3.終末を告げる鳥
「もう、なんでこんなにしつこいのよ!!」
双子達は王国へ戻る道中、魔族連合の妨害に遭っていた。
最初は転移装置がある魔導遺跡へ向かおうとしたが、近場の魔導遺跡は既に魔族連合に破壊されていた。監視されている今の状態で魔導遺跡へ向かうのは危険だと判断し、別の移動手段で王国へ戻る必要があった。
もっとも速いエルが操るグスタフに皆を乗せて飛んで王国へ帰ろうとしたが、凶魔四天王のボイを名乗るデビルが現れ、ボイの操る大量の飛行型モンスターに邪魔された。流石に多くの人を乗せた状態でのグスタフでは空中戦は難しく、一旦地上に降り敵を一掃する必要があった。ボイは部下が殆どやられると素直に徹底したので双子達はひとまず安心して再出発出来た。
だが、1時間も経たないうちに再びボイが大量のモンスターや魔族と共に現れたのだ。双子達は戦力的に負けないが、それを何度も繰り返され、一向に王国に近付けなかった。
仲間のうち、何人かは双子達と出発前に別れている。キサハは残っているが、デマジ砦を壊されたマサズと生き残ったヤマトの人達は態勢を立て直す為に本国であるヤマト本島に帰っていった。獣人のグリゼヌも既に解放した獣人達が獣人の里に集まってきている筈なので一旦里に戻っていった。ドワーフのギンナもドワーフの工房が心配なのと残して来たグイブに説明が必要なので戻る事になった。ただ、ドレニスのエネルギーはギンナ依存なので単独で帰るのは難しく、魔導馬車に乗せて帰る必要があり、レモネとソシラが付き添う事になった。3人はかなり仲が深まっていたし、砦に捕らえたカヌリという少女が気になるのでレモネ達に任せる事にした。
結果として双子達と共に王国へ向かっているのはエルとメイル、王国のミアンとゴマルとエレミ、そして元魔族連合のエリワとキサハの合計9名となっていた。人数は減ったが、それでも戦力としては十分強い。普通に考えれば足止めなど効かない筈だった。
「多分ルブは最初から王国とわたし達を分断出来ると考えてた。その間に王都を攻めるつもりだと思う」
「そんなの許さない。
ねえ、やっぱりあのデブを倒す必要があるんじゃない?」
アリナが空中の離れた場所で戦いを見守る四天王のボイを指差す。暗い緑色でぶよぶよと太った身体は確かにデブではある。この敵のいやらしい所は仲間の人数が減って不利になると真っ先に消えて逃げる事だった。スミナもアリナと同様の考えを持ち、何度かボイを攻撃したが、攻撃が当たる前に逃げられてしまった。
(どうにかして逃げれられないようにしないと)
一撃必殺の威力があるアリナの紅やグスタフのビームかエリワの矢を当てたいところだが、狙われたら逃げるし仲間を盾にするので難しい。何度か戦って分かったのはボイの部下達は完全にボイの支配下にあるらしく、モンスターにしては動きが統率されている事だ。これが結構厄介で、普段は仲間を助ける事の無い敵が協力している。それと同時にボイは部下によって完全に守られているのだ。
「アリナ、ボイを直接攻撃に向かって。
エリワもボイを集中攻撃して!!」
「分かった」
「了解よ」
スミナは2人にボイの攻撃を命じる。アリナがボイに向かって突撃を開始したのを見てボイは周りの部下をそれを阻止する為に動かす。続いてエリワがボイの方へと矢を連続で放ち、ボイは残った部下を盾にしてそれを防ごうとした。しかしエリワの攻撃は激しく、あっという間にボイとエリワの間に障害が無くなった。
「仕方ないですねー」
ボイは自分に攻撃が来る前に再び撤退しようとした。
「そうはさせません!!」
スミナは自分の狙った通りに事が運んだので隠し持っていた魔導具を発動させる。すると姿が消えたボイはスミナの目の前に現れた。転移先を変更する魔導具を使ったのだ。
「アリナ!!」
「分かってる!!」
アリナは即座に反転し、移動して来たボイの方へと突っ込んだ。ボイは再度逃げようとするが、スミナは別の魔導具を発動させる。それはスミナを含む一定範囲を結界で囲み、逃げられなくする魔導具だった。結界の中には双子とボイの3人だけが閉じ込められる。
「これで逃げたり仲間に防がせたりは出来ません!!」
「覚悟!!」
アリナの紅がボイの頭上から振り下ろされた。ボイは真っ二つに割れ、左右に綺麗に倒れた。
「やったね、お姉ちゃん!!」
「ちょっと待って、まだ終わってない」
スミナはボイの肉体が二つに分かれてもぶよぶよと動いているので警戒を続ける。今まで戦って来た敵で魔神などは肉片からでも再生する事があり、ボイもその可能性があると考えてだ。
「再生力が高いかもって事?だったら!!」
アリナは紅で斬られたボイの身体を更に細かく切り刻んでいく。ボイの身体は抵抗も融合もせず、緑色の液体のように地面にばら撒かれた。肉片は溶けていき、地面に吸い込まれていく。
「これなら流石に死んだでしょ」
「うん、もう魔力も気配も感じられない。
アリナもそうでしょ」
「え、嘘……」
スミナが確認した瞬間、アリナの顔が凍り付く。アリナの視線の先は自分の背後だった。スミナが振り返るとそこには何事も無かったかのようにボイが無傷で立っていた。
「そういえば皆さんにはワタシの二つ名を言ってませんでしたね。
ワタシは凶魔四天王が1人、不死身のボイです。残念ですがこの結界の中で死ぬのは貴方達の方です」
ボイはそう言うと持っている巨大なこん棒を振り回した。アリナは危険察知の祝福の力でそれを回避し、スミナは魔導具を使って何とか弾き返した。
「アリナ、やれる事全部やろう」
「分かった」
不死身と名乗ったが、絶対にそんな筈は無い。何か弱点があるからこそ四天王の地位に留まっている筈だとスミナは思っていた。アリナが細切れにしてもダメだったので、斬る事では倒せないのは分かった。コアのような部位的な弱点が無い事も。だからとスミナは炎や氷、雷や突風など様々な魔法で反応が無いか試した。アリナも刀は鞘に納め、叩き潰したり、串刺しにしたりと魔力で様々な武器を作って攻撃を加えた。
だが、どんな攻撃をしようとボイはしばらくすると復活してしまう。まるで自分の身体だけ時を戻しているかのようだった。
(どういう事?何かカラクリがある筈……)
スミナは攻撃をかわしながらボイを観察する。ボイ自身の防御力は通常のデビルとそこまで変わらず、攻撃も威力はあるが速さ的に避けられない程強力では無い。持っている武器のこん棒はボイが倒れると一緒に溶けて消え、一緒に復活する。道具というより体の一部なのかもしれない。魔法は効かず、熱にも冷気にも強い。単体の強さはもう1人の四天王のシギの方が上だが、追手としての厄介さはボイが圧倒的に上だと感じた。
「スミナさん、私が倒します。
タイミングを合わせて結界を解除して下さい!!」
「ミアン!!」
聖女のミアンが結界の外からこちらの様子に気付き、助け舟を出してくれた。確かに聖女のミアンの浄化ならどんなデビルだろうと効果がある筈だ。まさにボイの弱点なのかもしれない。
結界の外側でミアンが祈りを捧げ、浄化の光が双子達が居る結界を包む形で輝き始める。
(今だ!!)
スミナはミアンの高威力の浄化が発動する寸前で魔導具の結界を解除した。浄化の光は人間には影響が無いので双子達は逃げる必要は無い。むしろボイが逃げないようにとアリナは魔力で檻を作って囲んでいた。
「悪しき者よ、光に帰りなさい!!」
「そんな、この力は……」
ミアンの浄化の光が柱のように天に伸び、ボイの身体は今までと異なり白く薄れていく。ボイが魔法で逃げ出す様子も無く、その姿は完全に消滅した。
「アリナ、危険は感じない?」
「うん、残った雑魚以外の危険は無くなったよ」
アリナに確認してようやくスミナは安心する。あとは残った敵を殲滅すればいい。
「ミアン、ありがとう。貴方が居なかったら倒せなかった」
「いえ、私は自分がやるべき事を行っただけです。スミナさんが敵を捕えなければ出来ませんでしたから」
ミアンはいつも通り控えめに答えた。残りの敵を倒そうとスミナも動き始め、ここでスミナは違和感を感じた。
(どういう事?操っていたボイを倒したのにモンスターの動きが整然とし過ぎてる)
知能の低いモンスターも混ざっているので、指示を出す者が居なくなればその足並みは乱れる筈だった。それなりに苦戦したのはモンスターに対して覇者の王冠で操るのと似たような事をしていたからだ。スミナはその指揮者がボイだと思っていた。もしかしたらそれ自体が間違いだったのではとスミナは操っている大元を探そうとする。
「お姉ちゃん、何か来る!!」
そんな時アリナが叫び、指差した方向を見るとそこに緑色の物体が集まって来ていた。それは見る見るうちにボイの姿になっていく。
「なんで生きてるの?」
「いやいや、今回はワタシの完敗です。流石のワタシも聖女の力には敵いませんでした。
ですが、ギリギリで結界を解除してくれたおかげでワタシの本体を部下に寄生させた分身に移動する事が出来ました。
次は負けませんよ。同じ戦法は通じませんので覚えておいて下さい。
しかしこれでは回復に少々時間がかかってしまう。他の四天王に手柄を奪われてしまうかもしれませんね」
「逃がしません!!」
スミナはボイが喋っているうちに準備して魔導具でボイを捕えようとした。
「名残惜しいですがお別れです、ごきげんよう」
スミナが辿り着く前にボイは不気味な笑顔を浮かべて消えてしまった。ボイの支配が消えたのか、残ったモンスターや魔族達は統制が無くなり、あっさりと倒されていった。
「不死身を名乗るだけあってしぶといヤツだね。次に戦う時までに対策考えないとね」
「そうだけど、今は一刻も早く王国に向かおう」
スミナは気持ちを切り替え、本来の目的である王国へ戻る事を優先する。しかし、再び周囲に変化が起こった。
「え?何これ!?」
「まだ昼の筈なのに急に真っ暗になった?」
スミナは新たな脅威を感じて警戒する。明るかった周囲が一気に暗くなり、満天の星空が広がっていた。それと同時に荒野で戦っていた筈なのに、周囲には花畑が広がっている。幻想的で美しい景色に見えるが、どこか不気味で、恐怖を覚える。
「これは幻覚じゃない。どこかに転移されたって事?」
「転移させられた形跡はありません。現在地の確認に異常が出ています」
グスタフに乗っているエルがスミナの疑問に応える。周囲の環境を一気に変化させたのかとも考えたが、昼と夜を逆転させるのはどんな魔法でも不可能だと判断する。スミナは魔族連合の罠に嵌ってしまったのだと考えた。
「アリナ、どこかに敵の反応無い?」
「分かんない……。なんかもう危険に包まれてる気がする……」
アリナも見た事の無いような怯えた顔をしている。
「駄目です、神聖魔法が使えなくなっています。
ただ、ここは邪悪な空間とも違う感覚です」
「マスター、魔力供給が安定しません。グスタフの機能はほぼ使用不可です」
「余もここだと力が入らない」
ミアンとエルとキサハも異常を報告する。メイルとエレミとゴマルは困惑しつつも警戒を続けている。そんな中エリワは何も言わず呆然と立ち尽くしていた。
「皆さんとりあえず落ち着いて下さい。まずはここから脱出する方法を探りましょう」
スミナは自分が何とかしなくてはと頭を回転させる。転移で無いなら強力な集団幻覚の可能性もある。スミナは精神に対する魔法を自分にかけ、変化が無いか確かめた。だが、今見ている物は正常で、地面に咲いている花も本物だという結果になってしまう。
「驚かせてしまったみたいで済まなかったね。ボクは君達と誰にも邪魔されずに話たかったんでここに来て貰ったんだ」
聞いた事の無い、女の子の声が響いた。その声の元のスミナ達の前の空間が歪み、白い光が段々と何かの形に変化していった。シルエットは最終的にアリナの身長よりも低い小学生ぐらいの女の子の姿になっていた。長い透き通るような白い髪に少しつり目だが整った顔の可愛らしい女の子だ。
「その声、どっかで聞いた気がする……」
「アリナ、忘れちゃったのかい?ボクのアドバイスのおかげで全て上手く行ったんじゃないか」
「あ!!魔族連合の砦の部屋で聞いた声だ!!」
アリナが思い出して叫ぶ。スミナはアリナからその話は聞いていたが、脳内の声だったのでアリナの持ち物の記憶には残っていなかった。なのでアリナのストレスによる空想の可能性もあると考えていた。
「アリナお嬢様、知っている方なのですか?」
「えーと、知ってはいたけど、声だけで姿を見たのは初めて。それに名前も知らないし、本当にその時の声と同一人物という保証は無いかな」
「同一人物だよ。あれはアリナが王都で国王殺害に失敗して、スミナが生きている事に気付いて、ボーブ砦の部屋で苦しんでた時だった。あまりにアリナが可哀想だったからついつい声をかけちゃったんだ」
それはアリナ本人とスミナとエルぐらいしか知らない情報だ。ここまで言うのだからその時の声の主と同一人物なのだろう。問題はこの少女が敵か味方かという事だ。
「わたしはアリナの姉のスミナ・アイルと言います。その節はアリナを助けて頂き本当に感謝しています。
それで、貴方は誰なのですか?わたし達の敵では無いんですよね?」
「勿論スミナの事もよく知ってるよ。ただ、ボクの好みはアリナの方だけどね。
ボクの正体に関してはばらせないんだけど、名前は教えておくよ。エリワも居るしね。
ボクの事はCZと呼んで欲しいな」
少女はCZと名乗る。その発音にスミナはとても異常性を感じていた。そしてここでエリワの名を呼んだ事にも。
「それで、前にアドバイスくれた事は感謝してるけど、わざわざ呼び出したのはなんで?
申し訳無いんだけどあたし達王国に戻るのに急いでるんだ」
「知ってるよ。凶魔四天王のボイを撤退させたのは凄いね。流石アリナ達だ。
でもね、今のままではダメだってことを伝えに来たんだよ」
「シーズ、おしゃべりはそこまでにしておくのじゃな!!」
話に割り込んだのは今まで姿を隠していた小竜の姿をした竜神のホムラだった。ホムラはCZの事をシーズと呼び、どうやら面識があるようだ。
「懐かしいね、その感じ。久しぶり、って言った方がいいのかな。今の竜神はホムラだったよね」
「確かに直接会うのは初めてじゃが、わらわが引き継いだ記憶にお主の事は深く刻まれておる。
シーズ、なぜお主が動いておるのじゃ?わらわの先祖が施した封印が解けたのなら、わらわも気付いた筈じゃ」
「ホムラ、CZの事を知ってるみたいだけど、何者なんですか?」
「CZは混沌の獣神、世界に混乱をもたらす存在じゃ。こやつの口から出る言葉は出鱈目で、信ずるに値せぬ。
そしてこやつが暴れると全てが滅茶苦茶になり、安定するのに何百年もかかる。だから暴れたこやつを過去の竜神が封印しておったのじゃ」
ホムラの話を聞く限りではCZも大昔から存在するようで、かなり問題の獣神だと分かる。
「酷い言い草だなあ。ボクは自分がやるべき事をやっただけだよ。それを諸悪の根源みたいに言われるのは心外だ。
そもそもボクもキミも世界竜ワワヴォが原初に作った、言わば兄弟みたいな存在なのに。
アリナ達にはこの事は黙っておきたかったけどバレちゃったらしょうがないね」
「一緒にするな。わらわはこの星を守る為の存在。お主のように好き勝手にかき乱す者とは違うのじゃ。
となると、この前現れた消滅の精霊を呼んだのもお主だな」
「確かに消滅の精霊はボクが原因だけど、それだけじゃないんだ。
ボクは混沌の存在だけど、この世界の監視者でもある事はキミも知ってるでしょ。
そもそもホムラだってこの星の生物を守るのが役目じゃ無い。キミの役目は星という存在を守る事だ。
一方ボクの役目は世界の未来を作る事。歴史の流れには混沌も必要なんだよ」
CZが言っている事が本当なのか怪しいし、真実だとしても意味が分からなかった。
「シズ、いやCZ。今まで話した事ホントなのか?」
エリワが驚いた表情をしていた。エリワだけシズと呼んでおり、やはりCZとは知り合いらしかった。
「本当だよ。別にエリワに隠していた訳じゃない。ただ、キミが知ってしまうと余計な重荷になるかもしれないから話さなかったんだよ。
ボクはキミの為を思って友達になったし、魔族連合に行く事を薦めたんだ。結果として正解だっただろう?」
「そんな頃からお主は地上に干渉しておったのか。わらわの目の届かないところで動いていたとは腐っても獣神じゃな」
「干渉ってほどじゃ無いよ。ちょっとした人助けさ。エリワは転生者の系譜だしね。
それを言ったらホムラの方が世界の混乱に関わってるじゃないか」
「なんじゃと!?」
ホムラが怒りを露わにする。同列に扱われるのは嫌なようだ。
「キミがスミナに固執しなければボクが表に出て来る事は無かったって言ってるんだよ。
ホムラが神機ライガを回収しなければライガはアスイの手に渡っていた筈なんだ。アスイが力を手に入れる事でその後の流れも今と異なり、アスイが死ぬ事も無かった筈だよ」
「それはお主が勝手に予測した結果でしかないぞ。そもそもわらわの行動によって変わる未来など変化の1パターンでしかないのじゃ。
竜神だろうと世界の流れは変えられぬ。今のこの状況はわらわの予測を超えておるし、お主だって予見出来なかった筈じゃ」
「勿論ボクも自分が全能だとは思ってないさ。ただ、ボクはキミとは違う世界の流れを感じている。そこに澱みがある時がボクが動く切っ掛けなんだ。中途半端に手出ししてるホムラに非難されたくないね」
CZの言っている事は完全には理解出来ないが、ホムラと相性が悪いのは分かった。このままではずっと言い合いが続くだろうと。
「ホムラ、口論は一旦やめましょう。
CZさん、貴方はわたし達に話があって呼んだんですよね。それを具体的に聞かせて下さい」
「分かった、わらわは一旦口を閉じる。
じゃが、CZが騙そうとしたのが分かったら追及するからな」
「流石スミナ、キミはいつでも冷静だ。
ボクはね、キミ達に警告をしに来たんだ。このままでは全ての生物が終わりに向かってしまうとね」
CZが言い出したのはとても不穏な言葉だった。
「それってどういう意味?」
「ボクも全てが説明出来るわけじゃ無い。
ただ、この鳥を見て欲しいんだ」
アリナの疑問に対してCZは手を上に掲げた。すると手の上に1羽の虹色に輝く小鳥が舞い降りた。
「その鳥はまさか……」
「そう、これは終末鳥。世界の終わりを告げる鳥さ。ボクも自分のところに終末鳥が現れてビックリしたよ。
この鳥が現れるのは世界にとてつもない危険が迫っている時だ。そして終末鳥が黒く染まる時、全ての生き物は死滅する」
「ホムラ、それって本当の事なの?過去にそうなった事でもあるの?」
スミナは神に近い存在が言う事だとしても、鳥にそんな力があるとは思えなかった。道具であればスミナは真偽を確かめられるが、終末鳥は生きているので判断出来ない。
「残念ながらシーズの言っている事は本当じゃ。
これは竜神の記憶には無いが、世界竜が参考にした元の終末鳥は滅んだ世界を経験して自らも消滅したそうじゃ」
「2人の言ってる事が本当だとしてもまだ綺麗な色してるじゃん。
それに世界がどうなろうとあたし達が原因じゃないんでしょ?」
「ああ、アリナのせいで世界が滅ぶわけじゃ無いよ。だが、今後キミ達が関係するのは確実なんだ」
ホムラが答えた事でCZが言っている支離滅裂な話も真実なのではと思えてしまう。もし言っている事が本当なら放置出来ない問題だ。
「CZさん、貴方は混沌の獣神なんですよね?どうして混乱を抑えるような話をするんですか?」
「確かにボクは混沌を呼び起こす存在だ。だけどそれは破滅を望んでの事じゃない。終末はボクの希望とは正反対の結末なんだ。
ボクはそれを回避する為に動き出し、混沌によって出来る事をしているだけさ。でも、もうボクだけじゃどうしようも無いところまで来てしまった。虹色に見える終末鳥もボクが見つけた時より既にくすんでしまっているんだ」
「難しい言い回しはもういいよ。
簡単に言ってよ。あたし達がどうすればいいのかって」
CZの話に振り回されそうなところをアリナがストレートに切り出してくれた。アリナの言う通りで、どんな最悪な事態だろうと解決策があるならそれをやればいいだけなのだ。
「前提としてこれはボクの予想だと理解してから聞いて欲しい。
終末鳥が飛び去るにはアリナ達が手を取り合って巨大な勢力になる必要がある。それには大きな障害があるんだ。
アリナとスミナ、キミ達はデイン王国を滅ぼして新たな国を建設しなければいけない。
そうすれば正しい未来が訪れる筈なんだ」
CZが提示したのは今まで双子達がやって来た事を大きく否定する内容だった。