6 作戦会議
聖杯城の中は、防戦一方だったこれまでとは異なる雰囲気に溢れていた。それは、逃げ切り、かつ
悪衆羅を撃退しきったことを契機に、攻勢に出る時であると悟ったからだった。
リディータやミツル、多くの騎士たちが議論を交わしていた。
「攻撃は最大の防御。こちらから攻勢に出れば、優勢だ」
「だが、どこへ攻撃に行くというのか?」
「この前、平チエが連れ去られた場所じゃないのか」
「複数の場所があったが、いずれももぬけの殻だ」
「では、本拠を示す手がかりはなかったのか」
「彼らがそんなものを残すはずがないじゃないか」
ユウトがそれを裏付けるように発言した。
「今まで戦いを行ったすべての場所では、手掛かりは一切把握されていませんでした」
それを悔しがった者がユウトの指摘をとらえ、疑問を返した。
「では敵方はこちらの方を…」
リディータが質問者の疑問を肯定した。
「そうです。彼らはこちらの本拠地や、此方の動きをすべて把握しています」
この指摘に、会議場内は騒然となった。
「では、此方に打つ手はないのか」
「一方的な戦いは、そのせいだったな」
様々に飛び交う悲観的な声に、ユウトは一つ指摘をした。
「確かにいままではそうだったといえます。しかし、いま俺は、チエさんを通じて彼らの動きがわかるんです」
その指摘に、会場内が静かになった。ユウトはそれを待って言葉をつづけた。
「俺は四翼の騎士です。それもチエさんのための騎士としての誓を立てています。それ以来、俺はチエさんの心の感情の流れを把握するようになりました。だから、あの憎むべき悪衆羅たちの邪悪な思念がチエさんの心の中に流れ込むのを把握できるんです」
リディータがユウトの告白を受けて、一つの推論を立てた。
「天が黒木ユウトに四翼の騎士を許したのは、天の選びがあったからでしょう。それも天が選んだ平チエに誓いを立てたからでしょう。平チエが天に選ばれているとはいえ、特定の人間のために誓いを立てた四翼の騎士は今まで例がありませんでした。それほど平チエが天にとって大切な存在として位置づけられているといえます。それが意味することは、この戦いが天にとっての大切な戦いであり、チエがその中核にあるということです」
リディータの指摘と推論をうけて、奥の空間から老人の志門トウヤの声が聞こえてきた。
「我々にとっても、敵にとってもチエさんはチェスのキングということだ。それを守るユウトはクイーンということだな。また、敵のクイーンもキングを欲するということか、であれば、チエさんを使えるということだ」
車いすのトウヤを押してきたのは、志門アヤコだった。
「ということは、あらかじめこちらの選んだ場所で、陣形を整えて待ち構えるということね」
そこからまた騎士たちは議論を始めていた。
「平チエを狙ってくるところを黒木ユウトが察知し、此方の陣形に呼び込むことが肝要だな」
「だが素直に誘い込まれるだろうか」
「われらの陣形のただなかにチエさんを置くのか」
「そんな見え透いた罠に入り込んでくるはずがない」
「いや、必ず彼らは来る。なぜなら、聖杯城に黒木ユウトと平チエとを追ってきたとき、彼らは犠牲をいとわなかった。彼らは罠と知っていても必ず誘いには載って来る」
「では、どうする?」
「彼らの怒りを使いましょう」
「怒り?」
ユウトが指摘をしてきた。
「悪衆羅となった今も、彼らは怒りのままに動きます。その怒りを大きくたきつければ、自分を失って追いかけて来るはずです。今までの行動からすると、彼らの動き方は予測しやすいといえます」
「では、大枠は決まったな。あとは細かい戦術を検討しよう」
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ミツルは、叡智、明龍の下での経験から、いくつかの指摘をした。
「彼らの自在力、龍人力の源は、黄土をもたらす彼らの大地の基いにあります。彼らが発する思念の発出元がその基、太極です。黒木先輩が用いている土蜘蛛の術もそれの一部ですね。他方、大地は彼らによって天の呪いを受け、彼らも大地の呪いの影響下にあります。だから黒木先輩の騎士の力が彼らには特に強く及ぶんでしょうね」
それを受けて、トウヤが提案を出した。
「それなら、彼らをその太極から離間させ、かつ大地の呪いからは離されていないところへ誘い込むことがいいだろう。そして、こちらにちかいところ、つまりペルシャ湾入り口、第二防衛ラインはアラビア海だ」
「それに合わせて、われらは仕込みをしよう。四翼の騎士を中心に天の大軍によって陣形を組もう」
「六翼の騎士は使うのか」
「彼は黒木ユウトの意志を受け止める存在だ。だから、彼等だけが逃げられるようにとっておきましょう」
その後も戦術会議は続いた。それらの決め事は、その後の勝敗を決めるはかりごとだった。
「では、聖杯城の戦士たち、出撃だ。」