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12.悪魔の兵器

 ドワーフのゴンボの飛行機械が湖に落下してしばらくすると、近くにいたと思われるドワーフ達が次々と湖岸までやって来た。アリナは飛行機械を岸まで運び、ゴンボも岸に降り立つ。


「親方、よくぞご無事で」


「馬鹿もんっ!!こいつの整備を最後に担当したのは誰だ!!」


 ゴンボは周りのドワーフ達に怒鳴り散らす。ドワーフ達はゴンボの部下らしく、皆ゴンボほど歳を取っていなかった。ゴンボが恐ろしいのか、誰も名乗り出ない。


「あの、最終確認したのは親方自身でした……。それに、砦への到着は成功して、砦側での整備は親方がしたのでは?」


 1人のドワーフが勇気を出して発言する。確かに砦からの発射時に他のドワーフの姿は無く、ゴンボが自分で発射の整備をしていたと思われる。


「うるさいっ!!確かにワシが最終確認をしたが、それでも展開部分の耐久性の確認など気にする部分はあった筈じゃ。それを指摘しなかったなら整備担当は失格じゃ!!」


「お爺ちゃん……八つ当たりはそれぐらいにして。みんなお爺ちゃんが無事で安心したんだから……」


 ドワーフの男達の後ろからか細い声が聞こえる。よく見ると、身を屈めたドワーフの男達より屈強な女性のドワーフが喋っていた。


「ギンナ、お前も来てたのか。

そうじゃな、済まない。工房での失敗はワシの失敗でもあると常々言っておったのにな。

ともかく、飛行機械を工房に持ち運んでどこが悪かったか確認するぞ」


「分かりました、親方」


 ドワーフ達は飛行機械をタイヤの付いた荷車のような機械に載せようと運んでいく。


「そうじゃ、アリナ。今後お主の相手をするじゃろうから紹介しておこう。ワシの孫のうちの1人、ギンナじゃ」


「どうも……ギンナ・ドドヌです。お爺ちゃんの手伝いで工房で働いています……」


 立派な筋肉とは反対に大人しい口調でギンナはうつむきながら自己紹介する。


「こいつはこんな感じで恥ずかしがり屋でな。他者との交流が苦手なんじゃ。

じゃがな、こいつはワシに似て機械の研究に関しては優秀なのじゃ。特に魔導帝国の魔導機械の知識に関してはドワーフでも1、2を争うじゃろう。

仲良くしてやってくれ」


「分かった。

あたしは人間のアリナ・アイルよ。あたしは魔法とか魔導具とかの知識はそんなに無いから話が合うか分からないけど仲良くしようね」


「は、はい……」


 ギンナは消え入りそうな声で答える。顔はよく見ると丸っこいが可愛く、濃い橙色の髪を三つ編みにしてるのが似合っている。背はアリナと同じ位でドワーフとしては大きく、身体はアリナの倍ぐらいガッシリしていた。作業着のようなズボンをはいていて、常に背を屈めているので筋肉はあってもどこか儚げな印象をアリナは受けるのだった。


「では、工房に案内するとしよう」


 ゴンボが先導してアリナとギンナはドワーフの工房へと向かうのだった。

 ドワーフの工房は湖から近い岩山にあり、工房というより舗装された洞窟のようだった。元々は鉱山を掘り進みながら住居を広げ、そこに工房も作るようになったという。入り口は金属の門や見張り台や砲台のような物で守られ、4つ脚のガーディアンのような巨大な機械の兵士も並んでいた。戦いには参加しないと言っていたが、守りは固めているようだ。

 工房の中に入ると迷路のように道が入り乱れ、エスカレーターやエレベーターのような上下階移動する機械も動いていた。どれも魔導機械のように洗練はされておらず、むしろアリナが転生する前の現実世界の機械に近い技術に感じられた。ただ、換気はされているものの、金属や油の匂いがきつく、ドワーフと人間の感性の違いをアリナは思い知らされる。


「どうじゃ、凄いじゃろ、ドワーフの技術も」


「確かに人間の世界もここまで機械では動いて無いかも。魔法では動いてるけど」


 アリナは正直に答える。王都の高級店などには魔法で動くエレベーターは存在しており、魔力の消費を考えなければ今の人間でも同じ事は出来ていた。


「やはり魔法か。悔しいが魔導帝国時代の技術はこんなものじゃ無かった。じゃが、魔力ありきの技術の発展には限界がある筈じゃ」


「お爺ちゃん、それでも魔導帝国の技術の発展は素晴らしかったと思う」


 ギンナは思い入れがあるのか、はっきりと反発する。


「いや、わしは膨大な魔力ありきの技術など認めん。ギンナも新しい動力の研究に手を貸せと言っておるのに」


「お爺ちゃんこそ間違った方向に進んでると思う……。だからあんな事故が起きてるんだし……」


 ギンナは言いにくい事なのか、小声で言う。それに対してゴンボはギンナを睨んだ。アリナは険悪な雰囲気を感じて口を挟む。


「何かあったの?そういえば、どんな問題を解決するのかも聞いて無いけど」


「そうじゃな、そろそろ話さねばな。そこの部屋で休憩しつつ話すとするか。

ギンナ、飲み物を持って来い。ワシには酒だ」


「お酒は止められてたでしょ。お客さん用の果実水で我慢して」


 ギンナはそう言って離れていった。


「すまんな、昔は可愛い孫じゃったが、最近は意見が合わんでな。まあ、反対意見も大事じゃとワシは思っておるが、ドワーフは喧嘩になる事が多くての」


「でも、ゴンボ爺さんの事思ってそうな子だと思ったよ」


「それはそうかもしれんの」


 ゴンボは照れ臭そうに笑う。やはりギンナは可愛い孫娘の1人なのだろう。

 ゴンボに案内された工房の一室は飾り気の無い、木の椅子とテーブルがあるだけの部屋だった。横に椅子が積んであり、休憩用の部屋のようだ。アリナはゴンボの正面の椅子に座って少しするとギンナが入ってくる。


「ここにはこんな物しかありませんが、どうぞ……」


 ギンナが金属のコップに入った果実水と木の実が盛られた皿を持ってきた。ギンナはゴンボの横の席に座る。ゴンボが歳なのもあるが、並ぶとギンナの方が一回り大きいのがよく分かった。力でもギンナの方が上だろう。


「で、問題の話じゃったな。

工房の入り口に配置した機械兵は見たじゃろ?あれはドワーフの技術で開発した、自立防衛用兵器じゃ。まあ動力は魔力なので長時間稼働出来ない半端ものなんじゃがな。

その問題を解決する為に以前話した魔族の技術協力で動力源を魔力以外の物にした、改良版の機械兵の開発をしておった。それも完成し、工場で量産が開始されたのじゃ。

しかしな、更に改良版の開発をしていたところ、事故が起こったのじゃ。機能を向上させた試作機が暴走して、他の機械兵を操って暴れ出したのじゃ。作業員や共同開発の魔族の連中の被害は最低限で済んだのじゃが、工場を占拠されて手も足も出ない状態になっていてな。外部からの命令も利かなくなり、燃料も工場にあるので燃料切れも無いので困っておったのじゃ」


 ゴンボが問題について説明した。つまり作った試作型のロボットが反乱を起こして手に負えないという事だろう。


「それってそんなに強いの?ドワーフだって集団で戦えばそれなりに強いんじゃないの?」


「確かにドワーフ族は元々戦士の種族で戦闘もこなせていた。しかしそれも昔の話で、今のドワーフ族は技術に重きを置いて、戦いにはは備えて来なかったのじゃ。まあ、道具を使って戦う事は出来るのじゃがな。

問題は、その道具での戦いにおいて、機械兵の守りが固いのが問題という事じゃ。硬い防御に再生能力と、ワシもよく出来てると思っておる。それに加えて、納品する為の機械兵も奪われて、下手に破壊するとその損害が大きいのも問題じゃ。

じゃから、その制圧をアリナに頼もうと思ったのじゃ」


「ちょっと、それって問題全部あたしに丸投げって事?」


 流石にアリナもゴンボが無責任過ぎると思ってしまった。出来ないわけではないが、ハーフエルフのエリワの方がまだ自分の問題に対応しようとしていたなと思ってしまう。


「ごめんなさい、アリナさん。実はその問題は私が解決するって言いだしてたんです。でも、上手く行かなくて、お爺ちゃんを困らせてしまって……」


「そうでは無い。そもそもギンナの言い分はまともに聞いておらん。ワシはワシで解決しようとしておったのじゃ。じゃが、アリナの力なら簡単に解決出来ると思ってしまってな」


「まあ、それはそうだけど」


 ギンナが口を挟んだ事でアリナの怒りも収まってしまう。


「分かった、あたしが何とかするよ。

その代わり、解決したら欲しい物があるんだ」


「何じゃ、それは?」


 問うゴンボにアリナはにっこり微笑むのだった。



 日も暮れてきて工場に行くのは翌日と決まり、アリナは今日泊まる場所をギンナに案内されていた。ゴンボは飛行機械の失敗の原因を調査すると言ってアリナの事はギンナに任せっきりにしてしまった。

 工房の通路は走り回るドワーフ達でにぎやかだった。そして進むにつれて歓楽街のような場所に近くなり、周り中で酒宴をしているのが分かる。ドワーフは酒好きの種族らしく、この一帯は異様な盛り上がりだった。


「あの……、アリナさんはこういう雰囲気好きですか?」


 ギンナが小声で質問してくる。アリナは周りの乱痴気騒ぎを見て、少し嫌だなと感じていた。


「えーと、盛り上がるのは好きだけど、酔っ払いは嫌いかな。あたしはまだお酒飲まないし、ここまで騒がしいと休まらないかも」


「よかった、アリナさんもそう思うんですね。私もお酒は嫌いで、ドワーフのこういう騒ぎは嫌いなんです……。静かな場所っていうと、少し離れますがいいですか?」


「別にいいよ。周りを見てて飽きないし」


 アリナの回答は正解だったようで、ギンナは嬉しそうにしていた。ドワーフの中ではギンナのようなタイプは珍しいのだろう。アリナは転生前の学生時代のいじめを思い出してしまい、必死にそれを頭から追い払うのだった。


「ここ、私が担当している工房の研究室です……。今は私しかいないのでくつろいで下さい」


 ギンナに案内されたのは雑然と物が積まれた広い部屋だった。整理はあまりされていないが、置かれている物の殆どが魔導帝国の魔導具や魔導機械である事が見て分かる。


「魔導具の事好きなの?」


「えーと……。好きというか、凄く興味深いんです……。魔導帝国は転生者によって生み出された技術によって技術改革が起き、その結果一気に文明が進んだのがよく分かります。ドワーフのみんなは嫌う者は多いんですけど、お爺ちゃんの工房が大きくなったのも魔導具の解明を切り捨て無かったからなんです……」


 ギンナは楽しそうに話す。アリナはオタク気質な彼女に少しだけ共感を持った。姉のスミナや今はもういないガリサだったらもっと話が合っただろう。


「でもゴンボ爺さんの作った物だって結構凄くない?」


「凄くなんて無いです。飛行する魔導具だって存在しているのに、あえてそれとは別の方法で飛行させてるんですから。今日の失敗だってアリナさんがいなければ死んでいたかもしれないんですよ!」


「でも、魔導具が魔力が必要な以上、別の方法を探すのも分かるけどなあ。事故があったから問題になってるけど、機械兵の方は上手く行ってるんでしょ?」


 アリナはあまりゴンボばかり責められるのも違う気がして代わりに反論してしまう。


「いえ、あれはそもそも間違ってます。アリナさんは見てないから分からないんですよ。機械兵の動力が何か知ってますか?」


「モンスターだって聞いてるよ。あたしが乗ってた魔導馬車も動力源としてモンスターの素材を使ってたし、それでうまく行くなら成功なんじゃないの?」


「全然違います!!魔導馬車の動力は取り込んだ素材から魔力を抽出して魔力で動いてるんです。モンスターの種類や状態は関係ない、素晴らしい発明です。

でも、魔族から提供された技術は、生きたモンスターしか動力源にならないんです。しかも、取り込んだ後も動力源として生かされ、その意識も機械兵の頭脳として使われるんです。それがどういう事か分かりますか?」


 ギンナが興奮して言うので、アリナは必死に言ってる事を自分で噛み砕いて理解しようとする。生きたまま動力になるという事は檻の中で発電用の自転車を漕がされ続けるみたいな事だろうか。そして機械自体を動かすのもしないといけないと。アリナはそれだけなら殺されて燃料になるよりもモンスターにとっては悪い事では無いのではと思ってしまう。魔族に奴隷のように使われているモンスターなら扱いはそんなものだろうと。


「ごめん、あたしにはよく分からない。直接見てないからかもしれないけど」


「そうですか……。確かに見ないと分からないかもしれませんね。ごめんなさい、私ばかり話してしまって。

そうだ、アリナさんは王国の魔導具を持ってるのですよね。見せて貰えませんか?」


「魔道具?そうだな、持ってきたのは少ないけど、それで良ければ」


 アリナは部屋の何も置いてないテーブルに魔導具のアンクレットから私物の魔導具を取り出して並べる。といっても、前に使ってた魔導鎧に武器の魔導具、あとは持ってると便利な灯り等の小型の魔導具だけだった。


「触ってもいいですか?」


「いいよ、ぜんぜん」


「ありがとうございます!!」


 早速ギンナは一つずつ魔導具を手に取ってグルグルと表裏を回して見ていく。アリナはそんなに珍しい物だろうかと不思議に思う。


「これは今の王国で作られた魔導具ですね。こっちは魔導帝国前に作られた魔導鎧だ。

あ、これは凄いです。魔導帝国後期に作られた物だと思います。とても貴重な魔導具です!!」


 ギンナが興奮気味に早口で言う。研究者といよりは魔導帝国オタクみたいだ。


「これ、どこで手に入れたのですか?遺跡では無いですよね?」


「えっと、あたしも貰った物だからどこから来た物かは知らないんだ」


 ギンナが手にしたのはアリナの父ダグザが双子の為に用意し、スミナがアリナの為に持ってきた自由に形を変えられる魔導具の武器だった。確かに珍しい物だとは思ったが、そこまで貴重な物だとは思わなかった。


「そうですか……。でも、王都にはこういった貴重な魔導具が沢山あるって事ですよね?」


「まあそうだね。あたしは行かなかったけど、宝物庫には貴重な道具が沢山あったって聞いたね」


 アリナはそう言いつつ、教えてくれたスミナがもういない事を思い出してしまう。


「やっぱりそうなんだ……。行ってみたいな、王都……」


「ギンナさんはなんでそこまで魔導具が好きになったの?」


「あ、ごめんなさい……。私また興奮してましたよね……。

少しだけ私の昔話をさせて下さい。

私の両親は私が幼い頃に亡くなりました。母が病気で先に亡くなり、父は工房での事故でその2年後に亡くなりました。私には3人の歳の離れた兄がいますが、その頃兄達はもう工房で働いて自立していて、子供だったのは私だけでした。

あ、別に私の不幸自慢を聞いて欲しいとか、そういうのじゃ無いんです。知っての通り、ドワーフは種族としての繋がりが強く、実際の親で無くても家族のように接してくれますから」


「うん」


 アリナはドワーフの事はよく知らないが、ギンナが喋りやすいように相槌を打つ。


「なので、両親を失った私は親戚の家に預けられたんです。そこでの生活に不満はありませんでしたが、私がこんな性格だったのもあって、親戚の家の子供達と私はどうしても距離がありました。今でもあの家の方達には申し訳無かったと思います。

私の話を聞いたお爺ちゃんがだったら自分が引き取ろうと言い出したんです。私はどっちでもよかったのですが、親戚の家の方達の事を考え、お爺ちゃんのところに行きました。今思うとお爺ちゃんは自分が開発した機械の事故に父が巻き込まれて亡くなった事に責任を感じてたのかもしれません」


 やはりゴンボは頑固そうだけど家族思いの優しい面もあるみたいだとアリナは思った。


「祖母はもう亡くなってたので、私はお爺ちゃんと2人で生活する事になりました。と言っても、お爺ちゃんの周りには沢山のドワーフがいつもいるので、私はその中に大人しく混ざってるだけでしたが。

問題なのは仕事中で、工房は見ての通り危険な機械や道具が沢山あり、お爺ちゃんは私がそれに巻き込まれないか心配して何とか大人しくさせておこうと考えました。その時持ってきたのがこの魔導具の玩具です」


 ギンナが懐から大事そうに手の平大の魔導具を取り出す。それはもうかなり年季が経っているように見えた。


「ただの魔導帝国時代の子供用の玩具なんですが、触る強さや角度で色や光り方が変わる、私にとってはとても珍しい物でした。子供の時の私はこれでずっと遊んでたんです」


 ギンナが魔導具に触れるとそれは七色に光り、光り方が微妙に変化していってアリナも綺麗だと感じた。


「それで魔導具が好きになったんだ」


「はい。大きくなるにつれて私はこれがどういう原理で動いているか知りたくなりました。

ただ、最初適当に分解してしまい、動かなくなったんです。お爺ちゃんでも、他のドワーフでもそれを直す事は出来ませんでした。

だから、私は必死に魔導具を研究し、仕組みを理解し、どこが壊れたかを調査したんです。

と言っても、これが直ったのは今から3年前で最近なんですけどね」


「凄いじゃん、自分で直したんなら」


 アリナがそう言うとギンナは恥ずかしそうに笑った。とても素直で可愛い子だなとアリナは思った。ギンナが何歳かは知らないのだが。


「あの、アリナさんに見てもらいたい物があります……。付いて来てくれますか?」


「いいよ」


 ギンナは何かを決意したのか、アリナを部屋の奥へと連れて行く。ギンナは何の変哲も無い壁の前で立ち止まった。そして、壁に手を当てると前に押した。すると壁に窪みが出来て、そこに番号が彫られたボタンが付いていた。ギンナがボタンを押すと、横の壁が上にスライドし、隠し通路が現れたのだった。


「ここは私とお爺ちゃんと、限られた人しか知りません。出来ればアリナさんも他の人には黙っていて下さい」


「いいよ、約束する」


 ギンナがどこまで信用しているかは分からないが、アリナは本気で黙っているつもりだった。通路は長く、下りの階段もあり、どんどんと下の階層へと降りて行った。そしてかなり下ったところで大きな広間に出た。そこは高さが20メートルもある大空洞で、巨大な金属の扉で閉ざされていた。


「ここにあるのは、古代魔導帝国の兵器です。といっても、壊れていた物をドワーフ達が勝手に回収した残骸置き場でした。

ですが、私はこれらの兵器がドワーフの未来を救うと思っているんです」


 ギンナがそう言いながら壁の操作盤を操作する。そして“ゴゴゴゴゴ”と重低音を響かせながら金属の扉が開き始めた。そこには魔導帝国のガーディアンと思われる機械が並んでいた。ただ、光を放っている物は無く、どれも動かないようだ。


「凄い数だね」


「殆どが壊れてますけどね。動いても動力や命令系統の関係で、まともに動きません。

ただ、私は調べていて分かった事があります。ガーディアンの技術もドワーフに伝わる技術も元を辿ると同じ部分があるんです。大昔、ドワーフにも転生者がいたと聞きました。その方の発明は一時的にドワーフを文明の頂点に導いたとも聞いています。ただ、その方が天才なだけで、その技術の殆どは継承されなかったとも。

もしかしたらその技術を魔導帝国の人達が解明して使ったんじゃないかって私は思うんです」


 ギンナが力説する。エルフの転生者の話は聞いたばかりだし、ドワーフにも転生者がいておかしくは無いだろう。きっと機械に詳しい人がドワーフに転生して、それを広めたのかもしれない。その名残が今もドワーフに残っていると。


「ドワーフは資料とか残して無いの?」


「残念ながら、ドワーフには文字を書く文化が殆ど無いんです。図面は残したりするのですが、古い物は紙質が悪く、結局口伝と実物で伝えるのが一番速いという事で、資料がきちんと残っている事は少ないんです」


「そうなんだ」


 アリナも細かい記録を残すのが面倒なタイプなので、ドワーフの考えは何となく受け入れてしまう。結果として技術の発展が遅れたり、技術が埋もれたかもしれないと考えるとやはりよくないのだが。


「奥にもっと凄い物があります」


 ギンナがガーディアンの間を歩いて行くのでアリナもついて行く。すると、そこには見た事のある物があるのだった。


「これって、もしかしてグスタフ?」


「やっぱりアリナさんは知ってましたか。グスタフ、というんですね、この超巨大ガーディアンは」


 アリナが戦ったグスタフと形状の違いは少しあったが、20メートル近い巨人型のガーディアンはグスタフだろう。


「魔導帝国時代はこんな兵器が何体もいたと聞いています。強さは圧倒的だったでしょう。

私はお爺ちゃんにも内緒でこれを直していました。これがあれば魔族連合に入らなくてもドワーフを守る事が出来ると思って。

でも、動きませんでした。どうも、このガーディアン自体には動力源が無く、動力源となる何かを積み込む事で動き出す仕組みなんだという事までは分かりました」


「多分、魔宝石マジュエルが必要なんだと思う、このグスタフは。王国にいた頃に聞いたから」


 アリナはスミナにエルがグスタフに乗り込んで戦っていた話を聞いていた。これは自立しない魔宝石用の初期型のグスタフなのだろう。


「魔宝石ですか。聞いた事がありますが、実物が存在するという噂は聞いた事がありません。となると、このままでは動かないんですね、やっぱり」


「そうだね。無理だと思う」


 アリナは流石にエルの事は伝えなかった。伝えたとしてもエルを連れて来る事など不可能なのだが。


「ギンナさんはなんでそんなに魔族連合に反対なの?ドワーフの安全を考えたら従っていた方がいいんじゃない?」


「お爺ちゃんは騙されてるんです。魔族の技術はやっぱり悪魔の技術でしか無いんです。あんな物を使っていたら、いつかドワーフも取り返しのつかない事になります。

アリナさん、お願いです。お爺ちゃんを説得して下さい。魔族連合に入るのはしょうがないとしても、魔族の技術を使うのは止めるようにと」


 ギンナは必至に訴える。アリナとしては複雑な思いだった。魔族連合に頼るしか今のアリナには出来ないからだ。


「そうは言ってもあたしも魔族連合に入ったばかりで、あんまり印象が悪くなるようなことは言えないしなあ」


「あと、アリナさんは闇術鎧ダルアを使っているとお爺ちゃんに聞きました。それも止めた方がいいです。詳しい技術は分かりませんが、今の魔族にダルアを作る事は出来ないと聞いています。恐らくデビル達でさえ、どんな影響があるか分からずに使わせていると思います」


「そうかな?あたしは今のところそんな危険は感じないよ」


 アリナがダルアに危険を感じていないのは事実だった。ダルアの主導権はレオラに握られているかもしれないが、使っていてアリナに負担がかかるとは今のところは思えない。


「すみません、私も詳しくは分からないで言ってるだけですが、魔族の技術はとにかく危険なんです。明日見れば分かると思います」


「分かった。忠告ありがとうね。覚えておくよ」


 アリナはそう言ったものの、今のところギンナの味方は出来ないなと思うのだった。


 その日はギンナの研究室の近くの部屋に泊まり、食事もお風呂も準備して貰ってくつろぐことが出来た。と言っても、やはり機械の独特の臭いには最後まで慣れなかったが。



 翌日になり、アリナが朝食をギンナと一緒に食べていると、ゴンボがやって来た。


「よし、起きておるな。早速だが問題の解決をお願いしたい。ワシと若い衆も協力するからな」


「お爺ちゃん、私も行く。あれも動くようになったし」


「――分かった、着いてこい」


 ゴンボはギンナの覚悟を感じてか、止めはしなかった。


「じゃあお爺ちゃん、入り口のところで待ち合わせで」


「了解じゃ。ただ、遅れたら置いてくからな」


 朝食が終わるとギンナは一足先に部屋から出ていく。


「アリナ、お主は準備出来ておるのか?」


「あたしは特に準備無くて大丈夫だよ。

でも、ゴンボ爺さんこそ戦闘なんて出来るの?」


「ワシはこれでも色々と作っておるからな。ワシらの事は心配せずに自分の事に集中しておれ。

あと、お主が倒す目標の形状を説明しておく」


 ゴンボが試作型機械兵は白色の装甲で、高さは5メートルで4脚の兵器だと説明した。動きが他の機械兵と段違いだから見れば分かるとも。


「魔族の連中すら逃げ出したぐらいじゃ、油断するなよ」


「それこそ心配しないで、爺さん」


 アリナは自信たっぷりに言うのだった。


 ドワーフの工房の外に出ると、ゴンボが言っていた若い衆がドワーフ製の機械兵と共に待っていた。ゴンボの様に全身に機械を纏ったりはせず、安全性の為の装甲が付いた、作業着のような鎧を皆着ていた。全員髭モジャなので、実際にどれぐらい若いのかアリナには判断が付かない。


「例の物は持ってきたな?」


「はい、親方。直ぐに着けますか?」


「勿論じゃ」


 ゴンボが言うと若い衆が機械を置いた台車をゴンボの近くに持ってくる。そしてゴンボが一旦今着ている機械を脱がし、持ってきた機械をどんどんとゴンボに着けていった。みるみるうちにゴンボは2メートルぐらいの巨大な人型の機械になっていた。ただ、全体的に太く丸く、樽に手足が付いたような印象を受ける。


「これがワシ特製の機動鎧じゃ。数分間なら魔導鎧を着た人間より速く動けるぞ」


「そうですか……」


 アリナはゴンボが飛行機械の時と同様に無理矢理速度だけ上がる気がしてならなかった。他のドワーフ達は装備を変えたりせず、あくまで持って行く機械兵を操る為の人員のようだ。戦士のように戦うドワーフはもういないのかもしれない。


「アリナさん、お爺ちゃん、お待たせ」


 出発の準備をしていると、ギンナの声が背後から聞こえる。そちらを見るとギンナは巨大な鳥に似た2本脚の機械に乗ってきていた。アリナは見た事の無い機械だった。


「それもドワーフ製の機械?」


「ううん、これは魔導帝国初期に開発された魔導兵器だよ。といっても、壊れてて、動力部分は私が直したの。これでも機械兵よりは戦えるから」


「ギンナ、無理はするなよ」


「分かってるよ、お爺ちゃん」


 アリナ達はドワーフ製の移動機械に乗って、目的地の工場へと向かうのだった。


「坂の上に山が見えるじゃろ。その山の廃坑を工場にしたんじゃ。そろそろどんな感じになってるか見えてくる筈じゃ」


 軽トラのような屋根の無いガタガタ揺れる移動機械の上でアリナはゴンボが言った山の方を見る。するとくねくねと続く上り坂の上にずらりと列をなす何かが見えてきた。近付くにつれ、それらが工場で作っていた、改良型の機械兵だと分かる。


「そろそろ止めよう。相手の射程距離に入る前にな。近付くとどうなるか試してみるか。

おい、ダミーの風船を準備しろ」


 ゴンボが移動機械を止めさせ、敵の機械兵が動作してるのか確認しようと準備を始める。


「見た目はここにある機械兵とあまり変わらないね」


「よく見ていて下さい。動きも速度も、再生能力も大きく異なります」


 移動機械から降りたアリナは並走していた魔導兵器に乗るギンナに話しかけた。ギンナの表情はいつにも増して険しかった。坂に配置された機械兵達はこちらに気付いているのか分からないが、まだ動き出さない。


「親方、飛ばします」


「よし、行け!」


 ゴンボが指示を出してドワーフ達が準備した3つの風船を飛ばす。ダミーの風船は大きさがちょうど機械兵と同じぐらい大きく、色もシルエットも機械兵に似せていた。ただ、よく見ると風船だと分かるので人や亜人などは騙せないだろう。

 風船はゆらゆらと地上の少し上を浮きつつ坂道を登っていく。そして相手の機械兵と距離にして200メートルぐらいに近付いた時、機械兵に動きがあった。ガシャンガシャンと風船に気付いた機械兵が向きを変え、胴体の上にある砲塔のような4つの筒を風船へと向けたのだ。そして次の瞬間、“パーンッ!!”という音と共に3つの風船は3体の機械兵によって全てほぼ同時に破壊された。アリナは注意深く見ていたので、機械兵が行った攻撃が、筒から金属の30センチぐらいの針を高速で撃ち出したのだと分かった。そしてそれは十分破壊力がある事も。


「うむ、我ながらいい完成度じゃな。しかし、これではやはり簡単に近付けんな。

アリナ、今の攻撃は次弾を撃つのに15秒だけ隙が生まれる。それで何とかなるか?」


「こっちから攻撃して破壊しちゃダメなの?」


「数体の破壊なら許容範囲じゃ。じゃがな、アリナはともかくワシらの攻撃ではなかなか破壊しきれん。こちらの機械兵と撃ち合ったら射撃精度も耐久力も全てこちらが下回っとるのじゃ」


 ゴンボ達が工場を奪還出来なかった理由がよく分かった。地形的にも防衛側の工場側が有利で、奥にいるだろう試作型まで辿り付かないと思われるのだ。


「お爺ちゃん、協力するんでしょ。私とお爺ちゃんなら数分は囮が出来るでしょ」


「そうじゃな。

お前らはここで待機して、撤退する時には援護しろ。

アリナ、ワシらが敵を引き付けるからいいタイミングで進んでくれ。ワシらの事は心配しなくてもいいからな」


「分かった。ゴンボ爺さんもギンナさんも気を付けて」


 アリナは2人に囮を任せる事にした。それと同時に2人が先ほどの攻撃をどう対処するのか気になりもした。まともに喰らったらゴンボもギンナも生身の本人が貫かれて死んでしまうからだ。いくらドワーフの身体が頑丈とはいえ、あんな攻撃では一たまりも無いだろう。


 アリナは機械兵の射撃武器に関してよく考えられているなと感心していた。今の時代の戦闘では飛び道具が殆ど使われない。魔法は魔法で防御され、弓矢も魔法で軌道を変えられたり強化魔法の速度で避けられるからだ。神機しんきや高速で矢を放つハーフエルフのエリワなどは例外中の例外という事だ。

 機械兵の射撃は高速で金属の針を放つ事で魔法で防御出来ず、軌道を変えたり避けるのも困難になっている。問題となるのは射撃の精度だが、それはドワーフの技術で克服したのだろう。


 ゴンボは全身機械の機動鎧で、ギンナは鳥みたいな形状の二足歩行の魔導兵器に乗って坂道を進んで行く。機械兵の射撃の対処としては避けるのが最善策だが、2人とも動きは軽快とは言えず、避けるのは無理に見えた。大量の機械兵相手に2人が何とか出来るとアリナは思えず、いざとなれば自分が助けに行かないとと考えていた。


「行くぞ!!」


「はいっ!」


 ゴンボが突然速度を上げ、ギンナの魔導兵器の先を行く。ゴンボはあっという間に先ほど風船が破壊された地点まで来ていた。そしてそこでもゴンボは止まらず、そのまま機械兵の方まで前進を続ける。勿論機械兵達はゴンボに向けて攻撃を開始する。確かに速度は速いがこれではゴンボがただのいい的ではと思ってしまう。


(攻撃を弾いた!?)


 ゴンボへと飛んで来た3体の機械兵からの射撃は全て弾かれ別の方向へと飛んで行った。アリナはどうやってそんな事をやってのけたのか魔法で視力を上げてゴンボをよく観察する。新たに1体の機械兵からの針がゴンボへ放たれた。針はゴンボの進攻方向へ真っ直ぐ飛んで行く。するとゴンボは腕を胴体にくっつけ、樽のような曲線状の身体を少しだけ傾けた。針はその胴体の曲線状の装甲に沿って曲がり、別方向へ飛んで行った。

 当たり前だがゴンボは機械兵の射撃の対処法も分かっていたのだ。あの樽のような機動鎧の形も意味があり、機械兵に対抗出来るようになっていたのだ。

 ゴンボはそのまま1体の機械兵に接近し、針を放つ砲身を殴ってひん曲げていった。機械兵は味方を撃つ事はしないようで、機械兵ごとゴンボを撃ったりはしなかった。つまり接近して1体ずつ砲身を破壊するのは有効な手なようだ。


(なかなかやるな、ゴンボ爺さんも)


 アリナは失敗続きに思えたゴンボを見直すのだった。


 アリナが少し遅れたギンナの方を見ると、ギンナも機械兵の射撃範囲に入っていた。形状的にギンナの魔導兵器はゴンボの様に射撃を逸らせるようには見えず、バイクのように跨って上に乗っているギンナも装甲がある前面以外無防備に見えた。勿論移動速度もゴンボよりも遅いので瞬間的に避けるのも無理そうだ。


「えっ!?」


 思わずアリナは声が出てしまった。ギンナに向けて撃たれた針が途中で消滅したからだ。アリナにはそれが撃ち落とされたように見え、ギンナが何をしたのか再度確認した。よく見るとギンナの2足歩行の魔導兵器の左右に細長いケーブルのような紐状のアームが出ているのが分かった。アームの先端には丸く光る球体が付いている。再び機械兵の射撃が始まると、その球体から光の弾が発射され、それで針を撃ち落としていたのだ。

 魔導兵器は魔導帝国製なので射撃が敵の位置から読み取れ、それを撃ち返す計算も出来るのだろう。ギンナも勿論機械兵の情報を知っているので、その情報を魔導兵器にも入力してある筈だ。機械兵より魔導兵器の方が優秀なのをギンナは知っているので協力を申し出たという事だ。

 ギンナの魔導兵器がある程度機械兵に近付くと、魔導兵器の正面が開いて何かが発射された。それは白くねばねばした餅のような物体で、機械兵にくっつくと絡みつき、4脚が正常に動かなくなって藻掻き始めた。機械兵用の粘着弾なのだろう。


 ゴンボもギンナも余裕に見えたが、そうでは無かった。突然ゴンボが弾き飛ばされ、数メートル坂道を転がり落ちる。見ると機械兵が接近戦用のアームを出していた。射撃が効かないと判断して攻撃方法を変更したのだ。ギンナも接近戦は不利らしく、粘着弾も連発出来ないようで後退しつつ戦っていた。魔導兵器だから魔力切れも心配してるのかもしれない。


(そうだ、あたしがやらないと)


 アリナは戦いを見てる場合では無いと急いでダルアを着て、危険度が高い試作型の機械兵と思われる方向へと急行した。


(こいつだ)


 機械兵達の射撃を避けながら工場の方へ接近すると、工場の入り口にゴンボが説明した通りの1体だけ白く、少し大きい試作型機械兵がいた。試作機はアリナを認識し、他の機械兵と同じように射撃を放つ。アリナは危険察知の祝福ギフトとダルアで強化された速度で他の機械兵からの射撃と同様に楽々避けられるつもりだった。


(嘘っ!?この針追って来る!!)


 アリナは完全に避けたつもりの針が軌道を変えてアリナに直撃しそうになり、それを武器の魔導具でギリギリ叩き落す。恐らく魔法か何かで誘導したのだろう。しかも試作機の射撃は時間を置かず次々と放たれてアリナは叩き落すのに専念させられた。



(落ち着けあたし。こんなの苦戦する相手じゃない)


 アリナは自分に言い聞かせる。試作型機械兵は確かに強力な攻撃をしてくるが、今まで戦った強敵に比べれば大した相手ではない。そもそもアリナ自身がダルアで強化されたので攻撃を喰らっても自己修復すら出来るのだ。


(一気に決める!!)


 アリナは試作機の攻撃に隙が出来た瞬間に攻めに転じた。武器の魔導具を巨大な剣に変え、真正面から試作機を叩き割った。試作機の白い装甲は避け、真っ二つに割れたのだった。


「やっぱり苦戦する相手なんかじゃない……え?」


 アリナは危険を察知して一旦距離を取る。するとアリナのいた場所の地面から赤黒いトゲが空に向かって数本伸びていた。よく見ると試作機の割れた断面からドクドクと脈打つ真っ赤な肉が見えた。その肉は地面に向けて根を張り、そこからトゲを出したようだ。

 いつの間にか割れた断面の肉から何本もの触手が出てきて工場の方へと伸びていく。そして戻って来た触手には手足を縛られた生きたゴブリンやオークが捕獲されていた。言葉は分からないがゴブリンもオークも悲痛に叫んでいた。だが触手はそのまま断面にモンスターを取り込み、一体化していった。モンスターを取り込んだ事で力が増したようで、分かれた断面同士がくっつき、元の試作機に戻っていく。


(これがギンナが言っていた事か)


 アリナも機械兵がモンスターを取り込む様子を見て、気分が悪くなっていた。見た目は機械的なのに内部はあんなに生物のようになっているのだ。これは確かにドワーフの技術とは別の何かだ。


(今は考えるのは止めよう。とにかく、とどめをどうにか刺さないと無限に復活しちゃう)


 アリナは他の機械兵の射撃を避けながら、どうやって完全に破壊するか考える。試作機は先ほどのアリナの攻撃に備えて接近戦用のアームを複数出して両断されない対策を取っていた。切り刻むのには時間がかかりそうだ。

 これがデビルの呪闇術カダルから作られた技術だとすれば、何かコアのような部分がある筈だとアリナは考える。アリナはダルアの力を更に開放して分析に集中した。


(見えた!!)


 アリナは試作型の内部に渦巻く黒い波動を感じ取った。そして一気に距離を詰め、敵の攻撃を華麗に避けて槍に変形させた魔導具でコアを貫いた。すると試作型は動きを止め、装甲の隙間から溶けた肉体が腐臭を伴って地面へと流れ落ちていった。


(気持ち悪い……)


 アリナは闇術書ダルブを読んで、禁断の術を覚えはしたが、それを実施したイメージをきちんと想像していなかったと改めて感じた。そしてギンナの言う通り、この改良型の機械兵に使われた魔族の技術は吐き気を催すものだと理解する。


(これって、モンスターが燃料だって言ってたけど、それだけじゃない……)


 アリナがそれに気付いた時、背後に人の気配を感じた。アリナは身構えて振り向く。


「やっぱりアナタなら上手く解決出来ると思ったわ。

現地で燃料を補給出来る兵器って理想的でしょ。さあアリナ、本当の仕事を始めましょうか」


「レオラ……」


 アリナの背後にいつの間にか立っていたのはレジーナと呼ばれるデビルの転生者、レオラだった。


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