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反抗期の義妹は恋する乙女  作者: 夜恵
義妹冬眠編
10/37

10話 義妹は妹……?

 昼休み。

 高校は学食があるため利用する。


 柊に自分の作った弁当を食べさせたいという気持ちも多少あるが、まだ二人暮らしは始まったばかりのため手を抜けるところは抜いておこうという考えだ。


 低コストな割に種類も豊富で味もいいから利用する生徒は多い。


「あのさ、伊織(いおり)。相談あんだけど」


 食堂にやってきた杏一はかけうどんを注文して席に座ると、友人である伊織に切り出した。伊織は杏一にとって親友と呼べる存在で、今年も同じクラスになることができた。


 また、伊織も栞と同様小学生からの仲で、この二人だけは柊と杏一が義妹であることを知っている。あえて周りに知らせる理由は無いため自分たちから言いふらすことはしないのだ。


「今日はどした?」

「ちょっと子育てについて教えて欲しいと思ってさ」

「ほう、いくら払ったか知らんが相手は誰だ?」

「ちげーよ。言い方が悪かったな」


 あらぬ誤解を与えてしまったようだ。

 今の発言は撤回して仕切り直す。


「JKのお世話って難しいよなって話だ」

「そうだな、とりあえずこれ食ったら保健室行くか」

「待て、そうじゃない。JKの生態について教えてくれ」

「もう手遅れだったか。犯罪だけは起こすなよ?」


 伊織はこめかみを押さえてはぁ、と息をこぼした。

 冗談はこの辺で切り上げる。


「で、柊ちゃんがどうしたんだ?」

「さすが伊織。よく分かってるな」


 伊織には柊が反抗期になってから度々相談を持ち掛けている。実際に伊織は柊が杏一に反抗する場面を見たことないが、杏一が話を聞かせてアドバイスを貰っているのだ。


 伊織は柊が杏一にベッタリだった頃の事も知っているし、爽やかイケメンのくせに信頼できるいい奴だ。杏一よりは女性経験もあるため女の子の気持ちに理解がある。


 だがもちろん柊に生活力が無いことは言わない。

 あれだけは二人きりの秘密だ。


「それで? 今日は何言われたよ」

「それが聞いてくれよ! 柊と二人で暮らすことになったんだけどさ、最近喋ってくれるようになったんだよ。もう嬉しくて嬉しくて」

「そ、そうか。そりゃよかった。シスコンもここまでいくと清々しいな」

「いやシスコンて、俺は妹のことを可愛がってるだけだろ」

「まあそれでいいや。そんな楽しそうなのに何か問題あるのか?」


 杏一が無自覚に柊への愛情を語るのはいつものことなので、伊織も軽く流す。また始まったかと、やや面倒くさそうな顔でさっさと話せと促してきた。


「うざいって言われるんだよ。俺は柊のためにやってるんだが鬱陶しく思われてるらしい」


 一時期に比べればかなり距離は縮まったが、まだ壁があるように感じる。

 そんな杏一に、伊織は呆れた様子でさっきより大きなため息をこぼした。


「惚気なんて聞きたくねえぞ」

「どこがだよ。俺は困ってるんだ」


 杏一が真剣な顔で話すと、伊織はまじかコイツという顔になる。そしてそろそろ杏一の態度にも思うところがあるのか、禁断とも呼べる質問をした。


「……お前さ、ぶっちゃけ柊ちゃんのことどう思ってるんだ?」

「柊のこと? 普通に可愛い妹だと思ってるけど」

「そうじゃねえよ。キスしたいとか思わないのか?」

「はっ!?」


 突然そんなことを言い出すものだから口に含んだうどんが鼻から出そうになった。一旦水を飲んで頭と心を落ち着かせるも、伊織の口は止まらない。


「手出そうとか思わないのか? 今ずっと二人っきりなんだろ?」

「聞き間違いじゃなかった!? す、するわけねえだろ。妹だって言ってんじゃん」

「これっぽっちもか?」


 そう言われてふと、今朝の光景を思い出す。華奢なのに凹凸のある体。そして庇護欲をそそらせる無防備な表情。


 客観的に見た時、柊は魅力的だし可愛い女の子だ。

 それは認める。


 でもやはり異性とは意識できず、あれこれしたいという感情には繋がらない。杏一は柊を妹だと思っているし、柊も杏一のことは口うるさい同い年の家族としか思っていないだろう。


「……ああ、これっぽっちもだ。だいたいお前だって姉貴としたいとか思わないだろ?」

「なあ、杏一。食事中に汚い話するなって教わらなかったか?」

「お前は姉を何だと思ってるんだ。でもやっぱり姉は姉なんだろ?」


 男と女ではあるが家族だ。

 どうこうしたいなど思うはずがない。


「まあ俺はそうだけどさ。でも柊ちゃんとお前は血繋がってないだろ。男ならそういう欲求抱くのがむしろ普通じゃないか?」


「いや関係ないし」


「そうか? 小さい頃から一緒に育った幼馴染と変わらんくね? そういう男女の関係が恋に発展することは珍しくないだろ」


 伊織の言いたいことも何となく理解できる。

 でも杏一がどう思うかは全く別だ。


「確かに幼馴染と関係は似てるかもしれないけど……それでも柊は妹だ」

「ふぅん。ま、四六時中一緒に居るならチャンスはいくらでもあるか。焦らず行けよ」

「話聞いてたか? まあいいや。いつも聞いてくれてありがとな。お前も頑張れよ」

「俺のことはいいんだよ」


 そこで話は切り上げ、二人で食器とトレーを返しに行く。


 その途中で別の場所でランチを摂っている柊と栞が目に入った。時折笑みを浮かべながらサンドイッチを齧っている。


(よかった。ちゃんと食べてるな)


 やはり恋愛感情は無い。

 兄と言うより親目線かもしれないと、杏一は思うことにした。





 その日の放課後。

 杏一はサッカー部の練習に行く伊織と別れて帰路に就いた。


 新入生の部活動見学やインターハイが近いことからどこの部も一層気合を入れて練習に励んでいるが、杏一は所属していないため関係ないことだ。


 さあ帰ろうと、運動部の聞き取れない掛け声をBGMに校門を出る。

 夕飯はどうしようと考えながら朝来た道を辿ろうとすると、


「ねぇ、遅いんだけど。何分待たせんの?」


 まるで休日に駅前で待ち合わせしている女の子みたいに、柊が背筋を伸ばして立っていた。


 辺りを見渡すが他に男は見当たらない。


「どこ見てんの? バッカみたい」

「え、もしかしてさっきから俺に言ってるのか?」


 柊も部活はやっていないため帰りが早いが、去年は一度も一緒に帰っていない。今日だって何も言ってこなかったから先に帰ったと思った。


「は? 他にいないじゃん。ほんとにバカなの?」

「いや珍しいなと思って。栞と遊びには行かないのか?」


 母との会話を盗み聞きして得た情報だが、二人はスイーツを食べに行ったり買い物に行ったりするらしい。


「今日は部活って言ってたから仕方なく帰ってあげる。いい? 仕方なくだからね」

「仕方なくね……ふふっ」


 念を押すように言ってくるのが面白くて、つい杏一はくすりと笑ってしまった。

 そんな兄の姿を見て柊は虫を見るような目になってしまう。


「うわ、気持ち悪いなぁ。もう置いてくから」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 すたすた歩きだしてしまったため慌てて追いかける。本人は否定するだろうが柊から誘われたのは初めてで、内心ガッツポーズをするぐらい嬉しかった。


 歩きながら今日はどうだったか、何が楽しみか、など他愛も無い雑談を振ってみたが柊は淡泊な返事をするだけ。それでもいちいち反応してくれるのが嬉しくて、たくさん話しかけた。


 途中でスーパーに寄って、晩ご飯の買い出しも一緒にする。


 何を食べたいか聞くとハンバーグがいいと言ったため、「柊は舌がおこちゃまだな」とからかってみたら不機嫌になってしまった。そこで「作ってあげないよ」と言うと残念そうに見上げてくるから、「嘘だよ」と言ってまた怒らせる。


 表情がコロコロ変わって面白いが、本気で嫌われそうなのでこれ以上は我慢する。

 陳列された食材に気を取られていると、柊がカゴに何かを入れた。


「あ、勝手にアイス入れたらダメだろ。しかもそれ高いやつじゃん。戻してきなさい」

「ママはいっつもいいって言うもん。てかその喋り方キモいよ?」


 杏一は別に罵倒されるのが好きなわけではない。

 だから食い下がることはしなかった。


「まあ進級祝いならいいか。俺も一個食べようかな」


 毎回となると出費がかさむし、柊が何でも買ってもらえると思ってしまうため我慢を覚えさせる必要がある。でもこういう日ぐらいはいいだろう。


「ねぇ、絶対私のこと馬鹿にしてるよね?」

「してないって。いい子に育って欲しいなって思ってるだけだ」

「うっざ。まじキモい」


 もう何度目か分からない罵倒を受けて、二人一緒に同じ家に帰った。

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