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34.神機争奪戦

 双子達は用心しながら井戸のような穴を飛行魔法で降り、振動で新たに空いた横の通路へ入った。通路は自然に作られたものでは無く、人工物だったが細工や舗装がしていない掘っただけの原始的なものだった。砂漠に人が住んでいた時代に住民が作った物かもしれない。


「灯りが無いのでワタシが先導します」


 エルがそう言って人間形態から宝石状の戦闘形態に変わる。エルの身体からは光が放たれ、周囲が明るくなった。しばらくは人がギリギリ立って通れそうな狭い通路が続き、巨体のゴマルは頭がぶつかりそうで大変に見えた。だがそれも15分ぐらい進むと広い洞窟の通路に変わった。自然の洞窟を人の手で整理したもののようだ。洞窟にモンスターの気配は無く、通路の先の方に人工物と思われる光が見えた。


神機しんきがあるのは光ってる方です」


 スミナは神機の感覚をより強く感じて言う。一行は注意しつつ光っている何かの所へ向かった。


「これは魔導遺跡?」


 光っていたのは魔導帝国製と思われるパネルのような物で、その横には魔導帝国風の紋様のある大きな扉があった。以前神機があったのが魔導帝国より古い封印された洞窟だったので魔導遺跡が出て来た事にスミナは驚いていた。


「魔導帝国が神機を保管していた可能性がありますね。スミナさん、開けられますか?」


「それは大丈夫だと思います。開けますよ」


 アスイに言われてスミナはパネルに手をかざす。祝福ギフトの力で扉のロックの仕組みをスミナは理解し、それを解除した。すると扉がゆっくりと左右に開き、魔法の灯りが灯されている通路が見えてきた。魔導遺跡の魔力は残っているようだ。


「竜のいびきの影響でこの魔導遺跡の魔力が復活して、それで神機が感じられるようになったのかもしれません」


「そうね、見たところ長い間誰も立ち寄った形跡が無さそうね」


 アスイが中を簡単に確認して言う。


「凄いですね、これが魔導遺跡なんですね」


「自分も魔導遺跡に入るのは初めてです」


 ルジイとゴマルが珍しそうに周囲を見回す。


「神機を見つけるのが目的ですが、どのような遺跡か把握する為にも手前の部屋に入ってみましょう」


 アスイはそう言って通路の一番手前にある部屋へと近付き、扉を魔法で解除して入った。スミナの祝福を使わずともアスイなら難無く遺跡探索が出来るのだなと感心する。


「研究施設のようですね。貴重な物が眠っているかもしれません」


 アスイが周囲を見て言う。部屋の中はコンピューターのような魔導機械が並び、壁には本が並んでいた。スミナはガリサが見たら喜ぶだろうなと思ってしまう。


「どうします?記憶を見てみますか?」


「いえ、調べるのは神機を見つけてからにしましょう。スミナさんの魔力を無駄に使うわけにもいきませんしね。規模が大きいなら国の調査隊に任せるのも考えておきましょう」


 スミナの問いにアスイが答える。魔導遺跡自体は今回の目的では無いので、正しい判断だとスミナも思った。


「ガーディアンや魔導生物がいる可能性があります。この先は隊列を組んで進みましょう」


 アスイの提案で襲ってくる敵に対する隊列を作って探索を続ける事に決まる。通路が広いので横3人並ぶ形で先頭が盾役にもなれるスミナ、エル、ゴマルの3人、次の列が戦闘向きのアリナ、レモネ、ソシラの3人で前衛の6人とした。後衛は援護役のルジイ、ミアン、メイルの3人が並び、最後に後方を守りつつ見守り役のアスイとオルトで進む事になった。出発時にアスイが言っていた通り、強敵が現れた場合はアスイとオルトが前に出て戦うが、それ以外は生徒達で何とか出来るという事だろう。

 魔導遺跡は長く深く、途中に下りの階段を挟んで伸びていた。各階層の入り口には扉があり、まるで何かを地下深くに封印しているようだとスミナは思った。しばらく敵が出ない時間が続いたので、スミナは横のゴマルに話しかける。


「ゴマルさんの祝福は凄いですよね。1対1の戦闘なら無敗なんじゃないですか?」


「そんな事無いですよ。共に戦う仲間なので話してしまいますが、肉体硬化の祝福には弱点があるんです。まず1回の硬化の限界時間が5分ぐらいで、連続して使えないので硬化を解いたタイミングで隙が生まれます。次に祝福の使用には魔力を消費するので、魔力量が普通の自分だと30分ぐらいで祝福が使えなくなります。なので使い方を誤ると簡単に倒されてしまいます」


 ゴマルはそう言うが、恐らく弱点を補う為の訓練は欠かさないだろう。部分的に硬化も出来るように見えたので、それによって限界時間問題は解決してるのではとスミナは予想する。


「それに自分は魔法がそれほど使えないので、身体を鍛えて補うしかないんです」


「そういえばゴマルさんは素手で戦いますよね。それって誰かに習ったんですか?」


「ああ、これはうちの家系に伝わる格闘術なんですよ。父は貴族ではあるんですが、それと同時に格闘術の道場の師範をしていて、父に習いました。ただ、僕なんかより叔父のヤマリの方がずっと強いですよ」


「え?あのおじさんが?全然そんな感じしなかったけど」


「叔父は実力を隠すのが上手いんですよ。あの見た目でしょ、襲ってくる側も油断して簡単に返り討ちに会うんです」


 驚くアリナにゴマルが答える。ヤマリに関してはスミナも強そうには見えなかったので意外だった。そんな話をしつつ階段を下っているとエルとアリナが何かに反応した。


「マスター、この下の階から何か物音が聞こえます」


「お姉ちゃん、少し手強いのが下にいると思う」


「分かった。慎重に行きましょう」


 スミナは2人の助言を受け、ゆっくりと階段を降りていく。神機の反応は近付いているがまだこの階では無さそうだ。階段を下りきり扉を開くと、そこは今までの通路よりかなり広く大きな通路になっていた。そして通路の両側には5メートル近くありそうな大きな扉が並び、その中に内側から“ドンッ!!ドンッ!!”と叩かれている扉があった。何かのモンスターが動いているのが予想される。もう一つ既に開いている扉もあったが、その奥に生き物の気配は無かった。


「なんか開きそうだね」


「みんな、警戒して」


 スミナはアリナの言葉を聞いて、実際に扉が壊れかけているのを見てみんなに言う。言っているうちに扉が無理矢理こじ開けられ、巨大な何かが現れた。


「巨人の騎士?」


「これは生物ではありません。アンデッドモンスターの一種で、戦士の死者の怨念が集まったデスナイトというモンスターです。物理攻撃は効きませんし、普通の魔法攻撃も効き目が薄いです」


 ルジイが現れたモンスターの説明をしてくれる。スミナも名前を聞いた事はあったが、詳しくは知らなかった。確かに騎士の鎧にしては脈打つように鳴動し、赤黒く不気味だ。知能は低そうだが、5メートル近い巨体と大剣を考えるとまともに攻撃を喰らうのは危険だろう。


「私が倒します。すみませんが数秒間だけ時間を稼いで貰ってもいいですか?」


 名乗りを上げたのはミアンだった。直接戦闘に関わる事は殆ど無かったのでスミナは少しだけ驚く。聖教会の聖職者は対アンデッド用の魔法である浄化系の魔法が得意だとは聞く。だが、浄化系の魔法が効くのはゾンビやゴーストなどの下位アンデッドだけなのでミアンがどう対応するかスミナには分からなかった。


「分かりました、エル、ゴマルさん、数秒耐えましょう」


「はい」

「了解です」


 スミナとエルとゴマルがデスナイトの正面に立つ。他のメンバーはミアンを守りつつ、様子を伺った。


「仕掛けます」


 スミナとエルが飛び出してデスナイトに攻撃を加える。スミナのレーヴァテインもエルの剣化した腕も魔力を帯びた攻撃だが、切り裂いたデスナイトの身体は一瞬ぼやけて直ぐに再生していた。デスナイトはスミナ達を攻撃しようと剣を横に振る。そこにゴマルが飛び出し、身体を硬化させてその剣を受け止めていた。デスナイトの攻撃は完全に3人を狙ったものとなり、ミアン達は安全な状況になっていた。しばらくは無駄と分かっていても攻撃しつつ、デスナイトの攻撃をスミナ達は引き付け続ける。


「行きます、皆さん、距離を取って下さい!!」


 ミアンの声が聞こえ、スミナ達はデスナイトから一気に距離を取った。ミアンの周りには眩い白い光が集まり、光の柱を作っていた。


「迷える魂よ、安らかに眠りなさい」


 ミアンがよく通る優しい声で言う。光の柱がデスナイトの所に移動し、その巨体を包み込んだ。みるみる内にデスナイトの姿が溶けて、苦悶の表情をしたゴースト達に変化していく。そのゴースト達もやがて表情が穏やかになり、徐々に姿が薄れていった。やがて全てのゴーストの姿が消え、光の柱も収束していった。


「解放の光の魔法ですね。こんな高度な魔法を使えるとは、流石聖女ミアンさんですね」


「よくご存じですねぇ。実は、最近習得した魔法なんですよぉ」


 ミアンはいつも通りの雰囲気に戻り答えた。アスイは知っていたがスミナは知らない魔法だった。


「まだ中からアンデッドが出て来るよ。これぐらいならあたし達がやるよ」


「そうですね、まだ何もしてないですからね。ソシラもやるよ」


「しょうがない……」


 扉の奥から出て来たアンデッド達とアリナ達が戦闘に入る。スミナも助けに行こうかと思ったが、ミアンもソシラも的確に動いたのであっという間に片付いてしまった。


「どうやらこの部屋はアンデッド達を研究材料として閉じ込めていたようですね。長い年月で檻が劣化し、デスナイトが自力で抜け出したのでしょう」


 アスイが部屋の中を確認して言う。アリナ達が戦ったのも珍しい種類のアンデッドだったので、そういったアンデッドを研究していたのだろう。もう一つ扉が開いていた部屋には何もいなかった。元々居なかったのか、何かがいて抜け出したのかは判断出来ず、警戒しながら先に進む事にした。


「恐らくこの下の階に神機があります」


 スミナは今降りている階段の下から力を強く感じていた。アンデッド以外に敵と戦う事も無く、安全にここまで来られたのは運が良かったと感じていた。スミナは神機があると思われる階の扉を開ける。


「これは……」


「お姉ちゃん、何かヤバいのがいる」


 階段を降りた先の廊下にはこのフロアを守っていたと思われるガーディアンの破片が散らばっていた。見たところ、最近破壊されたようで、粉々に砕けていてアリナの言う通り危険な敵が居る可能性が高い。


「私達の出番のようですね」


「ああ、この感じは3度目だから分かる」


 アスイとオルトが双子達の前に歩み出る。という事は、この先にいるのは魔神ましんの可能性が高い。前回はスミナとエルとオルトだけだったので負けそうになったが、今回はこれだけの人数が居る。自分がグレンを使わなくても勝てるのではとスミナは思っていた。アスイは銀色の魔導鎧を身に着け、オルトも白銀の魔導鎧の兜部分をフルフェイスにしてスミナと初めて会った時の姿になる。並んで立つ2人の姿はとても絵になっていた。


「そういえば共に戦うのは初めてでしたね、オルトさん」


「アスイさんは昔から1人で十分強かったからですよ」


 オルトはアスイに対して複雑な感情を抱いていたが、それも過去の話のようだ。2人は先導してスミナが強く力を感じる部屋の方へ歩いていく。その部屋の扉は破壊され開いていた。


「人間か。この早さでここまで来たという事は、目的はこれか?」


 中にいた4,5メートルはある巨体の存在がこちらに気付いて話しかけて来た。スミナはその姿に見覚えがあった。以前グスタフの破片の記憶を見た時に捕獲されていた魔神だ。魔導帝国に捕まってここに封じられていたのだろう。それと同時にスミナが気になったのはその魔神が手にしている銀色に輝く長い筒のような道具だった。それこそがスミナが惹きつけられた神機だからだ。


「気を付けて下さい。魔神が手に持っているのが神機です。その魔神は炎を操り、グスタフすら素手で倒すほど強力です」


「俺の事を知っているのか?貴様何者だ?魔導帝国の生き残りか?」


 魔神がスミナを睨む。スミナは足がすくみそうになるのを何とか耐えた。


「私達は古代魔導帝国の者ではありません。貴方が人間に敵意を抱かないのなら、話し合いで済ませたいと思っています」


 アスイが魔神に対して話し合いを提案する。魔神が人間と話し合いなどしないのは分かっているので、あくまで相手の出方を確認する為の言葉だろう。


「俺が虫けらと話し合いだと。笑わせるな。だが、貴様らは傲慢な魔導帝国の人間と比べて戦士としての強さを持っていそうだな。ならば俺も神機を使うのはやめてやろう。俺と貴様ら、生き残った者が神機を持つ資格があるという事だ。さあ、戦いを始めようか」


 魔神はそう言うと神機を元々あったと思われる部屋の台座に放り投げた。その神機にどのような力があるのかは分からないが、とりあえず魔神に神機を使われる最悪の事態が回避されてスミナは安堵した。


「皆さん危険ですので、手助けしようなどとは思わないで下さい。とにかく自分の身の安全を第一に考えて」


「心配するな、俺達は負けたりしない」


 アスイとオルトが皆を守るように前に出る。


「火炎の防御魔法だけかけておきます」


「私も再生魔法をかけておきます」


 ルジイとミアンが2人に対して補助魔法をかける。魔神は戦い易いように広い通路まで出てくる。アスイとオルトは距離を保ってそれに対峙し、他のメンバーは更に距離を保つように後ろへ下がった。


「2人だけでいいのか?俺は別に何人相手でも構わないが。久しぶりの戦いだ、名乗っておこう。俺は魔神グユ。先ほど言われた通り、炎を扱うのが得意だ。貴様らの名は?」


「私はアスイです」


「俺はオルトだ」


 2人は魔法の長剣を構えて言う。魔神グユもそれに合わせてか両手に炎に包まれた2本の剣が握られていた。


「勝負!!」


 グユはその巨体に似合わぬスピードで2人に斬りかかった。しかし、アスイもオルトもそれを左右に分かれて避け、グユに攻撃を加えた。グユも2人の攻撃を避けるが、完全には避けきれずに燃える身体に傷が付く。だが、それは即座に再生された。魔神の再生力はやはり侮れない。


「中々やるな。だが、これならどうだ」


 グユは両手の剣を消して、その手から熱線を撃ち出す。熱線は手の動きに合わせて高速で動き、アスイとオルトを追う。熱線が当たった壁は溶け、周囲の物を破壊していく。


「皆さん、壁を作ります」


「あたしも手伝うよ」


「ミアンも手伝います」


「僕も」


 エルとアリナ、そしてミアンとルジイが離れた場所にいる皆を守る為の壁を作る。エルの魔法のバリアにアリナの魔力の壁、ミアンのシールドにルジイの氷の壁が4重になって出来上がった。グユから放たれた熱線は壁を破壊しつつギリギリで受け止められたが、それでも熱さを感じるほどの威力だった。記憶で見たグスタフの熱線を防ぐ対応能力が改めて凄いものなのだとスミナは感じていた。

 オルトは熱線を高速移動の祝福で避け続け、アスイは反射させる魔法で熱線を防いでいた。しかも2人とも防戦ばかりでは無く、隙を見てはグユの身体に次々と傷を付けていく。余裕そうだったグユの表情が段々と険しいものになっていた。


「遊びは終わりだ。思ったより小賢しい奴らだ。本気で終わらせてやる!!」


 グユは熱線を止め、全身の炎を赤から紫に変える。それと同時に身体が縮み、ゴマルと同じぐらいの身長になっていた。恐らく力業では無くスピードとパワーで一気に片付けようと考えたのだろう。その直後、スミナの考えた通りグユは高速移動のオルトより速い速度で移動し、2人に攻撃を始める。2人ともそれを何とか避けたが、空ぶった攻撃でさえその後ろの壁を抉るように溶かしていた。見た目以上に攻撃の範囲は広く、威力も高いようだ。2人も魔導鎧とルジイの補助魔法が無ければ致命的なダメージを負っていただろう。

 グユは飛び回り、その熱気で通路自体がかなりの高温になっていた。長期戦になれば人間である2人の方が不利になるだろう。形勢はグユの有利に逆転したように思えた。


「魔神というから警戒していましたが、この程度でしたか。これなら私でなくても倒せたかもしれませんね」


 アスイは動きを止め、グユに向かって言った。


「ほざくな!!」


 グユはアスイへ向かって飛び掛かった。しかしグユの攻撃がアスイに届く事は無かった。アスイの右手の剣が長く伸びてグユの頭部を貫いていたからだ。それと同時にオルトがグユの身体を上半身と下半身の真っ二つに切断していた。2人は戦いながら胴体の傷を徐々に大きくしていたのだ。


「確かに今まで戦った魔神の中では一番弱かったな」


「何者だ、お前達は……」


 グユは頭を貫かれながらも更に口を開く。


「今の時代を生きる人間ですよ」


 アスイはそう言いながら剣を動かして上半身を細切れに切り裂いた。やはりアスイは圧倒的に強いと感じてしまう。スミナは今のうちにと神機を取りに行こうとする。


「お姉ちゃん、そいつまだ死んでない!!」


 アリナが叫び、見ると分断された下半身が猛スピードで移動していた。


「スミナさん、狙いは神機です!!奪われてはいけません!!」


 アスイの叫びと同時に意図が伝わり、全員が動き出す。下半身は再生しながら移動し、アスイの放つ魔法を綺麗に避けていく。斬りかかったオルトも反対に吹き飛ばされていた。


「少しだけ時間を稼ぎます」

「スミナさん急いで!!」


 ルジイとミアンが魔法を唱え、2人の魔法がグユの身体を捕らえる。だが、それも数秒だけで、すぐに魔法の束縛は破壊されていた。


「行かせません!!」


 ゴマルが束縛から逃れたグユを硬化して抱き付く。しかしグユは軟体化してゴマルからするりと抜け出した。


「撃ちます」


 エルが胸からビームを放つ。それは軟体化したグユを破壊する。それでも四散したグユの破片はしぶとく動き続けた。


「少しでも時間を稼ぐ!!」

「しぶとい……」

「お嬢様急いで!!」


 レモネとソシラとメイルが残ったグユの破片を3人で斬り付ける。ほぼバラバラになってそれを何度も破壊したが、複数のネズミ大の残った身体が素早く部屋へ移動していく。部屋の入り口には双子が既に入り込んでいた。


「お姉ちゃん、あとは任せて!!」


 アリナが立ち塞がりグユの破片の侵入を防ぐ。魔力を板にして扉を塞ぎ、隙間から侵入するスライム状のグユを魔法で破壊していく。スミナは全速力で何とか神機に辿り着き、それを手にした。記憶を読むと隙が生まれるので、記憶は読まないようにし、大事に抱え込む。


「取ったよ、アリナ!!」


「了解!!」


 アリナはそれを見て扉を塞いだ板を解除する。スミナは手にした神機が射撃用の武器だと理解する。射程や威力は思いのままの恐ろしい兵器だと。神機がオルトの望んでいた物で無く少しだけ申し訳ない気持ちになっていた。


「凄まじい生命力ですが、もう攻撃する余力も無いでしょう」


 部屋から出て来たスミナにアスイが言う。グユの破片はアスイ達がほぼ消し去っていた。


「そうか、そういう事か。なるほどな、俺達にとって望ましい時代がやって来たわけだ」


 グユの声だけが廊下に響く。その姿はどこにも見えない。


「なんだ、負け惜しみか?」


「死ぬのは貴様らも一緒だ」


 オルトが煽るがグユが不気味な声で返す。スミナは何か嫌な予感がした。


「床下に高熱反応があります。自爆する気です!!」


「ルジイくんの言ってるのは本当だよ。逃げないと!!」


 ルジイが気付き、アリナがそれを裏付ける。だが、ここは地下深くで、簡単に逃げる事は出来ない。


「マスター、奥に地上への移動用の魔導機械があります。動けば逃げられるかもしれません」


「分かった。みんな、こっちへ!!」


 スミナはエルの言う事を信じ、通路の奥へと走っていく。そこには扉があり、スミナが祝福で空けると何も無い小部屋があった。スミナはパネルを触り、それがエレベーターのような魔導機械で地上近くまで浮上出来る事が分かる。


「乗って下さい。動くか分からないけどやってみます!!」


 スミナは全員が乗ったのを確認し、魔導エレベーターを起動する。それが動き出すと同時に通路で何かが爆発するような音が響いた。魔導エレベーターは上昇しているが、床が熱くなってくるのを感じる。


「地上近くなったら私が脱出用の穴を開けます。私の少し後に続いて下さい。今のうちに耐熱の魔法をお願いします」


「分かりました」


 ルジイとミアンが手分けして全員に耐熱の魔法をかけた。魔導エレベーターが停止し、その扉が開く。下の方からは“ゴゴゴゴッ”と地響きのような音が聞こえていた。


「行きます!!」


 アスイの全身が輝き、扉が開いた先にあった廊下の天井へ飛び上がる。アスイはそのまま天井を破って、巨大な穴を作りながらどんどん上へと飛んで行った。他のみんなもそれを追って飛行魔法で上昇する。一番後ろは耐久力があるエルが引き受けていた。

 アスイが作る穴は地上まで貫通し、穴の先には夜空が広がっていた。背後に熱を感じつつ全員穴から飛び出し、なるべく穴から遠くへと離れる。するとアスイが開けた穴と最初に入った穴から高熱の火柱が空へと昇っていった。危機一髪だったが、火柱はとても美しかった。


「魔神は死んだのかな?」


「危険は感じないから多分ね」


 しゃがみ込んで並んで座るスミナにアリナが答える。


「しかし、貴重な遺跡が破壊されてしまいました。この威力だと中の物も殆ど残っていないでしょう」


 アスイが残念そうに言う。それでスミナは手に持った神機の事を思い出した。


「オルト先生、残念ながらこの神機は射撃武器のようなもので、先生が望んだものではありませんでした」


「そうか。だが、それでも国にとっては収穫だ。敵の手に渡らなくて良かったさ」


 オルトは少し寂しそうな顔で答える。スミナは神機の記憶を今見るかどうか少し考えた。


「お姉ちゃん!!」

「スミナさん!!」


 アリナとアスイ、2人が叫んだのがほぼ同時だった。スミナが何事かと思った時には既にスミナの手から神機は奪われていた。一瞬の出来事にアリナとアスイ、他の誰も反応出来なかった。


「“これ”は人の手には余る物じゃ。一つまでならまだしも、二つの神機が同じ場所にある事をわらわが許すわけにはいかぬ」


 夜空にはピンク色の翼を生やした少女が神機を手に持ち浮いていた。竜神ホムラは何の前触れも無く、突然現れたのだった。


「また貴方ですか。私達は神機を悪用するつもりはありません。強大な力を持つ意味も分かっているつもりです。竜神は長く生きて素晴らしい知恵を持っていると聞いています。話し合いしませんか?」


「人間と何を話し合う事があろうか。お主らの言い分はどうせ魔族の脅威に対抗する為の手段じゃろ?自らの力で兵器を作った魔導帝国ならまだしも、過去の道具や神機頼みで戦う事が本当に正しい戦いか?

それよりもお主らは既に特別な力を持っておる。もしわらわを打ち倒せたならこれは返してやろう」


 ホムラはそう言うと神機を異空間に仕舞い込んだ。エルが神機を宝石に仕舞うのと似たような技だろう。


「分かりました。それはどうしても必要な物、今度は本気で戦います」


「アスイさん、待って下さい。わたし達に任せて貰えませんか?」


 スミナは戦おうとするアスイを止める。スミナ達は竜神対策を考えていて、それを試すチャンスだと思ったのだ。


「大丈夫なんですか?」


「はい、エルが竜神の情報を持っていたので」


「わらわは誰でも何人同時でも構わんぞ。ただ、そちらが神機を使うなら、事前にやらねばならぬことがあるがな」


「神機は使いません。わたし達がお相手します」


 双子とエル、レモネとソシラが前に出る。他のメンバーはとりあえず手出しせずに見守る姿勢を取った。


「以前戦った双子と魔導人形、それに同じような少女の5人か。さあ、好きに攻撃していいのじゃぞ」


 そう言うホムラと対峙した双子達は顔を見合わせ、タイミングを合わせる。ホムラの能力を考えたらチャンスは一度きりだろう。だが、スミナは今の自分達なら出来る気がした。


「行きます」


 スミナがそう言うと5人は動き出した。エルは地上に留まり、魔法の光球をホムラに飛ばす。ホムラはそれを気にもせず空中で動きもしない。光球は当たったが、ホムラには何の影響も無かった。そのタイミングでアリナとソシラが空中戦を仕掛けた。

 アリナは危険察知と魔力の刃を使って多方向から攻撃し、ソシラもホムラの周りに大量の虚像を作り出して入れ替わりながら鎌で攻撃する。流石のホムラも回避だけでは間に合わず反撃と防御もするようになった。しかしホムラはまだ余裕があり、アリナとソシラは反撃を避けるので手一杯になってくる。スミナとレモネは間に入れず攻撃するタイミングを見計らっているように見えた。


「どうした、多人数だからといって上手く連携が取れているようには見えんぞ。これでは前に戦った時の方が動きが良かったな」


 ホムラが挑発するように言う。しかし、これは全て双子達の計画通りだった。


「今!!」


 ソシラが丁度いい位置にホムラが移動したのを見て叫ぶ。合図を聞いてアリナがホムラの周りを魔力で実体化した壁で覆った。壁は一瞬でホムラの魔力で吹き飛ばされた。だがその一瞬だけ視界を塞げればよかった。壁を吹き飛ばしたホムラの脚をレモネが掴む。ホムラは本来簡単に振りほどける筈が、レモネの体格に見合わぬ力だったので振りほどくのに数秒かかった。そこへスミナは魔道具を使ってゲル状の物体で空中のホムラを包み込んだ。動きを遅くさせるだけの物だが、抜け出すのにも破壊するのにも魔力の壁より時間がかかる物だ。


「!!」


 そしてホムラは狙いに気付く。地上のエルが魔力を溜めて巨大なビームを撃とうとしている事に。この状態でそれから逃げる事は不可能だと。ホムラは身体の一部だけ包んでいた鎧のようなピンク色の鱗を一気に全身に纏い、更に紅く輝かせる。エルが放ったビームはホムラを包んでいたゲル状の物体を一瞬で蒸発させた。だが、ホムラ自身は鱗のおかげでビームに耐えていた。


「今です!!」


 スミナが叫んでレーヴァテインを振り抜いた。スミナはホムラの右に、レモネはホムラの左に浮かび、それぞれ全力の攻撃をホムラの首に叩き込んだ。

 エルの情報で竜神は強力なビームにも耐える事が出来るが、防御姿勢を取った後は数秒身動き出来ず、かつ鱗がビームに対応するように変化しているので他の種類の攻撃が通るようになると聞いていた。そして竜神の弱点は首だという情報も。竜の姿でなく人の姿でも首が弱点だという事に賭ける事にした。

 それらの情報を踏まえ、4人の中で最大の攻撃力を出せるスミナとレモネで左右から同時に攻撃したのだ。


「やった?」


 レモネが不安げに言う。スミナもレモネも何かを切断した手応えを感じていた。2人の目の前で竜神の頭は切断され、空中を落下していった。スミナもそれを見てようやく勝ったと感じていた。


「なるほど、以前母様が人間の研究に協力したと言っておったわ。わらわの弱点を連携して上手く攻めたと褒めてやろう。じゃが、弱点をそのままにしておくわけが無かろう」


 スミナの上空から声が聞こえる。見上げると最初より露出度が上がり、胸と下半身の一部しか鱗で隠していないホムラの姿がそこにあった。小柄だが豊満なその身体には傷一つ無かった。スミナの目の前にあるのはホムラの鱗だけで、脱皮するようにいつの間にか抜け出していた事をようやく理解する。


「まだ!!」


 アリナとソシラが上空のホムラに全力の攻撃を仕掛けていた。だが、次の瞬間には2人とも攻撃を喰らって地上へと叩き飛ばされていた。


「レモネ!!」


 スミナも2人に続いて背を向けているホムラに攻撃をする。だがホムラの姿は瞬時に消えて、気付いた時には背中に衝撃を感じ、スミナも落下していた。

 スミナは地面に叩き付けられたが、ミアンが直前に魔法で衝撃を和らげてくれたので何とか致命傷は免れていた。ルジイも同様に落下する仲間を助け、4人は地面に横たわるものの何とか全員命に別状はなかった。スミナがエルの方を見ると既にホムラの魔法で、砂が巻き上がりエルを岩のように固めていた。


(完敗だ……)


 スミナは作戦が失敗だったのを実感していた。生徒達の敗北を見て、アスイとオルトが戦闘態勢で空中に上がっていた。


「今度はこの間の転生者と少し歳を取った男か。わらわは男でも別に構わんぞ、強ければじゃがな」


「ドラゴンとは戦ってみたかったが、まさかこんなに可愛らしいとはな」


「褒めても手は抜かぬぞ」


 そう喋っているホムラに向かって2人が全力で攻撃を開始する。アスイは魔神との戦いよりも派手で威力のある魔法の攻撃を縦横無尽に行った。屋外で広いのもあるし、前回竜神に敵わなかったのもあるのだろう。オルトは上手くアスイの攻撃に合わせてホムラを斬り付ける。2人の攻撃はホムラの速度を上回り、ホムラの肌には無数の傷が出来ていた。この2人ならホムラを倒せるのではとスミナは希望を抱いた。

 だが、スミナがそう感じたのは間違いだった。ホムラの傷はすぐに回復し、逆にアスイとオルトの動きが目に見えて遅くなっていた。体力の問題だけでなく、スミナが見えないところで2人とも攻撃を喰らっていたのだ。そしてオルトが完全に攻撃を避けきれずに少し飛ばされ、アスイもホムラの武器と化した爪が受け止めきれずに魔導鎧が破壊されていた。


「やはりお主は駄目じゃな。全てが中途半端じゃ。もっと強くなれる筈なのに踏み止まっておる。そんなに自分が大事か?」


「何を……」


「お主なら死なぬじゃろ」


 そう言ってホムラはアスイを思いっきり爪で引き裂いた。アスイは攻撃をまともに喰らい、胸から出血しながら落下していった。


「アスイさん!!」


「大丈夫です、私が必ず助けます!!」


 スミナが叫び、それに応えるようにミアンが叫びながら落下するアスイを救いに走った。

 空中では再びオルトがホムラを攻撃している。だが、それは完全に避けられていた。


「お主は人間にしては確かに強い。だが、その剣は何かを諦めたようじゃ。諦めなければ勇者になれたやもしれぬのにな」


「お前に何が分かる!!」


 オルトが珍しく声を荒げた。そしてオルトの最速の剣がホムラを斬った。しかし、剣はホムラの腕を少し傷付けただけで受け止められていた。


「可哀想だがご退場願おう」


 ホムラが縦に一回転してオルトを上から蹴りつける。オルトは物凄い速度で地面へと叩き付けられた。メイルとゴマルが落下したオルトを助けに走っている。

 やはり竜神との力の差は圧倒的だったのだ。周囲にいる全員が絶望感に包まれていた。ホムラは優雅にスミナが倒れている近くに降りてくる。


「やはり予想通りじゃったのう。まあ最初からわらわの目当ては決まっていたが。

スミナと申したな。お主、神機を扱う事が出来るのじゃな?」


 ホムラがスミナに問う。今更嘘をついてもしょうがないのでスミナは正直に答える事にした。


「一応使う事は出来ます。ですが、使いこなせているとは思いません。魔力が万全の状態でも使えるのは数分だけで、下手をしたらその後に影響が出るぐらい消耗するでしょう」


「なるほど、そこまで分かっているならよい。その様子だと私利私欲の為に使ったりもしていなそうだ。

スミナ、お主は仲間を救いたいか?」


「勿論です」


 スミナは即答する。ホムラはスミナを見つめるとにっこりと笑った。恐ろしい存在だが、顔だけ見ると普通の美少女でとても可愛らしく感じてしまう。


「なら受け取れ」


 ホムラは何かをスミナに向かって放り投げた。スミナはそれをキャッチする。受け取ってみるとそれは少し大きな飴玉ぐらいのピンク色をした球体だった。スミナでも何かは判別出来ないが、とても力のある物である事は分かった。


「なんですか、これは」


「なんといえばいいかな。そうじゃ、命の保証とでも言っておこう。それを舐め終わるまでの10数分間は神機を身に着けても魔力も体力も奪われない、特別製の飴玉みたいなものじゃ。魔導人形の拘束も解いてやった。それを舐めて神機を身に付けよ」


 ホムラの言う通りエルを固めていた砂が解除されて、エルがこちらにやって来る。ただ、ホムラの言う事を素直に聞いていいか分からない。


「あなたの言う事を信じろっていうんですか?それにわたしが神機を身に着ける事になんの意味があるんですか?」


「今更嘘をついてどうするんじゃ。お主らを殺すだけなら一瞬で済むのじゃぞ。

話は簡単じゃ。仲間を救いたければ神機を着てわらわを倒せ。制限時間はそれを舐め終わるまで。あと、他の仲間の手助けがあった時点でお主の負けじゃ。今回はあくまで一騎打ちじゃぞ」


「お姉ちゃん、そんな奴の言う事聞く必要無いよ!!」


 アリナが叫ぶ。ただ、アリナも動くのがやっとのようで、ホムラと再戦出来るとは思っていないようだ。スミナは少し悩んで答えた。


「分かりました。戦います。ですが、それであなたが死んでしまうかもしれないんですよ?」


「わらわが死ぬ?まあそんなことはあり得んが、殺すつもりで戦ってくれないと困るな。戦い易いようにわらわも見た目を変えるか」


 ホムラの全身がピンク色の鎧で覆われる。それは先ほどの鱗状では無く、美しく、華麗な印象を与える姿だった。


「エル、グレンを」


「分かりました、マスター」


 スミナはエルからグレンの腕輪を受け取る。そしてホムラから受け取った飴玉のようなものを口に入れた。それは甘酸っぱい味がして、飴玉と同じ感触だった。しかし次の瞬間、全身から力が漲り、先ほどの戦いで受けた傷が治り、魔力も回復していた。ホムラの言っている事は本当のようだ。スミナは魔導鎧を解除し、レーヴァテインも地面に置く。


「神機解放」


 スミナがそう言うと全身が青い炎で包まれ、青く輝く神機をスミナは身に着けていた。飴玉の力なのか、今までよりもグレンでどんな事が出来るのかがより頭に入って来ていた。


「スミナ、素晴らしい能力じゃな。さて、久しぶりに全力で戦えるな。飛ぶぞ」


 ホムラがそう言って星空を高く飛び上がる。スミナはそれに続いた。空を飛ぶ事もまるで息をするのと同じように簡単で自然になっていた。


「ゆくぞ!!」


「受けて立ちます」


 2人は空中で向かい合うとお互いに突進した。スミナはグレンの力か、夜空でも周囲がよく見え、今まで分からなかったホムラの動きもつかめるようになっていた。ホムラは腕の装甲から長い爪を作り出し、それでスミナを切り裂こうとする。スミナも剣を作り出してそれをすれ違いざまに振って爪を弾いた。だが、爪は囮でホムラの本命はその背後から迫る尻尾だった。スミナはそれを向きを反転させてギリギリで避ける。

 一旦距離をとったスミナは魔力の弾を両腕から撃ち出してホムラを狙う。ホムラはそれをジグザグに飛んで避け、逆に口から炎のブレスを吐いて反撃した。スミナはホムラの本命はブレスの後ろに隠れて接近する事だと気付き、剣でブレスごと切り裂こうとした。が、そこにホムラの姿は無く消えていた。


(瞬間移動か!!)


 ホムラが以前も鱗を残して消えていた事を思い出し、スミナはホムラが瞬間移動出来る前提で戦わなければと思考を切り替える。全神経を研ぎ澄まし、ホムラの気配を探る。気配がスミナの足元だと気付いて瞬時に後退した。スミナが直前まで居た場所をホムラの爪は切り裂いていた。


「避けるか、やるのう」


 ホムラの楽し気な声が聞こえる。スミナはやらなければやられると思い、攻撃手段を頭に思い浮かべる。魔力も体力も心配しなくていいのなら、スミナは負けない気がしていた。

 スミナの着ている神機の背中から沢山の小型の刃が放出される。それらは鳥のように飛び回り、意思があるようにホムラへと飛んで行く。それと同時にスミナ自身も弾丸のように飛び出し、ホムラへ向かって物凄い速さで突っ込んだ。


「どうだ!!」


 小型の刃の対処をしていたホムラは物凄い勢いで飛んで来たスミナを避けきれず、スミナの剣がホムラを切り裂いた。ホムラの左腕が切断されて落ちていく。だが、ホムラもただやられているだけでは無かった。スミナはすれ違った時に自分の脚が爪で抉られている事にようやく気付いた。ただ、グレンの力で傷はすぐ塞がり、斬られた装甲も再生していく。ホムラの腕も同様に数秒後には元に戻っていた。


「浅かったですか」


「倒したければ首か腹を落とさねばな」


 竜神の再生能力と神機の力を考えるとお互い致命傷を与えなければ勝てないだろう。そしてそれが簡単では無い事をお互い理解していた。

 スミナは頭に思い浮かぶ戦法を次々と試し、またホムラがどんな攻撃をしてくるか警戒し、何とか防ぎ、避ける。殺し合いをしている筈なのに、スミナは高揚感を感じていた。


(でも、飴玉がもう小さい。そろそろ決めないと)


 タイムリミットがある分、スミナの方が不利だった。スミナは次の攻撃で絶対に倒す技を使う事にした。


「神機、最大開放!!」


「なんと!!それも使えるのか」


 ホムラがスミナの言葉を聞いて驚きの声を上げる。神機の最大開放とは神機グレンに備わっていた機能で、数秒間だけ神機の威力を更に上げる機能だ。ただし、それを使ったあとは神機が数日使えなくなるという難点がある。今後の事を考えればなかなか使えない機能だった。

 スミナの着ているグレンの色が更に鮮やかになり、輝きが増す。スミナは使い慣れた1撃で終わらせる事にした。剣を構え、身構えるホムラに向かって全速力で斬り付ける。それは瞬時にホムラの胴体をとらえて一刀両断していた。


(まだだ!!)


 スミナは全神経で脱皮して瞬間移動したであろうホムラを探す。ホムラの本体は遥か下方、地上近くまで移動していた。スミナは光のような速さで2撃目を繰り出した。が、ホムラの下に仲間達の姿を確認し、その攻撃をギリギリで止めた。万が一でも仲間ごと攻撃してしまう可能性を考えてだった。

 急降下したスミナの着ていたグレンは急速に光を失い、消えて腕輪の中へと戻っていた。ホムラは瞬時に移動するとスミナの胸に自分の爪を軽く当てていた。


「わたしの負けです」


「どうかのう。あそこで止めなければ結果は変わっていたかもしれぬ。わらわも流石に焦ったわ。今日のところは引き分けでいいじゃろう」


 ホムラは笑顔で言う。その笑顔は自然で、スミナ達と同世代の少女と変わらなかった。


「強いのう、スミナ」


「いえ、わたしが強いのではなくて、グレンとホムラさんの飴玉のおかげでした」


 スミナとしては自分だけではそもそも勝負になっていないと思っていた。


「決めたぞ。スミナよ、わらわの伴侶となれ」


「え???」


 スミナはホムラが何を言っているか理解出来ない。ホムラはスミナに空中で抱き付くと口づけをした。


「「えええええーーーっ!!」」


 地上で仲間達の驚きの声が響くのだった。


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