そいつは誰だ!優しく強い拳法使い(4)
礼拝堂にはほうれん草とボス玉ねぎの二人のみ。その中でボスは不敵な笑みを浮かべる
「へへへ……アンタ拳法使いだったのか……。」
「そうだが。」
「そいつぁ奇遇だな。俺も拳法が使えるんだよ。俺は強いから幹部になったんだ。果たして俺の『珠音技術』に勝てるかな!?」
ボス玉ねぎは拳法の構えをした。
「拳法が何であれ、俺の宝蓮双拳はお前のような邪悪な心を持ったやつには絶対に負けん。」
「果たしてそうかな……? そんなことを言ってても、もう俺の術の毒牙にかかっているんじゃないか? お前、眼に違和感を感じているだろう。」
「何?」
ほうれん草はそう言われてやっと気がついた。自分の視界がぼやけてだんだんと薄暗く見えていることに。
そう、珠音技術は相手の視界を奪う拳法なのだ!
「ふはははは……どんな拳法を持っていても、目が見えなければ生まれたての種を相手にするも同じ! もうお前に勝ち目はない! 死ねええええ!」
ボスは勝ちを確信しほうれん草に飛びかかる! ほうれん草に避けるそぶりはない。まさに絶対絶命。
しかし、ほうれん草は構えを崩さなかった。そして眼が見えないのにも関わらず、一点の迷いも無く玉ねぎの方向に拳を放ったのだ!
「宝蓮糜多明拳・英の型!」
拳は玉ねぎの脳天に直撃した。玉ねぎは叫び声をあげて吹っ飛び倒れた。
「俺は眼が見えなくても相手の邪気で場所が分かる。そして宝蓮糜多明拳・英の型は静寂を促す拳だ。これを食らったものは心の邪気が清まるまで眠り続ける。お前の邪気ならばおよそ十年は眠り続けるだろう。己の過ちを反省しろ。」
ほうれん草は玉ねぎ団をたった一人で倒し、静かに礼拝堂を去ったのだった。
そして彼は悪がいなくなった町を去ろうとした。その時、助けた少年人参が駆け寄ってきたのだ。
「アンタ、一体何者なんだ! 礼拝堂に行ったら玉ねぎのやつらが全員倒れてたぞ。」
「安心しろ、奴らは起きてももう悪事を働かないだろう。ボスのあいつはしばらく起きないだろうが、他の半グレどもはこき使ってやれ。」
「そういうことじゃなくて、アンタ、強いのか……?」
ほうれん草はそう聞かれてうつむき、口篭って
「俺はただのほうれん草だ。強いも弱いもない。ただ悪いやつが許せないだけのただのほうれん草だ。」
と答えると、少年は急に土下座し
「アンタ本物だ……。頼む、俺も連れてってくれ! 強くなって魔王を倒したいんだ!」
「ダメだ。」
「そんなこと言わずに……」
少年が顔をふとあげると、もうそこにほうれん草はいなかった。行ってしまったのだ。
ほうれん草はただ進み続ける。世界に平和を取り戻す。魔王の優しさを取り戻す、その日まで!