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33.神機捜索

 スミナはアスイに会いに行った2日後に、聖女であるミアンに呼び出された。スミナに対しての呼び出しだったのでアリナは付いて来ず、エルは使い魔の猫の姿で連れて行く事にした。学校はまだ休校なので生徒の行動に特に制限は無かった。


「スミナさ~ん」


 町中でスミナを見つけたミアンが早速飛びついてくる。スミナも慣れたもので適度に突き放し、ミアンの背後に居た人達に挨拶した。


「こんにちは。皆さん元気そうで何よりです。この間の話をしたい、という事ですよね」


「はい。ドシンさんの葬儀には参加出来なかったのでぇ、スミナさんが戻って来たと聞いてミアンが集めたんです」


「私も葬儀には行きたかったのですが、家の事もあって無理でした」


「僕も知人の怪我の対応をしていて、葬儀には間に合わないので諦めました」


 スミナと同じパーティーだったエレミとルジイが言う。ドシンの葬儀は日程的にかなり無理をしないと王都の人間は参加出来なかっただろう。


「ザキロさんは呼ばなかったんですか?」


「ザキロさんはあんな事があったので学校を退学したそうです。今は実家に戻っているそうでぇ、流石に呼ぶの無理でしたぁ」


「あんな事があったんですから、ザキロさんの気持ちも分かります」


 エレミがフォローを入れる。スミナは危険な目に遭い過ぎて感覚がマヒしているが、ザキロのように学校を辞める事を考えるのが普通なのだろう。


「落ち着いて話せる場所が良いでしょうし、ミアンの知り合いのお店に行きましょう」


 そう言ってミアンは3人を以前スミナを連れて行った喫茶店に案内した。あの場所なら他の人に話を聞かれる事も無いだろう。店に着いて注文をすると、スミナ先にドシンの葬儀の様子を簡単に話した。


「この間ヘガレさんとも会う機会があり、ドシンの死は誰の責任でもないという話になりました。悪いのは襲ってきた魔族だからと。わたしも責任を感じてますし、ここに居るみんなも同じだと思いますが、ドシンの為にも自分を責めるのはやめましょう」


「そうですねぇ。ミアンも自分の力不足を後悔していますが、今はドシンさんの魂が安らかに眠れるように祈る事にしています」


「私は自分が付いて行けず後悔してしまいましたが、足手まといになっていたと思うので、今は正しい判断だったと思います。勿論ドシンさんの事は悲しいですし、何も出来なかった事が悔しいです」


「僕ももっと出来た事があったのではとあの時の事をよく振り返ります。ただ、あの化け物じみた敵を見てしまうと僕には無理だったと納得もしています」


 4人はそれぞれドシンの死に対しての想いを語る。スミナは3人がそれぞれ自分のやるべき事を出来ていたと思っている。


「3人の協力があったので、敵の指揮官が予想より早く見つけられたのは確かです。それで救われた命も沢山あったと思います。その事は誇りに思っていいと思います」


「ミアンはスミナさんの指示と判断のおかげだと思いますよぉ」


「そうですね、私もスミナさんと共に戦う事で強くなれた気がします。姉にも動きが良くなったと褒められました」


「僕もスミナさんの冷静で的確な指示はとても学生のものとは思えませんでした」


 ルジイの言い方にスミナは少しだけドキッとする。しかし、山頂での戦いを見たなら普通では無いと感じてもおかしくはない。


「学校は再開するんでしょうか?あんなことがあったので学校を非難する声も増えてます」


 エレミが不安そうな顔をする。スミナは少なくとも安全が確保出来なければ再開出来ないだろうと思っていた。


「ミアンは再開すると思いますよぉ。ここで止まってしまったら魔族に負けた事になりますからねぇ」


「確かにそうですね。魔族の脅威が確認された以上、戦える者を増やさないといけないですからね」


 ルジイは見た目の子供っぽさと反して現実的な考えをしてるなとスミナは思った。その後、少し雑談をして集まりは解散した。


「ミアンは今日も仕事がありますのでここでお別れです。スミナさん、また会いましょうねぇ」


「はい、さようなら」


「私も親戚の家に泊まっているのでここで」


「はい」


 ミアンとエレミは喫茶店を出たところで寮と逆方向に向かうので別れる。


「スミナさん、帰り道少しお話いいですか?」


「いいですよ」


 スミナはルジイと歩きながら話をする。


「僕はあの後、お城の特殊技能官の人に話を聞きました。その、転生者の事とかも。スミナさん達は大変だったんですね」


 ルジイは真面目な顔で言う。ルジイは山頂でのことを全部見聞きしているので、記憶を消すか、全部説明する必要があったのだろう。ルジイは結界を解いたり魔法の才能があるので、全部話して理解してもらうのは正しい判断だと思った。ただ、スミナは巻き込んでしまった事を申し訳なく思ってしまう。


「そうですよね、あそこまで関わってしまったら説明しないといけないですよね。ごめんなさい、ルジイさんをここまで巻き込むつもりはなかったんです」


「いえ、スミナさんが謝る事は無いです。魔族がここまで活発になった以上、いずれは知る事になったと思います。それが少し早まっただけですよ。

それに僕は嬉しかったんです。僕の魔法が役に立った事が。それに色々と興味深いものも見れましたし」


「確かにルジイさんの魔法は凄いと思います。今後王国の役に立つと思いますよ」


 スミナはルジイの能力は凄いと感じていた。あの時ルジイが居なければレオラの発見は遅れただろうし、エルの結界からの解除が出来ずに全滅していたかもしれない。


「ありがとうございます。僕で良ければ今後もお手伝いをさせて下さい。僕は男子寮に居ますので何か用があれば呼んでくれていいですよ」


「分かりました。今後頼らせてもらうと思います」


「じゃあ、さようなら」


「はい」


 ルジイはお辞儀をして去っていく。スミナは暗い出来事ばかりの中で、少しだけ明るい光が見えた気がした。


 それから数日間は何事も無く、双子は寮で待機すると共に自主訓練をして過ごした。しかし、異変は突如起きた。

 深夜、王都は小さな地震に見舞われた。ただ、いつも起こる竜のいびきと呼んでいるものと同程度だったので、双子は一瞬目を醒ましたが、何事も無く再び眠りに落ちた。ただ、スミナは朝目覚めると異変を感じていた。


(この胸のときめきは、あの時と一緒だ)


 スミナは神機しんきグレンを探しに行った時と同じだと理解する。昨夜の地震でどこかの神機への入り口が開いたのだ。ただ、その感覚は以前より遠く感じていた。


「アリナ、エル、どこかに神機が現れたと思う」


 スミナは2人にそれを伝えた。


「冗談、じゃないよね。探しに行くって事でしょ?」


「うん。他の人の手に渡ると大変だし、万が一でも魔族の手に渡るのは阻止したい」


「マスター、今度は失敗しません」


 エルは以前神機と一緒に封印されていた魔神ましんに倒された事を後悔しているようだ。


「ただ、今度はわたし達だけで行くわけにも行かない。わたしはアスイさんに連絡取るから、アリナはメイルに連絡してオルトさんを呼んでもらっていい?」


「勿論。ただ、あのおじさんがすぐ捕まるかは分からないけどね」


 双子は朝の支度を手早く終わらせ、それぞれ連絡する事にした。


『なるほど、以前神機を見つけた時と同じ感覚なんですね』


『はい。わたしなら場所が分かると思うので、探しに行こうと思います』


『でしたら私も同行します』


 魔法の携帯電話で連絡すると、アスイは同行すると言ってきた。


『アスイさん今は忙しいんじゃ』


『神機の件となれば話は変るわ。それに私は今周囲の人から仕事を休めって言われてたのよ。ただ、王都には他に手を貸してくれる人がいないのが問題ね。オルトさんが来てくれればある程度安心ではあるのだけど』


 アスイの心配もスミナは分かった。神機を探しに行って、また魔神が居た場合に対処出来る保証が無いという事だ。スミナがグレンを使えば問題無いかもしれないが、スミナはグレンを使用していいかまだ悩んでいた。


『そうだ、スミナさんが信用出来る生徒を何人か誘って貰えないかしら?魔族との戦闘も出来る人材を』


『それは出来ますが、野外訓練の問題も解決していないのに、そんな事しても大丈夫なんですか?』


 スミナは現状を考え質問する。今回は学校主体の話では無いが、アスイも教員の1人であるからだ。


『もちろん何か起こったら問題になるでしょうね。でも、これはスミナさんが考えている以上に国にとって大事な探索なんです。国側で動ける人がいないのなら、若い人達の力も借りた方がいいと私は思います』


『分かりました。確かにアスイさんとオルトさんが一緒ならそこまで危険では無いとは思いますしね。人手が多い方が何かあった時の保険になりますし、信頼出来る人で参加出来る人がいないか探してみます』


 スミナはアスイの提案を呑む事にした。心当たりが数人いるのもあった。


『では、人が集まったらまた連絡します』


『はい、ただなるべく早くした方がいいと私は思いますので、宜しくお願いしますね』


 アスイにそう言われて、スミナは神機の重要性を再度認識するのだった。

 アスイとの連絡が終わるとアリナが戻ってきた。アリナは寮にある魔導通話機という魔導具を使ってアイル家の屋敷にいるメイルに連絡を取っていた。


「メイルに聞いたらオルト先生は今王都に居るからすぐ連絡つくって。あのおじさん王都に来た時は顔を出すとか言っておきながら、約束守らないんだから」


「でも見つかりそうで良かったじゃない。アスイさんは自分も参加出来るし、一緒に行ってくれそうな生徒が居たら誘って欲しいって」


 スミナはアスイと話した結果を伝える。


「一緒に行くって言っても神機を探しに行くんだよね。信用出来ないと駄目だし、色々国の状況も理解してて、強い人って事になるよね」


「そうだね。とりあえずわたし達の素性を知ってるレモネとソシラ、あとガリサには聞いてみようと思ってた」


「だったらミアンちゃんもいいんじゃない?聖女だし事情も知ってるし、お姉ちゃんに懐いてるし」


 スミナはミアンの名前を聞いて心がざわついた。ミアンは野外訓練でドシンを救えなかった事が心の傷になっていると思ったからだ。ミアンの名が出たのでこの間の集まりを思い出し、スミナはもう1人候補が思い浮かんだ。


「そうだ、ルジイさんも来てくれれば頼りになると思う。この間の探索の時の援護魔法も凄かったし、エルの結界を解く事も出来たし」


「ああ、確かに凄いって噂になってるね。事情も知ってるし、誘ってもいいかもね」


「そうなると、前線で戦う盾役が居た方がいいよね。ドシンみたいに頼りになる人か……」


 スミナは自分でその名を口にして少し後悔していた。


「お兄ちゃん呼びたいところだけど、絶対無理だよねー。

そうだ、頼りになりそうな当てが1人いたよ」


 アリナが明るく振る舞う。


「知り合いに戦士科の人っていたの?事情を知ってるような」


「うん。この間の野外訓練で同じパーティーだった、戦士科でトップだって言われてるゴマルって人。ミミシャ先生に聞いたけど、その人は国の内情を知ってて、わたし達みたいに既に国の仕事を受けてるって言ってた」


 ゴマルの名前と顔はスミナでも知っていた。入試の時に素手でゴーレムを倒していたのを覚えているし、ドシンからも成績優秀で別クラスだけどライバル視してると聞いていた。国の仕事も受けているのなら本当に強いのだろう。


「じゃあ、その人はアリナに誘って貰おうか。とりあえず隣室の2人に声をかけて、あとはミアンはアリナが、ガリサとルジイはわたしが誘ってくるのでどう?」


「ミアンちゃんはお姉ちゃんがいいんじゃないの?」


「ガリサが住んでる魔導具屋と男子寮が近いから、ミアンさんはアリナがお願い」


「別にいいけど」


 スミナは何となく今はミアンと話したくないのもあってアリナにミアンを任せる事にした。最初に頼みに行ったレモネとソシラは危険を承知であっさり了承してくれた。2人とも野外訓練で魔族を倒しており、自分の身は自分で守るし無理な戦いには参加しないと言ってくれた。その後はスミナはアリナと別れてまずはガリサが学校に通うのに下宿している魔導具屋へと向かった。


「ごめん、私は行けない」


 スミナが事情を説明するとガリサは即答した。ガリサは付いて来るものだと思っていたスミナは予想外の回答に困惑した。


「そうだよね、無理言ってごめんね」


「ごめん、勘違いしないで欲しいんだけど、別にスミナ達を手伝いたくないわけでも、自分の命が惜しいわけでも無いの。ただ、色々あって、自分は周りのみんなみたいに能力があるわけじゃないって分かったから。足手まといになるのは嫌だしね」


「そんな事無いよ。ガリサの魔法の知識は多分学校でトップクラスだと思う」


 スミナは思ってる事を言う。


「知識だけじゃどうにもならないのは私が一番知ってるから。私はみんなにドシンの死と同じ思いをさせたく無いの。誘ってくれた事は嬉しいけど、今度から危険な冒険には誘わなくてもいいから」


「分かった。じゃあ、また、冒険以外でね」


 流石に無理強いをするつもりは無いのでスミナはガリサと別れた。別れ際の少し寂しそうなガリサの顔をスミナはしばらく忘れられなかった。


「いいですよ。僕なんかで良ければ」


 ガリサと一転してルジイの返事は即答だった。少しは回答に悩むかとも思ったが、スミナが説明したらすぐに了承していた。男児寮の受け付けでルジイを呼び出し、寮の外の人目に付かない場所で2人は話していた。


「誘っておいてなんですが、本当に危険な探索になると思います。そこら辺は大丈夫ですか?」


「はい、この間の戦いを間近で見て、無理な戦いは逃げて身を守る事を理解しましたから。それに、神機を探しに行く機会なんて一生来ないかもしれないじゃないですか」


 ルジイは今まで見た事の無いような楽しそうな声を出していた。スミナの中でのルジイの印象がどんどん変わっていく。


「ルジイさんはこの間の魔族の探索の時も助けて頂きましたし、今度も付いて来て貰えるなら心強いです」


「多分戦闘ではそれほど役に立ちませんが、出来る範囲の事をさせて下さい」


 スミナは笑顔のルジイと別れた。ガリサには断られたが、ルジイが来てくれる事になったので、魔法科の生徒は1人確保出来て良かったとスミナは思った。

 寮に戻ると既にアリナが帰っていた。アリナはミアンとゴマルも来てくれる返事をもらっていた。スミナは自分の方の結果をアリナに伝えた。


「そっか、ガリサは来ないのか。でも、確かに危険だし、ガリサらしい判断かもしれない」


「そうだね。じゃあ、結果をアスイさんに伝えて、日程を調整するよ」


 スミナはその後アスイに連絡し、アスイはメイルを通してオルトとの調整もすると言ってくれた。数時間後に再度連絡が来て、日程としては明後日の朝に出発する事に決まったのだった。



「初めまして。自分は戦士科のゴマル・イニキといいます。皆さんの事はよく知っているので、名乗って頂かなくても大丈夫です」


 出発日の朝、双子とレモネとソシラが寮を出て生徒達の集合場所に着くと先に待っていたゴマルが挨拶してきた。身長はスミナよりずっと高く、2メートルは超えてそうだった。体格もよく、入学時より成長して見える。頭は坊主刈りに切っていて、厳つい顔と相まって裏社会の人のようだ。ただ喋り方は丁寧で、見た目とのギャップが激しかった。


「イニキって、もしかしてヤマリさんのご親族だったりしますか?」


「そうです、ヤマリは自分の叔父にあたります。王都での仕事も叔父さんに頼まれていて、その縁でお2人の事も聞いていました」


「アリナ、その話聞いてなかったよ」


「いや、あたしもそれは初耳だよ」


 アリナは前の顔合わせで名字も聞いていた筈なので、単純にヤマリの名字を忘れていただけだろう。ヤマリの手伝いをしているという事は、王国での調査関連の仕事をしていたのだろうとスミナは推察した。


「私もソシラもゴマルさんの事は知ってますよ。有名人ですからね」


「いえいえ、自分はまだまだです。レモネさんもソシラさんも相当強いと評判ですよ。

話は変わりますが、ドシン君の事は残念でした。僕も彼の事は気になっていて、いずれ手合わせをして貰おうと思っていた所だったんです」


「ありがとうございます。ドシンもゴマルさんの事をライバル視してたようで、それを聞いたら喜んだでしょう」


 スミナはドシンの気持ちを汲んで答えた。話しているうちにミアンとルジイもやって来て、軽く自己紹介してからアスイ達が待っている場所まで移動した。全員が各学科のトップに近い生徒なので、話した事は無くても名前と顔は知っているようだった。


「スミナさんアリナさんから聞いてると思いますが、今回の探索では危険な敵と戦う可能性があります。その際は私とオルトさんが戦いますので皆さんは自分の身を守るようお願いします」


 アスイは双子達が集合するとすぐに今回の探索について注意喚起を行った。集まった生徒はアスイもオルトも知っており、双子のメイドのメイルと魔法石マジュエルである人間姿のエルの紹介だけを簡単に行った。その後は時間もかかるのですぐに魔導馬車に乗り出発した。


 今回の目的地はスミナしか知らない為、運転席にエル、助手席にスミナが乗った。後ろの客席にはエルの後ろにアスイ、スミナの後ろにオルトが座り、その後ろは2人ずつでアリナとメイル、レモネとソシラ、ゴマルとルジイが並んで座った。ミアンはゴマルとルジイの横の席に1人で座る事になったが気にはしていないようだ。

 発車するとスミナは神機を感じる方角をエルに伝え、エルは記憶した地図を頼りにその方向への最短ルートを進んで行く。スミナが感じているのは王都から南東の方角だった。王都を出るとなるべく街道を使って進んで行く。スミナは感覚的に方向が違ってきたなと思うとそれをエルに伝えて修正してもらう。


 客席側ではアリナが中心となって学生生活の下らない話をしたりして、それにメイルが突っ込んだりして会話していた。スミナはそれを流し聞きしていたが、真面目な話で場が暗くなったりしなくてありがたいと思っていた。アスイも仕事漬けだったろうし少しは休めるだろうと安心した。

 会話が女子トークになってスミナに話があまり聞こえなくなった頃、オルトが声をかけてきた。


「スミナさん、わざわざ呼んで貰って、人集めまでして貰ってありがとうな」


「いえ、オルト先生には色々教えてもらったので。でも、どうして王都に居たんですか?」


 スミナは気になっていたので後ろに座っているオルトに聞いてみる。


「野外訓練の件、自分の耳にも入って来てな。色々気になったし、個人的に調べていた事もあったんでその報告ついでに来てたんだ」


「そうなんですか。なんにせよ早く連絡付いて良かったです。わたしの感覚的にはまだ神機は場所を移動していないので、他の人に見つけられる前に着けそうです」


「確かに誰かに先に見つけられると厄介だな。特に魔族だと」


 オルトは最初に会った時より、やる気のある顔つきになったなとスミナは思った。


 4時間ほど魔導馬車を走らせたところでエルは魔導馬車を停止させた。行き先に道が無くなり、砂漠が広がっていたからだ。


「マスター、この先は砂漠地帯になっています。このまま進みますか?」


 王都の南側は海と沿岸があるが、南東方向へ行き海から離れると砂漠地帯になっているのだ。ただ、スミナの反応的には行き先は砂漠方向だった。


「かなり近付いてて、この先だと思う。魔導馬車は砂漠も進めるんだよね」


「はい。砂に足を取られる事も、砂が機械入って来る事もありません」


「だったら今の方向で真っ直ぐ行こう」


 スミナはエルに言って再び魔導馬車は動きだす。


「目的地は砂漠地帯にありそうなんですね。確かにこっちには遺跡が無いと聞いていて、砂漠なのもあって調査はあまりされていませんでした」


 アスイが砂漠に入ったのを見ながら言う。


「凄いですね、魔導馬車は。悪路も進みますし、暑さも感じません」


「貴族の馬車には冷暖房の魔導具が付いてはいますが、流石に馬車では砂漠は無理でしたね。食料も水も数日分積んでありますので、砂漠でも心配ありません」


 驚くルジイにメイルが補足する。魔導馬車は砂の海をしばらく進んで行った。


「エル、止めて」


 砂漠に入ってから1時間ほど経ち、スミナは反応がかなり近くなったので魔導馬車を止めてもらう。


「ちょっと見て来ます」


「ワタシも付いて行きます」


「あたしも行く」


 スミナが確認に外に出ようとすると、エルとアリナも付いて来ると言った。


「注意して見てきて下さい。何かあれば魔導具で連絡を」


「分かりました」


 アスイが声をかけてくれて、スミナは返事をして外に出た。

 外に出ると日差しと暑さが襲ってくる。長時間外にいるのは危険だと思い、スミナは急いで確認を終わらせるつもりになる。魔導馬車が止まった場所は砂漠ではあるが地面は固く、その上に砂が散らばっている感じだった。スミナは少し歩いて問題無さそうなので魔法は使わず、普通に歩いていく。エルとアリナもそれに続いた。


「あった、多分これだ」


 スミナは降りた場所から少し進んだ先に井戸の跡のような人工物の穴を見つける。遠くから見ると砂漠と同じ色なので闇雲に探しても見つける事は困難だろう。


「本当にココ?ただの穴だよ。底も見えてるし」


「ここから強く感じるから、多分更に下に降りる仕組みがあると思う」


「マスター、確かにこの下に空洞があります。魔力の反応もありますので、何かあるのは確かです」


 エルがそう言った事でスミナの予想は裏付けされた。


「とりあえず魔導馬車をここまで移動させて、みんなで調べてみよう」


「了解」


 双子達は魔導馬車まで戻ってそれらしき穴を見つけた事を説明した。時間的に丁度いいので、魔導馬車の中で食事を取ってから調査を開始する事にした。外に出た事で魔導馬車の中の快適さをスミナは再度実感した。

 食事が終わり、双子達は神機があると思われる地下を探しに砂漠に出た。外の暑さに対応する為、ミアンがすぐに全員に暑さと日差しが弱まる魔法をかけてくれる。魔導馬車の中ほどでは無いが、外での活動が一気にしやすくなったのを感じた。


「ミアンさんありがとうございます」


「スミナさんの為でしたらお安い御用ですよぉ。あと、以前一緒に戦った際は呼び捨てにして下さったので、今も呼び捨てでいいですよぉ」


「あれは慌てて、呼びやすい方が早く伝えられたので。でも、そうですね。今後も戦いになると思いますし、折角なのでミアンと呼び捨てで呼ぶ事にします。わたしの事も呼び捨てでいいので」


「いえ、ミアンは呼び捨てで呼ぶのが苦手なので、スミナさんのままでお願いします」


「分かりました」


 スミナは魔族との戦いの時にみんなを呼び捨てにしていた事を改めて気付いた。指示を出す時にさん付けだとやりにくく感じてしまい、今後も他の人を呼び捨てにしてしまうかもしれない。まあ緊急時ならそんな事に拘っている場合でも無いとスミナは思った。

 まずは穴の周りに別の入り口や何かの装置が無いか全員で調べる。穴にいきなり降りると罠があった時に対処が難しいので、他に入りやすい入り口があるならそっちを使いたいからだ。全員が調べているタイミングで地面がわずかに振動するのを皆感じた。


「また竜のいびき?」


「違います、これはサンドワームが接近している振動です」


 アリナの疑問にアスイがすぐに答える。スミナは砂漠にはサンドワームがいる事をすっかり忘れていた。サンドワームは砂漠に住む大型のモンスターで、大きさは5~20メートルと成長度で異なる。見た目は皮膚が殻で覆われたミミズで、目は退化して見えず、音に反応して砂漠に居る生物を種類を問わず先端の大きな口で飲み込む。なので砂漠に住むサソリ型のモンスターなどは砂漠を移動する時に音をあまり立てずに移動する方法を身に着けていた。


「すみません、足音を立てるのに注意するのを忘れていました」


「いえ、私も先に伝えておくべきでした。なので私が対応します」


「アスイさんや女性の方々は待っていて下さい。戦うと砂まみれになると思うので。自分と男連中で倒しますよ。出来るよな、ゴマル、ルジイ」


「オルトさん、自分は問題ありません」


「僕もサンドワームなら大丈夫です」


 そう言ってオルトとゴマルとルジイが前に出た。普段は戦わないオルトが戦闘に名乗りを上げたのは神機を探すという自分の目的もあるからだろう。


「分かりました、大丈夫だと思いますが、何かあればみんなで援護に向かいます」


「それで十分です」


 オルトは白銀の魔導鎧を身に着けて振動のする方へ走り出す。ゴマルも同じく魔導鎧を身に着け、ルジイは魔法のローブの姿でオルトに続いた。


「そういえばゴマルさんは武器も持たずにサンドワームと戦えるの?」


「見てなよ、お姉ちゃん。ゴマルの戦い方は面白いから」


 アリナにそう言われてスミナは大人しく3人の戦いを見守る事にした。


「サンドワームの周りの砂を吹き飛ばします」


 まずルジイが砂漠に向かって風の魔法を唱えた。魔法は突風になり、みるみる内に3体のサンドワームの姿がはっきり見えてきた。サンドワームは砂漠と同色で、分厚い殻には無数の刃のようなトゲがあり、すれ違うだけで怪我をしそうだ。3体のサンドワームは真ん中が一番大きく、左右は一回り小さかった。


「真ん中は俺がやる。右はゴマル、左はルジイが倒せ」


「了解」


「分かりました」


 オルトの指示に2人は返事をする。2人とも巨大なサンドワームを見ても怯えはしなかった。サンドワームは分類としては大型のモンスターで巨獣でも魔獣でも無い。だが、魔法が効きにくい強固な殻に覆われ、砂漠を高速で移動するので熟練の冒険者でも戦いを避けるモンスターだ。

 最初にオルトが正面から20メートル近い巨大なサンドワームに突っ込む。サンドワームはオルトを捉え、巨大な口で丸飲みしようとした。だがオルトの姿は正面から消え、次の瞬間サンドワームの頭が横から輪切りのように斬り落とされていた。何度見ても速く、華麗な魔法技マギルだとスミナは思った。


 次に戦闘に入ったのはルジイで、左のサンドワームに対して前に立って何かの魔法を唱える。魔法はサンドワームに直接攻撃するものでは無く、サンドワームの進行方向にあった砂に対して発射された。魔法をかけられた砂は直前に爆発するでも無く、サンドワームの口から中に入っていった。その数秒後、突如としてサンドワームの動きが止まる。


「お姉ちゃん、ルジイくんが何やったか分かる?」


「多分サンドワームの体内で魔法を発動させたんだと思う。サンドワームは砂を吸い込みながら進んで、砂は体内の器官で分別されて身体から外に吐き出されるって本で読んだ。砂に魔法をかける事で魔法が効き辛いサンドワームに魔法の効果が出るようにしたじゃないかな」


「合ってますね、それで。ルジイさんが唱えた魔法は虫系のモンスターに効く毒の魔法で、それが体内で発動されてサンドワームは倒れました。流石魔法の才能で国から一目置かれてるだけあります」


 アスイがスミナの補足をしてくれる。ルジイのモンスターに対する知識と最小限の対応で倒す手際は流石だが、その魔法の種類まで分かるアスイもやはり凄いとスミナは感じていた。


 最後の残り1体のサンドワームはゴマルに向かって真っすぐ突っ込んでいく。ゴマルは正面で立ち止まって動かず、このままだと飲み込まれるか吹き飛ばされるかのどちらかに見えた。


「え!?サンドワームが止まった?」


 ゴマルに衝突したかと思われたサンドワームは突然動きが止まった。見るとその正面には身体が金属状に変化して、両手を広げてサンドワームを受け止めているゴマルの姿があった。


「あれがゴマルの祝福ギフト、肉体の硬質化だよ。凄いよね」


 アリナが説明してくれる。身体がただ硬質化しただけなら、サンドワームに吹き飛ばされていただろう。恐らくゴマルが魔法と祝福と筋肉を駆使してサンドワームの動きを止めたのだ。完全に動きが止まったのを確認したゴマルは硬質化を解いて上空に跳躍し、空中で反転して飛び蹴りでサンドワームの頭を上から貫いた。恐らく足を硬質化して全身を弾丸のように使ったのだろう。サンドワームは致命傷を受けて動かなくなる。確かにこれなら武器など要らないだろうなとスミナは思った。


 3人が戻って来るとみんなが賞賛の声をかける。男性達は照れつつも自分達の戦いに満足しているようだった。


「マスター、サンドワームの振動で新たな横道が現れました」


 戦いの最中周りを調査していたエルが報告する。先程の穴を覗いてみると横の壁が崩れており、そこから地下へ降りる通路が見えた。サンドワームが来なければ調べるのに時間がかかったかもしれず、悪い事ばかりでは無いなと思った。


「スミナさん、この穴の先で合っていますか?」


「はい。前よりも強く感じるようになりました。準備をして調査に行きましょう」


 双子達は万全の準備をし、神機が眠ると思われる穴の中へと降りていくのだった。


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