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11.最強決定戦

 スミナは悩みに悩んで色んな人の話も聞きつつ、何とか授業の時間割を作成する事が出来た。

 スミナは最初、入れられるだけ授業を時間割に詰め込もうと考えていた。言ってしまえば殆どの授業は為になるし、受けてみたいと思ったからだ。ただ、それをやり始めると調整がかなり困難で、取捨選択も厳しかった。それに加え、全部埋めると宿題や復習で自由時間が休日も含めて無くなり、やりたいと思っていた自主的な調査やアスイからの依頼を受けられないと気付いた。

 そこでスミナはまず、除外出来る副授業をピックアップする事にした。まずは歴史や魔法史などの本を読めば自分で学習出来る授業を除外する。続いて特殊な武器の技術や護身術などの今後活用しなそうな授業を除外した。最後に魔法関連で回復魔法や援護魔法の授業を除外する。スミナは基礎的な魔法を既に覚えているし、今後の戦いで自分が使う事が無いと考えたからだ。

 除外してもなお、受けたい副授業は多く、スミナは残りを優先度をつけて高い物から埋める事で何とか絞り込む事が出来た。優先したのは自分が強くなる為に必要な技術と、過去の事を調べるのに使える情報だった。武器としては使い慣れた剣を今後も使う事を考え、戦士科の生徒向けの剣術の授業なども受ける事にする。魔法も剣に合わせて魔法技マギルに使えそうな特殊な魔法の授業をなるべく受けるようにした。そして魔導具関連の授業は祝福ギフトで使い方が分かるにしても、その魔術的な理解も必要だとして受ける事にする。そして残りに入れられる範囲でモンスターの知識や神話や伝承などの興味がある副授業を選んだ。


「お2人は大分違う時間割になったんですね」


 双子の時間割を見てレモネが言う。明日に時間割の提出を控え、双子は隣の部屋の2人を呼んで時間割を見せてもらっていた。エルはソシラの希望で膝の上に載せて撫でられている。


「レモネさんとソシラさんは全部一緒にしたんですね」


「1人で授業を受けるのは無理……」


「でも、この授業ならスミナさんが受けるし、私が居なくても大丈夫じゃない?」


 レモネの提案をソシラは必死に首を振って拒否する。ソシラは見た目は美人なのだが、言動や行動は子供っぽくて大分ギャップがあった。


「分かったよ。こんな感じだからあまり興味が無い授業も私が一緒に受ける事になったんです。まあ、その代わり私が受けたい授業にソシラも付いて来るんですけどね」


「お姉ちゃんも2人も授業埋めすぎじゃない?遊ぶ時間無くなるよ」


「学校は遊びに行く場所じゃないでしょ。アリナはもう少し学術系の授業も取るべきだと思う。それに、武器関連の授業を取り過ぎ。そんなに取ってどうするの?」


 結局アリナとスミナの時間割は必須授業以外は剣と魔法の実技授業ぐらいしか同じ箇所が無かった。


「強くなる為には手数が必要だから、一通り見ておきたくて。魔法も座学より実践じゃないとつまんないし」


「私も座学が苦手だからアリナさんの気持ちが少し分かります」


「そっか、やっぱり実践あるのみだよねー」


 見た目大人しそうなレモネがアリナ側に付いてスミナは意外に思った。


「私は身体動かすの嫌い……」


「ソシラは体力と筋力をもっと付けた方がいいよ」


「そういえば、どうしてレモネさんは魔法騎士科にしたんですか?実家は商会ですよね」


 スミナはずっと気になっていた事を聞いてみる。


「私は家を継ぐ気は無いんです。家は男兄弟が5人いて、私は1人だけ娘だったから自由に出来たんです。それで、ソシラと遊んでいるうちに近くのモンスター退治もするようになって、なるならマジックナイトがいいかなって」


「なんかあたし達と似てるね」


 アリナの言う通り、自由な環境でモンスター退治するようになる流れは似てるとスミナも思った。


「アリナさんもスミナさんも相当強いって入試で話題になってましたよね。試験用のゴーレムを倒したとか」


「うちの家は代々貴族じゃなくて、傭兵上がりだから親に習って子供の頃から鍛えてるんだ」


「いい武器や道具も買って貰えたから運もよかったんです」


 転生者だから最初から強かったとは言えず、出来るだけ事実を述べて双子は誤魔化す。


「実際に戦っているところを見るのが楽しみです」


 レモネは本当に心待ちにしているように見えた。


 授業が始まり、双子達は慣れない環境から慌ただしい日々を過ごしていた。授業は予想していたより本格的で、座学も居眠りしていたら置いて行かれそうな詰め込み具合だった。実技も体力づくりから始まり、基礎の剣の握り方まできっちり教え直される。大きい身体の割りに体力が無いソシラは常に半泣きで授業を受けていた。

 最初の1ヶ月は副授業の取り直しが出来るので、スミナは実際に受けてみて、あまり為にならないと思ったいくつかの授業は別の授業へと変える事にした。

 アリナも同様に武器関連の授業で続ける意味が無さそうな授業をすぐにやめていた。アリナはやめた時間割を自由時間にせず別の魔法の副授業に変えていた。それを見てスミナはアリナが本気で強くなろうとしている事を実感した。

 アスイも双子が慣れるまで大変かと思ったのか、依頼の連絡をして来なかった。アスイとはたまに学校で会って挨拶を交わすだけで話し合う事も無かった。


 あっという間に2ヶ月が過ぎ、ようやく授業にも生活にも慣れて来た日の事だった。その日の午後は魔法騎士科のクラスで実技の授業があり、グラウンドに生徒が集まっていた。エルは使い魔として学校に出入りする事が出来るようになったが、実技の授業の時はグラウンドの端で大人しく待っていてもらっていた。


「事前に伝えていた通り、今日の午後は魔法騎士科の実技の特別授業とさせてもらいます。皆さんの剣技や運動能力や魔法の実力はある程度把握出来ました。が、実際にどれくらい強いかはそれだけでは分かりません。なので分かりやすく、誰が最強なのか今日は戦って決めてもらいます」


 担任であるミミシャがグラウンドで生徒の前で発表する。突然の発表に生徒たちは騒めき立つ。双子は毎年剣技大会を学校でしている事は知っていたが、授業の一環で戦いがあるのは知らなかった。


「静粛に。強さを決める事で上下関係が生まれるのは確かにそうでしょう。ですが、強い者が誰か分かれば、その人を目標として皆さんの鍛錬が捗ると思います。それに、皆さんは私に言わせればまだまだひよっこです。これから強くなるので、ここで負けても恥じる事は何もありません」


 その後ミミシャから戦いの方法が説明される。


 戦いは1対1の個人戦で、専用の魔導具の武器と魔導鎧を装備し、武器が相手の頭部、胸部、腹部のいずれかに当たればその者の勝利となる。用意された武器は威力が落ちるようになっていて、逆に防具は大抵の攻撃も魔法もダメージを軽減出来る。無傷とはいかなくても、魔法で簡単に治せる怪我しかしない仕組みになっていた。

 戦いは結界が張られた範囲で行い、そこから出ても負けになる。結界は魔法や吹き飛ばされた人を結界外に出るのを和らげる仕様だ。魔法も魔法技マギル祝福ギフトも制限はないが、魔導鎧を破壊する魔法や人の肉体を直接破壊する魔法は禁止されている。魔法や魔法技で相手を結界外へ吹き飛ばすのはありとなっている。

 戦いはトーナメント戦で行うが、人数が多いので最初は大きく分けて二つのエリアで同時に試合を始め、最終的に各エリアの勝者が戦い決勝になる。振り分けは完全にランダムで振り分けてミミシャが既に作って来ていた。

 スミナはムーンエリア、アリナはサンエリアで双子は別エリアに分かれていた。両者が勝ち抜けば決勝で戦う事になる。


『流石に手を抜いたらバレるかな』


 スミナはそう思って本気で戦う事にする。アリナが手を抜かないのが分かってるので、決勝で戦うとなると負けるかもしれないと考える。アリナが魔力を実体化する祝福を使うかは分からないが、それを使わなくても危険察知の祝福があるので1対1の戦いは圧倒的に有利だと思っていた。


 クラスの最強を決める試合が始まった。スミナはムーンエリアの後半の方なので、サンエリアのアリナの戦いを見たり、強いと噂されている人の戦いを見て自分の試合を待った。アリナはまだ魔力を実体化させる祝福は使わず、両手に短剣を持ち、速攻で勝っていた。他の噂の生徒もそれなりに圧勝し、戦闘経験の差が見て取れる。


 スミナも使い慣れた長さの長剣を選び、盾は使わず、攻撃は剣で受けるか、魔法のシールドを張って防ぐいつもの戦い方で行く。1,2回戦の相手は実戦経験が無いようで、スミナのカウンター攻撃で簡単に倒す事が出来た。

 勝ち進むと試合間隔が短くなり、あっという間に順々決勝の試合になっていた。先にアリナの順々決勝の試合があり、相手は金髪お嬢様のマミスだった。新入生代表に選ばれただけあって、実力があるのは本当のようだ。マミスの武器は細身の片手剣で盾は無し。戦い方としては自分に近いかもしれないとスミナは思った。


「わたくしは本気で行きますわよ。後悔なさらなぬよう、貴方も本気でお願いしますわ」


「あたしは相手を侮って負けたりしないから安心して」


 マミスもアリナも敵対心をむき出しに向かい合う。スミナは自分が呼び出されてもいいように身構えつつ戦いの様子を見守った。

 先に動いたのはマミスの方だった。突撃する魔法技マギルを使いアリナに近寄る。アリナは余裕でそれを避け、カウンダ―で剣を繰り出した。


『やっぱりアリナには敵わないか』


 スミナがそう思った時、思いがけぬ反撃が繰り出された。アリナの剣がマミスの頭に当たらず、代わりにアリナの頭部をかすめたのだ。よく見るとマミスの頭部の手前に楕円形の空間があり、そこにアリナの腕が吸い込まれ、横からアリナの剣が飛び出していた。


『これは魔法じゃなくて、祝福ギフトだ』


 マミスの祝福は恐らく相手の攻撃を反射させるものだとスミナは予想した。あえて相手の攻撃を誘い、それで相手を倒そうとしたのだ。アリナでなければ不意打ちの攻撃は避けられなかっただろう。


「よくわたくしの攻撃をかわしましたわね」


「少しだけ驚いたよ」


 再び2人は距離を取る。攻撃を反射出来るマミスの祝福は1対1の試合ではかなり強力だろう。祝福で防ぐ限り相手の攻撃は当たらず、相手は手が出しづらくなる。スミナはアリナがどう戦うか注視する。


「今度はこっちから行くから」


「どうぞ」


 マミスが言い終わる前にアリナが駆け出す。素早い動きだがマミスは攻撃を防ぐ準備が出来ている。すると、アリナは立ち止まり、両手に持っている片方の剣を魔法をかけて投げた。マミスはそれを祝福で反射しようとする。その瞬間、アリナが消えた。スミナは辛うじて全力でマミスの背後に回り込んだのが追えた。そして、短剣が反射したのと同時のタイミングで、アリナは残った短剣でマミスの兜に触れていた。


「流石に同時に反射は出来ないみたいだな」


「――参りましたわ」


 囮の短剣に釣られたのを悟ったマミスは悔しそうに負けを認めた。スミナはアリナと同じ戦い方が出来ないので、別の攻略をしないとと思うのだった。


「ジオノさん、スミナさん試合を始めますので準備して下さい」


 ちょうどそのタイミングで試合の審査係にスミナが呼ばれ、順々決勝の準備に向かう。結界の中では既に対戦相手が待っていた。


「スミナさん、キミもアリナさんに隠れているけど相当強いよね」


 対戦相手のジオノ・キリンが話しかけてくる。スミナはジオノがクラスの男子生徒の中で一番強いと噂されているのは知っていた。南のサウラ地方で冒険者をしていて、その時の活躍を自慢していてあまりいい印象は無かった。


「僕が冒険者をしてる時にキミ達の噂を聞いたよ。ノーザ地方に強い双子がいるって。実際にお手合わせ出来て嬉しいね」


「よろしくお願いします」


 スミナは最低限の返事で答える。実力があるのは確かなので、油断は出来ない。

 試合開始の合図が出て、お互いに武器を構える。ジオノは長剣に盾の標準スタイルだ。盾に攻撃を防がれずに当てる必要がある。スミナは頭の中で戦い方を組み立て、行動に移した。


『行ける!!』


 スミナの見た目は高身長で長剣なので小回りが利くとは相手が思っていない。だが、魔法技に関しては見た目は重要でないのだ。高速で近付き、相手の目の前でフェイントをかけ、盾が無い相手の右側に一気に回り込む。そして剣で防ぎにくい頭部への一撃をスミナは放った。


『嘘!?気持ち悪い!!』


 確実に決まったと思ったジオノの頭部への一撃は避けられていた。しかし、その避け方が尋常では無かった。ジオノの首が伸び、頭を前に出す事で攻撃を避けたのだ。


「今のは危なかったよ」


 ジオノは剣を振りながら首を縮めて頭を戻す。スミナは一旦距離を取った。


「じゃあ、こっちからも行かせてもらうよ!!」


 ジオノが突っ込んでくる。その動きは単調で、スミナは背後に回り込もうとした。すると今度はジオノの左手が伸び、盾がスミナを追いかけてきた。


『やっぱり気持ち悪い戦い方だ……』


 ジオノの伸びる能力は恐らく祝福だとスミナは思った。某少年漫画の主人公や、ゲームのキャラのようなゴム状に身体を伸ばせる能力だと分かったが、実際に見ると気持ち悪いという感想しかなかった。

 スミナは追ってくる盾に魔法を撃ち込んで弾く。すると盾に隠れて剣が右手を伸ばして迫っていた。スミナが避けようとすると軌道を変えて剣が追ってくる。それを何とか剣で弾いてスミナは攻撃を防いだ。


「やっぱり強いね、キミ」


「そちらも中々ですね」


 スミナは気持ち悪いという言葉を何とか飲み込む。とはいえ想定外の攻撃と防御が出来るジオノに対して長期戦は危険だとスミナの直感が言っている。相手を出し抜いて1撃を決める必要があった。スミナは覚悟を決めて飛び出した。

 スミナはまずジオノに正面から1撃を加える。ジオノは慎重にそれを盾で防いだ。スミナは攻撃を軽めに行い、盾の反動を最小限に抑え、すぐさま魔法で加速してジオノの背後へと回り込んだ。


「僕に死角は無いよ」


 ジオノは首を回転させ、右手の剣を伸ばして背後のスミナへと攻撃する。スミナはそれを何とか避け、すぐさま攻撃を何度も繰り出した。しかしジオノは盾と剣を背後へ回してそれを防ぎつつ攻撃もする。

 スミナが考えたのは相手の油断を誘う事だった。そしてジオノがまだ人間であるという点が重要だと思った。背後は人間の弱点であるが、それが無いとジオノは驕っていた。しかし無理な姿勢で戦うと人間は動きた鈍ってくる。どれだけジオノが訓練をしていても、それを克服する程では無かった。


『今だ!!』


 スミナはジオノの隙をついて盾を上に弾いた。頭は伸ばして避けられても胴体は伸ばして逃げられない。ジオノは必死に剣で胴体を守ろうとしたが、スミナの方が速かった。スミナの剣がジオノの腹に当たり、スミナの勝利となった。


「いやあ、参った参った。流石に強いね、キミは」


「わたしはジオノさんがまだ人間を保ってたので勝てました」


「???」


 ジオノが疑問を抱く中、スミナはアリナの試合へと急いだ。

 準決勝は全員に見て欲しいとミミシャが決めたので、サンエリアの2人の試合から順に始まる事になった。アリナの準決勝の相手は意外な人物だった。


「ソシラちゃん強かったんだ。よろしくね」


「よろしく……」


 アリナに対峙しているのは長身のソシラだった。体力も筋力も無い彼女がここまで勝ち抜くとはクラスの殆どの者が思っていなかっただろう。女子で一番身長の低いアリナと一番高身長のソシラが向かい合うとかなりの体格差に見える。が、実際は魔力も筋力もアリナの方が上だろうとスミナは思った。

 試合開始の合図があり、2人が身構える。アリナは以前と変わらず両手に短剣を持ち、一方ソシラは長い槍を武器としていた。ソシラは手足のリーチが長いので、槍が加わる事で確かにかなり有利な武器ではある。しかし懐に入られたら終わりなのではとスミナは思った。


「本気で行くからね」


 アリナが言ってから高速で飛び出す。これを槍で捉えるのは至難の業だ。ソシラは動かなかった。攻撃がそのままソシラに当たる。が、アリナの攻撃は空を切った。アリナが攻撃したのはソシラの作り出した虚像だったのだ。そしてソシラ本人はアリナの背後にいて、槍がアリナを襲う。


「よっと!!」


 アリナは魔法を使って横に飛び、何とか槍を避けた。祝福で危険を察知したのだろう。長身で黒い長髪で戦うソシラを見て、スミナはようやく既視感の正体が分かった。ソシラはホラー作品に出る長身の女性の幽霊に似てるのだ。と、スミナは流石に失礼だなと思い再び2人の戦いに集中した。


「避けられた……。本気で行く……」


 ソシラがそう言うとソシラの虚像がどんどん結界内に増えていく。魔法が得意なソシラらしい戦略だとスミナは思った。だが、虚像なら魔法で本体が分かる。


「そこ!!」


 アリナは魔法を使って虚像を見分け、本体へと攻撃した。が、それはまた虚像で、別の虚像から槍がアリナへと繰り出される。何とか避けたが、アリナは複数の虚像からの攻撃を避ける防戦になっていた。


『魔法だけじゃない、多分祝福だ』


 ソシラの虚像からの攻撃は随時実体化しているように見えた。高速で虚像と入れ替わっているのかと思ったが、移動している瞬間が見えない。転移の魔法だったとしても、それは今の時代は失われた魔法で、それを連続で使うほど魔力があるとは思えなかった。そう考えると祝福で虚像と入れ替わっているのが一番あり得るとスミナは結論付けた。

 流石のアリナも攻撃が当たらず、避け続けるのは大変に見えた。唯一救いなのがソシラ自身の筋力が低く、槍の攻撃速度がそこまで速くない事だった。


「分かった!!」


 何を思ったのか、アリナは結界の中央に座り込んだ。ソシラは突然のアリナの行動を罠かと疑い、攻撃を止める。


「どうした?攻撃していいよ」


 アリナが挑発する。するとアリナの背後にいたソシラの虚像が槍をアリナへと突き出した。アリナはそれをギリギリで避け、逃がさないように槍を右手で掴んだ。


「あっ……」


 武器を放して逃げようか迷うソシラ。その一瞬の迷いが勝敗を決した。左手の短剣が飛び、ソシラの鎧の胸に当たっていた。


「ふう、危なかった」


「強いですね……」


 危険察知の祝福があるアリナだから出来る勝ち方だとスミナは思った。ソシラがここまで強いとはと本当に驚く。

 そして、続くスミナの準決勝の相手も予想外の人物だった。


「スミナさん、お手柔らかにお願いしますね」


「いや、お互い手は抜けないでしょ」


 スミナの目の前には小柄なレモネが立っていた。ソシラが強いのだから、いつも一緒にいるレモネも強いのは確かだろう。レモネは小型の斧を武器にしていて、左手にも小型の盾を持っている。スミナは斧である必然性を感じず、何かレモネならではの戦い方があるのだと推察する。

 試合開始の合図が出て、レモネが先に速攻をかけた。スミナはアリナと模擬戦をして、小柄な相手との戦いに慣れているつもりだった。しかし、そう簡単にはいかなかった。


『消えた!?』


 近付いて来たレモネの姿がが急に消えたのでスミナは驚く。そして目の前にレモネが現れ、斧を横に振った。スミナは何とか剣でそれを受け、衝撃で少しだけ後退する。レモネは消えたのではなく、急激に姿勢を落とし、速度を上げた事で一瞬視界から消えたように感じたのだ。アリナはもっとストレートに来るのでレモネの戦い方は異なるのだと理解する。


「やっぱり防がれちゃうね」


「いや、危なかったです」


 スミナはそう言いつつも負けてられないとレモネに反撃する。レモネは想像以上に反射神経が良いようで、こちらの攻撃をかわしたり盾で受けたりして防ぎ続けた。魔法と祝福で回避し続けるアリナと違い、スミナは戦い辛いと感じる。

 それでもスミナも戦い慣れているのもあって、レモネのフェイントや魔法技での不意打ちにも対処出来た。レモネの武器が斧でリーチが短い分、回避しやすいのもある。


「このままだと体力で負けそうですね。となると、捨て身で行くしかないかな」


 レモネが自分が不利だと理解したのか、盾を投げ捨てた。両手で斧を構えるが、それでそこまで変わるとはスミナは思えなかった。


『何かの作戦かもしれない。気を付けないと』


 スミナはそう思いつつも、こちらも全力で行くしかないと思い、先に動き出す。盾を捨てた事で今まで当たらなかった攻撃も当てられる筈だと魔法技でスミナは相手の左側から剣を振る。レモネはそれを待っていたかのように空にジャンプした。


『来る!!』


 空中で姿勢を変え、飛び込んでくるレモネ。両手で持った斧を回転させて威力と勢いを増している。それをスミナも魔法で運動能力を強化して回避し、着地点に剣を振るう。レモネは身体をひねって何とか態勢を立て直し、斧で剣を受けていた。


「やっぱり避けられますよね。でも!!」


 レモネはそこから脚を出して蹴りをスミナに繰り出す。流石に避けられないと悟り、スミナは蹴りを受けてから態勢を立て直す覚悟をする。


『え!?』


 小柄なレモネから繰り出された蹴りは想像以上の威力だった。魔導鎧でダメージは軽減されているが、スミナの身体は吹き飛ばされる。スミナはこのままだと結界の外に飛ばされると思い、魔法で速度を落とそうとした。

 着地して、地面を滑っていくスミナ。ギリギリのところでスミナの片足は結界の外に出ていた。


「勝負ありですね」


「参ったです。まさかそんな技を隠してたとは」


 スミナは苦い顔でレモネに負けを認める。最後の蹴りは魔法ではなく、レモネの祝福の力だろう。そうで無くてはあの身体であの速度であの力は出せない。


「まだ隠してたかったんですけど、こうしないと勝てませんでした」


 レモネが笑顔で言う。ここまでして負けたならスミナに悔いは無かった。それにアリナとの直接対決が無くなってホッとした自分もいた。


 決勝戦はクラスで身長が一番低い2人という、見た目からは考えられない組み合わせとなった。特に驚かれているのは普段目立たないレモネが決勝まで残っている事だった。アリナの方がレモネより若干背が低いが、誤差程度でほぼ同じぐらいに見える。ただ、アリナの方が筋力が無く、並ぶと手足が細いのが見て取れた。魔力ではアリナ、筋力ではレモネという感じだろう。


「お姉ちゃんを倒すなんて凄いね」


「いえ、ギリギリでした」


 顔見知りの2人だが、お互いに譲らない雰囲気を出している。試合開始の合図が出て、先に動いたのはアリナだった。魔法技でレモネに迫り両手の短剣で連撃を繰り出す。レモネはそれをしゃがんで避け、合わせてカウンターで斧を振るう。遠目で見るとレモネは自分の身体をどこまで動かせば攻撃を避けられるか熟知しているのが分かる。

 小柄な2人の攻撃はお互いに避け合い、長期戦になっていた。小さい分リーチが無く、武器も短剣と小さい斧なので、近付いては離れるの繰り返しになっていた。だが、スミナにだけは2人に決定的な差がある事が分かっていた。アリナにはどれだけフェイントをしても、攻撃が避けられるという事だ。蹴りや体当たりもアリナは決して受けない。それはアリナの危険察知の祝福のおかげで、レモネの切り札の力の増幅が無効化されているのに等しい。


「姉妹揃って凄いですね。これが無理なら諦めます」


「いいよ、何でも避けるから」


 アリナもそろそろ何とかしないとと思っていたので、レモネが仕掛けてくるのを有り難く思った。レモネはまたもや盾を捨て、両手で斧を構える。そして、地面に斧を力強く振り下ろした。斧はスコップのように地面に刺さり、そこからレモネは土を弾丸のようにアリナへと飛ばした。アリナはダッシュして土を回避する。レモネはそれを待っていたように地面を蹴って飛び蹴りをする。アリナは魔法で方向変換し、飛び蹴りを回避する。レモネはそこへ向けて斧を投げた。


「惜しいね」


 アリナはギリギリ斧を回避し、着地したレモネの胸に短剣を当てた。


「完敗です」


 レモネは負けを認めた。周囲からは勝利者への拍手が起こった。


「今回の優勝者はアリナさんです。ですが、それもあくまで現時点でのものだと今回の戦いを見て感じました。皆さん自分の敗因や他の人の動きを見て気付いた事をよく覚えておいて下さい」


 ミミシャの言葉で特別授業が終わった。双子とレモネとソシラは勝利祝いという事で、放課後レストランで軽い食事会をする事にした。


「お姉ちゃん手を抜いて負けたんじゃない?」


「そんな事無いよ。レモネさんが強かったのは戦って分かったでしょ」


「いえ、スミナさんに勝てたのは祝福を隠せてたからですよ」


 食事をしながら談笑する。今回の1位から4位が隣室の2人と自分達だったのが偶然なのか、何か意図があったのかスミナは少し考えていた。


「強い人と戦うのは勘弁……」


「レモネちゃんもだけど、ソシラちゃんがこんなに強いのは驚いたよ」


「ソシラは他にも隠してる技があるんですよ。本人が疲れるからって滅多に使わないんですが」


「今度ソシラさんとも戦ってみたいです」


 スミナはそう言いつつも、どうやったら勝てるかを考えていた。今回レモネに負けたのは自分がまだ弱いからだと思い、スミナはもっと強くならなければと思っていた。

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