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8.ディスジェネラル

 ついにレオラに案内され、アリナは魔族連合の幹部と会う事になった。彼らはディスジェネラル(十魔将軍)と呼ばれる10人の魔族連合の代表者だという。自己紹介なんてものは無いようで、レオラは事前に10人の簡単な情報資料をアリナに渡していて、アリナも適当に目を通していた。


「もしかして緊張してる?大丈夫、アナタの事は魔族連合の合意で仲間にする事が決定してるし、あくまで直接顔を合わせて問題無い事を再確認するだけだから」


「大丈夫よ」


 レオラにアリナは答える。アリナはここまで来た以上、何があってもいいと思っていた。今のアリナは闇術鎧ダルアで身を包んでおり、強さに自信があるのもあった。


 砦の廊下をレオラが先導して歩き、会議室と思われる広間に2人は到着した。会議室の作りは王国のものと大差無く、長机の両サイドには5人ずつ、10人の魔族や亜人や人間が既に座っていた。

 アリナはレオラに促されて長机の短辺の真ん中の席に座らされ、レオラは逆側の中央、いわゆる上座に座った。アリナはディスジェネラル達からの視線を何とか耐えて平静を保とうとした。


「皆の者、ご集まり頂き感謝する。この場はアタシ、レオラが魔族連合代表であるルブ様に代わり仕切らせていただくわ。

今日集まって貰ったのはそちらにいる転生者、アリナを魔族連合に加える事を了承してもらう為だ」


 レオラがディスジェネラルに向けて話す。魔族連合の代表者であるルブは滅多に会議に参加しないとレオラに聞いていた。代表者と言っても魔王のような頂点では無く、あくまで場を仕切る為の存在だとも。なので会議の際はレオラなどのルブの代理人が場を仕切る事が多いらしい。

 アリナはその見た目から事前に貰った資料と照らし合わせ、どれが誰だかディスジェネラルの10人を見分ける事が出来た。レオラの席に対して長机の右側に座っているのは魔族連合でも人とかけ離れた魔族と思われている人物達だった。


 レオラに近い一番奥の席は濃い紫色の肌の巨体のデビルで、デビルの主流派の代表のガズというデビルだ。レオラの上司であるルブとは対立しているらしく、人間への憎悪も激しいと資料に書いてあった。


 その隣には打って変わってピンク色の肌でスマートだが妖艶な体型のデビル、ミボが座っている。異様なのはミボが人間の聖教会のローブを着ている事だ。彼女は穏健派で争いを好まず、人間とも和解すべきだという意見らしい。自らを魔族の聖女と名乗り、聖教会の教えを信じているという。なので人間からも人気があるそうだ。ただ、資料にはデビルとしては狂人だと書いてあった。


 3番目に座っているのは一見血色の悪い美しい金髪の人間の青年に見える。が、異様なオーラを放ち、人間とは異なる生き物だと感じられる。彼こそがヴァンパイアの王であるヴァンパイアロードのソルデューヌ・パルザだ。デビルとは異なる魔族達の代表であり、かなりの実力者であると書いてあった。


 4番目に座っているのは赤茶色の巨体に金色の太い鎖を巻いたオーガの王、ゾ・オだ。数々の戦いを生き抜いたモンスターの英雄で、魔族以外のモンスターは殆ど彼に従うという、モンスターのまとめ役である。人間を憎み、知能は低いが恩義には報いるタイプだと書いてあった。


 5番目で一番アリナの近くの席に座っているのは虎の獣人で獣人族の長であるグラガフだ。金色に近い黄色の虎のような毛並みは美しいが、その眼光は鋭く、巨体も相まって圧倒される。彼は獣人族の中でも過激派で、元々人間と中立関係だった前の長を倒して今の地位を手に入れたと書いてあった。凶暴そうな見た目に反して頭も回るらしい。


 アリナはこの5人に関しては人からかけ離れ過ぎていて話が通じないだろうと考えていた。


 長机の反対側、アリナから見て左側に座っているのは人に近い亜人や人間の代表者が並んでいた。


 レオラに一番近い奥の席に座っているのは長い金髪が綺麗な美人のエルフだった。彼女はエリワというハーフエルフで、エルフの転生者と人間の間に産まれたらしい。転生者の娘だからか、超人的な能力を持ち、エルフと魔族連合の間を取り持つ役目を持っている。ただ、本人は自堕落でやる気はあまり無いと書かれていた。


 左側の2番目の席に座っているのは全身を朱色の日本の武者の鎧のようなもので身を包んだ侍のような人物だ。彼の名はマサズ・ヨシバで東の果てにあるサムライの国の王らしい。常に戦を求める戦闘狂の国らしく、魔族連合には戦場を用意するという条件で組み込んだと書いてある。


 3番目の席には全身機械のようなもので包まれた、ロボットのような小柄だがマッシブな人物が座っていた。彼はドワーフ族の王のゴンボで、機械を作る事に情熱を注いでいるそうだ。魔族連合に加わった理由は魔族側が資源や知識を提供し、代わりに魔族連合で使える兵器の開発を依頼しているからだという。王ではあるが物作りにしか興味が無いと書いてあった。


 4番目の席にはようやく普通の人間が座っていた。中年太りしたその男の名はダブヌ・インリで、以前の魔族連合との戦争の際に真っ先に裏切ったウェルゴラ国の王だそうだ。それ以降、魔族連合に対する人間側の代表として参加しているという。保身第一で必要なら仲間だった人間すら売るような人物だと書いてある。


 5番目の席には40代ぐらいの人間の女性騎士が座っている。彼女はシホン・ソーザという元騎士で、魔族連合と最後まで戦い続けた英雄だという。最終的には守っていた市民の安全と引き換えに魔族連合に降伏して、今も人間の市民側の代表としてディスジェネラルに参加している。ただ、彼女の言葉には殆ど権威が無く、飾り物だと書かれていた。


 左の列の人物は元々人間と共存していた亜人や止むを得ず魔族連合に下った人間の代表という事だ。アリナはこちらの人達なら味方になってくれそうな気がしていた。



「アリナ、簡単にだが挨拶して貰ってもいいか」


 レオラがアリナに挨拶するように促す。アリナはどうなってもいいという気持ちで話し始めた。


「あたしはアリナ・アイルです。王国で転生者として生まれて、色々あって、デビルの力を使い、魔族連合の方があたしには似合ってると思った。仲間にして貰えるならいい戦力になると思います」


 アリナは今の気持ちを素直に話した。まあ、姉が死んで自暴自棄になってる気持ちは隠したが。


「話合う必要など無いな。我が天敵のニンゲンの転生者を捕まえたのだ。すぐに処刑すべきだろう」

「そうだな」

「それでいいのでは」

「いいんじゃない」

「ガズ殿がそう言うのなら」

「まあそうでしょうな」


 デビルのガズの言葉に次々と賛成の言葉が続く。アリナは思っていたのと違う展開に言葉も出ない。


「ちょっと待ちなさい。アリナの勧誘は魔族連合の代表であるルブ様の案で、以前に合意を得た筈よ。理由も無く反故には出来ないわ」


「そうですねー。いきなり処刑にするとか今後の事を考えてもダメではないでしょうかー」


「ミボ様の言う通りです。アリナさんは危険を承知で魔族連合に参加してくれようとしたのですから」


 レオラの話にデビルのミボと人間のシホンが味方に回ってくれる。


「えー、だって今連合は色々問題ごとが山積みで、新しい火種を増やす必要は無いんじゃないか?」


「今まで敵対してきた相手だ、いつ寝首を掻かれるか分かったものでは無い。

ダルアの制御はレオラが出来るのなら、ここにいる我々でもやれる」


 味方するかと思っていたハーフエルフのエリワと虎の獣人のグラガフが反対してきた。ダルアを外部から規制される可能性はアリナも考えていたが、やはりレオラが権限を持っていたようだ。


「アリナのダルアは危険なので確かにアタシが制御する権利を持ってるわ。ただ、そんな事をしなくてもアリナは協力してくれる。問題があるからこそ有能な人材は必要じゃないかしら?ダブヌはアリナの加入に反対なの?」


「私か?えーとだな、こういう事は難しい問題だから安易に決めるものでは無いと私は思うぞ。マサズ殿はどうお考えか?」


「それがしはどちらでも構わぬ。が、強大な力を持っているなら戦ってみたいとは思うでござる」


 太った中年のダブヌは言葉を濁して同じ人間のマサズに質問を受け流す。兜に面を付けて表情が読めないマサズは変な日本語のような訛りで戦闘狂らしい回答をした。この2人は駄目だなとアリナは思った。


「ゾ王はやっぱり反対意見よね?」


「無論だ。亡命してきても所詮は人間だ。そもそもこの場に人間がいるのが異常なのだ」


「その話は何度もしたわよね。今は話が逸れるから置いておくわよ。

ゴンボは何も言わないけどどう考えてるの?」


「ワシもどちらでも構わぬ。が、デイン王国から来てダルアを使いこなすとなると興味はある。処刑するにしてもその前に持っている魔導具やダルアの使い方を調査させて貰いたいぞ」


 オーガのゾ王はモンスターらしく人間に敵意を向けており、それをレオラにたしなめられる。ドワーフの王のゴンボは書いてあった通り道具関連の事にしか興味はないようだ。


 これでレオラを除く10人のうち、アリナの加入に賛成しているのがミボとシホンの2人、反対しているのがガズとエリワとグラガフとゾ王の4人、ダブヌとマサズとゴンボの3人は今のところどちらでもいいという中立の立場だ。残りの1人、魔族の代表でヴァンパイアのソルデューヌはおそらく反対意見だろう。こうなると半数が反対になり、レオラが何と言おうとアリナの状況はかなり難しい気がしてくる。


「皆さん、こうしてみてはいかがでしょうか。

アリナさんには魔族連合で起こっている問題を実際に対応して貰い、それが出来たなら迎えるという事で。これならアリナさんが有能かどうかも判断出来ますし、彼女にやる気があるかどうかも見極められます。ルブ様のご意向にも沿った形になるのではないでしょうか。いかがですか、レオラさん」


「まあ、確かに何の成果も無しに仲間に迎えるのは難しいかもしれないわね。でも、アリナに解決してもらうような問題なんてあったかしら?」


 ヴァンパイアのソルデューヌがまさかの助け舟を出してくれた。レオラはその意見に乗っかるが、何を対応させるかの案は無いようだ。


「でしたらいい案件があるじゃないですか。エリワさん、今貴方の管轄のエルフの一部が魔族連合と対立を始めてますよね。アリナさんと協力して適切な対処をして貰ってはどうでしょうか?」


「え?アタイんところ?

ちょっと待って、あれはほっとけばいいんだから」


「確かにそうだな。エルフと言っても戦力は馬鹿にならん。話が大きくなる前に何とかした方がいいな」


 ソルデューヌが提案したのはエルフ関連の問題だった。それに対し当事者のエリワが拒絶するが獣人のグラガフはその案に賛同していた。どうやら魔族連合は抱えている問題を早々に解決させたい雰囲気があるようだ。


「ソルデューヌの案で良さそうみたいね。アリナにはエリワと一緒にエルフの叛逆の件を解決してもらう。その結果を見て正式な魔族連合への加入を決定する。この案に反対する者はいないわね?」


 レオラが話をまとめてディスジェネラルの面々に確認する。場の空気を読んでか、反対意見を述べる者はいなかった。


「ちょっと待ってよ、アタイは反対だよ。これはアタイの仕事なんだから」


「そう言って何の成果も出せて無いから問題なんでしょ。流石にみんなもう待てないって事よ。

これは魔族連合の総意です。エリワ、アリナと共にエルフの叛逆を解決しなさい」


「――分かりました」


 レオラにきつめに言われてエリワは子供のように不貞腐れながらも了承するのだった。話がまとまると皆忙しいのか次々と部屋を退出していった。そんな中、座っているアリナに対して同じ人間であるシホンが話しかけて来た。


「アリナさん、大変だと思いますが魔族連合の方達も悪い方ばかりではありません。今は魔族連合も人間との共存の環境が出来始めています。何か困った際は私に相談して下さい」


「シホンさん、ありがとう」


 アリナはシホンに魔族連合での権限が殆ど無いのを知っているが、彼女の善意にはきちんと応えないとと思った。一方、同じ人間である他の2人はというと、ダブヌはアリナを嫌な顔で睨んで立ち去り、マサズに関しては話が終わった瞬間に気にも留めずに立ち去っていた。まあアリナも2人には興味は無いのでそれでも問題無かった。シホンが立ち去ると代わりにソルデューヌがアリナの方にやって来る。


「アリナさん、余計な事を言ってしまったかもしれませんね。ただ、わたくしとしては出来ればアリナさんに仲間になって欲しいと考え、無い知恵で絞り出したのです」


「いえ、助かりました。それに、あたしの立場を考えれば凄い良い案だと思う」


「それは良かった。わたくし共ヴァンパイアは敵対関係とはいえ、人間と共存して来た種族なのです。なので人間に滅んで貰ったら困るというのが総意です。アリナさんのような人は魔族と人間を繋ぐ大切な存在だと考えています。

今後お困りのことがありましたら、わたくし、ソルデューヌにお声がけ下さいませ」


「分かりました。ありがとうございます」


 ソルデューヌが全く敵意を見せずに言うのでアリナは丁寧に返した。ただ、アリナはこのキザっぽいヴァンパイアは信用ならない気がしてならなかった。

 部屋からは殆どの人が去り、残ったのはアリナとレオラ、そしてハーフエルフのエリワだった。


「アリナ、話し合いの通りエリワの問題を解決してもらうわ。と言っても、結構厳しい問題なのよ。詳しくはエリワに聞いて。アタシも手伝ってあげたいのだけれど、アタシの方も呼び出しがあってしばらく忙しいのよ。アナタなら出来ると思うから、頑張ってね、アリナ」


「えーと、よく分からないけどやってみるよ」


「ちょっと、アタイの負担が大きくない?こんな小娘連れて行ってどうにかなる問題じゃないだろ」


 レオラとアリナの話にエリワが不満を述べる。


「エリワ、確かにアナタの能力は高いけど、ことエルフとの仲介役としては評価がだだ下がりよ。でも、エルフとの全面戦争だけは避けたいのが魔族連合の方針。だからエリワ、これが最後のチャンスと思いなさい。ルブ様はそれでもアナタを買ってるんだからね」


「分かったよ。ほんと、なんでアタイがこんな事してるんだか」


 エリワは嫌々ながら了承する。アリナはエリワが癖のある人物だなと思っていた。


「じゃあエリワ、アリナの事も含めて頼んだわよ。アリナはしばらくエリワに従って動いてね」


「しょうがないなあ」


「分かった」


 レオラは2人に指示だけ出すとゲートを作ってどこかに転移してしまった。部屋に残されたのはアリナとエリワの2人になった。


「エリワさん、そんなわけで宜しくね」


「呼び捨てでいいわよ。その代わりアタイもアリナって呼び捨てするから。あと、アタイは人の上に立つのは苦手だから、同等の関係だと思っていいから」


「分かった、エリワ宜しく」


「あー、めんどくさいなー。

あ、アタイは愚痴とか全部口に出るから気にしないで」


 エリワは少し笑顔になって言うのだった。とりあえず何をしていいか分からないアリナはエリワに付いていくしかない。部屋を出て廊下を歩き始めると1人の人物が待っていた。


「アリナさん、お会い出来て嬉しいですー」


 デビルであるミボはそう言うとミアンがスミナにしたようにアリナに抱き付いてきた。ミボとアリナは身長差がある為、ミボの豊満な胸がアリナに当たる形になり苦しい。勿論ミボにもアリナに対する敵意は無く、純粋に友好の証としてのハグをしているようだ。


「あの、苦しいから」


「あら、ごめんなさい。でもミボはアリナさんがナカマになってくれるのが本当に嬉しくて―。処刑するなんて話が出た時はどうなるかとドキドキしましたー」


 ミボはまったりと喋る。喋り方もミアンに似ているが、ミボの場合はどこかわざとらしい気がした。人間に好意を持って接しているそうだが、アリナはやはり信用ならない気がしていた。


「あの時は反対してくれてありがとう」


「いえー。当たり前の事をしただけですよー。もし何かお困りの時は真っ先にミボに話して下さいねー」


「分かりました、ありがとう」


 ミボもそう言うと去っていった。アリナはエリワと2人きりに戻り、少しホッとする。


「アタイはあんまりこういう事言わないんだけどさ、ミボとソルデューヌには気を付けなよ。レオラも信用ならないけど、あの2人はもっとヤバいと思うからさ」


「そうなんだ。わざわざ教えてくれてありがとね」


「まあ少しの間でも一緒に行動するなら、それなりに信頼関係は必要だからな」


 エリワがアリナも気になっていた事を指摘したので、少しだけエリワの言う事を信用出来るようになった。


「それで、エルフの問題って何なの?」


「ああ、ちゃんと説明しなきゃだよな。移動しながら話そうか。と、その前に腹ごしらえが必要だな」


 エリワはアリナを砦から連れ出してどこかへと向かうようだ。

 今まで砦の一室に軟禁されていたアリナは砦の中を初めて自由に歩いていた。廊下を歩く者は多く、様々な種族が入り混じっていた。一番多いのはモンスターだが、それ以外にも魔族や獣人や亜人、人間と思われる戦士もいた。騒がしくはあったが、争いは起こらず、一定の礼節は保たれているように見えた。


「キョロキョロと見回してどうしたの?

あ、そっか、砦の中を歩くのは初めてなのか。一応問題はそうは起こらないけど、たまに気性が荒いのがいるからあんまり見ない方がいいよ。まあアリナの方が強いだろうけどな」


「ありがと。本当にここでは色んな種族が平等に暮らしてるんだ」


「あー。アタイの方の問題の話をする前にここの事も説明しないと駄目そうだな。外に出たらちゃんと話すよ」


 エリワがめんどくさそうな顔をして言う。どうやらアリナの思っているような状態でも無いようだった。エリワは砦の中にあるお店のような場所で何かを受け取ってから砦の外に出た。門では重武装のスケルトンが2体エリワとアリナを一旦止めたが、エリワが何か言うとスケルトンは即座に2人を通した。恐らくスケルトンを遠隔で操っている魔族が監視しているのだろうとアリナは思った。

 砦から一定距離離れるとようやくエリワが口を開いた。


「砦の中の会話は全部聞かれてると思った方がいいよ。隠し事も出来ないし、魔法を使っても気付かれる。まあ、アリナの場合はその鎧に何らかの仕掛けがあるだろうけどな」


「ありがとう。でも、エリワはそんな事あたしに喋っちゃっていいの?」


「ああ、アタイはそもそも問題児扱いだし、そんな事気にして無いよ。魔族連合が恐れてるのはアタイが敵に回る事だけだから。こんなでもそれなりに強いんだよ」


「そういえば転生者の娘なんだっけ」


「それは知ってるんだ。まあ急ぐ事も無いし、こっちは誰も来ないからゆっくりお昼を食べながら話そっか」


 エリワは少し表情を柔らかくしてアリナを砦の近くにある森の奥へと連れて行った。森の奥には泉があり、綺麗に日が当たる広場が広がっていた。当たり前だが魔導結界の外の世界にも普通に綺麗な場所はあって、くつろげる空間はあるのだとアリナは初めて実感した。


「お昼貰って来たのここで食べよ。これ、アンタの分」


「ありがと」


 エリワから布袋を受け取り、開いてみると中にはパンとおかずの入った箱と水筒が入っていた。砦の部屋で食べたのは普通の料理だったので、こっちも問題無さそうだなとアリナは見て思う。一先ず2人は木漏れ日の中で倒れた木に座って昼食を食べた。食事はさほど美味しくは無いが素朴な味で外で食べるのにあってるなと思った。


 アリナはふとエリワの方を見ると、既に食事を終えて泉の方をぼんやりと眺めていた。長い耳に綺麗な長い金髪に凛々しい顔つきはゲームや漫画で見たエルフそのものだなとアリナは思う。喋ると雰囲気が台無しになるのだが。


「エリワはやっぱり森の中が落ち着くの?」


「まあね。エルフにとって森は家みたいなものだから。と言ってもアタイはハーフエルフだし、エルフの森からは追い出されたんだけどさ。

色々勘繰られるのもイヤだし最初にアタイの話をしておくか。

アタイのママがエルフの転生者だって話は知ってるよな?」


「ああ、うん」


 エリワが母親をママと呼んだのでアリナは少し親近感を覚えていた。


「ママが転生者として生まれる前、結構昔、といっても魔導帝国が滅んだ後ではあるんだけど、その頃エルフは絶滅の危機に瀕してたんだって。森を魔族と人間に奪われ、住処を殆ど失ってたらしい。

ママは転生者として生まれて、エルフの英雄として奪われた森を次々と奪い返し、エルフの勢力を昔と同じぐらいまで戻したんだって。それで魔族を共通の敵として人間とは和解し、人間との付き合いが再開したんだと。

それだけだったら良かったんだけど、ママがその時の人間側の勇者だったパパに惚れちゃって、結婚したいと言い出したんだって。勿論エルフの連中は猛反対し、人間側も反対したんだと。結局パパとママは駆け落ちして辺境の地に逃げて、そこでアタイを産んだんだよ」


 エリワが自分の事を説明する。アリナはあまり読書家では無かったのでこの話がどこかに記録されていた判断する事が出来なかった。そもそもアリナがこの世界で読んだ本の中にエルフが書かれている事が殆ど無かったと記憶している。


「エリワはその辺境でずっと暮らしてたの?」


「パパとママが生きてた頃はね。3人だけで、殆ど他の人と関わらない生活だったけど、楽しかったよ。まあ、パパは人間なんでアタイが成長しきる前に寿命で死んじゃったけど。ママもアタイが1人で生きられるようになるとフラフラっといなくなったから多分どこかで死んでると思うよ」


「ごめん」


「???、別に昔の話だから全然いいよ。エルフは寿命が長い分、死に対して恐怖も寂しさも感じにくいんだってさ。アタイはハーフエルフだけど、寿命は長いし感覚的にはエルフに近いんだと思う」


 アリナは話しづらい事を聞いてしまったかと謝ったが、エリワはそういう事は気にして無さそうだった。


「アタイは見ての通り自堕落だし、1人で生活出来る分だけ狩りをして、たまにモンスターを倒してお金を稼いで、辺境の人間の村と自宅の周辺の範囲だけでしばらく暮らしてたんだ。ただ、その村からも変な目で見られるようになって、エルフの森に初めて行って見る事にした。

ちょうどアタイが行った時にエルフの森は巨大なモンスターに襲われて大変な時期だったんだ。だからアタイはそれらを排除してやった。最初はエルフ達に感謝されたけど、自分が何者かを説明すると急に態度を変えて来やがった。で、エルフの長老達のところに案内された。

長老達はアタイをハーフエルフだけどエルフと認め、何とか仲間に取り込もうとした。ママにした事も謝ってきた。でもあいつらがアタイを戦力としてだけ欲しがってるのは見え見えだったよ。だからアタイはエルフの森を出て、自分の居場所を探して旅をする事にしたんだ」


 エリワが何歳なのかは分からないが、色々と苦労した事が伝わってくる。


「それで魔族連合に入ったって事?」


「いいや違うよ。アタイは大陸を旅して、人も亜人も魔族も寄り付かない危険なモンスターだけがいるような辺境に落ち着いたんだ。人間や魔族の争いに巻き込まれるのはイヤだったからな。そこでアタイは1人で自給自足して数十年暮らしてた。

ただ、ちょっと前から人間と魔族の争いが大きくなり、アタイが住んでいる辺境の方まで戦場が広がったんだ。戦争には興味は無かったが、勢いづいた人間達が辺境にまで手を広げてきて、アタイは行き場所を失った。

そんな時、声をかけてきたのがデビルのルブだった。ちょっとした取引があって、やる事が無かったアタイはエルフと魔族連合を繋ぐ役目を与えられた。と言ってもあの時のエルフは魔族連合に意気投合していて、アタイはただの連絡係だったんだけどね」


「じゃあその後エルフと魔族連合の間で問題があったんだ」


 アリナにも何となく話が読めてきた。


「そうなんだけど、その話をする前に今の魔族連合について説明した方が分かりやすいな。

魔族連合は魔族の集まりが元となり、その配下のモンスター達と亜人、そして今は人間が集まって身分の差の無い平等な関係の連合という体裁を取ってる。

まあ、それはあくまで建前で、一番偉いのは魔族の中でも格上のデビル達だ。その下が魔族、更に強力なモンスターの順で上下関係が出来てる。で、その下に最初に連合に入った亜人達が含まれてる。ただ、亜人の中でも魔族に協力的な獣人は上の立場だったりする。人間は分かる通り一番下だけど、その中でも一部の人間は特権が与えられたりしてる。魔族に協力的な人間を管理する立場の人間がね。

こんな感じで見えない格差がある以上、不満があり、暴動が頻発しているのが今の魔族連合なんだよ」


 エリワの話を聞いて、砦にモンスターと混じって居た人間が身体の大きい荒くれ者みたいな者ばかりだった理由が何となく分かった。


「でも、人間より魔族の方が力が上で、戦争で勝ったんでしょ。力で押さえつけられないの?」


「それが出来ればやってるさ。そう簡単な話じゃ無いってこと。人間の数は多いし、領土も広く、反乱が起きると手が付けられない。魔族は強いけど数が少ないのが問題だ。モンスターは知能が低く、広範囲を任せられない。

何より重要なのは食料だ。亜人の一部は農業や畜産をやってるが、殆どが自然からの狩猟や採取なんだ。魔族やモンスターも同様に農業なんて出来ない。人間は魔族やモンスターにとっても必要な存在なんだよ。

だから魔族連合はこの大きな集団を管理するのに四苦八苦してる。必死に王都を落としたい理由もそれだよ。魔族は人間の力を奪って、かつ生き続けて欲しいんだ。食料係としてね」


 エリワの言う内容はアリナの想像とかなり違っていた。魔族は力で他の種族を支配し、人間達は既に隷属してると思っていたからだ。そしてエリワの言っている話はとても歪な気がしてならなかった。


「本当なの、それ。そんな事あたしに話していいの?」


「この辺の話は魔族連合で生活してれば理解出来ると思うよ。まあアタイも噂でしか知らないもっとヤバい話は流石に言わないよ。ともかく、魔族連合が人間を全滅させようとは思ってないのは事実だよ」


「そうなんだ」


 アリナの今まで聞いてきたイメージだと魔族は人間を完全に消し去ろうとしていると思っていたので、この話は意外だった。何となくエリワは嘘を言っているようには見えず、騙されるようなタイプでも無い気がした。


「で、本題に入るけど、エルフ達は今の状況が気に食わないんだ。知ってるか知らないけど、エルフっていうのはプライドが高く、自分達が優れた種族だと思ってる。で、今のエルフは魔族よりも格下で、協力して倒そうとした人間も今度は保護しようとしてるのが気に食わないみたいだ。

言っちゃえば、エルフは元々人間と同盟組んでたけど、裏切って魔族連合に入った。それなのに今度はその人間が魔族連合に加わって、人間からはエルフは恨まれてる。

エルフとしても一度裏切った相手とまた仲良くするのは嫌だと。それで魔族連合から離れようと決めたエルフの部族が結構出て来てるってわけさ。エルフ全体としてもまとまりが無くなってさあ大変だ。

で、アタイはどうすりゃいいかと困ってたわけだよ。アタイがこういう調整が出来るタイプじゃ無いのは分かるだろ。しかも、アタイはエルフと人間から生まれた、どっちからも嫌われ者のハーフエルフなのにさ」


「そうなんだ。何となく分かったよ」


 アリナはようやくエリワの辛い立場が分かったような気がした。本当ならエルフを上手く説得して、今の魔族連合の考えに合わせるようにしないといけない。が、ハーフエルフのエリワがそれを言ったとしてもエルフは聞く耳を持たないだろう。

 しかし、新参者のアリナに何か出来るかというとエリワ以上に何か出来る気はしない。人間が説得しに行ったらそれこそ追い払われるだろう。


「難しい問題だろ。これでも一応エルフの長老達には話は付けたんだよ。あいつらは人間と和解と敵対を繰り返した過去があるから話は通じるんだ。問題は血気盛んな若い衆だ。魔族と協力して下手に戦力を付けたから手に負えなくなってきた。

まあ、エルフの森まで移動する時間もあるし、その間になんかいい案無いか考えてくれればいいよ。アタイも考えるけどね」


「分かった。あたしも頭は良くないけど考えてみるよ」


「ありがとう。ほんと、簡単になんとかならないかなー」


 エリワはアリナにあまり期待して無さそうだった。アリナはそんなエリワの態度が逆にありがたいと感じるのだった。


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