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9.残された者達

 王都の郊外ではモンスターと騎士達の戦闘が繰り広げられていた。騎士達の先頭に立ちモンスターの群れに真っ先に突っ込んだのは白銀の魔導鎧を着た騎士だった。


「お前達、それでも王国の騎士か?戦場で重要なのは速度だ。先手を取って相手の思い通りにさせない事が一番被害を抑えられるんだぞ」


 白銀の騎士は牛が異形化したモンスターの首を斬り落としつつ背後の騎士達に呼び掛ける。その速度は魔法の加速では得られぬ稲妻のような速さだった。


「オルトさんの速度について行くのは普通の騎士には不可能ですよ!」


 若い男の騎士が不満を言いつつオルトに追い付いて周りのモンスターを倒す。先頭に立っていた白銀の騎士こそ過去の英雄でしばらく戦場から離れていた中年の騎士、オルト・ゴロフだった。その動きは現役の他の王国騎士に比べて鮮やかで、無駄のない剣技だった。

 周囲にいる王国の騎士達も精鋭揃いの筈だが、オルトはこの歳になっても尚、一回り強さが違っていた。むしろ過去よりも強くなっているのではと過去のオルトを知る騎士が思うほどだった。


「こいつらを操ってる敵の親玉がいる。俺はそいつを倒してくるからお前らは雑魚どもを頼むぞ」


「え!?ちょっとオルトさんっ!!」


 女性騎士が呼び止める暇も無く、オルトは速度を上げて敵の中を掻い潜って進んで行った。残された騎士達はしょうがなくオルトの指示通り異形化したモンスター達を必死に食い止めるのだった。

 敵の数は百体を超え、中にデビルが混ざっていてもそう簡単には見つけられない。だがオルトの動きに迷いは無かった。


(見つけた!!)


 オルトが巨大なモンスターの上から戦場を眺めるデビルを発見する。オルトが敵の指揮官を見つけられたのは祝福ギフトでも魔法でも無く、長年戦場に身を置いて得た勘だ。勘と言っても戦場の敵の動きを見て、その流れを辿り、指揮官ならどこに身を置くかを経験で導き出した結果である。


「キサマ、その姿知ってるぞ。賞金首になってるオルトだな。ここがアタリだったとは運がいい」


「へー、魔族の中でもまだ有名人だったか。それは嬉しいな。が、運は悪いと思うぞ」


 オルトを見下ろす緑色のデビルに言い返す。そして次の瞬間、オルトの姿はデビルの視界から消えていた。


「何っ!?」


 叫ぶデビルだが、既にその身体はオルトの剣撃で一閃され、首が転げ落ちた。それと同時にデビルが乗っていた巨大なモンスターの首も綺麗に斬り落とされていた。


「悪いが速さが売りなんでね」


 オルトはそう言って魔導具の剣を鞘に仕舞う。オルトが敵の指揮官を倒した事で異形化した動物のモンスターは元に戻り、残ったのは数体のモンスターだけだった。それらも騎士達によって簡単に駆除されたのだった。



「結果は聞いている。ご苦労だったな、オルト」


「他の場所でもまたモンスターの襲撃があったんだってな。完全に相手のペースだぞ。大丈夫なのか?」


 郊外でのモンスターの討伐が終わって王城に戻ったオルトは王国騎士団長であるターンの部屋に訪れていた。今は2人以外誰もおらず、オルトはターンの机の近くにある席に腰を下ろす。


「大丈夫なものか。王都の復興もままならない状態での波状攻撃で騎士団の負傷者は増えるばかりだ。かといって王都の守りを手薄にする事は絶対に出来ない」


「相手はこっちにもぐら叩きさせて疲弊させればいいだけだから楽だよな。魔族のゲートや引き入れてる仲介者は見つからないのか?」


「それも勿論やってるが、とにかく人数が足りない。が、国の官僚や騎士団に敵の内通者がいるのは確実だろう。せめてそれだけでも見つけられれば後れを取らないと思うのだが」


 ターンは困り顔で言う。オルトとターンは同年齢だが、ターンの方がどう見ても老いて見えた。


「反王族派の貴族じゃないのか?」


「怪しい事は怪しいが、証拠が何も無い。下手に証拠も無く取り調べなどしたら逆に反体制の勢力が増す事になる。魔族が狙ってるのはそれだろうから下手な動きは出来ないところだ」


「裏の情報屋も荒れてる状態じゃ正しい情報も得られないってわけか。こういう時便利な祝福持ちがいると良かったんだがなあ」


 オルトが思い浮かべたのは王国から居なくなった双子の2人だった。


「まあ、私はお前が戻って来てくれただけでも十分助かってるよ。しかしどういう風の吹き回しだ?」


「スミナさんもアリナさんも俺が技術を教えた弟子でもあるんだ。ああなった責任は俺にもある。それにアスイさんも倒れた今、自分がやらないといけない事ぐらい分かるさ」


 オルトは異界災害の封印が終わった後、状況を報告すると共にそのまま王城に残る事に決めたのだった。双子が抜け、アスイも傷付いた状態では当然の結果だろう。

 旧友であるターンはオルトをそのまま騎士団の所属とし、オルトと戦場を共にした者やオルトに憧れた騎士を一時的に部下に割り当て遊撃隊のような役目を与えたのだった。


「そうか、そうだな。

ともかく、今の騎士団にお前のような存在が必要だったのは確かだ。仕事は山のようにあるから死ぬ気で働いてもらうぞ」


「ちょっと待ってくれ、俺だって昔のように若くは無いんだぞ。体力がもたんよ」


「今までサボってたツケが回って来たと思うんだな」


 2人はそう言い合いながら笑う。王国にこれだけの問題が起きなければこうして2人が協力する事など無かっただろう。感謝など出来無いが、こんな機会が巡って来たのも運命なのだろうとオルトは考えていた。


 2人が話していると“コンッコンッ”とドアがノックされる。「問題無い、入れ」とターンが返事をすると2人の女性がドアを開けて入ってきた。


「アスイさんに、メイル!?

もう怪我は大丈夫なのか?」


 入ってきたのが転生者のアスイと双子のメイドであるメイルだったのでオルトは驚く。


「ええ、おかげさまで。怪我は大体治り、激しい戦闘以外なら通常通り動けるようになりました。オルトさんが戻って来たと聞いて、是非話をしたいと参上しました」


「オルト師匠、ご無沙汰してます。私は今、アイル家を一時的に離れてアスイの下で働いています」


「オルトはそういえば知らなかったな。メイルはアリナさんを救出したいという事で、動きやすいアスイの下について貰っている。今後はオルトとも行動を共にする事が増えるだろう」


 ターンが事情をオルトに説明する。4人は打ち合わせ出来るテーブルに移動し、話を再開した。


「オルトさん、率直な意見を聞かせて下さい。今王都を攻撃してる魔族はどうやって魔導結界の内側に入ったと考えますか?」


「やっぱり気になるのはそこだな。

半年前の巨獣などの移動ではレオラがゲートを使って無理矢理移動させていた。あとは魔導要塞も魔導結界を突破出来たな。俺は最初その時に入ってきた魔族の残党が今も動いていると考えていた。

だが、ここ最近の動きを見ていて思うのは別の可能性だ。トミヤと接触したデビルや今現れているデビルは新たにどこかから入って来たと考えるのがいい気がする。レオラが生きてるのは確認したが、レオラが手引きして入って来てるのでは無さそうだとも感じる。

魔族の技術か魔導帝国の技術かは不明だが、魔導結界を突破する別の方法が使われていると俺は思っている。しかも、それは人間側に手引きしている奴がいると考えられる」


 オルトは今まで調べてきた結果から推測する。


「異界災害が人為的に引き起こされ、魔族がその手引きをしたのではないかと聖教会の方達の調査で分かってきました。やはり人間側に魔族が潜んでいるのは間違い無いでしょう」


 メイルがこの間起こった異界災害について情報を補足する。メイルは仕えていたアイル家のハーラが元聖教会の聖女なのでその伝手で情報が伝わって来ているのかもしれない。


「やはりオルトさんもそう感じていますか。私も野外訓練の襲撃やその後の魔導要塞の流れと最近の呪闇術カダルを使った人や動物を異形化させての襲撃は別のものと考えていました。

ですが、これはアリナさんを取り返すチャンスなのではと私は思います。一つは魔導結界を出入りする手段があり、そこから結界の外へ行けると思われる事です。レオラを介さずに行き来出来るのならその手段を奪える筈ですから。

もう一つは魔族連合にいくつもの派閥があると思われる事です。アリナさんを連れて行ったレオラは異界災害などに関わって無さそうでした。恐らくいくつかの思惑があり、内部対立もあるのではと思われます。その隙を突けばアリナさんを取り返せるのではと思うのです」


「アスイさんはアリナさんが本気で魔族連合に寝返って無いと?」


「分かりません。ですが、その可能性はあります。スミナさんの事は残念でしたが、アリナさんにはご家族や友人がまだ残っていて、その呼びかけに応えてくれると私は信じています」


「私もです。アリナお嬢様は決して進んで魔族側に付いたとは思えませんから」


 オルトの問いにアスイもメイルも強く願うように答える。オルトもそうであって欲しいと願ってはいた。だがオルトには素直にアリナが戻って来るとは思えなかった。ただ、それを口にする程無粋でも無かった。


「まあ、今はその魔族の移動手段を見つける事が先決という事だな。

正直騎士団は復興と防衛で手一杯だ。とにかく人手が足りない。そこで国王陛下は戦技学校の生徒の中で戦闘経験があり、実力も問題無い者を特別な部隊として運用する案を出している。アスイとメイルとオルトにはその部隊を管理する役目をお願いしたいそうだが、どうかな?」


 ターンが新しい案について説明する。


「てことは俺は今の騎士のお守から学生のお守に仕事替えって事か?まあ命令なら従うが」


「いや、そうじゃない。オルトもアスイも今まで通りの仕事は続けてもらう。学生の部隊に関しては適した仕事があった時にだけ動いてもらう。メイルはアスイの指示下に置くが、部隊のメンバー選別や仕事の割り振りはメイルに代表してやってもらう。

まあ、というのはあくまで建前だ。新設の部隊はアリナさんを救う為の調査や戦闘の為に作る部隊だと考えてもらいたい。騎士団や調査部隊が手一杯なので3人と優秀な学生で自由に動ける特権を付ける意味合いが大きい。勿論いざという時は騎士団も魔術師団も一緒に動く事になるだろう」


「つまり、優秀な学生に調査や情報収集を手伝ってもらい、魔族との戦いになった際は私やオルトさんが直接参加する特別部隊というわけですね」


「そういう事だ」


 アスイが簡潔に話をまとめ、ターンが頷く。


「待って下さい。今まで国や学校に関わって来なかった私が代表者でいいのでしょうか?」


「それは問題無いわ。メイルが一番アリナさんに詳しいし、事情もよく知っている。それに学生の子達ともある程度面識はあるわよね?」


「それはそうですが……」


「自分もメイルが仕切るのでいいと思うぞ。面倒見もいいし、状況確認や判断も騎士に負けないぐらいの能力はある」


「そういうわけだからメイル、頼んだぞ」


「分かりました」


 ターンに駄目押しされ、メイルは決意して返事をするのだった。



 オルト達の話合いから数日後、休校中の戦技学校には複数の生徒が呼び出されていた。その中には双子のクラスメイトのレモネとソシラも含まれていた。


 レモネ達はアイル家の屋敷に呼び出された後、学校が休校中という事もあって独自に情報収集などを行っていた。しかし、王都は混乱していて、学生であるレモネでは碌な情報が掴めなかった。独自ルートがあるソシラも同様で、ソシラの親のコネも混乱中で正しい情報が得られないと言っていた。

 そんな状態の2人だからこそ今回の呼び出しが今後の足掛かりになるのではと期待していた。そして、その期待は正しい事がすぐに分かった。


「招集に応じてご集まり頂きありがとうございます。私はギーン戦技学校で教師をしているアスイ・ノルナです。私は教師とは別に王国で特殊技能官としても働いています。今日の話も教師としてではなく、国に仕える特殊技能官としての話になります」


 広い講堂に集められた生徒達は着席し、檀上に立つアスイの話を聞いていた。アスイの横には学校の特別講師のオルトと双子のメイドであるメイルが立っていた。レモネとソシラはその並びを見て魔族に関する話だろうと予想出来た。


「知っての通り2度の魔族の襲撃で町は破壊され、学校も休校が続いています。王国の騎士や兵士はモンスターの襲撃と復興作業の為に常に人手不足です。

そこで皆さんにお願いがあります。この国を守る為に力を貸していただけないでしょうか。ここにお呼びした生徒の皆さんは成績が優秀というだけでは無く、実戦経験もあり、即戦力になると判断した方達です。

勿論ただで働いてもらうつもりは無く、成果に合った報酬を国から支払われます。また、ここで経験を積む事は将来に繋がると私は思います。勿論断ったからといって今後の就職に不利になる事もありませんが」


 アスイがここに呼ばれた生徒が国の人手不足を補う為の人材である事を説明する。講堂の席に座っているのは各学年の成績優秀者で、かつ何かしらの活躍の噂がある有名人が殆どだった。

 1年生には見知った顔が多く、レモネと同じクラスの成績優秀者で金髪お嬢様のマミスや、一緒に戦った事のある戦士科のゴマル、医療魔法科は聖女のミアンの姿があった。一番数が少ないのが魔法科の生徒で、優秀だったルジイやガリサが居なくなったのも大きいのかもしれない。


「皆さんに知っておいてもらいたい事があります。既にご存知の方もいると思いますが、当校でも成績優秀者として有名だった魔法騎士科のスミナ・アイルさんが先の襲撃事件で戦死しました。そして妹のアリナ・アイルさんも魔族に攫われて行方不明です。実は2人には以前から国の仕事を依頼しており、襲撃事件に遭遇したのはそういった理由からでした。

私は2人を守れなかったことを後悔し、せめてアリナさんだけでも助け出したいと考えています。この中にはアリナさんの事をご存知の方も多いでしょう。彼女を救う手伝いを皆さんにお願いしたいのです。

そういった事もあり、アリナさん達のメイドをやっていたメイルさんと2人に剣の指導をしたオルトさんも協力してくれることになりました。メイルさんは実戦経験も多く、皆さんを管理する役目をお願いしたいと思っています。

メイルさん、お話をお願いします」


「皆さん、初めまして。私はアイル家のメイドをしていました、メイル・ハバモと言います。メイドになる前には傭兵をしていた経験もあり、今は行方不明になったアリナお嬢様を探す為にアスイさんの配下に入れて頂きました。

皆さん急な話で戸惑っていると思います。しかし、王都の被害を見て分かる通り日常生活にまで被害が出る状況になっています。この惨状を見て、自分にも何か出来るのではと思う人もいるでしょうし、実際に既に動いている人もいるでしょう。

私としてはアリナお嬢様はこの国の今後を考えると居なくてはならない存在だと考えています。学校襲撃事件や野外訓練の襲撃事件もお嬢様達がいなければもっと被害が出ていたでしょう。他にも皆さんが知らない脅威をアリナお嬢様は排除してくれました。

今度は私達がアリナお嬢様を救う番なのだと思います。是非力を貸していただけないでしょうか」


 メイド姿では無く、緑色の魔導鎧を着たメイルが必死に訴える。レモネはアリナが敵に寝返った情報は流石に説明しないのだな、と聞いて思っていた。そして異界災害の事も含め、ここにいる全員にはまだ説明出来ないのは正しい判断だと納得した。


「メイルさん、ありがとうございます。

この学校の首席卒業生であり、戦場で活躍した経験のあるオルトさんも一言お願いします」


「分かった。

自分はオルト・ゴロフだ。今は王国騎士団の手伝いをしている。2人が話した通り、王国は今危機に瀕している。そしてその危機を救うのは若い世代の者達だと自分は思っている。今の戦技学校は過去と比べても優秀な生徒が多い。そして実際に実戦で結果を出している者も多い。

年寄りからすると、キツイ経験は若いうちからした方がいい。その方がずっと強くなるのは確かだ。訓練だけでは分からない事が実戦でこそ身につく。そして若いからこそ見つけられる事がある。

勿論危険と背中合わせの仕事になるだろう。だが、俺とアスイさん、メイルさんの3人がフォローする。それはとても幸運な事だと理解して欲しい。言っちゃ悪いが、俺達はお前達よりずっと強い。それを身をもって感じて欲しい。

俺から言えるのはこれぐらいだ。あとは自分自身で決めろ」


 オルトが力強く言う。オルトの目は以前の授業に来た時と比べ、力を感じられた。それこそレモネが小さい頃に見たオルトよりもずっと凄い人に見えた。レモネは3人の言葉に感動していた。


「ここから先は一緒に国の為に働く部隊に入って貰える方だけに話す事になります。今、ここで参加するか、辞退するか決めて下さい。参加出来ないという方は後ろの扉からお帰り頂ければと思います」


 アスイがそう言うと警備の騎士が講堂の後ろの扉を開ける。すると、貴族出身の学生の何人かが即座に立ち上がり、外へと出て行った。レモネとしてはそれも必要な決断だと思った。レモネは既に戦場を経験したが、他の生徒はただの学生に過ぎないのだからわざわざ危険に身を置く必要は無い。

 何人か出て行ったのに釣られて、気の弱そうな生徒達が中心に出ていく。勿論それぞれの事情があるのだからしょうがない。特に卒業を控えた3年生は殆ど残らなかった。卒業前に怪我などしたくないのは当然なのだろう。結局残ったのは呼ばれた生徒の3分の1の十数人だけだった。


「残って頂きありがとうございます。それでは詳しい話に入りましょう」


 後ろの扉が閉まり、新設部隊についての詳しい説明をアスイが始めるのだった。


 アスイが最初に説明したのは王都でどんな問題が起こっていたかだった。魔族が人間や動物を変化させる術を使い、かつ、人間とも取引して襲撃を計画した事。そして人間をそそのかして人を生贄にした術を使わせて町を変化させた事。異界災害という言葉は使わなかったものの、実際に起こった現象についてアスイは詳しく説明した。

 そして今は打撃を受けた王都に継続的に魔族が襲撃をしかけているのが問題だとアスイは話す。魔導結界の話はしなかったが、魔族が転移してきているのが問題で、その転移の元を調査するのが目的であると説明した。そうすれば行方不明のアリナを取り戻せるかもしれないとも。


「ですので、貴方達にやってもらいたい事は大きく分けて二つあります。

一つは町中を調べ、聞き込みをして怪しい物事や人物を見なかったか調査する事です。恐らく王都の中に魔族と通じている人間がまだおり、その人物を突き止める事が目的です。勿論魔族自体を見かけたなら更に有力な情報になるでしょう。

もう一つは魔族の襲撃に対して騎士団に付き従って共に戦う事。この時重要なのは魔族がどこから現れ、どういった動物や人間を異形化させたか調べる事です。魔族の痕跡や足取りが分かれば敵の行動パターンやどこから転移したかが分かるかもしれません」


 アスイが生徒達にやって欲しい事を説明する。レモネが思っていたより地道な対応だが、手掛かりが無い以上こういったところから調べるしかないのだと理解する。それと同時にもっと調査に適した祝福が使える人物がいればなともレモネは思ってしまう。


「調査や襲撃の対応は交代で余裕を持って行って貰おうと考えています。ただ、どうしても時間に空きが出来ると思うので、その時は私の方から調査や戦闘に対する講習をしようと思います。オルトさんも空いてる時間には戦い方の訓練を付けてくれるそうです」


 メイルが補足する。レモネはオルトに戦いを習いたいと思っていたので、この話はとても嬉しい内容だった。

 とりあえず今日の話は終わり、後日王都での本拠地や生活について説明するという事で解散になった。


 話が終わると講堂のメイルの近くに自然と双子と関わりがあった人達が集まっていた。


「ミアンさんも戻ってらしたんですね。元気そうで良かったです」


「レモネさんとソシラさんにはご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です。色々頑張ってると話はきいてますよぉ」


 ミアンが今まで通りの笑顔で微笑む。


「ゴマルももう大丈夫みたいだな」


「最後までお付き合い出来ずに申し訳ありません。ルジイの話も聞きました。自分は何も気付けず本当に情けないです」


 オルトに挨拶され、異界災害の影響で倒れていたゴマルが悔し気に言う。


「ルジイさんについては私もアリナさんも気付けなかったのでしょうがないです。ゴマルさんに責任はありません」


「あの、ルジイさんはどうしたのでしょうか?」


 アスイの話を聞いていて近くにいた少女が疑問を投げかける。レモネは彼女が以前スミナと野外訓練でパーティーを組んでいたエレミ・ナンプという別の魔法騎士科の生徒だと思い出した。ルジイも同じパーティーに居たので気になるのは当然だろう。


「エレミさん、辛い話になりますが聞いて下さい。私達はルジイさんと共に変化した町を戻しに行ったのです。ただ、その時ルジイさんは既に魔物に憑りつかれており、私達でその魔物ごとルジイさんを倒したのです」


「そんな……」


 ミアンの説明を聞いてエレミはショックを受ける。スミナだけでなくルジイも居なくなり、最初にドシンが亡くなったのも含めて彼女のパーティーは3人も失ったのだ。ショックは大きいだろう。


「エレミさん、貴方のお兄さんやお姉さんは立派に騎士として働いています。貴方も困難を乗り越えればもっと強くなるでしょう」


「アスイさん、ありがとうございます。

そうですね、亡くなった方達の為にも頑張ります」


 エレミはとても真面目そうな少女だなとレモネは思うのだった。


「ここに居る皆さんに話しておきたい事があります」


 そんな中、ミアンがそう切り出した。今講堂に残っているのはエレミ以外は双子と共に異界災害や神機捜索に行ったメンバーで、この世界の真実を知っている。ミアンはそれを理解して言っているのだろう。


「先ほど集まっていた生徒の中に魔族に通じている者が混ざっています」


 ミアンの発言は衝撃的なものなのだった。


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