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21.むかしのはなし

 魔力が切れて意識を失ったスミナに神機しんきの過去の記憶が流れ込んでいた。


 神機の最初の記憶は薄暗い洞窟の中から始まった。神機は洞窟内の宝箱の中にあった。宝箱は誰にも気付かれず、長い期間放置されたままだった。そんな神機を最初に見つけたのは人間では無く青い肌の魔族のデビルの男だった。


「おい、何か凄いモノがあったぞ」


「何それ。人間の宝?」


「分からん。だが物凄い魔力を秘めている」


 デビルの男は紫色の肌のデビルの女と一緒に洞窟に入り神機を発見したのだった。


「これは、腕輪か?オレには似合わんな。オマエが付けてみろ」


「いいの?凄いじゃない、これ」


 女のデビルが男から神機の腕輪を受け取り、腕に嵌めてみる。すると凄まじい魔力がデビルの女を包み込んだ。


「凄いよ、これなら魔王様すら陵駕出来るかも」


「おい、オマエ大丈夫か?」


「何が?」


 デビルの女自身は気付いていないので、男はどんどん精気を失い肌が崩れていく女を心配する。


「え?ウソ、何これ、外れない。お願い外して」


「待ってろ。なんだ、これ、オレの力も……」


 女の腕輪に触れた男の身体もどんどんやつれていき、ついには男女のデビルは共に白骨になってしまった。それからまたしばらくの間、神機は宝箱に戻って次の主を待っていた。

 その後は人間や魔族が何人も宝箱を見つけ、同じ結末になったのだった。神機を身に着けられる者も、持ち帰る事が出来る者もおらず、白骨死体が宝箱の周りに増えるだけだった。


 最初に神機を持ち出せたのは若い人間のパーティーだった。4人組の男女のパーティーで、魔術師の男がその宝箱の異様さに気付いたのだ。


「この宝は危険だ。周りの死体から考えても、開けると被害が出る。俺達では無理だ、引き返そう」


「え?ここまで来るのだって大変だったし、中身も見ずに帰るの?」


「そうだよ、呪いのアイテムでも売ればお金になるよ」


 騎士の女とトレジャーハンターの女が魔術師の意見に反対する。騎士の女がパーティーのリーダーらしかった。


「魔族に押されて国が危険な状態です。強力なアイテムなら国の為になります。呪いは感じませんし、持ち帰って鑑定してもらうのはどうでしょう」


 聖職者の男が観察しながら言う。


「確かにお師匠に鑑定してもらうのはありかもしれない。分かった、俺が魔法で保護しながら持ち帰る」


「そうしよう、そうしよう」


 4人はそうして神機の入った宝箱を始めて洞窟から外に持ち出す事に成功した。

 神機は高名な魔術師や研究者の手に渡り、慎重に調査された。その結果、人や魔族の手では作れない道具という事で神機という呼称がこの時付けられた。ただ、誰も神機を使いこなせないのには変らず、その力はあくまで予測でしかなかった。

 持ち帰った当時の人間達は魔族に攻められていて、神機を調査した国も崩壊寸前だった。国の中には神機が使えれば力になると考え挑む者は多々いたが、皆力を吸われて死んでしまった。これこそが魔族の罠なのではという噂も流れ、神機はしばらく王家に厳重に管理される形となっていた。


「私に神機を使わせて下さい」


 神機が王家に渡ってから数年後、1人の少女が神機を使いたいと名乗り出た。


「そなたは転生者ノアンと申したな。確かにそなたの戦いぶりはすさまじいと噂には聞いておる。だが、もし神機を御せなかった場合、我が国は貴重な戦力を失う事になる。神機を使いこなせた者は未だかつていないという。わしとしても簡単に許可は出せぬ」


「ですが陛下、このままではやがてこの国は滅びるでしょう。今も同志が戦い続け、多くの命が失われています。私の力は尽きる事の無い魔力。神機の呪いにも打ち勝てるでしょう」


「――分かった。この国の命運をそなたに託そう」


 国王はノアンに神機を使う許可を与えたのだった。美しい長いストレートの金髪を持つ少女ノアンは国王や仲間を安全の為に遠ざけ、城の前の広場で神機の入った宝箱を開ける。凄まじい力を感じながらノアンは神機を手にし、腕にそれを装着した。


「神機解放」


 ノアンはそう言って神機の力を解放する。金色の炎がノアンの全身を包み込む。そして足元から七色に輝く鎧が装着されていく。鎧は神々しく、壮大で、巨大な翼のような飾りが背中に付いていた。周りで見ている者達もその巨大な魔力に圧倒される。


「凄い力です。これなら魔族を殲滅出来ます」


「神機とは神の衣の事だったのだな。ノアンよ、頼む、この国を救ってくれ」


「はい、行ってきます」


 国王に言われ七色に輝く神機を身に着けたノアンは光を放ちながら物凄い速度で戦場へ飛んで行った。

 神機を装着したノアンの強さは圧倒的だった。巨大なモンスターや魔獣、魔族を次々と薙ぎ倒し、どんな魔法や攻撃や呪いも全て弾き返した。剣を作り出せばどんな敵も切り裂き、魔力の光線は大量の敵を焼き払い、素早い敵も高速で飛び回り始末する。1人で戦争の戦況を覆す事は不可能だと言われるが、神機はそれを可能にした。ノアンが神機を使ってから数日で、魔族は人の領域から撤退を強いられる事になったのだった。

 しかし、その代償は大きかった。


「「ノアン!!」」


 戦いが終わったノアンを仲間達が迎えたが、そこには悲痛な叫びがあった。神機を解除したノアンは急激に身体が変化して倒れたのだ。ノアンはみるみる生気が無くなり、髪は艶を失い、皮膚はしわがれていく。仲間が必死に回復魔法を唱える事で何とか生き延びる事は出来たが、その姿は美しい少女では無く、老婆のようになっていた。


「神機を長時間使うのは危険だったみたい。やっぱり、封印が必要だと思う。

でも、私は人々を救えたので満足よ……」


 ノアンはそう言って神機を箱に戻した。神機はノアンによって『グレン』と名付けられ、本当に世界の危機が訪れるまで国で封印される事に決定した。

 神機グレンはそれから何百年もの間、誰にも使われる事も無くその国で封印され続けた。



「お姉ちゃん!!」


 スミナがそこまで記憶を見たところでアリナの声で呼び起こされた。周囲を見るとスミナは既に外に出されていて、今まで木陰で眠っていたようだ。


「お姉ちゃん大丈夫?魔力が減ってるみたいだから無理に起こしちゃったけど」


「ありがとう、アリナ。確かにこのまま寝てたらずっと目覚めなかったかもしれない」


 スミナは自分が無意識に腕に付けてる神機の記憶を見て、記憶を見る祝福ギフトに魔力を使っていたのだと理解する。周囲にはアリナの他にメイルと人間形態のエル、そして魔導鎧を解除したオルトが居た。


「エルはもう大丈夫なの?」


「はい、外に連れ出して貰えたので魔力を大分回復出来ています」


「お姉ちゃんこそ体は大丈夫なの?」


「わたしは……」


 そこでスミナは自分の身体が大丈夫なのか調べる。頭痛がして、全身が怠く、関節が痛むのを感じる。ただ、肌は今まで通りだし、身体が痩せ細ったり衰弱したりはしていなかった。神機を使ったのが短時間だったから大丈夫だったのだろう。


「ちょっと怠いけど大丈夫みたい。それより、どうして外に?」


「また噴火で洞窟が崩れると不味いと思い、自分が外に連れ出したところで2人に会ったんだ」


 スミナを外に連れ出したのはオルトだったようだ。


「お嬢様を抱えたオルトさんと出会ってビックリしましたよ」


「メイルはオルト先生の事を知っていたの?」


「はい、お嬢様達には言っていませんでしたが、オルトさんは私の剣の師匠なんです。私がメイドになる前はオルトさんと共に戦っていました」


「メイルがアイル家のメイドになった事は知っていたが、まさか2人のお付きのメイドだとはな……」


 オルトとメイルが知り合いなのは本当のようだ。


「お姉ちゃん、ゴメン。こんな危険な状況なのに間に合わなくて」


 アリナが泣きそうな顔で言う。またアリナに心配かけてしまったとスミナは心が痛む。


「違うよ、無茶をしたのはわたしだから。でも、オルト先生が来なかったら死んでたと思います。助けて頂きありがとうございました」


「いや、自分は結局時間稼ぎぐらいにしかならなかった。しかし神機を使いこなすなんてスミナさん、君は一体何者なんだ?」


 オルトが真剣な顔でスミナに質問する。確かにあれだけの事をされれば普通の学生では無いと思うだろう。スミナはなんて返そうか悩む。


「お嬢様の体調も万全ではありませんし、一旦ホテルに戻って、話はその後に致しませんか?」


「あたしもそれがいいと思う」


「確かにその通りだった。3人はリゾートホテルに泊まってるんだと聞いた。自分も一旦実家に戻ってから後で伺う事にする」


 そう言ってオルトは去っていった。


「アリナ、あの人が白銀の騎士だった……」


「うん、あたしも魔導鎧を着てる時に会ったから分かったよ。お姉ちゃんまた助けられたんだね」


「悔しいけどわたしだけじゃ手も足も出なかった……」


 今更ながら神機に釣られて魔神ましんの封印を解いた事をスミナは反省していた。


「マスター、お守り出来なくてごめんなさい」


「エルは十分やってくれたよ。エルの魔力が無ければわたしは勝てなったし」


「スミナお嬢様、反省会はホテルに戻ってからにしましょう。おんぶしていきましょうか?」


「大丈夫、自分で動けるぐらいには回復してる」


 スミナは少しよろめきながらも根性で歩き出すのだった。


 ホテルで昼食を取り、温泉に入ってスミナはようやくいつも通りに戻ってきたと感じた。それでも安静の為にホテルの部屋で休んでいるとオルトが部屋に訪れた。メイルが対応してソファーのある部屋に案内する。


「ここなら誰かに聞かれる事も無く話が出来ると思います。私は席を外しましょうか?」


「いや、ここまで来たなら聞いておいた方がいいだろう。メイルも2人が只者じゃないって薄々感じていたのだろう?」


「はい、それは勿論子供の頃から一緒ですから。ですが、お嬢様が聞かれたくない話もあるかと」


「あたしは別にいいけど、お姉ちゃんどう?」


 アリナの問いにスミナは少しだけ考える。今までメイルに隠していた話は色々あるが、もうそろそろ話した方がいいかとスミナも少し思っていた所だった。


「メイルの事は信用してるから聞いて欲しい」


「分かりました、では私も同席します」


 オルトと双子がテーブルを挟んで対面のソファーに座り、メイルは双子の斜め後ろに椅子を持って来て座った。エルはスミナの背後の椅子に自然と座っていた。テーブルにはメイルが準備した茶菓子と紅茶が並んでいる。


「姉は魔宝石マジュエルを使役し、神機をも使いこなす。妹は強大な魔力と技のセンスをその若さで持っている。

単刀直入に聞こう。2人は転生者だな?」


 オルトは転生者という存在を知っているようだ。アスイの事も知っていたし、強さも普通の人間ではない。スミナはオルトも只者では無いのではと疑い始めていた。ここで隠しても話が進まないと思い、スミナは全て明かす事にする。


「はい、確かにわたしもアリナも転生者です。オルト先生は転生者の事も神機の事も知っているんですね。それにあの強さ。先生も転生者なのですか?」


「いや、残念ながら、自分はただの人間だ。色々知ってるのはそれらに深く関わる事があったからだ。

まあ、少しだけ昔話をしておいた方がいいかもしれないな」


 オルトは渋い顔をしながら言う。メイルはどこか寂しそうな顔をしていた。


「俺と今王国騎士団長をやってるターンが戦技学校を首席で卒業した事は知っているな。それともう一人魔術師のユキアも優秀で、当時の戦技学校で俺達3人は特に抜き出ていて勇者なんて呼ばれる事もあった。

だから卒業後すぐに俺達3人はパーティーを組み、魔族の残党を倒す旅を始めた。もうその頃にはアスイが活躍を始めていて、幼い少女には負けてられないと俺達も激戦地へと進んで乗り込んでいった。俺達は負け知らずで勝利し続け、英雄として讃えられていた。メイルと出会ったのもその頃だ」


 オルトが昔の事を語る。スミナはその頃の事をアスイから聞いていたが、それ以外の人から聞くのは初めてだった。


「俺達は戦地で仲間を増やし、魔族連合を押し返していた。そこに驕りがあったんだろう。だから人間の国が裏切り、魔族では無く人間同士の戦いになった時、初めて敗北した。俺達3人は負けなかったが、他の仲間を守り切れなかったんだ。戦いに参加したメイルには今もすまないと思っている」


「いえ、オルト師匠は何も悪くありません。私が弱かっただけです。それにダグザ様を紹介して頂いた事でこうしてお嬢様達のメイドになれたのです。師匠には感謝しかありません」


 メイルは本当にオルトの弟子だったようで、声には普段とは違う慈しみが感じられた。


「ここから先の話はメイルも知らない話だと思う。2人は転生者だからある程度はアスイから聞いてはいるだろうが、聞いてくれ。

俺達の敗戦からしばらくしてデイン王国は魔族連合に囲まれ、アスイの活躍で何とか滅亡を免れている状況だった。俺達は結局3人のパーティーに戻り、危険な戦場を駆け回っていたが、それも限界だった。

そんな中アスイが古代魔導帝国の技術を探して起死回生を狙っている話を聞いた。俺達は自分達にも出来る事が無いかと独自に調査をする事にした。

そんな時、辺境で神機と魔神の伝承を見つけたんだ。強大な力を持つ魔神が強大な力を秘めた神機と共に封印してあると。ただ、その場所は王国の外で魔族連合の支配下になっている場所だった。本来ならアスイに伝え、アスイと協力して挑むべきだったんだろう。だが、俺達にも意地があり、アスイを王国から離れさせるのは危険だという理由もあった。だから3人でそこへ向かう事にしたんだ」


 オルトの話は途中からアスイからも聞いた事の無い話になっていた。


「敵陣の中を進むのは尋常では無かったが、予想より順調に潜入出来た。魔族連合も反撃を予想していなかったのだろうな。その場所は今日見た洞窟みたいに何重にも扉があり厳重に封印されていた。仲間のユキアが古代魔導帝国時代の魔法が使えたので何とか封印を解く事が出来たんだ。

そこには魔神ヤグという魔神が封印されていた。俺達は自分達の力を過信していた。確かに若かった俺達はある程度ヤグといい勝負が出来たかもしれない。ただ魔神はしぶとく、俺達にはトドメを刺す決定打に欠けていたんだ。

結局俺達はユキアを失い、神機も得られず、瀕死の状態で王国に戻ってきた。神機は恐らく魔族の手に渡ってしまったと思う。絶望を感じた俺は戦う事を避け、世捨て人のようになった。あの後王国の騎士団に入ったターンは立派だよ。

それからしばらくして、アスイが俺に会いに来た。アスイは王国を魔導結界で覆った事と、転生者である自分の手助けをして欲しいと依頼してきた。だが、俺はそれを断ったんだ。自分に出来る事はもう無いからな」


 オルトの懺悔のような話が終わった。ただ、スミナは納得いってなかった。


「あれだけの技術を持ちながら、自分に出来る事は無いって何ですか?じゃあ、どうして6年前、遺跡でわたしを助けたんですか?」


「6年前……。そうか、ノーザ地方の遺跡で助けた少女は君だったのか。確かに領主の屋敷の近くで、後日人探しのビラを見たな」


「もしかしたらと思ったら、やはり師匠だったのですか。どうして名乗り出てくれなかったのですか?」


 メイルの質問にオルトはばつが悪そうな顔をする。


「そもそも今は剣を握らないって言ってましたよね。あの時はどうして遺跡に居たんですか?」


「そうだな、正直に話さないと納得しないか。

自分はまだ魔神に負けた事に未練を感じていたんだ。だから、あの頃は神機を探して国中を旅していた。スミナさんを助けたのはその最中で、たまたまだよ。まあ、結局神機の手がかりすら見つからなかったんだがな。まさかこんな近くにあったとはね」


「神機や魔神の話はアスイさんから聞いてませんでした。アスイさんには話してなかったんですか?」


「話てはいたが、神機は実物を見ていなかったし、魔神ヤグも消滅した。余計な情報になるからと君達には話さなかったのだと思う」


 確かにオルトの言う通り、魔神はオルト達しか見ておらず、神機に関しては実際有ったか不明な時点で情報としては不十分な扱いになるだろう。が、オルトの話を聞けていればスミナも今回踏み止まった可能性はある。


「じゃあ、こうして神機が実在する事が分かったのなら、魔族との戦いに復帰してくれるんですよね」


 スミナはオルトが白銀の騎士のイメージとは一致しないが、戦力としては頼れると感じていた。だから今までのだらしない姿が偽りであって欲しいと思っていた。


「いや、自分はもう現役から退いた。それに神機を目の当たりにして、自分には扱えない物だと実感したよ」


「じゃあ、どうして今日は助けてくれたんですか?それに魔神と戦えた時どこか嬉しそうでしたよね?」


「それは……。ともかく、今の自分じゃ魔神には勝てない。魔族との戦いでも足を引っ張るだけだ。君達とアスイが居ればこの国も大丈夫だろう」


 オルトはいつもの気力の無い声に戻っていた。スミナはそれが納得いかなかった。


「わたしが見た白銀の騎士は強くて立派でした。どうしてそれを捨てようとするんですか?」


「それは君が勝手に想像した姿だろう。現実はこんなどうしようもないおじさんだよ」


「お嬢様、今日は疲れていますし、ここまでにしましょう。

師匠、また今度助けて頂いたお礼を兼ねて会いに行きますので」


「お礼はいらないよ、こっちも今日は助けてもらった立場だしな。

2人とも無理はしないように。それじゃあ」


 オルトはそう言うと逃げるように帰っていった。スミナはメイルの悲し気な顔を見て怒りが収まっていった。


「お姉ちゃんがこんなに感情露わにするのは珍しいね。やっぱり憧れの白銀の騎士様があんなだったから?」


「そういうわけじゃ……。でも、あの人の強さは本物だった。メイルは昔のオルト先生を知ってるんですよね。当時はどうだったんですか?」


「当時のオルト師匠の強さは別格でした。そして今と違って明るく、優しく、勇敢でした。ですが、あの人を責めないで下さい。昔の戦争で失ったものが多過ぎたのです」


 メイルはとても悲し気に語る。メイルが戦いを避ける理由もそこにあるのかもしれない。


「そういえばメイルはこの国の事どこまで知っていたの?」


「魔導結界の事でしたら薄っすらと分かっていました。突然戦争が終わり平和になって、誰もその事に言及しなかったですから。

そしてお嬢様達が普通では無い事は分かっておりました。ですがアスイと同じ転生者だとは流石に思いませんでしたが。驚きはしましたが今までの行動を考えて納得しています」


「それよりお姉ちゃん、神機と魔神の事を詳しく聞かせてよ。おっさんからは大まかな話は聞いたけど」


 アリナに聞かれてスミナは今朝の出来事を簡潔に説明する。そして、神機の記憶の事も。


「お嬢様、本当にお身体は大丈夫なのですか?」


「メイル、マスターは疲労していますが、他の箇所は問題ありません」


 心配したメイルにエルが答える。エルはスミナの体調も把握出来ているようだ。


「だけど、この神機グレンは無闇には使えないと思う。そもそもわたしの魔力じゃ連続して使えないけど。箱は置いてきちゃったし、結構危険な物だけどどこで保管しよう」


「でしたらワタシに魔導具を保管する機能があります。ワタシの中にある場合はマスターの命令以外に取り出せなくなります」


「エルに影響が出るんじゃない?」


「分かりません、やってみましょう」


 スミナはエルが心配ではあるが、ずっと神機を出しっぱなしにしておく方が問題なので試してみる事にした。神機を受け渡されたエルはそれを胸の宝石に近付ける。すると神機は宝石の中に吸い込まれるように消えた。


「どう?身体に異常は無い?」


「大丈夫です。むしろ余剰魔力で元気になった気がします」


「なら良かった。でもどこかおかしなところがあったらすぐに言ってね」


「了解です、マスター」


 とりあえずエルは問題無さそうに見えた。神機を腕から外した事でスミナは何かから解放された気分になっていた。


「魔神って魔族より強かったんだよね。あたしとお姉ちゃんの2人がかりでも無理そうだった?」


「多分勝てないと思う。神機グレンが凄い威力だったから何とかなっただけで、オルト先生が言ってたけどアスイさんぐらいだと思うよ、勝てる人」


「うーん、あたしも戦ってるところ見ておきたかったな。じゃないと実感が湧かない」


「あんなのと戦うのは避けた方がいいよ。ただでさえ魔族が心配なのに」


「そうだけど、避けられない戦いもあると思う」


 アリナの心配は確かにそうだとスミナも思ってしまった。だが神機に頼らずにアリナとスミナが魔神に勝つビジョンは見えていない。

 新たな疑問や問題が増えた気がするが、スミナは今は深く考えず、し温泉リゾートで休養する事にするのだった。


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