31.友の葬儀
双子達はドシンの遺体を運びながら山を降り、生徒達が集まっている開けた場所まで移動した。双子の姿を見つけたレモネとソシラ、そしてガリサが走り寄ってきた。
「スミナ、アリナ、無事だったのね。良かった」
「大丈夫?怪我してない?ドシンの姿が無いけど一緒じゃ無かったの?」
レモネに続いてガリサが双子に話しかけ、双子の表情を読み取る。スミナは何とか声を出した。
「ごめんなさい、ガリサ。ドシンは魔族にやられて……」
「ガリサさんごめんなさい。ドシンさんを助けられませんでした」
一度は泣き止んだミアンが再び泣きながら言う。ミアンの横には輸送用の魔法に包まれて眠るように死んでいるドシンの姿があった。ガリサはそれを見ると膝から崩れ落ちる。
「そんな……。頑丈だけが取り柄だって言ったくせに……」
ガリサの瞳から涙がどんどん流れ出す。今まで我慢していたスミナもついに涙が止まらなくなった。
「ごめんね、ドシンはわたしを庇って死んだの。わたしがみんなを守れると思ったのが間違いだった」
「スミナさんは悪くありません。ミアンが力不足だったのがドシンさんを救えなかった原因です」
「2人とも悪くなんか無いよ。悪いのはドシンを殺した魔族のレオラでしょ。ドシンはお姉ちゃんを守れた事を後悔なんてしてない」
アリナも泣きながら言う。レモネとソシラも後ろで泣いており、教師達がやって来るまで6人は泣き続けたのだった。
その後しばらくは大混乱が続いていた。残っている魔族やモンスターの処理や生存者の救出と確認、怪我人の手当てなど、動ける者は生徒だろうと借り出されて対応していった。それでも日が昇った昼ぐらいには事態は収拾し、アスイからも生きてはいるとの魔法での連絡があったとスミナは聞いた。
正確な被害は分からないが、数パーティーの生徒が亡くなり、騎士や兵士の被害も数十人単位は出たとの噂は流れていた。空の安全が分からない為、生徒は馬車を使っての輸送で順々に学校に帰り、双子達が寮に帰って来た時には夜になっていた。
寮の前にメイルが騒動を聞き付けて待っており、双子は手短に何があったかを説明した。メイルも慣れたもので、大体の内容を理解し、実家への連絡やドシンの家族への報告などを学校と連携しつつ対応してくれるそうだ。寮に入ると双子達は食堂で機械的に食事を取ってから風呂に入り、部屋に戻ってきたところでようやく落ち着けた。
「これからどうなるんだろうね」
「分からない。解決してない問題も増えたし、生徒に被害が出たから学校も続くか分からない。
でも、まずはドシンの葬儀をやらないと」
「そうだね、今でも死んだなんて信じられないよ」
アリナが言う。スミナはそうは思わなかった。目の前で自分を庇って貫かれたドシンを見たからだ。人の死は道具の記憶の中で何度も見て来たが、実際に目の前で人が死ぬのを見るとその重さが違った。しかもそれが幼馴染なのだから尚更だった。
「ごめん、お姉ちゃん、そういうつもりで言ったんじゃないよ」
「え?」
「だってお姉ちゃん泣いてるでしょ」
スミナは自分が泣いている事に気付いていなかった。スミナは慌てて涙をふく。
「違うの、これはなんていうか、勝手に思い出しちゃって。もう自分のせいだって考えないようにしたのに」
「お姉ちゃん、今日は一緒に寝てもいい?」
「いいよ」
「やった」
アリナがスミナのベッドに潜り込む。スミナももう寝ようと思い2人だと手狭なベッドに入った。猫形態のエルはアリナを迷惑そうに見ながらもベッドの隅に控えめに丸まった。
「お姉ちゃん、あたし達ならきっと大丈夫だから」
「そうだね」
アリナの優しさに本当に助けられているなとスミナは感じる。スミナは久しぶりにアリナの体温を感じながら安心して眠りに落ちたのだった。
翌朝、スミナが目覚めると既にアリナが起きていて、柔軟体操をしていた。
「おはよう。そういえば腕の傷は大丈夫?」
スミナはアリナが自分を庇って腕に傷を負っていた事を思い出して確認する。
「お姉ちゃんおはよう。傷はもう大丈夫だよ。やっぱり王都の魔術師の回復魔法は凄いよ。傷跡も残って無いし」
アリナは綺麗な腕をスミナに見せる。
「でも、魔導鎧は一部壊れちゃったんだよね。新しいの買っておかないと」
「じゃあわたしが良い物を見繕うよ」
スミナは能力で物の良し悪しが分かるので、掘り出し物を見つける事が出来る。王都なら店は沢山あるので今度買い物に行こうという話になったのだった。
学校はしばらく休校になり、連絡があるまで各自待機という事が通達された。午前中にメイルがやって来て、学校とアイル家の実家に連絡を取って、ドシンの遺体はメイルがジモルの街まで持って行く事になったと知らせてくれた。それと同時にドシンの葬儀の為に双子は一緒に故郷に戻る話も付けて来たそうだ。アスイが既に王都の戻っており、双子には色々聞きたい事もあるが、現場が混乱してるのでまずは故郷へ戻る事を了承したそうだ。
魔導馬車にはまだ人が乗れる余裕があるので、ドシンと交友関係があった人達に葬儀に参加するなら乗せていくと双子は話に行った。ガリサとレモネとソシラは一緒に乗っていく事になり、ミアンは聖教会の方も大変な状況で申し訳無いが参加出来ないと伝えてきた。双子の兄ライトも騎士団が大変な状態で参加出来ないとメイルから双子は聞いたのだった。
双子達は出発の準備を午前中にし、午後には魔導馬車でジモルの街へと旅立った。運転は大人姿のエルが行い、他は全員座席に座っている。魔導馬車の一番後ろに魔導具の棺桶に入ったドシンの遺体が積んであった。そのせいもあり、魔導馬車の中は重苦しい雰囲気となっていた。ガリサは昨日泣き明かしたのか、顔がまだ少し腫れていた。同じ幼馴染でもガリサは双子よりドシンと一緒にいた時間が長かったのだから重みが違うのだろう。
「2人はノーザ地方行くの初めて?」
沈黙に耐えかねたアリナがレモネとソシラに質問した。
「私は幼い頃に父の仕事に付き添って行った事ある。ただ、かなり小さかったから殆ど覚えてないけどね」
「私は初めて……」
「そうなんだ。ジモルはフレズほど大きな町でも立派な町でも無いけど、穏やかでいい所だよ」
「アリナはお店も少ないし、早く都会に行きたいっていつも言ってたけどね」
「まあ、それはそれだよ」
スミナにもアリナの言う事が何となく分かった。王都で半年ぐらい生活すると都会の良さも感じるが、地元は地元で良かったと思う所もあるからだ。
「子供の頃は4人で町の隅から隅まで遊び回ったよねー」
「アリナとドシンは無茶してよく怒られてたっけ」
「懐かしいね……」
双子が昔の話をするとドシンの事が思い出され、ガリサが寂しそうな顔をしてしまう。
「あ、私は大丈夫だから。もう泣いたりしないし。昔の事を思い出してあげた方があいつも喜ぶと思う」
「そうだね、じゃあ2人に昔どんな事してたか聞かせてあげるよ」
アリナがそう言い、そこから双子とガリサは子供の頃の話をレモネとソシラに色々聞かせた。下らないと思った話も今となると大切な思い出なのだなとスミナは感じていた。ガリサも話しているうちに元気になり、ドシンの悪口さえ言えるようになっていた。
「でも、ドシンもスミナを守って死んだなら本望だったんじゃないかな」
話の流れでガリサはそんな事を言った。流石にスミナもその言い方には納得いかなかった。
「確かに守って貰ったけど、ドシンはアリナが好きだったし、アリナを守りたかったんじゃないの?」
「そう思ってるのはお姉ちゃんだけだよ」
「???」
スミナは話が理解出来ない。
「まあ、ドシンはアリナにしょっちゅうちょっかいかけてたけど、一番気にしてたのはスミナだった。ほんとに気付かなかったの?」
「嘘でしょ。全然そんな素振りしてなかったと思うけど」
「お姉ちゃんはそういうところ鈍いからねー。あたしの事が好きだって勘違いしてたのは面白いからそのままにしてたけど、最後まで気付かなかったかー」
ガリサもアリナも言うので、自分が気付かなかっただけなのだとスミナはようやく理解した。確かにたまにドシンがこちらを見ている事はあったが、あくまで友人としての視線だとしか思っていなかった。
「ドシンに悪い事したかな……」
「多分あいつは最後まで一緒に戦えて満足してると思うよ。告白する勇気も無いヘタレにしてはいい最後だったんじゃないかな」
「ドシンが騎士を目指してたのはお兄ちゃんに憧れた部分もあるけど、それよりちゃんとした身分になってお姉ちゃんと釣り合えるようになりたかったんだと思うよ。そんな事言われたらお姉ちゃん引いちゃうかもしれないけどね」
ガリサとアリナの話を聞いて、自分が思ったより人に好かれているんだなとスミナは初めて実感した。そして様々な感情が湧き上がり整理しきれなくなる。
「確かにドシンさんはスミナをよく見てた気はしたね」
「見てた……」
「2人も気付いてたの?」
レモネとソシラにも言われると、流石にスミナも恥ずかしくなってくる。それと同時にそういう風に意識していたら友人として付き合えて無かったとも思う。最後までドシンの友人でいられた事に関してはスミナは良かったと思った。
「助けてくれたドシンに今からでも出来る事ってあるのかな」
「それはお姉ちゃんがドシンの分も死なずに長生きする事じゃないかな」
「そうだね、あいつはあの世でスミナが来ない事を願ってると思うよ」
「うん、分かった」
スミナは自分が長生きすると共にみんなも死なせないようにしないとと決意したのだった。
「メイル、3人には本当の事を話しておいた方がいいと思うんだけど、どうかな?」
スミナは少ししてからメイルに転生者の事を話していいのかどうか確認する。今後の事を考えると打ち明けるなら今が適切だと思ったからだ。
「私はお嬢様が決めた事なら問題無いと思います。少なくとも友人の3名に関してはお嬢様との付き合いも長く、信用出来る人物だと私は思っております」
「ありがとう。アリナもいいと思う?」
「あたしは話しておいた方がいいと思うよ。今後危険な目に遭うかもしれないしね」
「分かった。ガリサ、レモネ、ソシラ。改めて話があるの」
スミナは馬車の中で改めて3人に切り出す。3人もスミナの顔を見て真剣な表情になる。
「わたしとアリナと付き合ってきて、わたし達が強い事とか、色んなトラブルに巻き込まれてきた事はよく理解してると思う。それには理由があったの。3人が知ってるか分からないけど、わたしとアリナは転生者なの」
スミナはアリナと共に自分達が何者なのか、今までどういう事があったのかを簡単に説明した。自分達の祝福の事や他の転生者の事も。そして、世界がどうなっているかや魔神や神機の事も全て話すのだった。全てを知る事で危険が増すかもしれないが、今回の襲撃のように双子と一緒に居ればいずれ巻き込まれるだろうというスミナが考えたからだ。
「今まで隠していてごめんなさい。親友ならもっと早く打ち明けるべきだったと思う」
「一応みんなの為を思ってだから許してね」
アリナがわざと砕けて言う。
「転生者ですか。まあ特別な人間だとは幼い頃から思ってたし、納得も出来る。それよりもこの世界の事や神機の事の方が私は気になるかな」
ガリサは長年の付き合いから納得しつつも、自分の知らなかった事に対して新たな知識欲を見せていた。
「よかった。2人に負けたのは悔しいけど、そこまで特殊な存在ならそうそう勝てるわけないよね。まあまだ勝つ事を諦めたわけじゃ無いんだけど」
「今まで戦ってきたモンスターの話をもっと聞かせて欲しい……」
レモネとソシラも双子との接し方は変わらず、逆により仲良くなった気がした。自分達の秘密を話した事により、馬車での移動中はスミナが質問に答えたり、アリナが戦いの話をしたりしてあっという間にジモルの街に着いてしまった。
魔導馬車はアイル家の屋敷に戻る前にドシンの実家であるパン屋に立ち寄った。ドシンの遺体を引き渡す為だ。パン屋は閉店しており、魔導馬車が着いたのに気付くとドシンの両親が外に出て来た。
「ドシン・ガムド様のご遺体をお持ち致しました。ご冥福をお祈り致します」
「わざわざありがとうございます」
「本来は私どもでやるべき事をアイル家の方にやって頂き本当に助かりました」
対応したメイルに対してドシンの両親はお礼を言う。棺桶は魔法で浮かされてパン屋の中に運び込まれた。
「おじさん、おばさん、ご無沙汰しています。一緒に戦った身として、このような結果になり本当に申し訳無いです……」
「スミナちゃん、あなたが無事で本当に良かったと思うよ。騎士になりたいなんて言ったんだ、いつかこんな日が来ると思っていたよ」
ドシンの母がスミナに言う。
「そうだ、責任は全部息子にある。だから俺はパン屋を継げって言ったんだ。こういう幸せだってあるんだってな……」
「おじさん……。あたしが冒険ごっこに誘わなければ跡を継ごうと思ったかもしれない。ごめんなさい」
「アリナちゃんは何も悪く無いよ。領主様の娘なのにうちの子と遊んでくれて本当に感謝しかないんだからね」
ドシンの母がそう言ってくれた事で双子は救われた気持ちになる。
「おじさん、おばさん、夏休みに帰らせなくてごめんなさい。ドシンが都に残った理由の一つは私が残るって言ったのもあったから」
「ガリサちゃん、ずっと仲良くしてくれてありがとね。こんな結果になっちゃったけど、あなたが友達だったのはあの子にとっていい事だったと思うわ」
「そうだな、ガリサちゃんも他のみんなも息子と仲良くしてくれてありがとうな」
双子達はもう何も言う事が出来ず、ドシンの家を離れた。
「じゃあ私は実家に帰るから。またお葬式で」
「はい」「うん」
ガリサも町で別れ、魔導馬車はアイル家の屋敷へ向かった。レモネもソシラも前に泊めてもらったお返しにアイル家に泊まった貰う事になっている。屋敷に着くとすぐに双子の両親が出て来た。
「2人とも、よく無事に帰って来てくれた!!」
父ダグザは双子が馬車から降りると即座に駆け寄って抱き締めた。
「メイルから話は聞いたわ。本当に無事で良かったわ」
母ハーラも珍しく涙ぐんでいた。
「お父様、お母様、ただいま帰りました。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「パパママただいま。友達も来てるし恥ずかしいからパパ、もう離して」
「分かった、すまんすまん。ドシン君の事は残念だった。私も明日の葬儀には参列するつもりだ。メイルも色々対応ご苦労だった」
「いえ、当然の事をしたまでです。むしろ私は野外訓練に関しては何も出来ませんでしたし」
メイルが申し訳なさそうにする。双子はメイルは十分に働いていてくれていると思った。スミナは馬車から降りそびれている2人を呼んでくる。
「お父様、お母様、学校の友達を紹介します。同じ魔法騎士科のレモネ・ササンさんとソシラ・モットさんです」
「初めまして、レモネ・ササンと言います。スミナさんアリナさんはクラスメイトで友達であると共に、故郷が襲われていた時に助けて頂いた命の恩人でもあります。今日は宿泊もさせて頂けるという事で、本当にありがとうございます」
「初めまして。ソシラ・モットです。ウェス地方の領主であるドレド・モットの娘です。父とは同じ地方領主として仲良くして頂いていると聞いております。よろしくお願い致します」
レモネに続き、ソシラが珍しく流暢に話す。貴族の令嬢として振る舞うとこうなのだろう。
「レモネ君、ソシラ君、2人の話は娘から聞いているよ。ドレド氏とも何回か食事をした事があるし、レモネ君の父君のデンネ氏とも商談での付き合いがある。今後とも娘の友人としてよろしく頼む」
「可愛らしいお嬢さん方を友達に出来て本当に良かったわね。狭い屋敷だけれど、自分の家のようにくつろいで頂戴ね」
「はい、宜しくお願いします」
「はい」
両親とレモネとソシラの顔合わせはスムーズに行った。双子は自分の部屋に戻ると共に、客用のベッドを自分達の部屋に運ばせてレモネとソシラも同じ部屋で寝泊まり出来るようにした。この方が夜まで話せると思ったからだ。旅の汚れを風呂で落とし、夕食をみんなで食べた後、寝間着姿でおしゃべりしていた。
「ソシラの家に比べるとウチは狭くて田舎臭いよね」
「そんな事無い……。落ち着いてて私は自分の家より良い……」
「ありがとう、わたしも都会の建物より気に入ってるんだ」
「でも、地方領主のお屋敷にしては小さいですよね。何か訳があるんですか?」
レモネが素直に疑問を口にする。確かにアイル家の屋敷は周囲の領地内の貴族の屋敷より小さい。
「お父様もお母様も元々は平民だったんです。だから、あまり広い家は合わないらしくて、領主になった時も新たに屋敷を立てたりせず、丁度いいこの屋敷を買ったんだと聞きました」
「確かにご両親とも前の戦争の英雄でしたね。その間に生まれた2人はやっぱり選ばれし者なんじゃないかな」
「なんかそう言われると恥ずかしいな」
アリナが照れて言う。スミナは本当にそうなのかと考えてしまう。確かに凄い力を持って、特別な家で生まれて、凄い人達と出会ってきた。だが、ドシンを守れなかった自分はアリナのおまけみたいなものなのではないかと。
「お姉ちゃん、またこの間の事考えてるでしょ」
「え?」
「ごめん、そういうつもりで言ったんじゃないの。別に転生者だからって何でも出来るなんて思ってないし、世界を救うの役目を2人に押し付けたりしたい訳じゃ無いの」
「結果としてああなっちゃったけど、お姉ちゃんが悪いわけじゃない。あそこにいたのがあたしでも同じ結果になってたと思うし、それを言うならあたしがもっと早く追い付けてれば結果は違ったかもしれない。ドシンだって自分のせいでお姉ちゃんに悲しんで欲しくないと思うよ」
レモネとアリナがスミナを励まそうとする。
「知り合いじゃ無い人も沢山死んでる……。先生も騎士もみんな責任を感じてる……。だから自分で出来る事をやるしかないんだと思う……」
ソシラも不器用ながら励まそうとしてくれた。
「そうだね、みんなありがとう。
わたしは自分がもっと強ければと思った。今後後悔しない為にももっと強くなりたいと思う」
「あたしも同じだよ。またあのホムラとかいう竜神が来るかもしれないしね」
「竜神っ!?」
竜神という単語を聞いてソシラが突然興奮する。レモネとソシラには転生者である事は話したが、山頂でどんな事が起こっていたかは話していなかった事を思い出した。2人は魔導要塞の姿は見ても、その上に現れたホムラは見えていなかったようだ。
「竜神を見たの?どんな姿してたか教えて欲しい!!」
「私も聞きたいです」
ソシラもレモネも興味を持つ。双子は頂上でホムラがドラゴンの姿で現れてから何をしたのかを説明した。
「凄い……。ドラゴンはやっぱり存在した……」
「けれど話を聞く限り敵対してるんだよね?しかも凄く強いって危なくないですか?」
「そうなんです。しかも魔導結界の外から来てるの、多分」
「あいつお姉ちゃんが気に入ったみたいで、リベンジするつもりなんだよねー。必殺技も効かなかったし、どうにかしないとなー」
アリナが悔しそうに言う。意思疎通が出来るのだから、ソシラが望むように友人になれればいいのだが、ホムラを見た限りだと難しいなとスミナは思っていた。
「私は竜神を倒して欲しくない……。でも、2人を襲うなら一緒に戦う……」
「そうだね、私も戦うよ。でも、竜神相手にどう戦えばいいか想像もつかないけど」
「今度はワタシもいます。竜神への対抗策もデータがあります」
エルがいつの間にか人間形態になって話に加わっていた。しかしエルが竜神のデータを持っているのは初耳だった。
「本当なのエル」
「はい。魔宝石の形態変化の技術の元になったのが竜神の変身能力なのです。過去に竜神の能力は研究されていて、そのデータをワタシは持っています。今の竜神が過去の竜神と同じ種族ならば、対抗手段はあります」
その後、エルが竜神の説明と対抗手段について説明し、夜の女子会はいつの間にか竜神対策会議になり夜は更けていった。
翌日、ジモルの街の聖教会の教会でドシンの葬儀が行われた。双子と両親、メイルとレモネとソシラは喪服を着て教会へと馬車で向かう。レモネとソシラは喪服を持っていなかったので町の服屋で借りていた。
「ドシン・ガムドは魔物と戦い、若く、貴重な命を失いました。ですが、悲しむ事はありません。彼の魂は神の元へと帰ったからです。魂が安らかに眠る事を皆さんで祈りましょう」
教会の聖職者が祈り、棺の前でドシンの両親が祈りを捧げた。教会の座席に座る双子達も皆ドシンに祈りを捧げている。この世界にも輪廻転生と似た考えがあり、死んだ者の魂は神の元に帰り、休息を得た後、新たな魂として生まれ変わるという。実際に異世界である現実で死に、この世界に転生して来た双子にしてみると、あながち間違っていないのかもしれないと思っていた。
祈りの後、棺が教会の裏にある火葬場に運ばれる。この世界の埋葬は火葬であり、親族や友人が火の魔法で炎を合わせて棺ごと燃やす流れになっている。棺は燃焼しやすい薬品が塗られていて、火の魔法で遺体がほぼ灰の状態まで燃えるように出来ていた。その灰を遺灰として墓に埋めるのが流れになっている。例外として戦場などで遺体が持ち帰れなかった場合は生前に愛用していた物を遺品として代わりに燃やす事もある。
「それでは親族並びにご友人の代表者はこちらまでお越し下さい」
聖職者に言われてドシンの両親とその親戚、そして友人代表として双子とガリサが火葬場の棺を燃やす部屋に入る。そこは周りに燃え広がらないように囲まれたかまどのようなものがある部屋だった。棺はかまどの奥に入れられ、直接は見えない状態になる。
「順番に火を放って下さい」
最初に泣きながらドシンの両親が火の魔法を放ち、そこから親戚が順々に放っていく。最後に双子とガリサがかまどの前に立った。既にかまどの奥は激しく燃えていて、その熱さが伝わってくる。
「安らかにねドシン」
「じゃあね」
双子が別れの挨拶をしながら火の魔法を放つ。
「さよなら、ドシン」
一番最後にガリサが涙を滲ませながら別れの言葉を言って火の魔法を放った。
火葬場を出てしばらく待つと聖職者が小さな箱をドシンの両親に手渡す。箱の中にドシンの遺灰が入っているのだろう。それをドシンの両親は新たに作った墓に収め、墓石で蓋がされた。そこに皆が持ち寄った花を飾り、それぞれ最後の祈りを捧げて葬儀は終わったのだった。
「スミナさん、アリナさん、それに領主様ご夫婦もわざわざ来て頂きありがとうございました」
葬儀の後ドシンの両親が双子達の方にお礼にやって来る。
「いえ、私も今日は領主では無く、娘の友人の葬儀として参列させて頂きました。生前は娘の他にも息子も仲良くして頂いたと聞いています。息子の方は予定が付かずに来られませんでしたが、墓参りには来ると言っています」
「いえ、そんな。お気持ちだけで十分ですよ。スミナさん、アリナさん、今後も昔のようにうちにパンを食べに来て下さいね」
「はい、おじさん、おばさんもお元気で」
「パン屋頑張ってね」
双子はドシンの両親に挨拶する。本当は謝罪の言葉や生前のドシンについて話したい事もスミナにはある。ただ、今それを話してしまうとドシンの両親の気持ちの整理が付かなくなるのではとスミナは思ったのだった。
葬儀が終わると、双子とレモネとソシラは王都へすぐに戻る事にした。双子の両親はもっとゆっくりしていけと言ったが、王都の混乱を考えるとあまり長居は出来ないと思ったからだ。行き来が魔導馬車になって移動時間が短くなり、運転もエルがやるので気軽になったのも大きい。
「お父様、お母様、行ってきます」
「パパ、ママ、行ってくるね」
「2人とも、無理せず何かあればすぐに知らせるんだぞ」
「無茶せず、他の人の言う事をよく聞きなさいね」
双子はダグザとハーラに出発の挨拶をする。
「お世話になりました。父にもよくして頂いたと伝えておきます」
「泊めて頂き、食事もご馳走になり、感謝いたします。父ドレドとも今後宜しくお願い致します」
レモネとソシラも双子の両親に感謝を述べた。
「レモネ君、ソシラ君。親としてのお願いなのだが、2人と仲良くしてもらうと共に、2人の助けになってくれないだろうか。勿論危険な戦いの手伝いという意味では無く、2人に助言して欲しいのだ。2人は見ての通り色々と危険と関わり、無理な事も引き受けてしまう。そんな時、冷静な意見を聞かせてやって欲しい」
「そうね、引き留めなくてもいいの。一言指摘でも助言でもして貰えれば、それで考えが変わるかもしれないから」
ダグザとハーラがレモネとソシラに言う。スミナとしても素直な意見は言って貰えると助かるかもしれないと思った。
「分かりました。私も2人に助けてもらったので、自分に出来る事はしていこうと思います。勿論無茶するようなら止めますよ」
「はい。私も2人には色々と助けてもらったご恩があります。友人として出来る限りの事をしたいと思います」
レモネとソシラは真面目に両親に応えた。双子は少し気恥しくなっていた。
「2人ともありがとう。娘は良い友達を持ったな」
「そうですね。レモネさんとソシラさんも娘に振り回されず、身体を大事にして下さいね」
「じゃあメイル、あとは頼んだぞ。みんな元気でな」
双子の両親は笑顔で双子達を送り出したのだった。