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1.双子の覚醒

 魔導歴1230年、デイン王国のノーザ地方のアイル家に双子の姉妹が誕生した。姉はスミナ、妹はアリナと名付けられ、大事に育てられていった。

 姉妹は双子だがそっくりではなく、成長するにつれ見た目や性格の違いが大きくあらわれる。姉のスミナは真面目で大人しく、人の言う事をよく聞く子供になっていった。母親似の青く綺麗な髪がその印象を後押しする。一方、妹のアリナは自由奔放で何をしでかすか目が離せない子供だった。父親譲りの赤い髪がその活発さを際立たせた。


 アイル家があるジモルの街周辺は安全で肥沃な大地に恵まれ、歳の離れた兄にも可愛がられ、双子は伸び伸びと成長していた。そんな双子に異変が起きたのは5歳になってしばらくしてからだった。

 いつものように遊んでいたら突然2人とも倒れたのだ。2人は食事は何とか受け付けるものの、高熱を出して寝込んでいる。双子の母ハーラは元々聖教会所属の魔術師として回復魔法を得意としていたが、どんな魔法を使っても双子は治らなかった。高名な魔導医師を呼んでも結局原因は分からず、熱は下がらなかった。

 双子の父ダグザはノーザ地方の領主であり、手を尽くして双子の回復を試みた。だが、どんな魔法や高価な薬を使っても双子は回復しなかった。そして双子が倒れてから1週間が経過した。家族もメイド達も疲労が溜まり、絶望感すら抱きつつあった。

 たまたま双子が寝ている部屋に誰も居なくなる瞬間があった。しばらくして双子の部屋から爆発音のような音が響いた。両親もメイド達も急いで双子の部屋へと駆けつける。そこには目を疑うような光景が広がっていた。


「パパ、ママ、見て見て!!綺麗でしょ!」


 双子の部屋の中心に火柱が立っている。それを誇らしげに見せているのは妹のアリナだった。


「ちょっとアリナ、危ないって言ってるでしょ!」


 そう言ってスミナが手を前に出すと水の球体が部屋に現れ、火柱にぶつかって火を消し去った。この世界における火の魔法と水の魔法なのだが、その規模は大人は驚くものだった。

 この世界の人間ならば誰であれ多少は魔法が使える。ただ、それは子供が自然と覚えるものでは決して無く、若くても10歳ぐらいに成長し、誰かに教わる事でようやく使えるようになるものだ。普通は訓練も無しに使えるものではない。


「2人とも誰に教わったの?」


 母ハーラが驚きながら聞くと双子は顔を見合わせる。


「誰にも教えてもらってない。ただ何となく出来る気がしたの」


「なんかね、からだの中から湧いてくるの」


 スミナとアリナはふんわりと答える。


「それより熱は大丈夫なのか?」


 父ダグザも少し冷静になって確認する。


「うん、なんか元気になったよ」


「なんか前より体が軽いの」


 そう言って双子は部屋の中を走り回る。落ち着いて確認したところ、熱は下がり、後遺症も見られなかった。魔法を使わせてみたところ、初歩的な火や水や風の魔法が自然と使えるようで、むやみに使わないようにと両親がきつく言いつけた。


 ただ、変化はそれだけでは済まなかった。数日後、大変なことが起こったのだ。


「奥様、旦那様、急いで来て下さい!」


 そう言って両親を呼びに来たのは双子の監視役を新たに任された若いメイドのメイルだ。メイルに連れられ双子の部屋に来た両親はまたもや我が目を疑った。部屋には沢山の星が浮かんでいたのだ。星といっても丸い正確な形ではなく、絵本に出てくるような☆型をした星だ。星は手の平ぐらいの大きさで自ら光輝いて部屋の中をふわふたと動いている。そして、その星をバケツぐらいの大きさの円盤状の飛行物が追いかけている。飛行物の下部にはカニの脚のようなアームが5つ付いていて、星を掴んで回収していた。


「アリナ散らかしちゃダメだって!」


「でも綺麗だよお姉ちゃん」


 星を追いかけ回してるの飛行物を操っているのが姉のスミナで、星を出したのが妹のアリナだと両親達はすぐに理解した。スミナが飛行物を魔法で操って星を回収していく。が、それよりもアリナが手から星を出す方が早く、どんどん星が増えていった。


「2人とも止まって!!」


 ハーラが怒鳴ると部屋の喧騒が一気に収まった。双子は怒られるかと思い身構える。


「これは何だい?」


 ダグザは優しい声で浮かんでいる星を一つ取って質問する。


「あたしが作ったの」


 アリナは誇らしげに言う。ダグザの手の中の星はパッと消え去り何も無かったように痕跡を残さなかった。部屋に浮いている他の星も次々と消滅していく。


「スミナ、その空飛ぶ道具はどうしたのかな?」


「お父様、ごめんなさい。アリナが星を沢山出すからどうにかしないとって。それでお父様の部屋に道具があったのを思い出して」


「道具の使い方は誰かに聞いたのかい?」


「いいえ。でも、何か使える気がして」


 ダグザの質問にスミナは必死に答える。双子の言い分を聞いて、ダグザとハーラは顔を見合わせた。


「あなた、これは……」


「ああ、祝福ギフトだ」


 祝福ギフトとはこの世界の人間が稀に持って生まれる特殊な技能だ。剣や魔法の技術や技は訓練や書物などから学んで身に付けるが、祝福に関しては他人が真似出来ない特別な技能である。


「でも、こんなに早く発現するなんて」


「魔法もそうだが、うちの子達は本当に天才なのかもしれないな」


 ダグザは少し親バカな発言をする。が、5歳で魔法と祝福を使えるようになった例は一般的に聞いた事が無い。誰から見ても双子は天才だった。


 双子の祝福について観察した結果、おおよその内容が判明した。姉のスミナの祝福はどんな道具も瞬時に使い方が分かる、というものだった。ダグザの部屋から持っていった道具は、魔力で動作する魔導具と呼ばれる物だ。通常はただの円盤だが、魔力を注ぐと空を飛び、円盤の下から5本のアームが伸びて物体を掴む事が出来る。物を運んだり手が届かないところの作業を行ったりする為の道具なのだが大人でも自由に動かすにはコツが必要で、誰でも自由に動かせる物では無かった。

 妹のアリナの祝福は魔力を物体化出来るというものだった。アリナがイメージした魔力の形を一定時間だが物質として顕現させ、それは宙に浮かべたり飛ばしたり、道具のように持って使ったりも出来る。氷の魔法で似たような事も出来るが、自由に操るにはかなりの魔力を消費し技術もいるので簡単に作れるアリナの祝福とは別物といってよかった。

 祝福自体が珍しい物だが、双子の祝福は特に貴重なものだと両親は思っていた。それと同時に使い方を誤ると危険だとも。双子の兄であるライトには祝福は無かったので育て方を考え直す必要があると両親は結論付けた。


 そして5年が経過し、双子は10歳になっていた。

 双子の日課は幼馴染の2人を連れての冒険ごっことなっていた。ごっことは言うものの、本物の剣を持ち、モンスターと遭遇した際は剣と魔法を駆使して実際に討伐をしていた。

 普通の貴族は子供にそんな危ない事はさせないのだが、両親とも貴族の生まれではない。双子の両親は国を守った功績から領主になったのもあり、双子の好きにさせていた。双子が生まれる前に戦争が終わって強力なモンスターがいない事、母ハーラが回復魔法の使い手で、死にさえしなければ何とかなるのも自由にさせている要因だった。父ダグザも痛みを感じなければ強くなれないという傭兵時代の考えもあり、モンスターとの戦いを止めはしなかった。

 勿論監視役としてメイドのメイルが常について回っている。ただ、10歳にもなると行動範囲も大分広がり、苦労が絶えなかった。

 双子の姉のスミナはそこまで冒険ごっこには固執しなかったが、書物だけでは分からないこともあり、負けず嫌いな性格も出てアリナと競うように剣技と魔法の実戦を行った。

 妹のアリナは体力では姉に敵わないものの、魔法に関しては天性の才能を見せていた。また好奇心の塊でもあり、危険に迷わず突っ込んでは自分も他人も危険に晒すのが日常茶飯事だった。

 そんな双子について回るのは幼馴染は近くに住む両親とも知り合いの2人だ。双子の兄ライトが王都の戦技学校に行ってしまい、遊び相手はもっぱらこの2人だった。

 1人はガリサ・メガトで、道具屋の娘だ。運動神経は無いが10歳にして魔法の才能が開花して双子には及ばずともこの歳では異例の実力があった。魔法やそれに関する知識に興味があり、双子の家の書庫に遊びに来ては本を読み漁っている。スミナも読書好きなのでガリサとは気が合う友達となっていた。

 もう1人はパン屋の息子のドシン・ガムド。力自慢で10歳にしては背も高く、身体もガッシリしている。双子の兄のライトが戦技学校の剣技大会で優勝したので憧れており、パン屋を継がずに王国騎士になりたいと思っている。だが、剣で双子に勝った事は一度も無く、いつか勝つ為に剣技を毎日磨いていた。


 双子の家があるジモルの街周辺のモンスターを4人は難無く倒せるようになっていた。モンスターといっても出るのはスライムや大サソリや野獣ぐらいで、剣や魔法の心得がある者なら何とかなる強さだった。いざとなれば元々ダグザの部下だったメイドのメイルが戦うつもりだったが、今のところ出番は無かった。


 そんなある日のこと。


「ごめん、今日はお店の手伝いを頼まれてるの」


「俺もとなり町まで買い出しについて行く日だった」


 その日はガリサとドシンの2人とも用事があった。冒険ごっこは最低でも3人で行っていた為、残された双子はどうしようか悩んでいる。


「アリナ、今日は大人しく家で本でも読んでようよ」


「えー、別に2人でも大丈夫だよ」


 結局アリナに引きずられてスミナはメイルを連れて街の外まで冒険ごっこに行く事になってしまった。アリナの気の向くままに森の方へとどんどん進んでいく。が、モンスターの姿はどこにも見えなく、珍しいものも無かった。


「モンスターいないじゃん、つまんない」


 連日冒険ごっこしていれば行ける場所も似たような場所になり、モンスターと遭遇しない事もある。4人で出かけている時なら剣や魔法の訓練に切り替えたりしたが、今日は双子とメイルだけなのでアリナは訓練する気にならなかった。


「しょうがないから今日はもう帰ろうよ」


「あ、あっちでなんか光った!!」


 スミナの言葉を無視してアリナは森の奥へと走り出してしまう。スミナは小さくため息をついた。


「私が連れ戻してきますのでスミナ様はここで待っていて下さい」


 スミナの気持ちを汲んでか、様子を見ていたメイルがアリナを追って走っていった。スミナもアリナも1人で逃げる術も持っており、スミナはそこまで心配はしなかった。が、数十分待っても2人は戻ってこない。


『先に帰ってようかな』


 双子には祝福以外にも不思議な力があり、どちらかが怪我をするとその痛みを少し感じたり、離れた場所にいてももう一人がどの方角に居るか分かったりした。スミナが家に帰っていればアリナもその事を分かる筈なので先に帰ることは問題なかった。


『ん?なんだろうこの感覚』


 アリナがどっちにいるか何とはなしに感じようとしたところ、スミナはアリナとは違う何かを感じ取った。普段のスミナなら危険な橋を渡ったりしない。だが今日はアリナに振り回されて機嫌が悪いのもあり、好奇心に身を任せたくなっていた。スミナはアリナがいる方向とは真逆の方向へと進んでいった。


「こんな場所あったんだ」


 スミナが辿り着いたのは森の中にある大きな岩だった。その岩の下から何かを感じ、草木をくぐって近付いてみると洞窟の入り口が隠れてそこにあった。スミナはこの辺りに洞窟があるという話を聞いた事は無く、少しだけ慎重になる。


『足跡が無いし、人もモンスターも長い間出入りしてない』


 周囲を調べてすぐにモンスターに出会う事は無さそうだとスミナは判断した。行くべきか、戻って誰かを呼んでくるか。スミナの心の中で何かが決定された。


『行ってみよう。何か大発見かもしれないし』


 スミナは最近魔力でアリナに負けてる事を実感していて、祝福の能力もアリナの方が分かりやすく便利なのに嫉妬していた。スミナの祝福は魔導具や扱いが難しい武器を使って有利に戦う事が出来る。だけどそれは道具頼りだとスミナは感じていた。一方アリナは祝福で瞬時に罠や飛び道具を作って戦っている。しかも勉強や訓練は嫌いなのに実戦ではそつなくこなすのだ。

 両親は平等に自分達を褒めてくれているけど、アリナの方が褒められているとスミナはどこかで感じていた。スミナ自身がアリナの能力を認めているのもある。そんな思いが溜まっていたので普段慎重なスミナを大胆にさせたのだ。

 スミナは剣に光の魔法を付与して松明代わりにする。足を滑らせないように慎重に洞窟を降りていく。土で出来ていた穴がやがて石壁へと変わっていた。そして行き止まりに突き当たる。


「なんだ、ここまでか」


 スミナはがっかりした気持ちをと安堵感を同時に感じた。と、スミナは何かを感じて石壁のある点へと吸い寄せられる。


『これ魔法の扉だ』


 光を照らしてよく見ると石に何か読めない文字が書かれている。そしてうっすらと扉らしい長方形の線が引かれていた。普通の人では開けられずに帰る事になっただろう。だが、道具を使える祝福を持ったスミナは違った。


『こうかな』


 何となく頭に浮かんだ魔力を扉へと注ぎ込む。すると石壁が青く光り、直線的な紋様が広がっていった。そして石壁の扉の部分が上下に割れて人が通れるようになる。


「凄い!古代魔導遺跡だ!」


 広がった光景にスミナは思わず声を上げた。

 洞窟には2種類あり、モンスターや魔族が巣や拠点としてる自然の洞窟と、古代魔導帝国が作った遺跡である。スミナが見つけたのはどう見ても後者の魔導遺跡だった。綺麗に削られ紋様が彫られた床や壁、魔法の灯りが洞窟内を照らしていた。

 ここでまたスミナは進むか戻るか悩む。本で読んだ内容だと魔導遺跡にモンスターがいる事は少なく、いたとしても古代の実験生物や遺跡を守るガーディアンだと。ただ、これだけ年数が経っていると実験生物もガーディアンも動く物は少ないと書いてあった。


『もう少しだけ進んでみよう』


 スミナは不思議な感覚が強くなり、その方向へと進んでみる。遺跡の中はひんやりとしていて、静寂が広がっていた。聞こえるのはスミナの足音だけだ。途中スミナの身長の2倍ぐらいの黒い円柱のような石像が通路に立っていたが魔力は感じず実際動かなかった。恐らくこれがガーディアンの残骸なのだろうとスミナは思った。魔導遺跡は想像より広く、通路がどこまで続いているか分からなかった。多分他にも入り口があるのだろうとスミナは感じた。


『あとちょっと』


 スミナが感じ取ったものが近くにあるのが分かる。それは通路の横にある扉の一つから強く感じられた。前と同じく魔力を注いで扉を開く。そこは中央に台座があるだけのちょっと広めの部屋だった。台座の上に何か力を感じる物が置いてある。


『わたしが感じてたのはこれか』


 スミナは強い力を感じて警戒を忘れてそれに近付いていった。台座に置いてあったのは迷路みたいな装飾がある筒状の物体だった。吸い込まれるようにスミナはそれを手に取っていた。


「わっ!」


 スミナが触れた瞬間、身体に電撃が走るような感覚があった。頭の中に二つの映像が浮かんだ。一つは筒状の物を作る年老いた魔術師の姿だ。もう一つは筒状の物を剣のように操り、巨大な化け物を斬り倒す若者の姿だった。


『何だろう、今のは』


 スミナの祝福がこの道具が古代の魔導具であり、魔力を刃に変えて剣として使える物だと認識した。古代の魔導具は現在製作される魔導具とは大きく違い、現在の魔法では作る事が出来ない凄い物である事をスミナは知識で知っていた。


『これって大発見なんじゃ』


 そんな事を思った時、スミナはようやく危険を察知した。入ってきた扉とは反対方向の壁が開いていて、そこから何かが現れたのだ。


『ガーディアン!!』


 貴重な魔導具はガーディアンが守っている、という知識をスミナはようやく思い出した。廊下にいた石像とは違い、黒いボディに赤い光のラインが走り、巨大な四本の脚と鞭のような二本の腕が小刻みに動いていた。古代の魔導士が防衛の為に作り出した魔法で動く兵器ガーディアン。動く物が実在したのだ。大きさはスミナの倍ぐらいの高さで、三角錐の本体の下から脚が出ていて、横に2本の腕、頂点に眼の役割をしてそうな丸い模様があった。大きな図体の割りに動きは素早かった。


『来る!』


 スミナは避けれないと分かり瞬時にシールドの魔法を全身に張る。シールドの魔法は攻撃を防ぐ魔力の障壁を作り出した。しなったガーディアンの腕はスミナを横から叩き付ける。シールドで威力は軽減されたものの、腕の勢いは止まらずスミナは部屋の壁へと叩き付けられていた。ようやくスミナは今まで戦っていたモンスターとは次元が違う事を理解する。


『逃げる?いやダメ。ガーディアンのテリトリーから逃げる事なんて出来るわけが無い』


 瞬時に判断し、スミナは戦う事を決意する。そして自分の手にある物を使うべきだと。手にした魔導具は今まで使っていた剣より軽く、魔力の刃はガーディアンを切り裂けるとスミナは判断する。問題はどうやって近付くかだ。しなる腕は速く、隙が無いように見える。魔法で速度を上げても掻い潜って本体に攻撃を加えられる可能性は低いとスミナは思った。


『攻撃が来る!』


 スミナは今度はシールドでは無く移動速度を上げる魔法を自身にかけ、大きく腕の攻撃を避けようとした。が、ガーディアンは2本の腕で連続して攻撃してきたので2本目が避けきれず足に深めの傷が出来ていた。


『鎧があればなあ』


 今のスミナの服装は軽装で、一応上半身と腕に脛に皮の防具は付けている。弱いモンスターには十分だけど、ガーディアンにとっては紙切れのようなものだ。先程打ち付けた背中も痛いし今出来た足の傷も痛い。痛みを意識すると動きが鈍る。スミナは何とか戦いに集中する。


『何とか相手を無力化するしか』


 今の自分の剣技で出来るかは分からないがスミナは賭けに出た。相手の間合いに入り、攻撃を待つ。


『今だ!!』


 振り下ろされた1本目の腕に合わせて剣を振る。魔法の刃はガーディアンの腕を見事に斬り落とした。


『まだ!』


 間髪置かずにもう一撃が横から襲ってくる。スミナは振り下ろした剣を振り上げ、もう一本の腕も切り落とす事に成功した。咄嗟の判断だがスミナはやってのけたのだ。


『とどめ!!』


 スミナは斬られた腕の根元をグルグル動かしているガーディアンの胴体に魔法の刃を突き刺した。スミナは勝ったと思った。


「え!?」


 瞬間スミナの身体は再び壁へと叩き付けれていた。ガーディアンの形が変わっている。4本足だったのが2足歩行になり、2本の脚は腕へと変形したのだ。


「そんな……」


 スミナの剣はガーディアンに刺さった状態で手から離れてしまった。ガーディアンがどういったものかの知識が不足していた事をスミナは思い知る。


「逃げなきゃ……」


 が、スミナの身体は動かない。足の傷と2度打ち付けた背中の痛みが限界を超えたのだ。そして魔力も剣に込め過ぎた為、魔法を唱える事も難しい。


『アリナ……』


 助けに来てくれるかもしれない妹との距離を感じてスミナは絶望した。どう考えても間に合わないからだ。ガーディアンはどんどん近付いてくる。


『お父様、お母様、お兄様、アリナ、ごめんなさい……』


 最後の瞬間、自分の過ちを懺悔するスミナ。ガーディアンは目前まで迫り、その腕をスミナへと振り下ろした。しかしその攻撃はスミナに届く事は無かった。


「え?」


 スミナの前には1人の人物がいつの間にか立っていた。ガーディアンの攻撃を防いだのはその人物のようだ。


『誰?』


 全身を白銀の魔導鎧で包んだ騎士。手には青く輝く剣を持っている。


「消え去れ」


 鎧の兜越しに男の声が聞こえる。そしてその姿が消えた。


『速い!!』


 瞬間移動かと思うほどの速さで騎士が動いた。騎士は既にガーディアンの背後に立っていた。そしてガーディアンは細切れに切り裂かれ崩れ落ちていく。攻撃は既に終わっていた。ただガーディアンの残骸がそこに転がっていた。

 騎士は部屋を見渡した後、扉の方へと歩いていく。


「あの……」


 スミナは声をかけようとしたが、騎士はそのまま扉から出て行ってしまった。スミナは痛みで意識が薄れていく。


「お姉ちゃんっ!!」


 アリナの泣き顔がスミナの薄れゆく意識の中で最後に見た光景だった。


 アリナ達は応急手当をしたスミナを連れ帰り、傷は何とか癒す事が出来た。が、2人をハーラが叱ろうと思った時、2人は再び高熱で倒れてしまった。


 スミナは高熱の中、夢を見ていた。そこには見知らぬ世界が広がっていた。見知らぬ街、見知らぬ建物、見知らぬ機械。でも何故か懐かしさをスミナは感じていた。

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