5.入学試験
結局双子達が遺跡の外に出た頃には夕暮れ時になっていた。広間にあった本や食器などはキメラによって破壊されたり臭いが付いたりしていたので持ち帰れなかった。エルが居た奥の部屋にあった魔導具のうち、スミナが特に価値があると思った物を荷物にならない程度に持ち帰った。遺跡の道具に関しては発見者に所有権がある。残りはメイルが後日遺跡発見の報告をし、王国の調査隊の物となるだろう。
帰り道に迷ったりガーディアンに襲われたりしなかったのは幸運だった。馬車まで戻るとメイルが車夫にエルの事を保護した迷子だと告げ、近くの町まで急いでもらうよう頼んでいた。
馬車の客車部分は向かい合わせに長椅子の座席があり、今までは進行方向逆向きにメイル、反対側に双子が並んで旅をしていた。今回もそれと同じように座ろうとしたが、新たに加わったエルは双子の間に無理矢理入り込んで座った。
「ちょっと、狭くなるからエルちゃんは向かいの席に座ってよ」
「ダメです、マスターから離れると何かあった時に対処出来ません」
「お姉ちゃんはそんなに弱くないし、お姉ちゃんの横はあたしの席なの」
座る席で喧嘩を始めるアリナとエル。帰り道も最初は物珍しそうにエルに話しかけていたアリナだが、常にスミナの横にくっついているのが気に食わなくなっていた。
「2人とも喧嘩しない。わたしが真ん中に座ればいいでしょ」
そういってエルを持ち上げて右の窓側に移動し、スミナは真ん中に座る。エルは中身がどうなっているか分からないが、人間に似せている形態ではその身長の子供よりやや軽いぐらいの体重だった。座席は3人で座るのにも十分な広さだが、今まで2人で座っていたのでやや窮屈に感じた。
馬車が動き出すと、エルは外の景色を楽しそうに眺めていた。その姿は普通の子供が遠足を楽しんでいるように見える。
「お姉ちゃんを守るんじゃ無かったの?」
「周囲の情報収集は大事な仕事です」
「以前のマスターはエルを外に連れ出したりしてくれなかったの?」
「モンスターとの戦闘以外は殆ど施設内で過ごしていました。マスターが亡くなってからはカバンの中か建物に保管されていたので、自由に外に出られたのは初めてです」
「そっか、じゃあ自由に楽しんでね」
流石にその話を聞くとアリナもエルをからかう事はしなくなった。
街道を進むと数時間で町に着き、夜間にモンスターや野盗に襲われずに済むのでようやく一息付けた。メイルが安全な宿を見つけ、食事をとり、双子の部屋とメイルの部屋で別れて休む。流石に疲れたのか、夜の町を散策したりせず、双子もそのまま寝る事にした。
「って、なんでエルちゃんがお姉ちゃんのベッドに入り込んでるの?エルちゃんに睡眠は必要無いんでしょ?」
「はい、ワタシは眠ったりしません。マスターに危険が迫っても大丈夫なように横で警戒します」
「だったらベッドの横に立ってればいいじゃん」
「わたしはかまわないよ。ずっと立ってるのは大変だし。それにアリナだってちょっと前までわたしのベッドに潜り込んで来たじゃない」
「あれはあたしだからいいの!!」
今まで誰にも喋っていない秘密をばらされアリナは少し顔が赤くなる。
「ワタシはマスターの命令であれば従います。夜はどうやって過ごせばいいですか?」
「いいよ、横に寝てて。でも寝ぼけてぶつかっても怒らないでね」
「了解しました。ワタシは丈夫ですので叩いても噛んでも大丈夫です」
「お姉ちゃんは寝ぼけて噛んだりしないよ!!」
アリナは不貞腐れながら眠りについたのだった。
一行は遺跡に寄った事で予定より遠い町で宿泊したのもあり、観光せずに朝から出発した。アリナとエルの言い争いがたまにあったものの、問題は発生せず数日は順調な旅路だった。双子が試験の日が近いのを分かっているので余計なものに首を突っ込まなくなったのも大きい。
『マスター、魔法での直接会話をしても宜しいでしょうか?』
エルの声が聞こえるが、エルは外を見ていて、スミナ以外の人も反応しない。魔法で会話している事をスミナは理解したが、返事の仕方が分からない。
『会話はワタシに向けて喋りたい言葉を想像すれば届きます』
『こんな感じ?』
『はい、聞こえています』
『それで、わざわざ魔法で会話するのはなんで?みんなに聞かれたくない事でもある?』
スミナは素直に質問する。
『ワタシは問題無いのですが、マスターが隠しておきたい事かと思いまして、直接会話にしました』
『それで何について聞きたかったの?』
『マスターの特殊な能力についてです。ワタシと契約可能なのは以前のマスターと同質の魔力を持っている者、高い魔力で強引に支配出来る力を持つ者だけの筈でした。
ですが、マスターはそれとは別の何かでワタシのマスターになれると感じました。マスターにはどのような力があるのでしょうか?』
エルが言っているのはどんな物でも使い方が分かる祝福の事だと分かる。スミナは少し悩んだ後、エルには話す事に決めた。
『エル、わたしは特別な祝福を持っているの。それはどんな道具でも使い方が分かるというもの。だから、エルのマスターになる方法も分かって、マスターになれたの』
『祝福ですか。なるほど。
ただ、マスターには他の人と違うところがあると感じます。マスターの妹もそうです』
エルには転生者の特別な力も感じられるのだな、とスミナは思った。エルなら秘密を洩らさないとは思うが、魔法で作られた存在なので、記憶を読み取られる可能性があるかともスミナは考える。結局濁して伝えておく事にした。
『わたしとアリナは少し特殊な身体なの。ただ、今は詳しくは説明出来ない。教えられる時が来たら教えるね』
『分かりました。マスターが話したくない事は話さないで大丈夫です』
『ありがとう。
ところで、この直接会話って便利じゃない?』
スミナは魔法で直接やりとり出来るのは便利だなと改めて思う。声を遠くに送る魔法や聞き耳を立てる魔法は知っていたが、この直接会話の魔法は存在すら知らなかった。
『今の時代は使っていない魔法なのですか?宜しければ魔法の仕組みをお教えしますよ』
『うーん。あんまり失われた魔法を覚えると問題が起こりそうだし、必要になったらお願いするね』
『分かりました』
スミナは便利だけど使い方を誤ると危険な気もしていた。魔法の会話を盗み聞きする魔法もあるかもしれないと。エルには他に過去の記憶で見た内容も詳しく聞きたかったが、祝福の事を伝えないと不思議に思われるのでまだ聞けないなとスミナは思った。
「お姉ちゃん、どうしたの?何か悩み事?」
「え?別にちょっと考え事してただけ」
双子だからかこういう時のアリナは鋭い。魔法で会話をするとそっちに集中して周りが見えなくなる危険性もあるなとスミナは思った。
双子達は屋敷を出発して10日経ち、ようやくデイン王国の中心である王都の入り口に到着した。試験まではあと2日なので当初予定していたほど余裕はなかった。
「あの関門を抜ければ王都に入ります」
「王都っていうからもっとしっかりした壁で囲まれてると思った」
「ホントだ、街道からでも街並みが丸見えだね」
街道の先に大きな関門とその周辺だけ高い壁が見えるが、途中から壁は無くなっていた。街道を外れれば関門を通らなくても王都に入れそうに見える。メイルはそんな双子の疑問に答える。
「全体を物理的な壁で覆うには王都は広過ぎるんです。だから、街道に面している部分以外は魔法の壁が張ってあり、上空からも入れないようになっています」
「そんな事が可能なの?」
「王都の中心に古代の魔導帝国の研究所があって、そこで巨大な魔法城壁の作り方を解明したそうです。ただ、数十人の魔術師が力を合わせて作ったこの魔法城壁も1年が限度で、毎年張り替える必要があります」
「じゃあ壊したら怒られるね」
「絶対やったら駄目だからね」
アリナなら壊す事も可能かと思い、スミナは釘を刺す。
「あれでは魔法城壁として不完全です。魔族の襲撃には耐えられません」
エルは魔法城壁の事を知っていて、ここからでも魔法の壁が見えるようだ。
「エルが前のマスターの時はもっと凄い魔法城壁があったの?」
「はい、あれより十倍は硬く、数十年は耐えられるものが存在していました。そうでなくては魔族に破壊されてしまいます」
「今は戦争も終わって、そこまで強いモンスターも出ないから大丈夫だと思いますよ」
メイルが不安にならないようにフォローする。現在の物も過去の物も魔法城壁がどの程度のものか双子は知らないので実際どうなのか分からない。
「まあ、モンスターよりお嬢様達の方が恐ろしいとも言えますが……」
「メイル、そこまではわたし達も強く無いよ」
「そうそう、あたし達には理性があるし」
「マスターの妹は理性が少し足りていないと感じられます」
「何よそれ!!」
「もうすぐ着くんだからケンカしない!」
スミナはすぐに仲裁する。そういえば小さな口ゲンカはしたけど、大きなケンカはアリナとした事無いな、とスミナは振り返る。双子なので意思疎通が容易だったし、現代の記憶が戻ってからは言い合い自体が不毛だと思うようになったからかな、とスミナは思った。
馬車が関門に近付くと衛兵と思われる2人の鎧を纏った男がこちらにやってきた。メイルが馬車を降りて対応すると、意外なほどすんなりと関門を通る事が出来た。貴族の馬車だとこういう時楽なんだなとスミナは思った。
「凄い街並みだねー!!」
「確かに」
双子は道中でも自分達の町より大きな町を見て来たが、王都はその比では無かった。道は馬車が走りやすいように舗装され、魔法で空中に道案内が表示され、建物は現実世界のビルのように巨大な物が多かった。ただ、雑多に大きい建物が並んでる訳では無く、全体として調和して見えるように区画ごとに大きさや色合いが決まっているようだ。歩道には多くの人が行き来していた。
「ここってカップエリアだよね」
「はい、王都の北東から入ったのでカップエリアです」
メイルが答える。スミナは事前に王都について調べて来ていて、大まかな地図も頭に入っていた。王都は5つのエリアに分かれていて、それぞれに特徴がある。双子達が入ったカップエリアは王都を十字に分けた時の北東に位置し、主に歓楽街と住宅街で出来ている。人の交流が盛んなエリアで、冒険者が登録する冒険者ギルドもカップエリアにある。
目的地であるギーン戦技学校があるのは北西のワンドエリアで、学校と教会、魔導研究所などの学術研究に関連した施設が多く集まっている。魔法と知識を求める人が集まるエリアで、魔導具や魔術書の店が一番充実している。
南西はソードエリアで、海に面していて軍港があり、王国軍の施設と貴族の別荘と高級店、武器防具や兵器関連の店が集まっている。王国の防衛を担うエリアで、腕試しが出来るコロシアムもここにある。
南東はペンタクルエリアで、漁港があり、商人の取引が盛んで、沢山の店と工場が集まっている。流通の中心地のエリアで、あらゆる物がここでは買えるという。
そして4つのエリアの中央がデイン王国のデイン王城エリアとなっている。どのエリアからも入れるが、周囲を堀と塀で囲まれ、いざという時は各種エリアからの通路を遮断して篭城出来るように作られている。王族や国を管理する大臣達、国を纏める魔術師や近衛騎士達はここに住んでいる。
スミナは王城を除く4つのエリアの名前がタロットの小アルカナと同じカップ、ワンド、ソード、ペンタクルなのが少し不思議に思っていた。よくある分け方だから偶然の一致とも思ったが。
「お嬢様、日程が遅れたので王都観光は試験後にしましょう」
「わたしはそれでいいよ」
「あたしは見て回りたいけど、我慢する」
アリナを納得させ、目的地のワンドエリアの宿へ向かった。宿屋やレストランはどのエリアにもあり、宿の為にエリア間を移動する必要などは無い。双子は貴族なので、ソードエリアに別荘があり、そこに泊まる案も出たが、試験会場との行き来に時間がかかるので普通に宿に泊まる事に決めていた。
「戦技学校に受かったら、毎日この街で遊べるんだよね」
「学校は勉強する為に行くんだよ」
「勉強も大事だけど、遊びも後学の為に必要だよ」
スミナはアリナの言う事も一理あるとは思うが、同意しないようにした。
「雰囲気変わったね」
「ここからワンドエリアですね」
道路を馬車で進んで行って大きな道を横切ると、建物の色合いが変わっていた。カップエリアはどことなく明るめの建物が多かったが、ワンドエリアに入ると黒や紫や緑などの暗めの色の建物が多くなった。ただ、それは不気味な印象よりも、神秘的な印象が強く、双子も変わった建物に目を奪われていた。
既に夕方になっていて、メイルが車夫に伝えて宿が集まってる方へと進んでいく。歩いている人達を見ると学校の制服らしい服を着ていて、スミナはあれが戦技学校の制服なのだと理解した。そして少しだけ現実世界の時の学生服に似てるな、とも思った。
試験前で宿屋が埋まっている心配もあったが貴族御用達の宿だったので、部屋は空いていて探し回る必要は無かった。馬車の車夫は荷物を下ろすとそのまま貴族の別荘の方へ向かい、メイルは伝手があるので一緒の宿には泊まらないそうだ。
「お嬢様、今夜は宿で大人しくしていて下さいね。明日は私がこの辺りを案内しますので」
「了解」
「分かったよ」
メイルに案内されたレストランで食事をとった後、双子とエルは宿屋でメイルと別れた。明後日が試験なので、今夜と明日は安静にしなければとスミナは思う。宿の部屋で入浴して寝間着に着替え、ようやくリラックス出来た。高級な宿には魔法のお風呂が付いているので貴族の娘である事に感謝する。
「ようやく王都まで来たね、お姉ちゃん」
「そうだね、ここに居られるように試験を頑張らないと」
「マスター、その試験とは何ですか?」
エルが質問する。スミナはエルに旅の目的を知らせて無かった事に気付き、学校の試験と、その後の予定を話す。
「なるほど、学校に入る為の試験ですか。ではワタシもその試験を受けます」
「なんで?」
「ワタシはマスターと共にある必要がありますので」
「人間じゃないのに試験が受けられるわけないじゃん」
アリナが残酷だが当たり前のことを言う。エルの表情は少しだけ悲しげに見える。
「試験を受けるには事前に書類を送って、それが認められる必要があるの。それに試験を受ける為のお金も。残念だけど今からじゃ間に合わないし、エルは諦めてね」
「ではマスターが試験に落ちて下さい」
「ちょっとなんて事言うの、この子!」
アリナが半分キレる。流石にスミナもその発言は許せなかった。
「戦技学校はアリナと一緒に合格出来るようにずっと勉強してきたの。だから、落ちるなんて言わないで」
「ですが、そうしなければマスターと同じところに居られません」
エルに悪意は無く、純粋に一緒に居る事が重要なのだとようやくスミナにも分かった。
「入学は無理でも、宝石の形なら一緒には居られると思うよ」
「待機形態ですか。それがマスターの命令であるなら受け入れます」
感情があるかは分からないが、スミナにはエルが落ち込んでいるように見えた。
「お姉ちゃん、エルちゃんを甘やかし過ぎ。道具なんだからちゃんと命令しないと」
「アリナ、わたしはエルの事を道具とは思って無い。ちゃんと受け答えするし、人間じゃなくても、それに近い存在だと思う。
エル、まだ入学出来るか決まった訳じゃないし、今後の事は試験が終わってから一緒に考えよう」
「はい、マスターの決定に従います」
エルは嬉しそうに答え、アリナは不服そうだった。エルを人間のように感じるけど、常識的な部分は無いので、そこを何とかする必要もあるなとスミナは思うのだった。
その日も双子は言われた通り大人しく宿で眠りについた。王都に無事到着した安堵感もあり、双子はぐっすり眠ったのだった。
翌日、朝からメイルが双子のもとに訪れ、朝食に出かけると共に学校周りの案内をしてくれる事になった。
「無駄遣いは駄目ですが、領主様からお金は預かってきましたので、欲しい物があったら買ってもいいですよ」
「お父様、お母様にお土産も買わなくちゃね」
「ねえ、お兄ちゃんには会えないの?」
アリナがメイルに聞く。双子の兄のライトは戦技学校を卒業し、今は王国の金騎士団という王都を守る近衛騎士団に入っている。
「昨晩連絡を取ってみましたが、ここ数日は訓練を兼ねたモンスター討伐で王都の周囲を旅していてここにはいないそうです」
「そっか、残念だなー」
双子はどちらもライトの事が好きだが、現実世界で兄のいなかったアリナの方がライトに甘えていた。ライトが戦技学校に入ってからは屋敷に戻ってくる時間が少なく、会える機会はかなり減っていた。
「じゃあ買い物を楽しも―!!」
「結構珍しい物が多いから見てるだけで疲れそう」
スミナの場合は物の価値が見えるので、貴重な物が多い場所は少しだけ疲れるのだ。
「買い物は午前中までにして、午後は明日に備えてゆっくりしましょう」
「はい」「うん」
双子はメイルの提案に素直に従った。
流石王都だけあって、魔導具も魔導書も今まで見て来た町と段違いの品揃えだった。学生が多いので若者向けの変わった店も多く、午前中で見て回れるのはほんの一握りだ。それでもスミナは掘り出し物の魔導具を見つけて買ったり、アリナはお洒落な魔法のアクセサリーを買ったりしていた。エルはスミナについて回ったていたが、生きていた時代と違うようで当たり前の物を珍しそうに眺めたりしていた。
買い物を終え、お昼は屋外に席がある洒落たカフェで昼食を取る事にした。
「ねえアリナ。移動中復習してなかったけど、筆記試験の内容忘れてたりしない?」
食事が終わり、デザートを食べているところを明日の事を考えてスミナが確認する。
「え?
うーん……。あんまり覚えてないかも」
「実技は心配してないけど、あんまり筆記の点が悪いと落ちる可能性もあるんだからね。午後は丸々勉強だよ」
「えーーー」
アリナが不満の声を上げる。そもそも出発時も不安なところがあり、アリナに移動中も勉強する約束をスミナはしていたのだ。
「マスターの妹は勉強が出来ないのですね」
「違うよ。真面目に勉強してなかっただけ。やれば出来るから」
「それは勉強出来るとは言わない。
まあ、アリナは本当はやれば出来るのは知ってるけど」
スミナが好きな物に関しての記憶力はあり、魔法も理解さえすれば応用が出来る事をスミナは知っていた。ただ、めんどくさがってやらないのだけれど。
何とかアリナを納得させると、双子達は宿に戻って勉強する事になったのだった。
スミナがアリナの苦手な部分を把握していたので、勉強は深夜まではかからず、双子はちゃんと睡眠をとる事が出来た。
翌朝、忘れ物が無いか確認し、宿を出る支度をする。
「アリナ、筆記はどれだけ点数良くてもいいけど、実技は本気を出しちゃ駄目だからね」
「分かってるよ、お姉ちゃん」
戦技学校の実技試験は魔法や体力、戦闘技術のテストがあり、双子が本気を出してしまうと只者ではない事がバレてしまう。そもそもは魔法や戦闘の素質があるかを確認するレベルのテストなので、どれだけ手を抜いても実技の結果で落ちる可能性はゼロに近い。双子は転生者であることがバレず、かつ目立たないようにする為に実技はある程度で済ませると決めていた。
「お嬢様、学校までお送りします」
メイルが約束の時間にやってきて、双子は試験会場であるギーン戦技学校へと向かった。
学校の入り口には受験生と思われる、双子と同年代の少年少女が沢山集まっていた。戦技学校へ入学出来る年齢は15~20歳と決まっていて、一度試験に落ちても翌年再度試験を受ける事が出来る。ただし、落第するのは素質の無いと言われているようなものなので、留年してまで受ける者は少ない。試験費用も学費も高く、貴族や家が裕福な者、または領主や教会などが推薦し、費用の一部免除が認められた者でないと受ける事自体が難しかった。
「エル、試験が終わるまではメイルと一緒に居る事。これは命令です」
「――分かりました。マスター。ただ、危険が迫った場合は呼んで下さい」
「そんな事無いから大丈夫だけど、その時はちゃんと呼ぶから」
「お姉ちゃん、行くよ」
「お嬢様、頑張って下さい」
メイルとエルに見送られ、双子は戦技学校の正門をくぐっていった。戦技学校というから普通の学校の建物かと思っていたが、門をくぐって見えて来たのは歴史ある神殿や宮殿のような、大きく立派な建物だった。元々が別の用途で作られた建物なのかもしれない。受付のある建物中まで入ると、そこはかなり大きなホールで、大きく美しい柱が何本もあり、荘厳な雰囲気だった。この国で最高の学校である事が入っただけでも理解出来た。
「あ、スミナにアリナ!」
入試の手続き資料を係の人に見せ、決められた教室へ移動している最中に双子は聞き慣れた声を聞いた。そこには双子の幼馴染であるガリサとドシンの姿があった。ガリサは年を取るにつれて魔術オタクに磨きがかかって、今では眼鏡を付けるようになっていた。ドシンは高かった背が更に伸び、身体つきもガッシリして成人男性のように成長していた。一見怖く見えるが、見た目に反して可愛い動物好きな優しい少年である。
「ガリサとドシンもこっちの教室なんだ」
「2人はどこに泊まってたの?」
「私の親戚の店がワンドエリアにあって、そこにドシンも一緒に泊めてもらった」
ガリサはジモルの街の道具屋の娘で、王都に親戚がいるとは聞いていた。
「こいつの恋人とか言われて迷惑だったよ」
「私も筋肉バカと結婚するつもりはないから安心して」
ガリサとドシンはいつもの軽口を言い合う。ドシンは可愛いアリナに気があるのではないかとスミナは思っていた。呼び掛ける時に自分よりアリナによく声をかけるからだ。以前アリナにドシンの事をどう思ってるか聞いた事があったが、「お兄ちゃんぐらい強くてカッコよくなれば考えないでもないかな」と言っていて、残酷だなとその時は思ったのだった。
結局この歳までに幼馴染で恋愛関係になる者はいなかった。スミナはそもそも興味が無かったし、アリナも兄にべったりで他の異性に気があるところは見た事が無かった。
4人の筆記試験の教室は同じで、席も近かった。ガリサとドシンの推薦は双子の父のダグザがしていて、入試の申し込みを一緒に送ったからだとスミナは思った。
教室も廊下も高級そうな石で出来ていて、魔法の灯りや自動扉も立派な物が使われていた。魔導具や魔力の籠った道具の持ち込みは禁止されており、教室の入り口で探知の魔法が反応して連れていかれる少年もいた。双子は宿とメイルに渡していて、そういった物は持ち込んでいない。恐らくその他侵入者に対するセキュリティもしっかりしてるのだろうとスミナは思った。
「多分魔法の監視があるから、カンニングとか出来ないからね」
「やらないって、そういうのは」
スミナはアリナに小声で忠告する。アリナの危機察知の祝福なら試験官や監視の魔法の目を盗んでカンニング出来そうな気がしていたからだ。不正が発覚したら試験は一発アウトだろう。
試験会場の教室は前後で段差があり後ろからも黒板が見える作りで、前後左右の人の回答が見えないようにずれて席を指定されていた。隣との距離を空けて座っているが、それでも教室に50人ぐらいの人がいる気がする。戦技学校の試験は応募の半数ぐらいが落ちるらしく、ここにいる人達も全員は受からないのだろう。
試験官から試験の流れと実技試験の会場への移動の仕方の説明を受ける。筆記の会場は机が人数分あるが、実技は数人ずつしか試験出来ないので、筆記と実技の試験の受ける順番を教室ごとで区切って順々に回していくようだ。双子達の教室は最後の方で、筆記試験が終わってから少し待って実技試験となる。
しばらく教室で待機していると試験開始の時間になり、試験用紙と筆記用具のペンが配られる。
「それでは試験開始します」
試験官の声で筆記試験が始まった。
筆記試験は2種類あり、一つ目は一般的な学力を測るテストだ。語学、数学、歴史、一般常識がテストの内容で、語学数学に関しては現実世界の小学生レベルの内容だとスミナは感じていた。歴史と一般常識も双子の家にある歴史の本などを数冊読めば回答出来る内容で、スミナは簡単に解いていった。
問題は横のアリナで、語学と数学と一般常識は合格点は普通に出せそうだが、歴史に関してはどうしても思い出せなかったり、そもそも勉強の範囲に入って無かったものがあり、うなりながら解いていた。
「どう?簡単だったでしょ」
一つ目のテストが終わった休憩時間にアリナが話しかける。
「ごめん、お姉ちゃん。歴史問題はヤバいかもしれない」
「あれだけ教えたのに?」
「地名や人名を覚えるのは苦手でどうしてもねー」
アリナは疲れた顔をしていた。
「まあ、こっちのテストは最悪低くても合格出来るみたいだし、次のを頑張れば」
「でもそっちも不安なんだよなー」
アリナがそうこう言っているうちに休憩時間が終わり、二つ目のテストが始まった。
二つ目の筆記試験は魔法やモンスターに関するテストになっている。魔法については魔法の基礎知識や、簡単な魔法を唱える際に使う魔力の元素など初歩的な問題が出題される。モンスターについてのテストはモンスターの名称や攻撃による影響、弱点などよく知られるモンスターについての問題が出題される。
スミナにとってはこちらも簡単な問題で、10歳の時点で知っているような内容だった。ただ、アリナはモンスターについては実戦で知っているが、魔法については基礎知識を理解せずに使っていたので、それを理解させるのは大変だった。それでもスミナが熱心に教えたので、このレベルならアリナも大丈夫だろうとスミナは思っていた。
「お疲れー。スミナとアリナはどうだった?あ、スミナには簡単過ぎたか」
二つ目の筆記試験が終わり、実技試験で呼ばれるまで教室内待機になったのでガリサとドシンも双子の方へとやってきた。
「まあね、ガリサにとっては得意分野だよね」
「あたしは昨日復習した問題が出たから何とかなったと思う」
「いいなぁ。俺はギリギリな気がするよ。でも、俺は戦士科希望だから、魔法関連が低くても希望はあるからな」
「あたしは魔法騎士科希望だからそうもいかないんだよなあ」
アリナが少し不安げな顔をする。入学試験に試験内容の違いは無いが、志望学科は受験時に決めておく必要がある。ドシンが希望した戦士科は双子の兄ライトも入っていた学科で、魔法は補助的に使い、基本的に剣や他の武器による戦闘技術を磨く学科である。将来的には王国を守る騎士や兵士、傭兵や冒険者になる者が多い。
双子が希望している魔法騎士科は戦場の花形であるマジックナイトを目指す学科である。運動神経よりも魔法のセンスを問われ、魔法と物理を合わせた魔法技を習得する事を目的としている。この世界のモンスターが魔法単体でも物理単体でも戦うのが厳しいので、マジックナイトという魔法と物理両方が得意な職業が重宝されているのだ。
「私は魔法科希望だから筆記と魔法関連の結果が良ければ受かる筈」
「ガリサはそこは大丈夫でしょ」
「むしろこれ以上学校で何を習う気なのよ」
双子はガリサが試験に落ちるとは思っていなかった。ガリサが希望する魔法科は魔法の歴史や研究を教える学科で、将来は魔術師ギルドに所属する魔術師や魔法の研究者などになる者が多い。
「そりゃ、ここには読んだ事のない魔導書や魔法史の本がたくさんあるし、卒業するまでにどれだけ読めるか今から心配してるよ」
「全部読む気なんだ……」
「正気じゃないよな、コイツ」
ドシンは呆れ顔をしてる。スミナも学校にある本に興味はあるが、全部読もうとは思っていない。スミナはそれよりも祝福で読み取れる記憶で過去の事を色々知りたいと思っていた。
「それでは皆さん、受験番号順に実技試験会場へ移動して下さい」
試験官から呼びかけがあり、双子達は実技試験の会場へと移動した。
最初は体力測定から始まった。会場は本館と別にある体育館みたいな建物で、並んで順番に測定していく。魔法の力は一切使わず、腕の筋力やジャンプ力、走る速さなどを魔法の道具で測定する。どれも現実の機械と似た物だが、魔力で動いているからかシンプルな作りで場所を取らず測定出来ていた。
素の体力に関しては小柄なアリナよりスミナが全体的に上回っていた。ガリサは一緒に冒険ごっこした関係で思ったより酷い結果にはならなかった。ドシンは力に関しては周りの受験生達より秀でてるのが一目瞭然だった。
次の魔法の実技は時間がかかるらしく、試験会場である屋外のグランドのような場所で一時待機となった。今は他の教室の人達が試験をしているが見えた。自分達もこうやって他人に見られるのだとスミナは気を引き締める。
「「おおおっ!!!」」
歓声のような声がして、みんなの目がそちらへ向いた。そこは遠距離から魔法を撃って的を破壊するテストの会場だった。1人の金髪で豪華な服を着た少女が注目されてるのが分かった。彼女が撃つ魔法は扱いが難しい電撃の魔法で、それを正確に、素早く複数ある的に当てていった。その身のこなしには気品のあるオーラが感じられる。
「あの人知ってる。高名な貴族ヤミロ家のご令嬢で、魔法の若き天才って呼ばれてるマミス様だよ」
「確かに名前だけは聞いた事ある」
小声で説明したガリサにスミナが答えた。
「天才って言っても大したこと無いじゃん」
「そういう事言わない。他人に聞かれると面倒だよ」
スミナは小声でアリナに釘を刺す。双子達が異常なだけで、マミスの魔法は他の受験者と比べて明らかに正確だった。
「張り合って変な事しちゃ駄目だからね。目立たないように」
「分かってるって、お姉ちゃん」
そうは言っているが顔が笑っているアリナにスミナは一抹の不安を抱いていた。
双子達が試験を受ける番になった。最初は測定機械で個人が今持っている魔力を測定する。スミナはアリナに魔力の総量で劣っている事を気にしていた。スミナの結果は一般成人並で普通よりやや多いぐらいだった。
「凄いね、キミ」
試験官が思わず声を出していた。アリナの魔力を測定した結果、一流の魔術師並みの魔力が測定されたからだ。
「まあねー」
アリナは嬉しそうな顔で答える。魔力は修行で増やす事が出来はするが、それでも生まれつきで決まる部分が大きい。アリナは幼少期から人より多く、成長するに従ってどんどん増えていった。魔力を固体化する祝福で常日頃から限界まで使っていたのも大きいのではとスミナは思っていた。
スミナは動揺しないように気を引き締め直して次の試験を受けていった。魔法で物を動かしたり、身体能力を上げたり、明りを灯したりと基本的なテストが続く。ここら辺のテストに関しては双子は基本魔法を使うだけなので簡単にこなしていった。ただ、スミナは結果が良すぎても目立つので、たまにもたついて見せたりもした。
そして先ほど注目された的を壊すテストに移動する。魔法の種類に指定は無く、一定時間内に遠くの的を全て壊せるか確認するテストだ。
『あんまり正確だと目立つから何発か外さないと』
スミナはそう考えながら一番基本となる火球の魔法でテストに挑んだ。最初の一発目はわざと的の横をかすらせる。次は当て、その次も少し時間を置いてから当て、次はわざと外す。残りは時間を置きながら制限時間内には的を壊すようにして、無事全ての的を破壊した。
「なかなかやるわね」
見ていた若い女性の試験官に言われる。スミナはわざと外したのでお世辞だろうと思いお辞儀をして次のテストへ移動する。
「「おおおっ!!!」」
が、歓声が背後から聞えたので嫌な予感がしつつスミナは振り返った。そこには習得が難しい火と風の複合魔法で速く正確に的を射抜いていくアリナの姿があった。
『あの子はまた……』
スミナは気が重くなる。勿論アリナは合格出来るだろうが、入試で目立った子として最初から話題になるだろう。スミナはしょうがないと思いつつ次の会場へ足早に移動した。
最後のテストは特別な魔法の結界で囲まれた場所での試験だった。そこには結界の中を円を描くようにゆっくり動く土のゴーレムがいて、それにどれだけダメージを与えられるかの試験だ。結界の横には受験者が使える剣や槍などの各種武器に弓矢等の飛び道具、魔法を強化する杖が置かれている。それらの道具は品質で差が出ないように全て量産品で同質の物が置かれていた。
受験者は武器でも魔法でも魔法技でも手段を問わず、一定時間攻撃を加えていい。ゴーレムからの反撃は無いので危険は無く、結界があるのでどれだけ威力の高い攻撃を使っても問題が無い。勿論ゴーレムを破壊してもいいというのが試験の内容だった。
ここも1人ずつ交代の試験なので時間がかかり、少し外から眺めながら待つ時間があった。
「「おおおっ!!!」」
再び歓声がするテスト会場があり、そこに人の目が集まる。また先ほどのお嬢様かと思ってスミナが見ると、全く違う、ドシンと似たような巨体の受験生がゴーレムを攻撃していた。目立っていた理由は武器も道具も何も持たずに入り、拳に魔法を付与する魔法技でゴーレムを殴っていたからだ。ゴーレムは殴られる度に身体が削れ、数十秒後に倒れたのだった。
「「おおおっ!!!」」
倒した姿に歓声が上がる。
「ドシンも素手で挑んでみたら?」
「俺は騎士を目指してるんだ。あんな事してまで目立とうとは思わない」
ガリサにからかわれてドシンは反論する。
「どっかの誰かさんは目立とうとしたけどねえ」
「お姉ちゃん、あれぐらいいいでしょ」
「よく無いって」
スミナは言ってもしょうがないと思いつつも文句を言った。
スミナがゴーレムと戦う番になる。スミナは馴染んだサイズの普通の鉄の剣を選び、それを持って結界の中に入る。ゴーレムと戦った事は無いが、手応え的には中型のモンスターと同程度と考え、目立たず戦おうと考える。
『基本的な魔法技なら数回斬っても大丈夫な筈』
開始の合図があり、スミナは高速で斬り付ける魔法技で動くゴーレムに斬りかかった。
『思ったより軽い?』
斬り付けたゴーレムの感触は軽く、見るとかなりの深い傷になっていた。次の攻撃を緩めようかとも思ったが、それをするとあからさま過ぎると思い、最初の予定通り同じ技でもう一度斬り付ける。
「あ」
ゴーレムは綺麗に斬れ、崩れ落ちた。スミナは訓練の成果が出ていて、自分が思っているよりもずっと技能が上がっていたのだ。
「お見事です」
男の試験官に褒められるも、やり過ぎたと思いスミナは複雑な心境だった。
続いてアリナの試験が行われ、スミナは最後の試験が終わったのでそれを周りから眺める。アリナが手に取ったのは小さな短剣で、それを両手に持っている。普段のアリナは片手で戦うので、メイルの戦いを参考にしてやるのだなとスミナは思った。
が、そこからのアリナの動きは予想と違っていた。短剣に土のゴーレムの弱点である風の魔法を付与し、魔法技で突進し、短剣で十字に斬って一気にゴーレムのコアを破壊したのだ。一瞬にしてゴーレムは崩れ落ちてしまった。
「「おおおっ!!!」」
見ていた人達から歓声が上がる。恐らく一撃でゴーレムを破壊したのはアリナぐらいだろう。またしてもアリナは目立ってしまっていた。
「アリナ、注目の的になってるじゃん!!」
テストが終わり正門に戻る帰り道、スミナが飽きれながらもアリナに怒る。
「だって手を抜くのは難しいし、テストには真摯に向き合わないと」
「しょうがないよう。2人とも凄いのは本当だし」
「俺だってそれが出来ればやりたいぐらいだ」
ガリサもドシンも全力で試験を受けたが、双子との差は明確だった。
「少々宜しいでしょうか?」
と、突然双子は背後から声をかけられる。振り向くと金髪のお嬢様、マミスが数人の少女を連れて立っていた。
「わたくし、マミス・ヤミロと申します。お二人は貴族のご令嬢だと聞いておりますが、お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
先ほどアリナが目立った事で、それを嗅ぎ付けて来たようだ。スミナはしょうがないと思い答える。
「わたしはノーザ地方の領主、ダグザ・アイルの娘で、スミナ・アイルと申します。初めまして、マミス様。そしてこの子は妹の」
「アリナ・アイルです。先程は素敵な魔法でしたね、マミスさん」
アリナの言葉にはトゲがあり、スミナは不味いなと思う。
「あら、田舎地方のお嬢様でしたか。わたくしが知らないのも納得ですわ。もし合格出来ましたら仲良くして下さいね」
「はい、是非とも」
スミナは表情を崩さずに荒立てないように答える。
「あたし田舎者だからマミスさんの噂聞いた事無かったです。入学したら凄い魔法を見せて欲しいですね」
アリナの言葉にマミスの取り巻きと思われる少女達が騒めき立つ。マミスも冷静を装うが、顔が笑っていない。
「ごめんなさい、マミスさん。この子ちょっと世間知らずでして」
「大丈夫ですよ。こんな事でわたくしは怒ったりしませんから。では、また会えるといいですね。ごきげんよう」
マミスはこちらを一睨みして去っていった。マミスの姿が見えなくなり、スミナはホッとする。
「お姉ちゃん、あんな奴に媚び売らなくてもいいでしょ」
「駄目。貴族とのいざこざはお父様たちに迷惑がかかるんだから」
「子供同士の問題に親が出てくるのはおかしいでしょ」
「その通りだけど、世の中そんなものじゃないのよ」
アリナの言う事は正しいし、家の事をバカにされたら怒るのが普通の反応だろう。スミナは素直に喧嘩を売れるアリナが少しだけ羨ましいと思った。
「お嬢様、どうでしたか?」
「マスター、危険は無かった?」
正門を出るとメイル達が待っていた。ガリサ達とは挨拶して別れる。
「試験は大丈夫だと思うけど、他に問題がいくつかあって……」
「お姉ちゃんは気にし過ぎだよ。大丈夫、全部上手く行ったから」
そうならないと双子が知る事になるのは試験の結果が発表される、今から1ヶ月後だった。