26.緊急招集
双子がウェス地方の魔物退治をしたおかげか、国内の混乱は収束しつつあった。学校を休学していた生徒達もレモネ達ほどでは無いが、徐々に復学し、学校生活も元に戻りつつあった。
「みなさん、素晴らしい成長を感じます。この調子でビシバシ鍛えていきますので覚悟して下さいね」
実技の授業で生徒達の夏休みの成果を見たミミシャは嬉しくなって授業に力が入っていた。スミナやレモネなどの体を動かすのが好きな生徒は問題無いが、ソシラを筆頭とした体力の無い生徒は泣きそうになっていた。
「お嬢様、こんなものが届いております」
そんなある日、寮に居た双子達のところにメイルが予定外で訪れた。持ってきたのは立派な装飾のある書状で、国からの正式な令状だと分かる。双子はそれを受け取り開いてみる。
【スミナ・アイル殿 アリナ・アイル殿
両名には来たる九の月、十九の日の正午に御城まで登城して頂きたい。陛下の御前にて臨時の会合を行うゆえ、御参加頂きたくお伝え申します。】
書状の最後には王家の刻印が刻まれており、これが本物の招集令状だと分かる。
「お姉ちゃん、これどういう事?」
「多分国の正式な会合にわたし達も出て欲しいんだと思う。悪い事じゃないと思うよ、多分」
「もしかしてこの間のモンスター退治を褒められるとか?ご褒美貰えるかな?」
「うーん、どうだろう」
スミナは褒美ならそういう文面で来るのでそうでは無い気がしていた。日にちは5日後の平日で、その日は学校があるが国の令状は全てに優先されるので行くしかない。スミナはメイルに内容を説明し、その日の服装などを頼むのだった。
数日後、予定の日になったので双子は学校を休んで朝から魔導馬車で王都のアイル家の屋敷まで移動していた。学校への連絡自体は令状が来た翌日には国から通達されていて、手回しの早さにスミナは感心した。
屋敷でメイルと他のメイドによって登城出来る正式なドレスに着替えられ、髪の手入れや簡単な化粧も手際よくされていく。着ていくドレスは入学式やカジノで着た派手なものでは無く、高級な生地だが色合いや露出は抑えた上品な物だ。貴族の令嬢としていつ公式の場に呼び出されても大丈夫なように毎年採寸して調整したり作り直したりしている物だった。
「うーん、あんまり可愛くないし堅苦しくて苦手だなこの格好」
「国王様に謁見出来るなんて中々無い事なんだから今日は我慢しなさい」
双子は非公式で国王ロギラに会っているが、本来は簡単に会える人物では無い。スミナは公の場でアリナが無礼な事を口走らないか心配になっていた。
「アリナ、今日は発言を求められて無い時以外は喋らず、喋る時も言葉に気を付けてね」
「大丈夫、こういう時はお姉ちゃんに任せるから。そもそもあたしが行かなくてもいい気もするんだよね」
「呼び出されたんだから、ちゃんと行かないと駄目だよ」
「分かってる。でも、ホントになんの話なんだろ。パパは呼ばれて無いし」
アリナの言う通り領主の娘としての招待なら領主であるダグザも呼ばれる筈だ。そうで無いのなら、やはり転生者として呼ばれたのだろうとスミナは考えていた。そして公の場に転生者として呼ばれるなら多分そんなにいい話とは思えない。巨獣を倒しに行ったのは、やり過ぎだったのかもしれないとスミナは思っていた。
約束の正午の1時間前に双子は普通の馬車でメイルと共にお城の正門に到着する。魔導馬車で城に入るのは流石に目立つし無礼かもしれないとメイルが気を回してくれたのだ。お城の入り口までは馬車で移動し、そこからは令状に記された双子だけで行く事になった。メイルと馬車の車夫はお城の中にある馬車の待機所で待つ事になる。
「スミナ・アイル様、アリナ・アイル様ですね。ご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
立派な服を着たお城の案内役に案内され、双子は初めて正面からお城に入る。入った先は巨大なホールになっていて、上品で美しい装飾が施されていた。中には王宮騎士や王室メイドなどが立っており、一般の来客は双子だけのようだ。真っ直ぐ進むと謁見の間に繋がるのだろうが、案内役は右側の通路へと双子を案内する。国王と会談する為の部屋へと案内されるのだろう。
「まだ約束のお時間の前ですので、しばらくこちらでお待ち下さい」
案内役にそう言われ、双子はお城にある部屋へと案内された。待機用の控室のようだ。到着した人から同じ部屋で待たせるのは失礼なのだろう。紅茶やお菓子を用意され、化粧台や服装の乱れを直してくれるメイドも立っている。
「落ち着かないね、お姉ちゃん」
「ここまで堅苦しい場は初めてだしね」
貴族の娘として社交の場に出た事はあったが、あくまで貴族同士の交流なのでもっと気楽だった。紅茶やお菓子を食べてみたが、高級な筈なのに味をあまり感じられなかった。しばらく待っているとドアがノックされ部屋の外には先ほどの案内役が立っていた。
「お待たせ致しました。準備が出来ましたのでご案内致します」
双子は再び案内役に案内されて城内の廊下を歩いていく。城内は窓からの日の光と窓が無い部分も魔法の灯が灯ってどこも明るくなっていた。
「申し訳ございません、こちらから先はお荷物を預からせて頂きます」
「分かりました」
廊下の途中で荷物を預かる場所があり、武器やカバンは持って行けないようになっていた。スミナもエルは連れてはいけないと思い、馬車に宝石形態で置いて来ていた。持ってきた小さなバッグには念の為レーヴァテインを潜ませていたが、やはり会合の場までは持ち込めないようだ。荷物を預けた先には魔導具の探知装置を通る必要があった。国王の面前となればどんな貴族だろうとこの対応は失礼にならないだろう。
(まあ、アリナにしてみれば意味無いよね)
スミナはアリナが何も持っていない状態でも普段とほぼ変わらず戦えるだろうと思っている。もし魔族が乱入したとしても心配は無いだろうと。階段を登り、長い廊下を歩いて双子は目的の部屋へと案内された。
「どうぞ、こちらへ」
大きな扉が開けられ、中に入るとそこはちょっとした講堂のような大広間だった。中央に長く大きいテーブルがあり、その左右に椅子が並んでいる。既に椅子にはほぼ人が埋まっていて、双子は王が座ると思われる正面の豪華な席に近い場所まで案内された。
「こちらにお座り下さい」
案内役に椅子を下げられ、双子は着席する。埋まっている席を見渡すと知っている顔がいくつかあり、その中には双子の兄であるライトの姿があった。アリナが声を出しそうなのを察してスミナはそれを止める。アリナが小さく手を振るとテーブルの反対側に座っているライトは反応して微笑んでいた。
ライトの横に座っているのはライトと同じ金色の鎧を着た体格のいい騎士で、スミナは金騎士団の団長である事を知っていた。その周囲には色違いの鎧を着た騎士が多く、何人かは騎士団長や名の知れた剣豪である事を新聞の写真などで知っていた。スミナ達から遠いテーブルの一番端には以前カジノの調査で世話になった貴族のヤマリの姿もあった。こちらに気付くと小さくお辞儀をしたのでスミナもお辞儀を返した。
テーブルの双子が座っている方には主に魔術師や研究者と思われる服装の人物が並んでいた。スミナが知っているのは宮廷魔術師の長をしている人物や魔術の研究で新聞に載ったような有名人だった。他にも鮮やかな鎧を着た女性騎士が数人並んでいて、この間一緒だったフルアの姿もある。更に奥にはギーン戦技学校の学園長のザトグと担任のミミシャの姿があった。
「お姉ちゃん、どういう集まりなんだろう」
アリナが小声で聞いてくる。貴族や大臣の姿は少なく、騎士や魔術師が集められているように感じる。そしてヤマリや学校関係者がいる。そうなると何となく予想が出来てきた。
「多分、魔族の襲撃に関連する人達だと思う」
そんな話をしていると双子の正面の席にも人が座ったのでスミナは喋るのを止める。正面に座ったのは王国全体の騎士団長であるターンだった。スミナはターンがかつてオルトと共に戦っていたと知り、少しだけどんな人物なのかが気になっていた。
そしてスミナの横の席にも人がやって来た。それはスミナもよく知る転生者であるアスイだった。アスイが小さくお辞儀をしたのでスミナもお辞儀を返す。アスイの席が国王の席に一番近い席になる。そこでスミナは席順にも意味があり、国王の席に近い程重要人物になっているのだと理解する。騎士団毎で並んでいるので完全な地位の高さでは無いのは分かるが、スミナは自分がこんなに王様に近い場所に座っていいものかと少し戸惑うのだった。
「皆様ご起立をお願い致します。ネーラ・デイン様のご入室になります」
広間の入り口に立っていた王宮騎士のその言葉を受け座っていた人達が全員席を立つ。双子も合わせて席を立った。スミナはその名前を聞いて他の人と同じように即座に頭を下げた格好をする。隣のアリナがまだ理解をしていないようなので小声で「頭を下げて」と言って下げさせた。これは王族に対する礼儀作法である。
「私は一介の騎士でしかありませんよ。特別扱いなどしなくていいですのに」
年老いた女性の声が広間に広がる。この女性こそがネーラ・デイン、かつて“金薔薇の姫騎士”と呼ばれていた伝説の騎士だった。王族ながら数々の逸話を残した女性で、戦技学校にマジックナイト科が出来たのも、王国に女性騎士団が出来たのも彼女が居たからだとスミナは聞いていた。しばらく表舞台に現れていなかったのでそんな人物と会えるとは思っていなかった。
「皆さん、頭を上げて下さい。国王陛下もすぐにお見えになるので、立ったまま待っていて下さるかしら」
ネーラから優しい声がかけられ、皆頭を上げて直立姿勢になる。ネーラはかなり高齢だが歩く姿は優雅で背筋も伸びていた。流石に鎧は来ておらず、王族らしい綺麗な金色の服を着ている。今は白髪だが昔は美しい金髪だったらしい。ネーラはアスイの正面の席に座る前に双子の方を確認するように見て、優しく微笑んだ。流石にスミナは微笑み返す訳にはいかず、表情が崩れないように我慢した。
ネーラが座ると再び王宮騎士が声を上げる。
「ロギラ・デイン国王陛下のご入室です」
その声を聞いてネーラ以外は全員頭を下げる。ロギラは他の人達が入ってきたのとは別の扉から護衛の騎士を引き連れて入ってきた。
「国王陛下、着席したままでごめんなさいね」
「いえ、無理にお呼びしたのは私ですから、大叔母様」
ロギラがネーラに言う。ネーラは前々国王の妹であり、ロギラの大叔母に当たる。地位的には勿論ロギラの方が上だが、親族としては敬意を払う相手になるだろう。
「皆の者、頭を上げ着席してくれたまえ」
ロギラがそう告げると警備の王宮騎士以外は着席する。王冠を被り豪華だが品の良い服を着た若き国王がテーブル端の中央に座っていた。
「今日は忙しい中招集に応じてくれた事、まことに嬉しく思う。本日の集まりは正式な国の会合ではあるが、その性質上記録は取らないし残らない。なのでここに居る者のみの情報とし、他言無用で願いたい」
ロギラがここまで言った以上情報漏洩した場合は何らかの罰があるだろう。
「さて、そういうわけだから私も堅苦しい喋り方はここまでとしよう。
見て分かる通り、今日集まってもらった者は国の現状をある程度理解し、信頼を置け、この国の最高戦力になる者が殆どだ。となれば話す内容も国で起こっている問題である事を理解頂けるだろう」
ロギラの言う通り、騎士団から来ている者は特に腕を評価された者が多く、魔術師も相当の使い手達だ。転生者であるアスイや自分達を含めて国の最高戦力が集まっているのは確かだろう。勿論他にも腕が立つ者はいるだろうが信頼が無かったり、国に協力的で無い者もいる。
「現在任務に当たっている者や、各地の領主などその地を離れるのが難しい者など、参加して欲しかったが出来ない者もいる事は誤解しないで頂きたい。
それでこれから話す事については、意見や質問があれば遠慮無く言って欲しい。例え国や私に対する問題の指摘だろうとこの場の発言で罪になったり怨恨になったりする事は無いと誓おう。国の危機に対する意見は何よりも大事な事だからな」
ロギラはそう言うが、これだけの有名人を前に意見する度胸はスミナには無かった。
「さて、まずは今現在国中を騒がしているモンスターの異常行動についての話をしよう。事件の詳細は後で説明してもらうとして、まずは対応に当たってくれた騎士団、現地の兵士達に感謝する。そして、一番の問題であったウェス地方の魔物を討伐してくれたスミナ・アイル、アリナ・アイル両名には国王として本当に感謝している。ありがとう」
「――国王陛下のお言葉、嬉しく思います」
「私も同じく国王陛下にお言葉頂き嬉しく思います」
スミナは突然名前を呼ばれ、何とか冷静に返事をする。アリナもスミナに続いて礼儀正しく返事をした。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だ。君達の活躍はアスイから逐次聞いている。今日の会合は君達が居たおかげで開けたと言ってもいいぐらいだ。国としての感謝はまた別の機会にさせて欲しい」
「わたし達は国の為に当然の事をしただけです。それにまだまだ未熟だと実感しています」
スミナは正直な言葉を返した。あまり褒められるとこの場に居辛く感じてしまう。
「2人には今後の活躍も期待している。
それで、本題はここからだ。まず、ここ数ヶ月の問題について分かっている事を説明して貰おう。ズゴウ、説明をお願いする」
「陛下、畏まりました。
まず初対面の方もおりますので簡単に自己紹介を。私は王国戦略室の室長をしているズゴウ・マシポといいます。何をしている部署か簡単に言いいますと、国内で起きた事件や事象を取りまとめ調査観察する仕事になります」
テーブルの双子達側の真ん中辺りに座っていた人物が立ち上がり、発言をする。初老で双子の父親より一回り上ぐらいの年齢だろう。白髪に分厚い眼鏡をしていて、痩せ型でいかにも研究者という出で立ちをしている。アスイも国の問題を調査しているが、それよりも大きな視点で調査しているのだろう。
「今回のモンスターの行動範囲の異常拡大についてですが、まず最初に異常が報告されたのは1ヶ月半前の東のイスト地方の森林部でした。本来町までやって来ないジャイアントベアが複数町まで近付き、国の騎士団に救助要請が来ました。それだけなら大して珍しい話では無かったのですが、それから数日置きに各地方にモンスターの被害報告が出て、中には普段見かけない魔獣の目撃情報も入ってきました。発生した場所と起こった事象と日付を書いた簡単な地図を画面に出します」
ズゴウが言うと魔法の画面がテーブルの中央に現れ、そこにデイン王国の地図が表示される。事件が起こった場所がマーキングされており、その中にはスミナが合宿の時に退治したアイアンイーグルの名前もあった。オルトかメイルが報告したのが載っているのだろう。そう考えるとかなり小さな情報でもきちんと記録されているようだ。
「戦略室で分析しましたが、発生場所とタイミングに法則性は見られませんでした。ただ、分布としては全土で起きているので分散して多発させた意図は感じられます。問題を起こす方法としては多数モンスターが生息している場所に強力な個体、群体のモンスターで襲わせてモンスターの生息場所を移動させるのが基本的な方法のようです。問題はその強力なモンスターがどのようにして現れたかです」
「その話は一旦置いておこう。まずは今回の問題に対して国としての対応に問題が無かったか聞いておきたい。ターン、どうかね?」
「陛下、王国騎士団長として私ターン・ロフスが率直に発言致します。王国各騎士団、並びに兵士を動員しての対応は後手に回り、問題があったとしか言えません。
問題が出てしまった背景としては以前の魔族襲撃事件の対応に騎士団の人員を割いていて即座に対応出来なかった事、そして騎士団でも簡単に対処出来ない魔獣や巨獣が出現した事にあります。
全ては私の判断の甘さ、采配の失敗によるものです」
ターンは渋い顔で答える。王国の軍隊としての責任者は別にいるのだろうが、前線で戦う者の総責任者にターンは当たるので責任が重いのだろう。スミナは自分達が巨獣を倒した事でターンの面子を潰してしまったのではと考えていた。
「進軍に許可を出したのは私だ。責任は全て私にあると思って欲しい。今はあくまで問題点を理解するのが目的であって、個人や騎士団を責める場では無い。
では、ターンも言っていた魔族襲撃事件の調査についてはどんな問題があったかヤマリにも聞いておこう」
「はい、僭越ながら私、ヤマリ・イニキから説明いたします。
汚職貴族の調査と魔族の学校襲撃事件の調査は根幹が同じ部分にあり、並行して調査が行われました。ただ、国としては汚職貴族関連の調査に重きを置いた為、魔族襲撃事件の調査が後手に回ったのは確かになります。
結果として魔族襲撃事件の調査が長引き、長期に渡って王国騎士団の手を借りる事になってしまいました。そして、魔族の痕跡は見つけられても魔族自体を捕らえたり、どのように結界内に侵入したかの手がかりは掴めていません」
カジノ潜入で協力してくれたヤマリが説明をする。ヤマリ本人はただの弱小貴族と言っていたが、国の調査の中枢にいる人物のようだ。ヤマリの話す内容は大体アスイから聞いていた内容と一致していた。
「これらの話を聞いた通り、国の対応としては後手に回り、一応収束はしてきたものの、魔族に振り回されていると私は感じている。アスイはどう考えている?」
「はい、私も全ては魔族の計画によるもので、今回の魔獣などの出現も魔族の計画の一部だと考えています。そして不規則だと思われる各地のモンスターの異常行動も騎士団の動きを知っての対応のように思えます。
汚職貴族と魔族襲撃の調査で魔族と関わりがある人物は逮捕しましたが、まだこちらの動きが魔族に洩れている可能性があります。スパイ、もしくは情報提供する協力者が残っているかと。
ただ、それを必死に探すのは得策ではないと私は思います。魔族としてはそう思わせて疑心暗鬼にさせること自体が目的なのでしょう」
アスイの話は納得しかなかった。味方を疑わせる事が最も効率的な破壊工作になるのではとスミナも思う。
「そうだな、魔族と繋がりがある人物の調査は続行するとしてもそこに注力すべきでは無いな。そして我々は今後の事について考えて行かなければいけない」
「国王陛下、私も少しだけ発言してもよろしいでしょうか」
「勿論です、ネーラ大叔母様どうぞ」
「では、老婆の小言だと思って聞い下さい。。
そもそも国の騎士団、諜報機関がたるんでいたからこのような状態になったのでは?平和が続いたと安心し、油断した結果だと私は思いますよ。そもそも今現在の我が国は見せかけの平和で、いつこのような事態になるかも分かっていた筈。勿論一介の兵士や騎士は知りませんが、この場にいる皆は知っていたのでしょう?
後手に回るのはしょうがないにしても、やられたら即やり返すぐらいの気概が今の騎士団には感じられません」
ネーラはよく通る声で叱責する。こんなに激しい人なのかとスミナのネーラの印象は180度変わっていた。
「確かに若い者が活躍する事は嬉しい事です。ですが、本来は大人である我々がなすべき事でしょうに。皆自分の行動が最適だったか見直し、身を引き締めるべきです」
「大叔母様、貴重なお言葉ありがとうございます。私も耳が痛いです。ただ、本日は皆の意見を聞く為の場、あまり厳しいお言葉ですと皆が萎縮してしまいます」
「そうですね、ごめんなさいね。皆の努力は理解しているつもりですよ」
ロギラに窘められネーラの言葉と表情が柔らかに戻った。しかしこの場で建設的な意見を今から出すのが大変そうな空気をスミナは感じていた。双子の巨獣退治だって無計画な行動がたまたま上手く行ったに過ぎない。
「今日集まってもらったのは何も悪い報告だけを聞いてもらう為ではない。良い報告もある。状況の理解はしてもらったと思うし、そろそろいいだろう。すまないが呼んできてもらえないか」
ロギラが後ろに立っている王宮騎士に声をかけ、王宮騎士が他の者に伝える。すると部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。
『オルト先生!?』
スミナはその人物の顔を見て驚きを口に出さないようにする。入ってきたのはオルトで恰好も以前ダグザを含めて会った時と同じきっちりした服装だった。合宿後は旅をすると言っていたのでこんな所で出会うとは思っていなかった。オルトはヤマリの正面に当たるロギラから一番遠い端の席に腰を下ろす。
「知らない者もいるかもしれないが、オルト氏は以前王国の為に戦い、活躍したマジックナイトだ。
オルト氏、貴方が見つけた物について説明して欲しい」
「ロギラ国王陛下、了解致しました。
自分はオルト・ゴロフという、今は必要に応じて戦技学校の臨時教師をしているただの平民です。ただ、このところの魔族の襲撃、モンスターの異常行動を見て気になった点があり旅をしておりました。その旅の途中で見つけた物がこれです」
そう言ってオルトはテーブルの上に30センチぐらいの大きさの物を置いた。スミナはそれが魔導具に見えたが、焦げていて壊れているように思えた。形に見覚えは無く、壊れている為か大した価値があるような物には感じない。
「これを見つけたのはノイル地方の森林の中です。自分は魔族や魔獣がどこかから転移してきているのではと予想し、ノイル地方で起こったモンスターの村への襲撃を聞いて調べに行きました。そこは巨獣グランドサーペントが現れていて、その移動した跡の元を辿って見つけました」
「では、この道具について魔導研究所所長のバドフに説明してもらおう」
「はい、魔導研究所所長のバドフ・スルモです。これは間違いなく古代魔導帝国の魔導具で、携帯転移装置になります。かなり貴重な魔導具で、実物は王国に1点しかありません。見ての通り、これは壊れていて現在の我々の技術では修理不可能な状態になります。
この魔導具は使用者が一度でも行った事のある場所なら現在地とそこに簡易的なゲートを作り、移動が出来る魔導具になります。ゲートの大きさ、開いている時間には制限があり、使用は連続して行う事は出来ず、使うごとに魔力の補充が必要な魔導具になります。
ワシの見解ですとこれを使ってどこかから巨獣を移動させたのだと考えられます。そして、他の魔獣や巨獣の出現も同様の手口ではないかと。問題はどこから移動させたかです。魔導結界の外から中にゲートを作る事は不可能で、そう考えると国内のどこかから転移させたのではと予想されます」
白髪で白い髭を蓄えた老人のバドフが説明する。
「自分も同様の考えで、他の魔獣などが発生した場所を調べましたが、見つけられたのはこれだけでした。魔導具は基本的に持ち去り、故障したこれだけが運良く残っていたのかもしれません」
「オルトさんと同様の調査を国の方でも行いましたが、魔導具や残骸が残っている場所はありませんでした。ただ、不自然な破壊の痕跡が見つかっており、使った魔導具を奪われないようにあえて破壊した可能性があります」
オルトの話をアスイが補足する。
「つまり、転移の魔導具を使った魔族が王国全土に魔獣を送り込んだと考えられると。問題はどこからそれを送り込んだかだな。ここで重要な点は王国を覆っている魔導結界が破られているのか、そうで無いかだ」
「国王陛下、ワシの知る限り魔導結界を完全に破壊せずに破る事は不可能です。張られてから観察を続けておりますが、結界が破壊された事は無く、各地の観測点でも結界を超えて魔族が入り込んだ事はありません」
「魔導結界が破壊されれば私がそれを認識するのでバドフ様の言っている通りだと思います」
アスイが魔導結界について発言する。スミナはロギラの疑問を解決する手段を持っており、どうするかを少し考えて発言する事に決めた。
「国王陛下、わたしにならその魔導具がどのように使われたか分かるかもしれません。わたしに調べさせて貰っても宜しいでしょうか?」
「構わないが、それには君の祝福について皆に説明する必要が出て来る。それでも構わないのかね?」
ロギラはスミナに優しく確認する。横ではアリナが心配そうな顔でスミナを見つめていた。しかし、ここで隠して対応が遅れてもしょうがないとスミナは考える。
「はい、わたしが自分で説明致します。わたしの祝福はその道具の記憶を辿って見る事が出来ます。ですので、その魔導具を調べさせて貰えればどこでどのように使われたかを調べられると思います」
「しかし、この魔導具は壊れているが、それでも可能なのかい?」
「はい、以前壊れた道具に触れた時にその道具の記憶を見る事が出来ました」
「なら、その道具をスミナ君の前まで持って行ってくれ」
ロギラの命令で王宮騎士がテーブルの上の魔導具をスミナの前まで持ってくる。
「では、失礼致します」
スミナは壊れた魔導具に手を触れる。皆の前なので、なるべく無駄な記憶は飛ばして見るように心掛けた。
転移の魔導具は魔導帝国の物と思われる魔導機械で量産されていた。最初の記憶は大量に完成された魔導具の一つとして数十個の単位で箱に詰められゴーレムに運ばれていく景色だった。地下と思われる倉庫に積まれ、箱が山積みになっていた。その後ゴーレムや魔術師が上の箱から持ち出していく記憶が続く。やがて、残り2箱になったところでその倉庫への人の出入りは無くなり長い時が流れた。
いつの時代か分からないが、その倉庫を見つけたのは魔族のデビル達だった。1人のデビルが箱の中身を確認し、他のデビルに伝える。
「魔導帝国時代の魔導具だ。使えるかは分からんが人間に使われる前に持って行け」
その声を受け、部下のデビルが箱を持ち出した。魔導具が眠っていたのはやはり地下の遺跡だったようで、洞窟を抜けるとそこは地上だった。その時代も人間と魔族が戦っているようで、周囲にはモンスターと人間の死体が転がっていた。魔導具が入った箱は輸送用に使っていると思われるモンスターの背中に載せられ、魔族の拠点へと運ばれていった。
魔族の拠点は人里から離れた山の中腹の洞穴を改築して作られていた。灯も灯り、通路も舗装されていて人間の作る建物とそれほど変わっていない。そこの奥にある部屋が倉庫のようで、奪ってきたと思われる道具が山積みされていた。その魔導具の箱のしばらくそこに積まれていた。
倉庫はたまに無造作に物が増えるぐらいで活用されていなかった。かなり時が過ぎ、ようやく中身を調べに来た者が現れた。魔族の中でも魔術に精通しているヴァンパイアロードという不死者の種族だった。ヴァンパイアロードは倉庫の中の道具を選別し、使えない物は捨て、使える物については記録を残した。
それから暫くはたまに魔族が魔導具を取りに倉庫に来たが、転移の魔導具の箱は長期間そのままだった。そしてまた誰も訪れないようになり長い時が流れた。
「これが、その魔導具ね。うん、使えそうだわ。全部砦に持って行きなさい!!」
倉庫に訪れたのはデビルの転生者、レオラだった。レオラは魔導具のリストを確認して部下のデビル達に外へ運ばせた。魔導具の入った箱は輸送用のモンスターに乗せられ、どこかの砦まで運ばれていく。外は今の時代のようで、人とモンスターが争っている様子は無かった。砦は魔導結界の外側にある魔族の砦だった。砦の中の部屋に箱は運ばれ、しばらくはそこに置いてあった。やがて、デビルが箱の中から転移の魔導具を持って行くようになる。記憶を読んでいる魔導具は2箱目の真ん中辺りにある為、しばらく箱の中にあった。
しばらくして倉庫の魔族の出入りが激しくなり、記憶を読んでいる魔導具も1体のデビルが持ち出した。デビルは外に出て空を飛んで移動し、巨獣グランドサーペントがいる場所に到着する。そこには他に2人のデビルが居た。
「それが転移の魔導具か。作戦の内容は分かっているな」
「勿論だ」
魔導具を持ってきたデビルはそのデビルより格下らしかった。しばらくすると、レオラが3人のデビルの前に現れた。
「今からゲートを作るわ。ミスするんじゃないわよ」
「勿論です、レオラ様」
3人のデビルの中のリーダー格と思われるデビルが答える。レオラがデビルが持っている魔導具に手をかざすと魔導具が激しく光り輝いた。そして巨獣も通れるほどの巨大なゲートが現れる。
「また会いましょう」
レオラはゲートに入らず、別の場所へと飛んで行く。
「行くぞ」
「「はい」」
3人のデビルは1人が巨獣グランドサーペントを魔法の紐で引っ張りながらゲートを通った。ゲートの先は森になっていた。
「行け!!」
デビルに方向を指示され、グランドサーペントはその方向に本能のままに進んで行く。グランドサーペントが全身ゲートを通った後、ゲートが歪んでいく。
「爆発するぞ、離れろ!!」
リーダーのデビルがそう言い、魔導具を持っていたデビルは魔導具を地面に投げ捨てる。それと同時にゲートが消え、魔導具が爆発した。その時、壊れた魔導具は煙と共に飛んで行き、丁度木の裏に隠れるように落ちた。魔導具を持っていたデビルは飛んで行ったのとは別の破片を魔法で破壊する。そして他の破片が無いかキョロキョロと探すが、木の裏に落ちた魔導具は見つからなかった。
「ちゃんと証拠は消したな?」
「はい」
「じゃあ予定通り行くぞ」
そう言って3人のデビルは巨獣とは別方向へと飛んで行った。残った魔導具が焦ってデビルが確認漏れしたのだと分かる。それからしばらくしてオルトがその壊れた魔導具を見つけたのだった。
スミナは記憶を見終わり目を開ける。部屋は静まり返っていてスミナの報告を待っていた。スミナは一度深呼吸してから報告する。
「確認出来ました。まず、この魔導具は魔導帝国時代に大量に製造された物でした。遺跡に有った物を魔族が見つけ、自分達の拠点に複数持ち帰って保管していました。
そして恐らく魔導結界が張られた後に魔族のレオラが道具としての価値を見出して、使うようになったようです。これは魔導結界の外でレオラによって使用され、結界内にゲートを作り出していました。町を襲った巨獣と3体のデビルがそのゲートから国内に侵入していました。
気になる点はこの魔導具が1度使われただけで自ら爆発した事です。わたしの予想ですが、本来想定していない使い方で魔導結界を突破し、その為1回で壊れてしまったと。デビルが爆発した魔導具の破片を壊していましたので、証拠を消そうとしたのは事実でした」
「なるほど、やはり魔導結界の外から魔族は侵入していたと。それと、既に国内に潜んでいるデビルがかなりの数いると考えられるな。そして前回の襲撃の首謀者であるレオラという魔族が今回も関係していたと。
バドフ、スミナ君の考えは合っていると思うか?」
ロギラはバドフに質問する。
「そうですな。魔導具を本来の使い方と別の使い方をしようとする事は可能ではあります。ですが、それをした場合実行出来ずに先に壊れるでしょう。爆発して壊れたというなら正しくない使い方をしたというのは納得します。
ただ、それで魔導結界が突破出来るというのは中々難しい話です。ただし、レオラという魔族は転生者を名乗っていたと。特別な祝福を持っていたならあり得ない話ではありませぬ」
「事実、魔族が国内に現れ、今まで見かけなかった巨獣や魔獣も現れた。転生者かどうかは置いておいても、レオラという魔族がその魔導具を使って魔導結界を破ったのは事実だろう。
スミナ君、それと同じ魔導具は複数あったと言っていたな。残りの個数は分かるかい?」
「正確な数は分かりませんが、2箱存在したうちの1箱は使い終わり、今回使ったのがもう1箱の半分ぐらいでした。残りは多くても20個ぐらいに見えました」
スミナは自分の見た記憶を頼りに報告する。勿論箱から出した物が全て使われているかは分からない。魔族に複製する技術があるならばその想定も無意味になる。
「ありがとう。残りが限られているなら相手も悠長にはしていないだろう。オルト氏、スミナ君、2人のおかげでかなり重要な情報が得られた。国王として感謝する」
「いえ、自分は運が良かっただけです」
「わたしもこの魔導具が見つかったおかげなので」
オルトもスミナも謙遜する。ただ、王国にとってかなり重要な情報になったのは確かだろう。
「それにもう一つの良い知らせも君達の成果だ。
皆にも聞いて貰いたいが、伝説と言われていた“神機”が発見された。実物は今適切な場所に保管されているが、本物だと確信している。神機は魔神と共にボルデ火山の麓に眠っていたのをスミナ君とオルト氏が見つけた」
「神機ですと!?」
皆それを聞いて驚いていたが、大声を上げたのは魔導研究所所長のバドフだった。魔導具の研究をしている人物にしてみれば物凄い発見なのだろう。
「まあ皆が驚くのはしょうがない。私も皆に告げるか迷ったが、今後の戦いを左右する物なので今知らせる事に決めたのだ。まだ見つかったのは一つだが、複数見つかれば魔導結界を解除しても魔族と互角以上に戦えるだろう」
ロギラの話を聞いて周囲がざわつく。神機にはそれだけの価値があるという事だ。ただ、スミナは自分が持っている神機は魔族との戦争に使える物では無く、複数見つかっても使用者がいるのだろうかと疑問に思ってしまった。そしてもう一つ、オルトと約束した神機をオルトに渡すという話もどうなるのだろうと思っていた。
「国王陛下、私からも発言して宜しいでしょうか?」
これまで黙っていたアリナが口を開いた。その顔はいつにでもなく真面目な顔だった。
「アリナ君、何でも言ってくれたまえ」
「では失礼して。アスイ先輩から聞いていると思いますが、神機は普通の人では使いこなせず、使えたとしても長時間使うと廃人になる危険な道具です。私は誰かを犠牲にしてまでそんな危険な道具を使って欲しいとは思いません」
アリナが厳しい口調で言う。アリナはスミナが国の為に犠牲になる事を心配しているのだとスミナは理解した。
「貴重な意見をありがとう。そうだな。確かにその部分は皆に伝えていなかった。
神機は使いこなすのが難しい道具であり、使用者の負担もとても大きいと私も聞いた。もし見つかったとしても使いこなせる者が中々見つからないかもしれない。
だが、ここに居る者は皆抜きんでた能力を持ち、それ以外にも我が国には優秀な人材がいる。そして犠牲という話であっても、魔族との戦いは常に犠牲があった。犠牲が出ないのが理想ではあるが、現実はそうでは無い。
もし私が神機を使えるなら私は犠牲になろう。私と同じ心持ちの者もいると私は思っている」
「では、国王陛下、神機を使える者が望まなければ無理強いはしないという事ですか」
「その通りだ。アリナくんの優しい気持ちは理解しているつもりだ。これは国の為に戦う決意のある者が担う仕事だと考えている」
ロギラがアリナに遠回しにスミナを犠牲にするつもりは無い事を伝えた。
「分かりました。失礼な発言を致しました」
「いや、そういった気持ちは戦う上でとても大事な物だ。誇りに思っていい」
ロギラは国王というより、1人の人間として言っているように聞こえた。
「あと、スミナ君にも言っておこう。君の要望はアスイから聞いている。国としては君の望む通りに進めてもらって構わない」
「分かりました、ありがとうございます」
ロギラはスミナが今後神機を発見した際の自由を認めてくれた。国としては調査するが、それとは別にスミナが見つける分には問題無いという事だろう。
「少し話が逸れてしまったが、我が国では今日の話を踏まえて魔族の調査と神機の調査を並行して行っていく事になる。その際、ここに居る皆には協力してもらう形になるだろう。
それに関係する話だが、ギーン戦技学校の野外訓練は予定通り行ってもらう事にする。ザトグ校長、宜しいかな?」
「はい、承りました」
ザトグが答える。スミナは突然関係無い話が出たように思えて違和感を感じた。
「ロギラ国王陛下、発言宜しいでしょうか?」
「ミミシャ氏、発言してくれたまえ」
「では失礼して。前回の魔族の襲撃事件を受け、我が戦技学校は野外訓練の実施について校内で検討し、今年は見送る予定になっておりました。
国王陛下は戦技学校の生徒を囮に使うという事でしょうか?」
「ミミシャ先生!!」
ザトグが慌てて口を出す。ミミシャの発言でロギラが話をした意味がスミナにも理解出来た。野外訓練は郊外のモンスター退治に生徒を何日か向かわせるもので、従来ならそこまで危険な訓練では無い。ただ、現状を考えると魔族を挑発しているようにも見えるという事だ。
「いや、意見は構わないよ。確かにミミシャ君の言う通り、今生徒を王都の外に出すのは囮のように見えるかもしれない。ただ、国としてはそんな事はさせない。訓練の際は騎士団を同行させ、厳重態勢を取る予定だ。例え魔族の襲撃があっても生徒を危険に晒さないようにする。
あと、ここで訓練を止めてしまうと次代の生徒が育たなくなってしまう。私は戦技学校にはなるべく通常通りの授業を続けて貰いたいと考えている。それがこの国の未来に繋がると」
「申し訳ありませんでした。私が国王陛下の真意を読めなかったばかりに」
「問題無い。ミミシャ氏がどれだけ生徒を大事にしてるか伝わったよ」
スミナはロギラの言う事もミミシャの言う事もどっちも正しいと思えた。ただ、今年入学した生徒は強いとスミナは感じている。魔族が来ても今のスミナ達なら何とかなると思っていた。
「さて、話が長くなってしまったな。皆忙しい身、今日はここまでとしよう。後日それぞれに指令や依頼が行くと思うので今日の事を踏まえて対応して欲しい。
私も忙しい身でね。また会おう」
「ロギラ・デイン国王陛下の御退場である」
王宮騎士が声を張り上げ、ネーラ以外は全員起立し、頭を下げる。ロギラは立ち上がり、手前の扉から去っていった。
「続いてネーラ・デイン様御退場である」
再び王宮騎士が声を出し、皆頭を下げたまま退場を待つ。ネーラは何も言わず入り口から外へ出ていった。
「ご着席下さい。順次退場のご案内を致しますのでそれまでお待ち下さい」
王宮騎士がそう言い、皆一度着席する。最初に横のアスイが声をかけられ立ち上がった。
「2人ともまた今度お話ししましょう」
「分かりました」
「はい」
アスイに声をかけられ双子が返事をする。アスイが部屋を出ると続いて正面のターンが声をかけられ扉へと向かう。しかしターンはテーブルの端で立ち止まった。
「久しぶりだな。貴様にしては役に立ったじゃないか。今更国の為に働く気になったのか?」
ターンはオルトを睨んで言う。
「久しぶり。俺は俺のやりたいようにやるよ」
「お前はまだそんな甘い事を言ってるのか」
「すまない……」
オルトの顔を見てターンは踵を返して部屋を出ていった。室内には微妙な空気が残っていた。
「スミナ様、アリナ様、ご案内いたします」
「「はい」」
双子は案内役に言われて席を立ち、知っている顔にお辞儀をしつつ部屋を出ていった。ただオルトは下を向き双子の方を見ようとはしなかった。
荷物を返してもらい、今度は部屋には寄らず、お城の入り口まで一気に案内される。既に外にはメイルの乗った馬車が待っていた。馬車は双子を乗せると屋敷に向かって出発する。
「お嬢様、どうでしたか?」
「流石に色々聞いて疲れたかな」
「凄い疲れたー。今日は屋敷に泊まりたいよ」
「その話ですが、明日は臨時の休校になるとお城で聞きました。何かあったのでしょうか」
メイルが言う。多分野外訓練の件を国で決めたので学校内でも対応が入るのかもしれない。
「やった、それなら明日寮に戻ればいいよね。今日1日はダラダラ出来る」
「まあ今日はアリナの言う通り休みたいかもね」
双子はそんな話をしつつ王都の屋敷に戻るのだった。




