そいつは誰だ!優しく強い拳法使い(2)
「ボス、俺ら玉ねぎ団に逆らう不届き者を見つけました!」
「何、珍しい野郎もいたもんだ。俺らは魔王様直属の集団、逆らえば命はないというのに。」
礼拝堂を根城にしている大量の凶悪な玉ねぎたちが、先ほどの半グレ玉ねぎの報告を聞く。
「それでお前らは傷ひとつついてねぇのに逃げ帰ってきたわけか。」
「あ、それはその……」
「どうやら根性が足りねぇようだ。俺らは魔王様に選ばれたエリート集団だ。怖気付いて逃げ帰るなんて絶対にあってはならねえ。お前ら、あれを持ってこい!」
ボスが一声掛けると周りの玉ねぎたちが何やら拘束具のような物を持ってきた。
「まさかそれは、ペリペリだけは嫌だ! 助けて下さい!」
それを見た玉ねぎ三人はギョッと鳥肌が立ち助けを乞う。しかしボスは微笑しながら
「これを見るのが初めてなやつも結構いるだろう……。これは『超ペリペリマシーン』だ! 拘束具に変な重しが付いているだろう。この重しを玉ねぎの皮の一番テッペンにつければ、皮をゆっくりじわじわ剥がしてくれるのさ。お前ら、取り押さえろ!」
「うわあああああ助けてくれぇええええ!!」
一方その頃、ほうれん草は玉ねぎ団の支配する町に到着していた。
「この町もか……活気溢れているのにみんな痩せ細っている。過度に水を搾取しているせいだ。」
彼はトマト魔王の顔を思い浮かべる。
「やつはやってはならないことをした……俺が裁かねば!」
数年前の忘れもしない記憶が鮮明にリフレインする……。
事の始まりは百年前、俺ら二人の師匠のご先祖さま、明日パラガス大師範代のご時世から始まったのだ。
野菜以外の全ての生物が滅んでしまった隕石落下事件。生き残った野菜たちは隕石の影響で雨が降らなくなり飢え苦しんでいた。
そこで大師範は空中割りという奥義を使い、雨の降らない空気を消し飛ばして三日三晩雨を降らせ続けたのだ。そのおかげで野菜たちは今も絶滅せずに強く生きている。
しかし、大師範は先祖代々こう語り継がせた。
「空中割りというのは、悪用すれば世界を支配出来てしまう恐ろしい技だ。師範として認められた者にのみ受け継がせろ。それ以外、とくに胸に邪悪を秘めている者には絶対に教えるな。」
と言う教えだ。ほうれん草とトマトの師匠含め、百年間この教えを守り抜いてきた。
しかしトマトのやつはそれを破ったのだ。
今では空中割りを使って自分の所にだけ雨を降らせて強大な力を手にしている。まさに魔王、そして流派は違えど同じ釜の飯を食った仲だったやつを俺は倒さなければならない。
「これは俺の宿命、そして宝蓮双拳の宿命だ……!」
ほうれん草は心新たにまた歩きだした。すると目の前の道の角から一人の人参が飛び出してきた。人参は何やら大きなボトルを持っている。
「こら、捕まえたぞこの人参野郎が!」
角からもう一人、ガタイの良い野菜たちが出てきて人参の首根っこを掴んだ。
「ゆ、許してくれよぉ! 喉がもうカラカラなんだ!」
「黙れ、何回も盗んでいるくせに!」
「こいつをもう野放しにしとけねぇよ、今ここでシメちまおう、それがいい!」
ほうれん草は突然目の前でそんなことが起きて困惑したがすぐに宝蓮双拳の構えをした。
「でゃあッッ!」と一瞬のうちに人参と周りの野菜たちの頭にコツンと一突き。
「周りの大人野菜たちは少年人参に対して寛容に、少年人参は盗みに罪悪感を持つようにツボをついた。お前たち、喧嘩をやめないか。」
「ん、なんだお前は。旅の者か。確かに小さい子供に少しやりすぎたか。」
大人野菜たちが手を緩めると人参はすぐに手を振り払って逃げた。