表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/105

4.新たな出会い

 双子達の王都への旅は順調に進んでいった。などという事は全く無く、常に問題が付きまとう旅路となっていた。それというのも双子は今までノーザ地方から出た事が無く、かつ、家族に連れられて出かけた範囲は隣町や周辺の村ぐらいで、こんな遠出は初めてだったからだ。見る物聞く物みな珍しく、普段は静かにしているスミナさえ大人しくしていられなかった。

 試験の日には余裕を持って旅立ったので、多少の寄り道が問題無かったのも双子が羽目を外す理由になっていた。それに加えてアリナの危険察知の祝福により安全のラインが分かり、多少の危険には自ら突っ込んでいくのも問題だった。

 モンスターを見かけたら戦いを挑むのは当たり前で、封印されていた魔獣を解き放って倒したり、村を襲う盗賊団を壊滅したり、夜な夜な幽霊が出る屋敷の謎を解明したりと町や村に立ち寄る度に何かしらのハプニングを起こしていた。

 それと同時に双子は自分達の両親が思ったより凄い人達だと知る事になった。立派な馬車で旅をしていたので貴族の子供だと冷たい視線を投げられても、ダグザの娘だと知ると皆親切にしてくれるようになったのだ。父ダグザと母ハーラは各地で有名で、2人に助けられた人は少なくなかった。双子はそれらの話を聞いて、誇らしくもあり、自分達も親の名に恥じないようにしなければという気持ちを抱いていた。


 そうして屋敷を旅立って4日が経ち、王都への道のりも半分ぐらい過ぎた日の昼間のことだった。


「ねえメイル、あれ何?」


 馬車から巨大な何かを見つけたアリナはメイドのメイルに質問する。それは縦に長く伸びた金色の塔のように見え、先端は細くなっていた。それが何なのかスミナにも見当がつかなかった。


「あれは世界竜の爪ですよ。せっかくだから見に行きますか?」


「いいの?」


「ええ、危険なものでは無いので」


 メイルが馬車の車夫に行き先変更を告げると馬車は街道をそれ、平原へと進路をずらした。世界竜の爪は近付くと予想よりも大きく高いのが分かる。


「世界竜って確か、何も無かった世界で身体を休める為に眠りについて、その背中が肥沃な大地になった。今の大陸はその上に出来上がった、と伝わってる伝説の竜の事ですよね」


「流石スミナお嬢様、よくご存じで。概ねそれで合っています」


「おとぎ話みたいなものかと思ってたけど、本当にあれは竜の爪なの?」


「古代魔導帝国の魔導士が竜の意識と対話し、確認した記録があったそうです。その際、竜は星が滅ぶまで眠り続けると言ったようで」


「すごーい!そんな巨大な竜の爪なんだ、あれ」


 アリナは目を輝かせてそれを見つめる。スミナは少しだけ嫌な予感を感じていた。

 双子とメイルは馬車を降り、歩いて爪へと近付いていく。竜の爪のある場所は小さな山のように盛り上がっており、周囲には綺麗な草花が咲き乱れていた。小山から出ている竜の爪は地上に見える部分だけでも幅は数百メートルはあり、高さは千メートル近くあるように見えた。近くからでは先端までは見えなくなり、圧倒的な巨大さが感じられた。


「ここに爪があるって、どういう寝方してるんだろ」


「竜も生き物だから爪だけ自然と伸びてるのかもしれない」


「誰か爪切りしてあげればいいのに」


「竜の爪はとても硬く、並大抵の攻撃では傷跡一つ付かないそうです」


 アリナの言葉にメイルが説明する。近くで見ると爪というより半透明の鉱石で出来た、金と白の混ざった壁にしか見えない。


「触っても大丈夫?」


「ええ、昔は祭事のご神体として飾り付けされた事もあったそうです。触れても特に問題無いと聞いています」


 スミナは恐がりながらも竜の爪に触ってみる。爪はひんやりとしていて、石壁のような感触だった。物では無いので触っても祝福で記憶が読めたりはしなかった。


「本当に硬いか試してみる」


「アリナ!?」


 スミナが見るとアリナは魔力で巨大な刃を作っていた。それを竜の爪に当てようとしている。


「大丈夫ですよ、昔は力自慢が傷を付けられるか試したりしていたそうですから」


「でも……」


 スミナはアリナの力が普通では無いと思っているので、何か良からぬ事が起こらなければと心配する。それと同時にアリナは危険を察知する能力で問題無いと判断してるだろうとも考える。


“ドガンッ!!”


 激しい衝撃音が辺りに響いた。アリナの作った魔力の刃が高速で竜の爪にぶつかったのだ。


「本当だ、ちょっとしか傷が付いてない」


「いえ、傷が付いたなら凄い事ですよ」


「何か起こったらどうするのよ」


 竜の爪には表面にガラスを引っかいたような小さな傷が付いていただけだった。やはり竜の爪は硬く、深い傷を与える事はアリナでも難しいようだ。


「お姉ちゃん、レーヴァテインは持って来てるんでしょ?お姉ちゃんもやってみてよ」


 アリナが言うレーヴァテインとは遺跡でスミナが見つけた魔導具の剣の名前だ。助けた時にメイルが回収してくれていて、そのままスミナの所有物となっていた。レーヴァテインという名前はスミナが付けたのでは無く、スミナが記憶を読み取った時に所有者に呼ばれていた名前である。現実世界の北欧神話の武器の名前で、漫画やゲームで使われていたのでスミナも聞いた事があった。この名前が付けられたのが偶然の一致なのか、誰かが意図して付けたのかは分からなかった。


「ダメだよ、もしなんかあったら危険だし。それにせっかく綺麗なのに傷付ける事も無いよ」


「多分お姉ちゃんのレーヴァテインならもっと綺麗に斬れると思うのになあ」


「わたしはやりません」


 そんなやり取りをしている最中だった。“ゴゴゴゴッ”という地響きが鳴り始め、地震が起こり始める。このタイミングなので流石に3人ともビックリする。


「ちょっと、本当に危険は無かったの?」


「うん、危険は感知してるけど、別に大した大きさじゃない」


「感知してたのにやったの?」


 双子はメイルに聞こえないように小声でやり取りをする。


「お嬢様、大丈夫ですよ、ただの竜のいびきです」


 メイルが安心させようと言うが、その顔は少し青ざめていた。この世界では地震のことを竜のいびきと呼び、大地に眠っている竜がちょっと動いたから地震が起こったのだと解釈していた。ただ、本当に世界竜が存在し、生きているのなら正しい解釈なのかもしれない。

 しばらくすると地震は収まり、竜の爪自体には特に変化は無かった。スミナは安心したが、それはすぐに破られてしまう。


「お姉ちゃん、上から来るよ!」


「え?」


 竜の爪の上の方から何かが落ちてくるのが分かる。3人は爪から急いで離れてそれを回避した。


「何これ?」


「キモい!!」


 アリナが拒絶反応を示す。それは赤色のブヨブヨしたゼリー状の物体だった。スライムの変異種かとも見えるが、大きさが5メートル以上あり、明らかにスライムとは別の生物と思えた。


「知ってます、これは竜の守護者です。古くなった竜の一部を取り込んで綺麗にするモンスターだと。安心して下さい、人間には危害を加えない筈です」


 メイルの言う竜の守護者についてはスミナも本で知ってはいた。が、竜自体がおとぎ話なので守護者も実在するとは思っていなかった。現実の生物でもある竜と共生関係のモンスターなのだとスミナは理解した。


「良かった、危険なモンスターじゃないんだ。

って、え!?」


 スミナは身体をアリナに引っ張られる。するとスミナがいた場所には竜の守護者から弾丸のようなものが飛んで来ていた。


「お姉ちゃん、気を付けて。コイツ攻撃してきてる」


「どうして?」


「爪を横取りされるんじゃないかと思ってるんじゃない?」


 そう言いつつもアリナ達は次々と飛んでくる竜の守護者の弾を避け続けた。どうやら体内に取り込んだ石を飛ばしているようだ。


「ねえメイル、コイツ倒しちゃってもいいの?」


「国としては保護対象なので倒さない方がいいと思います。といいますか、物理攻撃無効で、魔法耐性も高いので倒すのは難しいかと。逃げましょう、お嬢様」


「倒せないのかー。じゃあ、お姉ちゃん、やろう」


「分かったよ」


 アリナの言いたい事が大体伝わったので、スミナは渋々同意する。


「お嬢様たち、何を?」


「アリナ、行くよ」


「うん!」


 メイルは置いておいてスミナは行動を開始する。自身に加速の魔法をかけ、飛んでくる攻撃を避けながら竜の守護者へと近付くスミナ。そのスピードはメイルでも驚くほどだ。


「ごめん、ちょっと痛いけど許して!」


 接近したスミナは近接で竜の守護者に対して魔法を発動する。すると竜の守護者は見る見るうちに凍り付いていった。魔法耐性が高くても表面付近を凍らせる事がスミナには可能だった。


「アリナ、今よ」


「分かった!!」


 スミナが凍った竜の守護者から離れた瞬間にアリナが魔力を実体化する祝福を発動した。そこには見事な四角い箱が完成していた。凍った竜の守護者の周りに魔力で箱を造ったのだ。


「うん、これでしばらくは動かないはず」


「お嬢様達はとんでも無い事をしますね……」


 メイルは呆れ顔で言った。凍らせて閉じ込める方法を双子は相手を殺さずに捕まえる作戦として立てていたので今回は上手くいったのだ。動き出し始めると面倒なのでスミナ達は急いで竜の爪から離れていった。


「何とかなったからいいけど、むやみに変な事したらやっぱり駄目だよ」


「そうですね、アリナお嬢様はやたらと厄介ごとを引き寄せると思います」


「えー、何も無い旅なんてつまらないでしょ」


「何かあって試験に遅れたら元も子もないでしょ」


 スミナは言うもののアリナが言う事を聞かないのは分かっていた。色んな物に興味が湧いて臆せず関わるのはアリナの長所であり短所だとスミナは思っていた。そしてそれが致命的な過ちにならない事を祈っていた。


 しかし、今度はスミナが平穏を破る番となった。

 馬車は街道に戻り、王都への道を再び進み始めたが、しばらくして異変が起こった。


『助けて。お願い助けて』


 スミナの耳にそんな声が聞こえたのだ。しかしアリナもメイルも特に何の反応もしない。不思議に思いスミナは確認する。


「ねえ、誰かの声が聞こえなかった?」


「声?聞こえないよ」


「私も聞こえなかったですね」


 2人の反応にスミナは幻聴かとも思う。


『囚われているの。お願いだから助けて』


「馬車を止めて。やっぱり聞こえる」


 スミナは聞き間違いじゃないと確信し、馬車を止めてもらう。スミナにはしっかりと少女のような声が聞こえた。


「本当に2人とも聞こえない?」


「うん」「はい」


 それでスミナは魔法で直接語りかけられたのだと判断し、それを2人に説明した。


「で、お姉ちゃん。どっちから呼んでるか分かるの?」


「うん、前のレーヴァテインの時と同じで、何か力を感じる。多分そっちだと思う」


「スミナお嬢様、人助けも大事ですが、危険な事は別の人に任せるのも一つですよ」


 メイルの言葉でスミナの心は揺れる。アリナにいつも小言を言っているので自分がそれを破るのはどうかとも思った。それとは別に人助けは進んでやるべきだとも。


「お姉ちゃん、多分大丈夫だよ。好きなようにしなよ」


「うん……」


 アリナは祝福で危険を察知し、対処出来るレベルだと判断したようだ。あとはスミナがどう決断するかだ。


「とにかく近くまで行ってみよう。それで危険そうなら引き返す」


「やった!」


「分かりました。本当に引き返すんですよ」


 馬車を街道の脇に止め、双子とメイドは助けを求めてる人がいると思われる方へと進んでいった。


「多分ここだと思う」


「遺跡の入り口ですね。見た感じ新しいです。恐らく先ほどの竜のいびきで隠れていた入り口が地上に現れたのでしょう」


「でもそれだと中から人が助けを求めるのはおかしくない?呼んでるのは人間じゃなくてお化けなんじゃ」


「お化けは魔法を使わないでしょ、多分」


 そうは言ったものの、スミナも助けを呼んだのが人間以外の何かだとは思い始めた。


「スミナお嬢様、やはり新しく見つかった遺跡に入るのは危険です。ここは王国の調査隊に任せましょう」


『その入り口から入ってもっと深い所にワタシは閉じ込められているの。お願い、助けに来て』


 メイルが提案した直後、再びスミナにだけ声が聞こえた。一方的過ぎる呼びかけにスミナは罠の可能性も考慮する。


「メイル、ごめん。少しだけ考えさせて」


「分かりました、ただ、私は止めましたからね」


 スミナはアリナをメイルから離れた場所に連れて行く。


「ねえ、この遺跡に入るとしたら危険は感じる?」


「まあ、それなりに危険はあると思うよ。でも、お姉ちゃんだけが聞こえる声は罠じゃ無いと思う」


「なんで?」


「罠なら慎重なお姉ちゃんじゃなくて、あたしに呼び掛けて来ると思うから。多分お姉ちゃんの祝福の力が関係してるんじゃないかな」


「そうかなあ」


 そう言われるとスミナは遺跡の中にとても大事な物があるのではと思えてきた。それに聞こえて来た声に邪念は感じられなかった。


「もし罠だったとしてもあたし達ならどうとでもなるよ」


「その自信が羨ましいな。

でも、アリナの言葉で決心がついたよ。わたしも気になるし、行く事にする」


「そう来なくっちゃ」


 アリナは嬉しそうだ。双子は何とかメイルを説得し、遺跡へと足を踏み入れた。


 遺跡は以前スミナが探索したような綺麗な魔導遺跡とはどこか雰囲気が異なっていた。高さ3メートル、幅5メートルぐらいの狭い通路が続いていて、自然の洞窟のようにも見える。だが魔法の灯りと異様な装飾がある事から導帝国時代に作られたものだとメイルが分析していた。赤紫色の灯りに腐ったような臭いもしてきて、どこか気分が悪くなる遺跡だった。


「お嬢様達の安全の為、ここからは私も戦闘に参加させて頂きます」


 今までなるべく見守りに徹していたメイルが珍しく戦闘態勢を取った。メイルは緑色の宝石が埋め込まれた腕輪をかざすと、緑の髪色と合った濃い緑色の魔導鎧が瞬時に装着された。魔導帝国製の魔導鎧は普段は腕輪などに収納され、使用者が決められた魔力を込める事で服を脱がなくても装着出来るようになっている。メイルの鎧は全身鎧だが、スピード重視のメイルの動きを阻害しないよう、関節に影響が出ない作りをしていた。頭も簡易的な兜で、顔は隠れていない。魔導帝国の技術で作られた魔導鎧は金属で覆われていない部分も魔法で防いでくれるのだ。

 メイルは両手には魔法の短剣を取り出す。双子はメイルの戦い方を以前見た事があった。スピードで敵を翻弄して短剣で弱点を的確に攻撃する、ゲームの忍者みたいな戦い方だなと双子は思っていた。メイルも魔法技マギルを使わないわけでは無いが、魔法自体はそこまで得意では無いので今の戦い方に落ち着いたと聞いている。


 双子も遺跡に潜るのに普段着のままとはいかないので、両親からもらった魔導鎧を装着する。メイルのような全身を覆うものでは無く、胸当てと半ズボンのような下半身の鎧、手足には篭手こてとブーツ、頭部は髪飾りだけと動きやすさ重視となっている。しかも魔法による防御力も高いという高価な物だった。色合いは2人の髪色に合わせた濃い青と派手な紅色の魔導鎧になっている。


「あたし達だけでも大丈夫だよ」


「なるべくアリナに無茶させないように目を光らせてるから、メイルは警戒だけお願い」


「うーん、流石に遺跡内ではそうも言ってられなそうです。早速敵が来ましたよ」


 メイルが言うように遺跡の通路から武器を持った骸骨が大量に押し寄せて来た。


「スケルトン?でもこの感じアンデッドモンスターじゃないね」


「これは人の骸骨を基に魔導士が作ったガーディアンです。魔法は効きづらく頑丈です」


 メイルが骸骨型のガーディアンについて説明する。普通の剣や魔法では戦い辛い、まさにガーディアンとしては有用なモンスターだ。


「てなるとあたしの出番だ。中央突破するから、討ち漏れた敵はお願いね」


「もう、勝手なんだから」


「分かりました、無理しないで下さい」


 スミナもメイルも慣れたもので、こういう時はアリナに合わせるようになっていた。アリナは魔力を物理化する祝福で巨大なハンマーを作り出した。どれだけ巨大な物を作ってもアリナが動かす分には重量は感じないという。


「いくよーーー!!」


 アリナは振り被り、ハンマーをガーディアンの群れに向かって振り下ろす。まさにプレス機で物が潰されるようにガーディアンが潰れていった。それをアリナは通路に沿って振り下ろし続けていく。ゲームやアニメの演出みたいだとスミナは思った。アリナの通った跡で立ち上がるガーディアンは殆どおらず、スミナとメイルは辛うじて動いているガーディアンのコアを壊すだけだった。

 数十体はいたガーディアンもあっという間に片付いてしまう。メイルは改めてアリナの飛んでも無さを実感していた。


「それでお姉ちゃん、どっちに向かう?」


 通路の先はいくつもの分岐に分かれていて、迷路のようだった。スミナは帰り道が分かるように目印を残しつつ進む事を忘れないようにする。


「多分こっちの道だと思う」


 スミナは何かを感じる方向へと先導していく。途中でガーディアンを倒しつつ、一行は遺跡のより深い方へと進んでいった。そして長い階段を降りると、壁も自然の洞窟から魔法で加工された石の壁に変わっていた。


「なんか雰囲気変わったねー」


「恐らく魔法生物の研究を行っていた場所だと思います」


 今まで倒して来たガーディアンの種類からメイルは推測する。


「じゃあ何かいたりするのかな」


「アリナ、むやみに扉を開けないで」


 アリナは横にあった扉の一つを空けてしまう。すると中は巨大なガラスのような円柱の水槽が並んでいる部屋だった。殆どの水槽は空かモンスターの残骸のような物しか残ってなかったが、一つには巨大な人型の異形な生物が入っていた。アリナが入って行くのでしょうがなく二人もついてきた。


「巨人型のガーディアンを研究してたのかな」


「気持ちわるーい」


「古代魔導帝国では戦争用に様々なガーディアンを使っていたとは聞いています。これは恐らく魔法生物をガーディアンとして作っていたのでしょう」


 メイルの話を聞いて、今の時代では作れないような物を昔は作れたんだなとスミナは感心する。と同時に好奇心が勝ち、ちょっとだけ記憶を覗いてみたくなってしまった。


「アリナ、ちょっと調べるから警戒して」


「うん分かった」


 メイルには記憶が読める事を知らせていないので、アリナにそれとなく伝える。水槽の操作盤のような機械に手を触れるとスミナはその使い方を理解する。それと同時に記憶が流れ込んできた。

 最初に見えたのはこの装置が完成した時の記憶だった。そこには2人の若い魔術師と思われる男女が立っていた。もっと悪い魔術師やマッドサイエンティストのような人物が作ったかと思っていたのでスミナは意外に思い、記憶を少しだけ再生してみる。


「やりましたね、これで魔族への反攻作戦が実行出来ます」


「いや、まだ安心しちゃ駄目だ。魔導炉に火が灯らなければ本格的な稼働は出来ない。あちらのチームも上手く行っていればいいが」


 女性の言葉に対して男性は渋い顔をしていた。しばらく時を進めるとこの装置が正常に稼働しているのが見れた。装置としては討伐したモンスターの死体を材料として取り込み、どういう生物にするかを決め、命令を聞くガーディアンとして製造出来る物だった。その後数年はかなりの数のガーディアンを作っていたが、ある時を境に停止していた期間があった。恐らく魔族との戦いに区切りがついたのだろうとスミナは思った。

 再び動き出したのは前の魔術師達とは別の、怪しい風貌の魔術師が来てからだった。その魔術師はこの装置を調査し、怪しい生物を試行錯誤しながら作っていた。完成してから時間にして百年以上経っている事がスミナには分かるので、使い方を知らない魔術師が手に入れ研究に使ったのだろうと思われた。それも10年ぐらいで終わり、その後は誰も立ち寄る者は無く1000年ほど時が流れて現在に至っている。


「ガーディアンを作る為の古代魔導帝国時代の魔導機械だと思う」


 スミナは記憶を見た事は告げず、あくまで使い方を理解した結果としてアリナとメイルに伝える。


「まだ動くの?」


「動力源の魔力が来てないから動かないと思う」


「魔導具以外の魔導機械は遺跡で発見されても殆どが動かないと聞いています。動くのは中で眠っているガーディアンで、それも朽ちていたり、魔力が補給されなくなって動くのは珍しいと」


「でもこれは動きそうじゃない?」


 アリナがコンコンと人型の不気味なガーディアンが入っている水槽を叩く。


「あ、ヤバいかも」


 アリナがこういった時にはもうトラブルが起こった事を示していた。スミナは臨戦態勢を取る。アリナが叩いた水槽は経年劣化していたようで、表面にひびが入っていき、破裂して液体が飛び散った。そしてアリナじゃなくても巨大な魔力を感じるようになる。


「責任もって対処しまーす」


「お嬢様、ここは私にお任せを。魔力の温存も大事です」


 メイルが双子の前に一歩出る。


「分かった。お願いね、メイル」


「たまにはメイルに花を持たせるかー」


 双子はメイルに任せる事に決める。スミナは心配ないわけでは無いが、メイルが強い事も知っている。それにメイルが戦う所を見るのは勉強にもなった。

 会話しているうちにモンスターを継ぎはぎして作られた、巨人型ガーディアンが動き出す。重量の割りには素早く、近くにいたメイルに向かって行って、拳で叩き潰そうとした。拳は振り下ろされ、遺跡の地面が揺れる。が、メイルはそれを避けていて、床に陥没が出来ただけだった。


『速い』


 スミナはメイルの動きを目で追うのが大変だった。メイルは既にガーディアンの背後に回り込んでいて魔法の短剣で数回斬り付ける。ガーディアンの肉体は分厚く硬そうだが、それもメイルの剣技と短剣の鋭さでどんどん削れていった。

 ガーディアンは振り向きざまにラリアットをメイルに食らわせようとする。しかしメイルは宙に飛び、壁を蹴り、再びガーディアンの背後を取った。


「これで終わりです!」」


 弾丸のように飛び出すメイル。メイルの短剣はガーディアンの肉を抉り、露出したコアを貫いていた。敵の弱点を的確に壊すメイルの技はさすがだとスミナは思った。

 人型ガーディアンは“ドスンッ”と大きな音を立てて倒れた。もしかしたら再生するかと見守ったが、流石にコアを破壊されたのでビクビクともがくだけで終わった。


「さっすがメイル」


「戦い方の参考になったよ」


「ありがとうございます、お嬢様」


 額の汗をぬぐうメイル。騎士を辞め、メイドになって長いメイルだが戦いの技術はまだ衰えてないんだと双子は思っていた。


「って、こんな場所に寄り道してる場合じゃない。日暮れまでに地上に戻れなくなるよ。アリナ、もう変な物には触らない事!」


「分かりました~」


 アリナは反省してるのか分からない声で答えた。スミナはアリナの無茶に付き合わされた事で魔導機械の記憶を読めた事は心の中で感謝していた。アリナが居なければ危険を覚悟して未知の世界に踏み出す事は無いだろうから。


「多分この先だと思う」


 水槽があった部屋から数十メートル通路を進んだ先でスミナは確信を得ていた。そこは他にもあった扉とは異なり、見るからに厳重そうな金属の扉があった。ドアに取っ手は無く、一見入り方が分からないようになっている。


「なんか開きそうに無いよ?壊して開ける?」


「大丈夫、前の遺跡でもこういう扉があったから」


 スミナは扉の横の壁を調べ、解除の為のパネルを見つける。手をかざし、開け方を理解し、魔力を注いだ。すると扉に魔法の紋様が現れ、扉が左右にゆっくりと開く。


「お姉ちゃん凄い。そんな事も出来るんだ」


「スミナお嬢様は金庫破りも出来そうですよね」


「出来ると思うけど、そんな事はしないよ」


 スミナはそう言いつつも、屋敷に両親が隠していた宝物をアリナと一緒に盗み見た事を思い出した。自分の家だからいいとは思っているが。


『気を付けて、部屋に入るとガーディアンが襲ってくるから』


 ここに来てようやく助けを求めた存在から話しかけられた。目的地はここで合っていたようだ。


「この部屋に入ると襲われるって、声が聞こえた」


「うん、何か感じる」


「気を抜かずに行きましょう」


 アリナが止めなかったので、何とかなると思いスミナは部屋へと足を踏み入れた。部屋は研究施設では無く、むしろ双子の家の応接間のような感じだった。中央に大きく立派なテーブルがあり、床も壁も綺麗な石で出来ている。横には本棚や食器の入った棚があり、昔はここで来客をもてなしていたのが想像出来た。


「こんな部屋に敵を設置するなんてセンスないなー」


「多分そうまでして守りたいモノがあったんだよ」


「凄い貴重品ですよ、ここにある物は」


 メイルも流石に珍しそうに周囲を見ている。魔導帝国時代の物は状態が良ければかなり高価になる。物の価値が分かるスミナは殆どの物が綺麗に輝いて見えた。


「来るよ!!」


 アリナの声に反応してみんな身構える。高めの天井が開き、そこから何かが降ってきた。その重さで下にあったテーブルや椅子は潰れてしまった。


「何コイツ、臭いし気持ち悪い。豚?」


「こんな大きい豚がいるわけないでしょ。多分あの魔導機械で作ったキメラのガーディアンよ」


 スミナはそう言いつつも、とてつもない悪臭で鼻が曲がりそうだった。顔は確かに豚に見える。だが、胴体は甲虫のように黒光りしていてその上に甲羅があり硬そうに見えた。5メートルはありそうな胴体からは何本もの足が生えていて、サソリやカニのような殻に覆われていた。全体的に茶色と緑が混ざったような色をしていて、とにかく嫌悪感を抱く姿だった。


「みんな、全力でやるよ」


「うん」


「分かりました」


 先ほどの人型のガーディアンより強い事が何となく分かり、スミナはみんなの気を引き締める。


「アリナ、あれを試そう」


「りょーかい」


 スミナは強敵が出た時の為に2人で準備した技を使う事にした。双子はまずは敵の出方を待つ。するとキメラの背中の甲羅の部分が上に上がり、甲羅と胴体の隙間から全方向に無数の刃が現れた。と同時にそれが回転を始める。チェーンソーのように刃が回転して部屋の中の本棚や食器棚を破壊し始めた。刃の長さが調整出来るようで、丁度壁には当たらないように室内を破壊しながらこちらへ近付いて来る。


「貴重な品々が……」


「勿体ないねー」


「物より命が大事。行くよ、アリナ」


 敵の出方が分かったので双子は反撃に移る。メイルは双子の手助けが出来るように身構えた。


「まずはあたしから!!」


 武器を持たずにアリナは跳躍して回ってる刃を飛び越えその甲羅の上へと移動する。それもキメラにとっては想定済みで、甲羅から槍のように複数のトゲが飛び出した。


「待ってました!」


 アリナは魔力を固めてトゲを受け止め、トゲが出て来た穴に魔力の刃を差し込む。それはそのまま胴体を貫き、床に突き刺さった。動く事で傷が広がる事に気付いたキメラはそこで移動を止め、蛇のような触手で背中のアリナへ攻撃を始めた。アリナは背中から離れつつそれに対応する。


「お姉ちゃん!」


「了解」


 アリナの足止めが終わり、スミナの出番となる。スミナは白銀の騎士に助けられた事に感謝と共に悔しさも感じていた。だからその技術に追い付けば再び会えるだろうと努力した。あの日見た技と同じ事は出来ないが、それに近付こうと日々鍛錬した結果がここにある。

 移動が止まった事で回転する刃を伸ばし、スミナ達に攻撃しようとするキメラ。スミナはレーヴァテインを抜き、身構えたまま立ち止まっている。


『今だ!!』


 魔法技を使って飛び出すスミナ。キメラの刃はスミナに触れる前にレーヴァテインで斬られ、そのまま胴体をスミナは斬っていく。高速で切り刻まれていくキメラ。そこには反撃する暇はなかった。


「斬る!!」


 最後にスミナはキメラの頭を斬り落とした。キメラはバラバラになって崩れ落ちていく。


「アリナ、お願い!」


「最後の仕上げね!」


 アリナは再び空中に飛び上がり、魔力の槍を作り出す。そしてキメラの肉片の一つへと突き刺した。石の割れるような鈍い音がし、キメラのコアが割れた事が分かる。キメラが再生しない事を確認し、戦闘は終わった。


「凄いですね、スミナお嬢様。前よりも切り口が鮮やかです」


「ありがとう、メイル」


 双子もメイルに隠し事は難しいので戦い方は見てもらい色々教えてもらっていた。勿論魔法や体技が簡単に使える事は隠していたが、メイルは双子を特別な者として見ていたので転生者とバレる事は無かった。

 キメラの残骸は魔力が無くなったからか、身体が溶けて、悪臭が更に酷くなる。鼻をつまむような臭いにみんなとにかくここを離れたかった。


「目的地は隣の部屋だから行こう」


「そうだね、囚われのお姫様を助けないとね」


 本当にお姫様ならいいのだけれどとスミナは思った。

 隣の部屋へはもう一つ魔法でロックした扉があり、ここに厳重に何かを保管してあるのは確かなようだ。が、ここまで来ると人間が助けを求めている可能性は低いとスミナは思った。扉を開ける直前にアリナの顔を見ると頷いたので罠では無いだろう。


「開けます」


 魔力を注ぎ込み奥の扉が開く。中は小さな小部屋だった。宝石店のガラスのショーケースのような物が並んでいて、その中に魔法の道具と思われる物が10個ほど並んでいた。どれもそれなりに価値がありそうだが、スミナは一番奥の別個置かれたケースが最も輝いて見えた。


「多分、これです」


 スミナが近付いて見ると、そこには20センチぐらいの大きさのひし形にカットされた青紫の宝石が飾られていた。その宝石からは魔力が感じられ、ただの宝石では無いとスミナは思った。


「それは魔宝石かもしれませんね」


「魔宝石?」


 結構な本を読んで来たが、スミナはその言葉に聞き覚えは無かった。


「古代魔法帝国が作った魔導兵器の一つです。ガーディアンよりも知恵があり、自ら考えて動く兵器だったと言われています」


「それって結構ヤバいものじゃない?」


『ワタシはそんな危険じゃ無い』


 アリナ達の会話に反応して再び声が聞こえる。が、スミナ以外にはやっぱり聞こえていないようだ。


「声が聞こえる。ちょっと会話してみる。

貴方は何者なの?」


『ワタシはアルドビジュエル。アナタ達が話ていた通り、魔宝石とも呼ばれている。エルマリアで製造され、そこでマスターに仕えていた。だけど、マスターが亡くなって、色んな人に売られ、最後はここに監禁された』


 魔宝石が語る言葉をスミナは理解しようとする。嘘は言ってないとスミナはどうしても思ってしまう。


「何で他の人じゃ無くて、わたしに助けを求めたの?」


『アナタはワタシのマスターになるチカラを持っている。ずっとそういう人が来るのを待っていた。だからアナタに助けを求めた』


 魔宝石が言っているのは自分の祝福の事なのではとスミナは思った。魔宝石側からそんな事が分かるのかは謎だが。あとは先ほどの竜のいびきで遺跡の入り口が空いたので、呼び掛けられるようになっただけの可能性もあるとスミナは考える。


「お姉ちゃん、なんて言ってるの?」


「喋ってるのは魔宝石で合っていて、主人になる人が助けに来る事を待っていたって」


「お嬢様、封印された悪い魔導士の魂かもしれませんよ」


 メイルの言う可能性もあるだろう。だが、スミナにはもう一つ確認する為の力がある。


「魔宝石も道具ではあるよね?」


「本当に魔宝石でしたら人間が作った道具になりますね」


「だったら使い方を見てみる」


 本当は記憶を見る為の行為なのだが、メイルには黙って行う事にした。入っているケースも割らずに魔力で開く事が出来た。スミナは慎重に魔宝石に触れる。すると道具としての使い方がまず頭に入ってくる。そして、魔宝石が作られた時の記憶が流れ込んできた。

 最初に見えた光景は様々な色の魔宝石が並んで作られている光景だった。特殊な魔導機械で大きな宝石を魔宝石に加工していたようだ。

 次に見えた場面は恐らくマスターと呼ばれていた若い女性魔術師が魔宝石を使い、宝石で出来た人型のガーディアンのような物を呼び出すところだった。人型になった魔宝石は両手の刃でモンスターを切り裂いたり、胸からビームのような魔力の光線を出して溶かしたりして戦っていた。

 スミナが驚いたのは少し時間を進めた時の映像だった。宝石形態の魔法石が巨大なゴーレムに取り込まれ、そんなゴーレムが大量に列をなして見た事の無い巨大なモンスター達と戦いを行っていたからだ。ゴーレム達は強く、数でモンスターを圧倒していった。

 その後は戦いの場面は無くなり、魔宝石が言っていた通り色んな人の手に渡っていく場面だった。

 スミナは簡単に記憶を読み終わり、どうするか迷う。


「調べてみたけど、嘘は言ってないみたい。助けを呼んでいたのはこの魔宝石で、魔宝石はガーディアンみたいな兵器として使う事が出来る」


『ワタシは兵器ではありません。あくまでマスターの役に立つ為に創られており、戦闘は一つの機能でしかありません』


 魔宝石から非難の言葉が聞こえる。どうやら兵器と呼ばれるのは不服らしい。とりあえず魔宝石の言葉は置いておいてスミナは話を進める事にする。


「古代魔導帝国時代の物だから危険な可能性はある。だからわたしはこれを持って行くか、このまま再び隠しておくか迷ってる」


「あたしは折角ここまで来たんだから持って帰った方がいいと思うな。危ない物だったらどこかに管理して貰ってもいいし」


「私はスミナお嬢様の判断に任せます。魔導帝国の物は価値があり、それがどう使われるかは持ち主次第だと思っておりますので」


『もうこんな所にいるのはイヤ。お願いだから連れて行って』


 魔宝石自身からも懇願の声がスミナにだけ聞こえる。スミナは迷いはしたが、ここに来た時点で結論は決まっていた。


「じゃあ持って帰ります」


 スミナは決断し、魔宝石に触れる。すると魔法石が光輝き、消えて、スミナ達の目の前に人型に何かが作られていった。


「改めまして、マスター。ワタシはアルドビジュエル。何なりとご命令を」


 先ほどスミナが記憶で見た、宝石を人型にしたような姿にアルドビジュエルは変化した。紫色のアメジストのような色で、手は剣のように鋭く、足は細くハイヒールのような形で地面に立っている。全体的に角ばった形だが、顔の部分だけ曲線で出来ていて、目が光っていて、女性型だと認識出来る。大きさはちょうどスミナとアリナの間ぐらいで、身長的には10代の少女ぐらいだ。


「これが魔宝石の人型形態。この眼で見る事が出来るなんて」


 メイルが物珍しそうに眺める。


「うーん、思ってたのと違う。あんまり可愛くなーい」


「そりゃ戦う為の形だから可愛くする必要は無いでしょ」


 アリナは不満そうだ。スミナ自身は漫画に出てくるアンドロイドみたいで綺麗でいいと思っていた。


「マスター、ワタシは可愛くないですか?」


 アルドビジュエルはスミナに顔を傾けてたずねる。仕草はどこか女性らしさが感じられた。


「わたしはいいと思うよ。って、何でわたしがマスターなの?」


「アルドビジュエルはマスターを認識しないと自立行動出来ないようになっています。先ほど触れて頂いて、マスター登録は完了致しました」


「いいじゃん、お姉ちゃんがご主人様って事で」


「わたしがこの子を連れて回るの?持って帰ろうとは思ってたけど、主従関係はちょっと」


「ワタシのどこがご不満ですか、マスター?」


「いや、不満は無いよ」


「では、連れて行って下さい」


 連れて行く事を考えるとスミナは悩んでしまう。今の時代に存在しない魔宝石はそれこそ好奇の目で見られるだろう。転生者として目立ちたくないと思っていたのでそれを助長するのは嫌だった。


「さっきの宝石の形で持ち歩くのならいいけど」


「あの形態はあくまで待機状態で、ワタシは自由に動ける方がいいです」


「お嬢様、流石にこのまま連れ回すのは難しいですね。お屋敷に置いておくのならいいですが」


「置いて行かれるのはイヤです。どのような姿ならいいのですか?」


 アルドビジュエルはどうしても自由に歩ける姿で連れて行って欲しいようだ。スミナはどうしたものかと悩む。


「ねえ、もっと可愛い女の子とかになれないの?」


 アリナが口を挟む。


「女の子というのは人間の子供の女性という意味でしょうか。記憶を元に再現する事は可能です。マスター、変形を命令して下さい」


「じゃあ、女の子の姿になって」


 スミナがそう言うとアルドビジュエルの身体が再び光る。


「スゴイ!可愛いじゃん」


 変身したアルドビジュエルを見てアリナが興奮する。アルドビジュエルは10代前半ぐらいの美少女になっていた。長い銀髪に透き通るような白い肌。ドレスと靴と宝石が散りばめられた髪飾りが元の紫色をしていて、先ほどの姿と似た部分になっている。


「そんな事も出来るんだ」


「はい、魔力である程度の変形は出来るようになっています」


「でも魔力消費が激しいんじゃない?魔力補給はどうすればいいの?」


「アルドビジュエルは大気から魔力を常時吸収していますが、日光の下に出る事で大量の魔力を取り込む事が出来ます」


「太陽で魔力吸収出来るならエコだね」


「魔導帝国の技術はやはり凄いですね」


 とりあえず問題は無さそうだとスミナは思った。


「お嬢様、あまり長居すると日が暮れて予定がずれてしまいます。そろそろ地上に戻りましょう」


「そうだね。それじゃあ、アルドビジュエル、って名前は長いかな。うーん……。

ねえ、エルって呼び方でいい?」


「呼び方はマスターのご自由にどうぞ」


「じゃあエル、わたしの名前はスミナ・アイルよ。これからよろしくね」


「はい、マスター」


 エルは人間のような笑顔でスミナに答えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ