表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/111

17.黄泉での出会い

 話は一旦スミナが魔神ましんドヅによって殺された直後まで遡る。


 意識が戻ったスミナ・アイルは光り輝く空間に浮いていた。身体の感覚が曖昧で、自由に身動き出来ない。


「やっぱり死んじゃったんだ、わたし。悔しいけどしょうがないよね……」


 スミナは自分の咄嗟の行動を後悔しては無かった。ただ、あの後アリナ達が無事に生き延びていてくれればいいなとは思っていた。


「もっと上手くやればみんなを助けられたのかな」


 スミナは自分の取れる最善手を取っていたつもりだが、自分が見えていなかったこと、失敗した行動があったのではと思ってしまう。だが、死んでしまった今、過去を憂いてもしょうがないと考えるのを止めた。


「そういえばここって前に見た事がある気がする……」


 スミナは自分がいる空間になぜか懐かしさを感じていて、辺りを見回す。しかし空間には私服姿の自分が浮いているだけで、周りは不思議に光る空間が延々と続いているだけだ。その時、スミナははっきりと思い出した。


「そうだ、前世のわたしが死んだ時もここに来たんだった!!」


 ようやくスミナは自分が沢野巳那さわのみなとして死を迎えた時に似たような場所に来た事を思い出す。


「前は転生出来たけど、流石に二度転生するなんて無いよね」


 スミナはそれは無いだろうと結論付けた。そんなに簡単に転生出来るなら世界は転生者だらけで、死のリスクなど無くなってしまうからだ。それよりも今のスミナがそこまでして生きたいとか、世界を恨むほどのパワーが無い事がもう一度転生出来ない理由だと思えてしまった。こうしてスミナとしての人生を送れたのは巳那としての人生に後悔があったからだと。


「アリナ、ごめんね……」


 ただ、後悔がまるで無いわけでもなかった。現世の時と同じく、最愛の人を残して先に死んでしまった事は後悔していた。特に転生後の2人は現世の時よりも離れがたい存在になっていたのだから。今のアリナの気持ちを考えると心が痛む。


 スミナは色々と考えていたが、やがて何も起こらないこの空間に異常を感じる。


「ここってあの世なんだよね?一生このまま孤独だったりする?普通は天国とか地獄とか、それか別の生き物に生まれ変わるとか、そういうものだと思うんだけど。でもそれもあくまで宗教観みたいなものでしかないのかな」


 そう思ってスミナは何とかふよふよと移動をしたが、景色に変化は無く、誰もおらず何も無い。まるでゲームでバグって先に進まなくなったみたいだ。


「前に来た時は、ええと、すぐに転生したんだ。

でも、確か何か声が聞こえた気もした。あれはやっぱり神様の声だったのかな」


 スミナはその時の言葉を思い出す。“「後悔の無い選択を」”という言葉がスミナの脳裏に明確に思い出された。今になってその声がどこかで聞いた女性の声と似ている気がしていた。だが、スミナはその声の主が思い出せない。


「確か、何か道具の記憶を見た時に聞いた声だった気がする……」


 時間は無限にあるのでスミナはどこで聞いた声かを一生懸命思い出してみた。若い女性の声で、綺麗な声の持ち主。そして、生きてスミナが会った事は無い人物。その時スミナの脳裏に一枚の写真が思い浮かんだ。


「そうだ、ユキアさんだ!!」


 記憶の糸が繋がり、スミナは思わず声を上げる。剣の師で命の恩人でもあるオルトと、王国騎士団長のターンの昔の仲間だった魔術師のユキア。写真の記憶で見たそのユキアの声に似ている気がする。ただ、ユキアは魔族連合との戦いの途中で魔神を道連れにして死んだと聞いていた。


「でも、同じ声だとしたら、どうしてあの時ユキアさんの声が?」


「どうしてだと思う?」


 疑問を口にしたスミナは突然誰かから声がかけられる。周囲を見回しても誰もいない。そしてその声は記憶の中のユキアの声と一致していた。


「もしかしてユキアさんもこの空間に閉じ込められてる?」


「うーん、半分正解、といったところかな」


 声の主はスミナの目の前に段々と姿を現してきた。そこには薄い桃色の長髪の、若く美しい女性が立っていた。魔術師のローブを着たその姿は写真とその記憶で見たユキアより少しだけ成長した姿だった。


「一応初めましてかな。私はユキア・ソミダ。戦技学校では千年に1人の天才魔術師、なんて言われてたんだよ」


「初めまして。わたしはスミナ・アイルです。

ユキアさんはオルトさんと同い年ですよね?見たところとてもそうには見えませんが」


 スミナは動揺して思い浮かんだ事をそのまま口にしてしまう。オルトが30代半ばの中年なのに対して、ユキアはまだ20代前半ぐらいにしか見えないからだ。


「そっか、そうだよね。あっちの世界ではそれだけ時間が経ってるんだもんね。

えっと、私は魔神ヤグを道連れに消滅して、それからは歳は取ってないんだ」


「すみません、変な事を聞いてしまいました。

という事はやっぱりここはあの世という事ですよね」


 ユキアが死んでいて歳を取ってないという事で、自分と同じあの世に来ているのだとスミナは納得する。


「それが、ちょっと違うのよね。

どう説明すると分かりやすいかな?そうだ、スミナさんが知ってる知識で言うと、この世とあの世の境の世界、黄泉の世界って言えば分かりやすいかな」


「黄泉って日本神話の死後の世界ですよね。もしかしてユキアさんも転生者だったんですか?」


 ユキアが日本での例えをしてきたのでスミナはもしかしたらと聞いてみる。同じ転生者だから同じ場所に飛ばされたのかもしれないと。


「いいえ、私は転生者では無いの。スミナさんが言っている意味での転生者ではね。

私は次元の狭間を彷徨って、あなた達が元居た世界、日本にいた事もあるの。まあ干渉出来ず、他人の視点から生活を眺めてただけだけどね。だから私は巳那さんの事も璃奈りなさんの事も知ってる。あなた達がいずれ転生するという事も見ていてなぜか分かったの」


「どういう事ですか?理解が追い付かないです」


 スミナは正直に言う。ユキアが人を超越した存在だったならまだ納得出来るかもしれない。


「ごめんね、私も今の状況を完全には理解してないの。

そもそも私、ユキアという存在は次元の扉を通った時点で消滅したのよ。次元の狭間を彷徨って、本来はそのまま消えていく運命だった。でも、私はなぜかここに存在している。今ならその理由が分かるわ。

スミナさん、あなたが私がいた世界に転生し、私の生きている頃の記憶を見ていた。そしてまたこの世界に来た事で、私とあなたの“縁”が結びつき、私は消滅せずに済んだ。ここは時間も空間も超越した力が働いているみたいで、あなたが今ここに来た事で過去の私が消滅せずに済んだんだと推測出来る」


「縁ですか……。でも、私は死んでしまったのでずっとここに居るわけでは無いですよね?」


 ここがユキアの言うこの世とあの世の境なら、自分はあの世へと移動する筈だとスミナは考える。


「誤解しているようだから言うけど、正確にはスミナさんは死んでないの。

ここがこの世とあの世の境と言ったけど、あくまでこの世に行く為の休憩地点と思って欲しい。

これはあくまで私の予想だけれど、スミナさんは私のいた世界で死ぬような目に遭った。それで魂、という呼び方を仮でするけど、魂があの世界から離れてしまった。だけど魂を縛り付ける何かがあの世界にあり、完全な死を迎える前にこの空間に留まる事が出来たの。

そしてスミナさんの肉体もまた何らかの方法であの世界に残っている。一度魂が抜けてしまうほどの傷を負ったら本来はあり得ないんだけれどね。何か心当たりはある?」


「心当たりですか?わたしの最後は妹を庇って神機しんきライガの攻撃を直撃して消滅した筈です。

確かに神機グレンを装着はしていたけれど、まともに防御態勢も取れて無かったし、肉体が残ってるとは思えないです」


「やっぱり神機は存在してたんだ。スミナさん、あなたはあの世界で思ったより凄い事になってたみたいね。

私は色んな世界を見てきたけど、元居た世界の事だけは見られなかったの。それは次元の扉を超えてしまったからからだと思う。だからあの世界でスミナさんがどんな活躍をしていたかは分からない。そして私がいなくなった後、世界がどうなったかもね」


 ユキアが寂しそうな顔をする。


「でも、ユキアさんもここに居るって事はいずれ元の世界に戻れるって事ですよね?」


「残念ながら、そうじゃないの。さっき魂という言葉で説明したけど、本質としてはその人の存在そのものであり、それ自体が人と言ってもいいものの事なの。

太古から人は死者蘇生の魔法や呪法を研究してきた。でも一番魔法が発展した古代魔導帝国さえ死者蘇生だけは成功しなかったの。出来たのは肉体の延命や、人を別の器へ移動させるぐらい。結局人が死んで、肉体も失われて時間が経つとその人は世界から消滅し、それは決して復活しない事が魔導帝国の研究で分かった事だった。

それで、私の事だけど、私の場合はスミナさんとは状態が違うの。次元の扉は魔導帝国の研究で発見された魔法だけど、生物はその先へ進む事が出来ない、いわば存在を消滅させる魔法なの。

私はそれを通ったので人としては消滅した。ただ記憶を含む意識はしばらくは漂い続けていた。スミナさんが元いた世界で言うと成仏出来ない悪霊みたいなものね。その理由は私がオルト達を残していってしまったという後悔があったから」


 ユキアの話を聞いてスミナは共感する。やはり残してきてしまった人達が心配なのだ。


「さっきも言った通り、ここに姿を現せたのはスミナさんが私の明確な記憶を見ていてくれたおかげなの。

巳那さんと璃奈さんが転生した時も存在はしていたけれど、ほぼ意識だけの状態で、一言声をかけるのが精一杯だった」


「そうだ、なんであの時わたしに声をかけてくれたんですか?」


「それは私があの世界で巳那さんの辛い状況を見て、世界を呪いながら死んでいくところを見ていたから。

転生する事が分かっていた私は、元居た世界での辛い思いを引きずらないで欲しいと思って声をかけたの。まあ、余計なお節介なだけかもしれないけどね」


「そんな事無いです。あの言葉があったから、わたしはスミナとして色々と乗り超えられた気がします」


 ずっと心のどこかに残っていたユキアの言葉がスミナという新しい人生を支えてくれたのは確かだろう。


「それと、ユキアさんが生き返るチャンスはあると思います。

オルトさんはユキアさんを死なせた事を後悔して、人を生き返らせる神機をずっと探していました。その神機が見つかればオルトさんがきっとユキアさんを生き返らせてくれます」


「残念ながらそんな物は存在しないの。神機の超常的な能力に夢見た人達が作り出した想像上の物だから。

それともう一つ、私が生き返れない理由がある。さっき話した通り、私は次元の扉を超えて、自分の存在の殆どが消えてしまったの。この姿はスミナさんの記憶と私の残滓が融合して表現されただけ。元の私とも違う存在になってしまったから生き返る事は出来ないの。

あ、スミナさんのせいで生き返れないわけじゃないからね。元々次元の扉を超えた時点で人は生き返れなくなるって事」


「そんな……。それじゃオルトさんは……」


 スミナはオルトの希望が叶わないと知り悲しくなる。それと同時にユキアがどうにもならないのがとても悲しく感じた。


「そうだ、ここは時間に限りは無いからスミナさんがどんな風に生きてきたか聞かせて欲しいな。どうやらスミナさんが元の世界に戻るにはまだ時間がかかるみたいだし。

あと、オルトが今どうなってるかも聞いてみたい」


「分かりました。わたしの話でよければ思い出しつつ話してみます」


 スミナは自分が生まれ、成長し、記憶を取り戻してどんなことをしていたか順を追って話し始めた。


 恵まれた貴族の家に双子として産まれ、幼い頃に魔法や祝福ギフトに目覚めて幸せな幼少期を送った事。初めての無茶な行動で魔導遺跡に迷い込み、正体を隠していたオルトに命を救われた事。そのタイミングで転生した記憶ともう一つの祝福を獲得した事。双子の妹が同じ転生者で親友だった璃奈だと判明した事。


 戦技学校に入学する為に王都に行き、魔宝石マジュエルのエルを見つけた事。入試をして合格発表の後、もう1人の転生者アスイと会い、国の過去と本当の状況について知った事。入学して色んな生徒と出会った事。学生生活が始まって魔族に学校が襲われ、そこにデビルの転生者がいた事。その後、特別教師としてやって来たオルトと初めて会った事。


 学生生活以外の仕事を色々した事。そこで裏社会の事や魔族と取引してる人間、異界災害の事などを知った事。夏休みの旅行で魔神ましん神機しんきに出会って死にかけた事。そこで再び助けてくれた白銀の騎士がオルトだったと判明した事。。自らを鍛える為にオルトに戦い方を合宿で習った事。


 新学期が始まって親友を助けに異常発生したモンスターを倒しに行った事。野外訓練で魔族に襲われ、親友が殺された事。デビルの転生者と再戦し、最後に竜神が現れて滅茶苦茶になった事。二つ目の神機を探しに行き、魔神を倒した事。その際また竜神が現れ、なぜか求婚されてしまった事。


 話の流れで竜神ホムラとエルと一緒に学生生活を送るようになった事。魔導要塞を止める為の作戦でアスイの仲間であるミーザを犠牲にしてしまった事。それが悔しくて必死に強くなろうとした事。王都で発生した人を異形化させた事件の黒幕が情報屋のトミヤだった事。異界災害が発生し、自分が聖女ミアンの代わりに封印兵器を使う事になった事。異界災害を封印出来たが魔神が仲間に化けていて倒せずに自分が死んだ事。


 スミナは自分の事を話してみて色々と整理出来た気がした。色んな事に振り回されつつも沢山の人と出会い、自分は成長出来たのだと。そして自分の隣にはいつも妹のアリナがいた事も。


「想像以上に凄い人生送ってるのね、スミナさん。転生者が背負うものは大きいって聞いてたけど、こんな大変だとは思わなかった。でも、それを乗り越えて来たんだからやっぱり凄いと思う」


「でも、最後は自分が死んじゃいました。それに何人もの知り合いや親友を救え無かった。わたしはやっぱり妹とは違って、最後は上手く行かないんだなって思います」


「そんな事無いと思う。妹さんだってきっとスミナさんの事凄いって思ってる筈よ。

でも、オルトもターンもメイルも元気に生き残ってるみたいで本当に良かった。ようやく私がやった事は無駄じゃ無かったって思えたわ」


 ユキアは本当に嬉しそうに笑った。その笑顔は素敵で、オルトがずっと想いを寄せているのも理解出来た。スミナはそこで昔の話を聞いてみたくなった。


「あの、もしよければユキアさんの話も聞かせて貰っていいですか?オルトさんやターンさんと一緒に戦っていた頃の話を」


「そうよね、話を聞かせてくれたお礼に私も話さないとね」


 それからユキアはスミナが生まれる前の話を色々としてくれた。


 学生時代、オルト達との出会い学校内で競い合った話。優等生だったユキアは最初、自信家のオルトも貴族主義で堅苦しいターンも馬鹿にしていたそうだ。だが、一緒に色んな事をしていくうちにお互いが持っていないものに魅力を感じ、信じ合える仲間になっていったと。

 3人はみな隠れた一面があったそうだ。天才剣士を自称するオルトが実は努力家で人知れず訓練をずっとしていたこと。真面目そうなターンは実は庶民の生活に憧れていて隠れて子供の遊びに混ざっていたこと。ユキアも人に言えないような趣味があったそうだ。それは教えてくれなかったが。

 オルトとターンの2人は目覚ましい成果を残して戦技学校を首席で卒業する事になった。一方ユキアも誰も理解出来なかった魔導帝国時代の書物を読み解き、魔導研究所からも一目置かれていた。なので3人は卒業後の進路としてそれぞれ騎士団や魔導研究所などから声をかけられていたそうだ。


 だけど、3人は戦技学校を卒業した後、全ての勧誘を断り冒険者として活動を始めた。ターンは貴族出身なのもあって騎士団に入るつもりだったが、オルトとユキアの強引な誘いで即実戦に身を置く冒険者になったそうだ。世の中は魔族連合との戦いに移っていて、危険な戦場はどこにでもあった。

 その頃にはアスイが既に英雄として名が知れ渡っていたそうだ。オルトは年下のアスイの名が広まっているのに対抗し、あえて危険な戦場へ身を置くようにしたと。3人は力を合わせてどんな困難も乗り越え、最初は3人だったパーティーも共に戦う者が増え、いつのまにか騎士団に匹敵する有名な傭兵団になっていた。

 オルトが幼い時のメイルを仲間にし、剣を教えたのもこの頃だった。ユキアは危険と隣り合わせだったが、良い仲間に囲まれ、一番充実した日々だったと語った。


 オルト達の傭兵団が崩壊したのは人間の国の中で魔族に寝返る国が出始めた事が原因だった。特に西の大国ウェルゴラが真っ先に裏切り、傭兵団の中にいたウェルゴラ国出身の者が敵に寝返ったのが大きかった。内情を知る者の裏切りにより傭兵団は罠に嵌り、元仲間である人間同士の戦いになってしまった。

 3人の力で裏切り者は返り討ちには出来たが、その衝撃は大きく、生き残った者はみな傭兵団を抜けていったそうだ。そのタイミングでメイルをアイル家に預ける事になったとユキアが教えてくれた。


 傭兵団が分解して3人パーティーに戻ったオルト達だが、それでも諦めずに魔族連合と戦い続けていた。そんな中、神機の話を見つけたのはユキアだった。ただ、その神機が隠されている遺跡は魔族連合が支配する地域の中にあった。無茶を承知で3人はその遺跡へ向かって行き、遺跡を発見する事が出来た。

 そこからはスミナも知っている通り、オルトとターンがあと一歩のところで魔神ヤグを倒し切れず、ユキアが自らを犠牲にヤグを道連れにしたのだった。


「結局私が余計な情報を見つけなければ2人を危険に晒す事は無かったのよね。スミナさんの話の通りなら、その後アスイさんが王国だけは守りきれたのだし」


「そうじゃ無いと思います。わたしがオルトさんに助けられたのはオルトさんが神機を探していたからで、そのきっかけを作ったのはユキアさんです。

それに魔神との戦いの時もオルトさんが過去に魔神と戦った経験が無ければ2人とも死んでいたと思います。

ユキアさんが神機の情報を見つけてくれたおかげでわたしは何度もオルトさんに命を救われたんです」


「そういう事なのね。やっぱり私とスミナさんには“縁”があったという事ね。私の生きた記録がまだあの世界に残っている。それをスミナさんが拾ってくれたのよ。ありがとう」


「別に、わたしは感謝されるような事はしてないと思います」


 急にお礼を言われてスミナは照れ臭くなってしまう。


「スミナさん、1つ頼みごとをしていいかしら?」


「大丈夫ですよ。わたしに出来る事なら何でも」


 ユキアが真面目な顔をして言うのでスミナも真面目に答える。


「多分スミナさんはこの後、元の身体に戻って、オルトと会う事があると思う。その時彼に伝えて欲しいの。

もう私を生き返らせる必要は無いって。これからはオルト自身の為に生きて欲しいって」


「分かりました。もしわたしが本当に生き返れたのなら伝えます」


「それと、おまけにもう一つお願いしちゃおうかな。メイルに会ったら伝えて。

オルトの事はメイルに任せるから、って」


「分かりました……。

でも、本当にユキアさんはそれでいいんですか?本当に生き返る方法が無いんですか?」


 寂しそうな顔のユキアにスミナは必死に言う。


「私も後悔してないわけじゃないの。でも、無理だって事は分かっちゃったの。そもそもこうしてスミナさんと話せていること自体が奇跡なのよ。

話を聞けて本当に良かったわ。私の中の心残りがこれで消せたから。

スミナさん、これから大変だと思うけど頑張って。あなたならきっとどんな困難も乗り越えられる」


「え?ユキアさん?」


 目の前のユキアの姿がぼやけてきてスミナは焦る。


「あなたの世界で言う、成仏するって感じかな。自分でも分かるの。もうここに留まっている事は出来ないって。私はみんなの記憶の中にだけ残るから」


「何も出来なくてごめんなさい……。でも、ユキアさんと出会えて本当に良かった……」


 スミナの目から涙が零れ落ちる。身体が消えかけたユキアはスミナを抱き締めた。柔らかい身体の感触と体温がスミナを包み込む。


「ううん、そうじゃない。あなたが悲しむ必要は無いの。オルトの事、話してくれてありがとう。

それじゃあね……」


「はい、さようなら、ユキアさん……」


 スミナの周りから温もりが消え、ユキアの姿は消えていた。


「絶対忘れませんから」


 スミナはユキアの想いを忘れないと決意した。その直後、急な眠気のようなものがスミナの中から溢れ、意識が消えていった。

 消えゆく意識の中でスミナは身体の中に何か不思議な魔力が宿るのを微かに感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ