そいつは誰だ!優しく強い拳法使い(1)
彼の名はほうれん草。ただのほうれん草だ。
彼はただただこの道を歩き続ける。一直線に歩き続ける。何故ならこの先には魔王城があり、悪のトマト魔王が君臨しているからだ。
彼はやつを倒さなければならない。宿命だ。やつとは切っても切れない因縁があり絶対に倒さなければならないのだ。
倒さなければならない。
この「宝蓮双拳」で!
「おいテメェ」
目の前に三人の玉ねぎがいた。
「テメェ、水持ってんだろ。その腰に持っているボトル置いてけ」
この世界では食糧である水が全て、少しでも持っていたらこのようにゴロツキに奪われそうになる。
「新鮮な玉ねぎども、お前らのようにエネルギッシュならば働いて稼げ。」
「ふぅん、聞こえなかったようだな。水を置けと言ったんだ。このナイフが見えねえか。」
三人ともナイフを持っている。
ナイフは絶対的な武力だ。普通の野菜なら太刀打ちは絶対に出来ない。普通の野菜なら。
「死ねぇーーーーッッ!!」
玉ねぎは痺れを切らし襲い掛かってきた。
自然界は弱肉強食。今の不穏なご時世、こういう輩がいるのも仕方がないが、やはりどこまで行ってもこういう奴らは悪だ。
「成敗してやる、俺の『宝蓮双拳』でッ!」
玉ねぎ三人は容赦なくナイフを振り下ろす! しかし、振り下ろした先にはもう彼はいない。
「何、どこだやつは!」
「ここだ。」
いつのまにかほうれん草は玉ねぎ三人の背後に回り込んだのだ。そして放つ、宝蓮双拳の必殺技をッ!
「秘技・宝蓮狩有無拳ッッ! ホウレレレレレレレレレレレレレレレレレェエエエエンソウ!」
彼の超絶スピードのラッシュパンチが火を吹く! とてつもない速さで三人を貫いた。奴らは叫び声を上げて吹っ飛び、ダウンした。
しかし奴らには傷一つ付いていない。どう言うわけかすぐに起き上がった。
「あれ……? 俺ら一体何をしていたんだ?」
「さあ。」
「そうだ、アイツ、ほうれん草に倒されたんだ!」
と、彼らは俺を睨みつけた。しかしまた俺のことを襲ってこようとはしないだろう。何故なら、俺の宝蓮双拳は世界一心優しい最弱拳法だからだ。
この拳法は相手を傷付けない。相手に優しさを取り戻させる拳法なのだ。根が良い者ならばすぐに更生できる。
「て、てめぇ覚えてろよ! ボスに言いつけてやるからな!」
玉ねぎどもは走り去っていった。今はまだボスとやらに報復してもらおうとするが、そのうち自分が悪いと気づき悪事を働かなくなる。これが宝蓮双拳だ。