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8.希望への道標

 スミナ・アイルとアリナ・アイルの双子はドワーフの工房へと急いでいた。アリナが怪しい気配を感知したからだ。


 王国を出発し、少し離れた魔導遺跡で転移装置を使い、双子はドワーフの工房に最も近い魔導遺跡まで転移していた。近いと行っても魔導馬車で2日ぐらいはかかる距離であり、そこからはスミナが手に入れた足に装着して高速飛行出来る魔導機械を使って飛んでいくことになった。

 ドワーフの工房が近付くにつれ、アリナは近くに魔族連合と思われる危険を感知していた。それでも急ぐ理由にはなるのだが、アリナはそれに加えて奇妙な感じの危険を感知し、とても嫌な予感がした。魔族連合と思われる危険が消えても奇妙な感じは消えていなかった。


「お姉ちゃん、色々とヤバい気がするけど、これ以上速度出ないの?」


「これでもリミッター解除して無理矢理速度上げてる状態よ。これ以上はわたし達の身体がもたない」


 アリナは足に付けた魔導機械の操作自体はスミナに任せていた。自分だけだったら普通に飛ぶのも無理だったかもしれない。焦る心を落ち着かせ、自分が感知出来る範囲で問題が起こって無いかアリナは確認する。すると段々と何者かの危険が増していくのが分かった。その場所には他に誰かいるのが魔力で分かり、それは恐らくレモネ達だろうとアリナは予測している。


(魔族連合以外でドワーフの工房と敵対する相手か。誰だろう……)


 アリナは考えるが何も思い付かない。相手が魔神ましんとかならその雰囲気が分かるし、黒騎士のような古代魔導帝国の存在だったらそれもまた感じる魔力が違う筈だ。考えても分からないのでアリナはとにかく急ぐだけだった。


(見えた!!間に合った!!)


 アリナは魔法で強化した視力で機動鎧を着たゴンボ王とギンナのドレニスが赤いローブの集団と戦闘が始まりそうなのを確認する。ゴンボ王の横にはレモネとソシラの姿も確認出来た。そして敵対する集団が人間でありそうな事も。


「お姉ちゃん、先に行って止めて来る!!」


「分かった、お願い!!」


 アリナは足に付けた魔導機械を強制的に脱ぎ、魔法で自身の速度を限界まで加速させた。


「そこまで!!」


 アリナはそう言いながら祝福ギフトで魔力を物質化して両者の間に壁を作った。


「アリナ!?

いい所に来てくれた!!」


 レモネが喜びの声を上げる。


「一体何があったんですか?」


 少し遅れて到着したスミナが早速質問する。アリナもスミナも赤い集団に対しては警戒を解かずにいる。2人が来た事で赤い集団の危険度合いが更に上がっていた。


「何があったも無いわ。こんな失礼なヤツラを放っておくわけにはいかん!!」


 ゴンボ王が怒りの声を上げる。“ガンッ!!”と鈍い音がしてアリナが作った壁が赤い集団によって破壊されていた。


「我々は争うつもりはありませんよ。そちらが先に手を出そうとしてきたのです」


 赤い集団のリーダーと思われる長い銀髪の細目の女性が言う。アリナは相手の中で一番強いのがこの女性である事がすぐに分かった。アリナが作った壁を簡単に破壊したのも彼女だろう。


「私が説明します。彼女達は私達が魔族連合の闇機兵ダロンと戦っている時に戦闘に加わって手助けしてくれました。

ただ、その後に彼女達はドワーフを奴隷にすると言い出したのでゴンボさん達が反発してるんです」


 いきさつを知っているレモネが説明してくれる。奴隷にするという言い方からすると魔族連合よりも待遇が悪い。ゴンボやギンナが怒り出すのも当然だとアリナは納得した。

 そんな話をしていた最中、アリナは新たな危険を察知する。それは話し合いをしている平地の下の谷底の方からだった。そこにはダロンの残骸と思われる金属のくずが積み重なって見えた。


「お姉ちゃん、話の最中だけど、まだ敵が生きてるみたい」


「そんな筈はありません。確かに我々が燃やし尽くしました」


 銀髪の女性が焦った顔で言う。すると金属の寄せ集まった球のような物が谷に浮かび上がり、糸を壁に貼り付けて固定された。次々と金属やモンスターの破片がそれに集まり巨大化していく。


「どんどん再生してる。コアを壊せば完全に破壊出来るんじゃない?」


「アリナ、多分それだと破壊出来ない。恐らくどれだけ壊しても小さな破片からでも再生する。

あれは本体じゃ無くて別に本体があって、遠くからの指示で動いてる」


 スミナが近くに落ちていたダロンの破片を手にして言った。


「じゃあその本体を壊しに行かないと」


「それを辿るのは多分かなり難しいと思う。

でもね、アリナ。これは遠距離で操作する“道具”だからわたしが対処出来る」


 スミナが再生を始めたダロンに一瞬で近付き、それに触れた。するとダロンは一気に瓦解し、元の残骸に戻って落ちていった。アリナは相変わらずスミナは凄いなと思った。


「その力に、その名前。

ああ、貴方達がスミナ様とアリナ様でしたか。

お会い出来て光栄です」


「あたし達の事を知ってるんだ。

あんた達は一体何者なの?」


 納得したのか敵意が無くなった銀髪の女性にアリナは聞く。


「私の名前はヨルマ・ダング、神のしもべです。

我々は全ての人間を救う為に活動する集団、ゴディシズと言います」


「ゴディシズ?あたしは初めて聞く気がするけど、お姉ちゃんは知ってる?」


「似た言葉はあるけど、初めて聞く集団です」


 アリナは魔族連合に居た頃にそんな集団の話は聞いた事が無かった。魔族連合の人間達の中で反乱が起きる事があっても全て鎮圧されたと聞いていたからだ。


「当然だと思います。ゴディシズは結成されてまだ半年しか経っておりません。

私はゴディシズの解放部隊の隊長をしております。

我々の指導者である“救世の天使”様からスミナ様とアリナ様に出会った際に伝えて欲しいと言われた言伝ことづてがございます。

スミナ様、アリナ様、ゴディシズに参加して頂けませんでしょうか?」


 スミナとアリナは急に勧誘されて困惑する。


「よく知らない人達にすぐに仲間になれって言われてもなれないよ。ねえ、お姉ちゃん」


「そうですね、貴方達の事をよく知りませんし、ドワーフの方達に対する態度も解せません。

どうしてドワーフに奴隷になれなどと言ったんですか?」


「そうですね、ゴディシズの教えについては私よりも直接救世の天使様から聞いて頂いた方が納得して頂けると思います。

我々の目標は全人類の救済です。その道のりは長く険しいものだと皆理解しております。

全ての魔を滅し、全ての人が安心して暮らせる世の中を作りたい。そう願っています。

ですが我々はドワーフの方達を滅ぼすつもりはありません。勿論その力はありますが、今は人手が少なく、余計な火種は起こしたくないのが本音です。

そこで我々はドワーフの方達が無条件降伏し、隷属して頂けるならそれが一番だと考えたのです」


 ヨルマが言っている事はアリナからしても滅茶苦茶だった。それに加えてゴディシズは確かに脅威になりそうだが、ドワーフ達が戦って負けるとも思えなかった。


「よく分かりました。もしゴディシズがドワーフ達に危害を加えるなら私達はゴディシズと敵対します。

そして今のドワーフに対する考え方を改めない限り、私達がゴディシズと手を組む事はあり得ません。

指導者である救世の天使様に伝えて貰えないでしょうか。私達は今の貴方達のやり方は認められないと。話し合いをしたいなら決してドワーフや他の亜人に手を出さない事を明言して欲しい、と伝えて下さい」


 スミナは落ち着いて言ったが、その端々に怒りが籠っている事がアリナにも伝わる。


「了解しました。我々もスミナ様達と遭遇した際は決して争いを起こさないよう言われております。

今の言葉、きちんと救世の天使様にお伝えします。

それでは皆さん、またお会いするのを楽しみお待ちしております」


 そう言ってヨルマと20人ほどの赤いローブの集団、ゴディシズが去っていった。



 周囲に敵の反応も無くなり、一旦の安全が確保出来たので双子達はドワーフの工房でお互い何があったかの情報交換をした。捕まえられていたカヌリが脱走した事は驚いたが、彼女が無事に生き延びてくれそうでアリナとしては内心喜んでいた。スミナは王国が危険な状態で、神機しんきを持っていて使おうとしている事をゴンボにも正直に話した。ただ、CZに世界の破滅を告げられた事は黙っていた。あの話が怪しいのもあるし、聞いても余計の混乱するだけなので当然だろう。


「なるほど、遠くからでも追跡を続けられるようにあのダロンは作られたみたいですね」


 スミナはレモネからずっと追跡されて、ドワーフの工房まで攻めて来たダロンの話を聞いて納得したようだ。


「お姉ちゃん、それよく分かんないんだけど、どういう仕組みなの?」


「元居た世界のラジコンみたいな感じよ。どこかの魔族連合の拠点に操っている人がいて、デビルの呪闇術カダルの力でダロンが見ている映像を確認してる。ただ、範囲に限度があるから、中継機が所々にあると思う。

ダロンは自動で残骸や死骸から組立られるから目的地の近くに巣を作ってそこで増やして攻めてくる。巣の設計もカダルで伝わるので何度壊されてもまた作り直せる仕組みなの」


「だけどお姉ちゃんの能力でそれは止められるんだ」


「操ってるのは生物だけど、ダロンはあくまで道具と同じ扱いだから目的が完了したと伝えるとそれで動かなくなるの」


 アリナは完全には理解出来ないが、スミナが分かっているならいいかと思った。


「ただし、時間が経てばまた同じように侵攻してくると思う。それを止めるには操ってる元を探して破壊しないといけない」


「それは簡単に突き止められるんですか?」


「中継機を探して辿って行けば可能だと思うけど、時間がかかる。大元のダロンの破片が見つかればいいんだけど……」


 ギンナの問いにスミナが答える。地道な作業はアリナも嫌だなと思った。


「あの程度なら何度来ても問題無いわ。敵のやり方も分かったしな。

問題なのはあのゴディシズとかいうヤツらじゃ!!」


 ゴンボが思い出したのか再び怒り始める。


「あの人達あたしとお姉ちゃんの事知ってて、能力も知ってるっぽいよね。何者なのかな」


「魔族連合の内情に詳しい者が裏切って入ってる可能性が高いとは思う」


 スミナの言う通り、双子の事を知っているのは魔族連合の中でも上位に居た者だろう。ただ、アリナはそんな人物は思い浮かばない。しいて言うなら脱走したカヌリだが、彼女が逃げたのは最近で、すぐにゴディシズに情報提供したとは考え辛い。人間を操っていると言われたディスジェネラルのミボが関わっている可能性もあるかなとアリナは少しだけ思った。


「魔族連合のディスジェネラルが崩壊した事で人間の中で反乱が起きる可能性はあると思っていました。

ただ、あんなに過激な集団になるとは思いませんでしたが。

もしかしたらゴディシズの中で一部が暴走しているだけの可能性もあるので、安易に決め付けてはいけないとは思います」


「ねえスミナ、ゴディシズは神に仕えるみたいなこと言ってたよね。

信仰の内容は聖教会と一緒で、聖女であるミアンが説得すれば落ち着くとか無いかな?」


「それは無いと思います。魔族連合内の人間で聖教会の信者の殆どは魔族の聖女を名乗るミボを信じている筈です。そもそも聖教会の教えには全人類の救済はありませんし」


 スミナの言う通り魔族連合に捕まっていた人間はミボを慕っていた。そうなるとミボが暗躍しているのは違うとアリナは思った。聖教会の教えについてアリナはスミナほど理解して無いが、あくまで人々を守るの事が最優先だったと記憶している。


「まだよく分かんない連中だし、今その事を考えるより、あたし達はグイブさん達を王国に送り届けないとじゃない?」


「アリナの言う通りね。

これからどう動くか、ドワーフの工房の守りをどうするかも考えないといけないです」


 スミナはドワーフの工房に誰を残すべきかを考えているようだ。レモネ達やギンナのドレニスは戦力としてかなり頼もしい。魔族連合と本格的に戦うとなれば防衛では無く攻撃に加わって欲しいとアリナも思っていた。


「あの、色々大変な状況なのは分かるけど私とソシラは一旦ウェス地方の様子を見に行きたいと思ってる。あそこは王国の守りの要でもあるし」


「レモネ、私に気を遣って言ってない?

私は大丈夫だから……」


 ソシラはウェス地方の領主の娘なので親族がどうなっているか心配なのは当然だろう。レモネも父親は失ったが、家族はウェス地方に残っている。2人とも帰りたいところだろう。アリナもスミナもノーザ地方に戻りたい気持ちはあるが、それどころでは無い状況で、口に出した事は無かった。


「私も実家がどうなってるか気になるから言ってるの。葬儀で戻ったきりだから」


「私はいいと思う。2人にはこれまで大分助けられたし、レモネの言う通りウェス地方の現状は王国にとって重要だから」


「あたしもそれでいいと思うよ。もしウェス地方の守りが大丈夫そうだったら戻って来てくれればいいし」


「2人ともありがとう。ソシラ、一旦帰ろう?」


「分かった、みんなありがとう……」


 やはりソシラも本音では戻りたかったのだろう。


「僕は王国の要望通り王都に戻ってそのまま王都防衛の任に着く事になると思います。

兵士達はドワーフの方々が作って下さった機械馬車で魔導遺跡まで移動することになるでしょう」


「申し訳無いんですが、私は工房に残ります。色々整ってきたとはいえ、ドワーフの戦力だけではここを守り抜くのは難しいと思いますし……」


 グイブに続いて発言したギンナは残る事を選択していた。ギンナとドレニスの力は貴重だが、故郷を守るのが一番だとアリナも思った。


「いやギンナ、オマエはアリナ達について行け。ここはどうとでもなるし、重要なのは中心となる人物が自由に動ける事だ」


「お爺ちゃん!?」


 ゴンボ王の言葉にギンナが戸惑う。


「今この世界で起こっている問題はドワーフだけのものでは無い。最悪ワシらが倒れてもアリナ達が生きていればいい方向に進むとワシは思っておる。

そしてギンナ、オマエは立派になった。その力はこんな所で使うべきではない」


「ゴンボさん、私はこの工房もこれから重要な位置にあると思いますよ?」


「勿論ワシらは死ぬ気など無い。ただギンナの力はオヌシらが管理した方がいいと考えたのじゃ」


「ゴンボの爺さんがここまで言うんだからギンナにはあたし達に付き合って貰おうよ。魔導具関連だってお姉ちゃんだけが使えるのじゃ意味無いし」


 アリナはゴンボの気持ちを受け取りそう言った。


「分かった。私はアリナさん達について行きます。

でもお爺ちゃんもドワーフのみんなも絶対に死なないでね。信じてるから」


「ああ、ここの心配はせんでいい。ギンナの出来る事をやって来い」


 こうしてドワーフの工房はゴンボとドワーフ達に任せ、双子達は王国へ向けて出発した。アリナにだけスミナが伝えたが、ゴディシズが現れた事で魔族連合の動きも変わる可能性があり、ドワーフの工房は以前より安全になると予想してるそうだ。あと、ゴディシズがすぐにドワーフに接触する事も無いだろうとスミナは考えていた。



 双子達は自分の魔導馬車に乗り、レモネとソシラとギンナにドレニスも積み込み先頭を走り出した。続くのは2台の機械馬車で1台はグイブが運転し、もう1台は兵士の中で機械に強い者が運転し兵士を分けて乗せていた。機械馬車は魔導馬車の構造を真似ており、燃料は魔導馬車と同じく魔物の死体だ。魔力に変換する魔導馬車ほど効率は良くないが、速度は魔導馬車並に出る。自動修復機能など魔導馬車が優れているのは確かだが、機械馬車も十分な性能を見せていた。


 なるべく魔族連合やモンスターの居ない道を選んで進んだが、それでも途中で戦闘が起こった。ただ、戦闘に関してはアリナ1人が外に出て、ほぼ一瞬で対処していた。危険を察知して道を変えるより殲滅して進んだ方が早いとのアリナの判断だ。完全に痕跡を消して行くのは不可能なのでスミナもそれでいいと同意している。

 移動は順調でもうすぐ魔導遺跡に到着すると思っていた頃、問題が発生した。アリナが危険を察知し、真っ直ぐこちらに何かが近付いて来ると判明したからだ。一行は魔導馬車と機械馬車を止め、双子がその対応をする事に決めた。グイブの兵士達をここで減らしたくなかったし、人数が多いと大きな戦闘になると考えたからだ。


「敵は3体で、1体は危険を殆ど感じない。もう2体は凄い威圧感がある」


 アリナは横にいるスミナに伝える。もうすぐその敵も姿を現すところだ。ここまで近付くとアリナは相手が誰であるか大体予想が付いた。ただ、直接で分かるのでスミナには伝えなかった。すぐに戦闘にはならないと思ったのもある。


「アリナさん、スミナさん、会いたかったですよー」


 緊張感とは場違いな高い女性の声が辺りに響く。双子の前に現れたのはピンク色の肌に聖教会のローブを着たデビル、ディスジェネラルのミボだった。その左右には以前双子と戦い、強さを見せつけたミボを母と慕う人間の疑似姉弟、ハミロとゼミロが立っている。


「あたしは別に会いたく無かったよ。で、何しにわざわざ出て来たの?」


「何って勿論協力のお誘いにですよー。

貴方達も会いましたよね、ゴディシズとかいう恐ろしい集団に。ミボは全ての種族が仲良くするのが理想なのに、あの人達は魔族や亜人を滅ぼそうと考えてるんですー」


「確かに過激な思想だと思います。ですがそうさせたのは魔族連合が人間を酷い扱いしていたせいじゃないでしょうか。

それにディスジェネラルが実質崩壊し、ルブが表に出て来て魔族連合の人間は今度こそ危険な状態なのでは?ミボさん、貴方はどういう立ち位置で言ってるんですか?」


 スミナは言葉をきつめにして聞く。以前ルブは人間には利用価値がまだあるのでミボやシホンは使わなかったと言っていた。その言葉から行くと今のミボはルブの指示で動いていると考えるのが正しいだろう。


「そう、それが問題なんですよー。

今度王国に攻め入る時にミボやシホンさんの仲良くしてる人間を使おうとルブ様は考えてるんです。流石にミボでも反論出来ませんでしたー。

だからこうして助けを求めに来たんですよー。

アリナさん、スミナさん、それにお2人が仲良くしてる人達を中心に王国とは別の新しい集団を作りませんか?それが出来たらミボとシホンさんは多くの人間を連れて合流しますよー」


「それが出来るな王国に亡命でもすればいいんじゃない?そもそもレモネ達をダロンで襲ったのはミボ達がやったんじゃないの?」


「違いますよー。今は話せませんが正式に仲間になれば魔族連合の内情も全部お伝えしますよー」


 ミボは敵意を出さずに誘惑して来るが、その左右の2人はアリナ達への敵意を隠せなかった。まあミボを母と考え、嫉妬や警戒の気持ちがあるだけかもしれないが。


「残念ですがわたしはミボさんが言っている事が信じられません。勿論魔族連合に捕らえられた人を助けたいとは思いますが、その為に貴方の提案に乗るつもりは無いです。

それとゴディシズの件はまだ判断しかねます。単に集団として未熟で、話し合いで解決する可能性があると思ってます」


「流石スミナさんですー。やっぱり貴方達がこの世界に平和をもたらすとミボは思うんですよー。

ただ、今は疑われてしまってますので立ち去りますー。今度はシホンさんや他の人間も含めて話し合いをしましょうねー」


「本気で魔族と人間の友好関係を考えてるならシホンさんや他の人間をちゃんと守ってよね」


「勿論ですよー。

これは忠告ですが、王国にこだわり過ぎると痛い目に遭うのは皆さんですからねー。

では帰りましょうね、ハミロ、ゼミロ」


「「はい」」


 2人は感情の無い返事を返し双子を一瞬睨んだ後、3人は飛び去って行った。


「ホント一言多いよね、ミボ。

やっぱり信用出来ないよね」


「何か考えがあって接触してきたんだとは思う。それにゴディシズがミボにとって迷惑な存在なのは分かった。多分管理してる人間をゴディシズに取られると困るんだと思う。

それを考えるとゴディシズは魔族連合に囚われた人達を守るのには適した集団なのかもしれない」


「でも力を持ち過ぎると厄介だよね」


「うん、そこが問題だね……」


 スミナはアリナの数十倍悩んでいそうだった。

 ミボ達が去ったのを伝え、双子達は魔導遺跡へと急ぐ。スミナはまだ色々考えていそうだった。


「確かに厄介な状況じゃな」


「ホムラじゃん、久しぶり」


 小竜姿のホムラが魔導馬車の中に突然現れた。


CZシーズの奴が出て来た訳がようやく分かったわ。ゴディシズという集団はわらわもここまで脅威になるとは思っておらんかった。魔族連合も急速に成長しておる。世界がかつてない速度で変化しているようじゃ」


「何なの?何か原因でもあるの?」


「わらわとて全能ではない。ただ、転生者の存在が世界を大きく揺るがす事はかつてからあった。そう言った意味では変化の中心はお主達かもしれんな」


「前に言いましたが、ホムラの力は借りるつもりは無いです。

ただ、ホムラなら今の状況を収められると思う?」


 スミナが自分でもどうしたらいいのか行き詰っているのかホムラに問いかけた。


「無理じゃな。わらわが力で全ての戦力を無力化していく事は可能じゃろう。だが、それでは平和はもたらされん。悪竜としてわらわが退治され、その後力を持った集団が再び出て来るだけじゃろう」


「やっぱり力で押さえつけるのは駄目ですよね」


「スミナが考えている事は何となく分かるぞ。だが、それは理想論で、全ての勢力を救うのは無理だと考えた方がいい。魔族連合は歪だったが力で押さえつけ、それである程度均衡は保たれておった。全員に不満の無い同盟など不可能と思うのじゃ。

あと、今からデイン王国を中心とした一つの勢力にするのは難しいじゃろう。結果として魔導結界は外の人間や亜人に不満を与えてしまった。

と、わらわの考えをあまり押し付けるのは良く無かったな。わらわは傍観者の立場に戻っておる。あとは2人で考え、良いと思う方向へ進むべきじゃな」


 ホムラは多くの情報を得て今の話をしたのだろう。多分スミナは余計に混乱してしまったのではとアリナは思う。なんで世界はこんなにややこしいんだろうとアリナでさえ思っていた。


「ホムラ、わたし達の為に出て来てくれてありがとう。ホムラの考え方は凄く参考になった。でも、今は一旦王国が残っている事も重要だと思う。出来る事をやってみるから見守ってて」


「分かったぞ、愛しのスミナ」


 そう言ってホムラは姿を消した。


「大丈夫?2人に大変な事を押し付けちゃってないかな」


「ううん、大丈夫。わたしが好きでやってる部分もあるし。アリナには迷惑かけちゃってるけど」


「あたしはお姉ちゃんが納得してればそれでいいよ」


 レモネは双子を気遣ってくれる。その気持ちだけでも十分嬉しかった。しばらく沈黙が続き、決心したのかスミナが口を開いた。


「一つだけアリナにも黙っていた事があるの」


「何?聞かせてよ」


 恐らく自分に余計な心配をかけないように言わなかったんだろうなとアリナは思った。


「ルブがガリサに本を渡して、ガリサがその本で異界災害を引き起こす事になったのは覚えてる?」


「うん、お姉ちゃんが実家に戻った時にガリサの日記を読んで分かったんだよね」


「そう。それでわたしも興味本位でその本を読んだの。

そこには異界災害を引き起こす為の手順や道具について書かれていたんだけど、それ以外にも情報が書いてあった。それはデイン王国が過去に行った悪行が記されていた。全てが真実とは思わなし、ガリサを追い詰める為に書かれたんだと思う」


 確かにその話は初耳だった。アリナに王国に対して疑心暗鬼になって欲しく無かったんだなと理解した。

 魔導馬車の中にはアリナの他にレモネとソシラとギンナも居て話を聞いていた。スミナは3人には話してもいいと考えたのだろう。


「でもそれぐらいなら別に黙ってても問題無かったよ」


「そこにもう一つ重要な秘密が書かれてたの。王国には神機の他に転生者を葬る為の秘密の道具があると。それは王国のどこかに隠してあるって」


「なるほどね。で、あたし達は先にそれを壊しに行くって事?」


 王国が転生者を長年使い続ける事が出来た理由がそれなのだとアリナは何となく分かった。それがある限り自分達は王国に逆らえないと。アリナは王国に対して恨みは無いが、力で利用されるのは気持ちよくはない。


「違うの、アリナ。わたしはそれを確かめ、逆に平和の為に利用出来ればと思ってるの」


 スミナには何か大きな考えがあるようだ。アリナはそれが上手く行けばいいなと思うのだった。

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