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4.王国の惨状

 デイン王国の王都での異界災害の被害は止まったが、その代償は大きかった。

 異界災害を封印した転生者の双子の姉スミナは魔神ましんに殺され、遺体も遺品も神機しんきによって消滅していた。転生者の双子の妹アリナはその魔神を倒しはしたが、魔族に寝返り魔族の転生者レオラと共に消えてしまった。

 魔神ドヅと同化していた魔術師のルジイもドヅと共に消滅した。他にも異界災害に巻き込まれ死んだ騎士や魔術師や聖職者や兵士の数は多く、眷属化した大量の市民も元に戻らず死んでしまった。王国は魔族連合との戦争以来の大きな被害だった。


 そして生き残った人達の怪我や心の傷も深かった。

 転生者であるアスイは神機ライガの攻撃をまともに喰らった為、今は眠った状態で回復を待つ状態になっている。聖女ミアンもスミナの死を自分の責任と感じ、聖教会の神殿の祈りの間に籠りきりになってしまった。

 主人を失った魔宝石マジュエルのアルドビジュエルは宝石形態に変化し、外からの呼びかけに反応しなくなった。双子の親友であるレモネとソシラは何とか生き残ったものの、改めて自分達の力不足を思い知らされていた。


 異界災害の封印の近くにいたレモネだが、あの騒動の後、すぐに聞き取りなどは行われなかった。混乱の中、レモネはソシラと一緒にそのまま寮に戻され待機しているよう言われた。エルの魔宝石はレモネが拾い、誰かに渡す事も出来ずにそのまま持ち帰っていた。

 寮の双子の部屋は勿論無人で、その隣の部屋に竜神であるホムラも戻っていなかった。寮にいる他の生徒達は何が起きたか分からず、皆不安がっていた。

 学校は臨時休校で、生徒はなるべく外出しないように言われていた。レモネとソシラは色々な事が起こり過ぎて眠れず、落ち着かない様子で部屋をうろついたりしていた。


「ソシラ、アリナはきっと戻って来るよね?」


 レモネはアリナが敵に寝返った事がいまだに信じられず、ふらっと戻って来ることを願っていた。


「分からない……。でも、あの時アリナが使っていたのはデビルの力だった……」


 ソシラはいつもより少し悲し気に言う。レモネはソシラと同じ授業を受けていたが、デビルの事も魔族の事も知識が少な過ぎて情けなく思う。それに加えて神機や魔神、転生者の事も最近知っただけで、どういったものかきちんと把握出来ていない。正直レモネは色んな事から置いて行かれている気しかしなかった。


「私が強かったらあの場で何とか出来たかな?」


「無理……。あの時もオルト先生が来なければ死んでた……」


「だよね……」


 レモネとソシラは異界災害の塔の中でスミナ達を先に行かせる為に残って戦ったが、すぐに限界が来ていた。力尽きて眷属化する直前でオルトと聖教会のマーゼが来てくれて何とか持ちこたえる事が出来たのだ。自分よりずっと強いオルトでさえギリギリの戦いをしていたのでレモネが少し強くなったところで状況が変わる事は無かっただろうと分かっていた。


「エルちゃんは死んで無いんだよね?いくら呼んでも反応無いけど」


「アリナが消えるまでは動いていた……。スミナが消えて契約が解除されて、スミナと近しいアリナもいなくなったので眠りについたんだと思う……」


「私達じゃ反応してくれないんだね」


 猫の姿から魔宝石だとエルの正体を明かしてもらい、レモネはそれなりにエルとも仲良くなったと思っていた。しかし今は何も反応してくれず、寂しく思う。ルームメイトになっていたホムラが来れば流石に反応するかもしれない。


「やっぱり私達は転生者や竜神や魔神と関わるべきじゃ無かったんだと思う……」


「スミナもアリナも親友でしょ。それにホムラさんとだってソシラは仲良くなってたよね。確かに強さの次元が私達とは違うとは思うよ。でも、だからと言って親友なら出来る事をしなくちゃ」


「うん……。そうかもしれない……」


 ソシラは感情を表にあまり出さないが、色々考えているようだ。スミナとアリナは勿論のこと、ホムラもエルもレモネにとっては友人だった。転生者という別格な存在だからと敬遠すべきじゃないとレモネは思う。


 レモネはそれなりに自分の強さを誇りに思っていた。入学前に本気のソシラとやり合っても6:4ぐらいの割合で勝つ事が出来た。

 それはレモネが父と一緒に小さな頃から旅をし、護衛で雇ったオルトや他の強い騎士の戦うところを見て来たのが大きかった。レモネの一時的に力を増す祝福ギフトは戦闘に特化していて、幼い頃から戦いに参加して自らを鍛えていた。

 商人の父が武器や防具、魔導具を取り揃えてくれたので傷付く事を恐れず戦えた事もレモネの成長を後押しした。


 レモネはそれなりに世間を知っていたつもりだったのだが、戦技学校に入学してそれが甘かったと思い知らされる。学校内で強いとされる人は想像の範囲内だったが、双子のスミナとアリナだけは例外だった。祝福の能力もあるが、それとは別に2人とも戦闘経験もセンスも別格だった。


 夏休みの終わり頃、レモネとソシラの故郷はモンスターの群れに襲われ、最後には巨獣まで現れた。もう終わりだと2人が思った時に助けに来たのがスミナとアリナだった。双子達は夏休みの間に更に強くなっていた。

 レモネは密かにスミナの事をライバル視していて、以前模擬戦でまぐれでも勝てたのは誇りだった。だから夏休み明けの学校で再度模擬戦を申し込んだのだ。

 レモネはスミナに勝てるとは思ってなかった。ただ、実際のスミナの強さを体感したかったのだ。対峙したスミナの強さは予想以上だった。レモネはそれ以降スミナを明確な目標とし、常にその後を追い続けていた。


 そんなスミナももういない。スミナが殺された瞬間は見れなかったが、壁に開けられた大きな穴を見れば魔神に殺されたのは確実だった。エルが認識しないのだからどこかで生きているという望みも無い。

 だからこそレモネは残されたアリナに何かしてあげるべきだと感じていた。彼女の絶望が和らげば戻って来てくれるかもしれないと。


「レモネに伝えて無かった事がある……」


 レモネがスミナとアリナの事を考えているとソシラが自分から話を切り出してきた。とても珍しい事だ。


「何の話?」


「私がお父様の仕事の手伝いをしてる事は知ってるよね?」


「うん、裏の話なら別に私にしなくてもいいよ」


 レモネはソシラが家の用事で度々寮を抜け出し、裏の仕事をしている事は勿論知っていた。その細かい内容までは知らないが、ソシラはきっと知られたくないというのは雰囲気で分かった。


「分かってる、その話をするつもりは無い……。ただ、私がそういう仕事をしてる時に裏町でアリナに出会った……。アリナは学校で目立ち過ぎてならず者に目を付けられてた……」


「もしかしてアリナがそこから魔族と通じてたって事!?」


「違う……。トラブルは解消して、怪しい人達とは付き合わないとアリナは約束してくれた……。

私が知る限りアリナは人の道から外れた行動はしなかったし、逆に進んで人助けしてた。魔族に寝返ったのはスミナが死んで、自暴自棄になった結果で本位じゃないと私は思う……」


 ソシラの言いたい事がレモネにも伝わった。ソシラの言う通り、アリナは無茶をしたり、自ら危険に飛び込んでいくイメージではあるが、その前提として人助けの気持ちがあったとレモネも思った。

 たとえ以前から魔族と繋がりがあったとしても、仲間を売るような行為はしていなかっただろう。今回の突然の魔族への転身はもしかしたら魔神から私達を助ける為にしょうがなくやった可能性もある。


「やっぱりアリナは私達がどうにかしないといけないんだと思う。出来るなら説得して呼び戻すし、もし敵として現れたなら戦って、想いを伝えて戻って来て貰えばいい」


「私もレモネの考えがいいと思う……。アリナは今頃後悔してるかもしれない……」


 レモネはソシラと話してようやく気分が落ち着いてきた。次に自分達が何をすべきか分かった気がする。そしてようやく疲れが身体を支配し始めて、レモネとソシラはベッドに入って眠りにつくのだった。



 レモネが起きると既に翌日の朝になっていた。半日以上寝たからか、逆に身体が怠く感じた。ソシラは既に起きていて、レモネの為に寮の朝食を部屋に持って来てくれていた。


「おはよう、ソシラ。朝食ありがとね」


「おはよう……。よく眠れたみたいで良かった……」


 ソシラはレモネの事を心配してくれていた。何か問題が起きると大体レモネの方がソシラより落ち込む事が多かった。レモネはそういう度に自分はまだまだ子供だなと感じてしまっていた。悩みの相談も大体レモネからソシラにする事が多く、ソシラは殆ど相談して来る事は無かった。まあ、元々ソシラが不満は隠さず口にするのもあるのだが。

 2人で朝食を食べ終えて、する事も無く午前中をダラダラと過ごしていると、寮長のネギヌが部屋にやって来た。レモネとソシラに面会したい人が来たと聞いて行ってみると、そこには双子のメイドであるメイルが立っていた。


「レモネさん、ソシラさん、お疲れのところお呼び立てして申し訳ございません。

今王都にアイル家の主人であるダグザ・アイル様と奥様のハーラ・アイル様がお出でになられており、今回の事件のお話をお2人にお聞きになりたいと申しているのです。

大まかな内容は長男のライト様からご説明があったのですが、やはりお嬢様のおそばにいたお2人の話を是非聞きたいと。

私も詳しく聞きたいと思っていましたので、お願い出来ませんでしょうか?」


 メイルが来た理由はスミナとアリナに何があったのかを説明して欲しいという依頼だった。いずれ王国からこういった依頼が来ると思っていたが、双子の両親の方が先だった。レモネの回答は既に決まっていた。


「勿論構いません。近くにいた私にはそれを説明する義務があると思います。

ただ、私達も最後まで傍にいた訳では無く、詳しい話はアスイさんやミアンさんの方が知っていると思いますが私達の話でいいんですか?」


「はい。実はアスイもミアンさんもまだ話を聞ける状態では無いと先に連絡がありました。

ですので知ってる範囲でいいのでお話を聞けたら助かります」


「そうですか。

ソシラもいいよね?」


「はい、私の知ってる範囲で良ければお話します」


「お2人ともありがとうございます。私は魔導馬車で寮の前で待っておりますので、準備が出来たらお声がけ下さい」


 メイルは深々とお辞儀をする。双子のメイドであるメイルにとって今回の顛末はかなり苦しい状態だろう。それなのに立派に仕事を果たしているメイルは凄いなとレモネは素直に思った。

 レモネとソシラは部屋に戻ると身支度を整え、エルの魔宝石を箱に入れて持ち出す。念の為にホムラの部屋を覗いてみたが、やはり無人のままだった。2人が外に出るとメイルが待っていて魔導馬車に案内する。


「お話は王都にあるアイル家のお屋敷でお聞きします。少し移動に時間がかかりますがご容赦下さい」


「いえ、大丈夫です」


 魔導馬車が動き出し、レモネは車窓から町の景色を眺める。見飽きるほど見た王都の街並みはあの日から変わってしまった気がした。数日前に裏町への魔族の襲撃があり、学校は休校し、カップエリアが異界災害でかなりの被害を受け、その復旧作業に入っている。その爪痕は各所に確実に残っていた。

 メイルは運転席に座り移動中には何も言わず、レモネもソシラも喋るのをためらって車内はずっと無言のままだった。魔導馬車の速度が速いのもあり、そんな気まずい時間もすぐに終わった。魔導馬車は王都のワンドエリアからソードエリアに移動し、貴族の別邸が並ぶ通りを進んでアイル家の屋敷の前で止まった。


「こちらがアイル家のお屋敷です。あまり形式ばらない屋敷ですので気楽になさっていただけると助かります」


「分かりました」


「お邪魔します……」


 レモネとソシラはメイルが扉を開けたので屋敷の中へと入っていく。アイル家の屋敷がある事は双子から聞いていたが、実際に入るのは初めてだった。貴族であるソシラはソードエリアに足を運ぶ事が度々あったが、そうで無いレモネはソードエリアに来るのが3度目だった。

 アイル家の王都の屋敷は以前訪れたノーザ地方の屋敷と同様に落ち着いていて温かみのある雰囲気だった。貴族の屋敷にしては飾り物は少なく、質素にも見える。対比としてのソシラの屋敷が派手なのもあるかもしれない。


「ただいま戻りました」


 メイルがそう言って奥へと進んで行く。そして奥の部屋から双子の両親のダグザとハーラ、兄で金騎士団の騎士であるライトが出て来た。


「レモネさん、ソシラさん、わざわざ来て貰って本当にありがとうね」


「2人ともここは私の屋敷で正式な場では無いのでくつろいで欲しい」


「おじさん、おばさん、ご無沙汰してます」


「ご無沙汰しております」


 ダグザとハーラにレモネとソシラは挨拶する。顔見知りなので変に遠慮しないようレモネは心掛けた。


「一応顔は合わせているけど、正式な挨拶はまだだったね。

僕はアイル家の長子のライト・アイルと言います。まあスミナとアリナの兄と言った方がいいかな」


「私はレモネ・ササンです。ササン商会のデンネ・ササンの娘で、スミナとアリナとはクラスメイトであり、親友です」


「ドレド・モットの娘のソシラ・モットと申します。ライト様の事は剣の達人とよく聞いております」


 レモネとソシラは深々と挨拶をする。貴族社会で生きて来た経験が2人とも身に付いていた。


「あんまり長居させてもいけないですし、早速お話を伺いましょう。こちらへどうぞ」


 ハーラは2人が気を使わないようにと柔らかく応接室へと案内する。テーブルを挟んで向かい側にダグザ、ハーラ、ライトが椅子に座り、レモネとソシラはその正面のソファーに座った。メイルが紅茶とお菓子を運んできて、メイル自身はダグザ達の斜め後ろに立ったまま話を聞く姿勢を取る。


「事の経緯はライトから一通り聞いている。だが、ライトも異界災害の中心部までは辿り着けず、君達の元に着いた時には全て終わった後だったと。話すのは辛いかもしれないが、君達が知っている内容を話して貰えないだろうか。あそこで何があったのかを」


 ダグザは真面目な顔で言う。一気に2人の娘を失ったのだからその失意は大変なものだろう。レモネは一瞬ソシラの顔を見てから話し始めた。


「分かりました。私達も全てを見ていた訳では無く、見ていない箇所は後から聞いた話と状況を照らし合わせた内容になります。

本当ならエルちゃんが全てを見ていた筈なのですが、この通り今は宝石の形で何も反応しなくなってしまって」


 レモネはカバンから箱を取り出し、それを開いて中の紫色の大きな宝石を見せる。それを見てメイルがテーブルの近くに寄ってきた。


「エルさん、私です、メイルです。お話出来ませんか?」


 メイルが宝石に向かって必死に訴えるが、エルは反応しなかった。


「以前エルちゃんに聞きましたが、魔宝石は主人が死ぬまで契約は解除されないそうです。

なので今は契約が解除され、新たな主人が現れるのを待っている状態かもしれません」


 ソシラが残酷とも取れる内容をはっきりと伝える。こういう部分はソシラは強いなとレモネは素直に尊敬していた。


「そうなのね。悲しいけれど、これが事実なのよね」


 ハーラは動かない魔宝石を見て娘の死を実感している。


「辛いだろうに伝えてくれてありがとう。私達は何を聞かされても大丈夫な覚悟をしている。君達が知っている事を話して貰えないだろうか」


「はい。お話させて頂きます」


 レモネとソシラはあの日何があったかを話し始めた。

 前日の深夜に魔族の襲撃があった事、夕方に地震と共に異界災害が発生した事、その夜にアスイからレモネとソシラに協力依頼があった事。そして深夜に双子と共に異界災害の封印の為に聖教会の神殿へと向かった事。

 聖教会の神殿での中の出来事はソシラが中心に説明した。ソシラは聖教会の知識もレモネより持っているからだ。

 聖女であるミアンが聖なる槍で異界災害を封印する予定だったが、ミアンは拒絶されてしまった。その時スミナが立ち上がり、聖女の代わりに聖なる槍を使って封印する役割を名乗り出た事を説明した。スミナがいなければ皆は絶望し、異界災害は防げ無かっただろう。


「あの時のスミナの姿は本当に神々しかったです」


「ハーラ様の聖なる力はスミナに受け継がれていたと思います」


 レモネとソシラはあの時の光景を思い出して言う。ハーラはそれを聞いて優しく微笑んだ。元聖女としては複雑な感情なのだろう。


 レモネは引き続いて異界災害の中心部へ向かった時の話をする。レモネとソシラは他の人達の協力で塔の中までは入る事が出来たが、異界災害の中心部へと向かうのは出来なかった事を説明した。スミナが神機で空けた穴をレモネとソシラを除いた6人で降りて行ったと。

 レモネとソシラは異界災害の存在であるソルダ達が穴に入らないように必死で防いだ。だが、徐々に2人とも疲弊し、駄目だと思ったところでオルトとマーゼに助けられた事を伝える。

 降りて行ったメンバーの行動はあとでミアンに聞いた内容でしかないが、最初に巨大な敵に対してアスイとルジイが残って対処し、その次にミアンが異界災害の罠に嵌ってしまったらしいと。その先で何があったかは分からないが、結果としてその数分後にスミナは異界災害を封印する事に成功していた。


「封印が成功した瞬間、異界災害のソルダは消え去り、高くそびえ立っていた塔も無くなりました。周囲は元の町に黒い泥のような物体が覆いかぶさったような状況でした。

マーゼさんが異界災害の中心部があった遺跡への入り口を見つけ、そこを私とオルトさんが先導して必死に地下へと掘り進んで行ったんです」


 レモネは当時の状況を振り返りつつ説明する。異界災害は封印出来てもこのままでは皆生き埋め状態になってしまうのでレモネ達は必死に通路に詰まった固い泥のような物体を掘っていったのだ。


「私達が合流するまでの話はミアンさんから聞いた内容をまとめて話してみます。

ミアンさんが倒れていた広間に下方から傷付いたスミナとアリナとエルちゃんが来たそうです。そこでしばらく休憩していると上階から掘り進んで来たアスイさんとルジイさんが来たと。

合流したところでルジイさんはスミナに魔力を分け与える振りをして近付き、銃型の神機を奪いました。即座に反応したアスイさんはその際にルジイさんから撃たれたそうです。

ルジイさんは魔神と同化していて、その正体は以前スミナに倒された魔神ドヅでした」


「ボルデ火山の遺跡に封印されていた魔神ですね。あの時の事がこんな結果に繋がるなんて……」


 メイルが苦しそうに言う。


「アリナとスミナは必死にドヅと戦ったそうです。ですが、魔力も体力も少なくなった2人にドヅを倒す事は出来なかったと。スミナは自分を助けようとしたアリナを庇って、ドヅの神機の攻撃が直撃し、消えて無くなったそうです。だから遺体も遺品も残ってないと。

私達がその広場に到着したのはその直後でした。もう少し早く着いていればこんな事にならなかったかもしれません……」


 レモネは家族である3人の前で話していて息が苦しくなっていた。


「ここから先は私が話します。

私とレモネとオルトさんとマーゼさんが到着した時、丁度アスイさんも回復してドヅと向き合っていました。ただ、アスイさんの身体は傷が深く、まともに戦える状況では無かったように見えました。

ドヅは神機を構えた状態で、オルトさんや私達が束になっても勝てる相手では無かったと思います。

だからアリナはあの時立ち上がり、ドヅの注意を引く行動を取ったのでしょう」


 ソシラがはっきりと喋る。あえて言いづらい事を代わりに喋ってくれる親友にレモネは感謝していた。


「アリナは黒い腕輪を取り出して、ドヅの神機の攻撃を真正面から吸収しました。あれは魔族のデビルが使う呪闇術カダルではないかと思います。

黒い腕輪はアリナがダルグと呼んでいて、それもデビルの道具である闇術具ダルグの一種でしょう。

アリナは腕輪で赤黒い鎧に身を包み、デビルのような翼が生えました。そして一瞬でドヅを粉々に切り裂きました。

その後、アリナはアスイさんを槍で地面に縫い付け、魔族のレオラを呼んで2人でゲートの中に消えて行きました」


「詳しい話は分かった。辛い話をさせてすまなかった」


 ダグザが深くお辞儀をする。するとソシラは話を続けた。


「ダグザ様やメイルさんは知っていると思いますが、私の父は裏社会でも活動をし、私もその手伝いをしています。

以前、私は裏町でアリナと会う事がありました。彼女は私の裏の顔を知っても態度を変えませんでした。それ以降も私の耳にはアリナの裏社会での情報が入ってきていました。

私がはっきり言えるのはアリナは決して魔族と通じていたりしなかったという事です。彼女は直情的なところはありますが、人の道に反した行動は今までしていませんでした。私の予想ですが、アリナは能力の高さから一方的に魔族から勧誘され、それを断って来たのだと思います。

その証拠が今回の魔神とのやり取りかと。もしアリナが魔族の力を既に使っていたならスミナを助ける事に使っていたでしょう」


 ソシラが自分の知っている事からアリナの行動を説明する。レモネはソシラが論理的に説明していて驚いた。ソシラが賢い子だとは思っていたが、レモネは自分の知識不足や経験不足を感じざるを得ない。


「とても悲しい話ですが、アリナはスミナを失った事で自分がどうなってもいいと感じ、私達を助ける為に魔族の力を使ってしまったのでしょう。

ただ、そうしなければ私達は全員あそこで魔神に殺されて終わっていたと思います。私達はアリナの決断に助けられました。

そしてアリナは魔族に追撃させない為に自らを差し出してあの場から消えたのだと考えられます」


「ソシラちゃん、ありがとうね。私もアリナが悪い事をするとは思っていないわ。あの子達は重い運命を背負って生まれて来たのだと思う。いずれこんな事になるのではと覚悟はしていたわ」


 ハーラはとても辛そうに言った。


「僕は自分が情けないです。あの場にいたとはいえ、他の方々に比べて力不足なのを再認識させられました。

そして妹達に辛い選択をさせてしまった事は悔やんでも悔やみきれません」


 ライトが涙目で言う。王国騎士の中では十分強い筈のライトでさえ真の脅威には太刀打ちできないのだ。レモネは改めて自分の存在の小ささを感じてしまった。


「それを言うなら、私は何も出来ませんでした。ダグザ様からお嬢様達の事を任されておりましたのに、力不足ゆえ戦いには参加出来ず、封印完了後もすぐに助けに向かえませんでした。その前のトミヤの件だって友人をきちんと疑えていればこんな事にならなかったかもしれません」


 メイルも責任を感じてとても悔やんでいた。皆の心に後悔の念が染み渡っていく。


「みんな、過去の事を後悔してもどうにもならないだろう。これはみんなが全力で行った結果だ。あの時ああしていればと思い返しても今が変わるわけじゃない。

それより、これからの事を話そうじゃないか。アリナはまだ生きている。魔族の脅威も消えていない。私達にも出来る事があるのではないかな?」


 ダグザが暗い空気を打ち破るように明るく言う。確かにダグザの言う通りで、アリナが生きている事は希望だった。


「あの、私もソシラと同じで、アリナが本気で魔族に寝返ったとは思えないんです。結果としてこうなってしまっただけで、彼女はまだ悩んでいるんだと思います。

だから、私は出来ればアリナを救いに行きたいと思っています。まあ、そんな方法は分かりませんし、私自身は力不足ですが……」


「私もそれを全力でフォローしたいです。

ダグザ様、まことに勝手なのですが、しばらくメイドの仕事を休ませて貰えないでしょうか。アリナお嬢様が戻って来るまで。私はその間アスイの元でアリナお嬢様を取り戻す手伝いをしたいのです」


「メイル、それは構わないが戦闘は出来るのか?」


「はい。もう覚悟が決まりました。

実はダグザ様にも黙っていた事があります。魔族に取り入った貴族にお嬢様達が狙われた事が以前ありました。その時私はアリナお嬢様を助ける為に過去のしがらみを振り切ったんです」


「そうか、そんな事があったのか。

メイル、私からも頼む。アリナを救ってやって欲しい」


「かしこまりました」


 レモネに続いてメイルもアリナを救う為に覚悟を決めてくれた。


「私も父の力を借りて、魔族の情報を集めます。ただ、魔族からの襲撃も今後増えると予想出来ます」


「その点は僕達騎士団に任せてもらいたい。今までアスイさんに頼り切りだった状況を騎士団長のターンさんもどうにかしたいと改革を進めていたところです。

そして僕自身もアリナを救う為なら何だってしてみせます」


「ライト、頼んだぞ。

ソシラさんもよろしくお願いします。私の方からもドレド氏と協力して情報収集出来るようにしようと思う」


 ソシラとライトもやる気を見せ、ダグザも力が入っているように見えた。


「私も聖教会に顔を出して協力出来る事が無いか聞いて来るわ。あと、異界災害の件も裏で何があったのかをきちんと調べておく必要があると思うの」


「そうだな。もしかしたら異界災害も魔族が関与した計画だった可能性もあるな。一連の流れの裏に誰かまだ知られていない人物がいるかもしれん。

ともかく、私も妻もしばらく王都に留まって対応しようと思う。レモネ君、ソシラ君、何か必要な事があれば何でも言ってくれたまえ。アイル家は全力で君達をフォローしよう」


「ありがとうございます」


「ダグザ様、感謝いたします」


 レモネとソシラはダグザに礼を言う。


「あと、エルちゃんの宝石はお返しいたします。本来はスミナの物ですので」


「レモネちゃん、ソシラちゃん、エルちゃんは貴方達が持っていて貰えないかしら。きっとアリナは寮に戻って来るだろうし、その時にアリナに渡してあげて欲しいの」


「いいんですか?」


「私もその方がエルさんの為にいいと思います」


 ハーラに続いてメイルもエルを寮に置いておいて欲しいと言ってきた。


「分かりました。私とソシラで大事に保管させて頂きます。もしエルちゃんが目覚めたら連絡しますね」


「お願いね」


「では、話は終わったところで、今日の昼食は我が家で食べていってくれるかい?」


「では、お言葉に甘えて」

「喜んで頂戴致します」


 レモネとソシラはアイル家で昼食をご馳走になり、スミナとアリナの過去の学校での話を語ったのだった。

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