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48.覇者の王冠

 ドワーフの工房に残ったレモネはソシラと共に破壊された工房の修繕と外敵の防衛を続けていた。残った理由としては誰か人間がスミナのグスタフを見張る必要があるのと、ドワーフのギンナと仲良くなった事が大きかった。彼女が困っているのを放っておけなかったのだ。

 一日が終わり、レモネとソシラは修繕が終わったギンナの私室で3人で集まっていた。


「2人が残ってくれて本当に助かりました」


「そうかな、あんまり役に立ててない気もするけどね」


「そんな事無いです。レモネはその身体で力自慢のドワーフよりパワーがあるんですから」


 祝福ギフトのおかげでレモネは瓦礫をどけたり、物を運んだりと力仕事で活躍は出来ていた。レモネは小柄なのもあり、ドワーフ達にもあっさり受け入れられていた。


「レモネも凄いですが、ソシラも凄かったです。敵が隠していた機械を見事に発見したんですから」


「役に立てて満足……」


 レモネはソシラが裏の顔を持っているのは知っているが、レモネが知らないような知識や技術も色々持っているなと再認識させられた。それに加えてソシラの虚像と入れ替わる祝福は本人が通れないような穴も視界に入ったなら虚像を作って入れ替わって中に入る事が出来た。なので普段人が立ち入り出来ない場所に隠された機械も発見出来たのだ。ソシラは力仕事をしない代わりにそういった他の人が出来ない事で役に立っていた。


「でもやっぱりギンナが一番頑張ってるよ。工房の修繕の指示をしたり、敵の闇機兵ダロン闇巨兵ダガンの残骸で使える物をえり分けたり」


「私は自分が出来る事をしただけで、それもお爺ちゃんの真似をしてるだけです。お爺ちゃんが無理をし過ぎてもう昔みたいに動けなくなってきたので……」


 ギンナが悲し気な表情をする。ドワーフの王であるゴンボは生き延びはしたが、無理して機械を動かし続けた為に身体がかなり悪くなっていた。それでも機械でフォローさせて動こうとしたのでギンナ達ドワーフが無理にでも休ませているのだった。


「それよりもアリナさん達の動向が気になります。エレミさんの連絡ではどこかへ移動した事は分かりましたが、あれ以降何の連絡もありません。

グスタフの反応も無いですし、大丈夫なのでしょうか?」


 ギンナが話題を変える。双子達から直接連絡が来ていないので不安に感じるのはレモネも一緒だった。王国で何かあったのではとレモネは少し心配だ。


「心配しても仕方がない……。私達は出来る事をするだけ……」


「そうだね、ソシラの言う通りだ。むしろ私達がここやグスタフを守り切らなかったら今後の対応が上手く行かなくなる。手が必要なら何かしら言ってくる筈だしね」


「そうですね、ここが安全なうちに戦力を増強出来れば皆さんの役に立ちます。出来る事をやりましょう」


 3人の決意が固まったところでその日は寝る事になった。夜の奇襲も無く、3人とも久しぶりにゆっくり休む事が出来た。


 翌日、レモネがいつも通り工房の修繕を手伝っていると、急にギンナから工房の入り口に呼び出された。移動すると同じように呼び出されたソシラが立っていた。


「ソシラ、何があったの?」


「あれ……」


 ソシラが指差す先を見ると工房の少し先の広場で警戒していたグスタフが不可解な動きをしていた。左右に行ったり来たりしているのだ。更にグスタフからは“ピーピー”という警戒音のような音が鳴っている。レモネが来たのに気付いてグスタフのそばにいたギンナが戻ってきた。


「お2人とも急に呼び出してすみません。見ての通りグスタフが行ったり来たりといつもと違う動きをしていたので」


「あれが何を意味してるか分からないの?」


「敵襲のような気もしますが、ドワーフの警備担当からは周囲におかしな点は無いと確認しています」


「ドレニスを使ってみては?」


「確かに。魔導兵器同士なら何か分かるかも」


 ソシラに言われてギンナは急いでドレニスを取りに戻る。いつでも出撃出来るようにしていたので1分後にはドレニスが広場に降り立った。


「早速確認してきます」


 ギンナはそう言ってドレニスをグスタフの近くまで移動させる。レモネ達もそれに続いた。


「これは……。

どうやらグスタフは周囲の環境の変化に気付き、警戒しているようです。もしかしたら魔族連合が何か仕掛けている可能性もあります。

私はドワーフのみんなに伝えて来るのでお2人はここでグスタフの護衛をお願いします」


「分かった、私達もおかしな点が無いか調べてみる」


 ギンナは忙しく走り回る。レモネとソシラは敵がどこかに隠れているのではと魔法で調査した。


(これは?)


 レモネは南の山の方から異音が感じ取った。とりあえず下手に行動は起こさず、そちらの方に注視する事にする。


「レモネ、厳戒態勢にして来ました。

何か分かりましたか?」


「ギンナ、あそこの辺りなんだけど、少し変な音がする」


「分かりました、調べてみます」


 戻って来たギンナのドレニスは左腕を特殊な形状に変え、レモネが気になる山肌の方へと向ける。恐らく魔力で調査しているのだろう。


「恐らく敵が隠れています。

確認の為に近くに攻撃してみます」


 ギンナがそう言い、ドレニスの右腕から弾を撃ち出す。弾はレモネが気になった場所の少し手前に着弾し、小さく爆発した。爆風が山肌に沿って吹き、隠れていた者達が姿を現す。


「あれは、グイブさんの部隊の兵士?」


 姿を現したのは魔導具の兜を被った人間の兵士達だった。来ている鎧や持っている棒状の魔導具からレオラに騙され奪われた兵士だと分かる。という事は操っている人物もいる筈だ。


「あー、もうバレちゃったか。もっと工房に接近してから姿を現すつもりだったんだけどね」


「レオラ!!」


 レモネ達の目の前に現れたのはデビルで転生者であるレオラだった。横には以前も一緒に居たとシギとかいう名の黒い肌の騎士風のデビルもいる。この2人が居るだけで既にレモネ達の勝ち目は薄い。


「ホントにグスタフを持ってたのね。厄介だけど今はスミナもアリナもアスイも居ないのは知ってるわ。

そしてグスタフやアナタ達の弱点はよく分かってるの。アタシは他に用があるから、後はこの子達に任せるわ。じゃあ頑張ってね~」


「ちょっと、待ちなさい!!」


 勝てないのは分かっているが、言いたい事だけ言って立ち去ろうとするレオラにレモネは呼び止めずにはいられない。


「アンタ達の相手はこのビネ様よ。

現れなさい、グブブ!!」


 レオラと入れ替えで現れたのはビネと名乗るオレンジ色の肌をした派手なデビルの女性だった。ビネは紫色の液体が入った大きな瓶を地面に叩き付ける。すると中から紫色のスライムのようなぶよぶよした物体が現れ、どんどん巨大化していく。レモネ達はそれに飲み込まれないように飛び退いた。

 近くに立つグスタフはそれが敵だと認識したようで、即座に紫色の物体に胸から光線を放った。紫色の物体はそれで飛び散ったように見えた。


「バカねグブブは魔導兵器からの攻撃を完全に吸収し、逆に巨大化するのよ!!」


 ビネの言った通りグブブという名の紫色の物体は飛び散った物が再結合し、先ほどよりも更に巨大化していた。


「アタイはレオラ様からドワーフの工房の殲滅を命じられてるの。アンタ達は人間同士で殺し合いなさい!!」


 ビネがそう言うと物凄い勢いで兜を被った人間の兵士達がレモネ達の方へと押し寄せる。未だに命令を出している人間の姿は見えない。


(どうしよう……)


 突然の出来事にレモネは混乱する。兵士達は操られているだけで敵に寝返った人間では無い。かといって見逃せば工房に突入し、ドワーフと殺し合いを始めてしまう。グブブはグスタフやドレニスのような魔導兵器と相性が悪そうだし、ビネもレオラに任されたのならそれなりに強いという事だ。

 問題は人間を操っている覇者の王冠と装着者が見当たらない事だ。操る為には近くにいる筈だが、見当たらないのは弱点だと敵も認識しているからだろう。


「ソシラは覇者の王冠を使ってる人間を探して。近くに隠れている筈!!

ギンナは悪いけど人間の兵士達の動きを止めて。出来る限りでいいから殺さないようにお願い!!

私はこのビネとかいうのをやる!!」


「分かった……」

「了解です!!」


 レモネはとにかく誰かが指示を出さないといけないと感じ、実行する。グスタフは細かい命令を受け付けないので、今は放置するしかない。


「アンタがここのリーダーね。

でも、1人でアタイを倒せるかしら?」


 ビネは両手に奇妙な形の手斧を持つ。レモネは魔導具の斧を巨大化させて両手で構える。手斧と巨大な斧で形状は異なるが、奇しくも斧を武器にする者同士の戦いとなった。レモネは斧の利点も弱点もよく分かっている。相手の力量を計る意味も込めて一番得意とする速攻で斧を叩き込む事にした。


「速いけど力任せじゃアタイには当らないわ」


 ビネは振り下ろした斧を簡単に避け、両手の斧を連続でレモネに当てようとする。レモネは相手の動きを予想しており、振り下ろした斧をすぐに戻して相手の斧にぶつけた。パワーはレモネの方が上なのでビネは吹き飛ばされる。勿論レモネの攻撃はそれでは終わらない。


「これでどうだ!!」


 レモネは足に祝福の力の増幅を使い、地面を激しく蹴って勢いよく飛ぶ。新しく特訓で身に着けた技で、小回りは効かないが魔法で飛ぶよりも速い。レモネは吹き飛んだビネに追い付き、そのまま斧で叩き割ろうとした。しかしビネの姿は一瞬で消える。


「パワーもあるし、面白い技も使うわね。

でも、それだけじゃアタイに勝てないよ!!」


 背後から声が聞こえ、レモネは急いで魔導具の盾を巨大化させ、背中を防ぐ。盾はギリギリで間に合ったものの、二つの斧で斬られた反動でレモネは地面に叩き付けられた。


(追ってたのは虚像なんかじゃ無かった。もしかしてソシラみたいに瞬時に転移出来るってこと?)


 体制を立て直しつつレモネはビネの不可解な動きを予想する。敵の動きをソシラと同じと仮定するならレモネは何度も模擬戦をやっているので対処出来る。だが、それが違っていた場合は相手に隙を与える事になってしまう。


(悩んだら駄目だ、一か八かでもやらなきゃ)


 レモネはビネがソシラのように自由に転移出来ると踏んで反撃する。予想通りビネは再び姿を消した。


(落ち着け、私)


 レモネは反射的に振り返って攻撃しようとするのを我慢する。敵が転移する相手の場合、相手がこちらの裏の裏をかくのを考慮しないといけない。短絡的に動けばそこを狙われるのだ。


(上だ!!)


 上空に影を感じ、レモネは上を見ると共に斧を振り上げる。振り上げた斧は落下と共に叩き付けようとしたビネの斧を跳ね返した。


(逃がさない!!)


 レモネはソシラと模擬戦をやった時に分かったソシラの弱点を狙った。それは誰かと触れている時は虚像と入れ替われないという点だ。通常の転移もそうだが、腕を掴まれたり、抱き締められたりしている場合は逃げられないのだ。触れているだけなら大丈夫なのだが掴まれているという状態からは抜けられないらしい。

 レモネが使ったのは手錠に紐が付いたような魔導具だった。それを左手で準備していて、斧で弾いた次のタイミングでビネの腕に放ったのだ。それは見事にビネの腕を嵌め、ビネは転移出来なかった。


「どうだ!!」


 レモネは地面を蹴って上空の逃げられなかったビネに斧を突き上げる。ビネは逃げられないのを悟り、斧で防御しようとする。だが空中の不自然な態勢だったので完全に防ぐ事が出来なかった。レモネの斧はビネの腕に大きな傷を付けていた。


「ただのニンゲンの分際でよくもアタイに怪我を!!ぶっ殺してやる!!」


 今まで余裕ぶっていたビネの態度が一変する。腕に嵌められた手錠をぶち壊し、回転しながら斧を振り回した。やけくそな攻撃に見えて、速度も速く、隙も無い。人間では出来ない攻撃方法だった。


(強引に行く!!)


 レモネは小さな竜巻と化したビネに対して全力で横から斧を振った。“ガンッ!!”と鈍い音が鳴り、レモネは弾き返されて何とかバランスを取って踏み止まる。一方のビネは回転が崩れ、地面を削って大地に転がった。


「なるほどね、見た目で騙されたけどアンタのパワーは武器の力じゃ無くてアンタの特殊能力なんだ。

そうと分かればこっちもやり方を変えるわ」


 ビネは翼を大きく広げ、空に舞い上がった。レモネは空中戦では分が悪いので地上で相手の動きを見る。ビネは空中で腕を植物のつるのように伸ばし、先端に手斧を持って鞭のように攻撃してきた。レモネはそれを斧で受ける。攻撃の威力は先ほどよりも強く、受けた反動が全身に響いた。そこへ左手の攻撃も同じように鞭のようにレモネに迫り、何とか後方に飛んでギリギリ回避出来た。レモネが居た場所は地面に大きな穴が空いていた。


(確かに空中で避け辛い攻撃だ。でも、これなら対処出来る)


 レモネは次の相手の攻撃を見極め、ギリギリで避けたところを斧で伸びた腕を斬り落とした。そこを狙って来たもう片方の腕も斬り落とし、そのまま空中に飛び上がって本体を攻撃しようとする。痛みに耐える顔をしていたビネが突然邪悪な笑みを浮かべた。レモネは違和感を感じ、攻撃を止めて背後を見る。するとレモネに向かって飛んで来る2本の手斧が見えた。


(間に合わない!!)


 何とか斧で防御しようとしたが、既にレモネの目の前に迫り、1本は斧で弾けたが、もう1本はレモネの足をざっくりと切り裂いていた。


「デビルはニンゲンと違うって習わなかったの?」


 斧に対応したレモネに向かって鞭と化したビネの腕が振るわれる。レモネは背中に激痛を感じ、そのまま落下した。腕を斬り落とさせるのすら敵の策略だったのだ。必死に体勢を立て直して上を見ると再び手斧を持った腕が伸びてきてトドメを刺そうとしていた。


(一度しか使えないけど、やるなら今しかない!!)


 レモネは切り札にとっておいた技を使う事にした。魔導具の盾を全身を守るほど巨大化させ、攻撃を防ごうとする。


「今更防御したって遅い!!」


 ビネの攻撃は勢いを増し、魔導具の盾を叩き割ってその下のレモネを潰そうとした。しかし盾の下にはレモネの姿形も無かった。


「居ないだと!?」


「ここです!!」


 レモネはビネの背後に突如姿を現した。緊急用に一定時間完全に姿を消せる魔導具を亡き父からもらっていたレモネはここでそれを使う事にしたのだ。姿を消して移動し、痛む足を耐えて跳躍し、一気に背後に回っていたのだ。


「これで終わり!!」


 レモネは一閃してビネを斧で叩き斬った。ビネの身体は真っ二つになり、喋る事すら出来ずに消滅していく。


(みんなは?)


 レモネはようやく周囲を見る余裕が出来た。傷は自分の魔法で止血だけしておく。

 ドレニスを駆るギンナは苦戦しながらも何とか兵士達を進ませずに抑えていた。グスタフはグブブに絡まれつつも、殴って対処している。まだエネルギー切れにはなっていない。覇者の王冠を探すソシラの姿は見つからなかった。


「レモネ、こっちに居る」


 丁度そのタイミングでソシラがレモネの前に姿を現す。ソシラが指差したのはグスタフとグブブが戦っている地面だった。


「あそこにいるの?」


「そう。グブブを隠れ蓑にしてその下から兵士を操ってるのが分かった」


「だとするとグブブを何とかしないといけないね」


 問題は魔力を吸収し、再生力の高いグブブだった。魔力を吸収するので魔法はまず効かないだろう。かといって直接攻撃しても無駄なのはグスタフの攻撃で分かっている。


「ソシラ、グブブの対処法とか分からない?」


「あれはモンスターじゃ無いから分からない……」


 モンスターの知識は凄いが、流石にソシラでもデビルが作り出した謎の生物の対処法は分からないようだ。


「そいつの退治はワシに任せろ!!」


「ゴンボさん?」


「お爺ちゃん!?」


 寝ていた筈のゴンボ王が機動鎧を纏って現れたので皆驚きを隠せない。その機動鎧も修理が完全では無く、一部装甲が無くて中の機械が見えてしまっていた。


「身体は大丈夫なんですか?それにこのグブブは物理も魔法も効きません」


「孫のピンチに寝てなどいられるか。

ワシの機械は対デビル用に色々準備してあるのだ!!」


 ゴンボは自信ありげに言う。流石にそこまで言うのならレモネは止められない。それにレモネ達がどうにもならないのは事実だ。


「分かりました、一旦グスタフを下がらせます。

グスタフ、グブブから距離を取って攻撃を止めて」


 レモネはグスタフとグブブを離す。グスタフにはレモネの簡単な命令なら聞くように設定してあり、グスタフは言われた通り跳躍して離れ、工房を守るように工房の手前に移動した。


「ワシの出番だな」


 レモネは心配だが手出しはせずに怪我の治療をしつつ状況を見守る。ソシラは押し切られそうなギンナの手伝いに回っていた。

 ゴンボはグスタフを追いかけようとするグブブに近付き、飛び込んだ。巨大化したグブブはグスタフにとっては小さかったが、機動鎧を着たゴンボを丸飲み出来るほど大きかった。それに飛び込んだのだからそのまま何らかの攻撃を喰らうのではとレモネは心配する。下手するとゴンボは鎧ごと溶かされてしまうかもしれない。

 しかし数秒して異変が起こる。紫色のゼリー状のグブブの色が赤く変色していったのだ。それと同時に全体が溶け始める。ゴンボは弱まったグブブの中から飛び出した。


「何をやったんですか?」


「こいつは特定の毒に弱い事が分かったんじゃ。それを打ち込んで後は時間が経てば終わりじゃ」


「よく分かりましたね」


「何、取り込まれた中で数十種類のテストを行った結果じゃ」


「それって、もしゴンボさんが持っている手段の中に弱点が無かったらどうなってたんですか?」


「そりゃ、ワシは溶かされて終わりだったろう」


 ゴンボは笑いながら笑えない事実を語る。この大胆さが王の器なのかもしれない。グブブが完全に溶けそうになるのに合わせ、レモネとソシラとゴンボはそこに居るであろう隠れた人物を暴こうとする。すると地面から火柱が吹き上がり、3人は一旦距離を取る。


「ビネのヤツは使えないなあ、全く。1人も倒せないなんて。まあ、グブブでグスタフのエネルギーはほぼ使い切らせたし、死んで役目は果たしたかな」


「貴方は誰ですか?」


「すぐにお別れするだろうけど、一応自己紹介しておいてやるよ。ワレはレオラ様の一番の部下、ベノだ。

ここからは大変だから精々藻掻いて死んでくれ」


 ベノと名乗ったのはダークブルーの肌の長身の男のデビルだった。その手には鎖を持ち、鎖の先には人間の女性と思われる拘束具を纏った奴隷が繋がれていた。その目も口も隠された女性の頭には探していた覇者の王冠が付いている。


「見つけた!!あれを奪うよ!!」


「了解……」


 レモネはソシラに合図をして余裕ぶっているベノから覇者の王冠を奪おうと動き出す。それにはゴンボも加わった。ゴンボは自らベノの正面に回り、囮をしようとしてくれる。レモネとソシラはその間に左右から覇者の王冠を奪いに近付いた。


(え!?)


 レモネは目の前にいつの間にか数人の兜を被った兵士が居て驚く。しかも物凄い速さで棒状の魔導具が繰り出され、斧で無理矢理防御するので手一杯だった。ソシラも同様で攻撃を避ける為に遠くに虚像を作って一旦避難している。

 問題はベノの正面に居たゴンボだ。10人ぐらいの兵士に攻撃され、一気に機動鎧の装甲が破壊されていた。


「お爺ちゃんっ!!」


 叫ぶギンナも速さが増した兵士達に攻撃され、既に数人の兵士が隙が出来たギンナの横から工房の方へと向かっている。


「言っただろう、大変だって。今まで地下から無理矢理操らせてたから動きが鈍かったけど、本気を出したらキミ達が勝てるワケ無いんだよ」


「ソシラ!!」


 レモネはソシラに強硬手段を合図し、ソシラは無言で頷いた。次の瞬間ソシラは鎖に繋がれた女性の目の間に移動し、覇者の王冠を破壊しようとした。


「だからムダだって」


 そんなソシラに一気に兵士達が魔導具で攻撃する。ソシラは何とか攻撃に耐え、再び距離を取った。


(駄目だ、隙が無い)


 レモネも攻撃を受けることしか出来ず、どんどん繋がれた女性から距離が離れていく。ゴンボは少し後退し、何とか防御姿勢に変わって攻撃を耐えていた。ギンナは工房に迫る兵士を追いたいが、他の兵士に邪魔されて動けない。ソシラは敵を挑発する動きを取るが、女性を守る兵士は固まって離れてくれなくなった。


「ワレが隠れてるうちにニンゲンを何人か殺しておけばここまで苦戦しなかったのになあ。下手に同情するからこうやって敗北するんだよ」


「私達はあなた達とは違う。助けられる命は何とか助けようと藻掻きます。

それにあなたは自分は動かず隠れて今も命令だけして、まださっきのビネの方が立派だった」


「勝てばいいんだよ。負けたヤツに価値なんてないんだ」


 レモネが何を言ってもベノは余裕ぶり、自ら動こうとはしなかった。レモネは決断を迫られる。仲間が殺される前に操られている王国の兵士を倒す必要があるのではと。


(こんな時スミナなら諦めないんだろうな)


 レモネはいざ決断しようとして、スミナの顔が思い浮かんだ。そして、もう少しだけ藻掻いてみようと思った。


「皆さん、もう少しだけ耐えて下さい。

ソシラ、もう一回行くよ!!」


「うん!!」


 レモネは魔導具の斧の刃を変形させて斬れないようにする。そして相手が死なないように少しだけ力を抜いて迫りくる兵士を斧で叩き飛ばしていった。レモネのスイングは次々と女性を守る兵士を叩き飛ばしていく。全ての兵士がレモネに集中した時、ソシラが虚像で移動して女性の背後を取った。あとは兜を奪うか破壊すればいい。


「ザンネンだったね」


 背後を取ったソシラの背後にベノがいつの間にか移動していた。ベノの短剣での攻撃がソシラの背中に刺さり、ソシラは急いで退避する。だが、レモネは諦めていない。


「今だ!!」


 レモネはジャンプして斧を女性の頭の覇者の王冠に向かって投げた。斧は物凄い勢いで飛んでいく。ベノは女性の背後にいるので防げ無い。兵士達もレモネに近寄っていたので斧を防ぐ手段は無かった。


「そんな……」


 しかし斧は女性の頭上をすり抜け奥の地面に刺さった。女性とベノは地面に沈下していたのだ。


「いい作戦だったけど、甘いね。

もう終わりだよ、キミ達」


 斧も盾も失ったレモネに周りの兵士達が襲い掛かる。ソシラも短剣の傷が結構深く、苦しそうだ。ゴンボも限界が近く、ギンナの動きもドレニスのエネルギーが切れてきたのか鈍くなっていた。グスタフに戦わせるにしても兵士を皆殺しにさせる他無い。


(悔しい……)


 レモネは予備の短剣で攻撃を防ぎながら自分の力が足りない事を悔やんだ。


「みんな、耐えてくれてありがとう。もう大丈夫よ」


「あたし達が来たからね!!」


 レモネに迫る兵士達が魔力の壁に閉じ込められていた。他の兵士達も同様だ。


「まさか……。なんでここに居るんだ?」


「2人とも来てくれたんだ!!」


 上空に現れたのはスミナとアリナの2人だった。そして魔力の壁を作ったのが光り輝くグスタフだと分かる。エルと合体したのだ。


「アリナ、あいつはお願い」


「任せて!!」


 アリナが高速でベノに迫る。ベノは退避するように地面に潜るが、アリナは魔力でドリルを作り、地面を削って退路を断っていた。


「カヌリ、本気を出せ!!」


 ベノは手に持った鎖を手放し、叫ぶ。すると女性の拘束具の手足が解かれた。それに合わせて魔力の壁が兵士によって破壊され、兵士達が再び動き出す。


「させない!!」


 スミナは一瞬のうちに女性の目の前に移動し、覇者の王冠に触れた。すると、女性から覇者の王冠が外れ、周りの兵士達が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていく。


「そんなバカな……」


「残念だったね、じゃあね」


 呆気に取られるベノの首をアリナは刀のくれないで斬り落としていた。


「助かったよ、2人が来てくれなかったら守れなかった」


「レモネ達こそ覇者の王冠相手に兵士を傷付けずに守ってたんでしょ、凄いじゃん」


 アリナにそう言われたが、レモネは複雑な心情だった。


「みんな、気を抜いちゃ駄目……」


 ソシラにそう言われて視線の先を見る。すると覇者の王冠を持ったスミナの首筋に刃が当てられていた。


「動くな。返せ、ボクの王冠」


 全身の拘束具が外れ素顔を晒した少女は短剣を突き付けつつ、スミナの手から覇者の王冠を奪い取っていた。

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