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10.新しい生活

 馬車で王都へ向かうのが2度目だったのもあり、馬車は順調に王都に到着した。入学式の一週間前だが、学生寮は受け入れの準備が出来ており、馬車はそのままワンドエリアの寮へと向かった。


「女子寮の寮長のネギヌ・ノモザです。スミナ・アイルさんとアリナ・アイルさんですね。お2人は同室とさせて頂きました。2階の204号室をお使い下さい。何か不明点がありましたら、私か寮生代表のナミル・メドシさんに聞いて下さい」


「分かりました、ありがとうございます」


 寮に着くと予想より若い寮長が対応してくれた。荷物チェックなどは無く、メイルとエルも使用人という事で、一時的に荷物運びで寮に入る事が許された。人の出入り以外は自由な寮のようで、危険からは自分で身を守れという感じなのだろう。

 女子寮は学校ほど立派ではないものの、しっかりした木造の歴史ある建物だった。掃除が行き届いていて、調度品の雰囲気も良い。流石に個室にトイレやお風呂は無かった。4階建ての建物で、1階が共同の食堂やラウンジなどのフロア、2階が1年生、3階が2年生、4階が3年生と学年ごとに階が別れていた。双子はここで3年間過ごす予定となっている。


「思ったより広い部屋だね」


「まあ、家の部屋と比べると狭いし、古いけどねー」


 双子は自分達の部屋を見て感想を述べる。ベッドは2段ベッドで、アリナが上がいいと言うので、下をスミナが使う事になった。ベッドの他は勉強用の机がベッドの反対側の壁に並んでいて、部屋の中央にはお茶が飲めるテーブルが置いてあった。あとはタンスなどの家具と収納があり、荷物はそこへ入れていった。荷物運びが終わり、一旦メイルは王都にあるアイル家の屋敷に向かうというので別れた。


「エルは基本的に使い魔形態でいてもらっていい?」


「はい、自由に歩けるなら姿は何でもいいです」


「あと、他の人の前では喋らず鳴くだけにしてね」


「分かりました。

ニャー。

これでいいですか?」


「本物の猫とは鳴き方違うよねー」


「しょうがないよ、実物がいないから」


 エルに一応鳴き声の練習をさせてみたが、微妙な動物の無き声にしか聞こえなかった。その後荷物の整理をしていると“トントンッ”と部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「はい、なんでしょうか?」


 スミナが扉を開けるとそこにはアリナよりやや背が高いぐらいの小柄な少女が立っていた。


「あ、あの。はじめまして。わ、私は隣の部屋の203のレモネ・ササンと言います。ご挨拶に伺いました」


「わざわざありがとう。わたしはスミナ・アイルで、こっちは妹の」


「アリナ・アイルよ。宜しくね」


 レモネは肩までの濃い紫色の髪で、前髪が目にかかっていて控えめな印象を受ける。よく見ると顔は可愛いので、目隠れ大人しい系の美少女だなとスミナは思った。


「こう見えて、わたし達は双子なの。あと、これは使い魔のエル。大人しい子だから迷惑はかけないと思うから」


「ニャー」


「変わった動物ですね。でも可愛いです。あの、良ければどの学科に入学するか聞いてもいいですか?私は魔法騎士科です」


「なら一緒ですね。わたし達も魔法騎士科に入ります。同じクラスになれたらいいですね」


「はい!今後ともよろしくお願いします」


 レモネは自室に戻っていった。小柄で大人しい印象だったので同じ魔法騎士科の生徒なのは意外だとスミナは思った。ただ、マジックナイトの資質は運動能力より魔力とセンスが重要なので、見た目は関係ない事を妹のアリナでよく分かってもいた。

 双子は寮に早めに入寮したつもりだったが、既にレモネのように入寮している生徒がチラホラいた。とりあえず会った人とは挨拶したが、名前と顔を一致させるのは大変だとスミナは思った。


 双子はそれから数日の間、寮での生活を覚えたり、近くの便利なお店を見て回ったり、必要な道具を買ったりして過ごした。

 寮の個室は各自が掃除し、その他の部分を持ち回りで分担して掃除する。風呂は共同の巨大な浴場があり、学年毎に使用する時間が決まっていた。

 食堂は朝食は全員分あるが、夕食は事前に予約しないと食べられない。放課後に外で食べてから戻る生徒が多いからだという。ただ、雑貨や飲食物を売るコンビニみたいな小さな店が寮にあるので食べ物で困る事は無さそうだ。

 門限も夜8時と決まっているが、事前に申請を出せばもっと遅い帰宅でも対応してくれる。あくまで学生本人の自主性に任せる自由で良い寮だとスミナは思った。


 双子が入学に向けて準備が整いつつある時にアスイから連絡が来た。連絡は直接ではなく、メイドのメイルを通して来たので少し驚いた。双子は寮の近くにある高級なレストランでアスイと会う事になった。エルは流石に入れないと思い、宝石形態で持って行く事にする。


「メイルはアスイさんの事知ってたの?」


「はい。昔ですが、少しの間一緒に戦った事があります。お嬢様達が優秀なので協力をお願いした件も伺っております」


「そうなんだー。昔のあの人は強かった?」


「はい、それはもう。私よりずっと強かったですよ」


 メイルはアスイより少し年上だと思うが、2人が知り合いだったのは意外だとスミナは思った。メイルが傭兵として戦っていた事は知っているが、過去を話したがらないのでどんなことをしていたかはまるで知らなかった。


「アスイさんって今は国の機関で働いてるみたいだけど、昔は何をしていたの?」


 スミナはメイルがどこまで知っているのか軽く探りを入れてみる。


「お嬢様達は知らないと思いますが、戦後に魔族が盛り返した時期があったんです。あの時、アスイは突然現れて、勇者のごとく色んな戦場を駆け巡ってました。平和が戻ったのはアスイの活躍があったからだと私は思っています」


「そうなんだ。凄い人なんだね」


 恐らくメイルはアスイが転生者である事も、魔導結界を張った事も知らないだろうとスミナは思った。店に着くと店員に個室に案内され、豪華な部屋にアスイが先に1人で待っていた。


「お久しぶりです。急にお呼びしてすみません」


「いえ、入学の準備も出来て来たので問題無いです。わたしも今後の事を少し話したかったので」


「どうも」


 アリナは少しだけばつが悪そうに軽く挨拶だけする。謝りたいとは言っていたが、メイルがいるこの場ではやり辛いのだろう。


「アスイ、私は席を外しましょうか?」


「いえ、今日は顔を見ておきたかったのと、純粋に食事を楽しみたいと思ったので。メイルも同席して下さい」


「分かりました、ではお言葉に甘えて」


 メイルが同席するので、今日は依頼等の話ではないとスミナは理解した。アスイが選んだ店は雰囲気が良く、料理も美味しく、大満足だった。


「どうですか?この町には慣れてきましたか?」


「えーと、まだ迷いそうになります。複雑な小路が多いので」


「でも、面白いよ」


「変なこだわりがある人がこのエリアは多いので、あえて複雑な道になったりしてるんですよ」


 メイルが説明する。目的の建物が見えているのに行こうとすると行き止まりになっていたり遠くに離れていたりする事がスミナは多々あった。


「これでも昔に比べると大分整理されたんです。防衛の観点からも道が分かり辛いのは良くないんで」


「そうなんですか」


「そうだ、この辺りでスミナさんが気に入りそうな店のリストを後でお渡ししますよ」


「ありがとうございます」


 アスイが言っているのは自分の祝福が活かせる店だろうなとスミナは思った。その後も町の話やたわいのない雑談が続き、デザートも食べ終わってそろそろ店を出る雰囲気になっていた。


「私は基本は王城にいますが、戦技学校の教員としても席を置いています。なので、たまに学校で会う事もあるでしょう」


「やっぱり実技を教えるんですか?」


「いえ、私は教えるのが下手なんですよ。戦い方も自己流ですし。なので、魔法や魔導具関連の特殊な授業でたまに指導に行く事があるぐらいです」


「あたしは戦い方を教えて欲しかったなあ」


 アリナが純粋に思いを告げる。アスイを超える為にアスイの戦い方をもっと知りたいという気持ちもあるのだろう。


「アリナさんは学校で基礎を学べばもっと強くなると思いますよ。なので、ちゃんと勉強して下さいね」


「まあ、頑張ってみるよ」


 アリナもアスイも祝福が強力な分、戦い方が自己流になるのはしょうがないだろうとスミナは思った。そして自分ももっと色々知識を得て強くなる必要があるなと。

 お店の勘定はアスイが持つ事になり、双子とメイルはそれに甘える事にした。店の前で別れる際にアスイがスミナに小声で話す。


「貴方達の事を探っている者がいるという情報が入っています。今のところ危険は無いでしょうが、気を付けて下さい」


「ありがとうございます」


 アスイの話にスミナは心当たりは無かった。が、入試で目立ったり、他の町で悪人退治した事があるのでその辺りかもしれないと思った。スミナは後でアリナにも注意するよう言っておいた。


 それから入学式までの日々は順調に行っていた。同じく合格した幼馴染のガリサとドシンが王都に来たので久しぶりに会ったり、アスイからもらったリストの店を覗いてみたりして過ごしていた。


 事件が発生したのは入学式の2日前だった。午後になり双子は寮の掃除について呼ばれる事があり、部屋にエルを置いて説明を聞きに行った。その後部屋に戻ってみると。そこにエルの姿が無かったのだ。少しの時間だからと鍵はかけていなかった。


「エル?」


「お姉ちゃん、とりあえず危険は感じない」


 周囲を見渡すアリナの言葉で戦闘の準備は必要無いとスミナは思った。


『エル、聞こえる?今どこにいるの?』


 スミナは久しぶりに魔法でのエルとの会話を試みる。


『マスター、ワタシは今知らない女性に持ち去られ、203号室にいます。身の危険は感じません』


『分かった、すぐに行く』


「アリナ、エルは隣の部屋にいる」


「隣ってレモネちゃんの部屋?」


 スミナは頷きながら部屋を出た。エルはレモネの事を知っているので、誰か別の人物が連れて行ったのだろう。スミナはエルの正体がバレたら問題だと急ぐ。“コンコンッ”とノックをしたのと同時に部屋に入る。そこにはエルを膝に抱いて撫でる長い黒髪の少女が座っていた。


「エル」


「ニャー」


 呼ばれるとエルは少女の膝を飛び降り、入って来たスミナの背後に回る。


「何をしてるんですか?」


「エルちゃんって言うんだ、その動物……。

珍しい動物が居たから観察してた……」


 黒髪の少女はゆっくり喋る。そして立ち上がると再びエルに近付こうとする。少女は立ち上がるとスミナより長身で170センチぐらいに見えた。スミナは自分より長身の同年代の少女に会った事が無く少し驚いた。


「あ!ごめんなさい、ソシラが何かしたんじゃないですか?」


 背後から声が聞こえ、そこにはレモネが立っていた。レモネは急いで黒髪の少女の横に移動する。


「この子少し変わってるんです。えーと、私のルームメイトのソシラです。今日こっちに来たばかりで。ほら、ちゃんと挨拶して」


「う、うん。ソシラ・モット。魔法騎士科に入る……」


「ソシラさん、ね。わたしは隣の204号室のスミナ・アリナです。よろしくね。で、横にいるのが妹のアリナ」


「よろしく」


「で、エルなんだけど、わたしの使い魔なの。大人しいけど知らない人には何をするか分からないから、勝手に連れていかれると困ります」


「ソシラ、そんな事したの。ごめんなさい。ソシラも謝って」


「ごめんなさい」


 大人しそうなレモネが以前よりしっかりしているように見えた。


「あ、私とソシラは幼馴染なの。ソシラが貴族の娘で、私は町の商人の娘で付き合いがあってね。ちょっと変な子だから友達が少なくて、戦技学校にこの子が行きたいっていうから、私も一緒に行く事になったの」


「そうなんですか」


 とりあえず2人が仲良さそうなのは分かった。


「エルちゃん、なんて動物?」


「エルはちょっと珍しい動物で、猫っていうんだ。前に遺跡で発見して」


「猫……。初めて見た……」


 心なしかソシラの目が輝いて見えた。


「動物とかモンスターとか、ソシラはそういうのに興味があるんです。私はよく分からないけれど。学科もだったら魔法科にすればって言ったんだけど、私が魔法騎士科にしたから同じにしたいって」


「レモネがいないと無理……」


「ちょっと変わった子だけど悪い子じゃないんです。だから仲良くしてくれると嬉しいです。お隣さんだしね」


「あたしは変った子好きだよ。仲良くするよ」


「わたしも仲良くしましょう。エルもたまになら撫でていいから」


「本当!?」


 ソシラが嬉しそうに笑う。悪い子でないのは確かなのだろう。ただ動物に詳しいとエルの秘密がバレそうで気を付けないととスミナは思った。


 入学式当日、双子は少し早めに起き、メイルと会って、特別なドレスに着替える。戦技学校には学年別の制服があり、双子はもう受け取っていた。が、入学式と卒業式はドレスを着てもいいというしきたりがあり、一応貴族の娘である双子は両親が用意したドレスを着ていく事にしたのだ。


「うーん、綺麗だとは思うけど動きにくいなあ」


「入学式に戦う事は無いんだし、いいんじゃない」


「お2人ともお綺麗ですよ」


 スミナは髪色に合わせた青と白のドレスで、胸元に大きな青い宝石が飾ってある。値段は聞いていないが高価なものなのは分かった。アリナも髪色に合わせた赤と黒のドレスで、髪に大きな赤い宝石の付いた髪飾りを付けていて普段より女性らしさが強調されている。


「エルは使い魔登録を後でするから、それまではメイルのところで待っててね」


「分かりました。何かあれば呼んで下さい、マスター」


 人間形態になったエルは登録するまで学校に入るのを待ってもらう事になる。

 戦技学校の校門へ向かうと、制服の生徒と着飾った生徒が半々ぐらいで歩いていた。着飾っているのが貴族や金持ちの子供だろう事が何となく分かる。


「わあ、素敵ですね」


 歩いているところを話しかけて来たのはレモネだった。横にソシラもいる。2人とも制服だった。


「2人はドレスを着ないんですか?」


「持って来てはいたんだけど、この子が着たくないって」


「派手だった……」


 ソシラは貴族の娘だが着るのを嫌がったようだ。そこでスミナは思い出した事を聞く。


「ソシラさんってウェス地方の領主のモット家の領主だったりします?わたしの家はノーザ地方の領主で、苗字聞いた事あるなって」


「うん、そう。ウェス地方のフレズから来た……」


「そっか、スミナさん達も領主のご令嬢でしたか。知らずにすみません」


「いいって、令嬢って感じじゃないし、普通に接してよ」


 アリナがドレス姿に合わない態度で返事する。


「じゃあ、お父様同士も知り合いかもしれませんね。今後ともよろしく、ソシラさん」


「分かった。よろしく……」


 相変わらずソシラの表情はよく分からなかった。


 事前に受け取った生徒証を校門で見せ、以前に実技試験で使った体育館のような別棟へ向かう。座席は学科別に分かれ、別の学科にはガリサやドシンの姿もあった。番号に席に座るようになっていて、スミナはアリナと隣り合わせで座る。少し前には先ほど会ったレモネ達が座っていた。

 周りを見回すと魔法騎士科は男子より女子の割合が多いのが分かる。技術と魔法を組み合わせるマジックナイトは女性の方が適性が高いらしいのでその影響もあるのだろう。

 座席に生徒が埋まり、予定の時間が近付いてくる。新入生だけでも結構な数で、大きな建物の座席の殆どを占めていた。在校生は代表が後方の席に数人来ているだけのようだった。向かい合わせの前方の座席に教師と思われる大人が座っていて、そこにはアスイの姿もあった。


「それではただいまより魔導歴1246年度のギーン戦技学校の入学式を始めます。では、初めに校長であるザトグ・セナリ先生のご挨拶を」


 恰幅がいい男子教師の言葉で入学式が始まり、白髪と長い髭が一体化したまさに魔法使いといった感じの校長が一段高いステージの上に上る。


「皆さん、ご入学おめでとう。わしがこの学校の校長のザトグ・セナリだ。まず、この学校の歴史から簡単にお話しよう。この学校は約500年前に創立された歴史ある学校で――」


 校長の長い挨拶が始まり、周りの生徒が段々と興味を失っていくのが分かる。スミナは知っている内容なので一応聞いているがそこまで重要な話だとは思えず、横のアリナは興味無さそうに周囲を観察していた。


「――で、今日のこのめでたい日に、本校の首席卒業生であり、現在は王国騎士団長として活躍しているターン・ロフス氏に来て頂いた。大先輩の言葉をしっかりと聞いて欲しい。では、ターン氏、どうぞ」


 校長の話が終わり、代わりに30代半ばぐらいの立派な鎧を着た騎士がステージに上がる。ターンの事はスミナも以前から知っていて、兄ライトの一番偉い上司だと今は認識している。


「諸君、入学おめでとう。我が騎士団の多くは私を含めてこの学校の卒業生です。優秀な成績を収めた者はより高い位の騎士になれるので、皆さんには切磋琢磨して学びを得て欲しい」


 スミナはターンの言葉がややキザっぽく感じ、いい印象を持たなかった。強く、顔も悪く無いので人気があるとは聞いていたが、スミナのタイプでは無いようだ。


「ねえねえ、この人強いんでしょ。鎧も白銀だし、探してる白銀の騎士だったりしない?」


 アリナが小声で言ってくる。


「違うよ。あれは魔導鎧じゃなくて礼装用の鎧だし、そもそも戦士科卒業でマジックナイトでは無い筈。年齢もあそこまでおじさんじゃないと思う」


 スミナが小声で返す。白銀の騎士を探す時に有名な騎士や戦技学校の卒業生も調べたが、それらしい人物はいなかった。今のスミナが考えて、アスイ並みに強い騎士の筈なので見れば分かると思っていた。


「違うかー」


 アリナと話しているうちにターンの挨拶は終わっていた。そこから在校生代表や魔導研究所の人の話があったが、アスイが挨拶したりはしなかった。アスイは自分の強さを学校内では隠しているのだろうとスミナは思った。


「最後に新入生代表の挨拶をお願いします。新入生代表、マミス・ヤミロさん」


「はい!!」


 最後にステージに上がったのは入試で双子に絡んで来た金髪お嬢様のマミスだった。以前にも増して金髪を豪勢にセットし、髪飾りやドレスもド派手に着飾っていた。歩くのも大変そうに見える。


「新入生代表を務めさせて頂きました、マミス・ヤミロです。わたくしは名門ヤミロ家の者として、強く、華麗に、聡明に学校生活を送り、首席で卒業出来るよう精進したいと思っております。

また、皆様の模範になるよう振る舞い、困っている者を助けられる立派な人間になれるよう心掛けております。

ですので、皆様もわたくしに負けぬよう一層の努力を期待しておりますわ」


 挨拶の最後にマミスの視線がこちらに向いたような気がしてスミナは寒気を感じた。出来る事ならあまり関わりたくないなと思った。

 入学式が終わり、各クラスでの説明会へ移動する。クラスといってもクラス別の教室が現実世界の学校のように決まっている訳では無く、あくまで同じクラス単位で授業を受ける事が多かったり、そのクラスの相談役の先生が決まっているぐらいで、教室は授業毎に移動する事になる。

 指定されたクラスの教室へ双子が移動すると、そこにはレモネとソシラ、そして先ほどのマミスとその取り巻きもいた。双子は自然とレモネ達に近い席に着席する。マミス達が階段状に段差の席の前の方に座っているのに対してレモネは最後方の席に座っていた。スミナ的にも後ろの席の方が落ち着くので良かった。


「同じクラスみたいですね」


「良かったー、知り合いがいて」


 レモネが安心した顔をする。他にも寮で見た事ある生徒がチラホラいた。学校には寮以外にも他のエリアから馬車で来たり、ワンドエリアの知り合いの家に下宿する生徒も多い。幼馴染のガリサも親戚の家に下宿している。

 クラスに人が集まると、30人ぐらいで1クラスだと分かる。男女差が女子8に対して男子2の魔法騎士科でも女子が多いクラスのようだ。完全に男女に分けないのは何か理由があるのかもしれない。しばらくして担当教師と思われる女性教師が入ってきた。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。初めまして、私がこのクラスを担当する、魔法技マギル実技教師のミミシャ・アオフです。私の授業は厳しいので覚悟しておいて下さい。それはそれとして、皆さんの相談は随時受け付けますので、何かあったら気楽に言って下さい。

まずは授業の説明をする前に簡単な自己紹介を前の方からどうぞ」


 ミミシャは30代前半位の若い女教師だった。スリムに見えるが、結構筋肉が付いているのが服の上からでも分かる。所謂体育会系教師なのだろう。

 そしてスミナは自分が嫌いな自己紹介が始まった事に恐怖する。それでも現実世界の時より色々と自信がついて、肩書も付いたのが救いだった。


「先ほども新入生代表で名乗らせて頂きましたが、マミス・ヤミロです。見たところ、このクラスには優秀な生徒が集められたように感じられます。皆様に負けないよう頑張りますわ」


 前の方にいたマミスが自己紹介する。その声は自信に満ちていた。次々に前の方から挨拶が続き、最後にソシラ、レモネ、スミナ、アリナの順に挨拶する事になる。レモネが肘でつついてソシラが気付いて立ち上がり挨拶を始めた。


「ウェス地方の領主、モット家の次女のソシラ・モットです。生き物とか好きです……」


 ソシラがゆっくりと挨拶する。


「同じくウェス地方から来ました、レモネ・ササンです。私の家のササン商会は王都のペンタクルエリアでも商売をしています。将来商売をする際はぜひお声がけ下さい」


 レモネは自分の家の話をした。スミナは何とか話す内容をまとめ終わり、それで挨拶する事にする。


「ノーザ地方の領主、アイル家の長女、スミナ・アイルです。左の双子の妹のアリナと一緒に入学しました。自分的には魔導具の扱いが得意だと思います。使い方が分からない魔導具があればいつでも見ますのでよろしくお願いします」


 スミナは心臓をドキドキさせながらなんとか自己紹介を終えた。


「アイル家の次女の、アリナ・アイルです。お姉ちゃんが言った通り、似てないけど双子の姉妹です。あと、多分このクラスで一番強いと思います。新しい事や面白い事があれば教えてくれると嬉しいです」


 アリナが堂々と言う。分かっていたが、マミスがアリナを睨んでいた。他にも強さに自信がありそうな生徒がアリナに注目しているのが分かる。結局アリナは強さを隠す気はないようだ。スミナは自己紹介を終えた余韻で怒る気力も残って無かった。


「皆さん、なかなか自信に溢れる自己紹介で先生も実際に実技を見るのが楽しみです。

では、今後の話をしましょう――」


 ミミシャは今後の授業の受け方などの説明をした。授業の時間割は各個人が作って申請する流れになっている。各学科には必須の授業があり、それは同じクラスで受ける。必須の授業は卒業に必要で、そのテストが受からないと卒業出来ない。

 必須以外の副授業は時間が合えば基本的にどの学科でも受ける事が出来る。実技関連でも特別な護身術や武器の種類に特化した授業がこれに当たる。学術関連は魔法の細かい種類や基本以外の魔法の歴史や礼儀作法などの授業もある。

 卒業出来るかどうかは3年の最後の卒業試験で決まる。それは強さで卒業する事も出来るし、新たな技の披露でも出来るし、学術論文でも出来る。試験は試験官の先生5人中3人以上が卒業を認めさえすれば可能という方式だった。

 つまりは授業は必須以外取らずに他の時間は遊んでいたり、働いていても可能だという事になる。しかし、卒業の為の技術や知識は必須授業だけで得るのは難しいとスミナは内容を見て思った。専門的な技術や知識になるにつれ副授業にその内容があるからだった。そしてある授業を受けると別の重要そうな授業が受けられない等、調整が難しそうだと感じた。


「1ヶ月の間は授業の取り直しが出来るようになっています。気になる授業があったら試しに受けてみるのもいいと思います」


 最後にそう言ってミミシャは話を終えた。今日はもう帰ってよくて、実際に授業が始まるのは来週からになっていた。マミスがまた何か言ってくるかと身構えたが、マミスは取り巻きを連れて早々に帰っていった。


「悩みますね、どの授業を取るか」


「そうですね、確かに」


 スミナは考える事が多そうで既に頭を悩ませている。


「アリナはどうする?」


「あたし?あたしは頭より身体を動かせればいいかなー」


 アリナがとりあえず自分と同じ授業にするかと思っていたのでスミナは少し意外だと思った。


「とりあえずドレス脱ぎたいし早く帰ろう」


「そうだね」


 スミナは授業の時間割に数日悩み抜く事になるのだった。


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