表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/111

13.友との戦い

 レモネ・ササンは上手く行かない現状に不甲斐なさを感じていた。あれほど息巻いてアリナを助けに行くと言っておいて、今のところ何の成果も得られていないからだ。

 戦技学校の生徒を中心とした特別部隊が作られ、部隊で王国に潜入している魔族を調査する予定だった。しかもミアンが集められた生徒の中に魔族と関係する人物を見つけていたのだ。部隊は手分けして必至にその生徒を探した。だが、その生徒はそれ以来姿をくらまし、呼応するように魔族による王都への攻撃も止んでいた。つまりは魔族にこちらの情報を掴まれ、魔族側には上手く隠れられてしまったのだ。

 勿論レモネ達はその生徒の周辺や行動範囲を調査、聞き取りをして魔族の手がかりを探った。が、分かったのは怪しい集団を見かけたという噂程度で直接行方やアジトを探しだす事は出来なかった。


「ソシラ、最近敵との戦闘も無くてやりがい無くない?」


「調査で十分動き回ってる……。余計な仕事は無い方がいい……」


 夕方の寮の部屋でソシラはベッドに寝転がっただらしない恰好で答えた。レモネは椅子に座って足をぷらぷらと動かしながら考える。王都への襲撃が止まり、王都全体の防御結界が修復されたのはいい事だが、敵が出ない事には足取りも掴めない。むしろ、ここまで動きが止まった方が不気味だった。

 ただ、戦闘が無い事でいい事もあった。学校の休校がまだ続いているので調査以外の時間を特訓に当てられるのだ。レモネとソシラは今は同じ部隊のオルトに指導して貰っていて、元英雄なだけあってとても有意義な訓練の時間になっていた。オルトいわく、レモネもソシラもそれぞれの祝福ギフトをもっと使いこなせば強くなれるという事で、特殊な訓練を行っている。ただ訓練内容はとても厳しく、ソシラが部屋に戻ると大体ベッドに倒れているのはその為だった。

 無理な特訓をしているのには当然理由があった。アリナを助け出す為だ。その為にはレモネ達にもデビルの転生者レオラと戦えるぐらいの力が必要で、今のままでは足手まといでしか無いと言われていた。更にはアリナが敵対した場合の事も考えておく必要もあり、その為の対策も考えつつ特訓を続けていた。


「アリナ、元気にしてるかな?」


「大丈夫だと思う……。どんな場所でも生きていける強さがあると私は思う……」


「でも相手は魔族だよ」


 レモネはソシラほど割り切って考えられない。最悪、既に騙されて死んでいるのではとすら思ってしまう。アリナに会う為には魔導結界の外に出る必要があるので、調査が止まっているのがとてももどかしかった。

 そんな時、“コンコンッ”と扉がノックされてレモネは「はい」と返事して扉に向かう。


「レモネさん、ソシラさん、魔法の伝言が届いてますよ」


「ナミルさん、わざわざありがとうございます」


 伝えに来てくれたのは寮の寮生代表の3年生のナミルだった。事件があって寮を出て行く人が多い中、彼女は責任感が強く寮に残って寮の手伝いを率先してやっていた。

 レモネは倒れていたソシラを引っ張って寮の入り口近くにある魔導具の通話機のところまで行く。この魔導具は魔導具同士で離れた場所の会話が出来る他に特定の人物に向けた伝言を残す事も出来て、王都の主要な建物に設置されていた。レモネは魔導具に個人の特殊な魔力を送って本人だと認証し、伝言を受け取る。


『レモネさん、ソシラさん、メイルです。詳しくはここでは言えませんが、大変な事が起こりました。夜ですみませんが、8時に迎えに寮まで行きますので戦闘出来る準備をして待っていて下さい』


 伝言相手はアイル家の元メイドで、今は特別部隊の管理をしているメイルだった。話を聞く感じだと、恐らく魔族の襲撃がどこかで起こったのだとレモネは考える。


「夜に戦うのは勘弁……」


「でも、これはアリナを助けるチャンスだよ。今度こそ魔族がどうやって現れるか調べられるかもしれない」


 レモネとソシラが呼ばれたという事は、そういった意味もあるのではとレモネは思う。レモネは特訓で完成しつつある技を使う機会でもあるので、胸の内の闘志が燃えて来ていた。


「どう?新しい魔導鎧は慣れた?」


「こんな重装備必要無いと思う……」


 部屋で出かける準備をしている中、ソシラが不満を言う。レモネとソシラの親は2人が王都に残って王国の手伝いをすると聞いて、新しい魔導鎧や魔導具を送って来たのだった。

 ソシラの魔導鎧は暗い紫色の全身を覆う鎧で、速度が売りのマジックナイトではなく、マジックファイター用の物に近い。ソシラの戦闘方法がほぼ自力で移動せず祝福の虚像との入れ替えで移動する方式なので、守りに特化した鎧の方がいいと考えての物だろう。ただ、魔導鎧なので重さも見た目ほどでは無く、ソシラは不満無く着ていた。

 一方レモネの魔導鎧は機動力を落とさない要点だけ覆うタイプのものだった。勿論素肌が出ている部分も魔法で守られているが、鎧がある部分に比べると防御力は劣る。色は黒色で、丁度レモネの髪色の紫の鎧をソシラが、ソシラの髪色の黒色の鎧をレモネが着ている形になっていた。また、小型の盾も魔導具の新しい物が送られて来ていて、こちらは大きさが可変式で色々便利な使い方が出来る物だった。

 魔導鎧も魔導具も魔導帝国製の貴重な物で、商会の会長でありレモネの父であるデンネも、ウェス地方の領主でソシラの父であるドレドも娘の為に大金を出した事が分かる。なのでレモネもソシラも絶対に死ねないと思っていた。



「夜に突然呼び出しをしてしまってすみません。移動しながら説明させて下さい」


 寮の前に到着した魔導馬車から出て来たのはアスイだった。魔導馬車もアイル家の物では無く、アスイの私物の魔導馬車で、運転はアスイの部下である特殊技能官のナナルがしていた。レモネとソシラが魔導馬車に乗り込むと早速出発する。

 魔導馬車にはアスイとナナルの他に、特別部隊の指導役のオルトとメイルの2人と、同じ戦技学校の生徒であるミアンとゴマルが乗っていた。他の生徒は乗っておらず、以前双子達と共に戦った経験者のみであるのが分かる。


「全員集まったので何が起こったか詳細に説明するわ。既に魔族の襲撃があった事はいた人には伝えてあるけど、今回は今までと大きく違ってるの。

まず状況だけど、王都の北西にあるラブネという町が壊滅しました。大きな町で、自衛の騎士も常駐していたけれど、魔族の大部隊が攻めてきてすぐに陥落し、救助に向かった黒金くろがね騎士団もほぼ全滅してしまったそうです。

敵の部隊は勢いを止めずに王都へ向かっている為、私達は既に向かっている他の騎士団の援護に向かいます」


「ちょっと待ってくれ。黒金騎士団は王国騎士団でも攻撃部隊として最も優秀な騎士団じゃないか。それが全滅だと?」


 今では王国騎士団の手伝いもしているオルトが驚きの声を上げる。レモネも黒金騎士団の強さは知っており、今までの魔族との戦いを考えても異常だと思えた。


「はい、この情報は確かなものよ。敵の攻撃が今までの巨獣などのモンスターを使ったものや、呪闇術カダルで生き物や人を異形化させたもので無かったのが今回の問題点なの。

敵の部隊が使用したのは、今まで見た事の無い、ガーディアンのような自立型の兵器だと聞いているわ。特徴としては高速で針のような弾で射撃し、移動も速く、装甲も厚く、再生能力もある。勿論接近戦にも対応しているそうよ。

そして一番の問題点がその兵器の燃料が人間らしいという事。その兵器は生きた人間を捕らえ、内部に取り込んで回復しているという情報を得ている。黒金騎士団が敗北した原因の一つが捕まった人が周囲に居て攻撃が乱れた為と聞いているわ」


「それは以前戦った魔族が使うダームとは異なるのでしょうか?あれはそれほど強く無く、操っている者を倒せば人質を助けられました」


 メイルがその兵器が過去に戦ったダームでは無いのかと確認する。


「ダームの情報や種類は聞いているけど、異なる兵器よ。しかも、一度取り込まれた人間は助けられないと判明している。つまり、私達も捕まる事だけは避けなければならないわ」


「しかし、そんな大量の兵器をいつここに持ち込んだんだ?しばらく大人しかったのはその準備期間って事か?」


「あの、もし敵が現れた場所の近くに転移して来たなら、その場所を突き止めればアリナのところにも行けるって事ですよね?」


 レモネが意を決して発言する。王都を守るのは当然なのだが、レモネとしては本来の目的も何とかしたいと考えていた。


「そうです、敵が戦闘に集中している時に裏をかいて調査するのも必要なのでは無いでしょうか?」


「レモネさんやメイルの言いたい事は分かるけど、今戦力を調査に割く余裕は無いの。

それに調査自体はゴマル君の叔父さんであるヤマリさん達調査部隊が動けるようになってる筈。そうでしょ、ゴマル君」


「確かに叔父達の手伝いをしていて少しずつ調査にも力を入れ始めているのは感じていますね」


 普段はあまり喋らないゴマルが答える。特別部隊が出来て分かったのはゴマルが見た目の厳つさに反して柔軟で頭の回転が速い事だった。また忍耐力もあり、どんな仕事も嫌がらずにこなすので色んな仕事に引っ張りだこになっていた。


「なので、調査の事は一旦忘れて、敵を倒して生存者を助ける事を目的にする事」


「なあアスイ、俺達より先に他の騎士団が救援に行ってるんだよな。敵が強いとはいえもう戦いが終わってる可能性もあるんじゃないか?」


「残念ながら、国は王都防衛を最優先とし、そこまで多くの騎士団を派遣して無いの。今までの経験から敵の攻撃が陽動である可能性もあると。だから私は急いでみんなを集め、救援に向かう事に決めたのよ」


 疑問に思うオルトにアスイが答える。確かに敵の本命が別にいる場合、王都の防衛を疎かにする事は出来ない。ようやくカップエリアの復興の目途が付いたところなので、別の被害が広がると国が大ダメージを受ける事になるだろう。


「あの、ラブネの町の人達はどれくらい生き残ってるんでしょうか。出来るなら人命救助を優先したいです」


 今まで黙って話を聞いていた聖女のミアンが発言する。ミアンの力を上手く使えば捕まった人達の解放が効率よく出来るかもしれない。


「その辺りの情報はまだ不明なの。ただ、人質を燃料として使えるなら多くの市民が生き残っている可能性はあるわね。

でも、先に一つだけ言っておく事があるわ。人質を助ける為に攻撃の手を緩める事はしないで。人質に当たるからと攻撃を躊躇ったら、生き残った敵が助けた人より多くの被害を引き起こす事を忘れない事。とにかく、敵を倒し、それから捕まった人を助ける。気持ちは分かるけど優先順位を誤らないように」


 アスイがあえて厳しく言う。レモネには言いたい事がよく分かった。今の自分の実力では敵を倒すのと人質を助ける事の両方は同時に出来ないのだ。それこそスミナやアリナがやってきた事の難しさをレモネはよく理解していた。特別な力や才能が無ければ全てを助ける事など出来ないのだと。


「まあアスイはこう言うが、目の前に助けられる人がいたら助けたい気持ちも分かる。その時は仲間と協力して上手くやれ。それが出来ない時は諦めろとしか俺は言えないな」


「自分の祝福は守りに特化しているので、上手く協力出来れば救助出来る人が増える筈です」


「そうね、上手く連携を取ってなるべく多くの人を助けられるようにするのはいい考えね」


 オルトとゴマルが発言した事でアスイの言葉も少しだけ和らげる事が出来た。

 その後は馬車が現場に着くまで、一同はどういう体制で戦い、救助するかなどの話し合いを詰めて行くのだった。



「アスイ様、早かったじゃないですか」


「サニアさん、怪我をしているようですが大丈夫ですか?」


 魔導馬車が戦場に到着すると、部隊が陣取っている陣地に怪我を魔法で治してもらっている薔薇騎士団長のサニアが居た。女性騎士の中でも大柄で、並大抵の攻撃ではビクともしなそうな彼女が怪我しているのは衝撃的ではあった。


「ちょっと油断しちまって。まあ、これぐらいは平気だ。

ただ、戦況はあまり宜しくありません」


「やはり魔族の新兵器が問題?」


「はい。遠距離から攻撃が出来て、近接にも対応してきて、硬く、回復までしやがる。

何より問題なのは破壊しきれないと人間を吸収しようとする事だ。捕まってる市民もそうだが、怪我した騎士も油断すると捕まって吸収されちまう。だからあたしもまだ戦えるけど一旦回復に戻って来たんだ」


 敵の新兵器は思ったよりも厄介な存在のようだった。


「分かりました。

皆さん、私達も参戦しましょう。作戦通り私とオルトさんが先に行きます」


「アスイ様、1つ気になる事がある。

新兵器と一緒に魔族共も戦場に出て来てるが、直接戦闘には加わっていねえ。あたしの勘だがまだ何か隠し持っている可能性もある。だから、新兵器を倒した後も油断しない方がいい」


「分かりました、ありがとうございます」


 アスイは礼を言い、オルトと共に先導して戦場の方へと移動する。その後ろにレモネ、ソシラ、ゴマルの3人が続き、更に後ろにメイル、ミアン、ナナルの後衛組が続いた。レモネ達3人は様子を見て戦えそうなら戦闘に参加するよう言われている。


「酷い……」


 戦場を見て思わずレモネは呟いてしまう。戦場には騎士団や兵士のものと思われる沢山の死体が見えたからだ。その先にはずらっと横に並ぶ魔族の兵器と思われる4つ脚のロボットと、それを破壊しに勇猛果敢に突撃する騎士達が戦っていた。聞いている通り魔族の新兵器は高速の射撃で狙い撃ちし、避けきれなかった騎士は大怪我を負っていた。鎧や盾や魔法で防げる威力では無く、回避が出来ない者から倒れて行く。

 それでも騎士団には優秀な騎士は多いので、接近して破壊に成功する者達も居た。そんな中で、完全に破壊しきれず、割れた身体を兵器が回復する様子が見えた。よく見ると兵器の胴体の周りに生きた人間が皮で出来た紐のようなもので縛られていて、壊れた箇所から伸びた肉色の触手が生きた人間を捕まえ、壊れた場所に吸収するのだ。


「うっ……」


 レモネはその様子を見て吐き気を覚えてしまう。騎士が倒した兵器から何とか助けられた人達も、逃げる最中に流れ弾に当たって死ぬ瞬間も見えた。まさに戦場は地獄絵図だった。


「レモネ、大丈夫?」


 ソシラが心配して声をかけてくる。レモネは己を奮い立たせて、何とか冷静さを取り戻した。


「ごめん、もう大丈夫。でも、あそこに混ざるのは少し様子を見てからがいいと思う」


「自分もその意見に賛成です」


 レモネの言葉にゴマルが答える。下手に飛び出して自分達がやられてしまったり、捕まってる人達が殺されてしまったら意味が無い。

 そんな3人を置いて、アスイとオルトは戦場に迷い無く飛び込んで行った。2人とも既に状況を把握しているのか、敵の射撃を避けつつ、接近し、それぞれ1体ずつ新兵器をあっという間に倒していた。中途半端な攻撃では再生するのを分かっていて、人質は避けつつ細かく敵を切り刻んでいた。そして人質を他の騎士に渡して更に奥へと進んで行く。

 2人が参戦した事で、一気に戦況は変っていた。アスイは攻撃に集中し、上空から次々と兵器を破壊していく。オルトは近くの騎士を手助けしたり、人質の安全を確保しつつ兵器を確実に破壊していった。敵が減った事で射撃の頻度も下がり、味方の騎士も戦い易くなっていく。


「行こう。3人で1体ずつ戦えば何とかなると思う」


「うん……。頑張る……」


「自分はなるべく盾役に徹します。2人は攻撃に集中して下さい」


 レモネ達3人は顔を見合わすと一番近くの抜け出して来た新兵器の方へと急行した。


「自分が敵の攻撃を引き受けるので、その間に撃破と救出を」


「大丈夫なの?」


「ミアンさんの防御魔法もかかってるので行ける筈です」


 ゴマルがそう言いつつ一足先に敵の攻撃範囲に入る。すると兵器は胴体の向きを変え、砲身をゴマルの方へと向ける。次の瞬間目で捉えるのがやっとの速さで針がゴマルへと向かっていった。ゴマルは祝福の力で全身を硬化する。“ギンッ”という金属がぶつかる音が鳴り、ゴマルは一歩後ろに下がっていた。だが、針自体は地面に落ち、何とか防いだようだ。


「今のうちに!!」


 ゴマルが叫びレモネは速度を一気に上げる。横に居たソシラの姿はもう無かった。兵器の方を見ると既にソシラは虚像を作って入れ替わっており、鎌型の魔導具で兵器の砲身を全て斬り落としていた。


「レモネ!」


「うんっ!!」


 敵が砲身を斬り落とされたのに気付いて接近戦用のアームを展開する。だが、敵が攻撃の準備が出来る前にレモネは目の前まで移動していた。


「どりゃああ!!」


 魔導具の斧を最大状態にして全力でレモネは敵の兵器を真っ二つに斬る。そして油断せずに斧を構え直す。その間にソシラは敵の胴体にくくり付けられていた市民と思われる小さな子供達を紐を切って救い出していた。レモネはそれを確認すると、敵が再生しようとする前に内部の生物のような肉の部分を斧で切り刻む。切るのは簡単だったが、中には人かモンスターか分からない骨も混ざっていて気分がいい物では無かった。レモネは敵が再生しないのを用心深く確認する。


「出来たね、ソシラ」


「うん……」


 周囲を警戒しつつレモネはソシラと顔を見合わせる。


「市民は安全な場所に私達が連れて行きますので他の兵器を」


 するとメイル達がやって来て一旦合流する。ゴマルの傷を一応確認し、問題無いのでレモネ達は3人で1体ずつ兵器を破壊していった。



「アスイさん達がだいぶ破壊したし、何とかなりそうだね」


 レモネは6体目の兵器を破壊し終わったところでソシラとゴマルに言う。戦い方は分かっても戦場では気を抜けず、レモネは精神的な疲労をかなり感じていた。ゴマルに関しては打撲と思われる傷が全身に見えていて、そろそろ限界だろうとレモネは思っている。体力の無いソシラも同様だ。


「怪我したら逆に迷惑だし、私達は一旦戻ろうか」


 レモネがそう提案した時だった。“ドーーーンッ!!”という重低音が響き、衝撃波がレモネ達の方にも届く。レモネは最初アスイが大技でも繰り出したのかと思った。が、レモネ達の方に騎士が数人吹き飛ばされて来たのを見て、そうでは無いと理解する。恐らくサニアが言っていた敵の秘策だろう。レモネは見に行くべきか一瞬迷う。


(でも、アリナを助ける手掛かりがあるかもしれない)


「行こう!!」


 レモネは思うと同時に走り出していた。



「え!?」


 レモネは見えてきた惨状に驚くと共に、アスイとオルトと対峙している敵を見て更に驚く。先ほどの音は敵の特殊な攻撃の音だったようで、その被害は多くの騎士や一般市民と共に敵の兵器も巻き込んでいた。アスイとオルトに関しては上手く避けたようで無傷だった。


「アスイ、やっぱり不意打ちは効かないわよね。でも、元々アタシが直接倒すつもりだったからいいけど」


「レオラ、貴方はやはり許せない。

そしてアリナさんを返してもらうわ」


 アスイの言う通り、レオラの背後にいるデビル達の中に顔はフルヘルムで隠しているものの、前に闇術鎧ダルアで変身した姿のアリナがいた。兜から出ている紅い髪もアリナの色と一致し、彼女である事は間違いないとレモネも思う。


「返す?ナニを言ってるのかしら。彼女は自分の意志でコッチに来たのよ。そんなノンキな考え方でいるなら倒すのも楽そうね」


「みんな、レオラの相手は私がします。その間にアリナを!!」


「「了解!!」」


 アスイはレオラの言う事を無視し、アリナを救うべく行動を開始した。それは戦闘の合図となり、早速アスイとレオラは激しい戦いを開始する。レモネ達はオルトを先頭に他のデビルとアリナが居る方へと向かう。少し遅れて騒ぎを聞きつけたメイル達後衛組も駆け付けて来ていた。他の生き残りの騎士達は残った兵器の処理や市民の救助をしていてこちらの戦いにまで手は回らなそうだ。


「デビルと言っても十分手強い。油断するなよ」


「「はいっ!」」


 オルトがレモネ達に注意する。レモネはデビルも脅威だが、一番恐れているのはやはりアリナだった。少し前の時点で力の差があったのに、今はダルアの力で更に強くなっている。出来れば戦う前に説得したかった。


 デビル達は迫って来るオルト達に向かって来たが、アリナは立ったまま動かなかった。アリナと会話するにしてもまずはデビル達を倒す必要がある。オルトは難無くデビル達を次々と捌いて行く。レモネとソシラとゴマルの3人はそれぞれ1体ずつデビルと対峙した。

 デビルは強敵ではあるが、様々な敵と戦ってきた今のレモネにとっては勝てない相手では無かった。油断せず敵の動きを見て、回避し、斧で切り裂く。ソシラも祝福の虚像との入れ替えを上手く駆使してデビルを翻弄して倒していた。ゴマルは敵の攻撃を受け止めて、拳でデビルを叩きのめす。レモネは先ほどの新兵器に比べれば戦い易い相手とすら思えていた。


「ソシラ、危ないっ!!」


 突然オルトの声が響き、レモネは反射的にソシラの方を見る。するとそこにはソシラに大剣を振り下ろそうとするアリナの姿があった。一瞬の出来事でソシラも虚像と入れ替わって逃げる事が出来ない。レモネも瞬時に身体を動かす事は出来なかった。“ボンッ!!”と大剣が振り下ろされた瞬間に爆発音が鳴り響く。見るとソシラが後方へ吹き飛んでいた。レモネはそれがソシラの新しい魔導鎧に備わっている、ダメージを緩和する為の大爆発である事を知っていた。爆発は自身にもダメージがいくので、あくまで緊急時にしか作動しないものだ。レモネは急いで飛んで行くソシラの元へと向かい、何とか自分より大きいソシラを受け止める。


「大丈夫?」


「うん、平気……。レモネ来るよ!!」


 レモネはソシラを抱いたまま大きく飛び退く。そこには大剣を横に振るアリナと、それを魔導具の剣で受け止めるオルトの姿があった。オルトが受け止めてくれなければ2人とも危なかった。


「おい、本気で殺す気か、アリナさん!!」


「アリナ、やめて!!」


 オルトとレモネはアリナに呼び掛ける。しかしアリナはオルトに連続して攻撃を仕掛け、返事をしない。その猛攻は凄まじく、オルトも押されていた。


「アリナお嬢様、メイルです。みんなお嬢様を待っています。戻ってきて下さい!!」


 追い付いたメイルがアリナに呼び掛ける。するとアリナの攻撃が止まった。


「お嬢様、分かって頂けたのですか?旦那様も奥様もライト様もお嬢様の帰りを待っていますよ」


 メイルがアリナに笑いかける。しかし、アリナは一気にメイルに距離を詰めた。オルトもその速度には追い付けない。


「え!?」


 メイルは油断して回避出来なかった。いや、どんな騎士だろうとこの速度の攻撃は避けられない。大剣は無慈悲にメイルの頭を叩き割るかに思えた。


「させません!!」


 アリナの大剣とメイルの僅かな隙間に光が満ちていた。見るとミアンが一点に強力なシールドを張り、攻撃を防いでいたのだ。そこにオルトが割って入る事で何とかアリナはメイルから離れる。


「俺が時間を稼ぐ。その間にお前らはとにかく説得の言葉をかけ続けろ!!」


 今のレモネ達ではアリナの相手は出来そうに無いのでオルトの言葉に従うしかなかった。周囲の敵を倒しつつ、レモネ達はアリナに向けて説得を続ける。


「アリナお嬢様、スミナお嬢様の事に責任を感じる必要はありません!!誰もお嬢様を責めたりしません!!だから戻って来て下さい!!」


 メイルが必死に訴えるが、アリナの動きに変化は無く、返事もしない。それと同時にオルトも段々追い詰められていく。


「アリナさん、ミアンもスミナさんの事で自分を責めました。ですがハーラ様とお話してそれでは駄目だと分かったのです。アリナさんも一度ハーラ様ときちんと話すべきです!!」


 ミアンが危険を承知でアリナに近付いて説得する。しかし、これにもアリナは何も言わず、逆にミアンを攻撃しようとするのを何とかオルトが防いだのだった。


「アリナ……。誰でも間違える事はある。でもやり直せる。お願いだから戻って来て!!」


 ソシラが聞いた事の無いような大声で叫んだ。それでもアリナの反応は変らず、ソシラもアリナの攻撃を虚像との入れ替わりで逃げるのがやっとだった。

 みんなの説得が効かないのを見て、レモネも勇気を出してアリナに近付いた。


「アリナ!さっきの兵器がやった事を見たでしょ!!アリナはあれが正しいと思ってるの?今ならまだ引き返せる。みんなアリナが戻って来るのを待ってるんだよ!!」


 レモネは声の限りに叫んだ。それに呼応してかは分からないが、アリナの動きが激しくなり、ついに避けきれなかったオルトが攻撃を喰らって吹き飛んだ。ミアンの魔法でオルトは何とか致命傷は避けられたようだ。メイルが必死に倒れたオルトを救いに向かう。

 オルトを吹き飛ばしたアリナの攻撃目標はレモネに変わっていた。レモネが防御態勢を取る前にアリナが物凄い速さで攻撃を仕掛ける。


(駄目だ、避けられない!!)


 レモネはどうしようもないと思ったが、アリナの攻撃はレモネには届かなかった。2人の間にゴマルが割り込んだのだ。ゴマルは全身を硬化させて両腕を交差してアリナの剣を受け止めたが、アリナの攻撃はゴマルの腕に深々と刺さっていた。このままでは頭蓋に刃が到達する。そう思ったレモネは躊躇せず全力でアリナに斧を振るった。アリナはそれを分かっていたかのように軽々と避けて一旦距離を取った。


「ゴマル、下がって!!」


 レモネは叫んで自分が何とかしないとと考える。今のアリナに言葉は通じない。もしかしたら何か魔法や呪いをかけられている可能性もある。そう考えるとまずやるべきはフルヘルムの兜を脱がして表情を確認しなくてはとレモネは思った。だが、危険察知の祝福を持つアリナ相手にそれをやるのはとても難しい。


「レモネ、手伝う!」


 いつの間にかレモネの横にはソシラが立っていた。レモネとソシラはオルトに鍛えられ、連携も訓練していた。2人でやれば兜ぐらいは脱がせられるかもしれない。


「行くよ!!」


 レモネはアリナに対して初めて攻撃を仕掛ける。レモネは走りながら左腕の盾を外し、アリナに向かって投げた。盾は高速でアリナに向かって飛んで行くが、勿論アリナはそれを簡単に避けた。そのタイミングに合わせてソシラが虚像をアリナの背後に出して魔導具を槍に変形させ、槍でアリナの後頭部を狙う。アリナはそれをまるで背後に目があるかのように最小限の動きで避けた。

 レモネはその間に跳躍して、斧を上空から一気に振り下ろした。そんなレモネに向かってアリナの剣の高速の突きが繰り出される。しかしそれをレモネはギリギリで避ける事が出来た。ミアンが魔法のシールドで突きの勢いを落とし、ナナルがレモネの身体を魔法で横へ移動させたのだ。レモネは後衛の2人を信じて命がけの特攻を仕掛けたのだった。

 だが、レモネの渾身の一撃もアリナに避けられる。ソシラが同時に繰り出す攻撃も意に介さないように軽々避けていた。だが、レモネにはもう一つの切り札があった。


『来い!!』


 レモネが斧を避けられたタイミングで先ほど投げた盾を呼び戻したのだ。盾には持ち主の方に戻って来る機能があり、更に盾の周りには刃が出ていて、回転する盾は強力な武器に変わっていた。アリナも突然の背後からの攻撃に対処出来ず、初めて回避では無く魔力で壁を作ってそれを防いだ。レモネはそれを待っていたのだ。

 自らの壁で後方への逃げ道が無くなったアリナに対してレモネは体当たりして兜を脱がそうとした。しかし、アリナはそこまで甘くは無かった。逆に魔力で作った巨大な手にレモネは掴まれていたのだ。


{殺される!!)


 レモネはアリナから殺意を感じ、巨大な剣が振り上げられるのを見ていることしか出来なかった。レモネが掴まれてしまっては他の者も直ぐに助けるのは難しい。が、なぜかそこで一瞬アリナの動きが止まった。


「アリナ?」


 もしかしたら正気に戻ったのかもと思い、レモネは呼び掛ける。が、次の瞬間にはアリナの剣は振り下ろされていた。ギリギリのところでオルトがレモネを掴んでいた巨大な手を壊し、ソシラがレモネを突進しながら抱き抱えてなんとか避ける事が出来た。手を止めたと思ったのは単に余裕をかましていただけかもしれない。


(駄目だ、どうにもならない……)


 レモネは今のままではアリナを助ける事など出来ないと感じてしまっていた。自分達との力の差は目に見えているからだ。

 そんな時、市民の救助が終わったのか、騎士団の騎士達がレモネ達を助けに向かって来るのが分かった。レモネはそれを見て諦めてはいけないと再び考え直した。


「アリナ、まだ調子が出ないようね。

でも、作戦は成功よ。コイツらの始末はまた今度にしましょう」


 いつの間にかレオラがアリナの横に立っていた。アスイがレオラを追いかけてくる。


「じゃあ、また会いましょうね。次はもっと酷い地獄でね」


「レオラ、待ちなさい!!」


 アスイの言葉を聞かずにレオラはアリナを連れて現れたゲートに入って消えていった。アリナは素直にレオラに従っていたが、消える直前にレモネ達の方を見た気がした。


「ごめんなさい、倒し切れなかったわ。

アリナさんの反応は?」


「残念ながら私達の言葉を聞き入れてはくれませんでした。

ただ、何も言い返して来なかったのには理由がある気がします」


 メイルが説得が失敗した事を話す。メイルの言う通りアリナの様子がおかしいのは確かだとレモネも思っていた。


「俺も分かった事がある。アリナはダルアで強化はされているが、その力を使いこなせていない。だから今日は対処出来た。

ただ、使いこなせてきたら俺とアスイさんの2人でも勝てないかもしれない」


「そうですか……。ただ、アリナさん自身がこちらに来る可能性があるなら何とかなるかもしれません。後で対策を練りましょう。

それよりまずは周囲の被害の確認と敵の残りを何とかしましょう」


 アスイがそう言って一旦話は終わった。アスイとオルトは引き続き敵の残りの相手をしたが、レモネとソシラは限界で安全な場所で休んでいた。ゴマルは怪我をしたが、ミアンがすぐに対処したので大怪我にはならずに済んでいた。


 メイル達は生き残った市民の傷を治したり食事を準備したりして忙しく動き回った。ある程度休んだレモネとソシラもその手伝いをするようになる。結局、ラブネの町の生き残りは1割にも満たないようだった。敵の兵器は全て壊せたものの、かなりの規模の被害が出た事になる。騎士団への打撃もかなりのものだろう。


 その報告が届いたのは周囲の安全が確保出来て、一旦王都までレモネ達が戻ろうと思った時だった。


「王都が大規模な攻撃を受け、ペンタクルエリアがかなりの被害が出ている模様です」


 王都から魔法の伝令で届いたのは王都が攻撃を受けた報せだった。レオラが作戦が成功したと言ったのはこの事だったのだ。


「お父さん……」


 レモネは父であるデンネ・ササンがペンタクルエリアでも商売をしているので、王都に来ていない事を祈るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ