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7.追跡者

「レモネ、危ない!!」


 ソシラの叫びでレモネはギリギリ襲い来る鉤爪を避ける事が出来た。そして襲って来た小型の虫のような闇機兵ダロンを斧で叩き斬る。残りの敵もソシラとドレニスに乗ったギンナが破壊していき、残り数体になると蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。逃げ足だけは速いので追いかける事はしない。


「ソシラ、助かったよ」


「無事で良かった。でも疲れた……」


 戦いが終わりソシラが地面にしゃがみ込む。レモネも連戦続きで攻撃に気付かないぐらいに疲弊し、本来苦戦する程の相手では無いのに戦闘が長引くようになってるのを自覚している。


 デマジ砦での戦いが終わり、レモネとソシラとギンナはドレニスを魔導馬車に乗せ、ドワーフの工房へと旅立った。ドワーフの王の孫であるギンナが工房の様子を心配したのとギンナの魔力が尽きていたので一旦帰郷する事に決めたのだ。魔力が尽きてギンナがドレニスを動かせないので双子の魔導馬車を借りて帰る事になったのだった。

 更にギンナに友情を感じてる王国の少女レモネとソシラはそれに同行する事になった。ドワーフの工房に王国の軍師グイブとその部下の兵士が残っており、その様子を誰かが見なければいけなかったのもある。あとは捕まえた元魔族連合の人間であるカヌリの事も注意する必要があった。

 速度が出る魔導馬車とはいえ、敵地の上に距離もかなり離れており、旅は長引いていた。それでも最初の数日は順調で、あと2,3日でドワーフの工房に帰れると思っていた。


 だが、それは魔導馬車を追跡して来る敵によって遅れが出てしまった。追跡してきたのは飛行して速度が出る魔族連合の30センチぐらいの虫型の小型ダロンだった。大体30体ぐらいが同時に襲いかかり、単体の攻撃力は低いものの、放置すれば魔導馬車を破壊される恐れがあった。なので一旦馬車を止めて破壊し、敵が去ったら出発した。しかし何度破壊しても数体が逃げて行き、また数を補充して襲ってくる。その度に馬車を止める必要があった。

 更に問題なのは最初はレモネとソシラの2人で対処していたが、敵も戦ううちに狡猾になり、戦法を変えてきたりした事だ。なので温存していたギンナのドレニスも出す必要があり、ギンナの魔力も使わなければいけなくなった。そのうち元々減っていたギンナの魔力も尽き、代わりに魔導馬車の魔力をドレニスに入れて今は戦わせている。そうなると今度は魔導馬車の魔力が減り、魔物の死体から魔力を作りながらの走行だと速度が落ちてしまうのだった。


「すみません、私の魔力がもっと多ければこんな事にならなかった筈です」


「ギンナは悪く無いよ。これぐらいの敵、本当は私達だけで倒せないといけなかった。

それにしてもしつこ過ぎる。どこかに大元があると思うので、それを倒せればいいんですが」


「一度後を追ったけど逃げられた……。それなりに距離が離れた場所に居る……」


 ソシラがダロンを追ってもどこで補充しているか分からなかった。敵を深追いして戻るのに時間がかかったら本末転倒なのでレモネは結局探す事を諦めている。


「とにかくドワーフの工房にかなり近付いてきた。このまま一気に帰るのがいいと思う」


「レモネ、でもそうするといざという時にドレニスが動かせませんよ」


「速度を優先するか安全を優先するか迷うところ……」


 ギンナの言う通り魔導馬車の残り魔力を使いつつ移動すると次の襲撃の際にドレニスが動かせない可能性がある。かといってのんびり移動していたら次の追手がすぐに追いついてしまう。地図から行けば普通の魔導馬車の速度でドワーフの工房まであと1日かからない距離ではあった。


「ここのところ襲撃頻度が高かったし、すぐに追手が来るとは思えない。

ここは安全より速度を優先するのがいいと思う。みんなは?」


「私はレモネの決定に従う……」


「私もいいと思います。工房には少しでも早く帰りたいので。それにいざとなれば私の回復した魔力でドレニスは動かせますし」


 レモネの決定に2人は賛成し、魔導馬車の速度を上げてドワーフの工房へと再び出発した。



「そんな、もう追手が来るなんて」


「見た事無いダロンも居る……」


 再出発から1時間後、魔導馬車の背後からダロンの集団が飛来していた。今までは30センチ程度の小型しか居なかったのに対して、今回は1メートルぐらいの大きさの虫型のダロンが混ざっている。大きい分破壊力は増しているだろう。


「私とソシラで何とかする。だからギンナはドレニスで魔導馬車を守ってて」


「ですが、あの数が相手では」


「大丈夫だって」


 レモネは自分も疲れているが、運転もしていたギンナの方が魔力も少なく大変だと分かっていた。それに小型のダロンより大きいサイズのダロンの方が攻撃を当て易いと思えた。


「行くよ、ソシラ」


「分かった、頑張る……」


 ソシラも疲れているだろうが、流石に3人きりなので自分もやるしかないとやる気を見せた。


「ソシラは小さいのを。私は大きいのをやる」


「了解……」


 分散していて数が多い小型のダロンは作った虚像と入れ替わる祝福ギフト持ちのソシラに任せた。ソシラの鎌でも1撃で破壊出来るので魔導馬車に近付くのを防いでくれるだろう。レモネは今回5体ほど混ざった大きい虫型のダロンに一気に近付く。どんなに硬くてもレモネの力を増幅する祝福での攻撃は防げ無い筈だ。


(避けられた!?)


 力いっぱいのレモネの横振りの斧をダロンは急激に身体を縮めて回避していた。どうやら小型と違って身体を自由自在に変形させられるようだ。


(だったら!!)


 レモネは更に斧を振り、避ける為に身体を変形させたダロンに蹴りをお見舞いする。魔導鎧のブーツ部分には刃が仕込んであり、ダロンの腹に大きな傷を負わせる事が出来た。だがすぐに回復し、蹴りでは1撃で倒せないと分かる。そんなレモネに他のダロン達が攻撃を仕掛け、レモネは一旦距離を取って態勢を立て直す必要があった。


(少し不味いかもしれない)


 レモネは連戦で傷が癒えておらず、魔力も体力も十分では無かった。ギンナの手前、自信ありげに言ったが、自分1人でどこまで戦えるかと不安を感じずにはいられなかった。


(弱気になっちゃ駄目だ。スミナ達だって今頃頑張ってる筈だ!!)


 レモネは分かれた仲間を思い、自分も頑張らねばと気合を入れる。斧と格闘を取り交ぜ、敵を翻弄し、何とか本命の斧で1体のダロンを叩き割る。敵の攻撃はなるべく斧で受け、無理に避けようとしない。力を増幅する祝福を上手く使って体力を温存しつつレモネは戦い続けた。


(くっ、こいつら近付いて来なくなった)


 ダロンはレモネが防御しつつ反撃するのに対抗し、攻撃が当たらない範囲からチクチクと攻撃する戦法に変化していた。こうなるとレモネが接近しても逃げ回り、逆にレモネにかすり傷が増えていく。相手の目的が足止めだと考えると、とても効果的だった。

 ソシラの方を見ると小型のダロンもソシラの虚像から逃げるように動き回り、なかなか仕留められなくなっていた。ソシラの援護は期待出来ないだろう。ソシラと連携して攻撃したいが、そうなると敵は魔導馬車を狙ってくる。レモネ達は身動き出来ない状況だった。


(あたし達を観察してる奴がいるのかも)


 レモネは今までほぼ機械同然のダロンを数だけ追跡に使っているのだと思っていたが、ここに来て敵がダロンを通じてこちらを観察しつつ作戦を練っているのに感付いた。それだと時間が経てば経つほど不利になるので、早期に敵を撃退したい。


(多少無理するけど、一気にやるなら!!)


 レモネは思い立った行動を開始する。敵に向かって魔導具の斧を投げたのだ。敵の1体はそれで粉砕されたが、武器を失ったレモネに2体のダロンが左右から襲い掛かった。


(想定通り!!)


 レモネは左腕に付けた魔導具の盾を巨大化させ、回転して2体のダロンを叩きのめした。


(あと1体!!)


 そう思ったレモネの視界に残り1体のダロンが見当たらない。


(しまった!!)


 レモネは背後に危険を感じたが、即座には動けなかった。


「大丈夫です!!」


 背後から破壊音がして、振り返るとギンナが乗ったドレニスがドリルでダロンを破壊していた。ドレニスは着地すると同時に複数の刃を飛ばして小型のダロンも破壊していく。


「ギンナ助かったよ。

でも、魔力を使ったら……」


「魔導馬車の魔力は残してあります。今は回復した私の魔力で動かしているので大丈夫です。

敵は全部倒しましたし、急いで戻りましょう」


「そうだね」


 レモネは安心しつつも、結局ギンナに助けられた不甲斐なさを反省していた。


「残念だけど、そうは行かないみたい……」


 レモネの元にやって来たソシラが顔をしかめる。レモネも周囲から敵の気配を察知していた。


「40、いえ50体は反応があります。しかも先ほどの中型が半数以上占めそうです」


「ギンナ、残りの魔力でどれぐらい動けそう?」


「恐らく2分ほどですが、武装の再装填が出来て無いので近接メインの戦いになります」


「ソシラはまだ動ける?」


「頑張る……」


 レモネは仲間の状態を確認して絶望していた。そして敵の狙いは最初からこれだったと理解する。こちらの疲弊が最大に達したタイミングで大軍を使うのだ。速度の出る小型はあくまで魔導馬車を止める用であり、戦闘力が高い中型を残していたのだと。無理して魔導馬車で移動するのは失敗だったとレモネは後悔した。


「レモネ、諦めないで下さい。ドレニスには奥の手があります」


「でも、それを使ったらドレニスは壊れるし、最悪ギンナの身体も……」


「私よりも2人を生かす事が大事です」


 ギンナの決意は固いようだ。だが、レモネはギンナとドレニスの方が自分達より重要だと感じていた。ただの学生である自分より機械の扱いや知識があるギンナの方がスミナ達を助けられると思っていた。


(私はどうなってもいいけど、ソシラは……)


 レモネは自分とソシラのコンビネーションでの特攻でギンナだけでも逃がす事を考えたが、ソシラを巻き添えにするのは心苦しかった。貴族の令嬢でもあるソシラを自分のエゴで殺す事は出来ない。


「私が囮になって突っ込むからギンナは魔導馬車を動かして、ソシラはそれを守って」


「レモネ、何を言ってるんですか?」


「駄目、それは許可しない!!」


 ギンナもソシラもレモネの決定を却下した。


「でも、それじゃあ誰も生き残れない」


「ドレニスの奥の手を使えば……」


「私が虚像を使って撹乱して囮になる。その間に2人が逃げるのが生き残れる一番可能性が高い」


 3人はそれぞれ自分が犠牲になる事を提案した。これでは平行線だ。しかも敵は目前まで迫ってしまった。このまま戦闘になったら息が合わず、全滅するのが目に見えてる。


(こんな時スミナだったらどうするのかな)


 レモネはスミナだったら諦めずに3人で力を合わせる事を提案しただろうなと想像する。


「分かった、3人で協力して、やれるところまでやろう。

ただしギンナ、奥の手は私が許可するまで使わない事」


「分かりました」


「絶対生きて帰る……」


 レモネ達は何とか皆の気持ちを合わせ、戦闘に突入した。中型のダロンが増えた事でレモネは戦い方を変え、ソシラと協力して動く事にした。ソシラは1撃で敵を破壊出来ないので虚像を使って敵を翻弄し、隙が出来た敵をレモネが破壊する。レモネが攻撃されそうなところをソシラがカバーに入る。広範囲を移動し疲労は溜まるがそれでも効率よく敵を破壊出来た。

 ギンナは残り魔力を気にして移動するのを止め、ドレニスの防御力の高さを利用し、攻撃をあえて受けて仕掛けて来た敵を腕を伸ばして破壊していた。盾も上手く使って最低限の魔力消費で敵の数を減らす立ち回りが出来ていた。


(何とかなるかもしれない)


 敵の数が減って来て希望が見えて来たレモネのそんな心は一気に折られた。少し離れた場所に置いた魔導馬車に敵の増援が押し寄せて来たのだ。戦闘中のレモネもソシラもすぐには移動出来ず、魔力が残り少ないギンナは移動もままならない。


(終わりだ……)


 魔導馬車が無くなったら移動手段が無くなり、それこそ敵に追い詰められるだけだ。流石に魔導馬車を守る為の策は何も思い浮かばなかった。

 しかし、状況は一変した。魔導馬車に迫った敵が次々と破壊されたからだ。ドレニスがやったのかとそちらを見るが、特に動いていない。


「いつまでも来ないと思ったら、こんな所で道草食っておったか」


「お爺ちゃん?」


 老人の声が空から響き、ギンナが反応する。空から急降下して残りのダロンを踏み潰したのはグスタフ並に巨大になった機動鎧を着たドワーフの王、ゴンボだった。


「凄いけど、ゴンボさん、それは例のデビルの技術を使った鎧では?」


「安心せい、これは100%ドワーフ製の技術じゃ。ただしダロンを作った過程でデビルの術を真似、利用させて貰ったがな。モンスターの素材をエネルギーに変えるのだからその魔導馬車と似たようなものを作り上げたのだ。

しかし苦戦しておったようじゃな。迎えに来て正解だったわ」


「お爺ちゃん、よくこの場所が分かったね」


「グイブの若造が持っておった連絡装置を解析したのだ。ドワーフの手にかかれば造作も無い」


 レモネは改めてドワーフの技術力の高さに驚かされたのだった。


 周囲に敵が居ない事を確認するとレモネ達は空を飛んでドワーフの工房へと向かった。ゴンボの機動鎧には飛行能力があるが、流石に魔導馬車を持って飛ぶ事は出来ない。ゴンボが急造した使い捨ての魔導馬車用飛行装置を付け、魔導馬車で空を飛んでいた。着陸が心配だが着陸用の場所も工房に作ったそうだ。どうやらグスタフが動いたところを見たゴンボやドワーフ達が競争心を燃やしてゴンボの機動鎧や飛行装置の開発が一気に進んだらしい、というのがギンナの見解だった。


「嘘!?あれに着陸するの?」


「大丈夫です、お爺ちゃんを信じましょう」


 高速で飛行する魔導馬車からドワーフの工房が見えて来て、レモネはどこに着陸するのかと思ったら工房のある山の横の広場に緑色の液体が敷き詰められた道のようなものがあった。液体だろうと、この速度で落下したら魔導馬車が粉々になってしまうのではとレモネは心配でならなかった。一方ゴンボの機動鎧は一足先に垂直に着陸していてズルいと感じてしまう。


「念の為衝撃に備えましょう」


「もうやってる」


 レモネはギンナやソシラにも衝撃を和らげる魔法を既にかけていた。魔導馬車が圧し潰されて圧迫でもされない限り中に乗ってる人が死ぬ事は無いだろうとは思っている。


「着陸します!!」


 流石にギンナも緊張気味に言って魔導馬車とその飛行装置を操っていた。地面に対してなるべく水平を保つようにバランスを取りつつ魔導馬車が緑色の液体の上に降りる。


「え?」


 衝撃に身構えていたレモネは魔導馬車が軽く揺れるだけで液体の上を滑っていくので肩透かしを食らった。緑色の液体はスライム状のぶよぶよしたもので、衝撃を吸収しつつ魔導馬車の速度を落としてくれた。魔導馬車の動きが止まってレモネ達はようやく一安心したのだった。



 ドワーフの工房でグイブからの聞いたのは信じられないような話だった。捕まえて牢獄に入れていたカヌリが手錠を解除して脱獄したのだ。ドワーフの監視は薄く、魔法の映像なども残っておらず、どうやって逃げ出したのかは分からないという。手錠はちゃんとしていた筈なので、カヌリが特殊な能力を持っていた可能性が高いとグイブは結論付けていた。


「逃げられたのは僕の責任です。アリナさん達に合わす顔がありません」


「覇者の王冠は取られて無いんですよね?だったらそこまで気にしないで大丈夫ですよ。きっとスミナ達ならカヌリさんを普通に逃がしてあげたと思うんで」


 カヌリが魔族連合に居たのは事実だが無理矢理働かされただけなのでスミナなら解放しただろうとレモネは思っていた。


「それよりも魔導結界が解除されたのが問題です。恐らくグイブさんの部隊を王国は必要としてるでしょう。問題はどうやって戻るかですが……」


 レモネはデマジ砦で何があったかをグイブとゴンボに説明し、王国でどういった問題が起こっているかの想定を話した。


「その件ですが、ゴンボさんが魔導馬車を真似た移動用の機械の馬車を作ってくれているんです。出来れば転送装置で帰りたいんですが、無理ならそれで帰ろうと思います」


「スミナ達と連絡が付けば一番いいんですが、ここに誰も来てないとなるとそれどころでは無いのかもしれない」


 レモネは自分達が工房に着くのに時間がかかったので既に誰か王国から来ていてもおかしくないと思っていた。しかし誰も来ていないし、連絡装置も動いてないので王国で大変な事態が起こっている事が想像出来た。


「ともかくここが無事で良かったです。

王国に戻る件はまた明日考えましょう。レモネもソシラも疲れているし」


「――そうだね、ギンナも休みたいだろうしね」


 レモネ達3人は今夜は旅の疲れを癒す事にした。

 レモネ達は温泉に入り、ちゃんとした食事を取り、ベッドで眠れる事に感謝した。流石に長旅の緊張が解け、レモネはベッドに入るとすぐに眠りに落ちていた。


「レモネ、起きて!!」


 耳元で囁かれレモネは目を覚ます。ベッドの横には魔導鎧を着て武器を持ったソシラが立っていた。夢では無い事が分かり、レモネの頭は急激に覚醒する。


「何があったの?」


「それ……」


 レモネが指差した先には破壊された小さな虫型のダロンの残骸が転がっていた。


「敵襲?工房の中に?」


「小型だから侵入されたみたい」


「他のみんなは?」


「まだ分からない」


 レモネは急いで着替え、武装する。ここはギンナの研究室の一室で、ギンナも近くの部屋で寝ている。2人は敵の気配を探知しつつ、ギンナの部屋に入った。


「ギンナ、無事?」


「はい、侵入者用の魔導具が上手く作動しました」


 ギンナも既に起きていて、ギンナの部屋にもダロンの残骸があった。


「これ、私達を狙ったのか、それともドワーフの人達も危ないのかな?」


「分かりません。ですが、工房自体の侵入者対策は強化されています。行ってみましょう」


 ギンナに連れられ研究室を出ると既に戦いが始まっていた。侵入したのは小型のダロンだけのようで、大騒ぎにはなっているが、ドワーフ達でも対処出来ていた。前回工房に侵入された反省を生かし、誰でも撃退出来るように機械を準備していたのだ。ギンナの姿を確認して1人のドワーフの青年がこちらにやって来る。


「ギンナさん、外に敵の大部隊が来ています。親方やグイブさんの部隊が既に戦ってます」


「分かりました。

レモネ、ソシラ、私はドレニスを準備して出る。2人は先に行ってて」


「分かった」「うん……」


 ギンナも疲れているだろうが、工房を攻められたのでは黙って見ている訳にもいかない。しかも敵は恐らく自分達を追って来た奴等なのだから。

 まだ外は暗く、深夜だと分かる。既に機動鎧を着たゴンボと覇者の王冠を付けたグイブと兜を被った兵士達が敵と戦っていた。敵は皆ダロンだが、数が多く、1メートルサイズの中型の他に更に大きい3メートルぐらいの虫型のダロンも混じっていた。夜で見辛いのもあり、ゴンボが小さな敵相手に倒すのに苦労していた。グイブも初めて戦う虫型のダロンに対して兵士を動かすのに苦戦している。


「私達も戦います」


「休んでいたところ済まんな。小さい相手を頼むぞ」


「ご助力感謝します」


 レモネとソシラはダロンに対して突っ込んでいった。休んで回復したのと追われていたプレッシャーが無くなり、レモネは戦い易く感じていた。しかし敵の数が半端では無く、倒しても次から次へと湧いてくると感じる。


「お待たせしました、私も戦います」


 ギンナのドレニスも現れ、戦局は一気に有利になった。ゴンボが大型の敵を倒していき、グイブも味方が増えた事で周囲の観察が出来るようになって動きがよくなった。


「ギンナ、敵がどこから出て来るか分からない?」


「ちょっと調べてみます」


 ギンナのドレニスが一番周囲の探索の能力が高いのでレモネは調べて貰う。敵が出て来る大元を叩ければそれで戦いは終わるかもしれないからだ。


「分かりました。少し先の谷に巨大な何かの反応があります」


「ゴンボさん、ここはグイブさんに任せて私達で大元を叩きに行きませんか?」


「それだな。グイブ、任せたぞ」


「了解しました。これ以上工房には1体たりとも入れさせません」


 グイブの部隊なら安心出来るとレモネ達はギンナのドレニスの後を付いていった。



「こんな物いつの間に……」


 ギンナが巨大な物体を見て驚く。レモネはそれを見て、巨大なハチの巣を思い浮かべた。巨大な灰色の物体は機械と生物が混ざった質感で、所々に穴が空いており、そこから大小様々なダロンが出て来ていた。それとは別にモンスターやダロンの死体を持って中に入っていくダロンも居る。この巨大な巣のような物体がダロンの製造工場になっているのだろう。


「こいつが大元なんじゃな。一丁ワシが破壊してやるわい」


 機動鎧を着て巨人と化したゴンボが巨大な巣に突っ込んでいく。谷に根を張った形の巣自体から糸のようなものがゴンボに向かって放たれた。巨体のゴンボは即座にそれを避ける事が出来ず、身体に絡まっていく。


「お爺ちゃん逃げて!!」


 ギンナが叫ぶが動きを封じられ大きな的となったゴンボは大きなダロン達に一斉に攻撃されていた。


「私達も行こう!!」


 レモネはゴンボを助ける為に巣に近付いた。するとゴンボと同じように糸が飛んで来たが、レモネとソシラはそれに触れないように何とか避ける。ただし避ける事で近付けなくなってしまった。


「私がやります!!」


 様子を見ていたギンナのドレニスが手から光線を放った。巣をそれで破壊しようとしたのだ。しかしゴンボを襲っていたダロン達がそれに気付き、自ら盾となって光線に飛び込み、巣へのダメージは殆ど無かった。


「駄目じゃ、切れん」


 ゴンボは何とか糸を切ろうとしたが、無理だったらしく、機動鎧の大部分をパージしてドレニスと同じぐらいの大きさになっていた。レモネ達が苦戦しているうちに大量のダロンが巣から飛び出し、追い詰められる形になってしまった。


(このままじゃ……)


 レモネは打開策を必死に考えるが、巣の守りは固く、糸が厄介で近付けない。そんな時だった。


「ここは我々にお任せ下さい」


 女性の声が聞こえると同時にレモネ達を襲っていたダロン達が次々と破壊されていく。見ると谷の反対側に赤いローブを着た人間の集団が居るのが見えた。声を出したのはその真ん中にいる長い銀髪の女性だろう。レモネは王国の人間かと思ったが、見覚えは無かった。

 新たに現れた敵にダロン達は一気に襲い掛かる。しかし赤いローブの集団は物怖じせずに各々の武器で戦い、知らない魔法でダロンを破壊していった。


「その大きな巣がダロンの大元になります」


「了解しました、情報提供感謝いたします」


 レモネがローブの集団に言うと銀髪の女性が笑顔で答えた。悪い人では無さそうだし、魔族連合と戦っているので仲間なのかもしれないとレモネは思う。レモネ達も近くの敵を破壊し、巣からダロンが出て来るより早く周囲の敵を排除出来ていた。


「皆さん距離を取って下さい。私が破壊します。奇跡よ、起これ!!」


 銀髪の女性が言って持っていた杖を天に掲げる。すると巨大な巣が激しく燃え、溶けていった。凄い力だとレモネは感心する。


「助かりました。私はデイン王国で学生をしているレモネ・ササンと言います。

貴方達はどこの軍隊でしょうか?」


 戦闘が終わり、レモネは代表して声をかけた。亜人を警戒する人間もいるので自分が話した方がいいと思ったからだ。


「王国の方でしたか。

レモネさん、わたくしはヨルマ・ダングと申します。ゴディシズの解放部隊の隊長をしております」


「ゴディシズってゴンボさんかギンナは知ってる?」


「いえ、知りません」


「ワシも知らんぞ」


 ヨルマと名乗ったのは銀髪で細目の美女だった。物腰は柔らかく、感じがいいとレモネは思った。


「そうですね、ゴディシズはまだ結成して半年も経っておりませんからね。

我々ゴディシズの使命は全人類の救済です。その為に魔族を滅ぼして回っているのです。

そちらのご老人はゴンボさんと聞こえました。ドワーフの王で間違いないでしょうか?」


「そうじゃ、ワシがドワーフを取りまとめておるゴンボじゃ」


「それは話が早くて助かります。

早速ですがこの地はゴディシズが支配します。ドワーフ族は全員抵抗せずにゴディシズの奴隷となって貰います」


 ヨルマがとんでもない事を言い出し、レモネは混乱するのだった。


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