第二話:山下修平の場合
ひょんな事からイケメン軍団のプロデュースをやる事になった幸田。彼らの目的は不明だがやってみる事に。次なる対象者は…。
「プロディース…か。」
ひょんな事からイケメン軍団のプロディースをする事になった。
僕は別にオシャレでもないし、口が旨い訳でもない。
幸田健は一般人なんだよ!!
「…今更言ってもしょうがないか。」
自分の中で区切りをつけ、僕は屋上を後にした。
教室には戻りたくなかったけど、もうすぐ一時間目の授業が始まる。
「はぁ…。」
案の定、教室に入ればヒソヒソ話に質問攻。
―こういうのって苦手なんだよな。
僕の気持ちなんてお構いなしに周りは騒いでいる。
「寝ちゃおう…。」
僕の意識はそのままブラックアウトした。
今日はバイトもないし、早く帰ろうと心に決めた。
放課後になると入口にはイケメン軍団が待ち構えていた。
逃げられない様だ。
あの時は面白そうだと思ったけど、やはり断るべきだろう。
何をすれば良いのかわからない。
「遅いぞー。幸田」
相変わらず爽やかなのは安田真人だ。
元はと言えばこいつが全ての元凶なんだな…。
何を企んでいるんだろうか、今の僕には計り知れない。
「ゴメン。やっぱり断ろうかと思って…。」
素直にそう言った。
『えーっ!?今更かよー!!』
イケメン軍団がハモッた。意外と笑える風景だった。
「何をすればいいのか分からないし…。」
皆困った顔をした。一度引き受けただけに申し訳ないと思う。
でも、無理な事は無理だ。
間をすり抜けて帰ろうとした僕を、少し小柄なイケメンが塞き止めた。
名を山下修平と言うらしい。
「待って!!」
山下はどちらかと言えばかわいい系の男子といった所か。
僕と慎重は左程変わらないとは言え、体は割と筋肉質だ。
「…もったいないな。」
僕は思わず呟いてしまった。
「え…?」
山下はキョトンとした表情でこちらを見ている。
後ろでは安田がニヤニヤしながらこっちを見ている。
何を期待しているんだか。
「もったいないってどう言う意味?」
山下は僕に問いかける。しょうがないから思った事を言ってみよう。
それでダメならこいつらも納得するだろう…。
「顔はかわいい系なのに、その筋肉質の体が価値を落としてると思うよ。」
山下は驚いている。というか、イケメン軍団が皆驚いた様子。
山下が口を開いた。
「でもさ、ブヨブヨだったら格好悪いじゃん?だから鍛えてるんだけど…。」
僕はすかさず反論した。
「ブヨブヨまではいかないが、もっと筋肉を減らして全体を華奢に見せるんだ。」
かわいい系の男子は筋肉つけるべからず。これ常識也。
変なギャップがあるよりストレートな方が受ける。…気がする。
そんな事を考えていると、突然安田が喋り出した。
「聞いたかみんな?コレが幸田のプロディースだよ!」
湧き上がる歓声。ひょっとしてこいつら馬鹿なんじゃ…。
特にプロディースした訳でもないのに。
「すげぇ!」
「目からうろこだぜ!」
「その手があったかー!」
等と声が上がっている。一体これはどんなノリなんだ?
ノリきれずに呆然とそんな光景を眺めていた。
「よし!幸田!」
安田が何か思いついたらしい。聞きたくもないけど。
「…何?」
「今日から山下を宜しく!」
ビシッと親指を立てる安田。リアクションが古いのが気になるが。
山下もノリノリだし…。しょうがない。
「わかったよ…。山下君、ついてきて。」
「うん!じゃあ皆、またねー♪」
ブンブンと仲間に向かって手を振る山下。その仕草は愛らしく見えた。
―仲間か…。僕には関係ない。
今まで「仲間」と呼べる人間はいなかったから、それがどういう気持ちなのかわからない。
僕は彼らにとってなんだろう?段々とそんな事を考えだした。
山下と二人街を歩いてみる。
さすがだ。黄色い声が沢山聞こえてくる。
まずは…肉体改造かな?
ブツブツいいながら歩いていると、山下の姿が見当たらない。
はぐれたのか…。
「わぁ!!!」
「わぁ!?」
突然声を掛けられ、へんな声が出てしまう。
声の主は…山下か。
「びっくりした?」
へへへ。とかわいく笑う。なんだか可愛さ余って憎さ100倍だ。
「びっくりしたよ。」
「ごめんね。はいコレ!!」
コレは…焼き鳥!?
「なんでだーっ!!」
思わずツッコんでしまった…。
「焼き鳥キライ?」
ウルウルとした目で僕を見る。しかし、冷静にツッコむ事にした。
「こういう時はアイスとかジュースじゃないと…。可愛さが活かせないでしょ?」
ハッとした表情で僕を見る山下。思ったよりも大変そうだ。
それから一週間は徹底したキャラ作りを行う事にした。
―二週間目、仕草の指導
―三週間目、喋り方の指導
―四週間目
遂に四週間目に突入した。僕が見る限りはパーフェクトに近い。
しかし、何かが足りない。一か月の肉体改造により、筋肉は落ちた。
仕草、喋り方も完璧に近い。だとすれば…。
「師匠!今日は何の訓練ですかぁ?」
いつの間にか僕を師匠と呼びだした山下。
見た目はより可愛らしくなっており、そこら辺の女の子より女の子っぽい。
「後は服装だね。」
そう。イケメン軍団は統一されたファッションスタイル。
これは契約上の問題等もあるが、やはり個性に合わせるべきだ。
そして彼を活かす物は…
「レディース物を買いに行こう。」
彼は素直に頷いた。ここまで来たらやるしかない。
僕にもプライドは有る。やってやるさ!!
「緊張する…。」
さすがに、女性の中に男二人が並んで立っている状態。
そんな姿はただの変態にしかみえないが、山下は左程きにしていない様子。
「どんな服を買うの?」
山下に合う服か…。僕は必死で選んでは試着させ、似合うスタイルを研究した。
そして…。
「出来た…完璧だ…。」
雰囲気はボーイッシュな女の子といった所か。
我ながら上出来だと思う。
周りの女性客の視線が山下に注がれている。
「これなら…イケるかな?」
いつの間にか僕は楽しんでいた。認めたくないけど。
僕らは約束の場所へ向かった。
「なんだコレ!?」
約束の場所に着くと大勢の女の子とイケメン軍団。
中央にはステージが用意されている。
「驚いただろー。この日の為に準備したんだ。」
物凄く楽しそうな顔で安田が話しかけてくる。
イケメン軍団も皆楽しそうだ。
「さぁ!早く山下をステージへ!!」
言われるがままに、僕は山下をステージへと案内した。
突然音楽が鳴り始める。
「さぁ!お待たせ致しました!!」
この声は…安田?
「我らがキューティクルメンバー。山下が更にパワーアップ!!」
どうやらお披露目ショーをやりたいらしい。
やっぱりこいつらは馬鹿なんだと思った。
「おまたせ致しました!山下修平登場ッ!!」
スポットライトが眩しい。当の山下は笑顔でこっちに向って手を振っている。
そしてステージへと駆け上がった。
「ワーッ!!」
大歓声が巻き起こった。僕が今まで聞いた事が無い、地鳴りの様な声。
山下は堂々とステージ上を歩いている。
思わず僕は見とれてしまった。
「幸田…。」
安田が話しかけて来た。僕は感動したのを隠そうと俯きながら振り返った。
「これがお前の才能なんじゃないか?」
僕は…。言葉が見つからず、ただステージ上の山下を見つめていた。
「俺達にはお前が必要なんだ。」
安田の言葉に不覚にも涙が出そうになった。
初めてだった。人に必要とされている感覚は。
僕は静かに頷き、安田に言った。
「悪く…ないかな。」
我ながら素直じゃないと思う。安田は僕の本心を見抜いている様で、笑顔で僕の肩を叩いた。
心地よかったのを覚えている。
―やれるだけやってみるか。
この日から僕は真剣にプロデュースに打ち込む事になるのだが、
心の中には未だに引っかかるものが残っている。




