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12.もう一人の転生者

 クラスの最強を決める試合の後、双子やレモネ達を見るクラスメイトの視線は変わっていた。今まで声をかけられた事の無かった人から声をかけられたり、逆に距離を取られるようになったりした。その中でも特にマミスとその取り巻きからは嫌がらせこそ無いものの、明らかに敵意のある態度が取られるようになった。スミナは少し心配だったが、アリナが今まで通り強気な態度でいてくれたのでしばらくするとそういった変化は自然と薄れていった。


 そうして学生生活に慣れて来た頃にアスイから依頼の連絡があった。スミナとアリナの両方が呼び出されたが、アリナはその日友達と用があるからと、すっぱり断った。スミナは最初の依頼という事もあって、断るのは気が引けて、人間形態のエルと一緒にアスイの元へと向かった。


「忙しい中、来て頂きありがとうございます。アリナさんには、また今度お願いする事にします」


 アスイと会ったのはワンドエリアにある大図書館の一室だった。アスイが部屋を借りていて、部屋には他に誰も来ないらしい。席を勧められてスミナとエルはアスイの正面の席に座る。大図書館には来た事があったが、こんな立派な個室があるのは知らなかった。


「妹がすみません。もう少し大人になれば依頼も受けてくれると思いますが」


「まあ、今日の頼み事はスミナさんに特に見てもらいたかったので、大丈夫ですよ。ところで、お隣の可愛い女の子は誰ですか?どこかで会った気もしますが」


「そうですね、紹介して無かったですね。この子は古代魔導帝国の遺産で、魔宝石マジュエルのアルドビジュエルです。呼び辛いのでわたしはエルと呼んでいます。エル、ご挨拶を」


「はい、ワタシは魔宝石のアルドビジュエルです。よろしくお願いします」


「エルちゃんでいいかな、宜しくね。あの時スミナさんを守った子ですよね。私も魔宝石を見るのは初めてです。どこで見つけたのですか?」


 アスイに聞かれてスミナは遺跡でエルを見つけたまでの経緯を簡単に説明する。


「あんなところに魔宝石が眠ってたんですね。確かにその遺跡発見の報告はありましたが、残っていた魔導機械で有用な物はありませんでした」


「運が良かったんだと思います」


 スミナはあの遺跡で他にも持ち帰った魔導具や魔導書をメイルに王都の屋敷に置いて来てもらった事を思い出した。結構希少価値が高い物があったので今度確認しに行こうと思った。


「それで、今日の依頼はその遺跡調査に関連した話なんです。この魔導具が作られた遺跡の場所を調べて欲しいんです」


 アスイが何かが包まれた布を開くと、そこには小さな魔導具が入っていた。見たところ、何かの魔法を発動させるものに見える。


「これは魔導結界を発動させる魔導具の一部です。これ単体では小さな魔導結界しか作れませんが、古代魔導帝国はもっと大きな魔導機械に進化させて使っていたようです。私が魔導結界を張れたのは祝福で同じような魔導結界を張る魔導具を取り込んだからです」


「その魔導具を見つけた場所が作られた場所では無いんですか?」


「この魔導具はコレクターだった昔の大魔導士の蒐集品の中から見つかったもので、それ以前にどこにあったかが分からないんです。もし製造していた場所が分かれば、今の魔導結界を強化したり、改良したり出来るかもしれません。逆に、魔族にそれが見つけられるとすぐにでも魔導結界が破られる可能性があります」


「そういう事でしたら、分かりました。その道具の記憶を見てみます」


 アスイの説明を理解し、スミナは置かれた魔導具に触れる。それが魔導結界を張る道具だという事はすぐに理解出来た。スミナはもっと深く、魔導具が作られた時代の記憶を覗き込んだ。


「クリキさんのおかげで簡易型ですが魔導結界発生装置が完成しました。ありがとうございます」


「いやいや、これではまだ一時しのぎにしか使えない。改良案を出してもらってるから、頑張るのはこれからだよ」


 完成した魔導具が複数並んでいるのは白く広い部屋だった。複数の魔術師と思われる人が同じ物を別のテーブルで作っているようで、ここは製作工場のような部屋なのだろう。

 クリキと呼ばれた人物はまだ20歳そこそこの青年に見え、眼鏡をして真面目そうな雰囲気があった。声をかけていたのは同じぐらいの年齢の女性で、かなりの美人に見えた。

 しばらく時を進めると、ようやく魔導具が部屋から持ち出される。同じ建物の階段を登っていき、扉から外に出ると建物が塔である事が分かった。塔の屋上で魔導具が実際に使用されると、魔導結界が塔の周りに張られた。実際に使用出来るかテストをしていたのだろう。

 魔導具は再び部屋に戻され、塔から移動したのは半年ほど経ってからだった。数個ずつケースに入れられ、それを持った魔術師が塔から次々に杖の魔導具に乗って飛んで散らばっていった。

 対象の魔導具を持った魔術師は恐らく東へ飛んでいたのだが、途中でデビルの大群に襲われてしまう。やや年老いた男性の魔術師は太刀打ち出来ず、魔導具を何とか送り届けるよう最後のあがきをした。


「頼む、届いてくれ!」


 魔術師が魔法を使うと、魔導具を入れたケースは物凄い速さでデビルの群れの間を飛んで行った。それは徐々に高度を下げ、最後は湖の中に落下した。

 その後ケースは湖の底にずっと沈んだままだった。湖の中からは外の様子が分からず時だけが過ぎていく。数百年以上の時が経ち、水の中に潜った少年がそのケースを見つけ、ケースは少年の手から色んな人の元へと渡っていった。


 スミナはそこで記憶を見るのを止め、現実に意識を戻す。


「見て来ましたが、場所がどこか分かりませんでした。あと、遺跡では無くて、塔だったのでもう調査済みかもしれません」


「塔で作っていたのね。そうなるともう記録が残っていない可能性が高いわね」


「そうなんですか?」


「スミナさんはまだ知らなかったかしら。魔導帝国時代の地上建造物で残っている物は皆無なの。地下で作られた物なら遺跡として残っているかと期待したのだけれど」


 アスイが残念そうに言う。スミナは地上に塔などの魔導帝国の遺跡が無い事を疑問に思った。


「どうして地上の遺跡は無いんですか?」


「古代魔導帝国は巨大な爆発で一夜にして滅んだと言われているわ。それが事実かは分からないけれど、実際地上には古代魔導帝国の遺跡は現存していない」


「そうなんですね。

あ、そういえばこの魔導具が作られた時にクリキって人を見ました。この名前は確か魔導帝国時代の転生者の名前だってエルに聞きました」


「はい、クリキ様はワタシが作られた時の転生者の名前です。魔導帝国の様々な魔導具などの開発に関わっている方だと聞いております」


「という事は、魔導帝国が作られる前の物なのね。それなら近くの遺跡に記録が残ってる可能性があるかもしれないわ」


「質問してもいいですか?どうして地上ではなく地下に魔導帝国の建造物が沢山あるんですか?」


 スミナは再び疑問に思った事を口にする。


「遺跡の殆どは侵入者に対する対策がされているわよね。あれは魔族やモンスターから身を守りつつ、研究を続けるための対策なの。地上を魔族に攻められ、地下で必死に耐えながら魔導具やエルちゃんのような魔宝石を研究して作っていたのよ」


「なるほど。だったら、魔導結界の研究も塔から別の地下遺跡に移って続けていた可能性は確かにありますね。でも、場所がよく分からないんです。近くの湖に沈んだところまでは見えたんですが、塔とその湖ぐらいしか分かりやすく参考になる景色が無くて」


「マスター、その塔の外見のイメージを頭の中に思い浮かべてもらえますか?」


「塔の外見?いいけど」


 スミナはエルに言われた通り先ほど記憶で見た塔の事を思い出して頭の中で再現してみる。


「マスター、一致情報がありました。恐らく塔があった場所が分かります」


「そうなの?というかエルはわたしの頭の中が覗けるの?」


「マスターが無意識に拒絶していない情報は見る事が出来ます」


 エルの言葉を聞いて、エルの前で変な事を考えたりは出来ないなとスミナは思った。


「では、塔のあった場所をワタシが持っている地図で表示します」


 エルが手を突き出すと壁側に液晶のように映像が宙に浮いて表示される。地図はスミナの知っている世界地図と少し形が違っていた。


「この青い丸が現在地で、赤い丸が塔があった場所だと予想されます」


 大陸のやや南側に青い丸が表示され、それはスミナが知っている地図の王都の場所と一致していた。そして赤い丸はそこから北東の、現在王国内では無い場所を示していた。


「その場所だとエミヌダ国の領内で、魔導結界の外になるわね。確認に行くのは残念だけど無理そうね」


 アスイが地図を取り出し、位置を確認して言う。


「アスイさん、本当に魔導結界の外の国は滅んでるんですか?」


「正直分かりません。ですが、魔導結界を張る前の段階で魔族に占拠された国も多く、残りの国が魔族に隷属せずに残っている可能性は低いと思っています」


「そうですか……」


 スミナは辛いことを聞いてしまったと後悔した。


「でも、今日の確認で分かった事も色々ありますし、スミナさんとエルちゃんの能力が予想以上に凄い事が分かりました。今後もお2人に協力して貰えると助かります」


「わたしで出来る事なら協力しますよ」


「ワタシはマスターの命令であるなら対応いたします」


 その後お礼にアスイにカフェで奢ってもらい、スミナは充実した気分で寮に戻った。今日の内容をアリナに説明すると「そうなんだ」とそっけない返事をするだけだった。


 翌日の午後、スミナの最後の授業は“神話と伝承の分析”という授業だった。別の授業に切り替えるか最初迷ったが、幼馴染のガリサも受けていて、教師のジゴダの話も面白かったので継続する事にした授業だった。


「子供だましと言われるおとぎ話も、実際は元となる事件や人物が存在する事が多い。有名な“最強の剣”や“竜神退治”の話も実話が元になっている証拠が残っているんだよ」


 ジゴダは30代半ばで教師の中では若い方なのだが、頭髪が薄く、分厚い眼鏡をしていてもっと年老いて見える。


「僕は今日話した“氷の中で眠る姫”の話も実話で、どこかでまだ眠っているんじゃないかと思っているんだ」


 ジゴダは自分の考えを伝える時に熱がこもって少し気持ち悪く見える。だが、それが面白くも見える。スミナの横でガリサがウットリした顔でジゴダを見ている。変なところでシンパシーを感じているようだ。


「と、時間的に今日はキリがいいのでここまでとしよう」


 ジゴダが授業を終える。ガリサは立ち去ろうとするジゴダの方へ走っていった。スミナも教室の階段を降りてその後を追った。


「先生。竜神が数百年前に町に降りてきて人と交友したという話を本で読みました。それが竜神退治の話と関連してるんですよね?」


「ガリサくんだったね。よく勉強しているな。確かに関連はしているがその竜神と退治された竜神は別で、退治された竜神の子孫だと言われているんだ。竜神が存在しているという証拠には繋がってるね」


 ジゴダとガリサは楽しそうに会話する。スミナはその輪の中に入ろうとは思わなかったが、気になっている事を折角だから聞いてみる事にした。


「先生、一つ質問していいですか?」


「いいとも。えーと名前は……」


「スミナ・アイルです。質問ですが、先ほど話していた最強の剣は呪いの大剣の話だったと思います。もしかして実在してるんですか?」


「スミナくん、いい質問だ。それが同一の剣かは不明だけど、王都の宝物庫に呪われた宝物を封印する部屋があり、そこに呪いの大剣があると聞いているんだ。ただ、僕も実物は見せてもらえずじまいなんだけどね」


「そうなんですか。ありがとうございます」


 スミナは呪いの剣でも今後何かに使えたり、記憶を見る事で何か分かるのではと記憶に留めておこうと思った。その後ジゴダとガリサが少し雑談してからジゴダが職員室へ帰っていった。


「スミナ今日の放課後は暇?」


「今日は特に用事無いよ」


「だったら図書館に付き合ってよ。見て欲しい本があるんだ」


 戦技学校の図書館は大図書館ほど大きくは無くても、結構珍しい蔵書があり、ガリサは授業以外の学生生活の大半をそこで過ごしていた。


「うん、いいよ」


 図書館に行くならアリナを誘っても来なそうだと思い、スミナはガリサと2人で行く事にした。エルは使い魔形態で大人しく2人の後を付いて来ている。


『マスター、危険です!!』

「きゃーーっ!!」


 エルから突然魔法で声が聞こえたのと、遠くから女性の悲鳴が聞こえたのがほぼ同時だった。学校内でエルが魔法で会話してきたのが初めてなのでスミナは何事かと思う。


『エル、何があったの?』


『魔族が近くにいます。注意して下さい』


「ねえ、何かあったのかな?」


 ガリサが不安そうな顔で聞いてくる。そんな中、悲鳴が聞こえた方向から複数の生徒がこちらに走って来ていた。学校内に魔族が現れる筈は無いが、エルが嘘をつくとは思えない。スミナは危険を承知で確認に行く事にする。


「ガリサ、危ないかもしれないから少し後ろから付いてきて」


「え?分かった」


 ガリサと別れるか悩んだが、敵を見ずに別れるのは得策ではないとスミナは判断した。人が逃げて来る方へと廊下の角を曲がると、そこには血まみれの女生徒と、それを守ろうと魔法を使う数人の生徒の姿があった。そして、攻撃をしているのは2体のデビルだった。その姿はアスイの記憶で見たのと同じだ。


(どうする?でも武器が無い)


 学校に武器の持ち込みは禁止されていて、レーヴァテインや魔法の短剣は寮の部屋に置いてある。だが、迷っていたら目の前の生徒達が殺されるのは確かだ。


「わたしが囮になるから、ガリサは傷を負った生徒達と外に逃げて」


「でも……」


「わたしは大丈夫だから、お願い」


「分かった」


 生徒達はガリサに任せスミナはデビルをどうにかする決意をした。


『マスター、ワタシはいつでも戦えます』


『エルはいざという時にお願い。まだ大丈夫だから』


 スミナは身体にデビルが苦手な光の魔法を纏い、高速でデビルに体当たりした。空を飛んでいた赤い肌のデビルには当たり、もう一体の緑色の肌のデビルはギリギリで避ける。着地したスミナを2体のデビルが睨んでいた。


「魔族って言うから、凄い強いかと思ったら、そうでもないのね」


「何だと!!」


 赤いデビルが怒りの形相をする。スミナは恐怖心を抑え、何とか魔法を使って高速で逃げ出す。デビルは2体ともスミナについてきたので、とりあえず上手く行っていると安心する。スミナはある方向へ真っ直ぐに向かった。流石にデビルは飛ぶのも速く、もう少しで追い付かれそうになる。


「お姉ちゃん!!」


「お願い!!」


 廊下の先にはアリナが待っていた。2人はお互いの位置が分かるので、互いに近付いていたのだ。アリナは魔力で剣を作り、スミナを追っているデビルの1人に斬りかかった。赤いデビルはそれを持っていた斧で防ぐ。アリナはそこで左手に巨大な魔力の槍を作り、赤いデビルに突き刺さした。槍は天井まで刺さり、デビルは串刺しで動けなくなる。


「お姉ちゃん」


「ありがとう」


 スミナはアリナから魔力の剣を受け取り、それで串刺しになった赤いデビルの首を斬り落とした。


「お前達何者だ」


 残った緑のデビルが双子を見て驚いている。恐らく学校内にデビルを倒せる生徒がいないと思っていたのだろう。


「名乗るほどのものじゃ」


「無いよ」


 双子は手を抜かず、2人でデビルに斬りかかった。緑のデビルは逃げる事も出来ず、バラバラになっていた。


「お姉ちゃん、まだ魔族はいるよ」


「分かった、アスイさんに連絡する」


 スミナはアスイからもらった魔導具でアスイへと初めて連絡した。この魔導具はアスイの手回しで学校への持ち込みが許可されていた。


『スミナさん、どうかしましたか?』


「アスイさん、大変です。魔族が学校の中に現れました」


『分かりました、すぐに向かいます。スミナさんは無理せず、他の生徒の安全を守って下さい』


「了解です」


 すぐに連絡を終わり、スミナはどうするか考える。


「どうする?手分けして対処する?」


「いや、わたし達が離れるのは流石に危険だと思う。多分この襲撃を先導したデビルがどこかにいると思う。わたし達はそこへ向かおう」


「なら何となく位置は分かるよ。お姉ちゃん、付いて来て」


 スミナは自分達だけでは全てを救えないと思い、首謀者を叩く事にした。自分達で手に負えない相手だとしても、エルが居る事がスミナを少しだけ安心させていた。

 アリナが向かう方向からは傷だらけで逃げる生徒が増えていた。途中で倒せるデビルは倒し、アリナが最も危険だと思う方向へと向かう。


「アリナさん、まだ向こうに逃げ遅れた人たちが居ます」


 少しだけ傷を負ったクラスメイトとすれ違い、魔族に追い詰められている人達の情報を得た。


「お姉ちゃん、急ごう」


「分かった」


 アリナが速度を上げ、スミナもそれに付いて行く。アリナがある教室の扉を開けると、そこには3体のデビルと倒れている生徒と戦っている5人の生徒がいた。しかし、戦っている生徒は満身創痍だった。


「あとはわたし達で何とかします。誰か助けを呼んできて下さい」


「大丈夫か?」


「あたし達は強いから心配ご無用」


 アリナが近くのデビルを一刀両断する。それを見て戦っていた上級生と思われる生徒達は助けを呼びに出ていった。


「さっきの雑魚どもより歯応えがありそうだな」


 1体の黄色のデビルが楽しそうに笑う。他のデビル達に比べ、体格がよく、金色の鎧を身に着けていた。このデビルが首謀者なのだろうとスミナは判断する。


「どうやって学園に入って来たの?」


「俺に勝てたら教えてやろう。まあ、あり得ないがな」


 黄色のデビルと紫色のデビルが連携して攻撃を仕掛けてくる。アリナは攻撃をひらりとかわし、スミナも剣で攻撃を受け流した。明らかに動きも力も他のデビルより上だと感じる。だが、今のスミナに勝てないと思うほどの強さでは無かった。スミナは記憶で見たデビルに勝てるよう訓練を積んで来たからだ。そしてアリナはもっと余裕だった。


「デビルってもっと強いかと思ってた。この程度なら心配し過ぎたかな」


「小娘が何を言う。望むなら絶望を見せてやろう」


 黄色のデビルが金色の鎧を弾け飛ばし、その肉体を変化させる。今までは辛うじて人間と似た部分があったが、変身した姿は巨大化し、鱗にまみれ、ゲームで見るドラゴンに近い姿になっていた。もう一体のデビルもそれに合わせ紫色の鱗の姿に変化する。


「お姉ちゃんはパープルの方をお願い」


「分かった」


 アリナの言う通りスミナは紫のデビルに斬りかかる。かなり速度を上げて接近したが、相手の速度も上がっていたようで、攻撃はかする程度だった。そして、当たった箇所の鱗がかなり硬度が上がっているのも分かる。


『速度だけじゃなく威力も上げないと』


 スミナが思っている横でアリナは四方八方からデビルを攻撃して翻弄していた。魔力量の多いアリナだから出来る技だ。

 紫色のデビルはスミナの隙を見て口から何かを吐き出して攻撃してくる。それは毒針のようだった。魔導鎧を着ていないスミナはかすっても毒を受けると思い、大きく回避する。デビルはそこを狙って鉤爪で攻撃し来た。


『今だ!!』


 スミナは魔法技マギルで剣を強化して相手の鉤爪ごと切り裂いた。デビルは見事にスミナの目の前で真っ二つになった。


「ちょこまかと動きやがって!!」


 傷が増えて来た黄色のデビルが怒りの声を上げる。そして、その口から炎を吐き出した。それは宙に浮かぶアリナへと襲い掛かる。


「やっぱり弱いよ、お前」


 アリナはそれを氷の壁を出して防ぎ、更に魔力の刃を横から撃ち出した。刃は炎を吐くデビルの口から身体へと深々と刺さった。


「う、うが……」


 デビルは何か言う事も出来ず、そのまま絶命した。


「あ、お姉ちゃんごめん、倒しちゃった」


「正直に言うか分からないし、いいよ」


 スミナは急いで倒れている生徒のもとへと急ぐ。


『マスター!!』

「お姉ちゃん!!」


 スミナのところにエルとアリナの声が同時に届く。スミナは瞬時に理解して魔法で後方へとジャンプした。それと同時にスミナが近寄ろうとした生徒の近くの床から赤い槍が突き出された。


「あ~あ、やっぱり避けられちゃうわよね」


 倒れていた女生徒が残念そうに言う。


「変身して罠を張ってたのね」


「もうそういう知識も持ってるのね。偉い偉い」


 不気味な笑顔で笑う女生徒。立ち上がると傷付いた姿から見る見るうちに姿が変わっていく。青い肌に妖艶な赤い瞳、紺色の長い髪には立派な角が生えている。初めて見る女性型のデビルだった。豊満な身体は露出度が高く、黒い衣装は最低限の部分しか隠していない。


「まあ、アナタ達転生者を誘い出すのに成功したから満足しているわ」


 話を聞いているスミナの横をアリナが猛スピードで駆け抜けた。油断している敵への一撃。だが、アリナの剣は女性のデビルが出した赤い槍で簡単に受け止められてしまう。


「話しているのを邪魔されるのは嫌いよ」


 床から次々と槍が突き出し、アリナは避けながら後退させられる。


「ちょっと、自己紹介ぐらいさせて欲しいわ。アタシの名前はレオラ。仲間達からはレジーナとも呼ばれている。今日は貴方達の噂を聞いて見学に来てあげたのよ。でも、さすがにこのままじゃ帰れないからもう少し遊ばせて頂戴ね」


 レオラと名乗ったデビルは右手を上げる。するとレオラの上空が歪み、円が描かれた。円に魔力が集まり、そこからデビルが次々と出てくる。


「ゲート?でも結界の外からは繋がらない筈じゃ」


「普通のゲートは無理ね。これはアタシだから出来る芸当よ。

そうそう、言うのを忘れてたけどアタシも転生者なの。転生前の名前は倉木玲於奈くらきれおな。転生者が生まれるのが人間だけだなんて思わない事ね」


「え!?」


 レオラの言葉にスミナは驚く。が、デビルがどんどん増えていき、それどころではないと気持ちを切り替える。


「お姉ちゃん、かなりヤバいよ」


「うん、エルも援護をお願い」


「マスター、了解です」


 使い魔の猫形態からエルは鉱石状の戦闘形態に変化する。そして、スミナと協力して近付くデビルを攻撃し始める。アリナは円盤状の刃を作って、それで複数のデビルを攻撃している。スミナは魔法技で1体ずつデビルを撃破し、エルはスミナを狙うデビルの攻撃を妨害し、腕の刃で倒していく。


「流石に強いわね。でも、これならどうかしら?」


 レオラは余裕なのか、自分は戦いに加わらず、ゲートからは先ほどより強そうなデビルが次々に出てくる。アリナもスミナもレオラを何とかしたいところだが、流石に近付けなかった。


「あら、もうお時間かしら。もうちょっと遊びたかったけど残念ね」


「遅くなりました!!」


 レオラが言うのと同時に魔導鎧を着たアスイが部屋に入って来て、瞬時に複数のデビルを魔法で貫いた。


「アスイ、アナタと戦う準備は今日はしていないの。また今度、殺し合いましょうね」


「待ちなさい!!」


 アスイがレオラに急接近するが、他のデビルが肉の盾となってそれを守る。アリナも同様にレオラを追うが、デビル達に邪魔されて近付けなかった。


「今度は本気で来るから覚悟しておく事ね。今の調子だと死んじゃうわよ」


 レオラが笑いながらゲートに飛び込むと、ゲートは閉じてしまった。双子達は残りのデビルを協力して処理するのだった。


「今のデビルはいったい」


「レオラと名乗っていました。デビル内ではレジーナと呼ばれてるとも。そして、彼女も転生者だと名乗りましたが真偽は不明です」


「レジーナですか。魔族の女王がいると噂で聞いた事があります。それで、転生者だと……」


 アスイは複雑な表情をしている。今までアスイはレオラと出会っていなかったようだ。


「ちょっとアスイ先輩、結界の外からゲートは繋がらないって聞いてたんだけど」


「その筈です。ですが、何かしらの方法を見つけられたのかもしれないです。

その話は後にして、今は学校内の状況の確認と、怪我人の救出をしないといけません」


 アスイの言う通りだった。アスイは教師たちと連携を取って対応し、双子達も学校内の敵の残りと被害確認に追われる事になった。

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