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15.裏社会との接触

 呪いの剣の記憶を見た翌日の朝、スミナは昨日の出来事や見た記憶の内容をアリナに説明した。


「そんなヤバい物だったんだ。少しだけ見てみたかったなー」


「いいよ、アリナはあんな物には近寄らない方が」


 スミナはアリナが好奇心で剣の主になったりしたらと考えゾッとする。


「大丈夫だよ、あたしだって何が本当に危ないか分かるから」


「そうだよね。でも危険な度合いが分かるからこそ無茶しそうだし」


「相変わらずお姉ちゃんは心配性なんだから」


 アリナはいつも通り笑い飛ばす。スミナは口で伝えるのと、記憶を実際に見るのでは大きく印象が異なるのを実感していた。


「それより今日はあたしに付き合ってよ、お姉ちゃん」


「今日?今日は調べ事もしたいし、昨日剣の鍛錬が出来なかったからそれもしようと思ってたし」


 今日は学校が休みの日だったが、スミナは既に大まかなスケジュールを組んでいた。


「お姉ちゃん最近買い物に行ってないでしょ?友達に教えてもらって凄い良い店を見つけたんだ。たまには息抜きも大事だって」


「そうは言っても……」


 スミナは確かに完全な休みの日をしばらく取って無かった事を思い出す。しかし、襲撃事件以降それどころでは無いとも思っていた。


「お姉ちゃん、最近2人きりで出かけたりして無いよね。アリナ寂しいなー」


 アリナが近付いて手を握って可愛くおねだりしてくる。こうなるとスミナは逃げる事は出来なかった。


「分かりました。今日はアリナに一日あげますよ」


「やったー。2人きりだからね」


「ワタシも付いて行きます」


「えー、エルちゃんはお留守番じゃダメ?」


 スミナは悩んだ結果、不満そうなエルをなだめ、宝石形態で連れて行く事にした。


「この格好じゃないと駄目?」


「うん、たまにはお洒落しないとね」


 以前アリナに薦められて買ったが、あまりにヒラヒラしてるので着ていなかったスカート姿にスミナはさせられていた。アリナもスミナの衣装に合わせたコーデをして可愛らしく着飾っている。服装のセンスに関してはアリナに敵う部分が無いなとスミナは思った。

 寮を出て商店街の通りに行くと明らかに双子は浮いていた。ワンドエリアは学者寄りの人が多く、学生が居てもあまりラフな服装の人はいない。学生でも騒ぎたいタイプの生徒は休日はカップエリアまで足を延ばして遊びに行ったりしていた。


「それでどこに行くの?」


「友達がね、凄い可愛い店を教えてくれて。まずはそこに行こ」


 アリナに手を引かれてスミナは小走りで付いて行く。寮の周辺の店はスミナも大体理解しているが、商店街を通り抜けたので目的地はもっと遠いらしい。スミナはアスイに教えてもらった店やガリサおすすめの書店は知っているが、それ以外の学校から遠い店はあまり知らなかった。


「他にも色んな店を教えてもらったけど、お姉ちゃんの趣味には合わなそうな店が多かったから」


「そうなんだ」


 友人と呼べる人がクラスメイトや寮生ぐらいしかいないスミナと違って、アリナは同じ授業を受けた人や知り合った上級生とも友達になっていた。スミナは友達を増やしたいとは思わないが、自然と人を引き寄せるアリナが少し羨ましかった。

 アリナの気まぐれで寄り道しつつ1時間ぐらい歩いていくと町の雰囲気が変わってきたのに気付く。


「アリナ、こっちは裏町じゃ」


「うん、裏町にその店はあるんだ」


「裏町は流石に止めておいた方がいいんじゃない?」


 スミナはアリナを止めようとする。裏町はワンドエリアの怪しい店が集まった場所で、怪しい薬や違法書籍や呪われた魔導具などが売られていると聞く。双子は以前メイルに町の説明を受けた時に近寄らないように注意されていた。いわゆる裏社会の人間が集まる場所でもあり、噂では犯罪者が隠れていたり、殺人の依頼を受けるアサシンのギルドがあるとも聞いている。


「大丈夫だって。その店は占い屋が集まってる場所の普通の店だし、ちゃんと注意して歩けば危険は避けられるから」


「まあ、アリナはそうなんだけど……」


 スミナは確かにアリナと一緒なら危険は無いだろうと思った。それと同時にスミナも裏町がどんな感じなのか気にはなっていた。


「本当にいいお店だから行こう?」


「分かったよ。その店だけだからね」


 スミナは好奇心に負けてその店に行く事にした。占い屋に関しては恋愛に興味のある生徒が裏町の店まで行った話を聞いた事があり、トラブルに合ったりはしないとは聞いていた。その辺りだけなら学生でも安全なのだろう。

 裏町と言っても荒くれ者が闊歩している訳ではなく、むしろ通る人は人目を避けるような怪しい恰好の人が多かった。売られている物も王城の近くなのもあり、あくまで合法の物のラインは守っているようだ。ただ、異様な雰囲気があるのは確かで、あまり近付きたくない場所だとスミナは思った。


「ほら、こっちは雰囲気いいでしょ」


 裏町の怪しい店が並ぶ通りを抜けると、少し開放的なエリアに出た。露店のカフェなども並び学生ぐらいの女性が多く見られた。裏町でも若い女性向けの場所なのだろう。


「こっちが占い屋の通り。ここにそのお店はあるんだ」


 占いの看板が並び、外で占いをやっている店と建物内でやっている店が混在していた。人気の占い屋もあるようで、そこには行列が出来ている。


「アリナは占いはやらないの?」


「あたしは自分の運命は自分で決めるから。お姉ちゃんやってみる?」


「わたしもいいよ」


 この世界の占いは魔法を用いたもので、現実世界の占いより正確だと聞く。もし嫌な話でもされるとそれを引きずりそうで、スミナは絶対占われたくなかった。


「ちょっとそこのお嬢さんがた」


 アリナに連れられて占い屋の通りを歩いていると横から声をかけられる。見ると紫色のローブを被った老婆が双子を見ていた。


「お2人にはとてつもない力を感じる。占っていかんかね?」


「結構です」


 スミナはアリナの手を引いて有無を言わさず老婆の前を通り過ぎた。


「いいの?お姉ちゃん」


「ああいう客引きには乗らないのが一番なの」


 スミナは漫画などで占い師の言葉からトラブルが始まる展開を知っていたので乗ってはいけないと感じていた。


「お姉ちゃんがそれでいいならいいけど。

ほら、もうすぐ。あそこの店だよ」


 アリナが指差したのは占い屋の通りの一番奥にある小さな店だった。“ラブルの店”という看板があるが、占い屋では無いとしても何の店かは見た感じ分からなかった。


「こんにちはー!!」


 アリナが楽しそうに挨拶しながら店に入る。店内は想像していたより明るめの普通の店だった。


「あら、アリナちゃんいらっしゃい。あっ、もしかして一緒にいるのが噂のお姉さん?」


「うん。お姉ちゃん、この人がお店の店主のナシュリさん」


 お店のカウンターにいたのは水色の長い髪が綺麗な女性だった。


「こんにちは。わたしはアリナの姉のスミナです」


「いらっしゃい。私はこの店の店主をしてるナシュリ・ダノフよ。ゆっくり見て行ってね」


 ナシュリは裏町とは思えない品のいい女性だった。店主と言っても若く見え、20代だろうとスミナは思う。店は魔法が付与されたマジックアクセサリーの店で、手作りらしいが丁寧でセンスのいいアクセサリーが並んでいた。


「これもこのお店で買ったんだよ」


 アリナが服に付けたピンク色のブローチを見せる。確かに王都で今まで見たアクセサリーとは違った若い女性向けの物が揃っているなとスミナも感じた。人を呼びたくなる気持ちも分かる。


「この店のアクセサリーは職人が作っているんですか?」


 広くない店なので一通り見終わったスミナはナシュリに聞いてみる。


「いや、そんな立派な物じゃないのよ。全部私の手作り。気に入ったのがあれば来店記念に1個プレゼントするわよ」


「いえ、そんな。でも、凄いですね、こんな綺麗なアクセサリーを作れるなんて」


「私は本当はね、占い師になりたかったの。でも、才能が無くてね。このお店も名前にあるラブルっていう私のおばあ様の店だったんだ。でも、おばあ様が亡くなって、店を継ぐ人が居なくなって、潰すのは寂しいから私がマジックアクセサリーの店として続ける事にしたのよ」


「そうなんですか。でも、わたしは好きですよ、このお店」


「ありがとう。

貴方もアリナちゃんと同じで、内に秘めた何かを感じるわね。占い師の才能が無くても、おばあ様の血か、少しだけそういうのには敏感なの。2人には他の双子と違う特別な絆が感じられる。

そうだ、2人ともちょっと待ってて」


 ナシュリがカウンターの裏の扉に入って行く。


「お店も良いしナシュリさんも良い人だね」


「そうでしょ。お姉ちゃんも気に入ると思ったんだ」


 アリナが自慢気に言う。裏町に入って警戒していたスミナもいつの間にかそんな気分は吹き飛んでいた。


「これは私じゃなくて、おばあ様が作った物なの。よかったら2人に貰って欲しい」


 ナシュリが持ってきたのは少し時代を感じる銀の指輪だった。小さな宝石が一つ付いてるだけのシンプルなデザインだ。指輪は二つあって、赤と青の宝石が嵌っている。


「そんな大切な物貰えませんよ」


「そうでも無いの。おばあ様のアクセサリーも結構残っていて、これは特別な絆がある人にあげようと思っていた物なの。幸運の効果があるって言われたけど、魔法で幸運は付与出来ないから、あくまでおまじないみたいな効果だと思う。またお店に来て貰いたいから、是非受け取って」


「お姉ちゃん、ここまで言うんだからありがたくいただこうよ」


「そうだね。では、この指輪は受け取らせてもらいます」


 スミナも流石に断る気にはなれなかった。普段は青はスミナ、赤はアリナが選ぶのだが、この時は赤い石の指輪をスミナが、青い石の指輪をアリナが選択した。


「やっぱり、その指輪は貴方達のもとに行く為に作られたんだと思うわ。貰ってくれてありがとう」


「そんな、こちらこそありがとうございます。またお店に来ますので」


「ナシュリさん、ありがとね」


 双子は笑顔で店を後にした。指輪は魔法でサイズが調整されるようになっているらしく、どの指にはめる事も出来た。スミナとアリナはそれぞれ左手の中指に指輪をはめる事にする。


「なんか、気持ちお姉ちゃんの存在を感じやすくなった気がする」


「そうだね、指輪にそういった力が込められてるのかも」


 双子は元々お互いの位置が分かったが、その力が増した気がしたのだった。丁度いい時間だったので双子は開けた場所のカフェで昼食を取った。


「このお店も友達から聞いたんだ。美味しいでしょ」


「うん、美味しい」


 カフェの惣菜パンは簡単な作りだけど食べやすく美味しかった。スミナは先ほど貰った指輪に意識を集中してみる。指輪の記憶を折角だから少しだけ見てみようと思ったのだ。


 指輪が完成したのは普通の民家にあるちょっとした工房のような部屋だった。指輪を造ったのは優しそうな結構な高齢の老婆だった。老婆は完成した指輪を箱に入れ、別の部屋に移動する。そこには水色の髪の10歳前後の少女が座っていた。少女は面影からナシュリだと分かる。老婆はナシュリに出来たばかりの指輪を見せた。


「きれー」


「この指輪はね、特別な絆を持った2人の為に作った物なんだよ」


「どういう事?おばあちゃん」


「占いの力が弱まった私でも特別な2人の子供が産まれた事が分かったの。その子達は多分、大変な困難に見舞われると思う。きっとナシュリはその子達と出会うと思うわ」


 ナシュリは言っている意味がよく分からないようだった。


「この指輪はね、その子達に幸運をもたらす効果があるの。もしナシュリが特別な絆がある2人と出会ったら、あなたからこれを渡してあげて欲しいの」


「おばあちゃんが自分で渡せばいいのに」


「ナシュリ、私の命が残り短い事が自分でも分かるの。あなたは私の才能を引き継いだ立派な子。だから私の代わりにお願いね」


「おばあちゃん死んじゃやだ」


 ナシュリが涙ぐみ、老婆はそれを抱き締めてあやした。その後指輪はナシュリの物となり、大事に保管されていた。


 記憶を見てスミナも少し涙が零れる。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「ごめん、ちょっとこの指輪の記憶を見てたの。ナシュリさんのおばあさん、凄い優しそうな人だった。大事にしないとね」


「そうなんだ。うん、大事にしよう」


 スミナは改めて道具には作った人や使った人の想いが残っているんだと実感した。


「そろそろ帰ろうか」


 その後カフェで主にアリナの雑談を聞いて過ごしていたら、いつの間にか陽が傾き始めていた。夜の裏町は流石に問題なので、双子は帰る事にする。


「キャーッ!!」


 そんな時辺りに女性の悲鳴が響き渡った。双子が反射的にそっちを見ると、黒いフードを着た小柄な男が走っていて、その後を3人の荒くれ者っぽい大柄の男達が追っていた。悲鳴は荒くれ者が路上のカフェの机や椅子を薙ぎ倒しながら追っているからのようだ。


「アリナ、関わり合いになるのはよそう」


「でもお姉ちゃん、あの人は占い屋の通りに逃げてくみたいだよ。ナシュリさんの店やうちの学生に被害が出るかもしれない」


 アリナの言う通りフードの男は占い屋が建ち並ぶ通りに入っていて、荒くれ者もそれを追って入って行く。狭い通りで他の人達に被害が出る可能性は高い。


「介入するのはいいけど、どっちを援護するの?」


「もちろん少年の方」


 万が一にフードの男が悪い可能性もあるが、その場合はそちらも捕まえればいいと思い、スミナはアリナの案で行く事にした。


「あたしが先回りするから、お姉ちゃんは後ろから援護して」


「分かった」


 アリナはそう言いながら既に屋根の上に魔法で飛んでいた。スミナも置いてかれないように人にぶつからない程度に素早く3人の男達を追う。占い屋の通りも女性の悲鳴が各所で上がり、その声で男達がどこら辺にいるか分かった。流石に無差別に乱暴はしてないようで、怪我人は見当たらない。

 スミナはアリナの位置で、フードの男が狭い路地に曲がって逃げているのが分かる。とりあえずナシュリの店の方から離れたのでスミナは少し安心した。


「ここまでだ。もう逃げられないぜ」


「親分はお怒りだ。ただで済むと思うな」


 路地に入ると男達の下卑た声が聞こえてくる。1人の男が追ってきたスミナに気付き近付いて来た。


「嬢ちゃん、俺らは取り込み中だ。怪我したくなかったらあっちに行きな」


 本当に分かりやすい小悪党だとスミナは思った。路地には逃げた男と追ってる男達しかおらず、人目も無さそうな場所だった。スミナはアリナが屋根の上で待機しているのが分かる。


「分かりました」


 スミナはとりあえず反転してアリナのタイミングを見計らう。数歩進むと空から何かが降って来た。


「何だ!?」


 男達の頭上から黒い大きな布が降ってきて、男達を全員包み込んだ。アリナの魔力で作った布だ。スミナは振り返って睡眠の魔法を手前の男にかける。アリナも落下しながら残り2人に睡眠の魔法をかけた。そして着地したアリナはそのまま魔法でロープを作り、男達を布ごと縛り上げる。


「これで30分ぐらいはこのままだよ」


「助かったよ。凄いね、君達は」


 フードの男が寄ってくる。


「動かないで。追われていた訳を正直に話して下さい。わたしはあなたが問題を起こしていたなら衛兵に突き出します」


 スミナは剣を抜いてフードの男を威嚇する。アリナが動いていないので、それほど危険な人物では無いようだとスミナは思った。


「用心深いね、いい事だ。俺はトミヤ・パスリ。ちょっとは名の知れた情報屋だ。裏町にヤバい薬物を扱う店があるって噂があってね、ちょっと探りを入れたらヘマしちまった」


 男はフードを下ろし、顔を見せる。背丈から少年かとも思ったが、声も顔も整った黒い短髪の青年だった。が、スミナは少し違和感を感じる。


「もしかしたら、女性の方ですか?」


「うーん、その質問には答えられないな。俺は年齢性別不詳でやってるんで」


 トミヤのその答えから恐らく女性なのだろうとスミナは思った。情報屋とは様々な情報を仕入れ、それを必要な人に高値で売る商売だ。恨みも買うし、今みたいに追われもする。そういった職業上舐められないように性別を不詳にしているんだろう。


「情報屋なんて始めて見た。面白いね、お姉ちゃん」


「面白くは無いでしょ。まあ、とりあえずあなたの言い分を信じます。今後は町の人に迷惑かけないように騒ぎを起こさないで下さい」


 スミナは深く関わる気も無く、時間も時間なので立ち去ろうとする。


「なるほど、君達が噂の双子か。そりゃ強いわけだ」


「わたし達の事知ってるんですか」


「お姉ちゃん、多分小出しに話を合わせてこっちの情報を引き出そうとしてる」


 アリナの忠告でスミナはトミヤが少しニヤリとしたのに気付く。


「まあ、今回の件のお礼ぐらいさせて欲しい。多分君達は学校襲撃の情報も欲しいだろうしね。ここに明後日の16時ぐらいに来て欲しい。食事を奢るよ」


 トミヤが小さなメモに寮の近くの店の名前を書いて渡してきた。


「行かないかもしれませんよ」


「別にそれでもいいさ。では、俺も長居すると捕まるので消えるとするよ」


 トミヤが足早に去っていく。双子も暴漢が起きる前に路地を出て、裏町からも日が暮れる前に立ち去るのだった。



「どうする?あの情報屋に会いに行く?」


 帰宅してようやく落ち着くとアリナが聞いてくる。


「学校襲撃の情報を持ってるなら知りたいとは思う。でも、怪しい人だから近付かない方がいいとも思う」


「少し心配し過ぎじゃない?ここの近くで会うんだし、会うだけなら危険は無いと思うよ」


「そうかなあ」


「こういうコネがあった方が後々便利だったりするかもしれないし」


「一応明日まで考えさせて」


 スミナはその日は行くかどうか保留する事にした。


 翌日は普通に学校に行き、寮の部屋に戻ってきてスミナは結論を出した。


「やっぱり会いに行こうと思う。トミヤさんが無事かの確認もしておきたいし」


「そっか。うん、それがいいと思うよ」


 アリナが笑顔で答える。スミナは翌日の放課後にアリナと待ち合わせ場所を決め、学校帰りにそのまま会いに行く事にした。


「よかった、来てくれないかと思ってたよ」


 双子が約束の時間にメモの店に行くと、店の前にトミヤは立っていた。エルは使い魔形態だと店に入れないので、また宝石形態になってもらっていた。


「助けた手前、その後どうなったか聞かないと落ち着かないので」


「おかげで逃げ切れたし、しかるべきところに情報を売って身の安全も確保出来たよ」


「それはよかったですね」


 スミナはなるべく感情を出さずに答える。


「今日は俺の奢りだから好きなだけ食べてってくれ」


「やったー」


「今回はお言葉に甘えておきます」


 双子はトミヤに連れられ店へと入った。その店は薄暗く、客もまばらで静かだった。だが、意外と居心地がいいとスミナは感じた。

 トミヤは常連なのか、店員に軽く挨拶すると奥の方の誰もいない席に勝手に歩いていく。進められるまま双子はトミヤと向かいの席に着いた。まずは注文をし、店員も水を運び終わると話が聞こえない距離に離れていった。トミヤがそういった客と話すのに使っている店なのだろう。


「まずは再度自己紹介を。俺は情報屋をやってるトミヤ・パスリ。家はカップエリアの方で、ワンドエリアには仕事でたまたま来てただけだ。王国のお偉いさんや貴族とかの表の仕事から、裏の仕事まで手広くやってる。けど、あくまで合法的な仕事しかしない。なんか欲しい情報がある時は裏町のニニナに伝えてくれれば呼び出せるんで今後ともよろしく」


「そうですか、わたしとしてはあまり関わる気はありません」


「そうそう、君達についても再度調べさせてもらった。

ノーザ地方の領主、アイル家の双子の姉妹で、スミナ・アイルとアリナ・アイルさん。今は戦技学校の1年生で2人とも魔法騎士科。両親は魔族大戦の英雄で、お兄さんも戦技学校を首席で卒業して、今は王国の金騎士団で活躍中。

そして、スミナさんは道具の使い方が分かる祝福ギフトを、アリナさんは魔力を物体化する祝福ギフトを持っていて、地元や旅行の最中にモンスター退治などで有名になっている。そしてこの間の学校襲撃事件でもデビルを2人で撃退した有名人だ」


「よく調べていますね」


 正直ここまで知っている人はそんなにいないだろうとスミナは思った。情報屋の情報収集能力は思ったよりも高いのかもしれない。


「いやいや、ここまでなら誰でも調べられるよ。重要なのはここから。2人は王国の特殊技能官のアスイと連絡を取り合い、何らかの仕事を受けている。つまりはこの国が魔導結界で守られている事を知っていて、国の安全を守る為に協力していると俺は思っている」


 スミナはトミヤが魔導結界の話までしたので、驚きを隠せなかった。


「俺もアスイとは仕事をした事がある仲だ。その点は本人に聞いてもらっても構わない。そして一般人が知らない王国の状態も知っている。

だから俺も自分なりにこの国の為に動いてるんだ。少し位は信用して貰えないかな」


「そこまで言うのなら、今まで話した内容については信じます。信用はしませんが、話を聞く耳は持ちましょう」


「なるほどね、いい判断だとは思う。けど、そういう対応だけだと世の中渡ってくのは大変だよ」


「お姉ちゃんはこういう所変わらないから」


 トミヤの言葉にアリナが理解を示す。スミナももうちょっと柔軟にならないととは思うのだが、そうすると騙されそうだと思ってしまう。


「俺としては今後も君達と仲良くしていきたい。なので、この間の学校襲撃事件について、国も学校も掴んでない情報を持ってきた」


「ぜひ聞かせて下さい」


「と、話す前に食事が来たようだ。まずは料理を食べてからにしようか」


 店員が注文した料理を運んできたので話は中断する。料理は美味しかったが、話の内容が気になってスミナは十分に味わえなかった。


「それで、情報って何なんですか?」


 食事も食べ終わり、皿が片付けられて、食後の紅茶が運ばれてきたのでスミナは切り出す。


「申し訳ないが、ここからはビジネスの時間だ。ただで情報を話す事は出来ないよ」


「いくら?多分学校や国が出してくれるから、金額を教えてよ」


 アリナも勿体ぶられるのが嫌なようで、ストレートに交渉する。


「沢山お金を貰いたいところなんだけれども、そうも言っていられなくてね。俺を助けてくれた時の腕前を見て、ちょっと頼みたい事があるんだ」


「いいよ、何でもやってあげるから」


「アリナ、そんな簡単な話じゃないかもしれないし、話を聞かないと」


 無理難題を押し付けられるのは困るとスミナは止める。


「そうそう、話はきちんと聞いてもらった方がいい。

実は一昨日の薬物もそうなんだが、裏社会で色々問題を起こしている貴族がいてね、その証拠が欲しいんだ。裏社会って言ってもルールがあって、やっていい事と悪い事がある。だが、この貴族が中々尻尾を出さなくてみんな困ってるんだよ」


「わたし達にそんな難しい仕事をやらせる気ですか?」


「仕事自体は簡単なんだ。あと一歩というところまでは来てるんだ。だけど、その先が難しい。

と、これ以上は引き受けてくれるか決めてからじゃないと話せない」


「お姉ちゃん、あたし達なら出来るよきっと」


「アリナ、まだトミヤさんがわたし達を騙そうとしている可能性だってある。もし失敗して何か問題になったらわたし達だけじゃなく、お父様達にだって迷惑がかかるかもしれない」


 スミナは情報の為だけに危険な仕事を引き受けるべきでは無いと思った。


「スミナさん、それは正しい。で、俺も頼むには押しが足りないと思っていた。それでちょっとだけ加勢して貰おうと人を呼んでいるんだよ」


 トミヤが手を上げると店の反対側の壁際に座っていた人物がこちらにやって来る。その人物もフードを被っており、フードを下ろすとスミナ達の知っている顔が現れた。


「お嬢様、このような形でお会いする事になって申し訳ないです」


「メイル?なんで?」


「まずはメイルも座ってもらって。実は俺とメイルは古くから付き合いがあってね、今回の話も色々とやり取りをしていたんだ」


 トミヤは見た目は若い男性に見えるが、想像よりも歳をとっているのかもしれないとスミナは思う。メイルは学校襲撃事件の少し前から別の仕事で忙しくなっていた。洗濯などの必要最低限のお世話以外では双子も顔を合わせる機会が減っていた。ただ双子達も学生生活で忙しいのもあり、メイルの事はそれほど気にしてなかった。


「まず最初に、今回の件は本当はお嬢様達に関わって欲しくないと思っておりました。あと、トミヤとは友人関係で、胡散臭いしお金にがめついですが、嘘は言わないし、悪事に加担する人物ではありません」


「分かった。メイルの言う事なら信じられる。それで、メイルは今は何をしているの?」


 スミナはメイルが動いているという事は恐らく父のダグザの命令で何かしているのだと予想している。


「事の発端はアイル家の領地であるノーザ地方のとある貴族が急に羽振りがよくなった事でした。その後、その貴族から良からぬ噂が立ち始めて、裏社会での問題との関りがあるのではと国が調査を進めました。ですが、その貴族は立ち回りが上手いのか、何も証拠が出なかったそうです。

ダグザ様も領主という立場の為、身内の問題を解決すべく個別に調査を進め、私もその協力をしておりました。そして今はトミヤとも色々と相互で協力しているんです」


「俺もメイル達もあと一歩のところまでは来たが、ここからが少々俺達では難しい事になっていた訳だ。そんなところに丁度適役の君達と運命的な出会いがあったと。

情報っていうのは鮮度が大事だ。ぐずぐずしていると取り返しがつかない事になったりもする。俺としては協力して貰えればお互い利益があると思うがどうだろう?」


「お姉ちゃん、メイルやパパの役に立つなら受けてもいいんじゃない?」


「分かりました、話を聞かせて下さい。ただ、学校襲撃事件の話が仕事の内容に伴わない程度の話だった場合は逆にお金を請求します」


 アリナは既にやる気のようで、ここで自分だけ反対しても周りが困るだけだろうとスミナは結論付け依頼を受ける事に決めた。


「そこは心配してないからそれでいい。よし、契約成立だ。詳しい話を進めようじゃないか」


 トミヤが握手を求めたのでスミナはその手を握り握手した。思ったよりほっそりした綺麗な手だった。そして、双子達は情報屋との仕事を開始したのだった。

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