナは反論されると思ったので少し驚いていた。だが、スミナが乗ってくれた以上、アリナは本気で行くしかない。戦いでなら自分にだって勝機はあるとアリナは思っている。


「手加減しないからね。死なないように気を付けて」


「分かってる。わたしは負けるつもりは無いから」


 アリナは再び兜を被り、顔部分にも表情が見えないようにマスクを付けた。スミナは魔導具の剣のレーヴァテインを構えた。しかし魔導鎧を強力な神機しんきに変えたりしなかった。アリナはスミナの真意は分からないが、それならそれでいいと余計な事は考えない事にした。


「行くよ!!」


「こっちも本気で行くわ」


 アリナとスミナの本気の戦いの火蓋が切られたのだった。



「このグラガフという獣人は見た事あります。オルトさんと互角で戦ってた手強い相手です」


「では3人は獣人の相手をお願いします。私はこの剣士の相手をします。剣士相手なら私1人でも大丈夫なので」


「メイルさん、ミアンは全員の援護します」


 アリナとスミナが飛び去った後、残された4人は役割分担を決める。メイルはレモネとソシラへの負担が大きいとは思うが、オルトと互角だった相手とやり合うのは難しいと即座に判断する。それに東の国の剣士らしい男は異様な雰囲気でいきなりレモネ達と戦わせるのは危険な気がしたのだ。


「マサズ、向こうはオマエの相手は1人で十分だと。それでいいのか?」


「それがしは構わんでござる」


「一瞬で終わっちまいそうだが、まあしょうがないな」


 グラガフは相手が決めた通りレモネとソシラの方へと向かって行く。マサズと呼ばれた剣士はメイルを睨んだまま動かない。この男が人間だろうとメイルは自分がどうにかしないと、と思っていた。


(お嬢様達の為にも早く終わらせないと)


 メイルは先手必勝と両手の短剣をマサズへ向かって投げた。短剣は加速され、高速でマサズの首と太ももの鎧が薄い部分を正確に狙う。瞬時で避けるのも、魔法で防ぐのも難しい速度だ。刀で防ぐとしても出来て片方だろうとメイルは思っていた。が、『キンッキンッ!』という金属音と共に2本の短剣は刀で弾かれていた。オルトの剣技でもそんな事は不可能だろうと思った事をこのマサズはこなしている。


「つまらぬ……」


 マサズがそう言うと共にその姿が消え、メイルは一気に間合いを詰められる。メイルがマサズの居合を避けられたのは先にミアンが魔法で感覚を強化してくれたからだった。メイルは飛び去って何とか態勢を立て直す。それと同時に短剣をワイヤーで手元に戻し、マサズに斬りかかった。しかしマサズはメイルの攻撃を軽く弾いた。そして次の瞬間には刀が振り下ろされ、メイルは距離を取って逃げるしかない。


(オルト師匠と本気で試合した時を思い出すわ……)


 メイルは冷や汗が止まらない。オルトの攻撃も速いが、どこから攻撃が来るか直前には分かっていた。オルトはそれを避けられても手数で相手を追い詰める戦い方をする。しかしマサズの攻撃は1撃必殺で、その攻撃の方向がまるで見えない。ミアンの魔法と新しい魔導鎧が無ければ絶対に避けられなかった。そしてどこから来るか分からないので剣で防ぐのは不可能だ。

 メイルは明らかな力量差を感じ、どうすれば倒せるかを必死に考える。逃げる手段はあるが、レモネ達がいる以上逃げるという選択肢は無い。しかし、マサズは突然刀の構えを解いて、出ていた殺気も消していた。メイルは警戒しながらも相手の出方を見る事にする。


「その身のこなし、お主もしやヤマトの国出身のシノビでござるか?」


「ヤマトの国のシノビ?

いいえ、私はデイン王国のアイル家に使えるメイドです」


「それがしの勘違いでござったか。しかしその鎧はどう見てもヤマトの国で作られた物。どこで手に入れたのでござるか?」


「それは私も知りません。お嬢様が縁のある人からもらった物だとは聞いています。

それより、戦う気は無いという事ですか?」


 メイルはマサズの質問の意図は分からないが、戦わないで済むならそれに越した事は無いと考える。


「いやいや、こんな強敵に出会えてそれがしは打ち震えているのだ。

ここからは本気で行かせてもらうでござる」


 マサズの殺気が復活し、再び攻撃が来る。しかも先ほどよりも速い。メイルはここで最終手段にしておきたかった、魔導鎧の分身の力を使わざるえなかった。


「むむっ、シノビの技か!?」


 マサズは5人に増えたメイルに対して端から斬りかかっていく。メイルは分身を斬ったところを背後に回って短剣で斬り付けた。マサズはそれに気付いて身体を捻り、短剣は浅くマサズの身体を傷付けただけだった。


「素晴らしい。それがしの身体に剣で傷を付けたのはお主で3人目でござる」


 マサズは嬉しそうに言う。戦いを楽しんでいるタイプでメイルはこういう人種が嫌いだった。そしてマサズの傷はみるみる内に治っていく。ただの人間でも無いという事だ。


「さあ、お主の技をもっと見せるでござる」


 マサズはメイルに対して猛攻を始めるのだった。



「あのオルトとかいう騎士は来てないのか?」


「貴方の相手は私達で十分です」


「オレはソルデューヌみたいに手を抜く気は無いぞ。オマエらがアリナの友人だろうと、仕事なら始末するだけだ」


 グラガフが見た目にそぐわぬ速度でレモネに襲い掛かる。レモネはそれをギリギリのところで回避した。ミアンの魔法で身体能力が上がっているのとソシラが横から攻撃して少し軌道が逸れたおかげだ。レモネが直前まで居た場所の地面はグラガフの篭手に付いた巨大な爪によって大きく抉れていた。獣人の身体能力は高いと聞いていたが着ている禍々しい鎧がそれを増幅しているように感じる。


(怖いけど私達が何とかしないと)


 レモネはスミナ達の助けにならねばと自分に喝を入れる。とはいえオルトが苦戦した相手に自分とソシラでどうにか出来るとは思えない。だが、横で戦っているメイルの相手も凄い速度で攻撃していて自分だけが大変な訳では無いと改めて感じる。


(ここにはミアンさんもいるし恐れていちゃ駄目だ)


「ウォオオオッ!!」


「!?」


 突然凄まじい獣の雄叫びが聞こえ、レモネは次の瞬間頭が真っ白になる。


「危ない!!」


 レモネはソシラに抱えられて猛スピードで移動していた。レモネが居た場所には空から金色の槍が何本も降り注いでいた。レモネは相手が獣人だと思い、魔法や飛び道具の対応まで考えていなかったのだ。


「ごめん、助かったソシラ」


「まだ来る!」


 ソシラの着地点を狙った攻撃をグラガフが行い、レモネとソシラは左右に分かれてそれを回避した。


「そっちの背の高い方が瞬間移動して厄介だな。だが、攻撃は2人とも単調で大した事無いな」


「油断してただけです」


 レモネはグラガフの言い方に少し頭に来た。そしてレモネは自分達が有利な点を見つける。


「ソシラ、私に合わせて」


「分かった……」


 レモネは魔導具の斧を巨大化させて攻撃に転じる。グラガフは突っ込んでくるレモネを悠々と避け、反対に攻撃をしようとした。


「今!!」


 レモネの合図に合わせてソシラはレモネ達の頭上に移動して鎌を振り下ろす。だが、グラガフはそれも予想して攻撃を取りやめて回避した。レモネは地面に斧を振り下ろすと斧を軸にして回転してグラガフに蹴りを繰り出した。グラガフもそれは予想出来なかったようで回避が間に合わずレモネの渾身の蹴りを受けて吹き飛んだ。レモネの祝福ギフトが力を増幅させるので小柄な見た目とは思えないパワーを発揮した結果だ。グラガフは地面を抉りながら体制を立て直してレモネを睨む。


「ほお、そんな技も使えるのか。

撤回するよ、オマエらそこそこ強いな。だが、オレはもっと上だ!!」


 グラガフは怒りの雄叫びを上げる。すると巨大な肉体が更に大きくなり、金色のオーラが全身から湧き上がった。レモネとソシラは顔を見合わせて相手に負けないよう気力を振り絞るのだった。



(どうして攻撃が当たらないの!!)


 スミナとの決闘を開始して数分後、アリナは苛立ちを隠せなくなっていた。最初は神機を温存したスミナに対して少しだけ手加減して攻撃するつもりだった。ダルアを身に着けたアリナとの力量差は確実だったからだ。しかし、アリナの攻撃は一向に当たらず、逆にスミナからの攻撃はかする程度ではあるが、何度も当てられていた。アリナは力の温存は別として、本気でスミナと戦うようになっていた。


(危険もそれほど察知しないし、今までのお姉ちゃんとそこまで動きに差があるわけでも無いのに)


 アリナはなるべく冷静になるように心掛け、スミナを観察する。戦い方が今までと大きく変わってもいないし、別人が入れ替わってる訳でも無い。魔力もスピードもアリナの方が上で、今はパワーもアリナは上回っている。スミナの攻撃は見えるし、神機などの特別な武器を使って来てるわけでも無い。

 あえて違う点を挙げるとしたら、アリナの強力な攻撃に対して、魔道具を駆使して避けたり防いだりしている事だ。だが、それらもスミナの道具を使う祝福を考えれば今まで通りの動きではある。


(こっちの行動を予測されてて、まるでアスイ先輩と戦ってるみたい)


 以前アスイと戦った時、アリナの攻撃は次々と防がれた。それを踏まえてこの間の王城での戦いでは手数と速度で圧倒してアスイに勝つ事が出来たのだ。それと同じ事をしてるわけでは無いが、アリナは以前のアスイとの戦いのようにスミナを追い詰める事が出来ない。むしろ隙を突いて反撃されるぐらいだ。神機も無しにそこまで出来るのはこの短期間にスミナも新たな技を身に着けたとしか思えなかった。


(ダメだ、相手のペースに乗せられてる。今のあたしならもっと出来る筈!!)


 アリナは焦る気持ちを抑え込み、スミナが魔導具で防げ無いだろう攻撃を仕掛けることにする。今のアリナにはダルアの他にもデビルの特殊な術である呪闇術カダルも少しは使える。スミナはおそらくカダルにそこまで詳しく無いので急な術には対処出来ない筈だ。


「どりゃぁ!!」


 アリナは大振りの攻撃をスミナに避けさせ、避けた先に仕掛けたカダルの蜘蛛の巣のような罠に触れさせた。カダルはスミナを空中に固定し、身動き出来なくさせる。


「はっ!!」


 動けなくなったスミナに向かってアリナは槍に変えた魔導具を突き刺す。これでスミナは死なないギリギリのダメージを負う筈だった。しかし、アリナの槍は当る直前で逸れてスミナの横の虚空を突き刺した。その間にスミナはカダルから逃れ、再びアリナに反撃をする。アリナはスミナの剣をダルアの篭手の部分で何とか受け切るしかなかった。


(当たらなかった?なんか魔法をかけられてた?)


 アリナは再び自分の作戦が破られた事に焦る。スピードでも力任せでも策を使ってもスミナには攻撃が当たらない。ダルアのエネルギーにも限りがあり、吸収出来る敵が近くにはいない。アリナは時間内にスミナを倒す必要がある。


(無駄な魔力の消費を抑えて、かつ、広範囲に仕掛ける!!)


 アリナは物量でスミナを圧倒しようとした。次々と魔力で作った針を撃ち、最初は避けていたスミナも速度に限界があって避けきれなくなる。するとスミナは魔導具でそれを防ごうとした。アリナはそこを狙って猛スピードで回り込み、反対側から攻撃をする。しかしスミナの姿はそこには無かった。攻撃を防ぐ魔導具だけが浮いていたのだ。


(後ろ!?)


 危険を背後から感じたアリナは振り返って攻撃を防ごうとする。しかしそこにはまたもや魔導具だけが浮いていて、砲撃をアリナに放とうとしていた。アリナは上下からも危険を感じ、防御姿勢を取るしか無いとダルアの周囲に魔力の壁のような協力なシールドを展開させる。アリナの周囲にはいくつもの魔導具が散らばっていて、様々な攻撃がアリナへと降り注いだ。ただ、ダルアのシールドは強力で、大したダメージにはならない。


「隙あり!!」


 アリナがシールドを消して態勢を立て直そうとした瞬間、目の前にスミナが現れ、レーヴァテインがアリナの兜のマスク部分を切り裂いた。アリナはスミナが大量の魔導具の攻撃で危険察知を鈍らされた事にその時になって気付く。マスクだけを攻撃したのはスミナが余裕を持っているからだろう。素顔を晒されたアリナは怒りが増してくる。


「あたしの事バカにしてるでしょ、お姉ちゃん!!」


「そんな事無い、わたしは真剣に戦ってるよ」


 激昂するアリナに対してスミナは冷静に答える。その様子が更にアリナを苛立たせた。


「どうして神機を使わないの?空から来たんなら持ってるんでしょ、神機もあの飴玉も」


「持って無いよ。ホムラは持って行けって言ったけど、あれは本来使ったらいけないものだと思ったから」


 スミナの話を聞いて、やはりスミナはホムラのおかげで生きていたのだとアリナは確信した。疑惑が確信に変わった事でアリナはスミナがズルいという気持ちが大きくなった。そして神機が無いのなら、負ける筈は無いとアリナは思い込む。


「そうやって余裕ぶってられるのも今の内だよ!!」


 アリナはダームで分身を3体作り、スミナを攻撃させる。ダームはあくまでカダルで作るゴーレムの一種なので戦闘力はそこまで高くは無い。見た目をアリナに合わせることでスミナを翻弄させる事が目的だ。ダームはスミナを取り囲み攻撃を始める。スミナがダームの相手をしている隙にとアリナはスミナの視界から消えて攻撃を仕掛けようとした。


「嘘っ!?」


 しかしダーム達はスミナへの攻撃を止めて反転し、逆にアリナへと向かって来た。いくら念じてもアリナの命令は聞かず、スミナに所有権を奪われたのだと分かる。こんな短時間でそんな事が出来るとはとアリナは驚きを隠せない。だが、アリナは冷静にダームを分解し、消えたスミナの気配を探る。スミナはアリナがやろうとした事をやってくる筈だ。だったら返り討ちに出来る。


「そこだ!!」


 自分の斜め下にスミナの気配を感じてアリナは剣を振り下ろす。だが、そこにはもうスミナはおらず、逆にアリナの背後にスミナは現れていた。アリナは急加速して背後からのスミナの攻撃をかわす。だが、かわした先に見えない壁があり、アリナはそれにぶつかった。


「はっ!!」


 スミナは止まったアリナに向けて何かの液体を放つ。避けられないと思ったアリナは炎の魔法で液体を蒸発させようとした。


(しまった!!)


 アリナは急いで防御姿勢を取る。それほど危険を感じなかった液体が炎に触れた瞬間に一気に危険度が増したからだ。液体は爆発し、防御態勢が遅れたアリナはかなりの衝撃を全身に受ける事になった。アリナの危険察知の能力を予想した攻撃にスミナのいやらしさを感じてしまう。


(なんであたしが一方的にやられてるのよ!!)


 アリナは自分のやる事を次々と潰される事でストレスが一気に増していた。


「アリナ、そろそろやめにしない?こんな戦い意味無いでしょ」


「お姉ちゃんはどうしてそう上から目線なの!!」


 アリナは止まるわけにはいかなかった。ここで負ければ一生スミナには勝てない気がしたからだ。もうなりふり構わず、怒りの表情を見せてアリナはスミナへと突進する。同時に刃を放ってスミナの逃げ道を塞ぎ、これで攻撃は外れる事は無い。


「だぁっ!!」


 動きを止めたスミナに向けてアリナは渾身の1撃は放つ。しかしアリナの剣撃はスミナのレーヴァテインによって受け流されてしまった。アリナはそこで諦めずに連続して攻撃を繰り出す。蹴りや飛び道具などのフェイントも加え、常人では避けられない速さで次々と攻撃した。しかしスミナはそれを避け、防ぎ、弾いて全て対応してしまう。何かの魔導具で強化したにしても、神機無しでそんな事が出来る筈が無い。


「どうして当たらないのよ!!」


「その理由、アリナはもう分かってるんじゃない?」


 スミナは冷静に答える。アリナには勿論心当たりがあった。ハーフエルフのエリワに指摘された事だ。アリナがダルアを使いこなせていないという。だが、アリナはそれを意識するようにして、空いた時間に訓練もした。確かに色々あり過ぎてそこまで時間を取れなかったが、アスイを倒せたのは成長した証では無かったのか。


「あたしは頑張ってきた。この力だってもう自分のものにしたの。

お姉ちゃんこそアスイ先輩みたいな動きをして、何かズルして強くなったんじゃないの?」


「わたしはそれほど変わってない。確かにアリナと戦う事を考えてアスイさんにアドバイスして貰ったけどね。

わたしはアリナほど強く無いから必死に色々考えてきただけ」


 スミナはそう言いながら魔導具の糸を空中に展開させる。アリナは前にアスイに使われた鎖のような魔導具だと予測し、絡み取られないように距離を離そうとする。すると糸は途中でアリナを追うのを止め、スミナの周りを漂っていた。


(危険はそれほど感じないけどどうする?)


 アリナは先ほどの液体の罠を思い出し、糸に攻撃するのを躊躇した。ただ、糸に当てずにスミナを攻撃するのは難しい。鎖の時はアリナが支配を上書き出来たが、先ほどのダームの事を思い出すと道具の支配の力でスミナを上回るのは無理だろう。


「来ないならこっちから行くよ!!」


 ほんの数秒悩んだアリナに対してスミナは糸と一緒に高速で突っ込んでくる。アリナは考えるのを止め、ダメージ覚悟で邪魔な糸を魔法で攻撃する事にした。アリナは真空の刃の魔法で糸を細切れにする。すると糸は激しい閃光を放って消滅した。目くらましだ。普通の閃光などの目くらましの魔法なら即座に魔法で回復出来る。しかし、特殊な効果なのか、魔法を使っても視界はぼやけたままだった。


(でもあたしは目が見えなくても相手の位置が分かる!!)


 アリナは冷静に危険を感じる方向からスミナが来ると身構えた。


「そこ!!」


 アリナは的確に危険を感じた位置に剣を突き出す。しかしそれは虚空を貫くだけだった。視力はまだ回復せず、アリナは見えない状態で空中に静止する。スミナは絶対に攻撃してくる筈だ。


(なんで危険を察知出来ないの?)


 スミナが完全に敵意を消しているならそれは可能だろう。しかし先ほどまではちゃんと危険を感じていた。スミナが何かズルをしてるのではとアリナは考える。


(危険察知の能力に頼ったらダメだ。もっと集中して相手の動きを読まないと)


 一時的に視力を奪われた事で逆にアリナの精神が研ぎ澄まされた。するとアリナはスミナがどこにいるか分かってくる。これは指輪で強化される前のお互いの位置が分かった頃の感覚だ。道具や能力に頼り過ぎて、双子本来の絆を忘れていたのだ。


(来る)


 アリナはスミナが攻撃してくると感じる方向を剣で防ごうとした。アリナの感覚は当っていて、スミナの剣での攻撃は完全に防がれていた。アリナは視力が戻り、ようやくスミナの姿が普通に見えるようになる。


「凄い、よく防げたね」


「お姉ちゃん指輪外してるでしょ。だからあたしの行動が読めたんだ」


「指輪をしてると潜入してきたのがバレてアリナが危険になると思ったから。

それに今のアリナほど動きが見えてた訳じゃないよ」


 やはりスミナは双子の共感覚を利用して戦っていたようだ。逆にアリナは自分の危険察知の祝福を利用されて動きを封じられたのだと理解する。


「手の内が分かったならあたしは負けないよ」


 アリナは左手の中指にした指輪を外しアンクレットの魔導具に仕舞う。スミナはその隙に何かの魔導具を背中に付けていた。


「わたしもアリナに負けるつもりなんて無いからね」


 そう言ってスミナはレーヴァテインを両手で構えた。手数や罠でスミナに勝つのは難しい。だったら力で圧倒するまでだとアリナは決心し、スミナへと突進する。多少のダメージを受けても攻撃を当てられれば自分の勝ちだと思ったのだ。


(避けた!?)


 アリナのダルアの力を使った全速力のダッシュをスミナは更に速い速度で移動して回避していた。見るとスミナの背中には光輝く翼が生えていた。先ほど付けた魔導具だ。だがアリナはスミナの力を見定める為にも諦めずに突進を繰り返す。スミナはそれを避けつつ反撃もして来たが、アリナはある事に気が付いた。


(あれはオルト先生の祝福とは違って、一瞬だけ真っ直ぐ移動出来るだけだ。小回りや旋回は出来ないんだ)


 アリナは攻略の糸を掴む。ただ、スミナはそうした弱点も分かって使っているだろうと油断はしない。


(2段構えで行く!!)


 アリナは再び突進した。スミナは反撃せずに回避に専念して翼を使って移動する。


(そこだ!!)


 アリナは左手から赤い光線を放つ。魔族の使うカダルで、相手の動きを遅くさせる技だ。蜘蛛の巣のようなカダルと違い簡単には解除出来ないし、スミナは直線で移動してるのでその軌道上に来るカダルを避ける事は出来ない。遅くなったところを一撃でも当てればアリナの勝ちだ。しかし赤い光線はスミナが取り出した黒い四角形の魔導具に吸収されてしまった。アリナがカダルを使うのを予想して準備していたのだろう。


(そういうの準備してるのズルい!!)


 アリナは自分の技に即座に対応するスミナに苛立つ。だが、諦めるわけにはいかないと再び攻撃を仕掛ける。ダルアにはまだ出来る事があるからだ。それを今まで使わなかったのはスミナを大きく傷付けたく無いのと、その技が気持ち悪いとアリナ自身が思っていたからだ。


(もうなりふり構ってられない!!)


 アリナはまずダームを仕込んだ誘導する刃を10本作り、スミナへと放つ。スミナは避けても誘導されている事に気付き、それを剣で対処した。そこへアリナは攻撃を仕掛ける。スミナは急な対応になり、急いで回避するしか出来ない。アリナはそのスミナが移動する先にダルアの能力である身体を内部から破壊する毒ガスを仕掛けていた。無色で魔力の反応も無いので、そこに罠があるとスミナは気付かずに移動した。


(やった!!)


 アリナはスミナが苦しみ出したらそこへ攻撃するつもりでいた。しかしスミナの様子に変化は無い。よく見るとスミナの周りのガスがどんどんと消えているのを感じる。何らかの魔法か魔導具で浄化したのだ。

 スミナはアリナの動きが止まったのを見て逆に攻撃を仕掛けて来る。スミナの手から何かの道具が飛び出してアリナのいる方へと飛んで来た。アリナは危険を察知し、急いで距離を取ろうとした。するとその道具は炸裂し、小さな球が四方八方に広がる。球は空中に静止し、アリナはそれに触れないように気を付けた。一個ずつに危険は感じ無いが、何かの意図がある筈だと。すると瞬く間に球と球の間に光線が走り、繋がるとそこに鏡面が出来上がる。アリナはいつの間にかミラーボールの中に閉じ込められた状態になっていた。スミナはその外に居て目視出来ない。アリナは鏡面を攻撃するかどうか迷ってしまった。そのわずかな隙をスミナは攻撃してきた。


(嘘でしょ!?)


 アリナを囲む何十枚もの鏡からいくつものレーヴァテインの刃が現れる。アリナはその全てが実物だと判断した。ここに逃げ場は無いのでこのままでは全身串刺しにされてしまう。アリナは咄嗟の判断で防御してはダメだと感じ、斬られる覚悟で一枚の鏡面へと突っ込んだ。その判断は功を奏し、肩を斬られはしたが軽傷で鏡面の空間を突破する事が出来た。


(痛いな、もう!!)


 アリナは痛みを我慢しつつ外で攻撃していたスミナへ向かって反撃する。ダルアの背面から複数の赤い触手がスミナへと向かって行った。スミナはそれを斬り払いつつ高速で移動して逃げようとする。アリナはそれを先読みしていて、一本の触手だけ遠方へ伸ばしていた。それは高速で逃げるスミナの脚を捕まえる。


「やった!」


 この触手は触れさえすれば相手に様々な呪いを流し込むおぞましい武器だ。いくら耐性が高い転生者であろうと、全てを解呪する事は出来ない。身体または精神に影響する呪いが一つでもかかれば今まで通り戦う事は不可能だろう。

 しかし、危険を感じたのはアリナの方だった。凄まじい速さで触手から危険が伝わって来たのでアリナは即座に全ての触手を解除しその場を離れる。すると触手達は植物が枯れるようにスミナの近くから干からびて消滅していった。見るとスミナの手にはまた見知らぬ魔導具が握られていた。どんな手を使おうと結局スミナに対処され、逆にこちらが追い詰められる。アリナの怒りは頂点に達した。


(もう怒った!!エネルギーの残量なんか気にしてられない!!)


「お姉ちゃんはズルいよ!!そうやって沢山の人に好かれて、凄い道具を貰ってるんだから!!」


 アリナは剣を巨大化させて斬りかかり、回避するスミナに対して左手から超威力のエネルギーの光線を放った。神機ライガほどでは無いが、魔法では防げ無い威力のエネルギーの砲撃だ。まともに喰らえばスミナもただでは済まないが、怒ったアリナはもうどうとでもなれと思ったのだ。

 スミナはそれに気付き魔導具のベルトから白い盾を取り出す。盾からスミナを包む白いエネルギーのシールドが展開される。そしてアリナの放った光線はシールドに当たると反射してアリナへと戻ってきた。アリナは緊急回避するが、判断が遅かったのかダルアの鎧の一部が自らの攻撃によって破壊されてしまった。それも再生するがエネルギーを余計に使う事になった。


「わたしが道具を使ってるのはアリナが凄く強いからよ!!使わないと勝てないから!!」


 スミナは盾のシールドを前に出してアリナに体当たりしてきた。アリナはこれ以上ダメージを喰らいたくないと回避する。すると回避地点に巨大化したレーヴァテインの刃が横に振られて迫っていた。アリナは剣でそれを受けるが勢いが付いた攻撃は防ぎきらず吹き飛ばされて地面に激突する。だがアリナはすぐに体勢を立て直す。


「そうやってあたしが強いって言うけど、本当に強いのはお姉ちゃんでしょ!!自分を差し置いてあたしばっかり評価するのが嫌味だって言ってるの!!」


 アリナは魔力の刃で周りの岩山を切り取って巨大な岩の弾丸に変え、それを次々とスミナへと放った。そして自身も弾丸になりスミナへと突っ込む。


「しょうがないでしょ、わたしは強くて可愛くて人気者だったアリナが羨ましかったんだから!!わたしはアリナに追い付く為に必死だったのよ!!」


 スミナは白い盾を円盤のように投げて飛んで来る岩を破壊していく。そして突っ込んでくるアリナへと黄色い魔導具を投げた。魔道具は空中で発動し、周囲に電撃の空間を作り出した。しかしアリナは止まらずダメージを受けながらもスミナへと突っ込んで、左右から紅い巨大な刃でスミナを挟み込もうとする。スミナは上へ逃げてそれを回避した。


「人気なのはお姉ちゃんでしょ!!お姉ちゃんは色んな人に好かれて、ちやほやされてたじゃん!!」


 アリナは上へ逃げたスミナを逃がさないように上空に巨大な剣山のような壁を作りだした。そして動きが止まったところを剣で追い打ちしようとする。


「わたしよりアリナの方がみんなに好かれてるでしょ!!それに、わたしの場合は好かれていい事ばかりじゃなかったって知ってるでしょ!!」


 スミナは剣山の壁を破壊して突破し、逆に上から追って来るアリナに対して刃の雨が降り注いだ。アリナはそれを破壊しながら上昇し、スミナと同じ高さで止まって対峙する。


 何を言っても反論される。それに姉の言っている事はよく分かっている。それはアリナがずっとスミナを見続けてきたからだ。それがアリナの大好きな姉なのだからだ。


「お姉ちゃん、本当の事を言うよ。あたしだってこんな戦いしても無意味だって分かってる。お姉ちゃんが全部正しいのも分かってる。

それでも、あたしは止まれないの。お姉ちゃんの事が好きだから。お姉ちゃんに勝てなかったらあたしの存在は無意味になっちゃう。エルちゃんやミアンちゃんやホムラに負けちゃうから」


 アリナは本心を打ち明けた。スミナの周りに色んな人が集まり、どんどん自分が置いて行かれてる気がしていたのだ。それがずっとアリナの心に引っ掛かっていた。ここでスミナに勝てなければ自分はただの手のかかる妹でしかなくなってしまう気がしたのだ。


「アリナ、そんな事無いよ。

でも、それがアリナが導き出した結論なんだよね。いいよ、だったらわたしが戦ってあげる。そしてわたしが勝って、アリナが大事な存在だってちゃんと分からせるから」


「ありがとう、お姉ちゃん。

じゃあ行くよ!!」


「うん!!」


 本心を打ち明けた事でアリナの迷いは消えた。殺し合いの決闘だが、恐れはない。傷付け合う事だって大事なんだと。


 一進一退の攻防が続く。全ての能力でアリナが上回るが、それをスミナは判断力と道具を駆使して乗り切っていた。先ほどよりも激しい戦いだが2人の心は軽かった。お互いの攻撃に驚き、感心し、怒り、喜んだ。戦いを邪魔する者は誰もおらず、ここには2人だけの世界が出来上がっていた。2人はこの戦いがいつまでも続けばいいと思っていた。


 だが、戦いは永遠には続かない。アリナのエネルギーも限界が近付き、スミナの魔導具も残りが限られていた。2人はお互いにそれに気付き、次が最後の攻防だと覚悟した。


「行くよ、アリナ!!」


「負けないから!!」


 先に仕掛けたのはスミナだった。スミナはレーヴァテインの刃を巨大化させるとそれをアリナに向かって投げた。アリナはそれが完全に罠だと分かるのでギリギリで避けて次の行動を読もうとする。しかしスミナの姿は完全に消えていた。どこかに転移したのだ。


(どこから来る?)


 アリナはスミナがやりそうな事を考え、何かを思い付いた。


「そこだ!!」


 アリナは通り過ぎるレーヴァテインの柄の部分を攻撃する。スミナはレーヴァテインの柄に付いた魔導具からちょうど現れ、アリナの剣が現れたスミナを襲った。


「いい読みだけどそれだけじゃないよ!!」


 攻撃されたスミナが爆発する。その爆風でアリナはダメージを受けて吹き飛ばされた。転移してきたのはスミナの身代わりの偽物だったのだ。スミナ本人はアリナの背後に迫り、青い巨大なガントレット型の魔導具でアリナを殴ろうとしていた。アリナにとって幸運だったのはスミナが打撃でとどめを刺そうと考えた事だった。


「捕まえた」


 殴ろうとしたスミナのガントレットはアリナが出したスライムのような液体状の物体に包まれ減速し、逆に身動きが取れなくなった。以前ドワーフの工房に行った時、飛行機械で使っているスライムが気になり少量貰っていたのだ。


「これでとどめだっ!!」


 アリナは動けなくなったスミナを槍に変形させた魔導具を伸ばしてスライムごと一気に貫く。ここで手を抜いたら再び反撃してくるのが分かっているから全力で攻撃したのだ。事実スミナはスライムから既に逃れ始めていた。しかし、アリナの動きが一歩早く、アリナの槍はスミナの脇腹を見事に魔導鎧ごと貫いていた。


(やっと勝てた!!)


「う……」


 喜ぶアリナの正面でスミナは吐血しながら地面へと落下していく。冷静になったアリナは急いでそれを追いかけ、地面ギリギリで捕まえ、そこで着地する。スミナを殺す気は勿論無く、急いで手当しないとと焦り出していた。


「戦いはアリナが勝ちだね……」


「お姉ちゃん喋らないで!!今治療するから!!」


 アリナは慌てていて抱き付いているスミナの手がアリナの腕に伸びている事に気付かなかった。


「え?何っ!?」


 アリナは突然ダルアが解除されて私服に戻った事に驚く。見るとスミナの手にはアリナが付けていたダルアの黒い腕輪が握られていた。


「でも、勝負はわたしの勝ちだよ。

エル!!」


「はい、マスター。アリナ、動かないで下さい」


 私服になったアリナの目の前にどこか煌びやかな姿になった戦闘形態の魔宝石マジュエルのエルが刃を向けて立っていた。アリナはエルが仲間達の中に居なかった事に気付いてはいたが、何か理由があって置いてきたのだと勝手に思っていたのだ。


「ズルいよお姉ちゃん。勝ったらあたしの側に来るって約束したじゃん!!」


「あの時のアリナが正気だったらね。

アリナ、わたしは闇術鎧ダルアがどんな道具か確認したの。これはアリナが思っているような武具なんかじゃない。もっと邪悪な、アリナを吸い尽くそうとしていた存在よ。

そして、アリナの意思も思考もダルアによって誘導されていた。あくまで自分が正気で、ダルアの誘惑に勝ったように思い込ませてね。決して魔族に逆らわないように思考を誘導されてたのよ」


「嘘だ!!そんな筈ない!!あたしは自分の考えでここまでやってきたんだよ」


 アリナはそう答えるが、頭の中に次々と疑問が浮かんでくる。そしてもしかしたらという不安が思考を支配する。


「エル」


「はいマスター」


 エルはスミナに呼ばれるとスミナの手にある腕輪に対してビームを放った。すると腕輪は醜く変形し、蛇のようにスミナの手から地面へ逃れた。エルは四角い結界を作ると蛇のように動くダルアを封じ込めた。


「見ての通りあの腕輪には意思があって、アリナとダルアの関係はアリナが主人では無く、ダルアの方が主人だったんだよ。最強の剣と一緒。あのままアリナが使い続けたらアリナの全てはダルアに吸い尽くされてたよ」


「そんな……」


 アリナは以前ドワーフのギンナに言われた事も思い出し、姉が言っている事が全て正しいのだと理解する。そして以前ギンナに言われた事もダルアによって忘れかけていた事もそれを裏付けていると気付いてしまう。


「お姉ちゃん、傷が!!」


 アリナは話に集中していて忘れていたが、スミナが重傷である事が一番大事だと思い出して慌てる。


「大丈夫、傷口は塞ぐから……」


 スミナは何かの道具を出すとそれはスミナの傷に張り付いて出血を止めた。


「今回復魔法を使うから待ってて」


「アリナ、待って!!それどころじゃないと思う」


 スミナに言われてアリナも周囲に沢山の危険が発生するのを感じた。危険を感じる方向を見つめると空間が歪み、そこに大量の敵が現れた。デビルの転生者のレオラと魔族とドワーフが作った闇機兵ダロンという大量の機械の兵器達だ。


「アリナ、詰めが甘いんじゃないの?折角仲間を増やすチャンスだったのに」


「ダルアに仕掛けがあったんだね。最初からあたしを騙してたんだ」


「騙してなんかいないわ。人間が魔族の仲間になるっていうのはそういう事だから。

まさか、対等の関係だなんて思ってたの?」


 レオラは大声で笑う。アリナは悔しいがレオラの言う通りだと思った。どこかで自分の都合のいい方に行くんじゃないかと期待してしまったのだ。魔族の言う事など信じた自分が馬鹿だったのだ。


「もういいよ。お姉ちゃんが生きてたんだからあたしはこんな所に居る理由は無いし。

少しの間だったけど生活の面倒見てくれたのは感謝してるよ、レオラも、他のみんなにも」


「転生者2人を仲間に出来ればそれはそれで良かったんだけど、まあアタシも無理だと思ってたわ。

でも、ここで2人減らせるならアタシの功績になるから十分よ」


「レオラとそんなガラクタどもであたし達を倒せるつもり?」


 アリナはそう言うが、魔力も体力もほぼ使い果たした自分と重症のスミナとエルでは少し不安があった。だが、それでも負ける気はしなかった。


「ああ、ダロンでアナタ達を倒せるだなんて思って無いわ。アタシはもう油断しないの。この子達はただの生贄よ」


 レオラがそう言って手を前に伸ばすとエルが張っていた結界が破壊され、ダルアの腕輪がレオラの手の中へと飛んで行く。レオラはそれをダロンの方へと投げた。ダルアは腕輪から黒い巨大な塊に変形し、大きな口になって次々とダロンを飲み込み始めた。黒い塊は食べるたびに大きくなり、全てのダロンを食べ終えた時には10メートルを超える黒いドロドロとした存在になっていた。


「さあ、完成よ。これがアタシが作りたかった作品よ」


 レオラがそう言うとダルアは一気に収縮し、見た事のある姿になっていた。先程までのダルアを着たアリナの姿だ。違いがあるとすれば見えている素肌の部分が先ほどの黒い塊と同じ漆黒なところだ。


「ダークアリナとでも呼ぼうかしら。この子はアナタの力を学習し、吸収し、アナタが最も強かった時点の力を再現してるの。しかも、エネルギーは先ほど吸収したダロンの分だけあるの。疲弊したアナタ達が勝てる相手じゃないわ」


「そんな……」


 スミナは完成してしまったダークアリナを見て絶句する。アリナも感じる危険からレオラの言う事が間違って無いと分かって絶望するのだった。


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