13.呼び出された男
魔族の学校襲撃事件はその日のうちに収まったが、事件の影響を受け翌日戦技学校は休校となった。双子が見ていない場所も教師達の働きにより何とか収まっていた。被害としては重傷者は出たものの、死傷者を出さずに済んだのは運が良かったと言える。
でなるべく外出も控えるように言われた双子は寮の部屋で昨日の事を考えていた。
「アリナは昨日のレオラが転生者って言ったのは本当だと思う?」
「分かんないよ。でも、あいつはあたし達の事バカにしてた。あいつからは何の危険も感じなかったんだ。こっちを攻撃しようって気がまるで無かったんだよ」
「そっか、だからわたしが攻撃される直前までアリナもレオラが首謀者だって分からなかったんだ」
スミナは相手が殺す気だったら真っ先にアリナが気付いた筈だと理解する。
「あいつはアスイ先輩が来た時でさえ戦う気配を見せなかった。こっちの戦力は分かってるみたいに。お姉ちゃんは悔しくないの?」
「悔しいとは感じないかな。生徒達を襲った事は許せないけど。
それより、アスイさんの事をアスイ先輩って呼ぶ事にしたんだ」
「何となく、この呼び方ならあまり気にならないかなって。実際に先輩なんだし」
アリナなりの複雑な気持ちの表れなのだとスミナは理解した。そんな会話をしていると“コンコンッ”と扉がノックされる。
「はい、今開けます」
用心の為に鍵を締めていたのでスミナが開けに行く。
「こんにちは。スミナさんとアリナさん、お2人とも学校から呼び出しがありました。15時に第1会議室に行ってもらってもいいかしら?」
「了解です、わざわざありがとうございます、ナミル先輩」
学校からの言伝を持ってきたのは寮生代表のナミルだった。寮に入ってから色々教わった、面倒見のいいややふっくらした先輩だ。
「色々話は聞いてるけど、あまり危険な事はしないでね」
「分かりました」
「またねナミル先輩」
ナミルはそれだけ伝えて帰っていった。
「多分昨日の事だね」
「話が長くならなければいいなぁ」
アリナの希望はかなわない事になる。
15時になり学校の第1会議室に入ると、そこにはアスイとザトグ校長と担任のミミシャが座っていた。会議机を挟んで向かいの席に案内されて2人は座る。流石に使い魔状態のエルは連れて来ずに部屋に置いて来ていた。
「来て貰って助かります。まず最初に2人の事は校長とミミシャに話してあります。校長は元々転生者である事は知っていましたし、ミミシャにも知っておいてもらう必要があると、私の判断で話をさせて貰いました」
「了解しました。わたしもそれでいいと思います」
「あたしはそこら辺は任せます」
アスイの話にとりあえず双子は納得する。騒ぎが起こった以上、担任であるミミシャが何も知らないままではいられないのは確かだろう。
「わしからも話をしていいかな。
まずは昨日の君達の行動に校長として感謝する。君達が戦ってくれなければもっと被害が出ていただろう。
それで、事の経緯を最初から包み隠さず教えて欲しい」
「分かりました」
ザトグに頼まれてスミナはアリナと共に昨日の事件について知っている限りの情報を全て話した。途中で詳しく聞かれる部分もあり、かなり説明に時間がかかった。
「ありがとう、よく分かった。
さて、問題点が何点かあるな。まずは学校側の話からさせて欲しい。学校には不審者などの侵入者に対する監視、警報の魔法が各所に設置してある。しかし、昨日はそれが作動しなかった。これはどういう事だろうか」
「それについては私が説明出来ます。デビルは魔法に対する知識がかなりあり、襲撃にあたって最初にそういった装置を狂わせたのだと思います。過去にそういった事例がありました」
ザトグの疑問にアスイが答える。アスイの言う事が正しいのなら、学校の警備体制はデビルには何ら効果が無いという事になる。
「なるほど。まあ、あくまで人間に対する警備体制だったのでそれを悔いてもしょうがないな。
次の問題点はどうやって侵入したかだな。学校への外部からの侵入は先ほどの警備と同様の話とする。
だが、王都への侵入、更に大きな話でこの国への侵入をどうしたかは別問題となる。魔族が元々王国内にいた、というなら分からなくはない。が、王国外部から魔導結界を破って入って来たとなると話は変わるだろう。
君達の話だと相手はゲートのようなものを作って、そこからデビルを呼び、自らもそこから帰ったという。そうなると恐らく魔導結界の外から来たという事になる。そんな事はありえるのかね?」
「私もそこが一番の問題点だと思います。相手のデビル、レジーナは明らかにこちらの情報を持っていました。既に魔導結界の解析か、魔導結界を通り抜ける方法を見つけたと考えるのがいいでしょう。
ただ、魔導結界自体はまだ破損した様子は無く、国内で他に魔族から襲撃された話はまだありません。今すぐ一気に攻め込まれる可能性は低いと考えています」
アスイの話はもっともだが、昨日のレオラの話し方や態度を見るに、単純にまだ手を抜いているだけかもしれないとスミナは思った。
「最後の問題点はそのレジーナというデビルの事だな。わしも魔族の女王に位置する者がおるという噂は聞いた事がある。が、実際に目にした者は今までいなかった。
そしてそのレジーナは自分がレオラという転生者だと名乗ったと。今まで人間以外に転生者が生まれたという話はどこにも記録されておらん。これに関しての真偽をわしは不明としたいと思う」
「すみません、少しだけ話を聞かせて下さい。私は転生者という存在と、その強さに関してはアスイの件で少しだけは知っています。その転生者が魔族だと問題があるという事ですか?」
今まで黙って聞いていたミミシャが初めて質問する。恐らくこの中で転生者についての知識が一番無いのがミミシャなのだろう。
「私から説明させて下さい。
王国に代々伝わる話で、転生者は世界の危機に対して、それを救う為に転生した人間だと伝えられています。残っている過去の転生者の記録も全てそれと一致し、例外はありませんでした。
そして、転生者には他の者とはかけ離れた能力と特別な祝福が与えられます。それこそ1人で歴史をひっくり返せるほどの能力です。ミミシャもスミナさんとアリナさんが普通の生徒と大きく異なる事を実感していると思います」
アスイの話を聞いて、スミナは自分が転生者として実力不足なのではないかと思ってしまう。クラス内での戦いでも負け、デビル相手でも自分一人では何も出来なかったと。
「もしレジーナが言っていた事が事実だとしたら、それは大きな脅威となります。魔導結界が破られたのも相手が転生者ならあり得る話だからです。それに学校を狙ったのも転生者がここに集まっていて、それを潰せば人間に勝ち目が無い事を分かっているからでしょう」
「つまり、わたし達がここにいる事が学校を危険に晒すという事ですよね」
スミナは思った事をそのまま口にする。回りくどい話になるよりはいいと思ったからだ。
「確かにそういう事になります。ですが、どこにいようとも魔族は狙ってきます。魔導結界を張る前は常に私も狙われていました。ですから、私はこの国で一番戦力が集まっている王都にいてもらいたいと思います」
「私も言わせて下さい。生徒が狙われているから学校を辞めてもらうというのは正しくないと思います。そもそもこの学校は魔族と戦える生徒を育成するのが目的です。魔族との戦いを避けるのは逃げ出す事と同じだと思います」
ミミシャがいつになく力説する。
「ミミシャ先生、貴方の気持ちは分かった。わしも君達に学校を辞めて貰ったり、特別な護衛を付けて授業を受けて貰おうと考えてはおらん。ただ、危険があるのは確かだろう。その為の対策を講じねばならんな……」
ザトグが顎髭を触りながら考える。
「わたしから一ついいですか。今回の襲撃はわたし達の事も、学校の作りも魔族に漏れていたと考えられます。恐らく学校内か近くに魔族が潜んで情報を探っていたのかと。レオラは生徒に化けて罠を仕掛けていました。もしかしたら生徒の中に変身したデビルがまだ混ざっているかもしれません」
「その件については了解した。全生徒と教員に変身確認の魔法をかけるよう手配しよう。が、スパイがいたのならもう逃げている可能性もある」
「私も王城や研究施設に魔族が入り込んでないか再確認するよう王に進言しておきます」
スミナの話にザトグとアスイが対策案を出す。話が大きくなってくるが、今回の事件はそれほど大きな事なのだろう。
「校長、生徒の自衛の為に武器や魔導具の持ち込みを許可してはどうでしょう。戦時中はそのようにしていたと聞いています」
「そうだな。生徒間の争いが生まれる恐れはあるが、いざという時に戦える備えはあった方がいい」
ミミシャとザトグが更に話を進める。そこからは今後の学校の対策の話になり、双子達は寮に帰ってよいという話になった。
「何でこんなめんどくさい事になるんだろう。あのレオラって女、今度会ったらぶっ殺してやる」
「それが出来れば簡単なんだけどね」
帰り道の学校の廊下でスミナは怒っているアリナをなだめるように言う。
「お姉ちゃんも他のみんなも難しく考え過ぎだよ。やられたらやり返せばいい。一旦魔導結界を解いて、レオラを倒せば相手が転生者かどうかなんて問題じゃなくなる」
「まだ魔導結界を抜けられたのがレオラが居たからと断定出来ないし、結界の外で探すのは大変だと思うよ」
「でもこのままじゃ一生怯えて過ごす日々だよ」
アリナの言う事は一部は正しいとスミナも思う。ただ、こちらから打って出るには手段が無さ過ぎる。スミナは魔道具や過去の記憶をもっと調べ、有効な策を自分も考えないとと思うのだった。
翌日も学校は休校で、昼頃にようやく生徒と付近の住民への正式な事件の発表がされた。発表の内容は以下のように書かれていた。
・6月15日の午後、学校内に魔族が現れ、生徒が襲われる事件が発生した。これに対して教師と一部の生徒が対応し、全ての魔族を撃退する事が出来た。
・一部の生徒が魔族により重傷を負ったが、現在治療中で回復が予想される。被害を負った生徒の治療に関しては学校が責任を持って対応する。
・学校外の被害は確認出来ず、どこから魔族が侵入したからは国の調査隊と共に調査中である。詳細が分かり次第発表をする。
・しばらくは学校の警備を厳重にし、授業は6月18日より通常通り再開する。
・学生の安全を考え、生徒の武器と魔導具の持ち込みを許可する。ただし不用意な武器や魔導具の使用は退学処分を検討するので十分注意する事。
・魔族との実戦を考え、一部の授業内容を実戦に対するものに変更する。また、その為の臨時講師も増員する予定である。
発表された内容を見て、双子と隣室のレモネとソシラは集まって話をしていた。
「なんか凄い事になってますね。私達は学校を出て寮に戻っている最中だったので騒動を見てないんです。スミナさん達は昨日学校に呼ばれてましたよね」
「噂では聞いてると思うけど、わたし達は他の生徒を助ける為に魔族と戦って、その説明をしに呼び出されたの。少しだけ強いモンスターと戦った経験があったから怪我せずに済んだけれど」
「どんな魔族?」
ソシラが興味津々で聞いてくる。
「デビルだよ。角があって羽があって、肌がゴツゴツしてるヤツ。確かに強いけど、頭は良くなかったかな」
「デビルを倒したんですか?」
レモネが驚く。デビルの強さについては知っているようだ。
「先生たちと協力してだよ。数が少なかったし、運が良かったんだと思う」
スミナはアリナが余計なことを言う前にそれらしい答えをした。
「でも、戦争が終わって魔族は殆ど出なくなったと思ってました。突然、しかも学校に出るなんて不思議ですね」
「私も魔族の話は聞いた事無い……」
2人は魔導結界の事を知らないから、事態を深刻にとらえてないようにスミナは感じた。
「優秀な生徒が多いから狙ってきたのかもよ」
「学校には珍しい書物や魔導具もあるから、それが狙われたのかもね」
アリナが本当の事を匂わせるのでアリナを睨みつつスミナは誤魔化す。
「でも武器や魔導具の持ち込みが出来るのは嬉しいです。制服だけだとなんか落ち着かなかったんで」
「身の安全は大事……」
「そうだね、備えてればとりあえず命の危険は減らせるから」
スミナはそう言いつつも学校が再び戦場になるのは避けたいと思っていた。
学校が再開してから数日は学校内は異様な雰囲気になっていた。事件を受けて学校を退学する生徒も現れ、誰が襲われたとか、どんな魔族がいたとかの噂が飛び交っていた。双子達の話も話題になり、学校内では更に目立つようになってしまった。
警備強化として校門や廊下に国の騎士が派遣されて立つようになり、監視用の魔導具も各所に設置されていた。全生徒の変身確認のチェックも順次行われたが、魔族が紛れていたという話は結局出なかった。
実技の授業も本格的な魔族との戦い方を見据えるようになり、加えて変身確認の魔法も全生徒に教えられた。武器や魔導具の持ち込みが可能になった事で学生同士の喧嘩が増える恐れがあったが、魔族の襲撃後だったので生徒達は冷静になっていた。
1週間が経っても魔族が再び襲撃する事は無かった。周囲の雰囲気も少しずつ元に戻り、生徒の緊張感は減っていた。ただ、教師に関しては事態が収まったとは思えず、変わらず不安な日々を送っていた。
双子は敵の襲撃に備えながらも逆に充実した日々を送っていた。周囲に注目された事で、目立たない事を諦めて本気で実技の授業を行うようになったのもスミナには大きかった。
その日も実技のテストがあり、スミナは朝から気合を入れて登校していた。校門をくぐろうとしたところ、学校の前に制服姿の生徒に混じって怪しい人物をスミナは見つける。その男性はおぼつかない足取りで学校の校門に近付いていた。酔っ払いだろうとスミナは思いアリナには言わずに早足で近付く。
「すみません、学校は関係者以外立ち入り禁止ですよ」
スミナは校門で呼び止められる前に男性に話しかけて注意した。よく見ると酔っ払いでは無いようで、30代後半から40代ぐらいのくたびれたおじさんだった。ボサボサの頭に無精ひげ、身体は貧相で服もよれよれで見るからにだらしない。スミナは教員の顔は一通り覚えているので教員で無い事は確かだった。
「あ、いや、自分は……」
男性がしどろもどろに言い訳しようとする。煮え切らない態度にスミナは少し苛立ちを覚える。
「今は襲撃事件があってただでさえ忙しいのです。警備の方の手を煩わせないようお願いします」
男性の顔をよく見ると目は落ち窪み、生気が薄い。スミナは無気力な男性が嫌いだった。学校の関係者だとしても、学校に入ってきて欲しくないと感じる。
「スミナさん、その方は……」
と、背後から声をかけられ、見ると追い付いたアリナと一緒にレモネとソシラが立っていた。
「オルトさん、ですよね?」
「ああ、まあ、はい。ちょっと学校に呼ばれて……」
レモネが話しかけると男性は頷いてごにょごにょと喋った。
「スミナさん、この方は学校の卒業生で優秀な成績を収めた方なのですよ」
「そうなんですか。すみません」
「いや、別にいいよ。じゃあ……」
スミナはとりあえずレモネが知っている人だったので不本意だが謝った。オルトと呼ばれた人物はどうでもいいような反応をし、またおぼつかない足取りで校門へと向かった。校門で警備の騎士と話し、中にそのまま入れたので呼ばれたというのは確かなようだ。
「レモネさん、誰なの今のおじさんは」
「昔はあんな感じじゃ無かったんです。あの人はオルト・ゴロフといって、騎士団長のターンさんと学校の同期で首席卒業生です。小さい頃に父が商会の護衛をお願いした事があって、その時はもう少し騎士らしい姿でした」
「ターンさんと同期の卒業生ですか。その頃の卒業生の名前は確かに知らなかったです」
スミナは今のくたびれたおじさんが首席卒業とはとても思えなかった。自分の父親より若い筈なのに、父親の方が若々しく感じる。
「変なおっさんだったねー」
「でも、もう会う事も無いでしょう」
スミナはアリナにそう答えたが、そうはならなかった。
「今日の授業には特別な講師をお呼びしました」
実技の授業、笑顔のミミシャの横には朝に出会ったオルトの姿があった。
「オルト・ゴロフです。宜しくお願いします」
オルトの姿を見てスミナはあからさまに嫌な顔をしてしまう。服は動きやすい恰好になってはいたが、髪も髭もそのままで、見るからにやる気が感じられない。
「知っている人もいると思いますが、オルトさんは学校を首席で卒業し――」
「ミミシャ先生、その話は別に……」
「そうですか、すみません。とにかく、オルトさんは魔法技に関して私よりずっと優れています。今日は皆さんの技を見ていただき、アドバイスを頂こうと思います」
ミミシャはオルトに全幅の信頼を寄せていそうだった。どう見ても現役を引退したようなオルトにそんな実力があるとはスミナは思えなかった。流石に学校の方針にまで口出しするつもりはなく、スミナは自分の実力を見せるまでだと思った。
「今日は各自が今使える最高の魔法技を出してみて下さい。それを見て見どころのある生徒は評価し、修正が必要な生徒には指導します」
ミミシャが今まで通り教師として話を進め、オルトはそれを後ろから見守っているだけだった。順番に生徒が魔法技を見せていき、ミミシャが気になる点があるとアドバイスをした。オルトが口を挟む事は殆ど無く、スミナはいる意味が無いのではと思った。
そしてスミナの番が回ってきた。スミナは練習して来た、今の自分が使える最高の魔法技を披露する。目標のダミーの人形に対して目の前に高速移動し、フェイントをかけて後ろの回り込みつつ斬撃を何発も当てる技だ。スミナはそれを現時点の最大限の技術で行った。終わると見ていた生徒達から「おおーっ!!」と歓声が上がった。
スミナの魔法技についてミミシャもオルトも何も口出しせずに終わった。スミナは自分の実力が見せられたと満足したのだった。
その後見せたアリナの魔法技は粗削りだがインパクトがあり、またもや生徒から歓声が上がっていた。スピードと威力を合わせた突進技は魔力が豊富なアリナだから出来る技だとスミナは思った。他にも華麗な動きで翻弄するマミスの魔法技や小柄な体躯を活かしたレモネの魔法技も実力が他の生徒より抜き出ていて歓声が上がっていた。
生徒が一通り魔法技を披露し、ミミシャは全員に向けての簡単なアドバイスをする。そしてオルトに話を振った。
「えーと、皆さん基本は出来ているようなので、それを忘れずに毎日鍛錬して下さい」
オルトは当たり前の事を言うだけだった。
「オルトさん、誰か見どころのある生徒は居ましたか?」
「えーと、キミとキミとキミは学生とは思えない良い動きをしていたと思う」
ミミシャに言われてオルトが指差したのはアリナとレモネとマミスだった。スミナは自分が選ばれなかった事に不満を感じる。アリナと比べると実力不足なのは認めるが、他の2人よりは上手く出来たと思っていたからだ。
スミナが不満を感じたまま、授業は続き、何事も無く終わった。
「あの、すみません。オルトさん、少し話を聞かせてもらっていいですか?」
授業が終わるとスミナは真っ先にオルトの元へと向かう。オルトが適当に人を選んだんじゃないかとスミナは確認したかったのだ。
「あ、えーと、いいよ」
オルトが答え、横にいるミミシャも何も言わなかったのでスミナは話を続けた。
「わたしの魔法技も見ていただいたと思います。わたしとしてはオルトさんが選んだ3人と遜色ない出来たったと思うのですが、何か問題があったのでしょうか?」
スミナは語気荒めに質問した。
「スミナさん、あくまでオルトさんが気になった人を選んだだけですから」
「ミミシャ先生、大丈夫です」
フォローしようとするミミシャをオルトは遮る。
「スミナさん、ですね。確かにキミの魔法技は高度な技術だとは思う。だが、キミの体格と魔力を考えるに無理をしているようにしか感じない。キミはもっと自分に合った魔法技を探した方がいい」
「オルトさん、本当に分かって言ってるんですか?適当な事を言ってるんじゃないですか?」
そうスミナは言いつつも、気にしていた部分を突かれて苛立ちが隠せなかった。魔力消費を減らし、攻めより守りを重視した戦い方を目指すべきかとスミナもどこかで考えていたからだ。
「スミナさん、それぐらいにしましょう。魔法技については今は色々試していく時期なので」
「オルトさんは本当に魔法技に詳しいんですか?ならオルトさんが手本を見せて下さい」
スミナは珍しく昂った感情が止められなかった。自分の魔法技は理想としている白銀の騎士の魔法技を目指して練習していたからというのがあったからだ。
「自分はもう剣を握らないと決めたから……」
「何ですか、それ」
「スミナさん!!
オルトさんは本当に誰よりも魔法技に詳しいんです。それより次の授業が始まりますよ。相談なら私が受け付けますから」
「ごめんなさい。もう行きます」
ミミシャが見せた事の無い悲しそうな表情を見せたのでスミナはようやく冷静さを取り戻せたのだった。
「お姉ちゃんの魔法技、あたしは凄いよく出来てると思うけどねー」
放課後の帰り道、落ち込んでいるスミナをアリナが慰める。
「でも、あのおじさんが言ってる事は当たってる部分があった。アリナはあの人が本当に強いマジックナイトだと思う?」
「どうだろ。少なくとも今の感じだと全然強そうじゃないよね。でも、昔は強かったみたいだし、実は白銀の騎士があのおっさんだったりして」
「冗談でもそんな事言わないで。年齢ももっと若い筈だし、もう剣を握らないって言ってるから絶対に違うはず」
スミナは理想の白銀の騎士があんなくたびれたおじさんのはずが無いと確信していた。
「ごめんごめん。でも、強かったって言うなら魔法技を見てみたいとは思うなー」
「ミミシャ先生もなんであそこまで持ち上げてるんだろう」
スミナはオルトを特別講師として迎えた意味が無いと今も思っている。
「初恋の人だったとか?ミミシャ先生の少し年上ぐらいだし、2人ともここの卒業生だし」
「それは無いでしょ、絶対」
「そりゃそっかー」
ミミシャは未婚で美人なので、狙っている先生がいるとスミナは聞いた事もあった。相手が選び放題のミミシャがオルトを好いているとはとても考えられなかった。
それから数日間、スミナは自分の魔法技について悩み続けた。いくら悩んでも答えは見つからず、魔法技をもっと使いこなせるよう鍛錬の時間を増やすだけだった。