27.親友との戦い
双子が城に招集された日の夜、双子は屋敷のリビングで休んでいた。
「ただいま」
屋敷に聞き覚えのある声が響く。リビングに入ってきたのは鎧では無く私服を着た双子の兄ライトだった。
「お兄様?」
「お兄ちゃん帰って来たんだ!!」
早速アリナは立ち上がってライトに抱き付く。
「ああ、団長がたまには休んでよく家族と会話して来るように言われてね」
「そうですね、お兄様にはきちんとお話してなかったですよね」
ライトには両親からの手紙で双子が転生者である事や今までどんな事をしてきたか簡単には伝えたと聞いてはいた。だが、きちんと直接話したいとスミナは思っていた。アリナが離れるとライトはリビングのソファーに腰を下ろす。スミナもアリナも姿勢を正して座りライトと話す姿勢になった。
「2人があんな苦労してるなんて思っていなかった。力になれず済まないと思っている」
「いえ、逆にわたしもお兄様に黙っていた事は申し訳無いと思っています」
「ホントは家族を危険に巻き込みたく無かったんだよね。でもお兄ちゃんは騎士だし、どっちにしろ関わってきちゃったかもしれないけど」
アリナの言う通りライトが王国の騎士団にいる以上、遅かれ早かれ双子同様に危険に巻き込まれていただろう。
「でも2人はまだ学生だ。本来は国の騎士達が対応するべき事だっただろう」
「お兄様も知った通り、わたし達は転生者です。並の騎士よりずっと強いんです」
「お兄ちゃんはあたし達が転生者だって聞いてどう思ったの?」
「僕は子供頃から2人を見てたんだよ。普通じゃないと思っていたし、騎士団に入って転生者の存在を知った時は2人がそうじゃないかと考えてはいたよ。勿論転生者だと知らされた時は驚いたけどね」
ライトは笑顔で答える。2人が転生者だからといって見方や接し方が変わる事は無さそうだとスミナは思った。
「2人が凄い能力を持っていて、昔よりもずっと強いのは理解してる。それでも、何か危険な事をする時は僕や王国を頼って欲しい。2人だけじゃ大変な事もみんなの力があればもっと楽に出来るかもしれない」
「ありがとうございます、お兄様。今後はもっと連携を取っていきたいと思います」
「あたしは遠慮無しにお兄ちゃん呼んじゃうよ。後悔しないでよね」
「ああ、父上母上からも2人の力になるように言われてる。真っ先に飛んで行くさ」
それから双子は久しぶりに兄と3人の団らんを満喫するのだった。
翌日、学校は休校だが次の日の準備があるので昼には双子は屋敷を出る事になる。アリナはもっとライトと遊びたがったが、ライトも午後には騎士団に戻るという事で諦めて別れるのだった。
それから数日、双子もいつも通りの学生生活を過ごしていた。気になる事や調べたい事はあっても、それを双子主体で動くわけにはいかず、大きな問題が発生していないので双子に依頼が来る事も無かった。スミナは王城での話はひとまず置いておいて、学業に専念すべきだと考えていた。
「スミナ、少しいい?」
放課後になり、スミナが聖女のミアンに付き纏われているところにレモネがやって来て声をかけた。いつもとは違い、神妙な顔をしている。横のソシラが少し心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だけど、なんかあった?」
「スミナ、私と戦って欲しい」
「え!?」
突然そんな事を言われてスミナは困惑する。レモネ達とはこの間の件で仲が深まったと思ったので、そんな事を言われるとは思わなかった。
「ええと、勘違いしないで貰いたいのだけど、戦うのは模擬戦で、あくまで今の自分の実力でどこまでスミナに届くか知りたいからなの。以前のスミナの戦いを見て、多分勝てないとは思ってるんだけど」
「模擬戦ですか。でもどうしてアリナじゃなくてわたしに?」
前回のクラスでの試合ではスミナは負けていて、レモネが負けたのはアリナにだった。訓練して強くなったならアリナと再戦するのが普通だと思う。
「アリナとも戦いたいとは思ってるけど、私が気になるのはスミナの方なんだ。あの攻撃の凄さを見たから」
「分かった。でも模擬戦なんて簡単に出来るかな」
学生同士の学校内での私闘は禁じられている。学校外でやればいいのだが、そうなると設備がある場所を探さなければならない。
「出来ますよ、先生に申請すれば。どんな怪我でもミアンが治しますので戦っているところを是非見せて下さい」
ミアンが目を輝かせて言う。ミアンがそういう事を知っているのは意外だった。
「では、すぐにでも申請するのでいい?」
「いいよ」
レモネの覚悟を感じて、スミナは素直に受ける事にした。ミアンに説明を聞いて、レモネが書類を書いて職員室にいる担任のミミシャに渡しに行く。
「個人同士の模擬戦はどんどんやってもらいたいと思っています。ですが、スミナさん本当にいいんですか?」
スミナの事を色々知っているミミシャは念の為に確認する。
「はい、わたしもいい経験になると思いますので」
「――分かりました。生徒同士の模擬戦には教員の立ち合いが必要ですので、私が立ち合いをします。あとは先生が準備しておきますので大丈夫ですよ」
「ミミシャ先生ありがとうございます」
「ありがとうございます」
レモネとスミナは礼を言って職員室から退室した。
翌日の放課後、誰にも見られないようミミシャが屋内にある武道場を借りて模擬戦を行う事になった。スミナとレモネが戦い、審判はミミシャ、見守るのはアリナとソシラとミアンだけだった。
スミナとレモネは専用の魔導鎧を着て、お互いに模擬戦用の武器を手にして結界の中に入る。スミナは長剣を、レモネは斧と盾を武器に選んだ。勝敗は以前と同じく頭部、胸部、腹部への攻撃を当てるか結界外へ出した方が勝利となる。
「始め!!」
ミミシャの合図で模擬戦が始まる。まずはお互いに距離を取って、相手の動きを伺った。
(前は力押しで場外に出された。まともに組み合うのは避けたい)
以前の敗北からレモネとの戦いをスミナはシミュレートしていた。だが、レモネも夏休みで成長しているのでどう動くか分からない。スミナは自分の弱点でもある優柔不断さを出さないよう、攻めの姿勢で行く事にした。相手を見つつスミナは前進して斬り付ける。速度はレモネの方が速く、踏み込みが甘いスミナの剣撃は簡単に避けられた。それと同時にレモネの姿がスミナの視界から消える。
(来る!!)
スミナは動きつつ向きを変え、周囲の気配を探る。
(上だ!!)
スミナは魔法で高速移動して上空から斧を振り下ろすレモネの攻撃をギリギリ避けた。武道場の床に“ゴンッ”という鈍い音が響く。
「よく避けたね」
「何とかね」
再び2人は距離を取る。速度もパワーもスミナよりレモネの方が上だ。レモネのパワーは祝福によるもので、そこに魔法を使う必要が無く、オルトのように魔法を組み合わせた魔法技が使える。正直スミナはそれが羨ましいと感じた。だけどスミナも夏休みの特訓が無駄で無かったと思いたかった。
(わたしにはわたしの戦い方がある)
スミナは一旦肩の力を抜き、気持ちを落ち着ける。そして持っている剣を身体の一部だと思うようにする。
「行くよ」
レモネは律儀にそう言ってから動いた。レモネは左腕に付けた盾を取り外し、左手で円盤のように投げる。武器や防具を投げる事は反則では無い。盾は高速でスミナの方に飛んで行く。
(判断を誤ったら負ける!!)
盾は分かりやすい囮だが、その対処をした瞬間にレモネは何かしてくるだろう。避ける、弾く、あえて前に出る。対応は無数にある。スミナは動かなかった。判断が遅れた訳ではなく、あえて動かず待ったのだ。
「そこっ!!」
スミナは身体を捻りつつ剣を振った。スミナの剣は飛んで来た盾を弾き、そのまま勢いを落とさず斜め下に振り下ろされる。そこには斧を横に斬り付けるレモネの姿があった。レモネの斧はスミナの体の下を空振りし、スミナの剣はレモネの魔導鎧の兜の後頭部に振り下ろされた。レモネは剣に叩き下ろされ床に倒れ込む。
「そこまで!!勝者、スミナ」
ミミシャの声が響く。
「大丈夫?」
「ああ、でもかなり威力あるね。結界と魔導鎧があってもくらくらする」
「診せて下さい」
倒れたレモネの元にミアンがやって来て、兜を脱がした後頭部を確認する。
「ただの打撲だけですね。念の為回復魔法をかけておきます」
ミアンは手早く魔法をかける。聖女だけあって判断も行動も手馴れていた。
「いやー、完敗です。スミナは隙が無いから勝ち目が無かったよ」
「そんな事無いよ。多分屋外だったらもっと手数が多くて危なかったと思う」
以前のレモネはアリナと戦う時に地面の土を掘って投げたりしていた。ここは武道場なのでそれが出来なかったのにスミナは助けられたと感じている。
「どんな場所でも勝てなければ駄目だし、今日はスミナの勝ちだよ」
「ありがとう。また戦おうね」
「うん、今度はもっと強くなるから」
レモネはそう答えるが、スミナには悔しさを噛みしめてるように思えた。
「お姉ちゃんやっぱり強くなってるよね。ああいう動きはあたしには出来ないよ」
「アリナにはもっと色々手があるでしょ」
「でもみんなに色々見られて対処されそうなんだよねー」
アリナも自分なりに色々考えているようだ。
「スミナさん、やっぱり凄いですね。ミアン感動しました」
「ありがとう」
双子に割り込んできてスミナの手を取るミアンに少したじろぐ。ミアンの目はいつにも増してキラキラと輝いている。本心で言っているのだろう。
「スミナさん、レモネさん、素晴らしい戦いでした。2人の成長は物凄いですね。実戦経験は危険ですが効果がある事を教師として思い知らされました」
「いえ、先生の指導があったから強くなれたのだと思います」
「本当ですか?では、今後もビシバシ厳しくやっていきますよ」
ミミシャの目も輝く。それを見たソシラは露骨に嫌な顔をしたのだった。