35.竜神の花嫁
スミナはまだ温かさが残る唇の感触になんとも言えない感情を覚えていた。自分がキスされたという事がまだ頭の中で整理出来ていない。目の前のホムラはただにこやかに微笑んでいる。
「ホントに消えろ!!」
怒声と共にアリナが目に見えないほどの速さでホムラへと突進していた。同時に周囲にアリナが作ったと思われる刃の罠が現れている。しかしホムラは槍で突き刺そうとしたアリナを簡単に回避し、周囲のトラップを壊す事無く抜け出していた。
「良い殺意じゃな。そんな力を秘めていたとは確かにスミナの双子の妹だけはある。じゃが、感情に振り回され過ぎじゃ。それではスミナには及ばぬぞ」
「うるさい!!」
何重もの魔力の刃の攻撃がホムラへと襲い掛かる。しかし、ホムラが力を放つとそれは一瞬で消え、その隙を狙ったアリナの攻撃も片手で受け止められていた。
「アリナやめて。ホムラさんは竜神だから人間と認識が違うのかもしれないし」
スミナはそう言ってアリナを後ろから抱き付いて止める。
「お姉ちゃん離してよ!!」
「駄目。戦ったら殺されるのはアリナだよ!!」
スミナの叫びでようやくアリナの力が抜けた。
「ホムラさん、少し落ち着いて話をさせて下さい」
「わらわはスミナの頼みなら一向に構わんぞ」
既に親し気に答えるホムラをアリナは黙って睨んでいた。スミナはアリナと共に地上に降り、ホムラもそれに続く。周囲を見ると怪我をしていたみんなもとりあえず動けるようには回復していて、一箇所に集まっていた。ミアンの魔法のおかげだろうし、あとでお礼を言わないととスミナは思う。
戦いが終わってみると夜の砂漠は肌寒く、みんなは魔法で焚火を作って温まっていた。スミナはみんなと合流すると改めてホムラに話しかけた。
「ホムラさん、わたしに伴侶になって欲しいと言いましたけど、それは人間でいうところの結婚では無いですよね?」
「いや、その認識で合っておるぞ。スミナには竜神の花嫁になってもらいたいと思っておる」
その回答に一同は再びざわめきだす。
「ちょっと待って下さい。ホムラさんはその、女性ですよね?どうして花嫁なんですか?」
「勘違いしてるかもしれんが、そもそも竜神には雌雄の区別など無い。女性の姿が嫌なら今すぐ男性の姿に変わるぞ?」
「いや、それはやめて下さい」
ホムラが男性姿になると更に話がややこしくなりそうだったのでスミナはそれを止める。アリナは勿論だが、エルやミアンからもホムラに対して厳しい視線が送られているのをスミナは感じていた。
「そもそもホムラさんは強い相手と戦いに来たんじゃ無いんですか?それが何で結婚になるんですか?」
「いや、わらわは最初から母様が言うところの“婚活”に地上まで降りて来たのじゃぞ。戦いはその手段にしか過ぎぬ。戦ってみないと相手がどんな者か分からぬからな」
今までの大暴れが婚活の一環だと聞いてスミナは眩暈がしてくる。
「ホムラさん、と呼ばせて頂きますが、質問があります。どうしてこのタイミングで地上に婚活に来たんですか?竜神は何百年と生きていると聞いてます」
アスイがホムラに質問をする。確かに婚活目当てなら過去に何度も地上に降りて来ていてもおかしくはない。
「わらわもまだ伴侶を探すのは早いと思っておったのじゃ。見ての通り竜神としてはまだ若いのでな。ところが永劫の眠りについていた母様がこの間少しだけ目覚め、伴侶を見つけてくるまで星界には戻って来るなと追い出されたのじゃ。それに今地上には父様と同じ転生者が4人もいるからと」
「え?ホムラさんのお父様は転生者なんですか?」
「ああ、わらわの父は転生者タケルじゃ。わらわは竜神ではあるが、竜神と人間のハーフでもある。ホムラ・クイーンドラゴという名も父に付けてもらったものじゃ。この姿も父の影響を強めに出すとこうなるのじゃよ」
ホムラの父が転生者だと聞いて皆驚く。しかしスミナはそんな話は今まで聞いた事は無かった。
「あの質問させて下さい。竜神は人と結ばれて子孫を残すのでしょうか?」
「いや、本来竜神は自らの分身とも言える子を1人で産んで、育てるものじゃ。母様が例外と言えよう」
ルジイの質問にホムラが答える。竜神と人間はそもそも違う種族なので人間の血が混ざったらどんどん人間に近くなるだろうし、確かに例外なのだろう。スミナはそれでおとぎ話の竜神退治の物語を思い出す。
「おとぎ話の竜神退治の話では地上で暴れた竜神を人間の勇者が倒して平和を取り戻したとあります。その退治された竜神はホムラさんの先祖でしょうか?」
「ああ、そのように伝わっておるのか。それこそわらわの父様と母様の馴れ初めの話じゃぞ。強い伴侶を求めて地上に降りた母様が父様に打ちのめされ、ぞっこんになったのじゃ。その結果、産まれたのがわらわという事じゃ」
神話と伝承の分析のジゴダ先生が聞いたら頭を抱えそうな事実をホムラは口にする。ただ、過去に竜神を倒したのが転生者だと分かったのは一つの発見なのかもしれない。
「竜神と人間が仲良し……。嬉しい……」
話を聞いていてソシラが目を潤ませていた。今のところ人間は竜神に一方的に暴力を振舞われているように感じるが、ソシラの純粋な喜びを打ち消すような事は言わないでおこうとスミナは思った。
「今までの話を聞いてると、あくまであんたの母親が人間に惚れただけで、あんたまで人間と結婚する必要は無いんじゃないの?」
「そうとも限らんのじゃ。竜神と人間の付き合いも長い歴史があるのじゃぞ」
アリナのトゲのある言葉にホムラは真面目な顔で答える。
「折角だから少しだけ竜神の話をしてやろう。そもそも竜神はこの星を世界竜が作り上げた時に星界から世界を見守る為に生まれた存在じゃ。永劫の時を星界で過ごし、肉体が滅びる直前に子を産み代替わりするだけじゃった。
だが、人間や魔族といった知恵を持った存在が世界を傷付けるような争いをするようになり、竜神も地上へ干渉するようになた。時に諭し、時に滅ぼして竜神は世界の安定を守ってきたのじゃ。
やがて竜神は一部の人間と交流するようにもなった。友人として誇れるような賢い人間もおったという事じゃ。そんな交流の中で気に入った人間を1人だけ伴侶として星界に連れ帰る習慣が出来た。目的は子孫を残す事では無く、話し相手のようなものじゃった。選ばれた人間は皆喜んで星界へ来たという。
じゃから選ばれた事は光栄に思って良いのじゃ」
ホムラの言う事が真実なのかは分からないが、確かに1人で世界を見守るのは寂しいだろうなとスミナは思った。が、自分が伴侶になるというのは別の話だ。そして話の内容にも違和感がある。
「ちょっと待って下さい。今の話だと話し相手としての伴侶を連れて帰るって事ですよね。最初にホムラさんが言った人間の結婚とは違うじゃないですか」
「そうです、スミナさんの言う通りです。本来結婚とは愛し合う人間の男女が行うもので、竜神様は勘違いをしているんじゃないでしょうかぁ」
スミナの疑問に合わせるようにミアンも力強く言う。
「いや、わらわはよく理解して言っておるぞ。そもそもわらわの両親が人間でいうところの結婚をしているからのう」
「マスター、竜神の言っている事は支離滅裂で自分勝手です。マスターを星界に連れていかれるわけにはいきません」
エルも興奮気味に言う。エルの言う事も最もだとスミナも思った。ホムラは人間では無いからか、行動も言ってる事も一貫性が無いと感じている。
「魔導人形にそこまで言われるとは心外じゃ。話としては単純で分かりやすい筈じゃぞ。竜神は伴侶となる人間を探しに地上に降りて来る。竜神は強く賢い人間が好みだった。どうじゃ、至極簡単な話じゃろ?」
「そんな事言ってもお姉ちゃんは付いて行かないよ。人間に拒否権はあるんでしょ?」
「まあわらわも無理強いするのは好きでは無い。じゃが、わらわの伴侶となるならあらゆる物が手に入るのじゃぞ。望むものなら可能な限り手に入れてみせようぞ。どうじゃ、魅力的じゃろう?」
ホムラは伴侶となった場合のメリットを提示してくる。実際ホムラの能力があればそれは可能なのだろう。ホムラは神機を一つ手に入れていて、神機を時間内なら自由に使える飴玉も持っていた。結婚するかは置いておいて、ホムラの提案が魅力的なのは確かだ。
「お姉ちゃん、こんなヤツの話を聞く必要は無いよ。気が変わったら寝首をかかれるかもしれないよ」
「そんな事は無いぞ。わらわも母様に似て、尽くすタイプじゃと思っておる。母様などは父様にべた惚れで父様が亡くなった後も永久保存した父様の亡骸と永劫の眠りについたほどじゃ。わらわもそうなりたいと思っておるぞ」
スミナは意外とホムラは裏表無い単純な性格なのではと思い始めていた。破天荒ではあるが、自分の気持ちに真っ直ぐなのではと。
「竜神様は本当にスミナさんが伴侶でいいのでしょうか?竜神様が見ているのはスミナさんの神機を操れるという能力だけで、スミナさん自身では無いのではと私は思います」
「そうです、マスターの能力が素晴らしいのは確かですが、それだけでは人間が言うところの恋愛感情にはならないのではないでしょうか」
ミアンとエルがホムラに疑問を投げつける。確かにスミナもホムラが見ている部分は自分自身では無く、あくまで神機を操れる部分だけなのではと思えてしまう。
「そう言うお主達もスミナの能力に惹かれて慕っているのではないのか?」
「確かに私がスミナさんに興味を持ったのはその特別な力からでした。ですが、今の私はスミナさんという1人の人間として慕っています!!」
「そうです、ワタシも最初はマスターだからと仕えていましたが、今はマスターを人間として特別だと感じています」
ミアンとエルに力説されてスミナは恥ずかしくなってくる。ただ2人の気持ち自体は嬉しかった。
「なら同じではないか。わらわも切っ掛けは神機を使えるという能力からではあった。じゃが、戦って、会話してみてスミナを気に入ったのじゃ」
「それは違います。人を好きになるのはそんな単純な話ではありません!!」
ミアンが叫ぶが話の内容は堂々巡りになりそうだなとスミナは思った。おそらくホムラは周りが何と言おうと反論するだろう。そんな空気を読んでか、アスイが一歩踏み出してきた。
「すみませんホムラさん、ソシラさん達が色々聞きたい事があるそうです。彼女はドラゴンにとても厚い信仰を持っています。少しだけ話を聞いて貰えないでしょうか?」
「ほう、竜神信仰の者がおったのか。良かろう、何でも質問してみよ」
アスイが突然話を変え、ソシラとレモネ、それにルジイとゴマルがホムラに近寄っていく。それと同時にアスイはスミナを手招きした。スミナはアスイが相談したい事があるのだと察して、さりげなくホムラから離れていった。
「ここなら聞こえないでしょう。まあ、聞かれてしまってもいいように話はしたいと思いますが」
アスイがホムラから少し離れた場所で話始める。そこにはホムラに質問に行った4人以外が集まっていた。
「これからの話ですよね。わたしはどうすればいいでしょうか?」
スミナはホムラの話に振り回され気味で、頭が正常に回っていない事を自覚していた。
「恐らくホムラさんはスミナさんをかなり気に入っています。スミナさんには申し訳ないのですが、しばらくの間ホムラさんの相手をして貰えないでしょうか?」
「ちょっと待ってよ。どういう事?星界がどこにあるかは知らないけど、お姉ちゃんにホムラに付いて行けっていうの?」
「アリナさん、落ち着いて下さい。そうではありません。スミナさんが居なくなってしまう事は王国にとっても損害ですし、私も困ります。あくまで、ホムラさんとの友好関係を継続して貰いたいのです」
アスイはそう言ったがスミナには実際どうすればいいか分からなかった。
「スミナさんに竜神様の世話をさせるのですか?」
「有り体に言えばそうなりますね。スミナさんにははっきりした回答をせず、ホムラさんを地上に引き留めて貰いたいのです。見たところ、ホムラさんは長い年月生きてはいても、人間との交流はそれ程やって来ていないように見えます。人と共に生活し、人間に興味を持ってもらい、人間という種と友好関係を結んで貰いたいのです」
「つまりはこっちの生活に馴染ませて丸め込むって事だな」
オルトが単刀直入に言う。スミナもアスイの言いたい事は何となく分かってきた。
「そうですね、言い方は悪いですが、そういう事です。もしかしたらそうしているうちにスミナさんから興味を失ったり、他に好意を抱く人物が出てくる可能性もあります。それにホムラさんがスミナさんの近くに居る事でのメリットもあります」
「魔族への牽制ですね」
今まで黙っていたメイルが言う。
「そうです。王国の問題としては竜神もありましたが、魔族の残党がまだ残っている事があります。ホムラさんが友好的に王都に居るとなれば魔族もそう簡単に手出しが出来なくなります」
「そう上手く行くでしょうか?王都でホムラさんが暴れたらそれこそ甚大な被害が出ますよ」
スミナはホムラが王都で暮らす事には不安しか感じなかった。
「その為のお2人とエルさんです。スミナさんが本気を出せばホムラさんと同等の力があるのも分かりましたし、アリナさんはホムラさんが危険な事をすれば気付きますす。エルさんは竜神の知識がありますし、ある程度なら攻撃を防げるでしょう。皆さんの力があれば、ホムラさんも迂闊かな事はしないのではと私は踏んでいます。
どうか、力を貸していただけないでしょうか?」
アスイが頭を下げる。そもそもがホムラが暴れたらどうしようも無い状態なので、それで済むなら正しい選択のようにスミナは思えて来ていた。
「あたしは嫌だよ。でも、お姉ちゃんがそれで良いって言うなら我慢する」
「ワタシも反対ですが、マスターの決定には従います」
アリナとエルにそう言われ、スミナは決断を迫られた。当のホムラはソシラに言われたのか、巨大化してドラゴンの姿を晒していた。もし本気であれに襲われたら自分達はここで全滅するだろう。スミナはホムラがまだ子供の部分があると感じていて、これから変わる可能性もあると思った。だからスミナは決断する。
「決めました。アスイさんの案を呑みます。ホムラさんにはもう少し時間を貰うよう言います。そしてその間地上に居て欲しいと」
「ありがとうございます。細かい話は私がしますので、安心して下さい」
アスイは笑顔で言う。ただアリナもエルもミアンも不満気な表情を隠さなかった。スミナ達が戻るとホムラは再び人型の姿に戻っていた。ソシラがとても満足げなのに対して他3人の表情が固まってるのが対照的だ。ホムラにいつ殺されてもおかしくない状況ではしょうがないだろう。
「戻って来たか。このソシラという娘は中々見どころがあるのう。竜神の事もよく調べているようじゃ。
それで、こそこそと相談していたようだが、嫁ぐ気になったのか?」
ホムラは聞こえては無いと思うが、相談していたのは把握していた。スミナは勇気を出してホムラに伝える。
「その件ですが、回答を少し待って貰えないでしょうか。わたしもホムラさんの事をよく知りませんし、こういうのは人となりを理解してから決めるのが失礼のない行いだと思います」
「なるほどな、結婚前の同棲期間という奴じゃな。わらわは即決でも構わんのだが、スミナがそうしたいのならよかろう。ただ、わらわも気が長い方では無い。待っても10年ぐらいじゃぞ」
ホムラの認識が色々間違っているので突っ込みたいが、とりあえず余計な事は言わない事にする。あと、10年が短い認識なのは長寿の竜神ならではでスミナにとってはありがたかった。
「あの、今は寮生活なので同棲は無理ですね。ただ、ホムラさんの事をよく知りたいのでしばらく王都で過ごして貰ってもいいでしょうか?」
「それは構わんぞ。星界から見るのと実際に過ごすのでは違うじゃろうし面白そうじゃな」
「ホムラさんの衣食住に関しては国で準備させて頂きます。不自由があっては困るでしょうし」
アスイが生活に関して口を挟む。
「別に持て成さずともわらわは自由に過ごすつもりじゃぞ。まあ寝床はスミナの近くに作って貰った方がいいかもしれんな。よかろう、その辺りは任せよう」
「ありがとうございます。今から一緒に王都へ行きますか?」
「いや、わらわも滞在するなら準備がある。後日王都へ赴こう」
「では、その時は私かスミナさんの所に来て頂ければ」
アスイがホムラとの話をまとめる。意外とあっさり決まってしまったのでスミナは少し肩透かしされた気分だった。
「では、スミナ、また会おう。次に会う時に回答をくれてもいいのじゃぞ」
「考えておきます。それではホムラさん、お待ちしています」
ホムラは飛び去って行く。その姿が見えなくなって、ようやくスミナは気が抜けた。
「本当に良かったのでしょうか、こんな対応で」
「我々は弱い立場にあります。誰も死なせず、今後の問題が先送りに出来たのならひとまずは良いのではないでしょうか」
メイルの問いにアスイが答える。スミナは問題の先送りという言葉に今この国を覆っている魔導結界の事を連想したのだった。
帰りの魔導馬車はかなり静かだった。みんな疲れていたのもあり、眠る人も多かったのもある。不満が残る人もいたが、実際に他の解決策があるわけでも無いので誰も口には出さなかった。
『マスターはどうしたいと思っているのですか?』
運転しているエルが魔法の会話でスミナに問いかけてくる。エルとなら誰にも聞かれないし、誰にも言わないだろうからとスミナは自分の気持ちを答える事にした。
『わたしはホムラさんに人間の事を理解してもらって、仲良くなりたいと思う。ただ、花嫁になって星界に行くのは嫌だと思ってるよ』
『それは良かったです。ワタシは竜神は嫌いです。ですが、マスターが仲良くしたいのならワタシも努力します』
『ありがとう。エルは偉いね』
『ワタシは何があってもマスターに付いて行きますから』
スミナは素直なエルの気持ちが嬉しかった。ホムラに嫁ぐとなるとエルも捨てる事になる。そんな事は絶対にありえないなとスミナは思うのだった。
王都に戻るとしばらくは何も無い平穏な日々が続いた。ただ、学校の休校は変らず、スミナは訓練以外手持無沙汰ではあった。アリナは明らかにこの前の事から不機嫌で、スミナに対してもそっけない対応が増えていた。スミナはアリナの機嫌を直したかったが、これからホムラが来る事を考えると上手く慰められる自信が無かった。
そして竜神と一時的な和解が出来た事で王国では新たな動きがあった。戦技学校の再開の決定である。生徒の保護者や周辺住民からの反対意見もあったが、魔導要塞の墜落場所も見つけ、学校の警備もより厳重にする事で再開に踏み切ったのだった。そこには国王の国家が一丸となって魔族に対抗する為の力を付ける、という後ろ盾になる発言が大きかった。
神機探索から1週間後、双子は久しぶりに学校に登校していた。野外訓練の問題で退学した生徒もいたものの、それでもまだ多くの生徒が学校に戻ってきた。初日は校長と担任教師からの話がある為、それぞれのクラス毎で教室に集まる。双子のクラスで退学した生徒は両手の指で数えられる範囲で済んでいた。元々優秀な生徒が揃っていたのも大きいのかもしれない。
『――それでも尚学生を続ける、勇気ある生徒の皆さんに感謝いたします』
教室の前面に映し出された魔法のモニターで長かったザトグ校長の話がようやく終わった。内容としては亡くなった生徒への言葉と事件の説明、そして国として魔族には負けない為に学校を続けるという決意表明だった。重要な話ではあるものの、既に文面で知っている内容が殆どだったので真面目に聞いている生徒も少なかった。
「校長先生の言っていた通り、大変悲しい事件でした。うちのクラスに亡くなった生徒はいませんが、事件を受けて学校を辞めた生徒はいます。私としてもそれはしょうがない事だと思います。
ですが、今も残っている皆さんには3年間の学生生活を過ごしてもらい、立派なマジックナイトになって欲しいと思っています。それこそが魔族に対抗する力であり、皆さん自身が生き抜く為の力になるのだと思います」
双子の担任のミミシャがいつになく熱の篭った発言をする。ミミシャ自身もこの間の野外訓練に対して色々な想いがあるのだろう。
「それで、学校が再開するに当たり、お知らせがあります。知っている人もいるかもしれませんが、この間の事件を受け、減った生徒を補充する為に学校で生徒の再募集をしました。勿論合格する為には皆さんと同等の能力を必要とし、敷居を下げたりはしていません。
そして早速ですが、2人の生徒がうちのクラスに編入する事が決まりました。呼んできますね」
ミミシャがそう言って教室を出て、少しだけクラスがざわつく。ミミシャの言った通り、生徒の臨時募集をしていたのは事実である。
「今日から私のクラスに入るのはこの2人です。それでは簡単に自己紹介をお願いします」
「わらわはホムラ・ノルナじゃ。今日から一緒にマジックナイトとやらを学ばせてもらうぞ。まあお主らとはレベルが違うだろうがのう」
「ワタシはエル・アイルです。スミナの親戚でとても仲が良いです。これから一緒に勉強出来るのが楽しみです」
ミミシャの横に立っていたのは制服を着て角や翼や尻尾が無くなった姿のホムラと、同じく制服を着て身長や見た目を少し伸ばしたエルだった。双子は勿論知っていたが、今初めて知ったレモネとソシラは驚きの叫びを何とか飲み込んでいた。
「ええと、ホムラさんは王国直属の騎士であるアスイさんの親戚で、ご家族と人里離れた場所で暮らしていました。なので喋り方が変わっていたり、一般常識が無い部分があります。その辺りは皆さんがフォローしてあげて下さいね」
ミミシャが必死にホムラのフォローをする。アスイに頼まれたのだろうが、竜神と知っていてクラスに入れるのは大変だろう。挨拶が終わると2人は競うようにスミナの隣の席を目指し、少しの差でホムラがスミナの真横に座った。エルはその横で不満顔をする。
「スミナ、これからよろしく頼むぞ」
ホムラがウィンクする。こうして双子の波乱の学生生活が始まったのだった。