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5 聖杯城の攻防

「もうすぐだ。もうすぐ」

 聖杯城の防衛ラインへあと少しで到達できる。ガルガリムユニットにとっては安全地帯になるが、悪衆羅(アスラ)たちにとっては文字通り地獄の空間となる。それを知っていても、悪衆羅(アスラ)たちは地上に着地する前にガルガリム球体ユニットを粉砕しようと躍起だった。


 襲い来る悪衆羅アスラたち。その黄土の影をかわしながら,ユウトはユニットの高度を下げていく。一度、二度、三度、だが七度目に一人の悪衆羅アスラの手がユニットをとらえた。それをきっかけに、十数体の悪衆羅アスラの手が機体のあらゆるところをつかみ、絡みついてきた。

 それと同時にユウトはユニットを急速にきりもみさせ、悪衆羅アスラにプラズマイオンの流れを浴びせながら、離脱させた。黄土の影は幾度も吹き飛ばされる。それでも悪衆羅アスラたちは縋り付いてくる。ついには泥のような黄土の影がすっかりユニットを包み込んだ。


 チエに迫る黄土の影に気づいたユウトは風防ガラスを蹴飛ばし、チエを抱えて空中に飛び出した。同時に大きく広げた四翼。その翼の羽ばたきによって一瞬で黄土の影を突き放し、下方へ突き進んだ。前方にソコトラ島が見える。そして、その先にアラビア半島とその向こうにエチオピア…聖杯城はもうすぐ。それでもあきらめない悪衆羅アスラたち。彼らは手にした杵を振り回しながらユウトと同じ速度で降下してきた。だが、同じ速度では間に合わなかった。


 一瞬早くアラビア半島に面したインド洋上の防衛ラインにガルガリム球体ユニットが到達する。ユニットが通過した直後に、背後は白と青の光の弾幕、いや、白と青の御使いたちの飛翔と彼らによる一差しが、次々と突き刺さっていく。だが、粉砕される周りの悪衆羅アスラたちにかまわず、後続の悪衆羅アスラたちが殺到してきた。いわば大仏量による飽和攻撃なのだろう。御使いたちの防衛線が徐々に押し下げられていった。


 そのはるか下のソコトラ島に、一人の御使いが立った。それはユウトが初めて目にした六翼の騎士、熾天使(セラフィム)だった。立ったというより運ばれてセットされたという表現のほうが正しいかもしれない。

 彼はユウトの目を見て何かを合図した。いや、ユウトの意志を確認したといったほうがいいだろうか。次の瞬間、彼は何やら理解不能な大声を出し始めた。声が四方に共鳴するとともに、空気だけでなくオーラすべてを震わせ、時空をすべて揺るがせた。次の瞬間、爆発のような音とともに上空の悪衆羅アスラたちの姿はかき消されてしまった。同時に黄土の巨雲と、それに伴っていた巨大な渦動結界が全て消え去った。


 ようやく戦いの緊張から解放されたユウトは、チエを抱き抱えながら歓声を上げた。

「チエさんを守り切ったぞ!」

 ユウトとともに地上に降り立ったチエは、白いドレスのままだった。チエも、そしてユウトもそれが何を意味するのか、分かっていた。

 チエの顔はまだ凍り付いたようにこわばっていた。前にも感じたこの気配は、悪衆羅アスラたちの邪悪さだった。濃い汚物のような沈殿物がかすかに、そして徐々に重くなっていく。チエは顔をゆがめ、声を発することができなかった。

 ユウトは、チエの心の変化に敏感だった。

「チエさん、これはどうしたことか…。これは、またしても恐怖を与えようとする呪い。悪衆羅アスラ・・・・」

 ユウトはチエの傍らに立ち、チエの心に流れ込むかすかな細い思念を苦労してつかみ取った。その思念の先を相手に気づかれぬようにそっと探り始めると…、その出所ははるか遠く、遠く・・・。それはチエやユウトたちが飛び出した日本に近いところにつながっていることが感じられた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ユウトとチエのガルガリムユニットは、聖杯城に迎えられた。ユウトたちはとりあえずチエを守り切ることができたのだが、チエが受けた呪縛が解けているわけではなかった。

「彼らはまだあきらめていない。この場所にいれば、彼女を守れるが・・・・」

「このままでは、彼らの気まま、彼らの思うがままだ」

「攻勢に出る必要がある」

「しかしどこへ攻めていけばいいのか」

「それはわからん」

「おびき出して、居場所を探し当てる。もしくはどこから来たかを探る」

「確かに。その方向が重なったところが、彼らの本拠地だろう」

「だがどうやって彼らをおびき出すのか?」

「ここにいれば、彼らは襲ってくるのではないか」

「確かに、それで一本の糸はわかる。だがもう一本の直線を得るには、どうしても彼らをおびき出さなければならない」

「ではどうすれば?」

 聖杯城のリディータやミツル、そのほか多くの騎士たちは、幾度も話し合いを続けていた。しかし方向性がなかなか出されなかった。


「私がおとりになります。彼らは私を必ず狙ってくるから」

 議論の方向を見ていたチエは、おのずから動かなければ事態が打開死海ことを悟っていた。 

「そうだ。それにチエさんがいなければ、彼らの行動を把握することができない。」

 議論に加わっていた騎士たちが議論の突破口を見出し、大声を上げた。だがユウトはすぐ反対した。

「この作戦は危険すぎる」

 チエはユウトの考えが分かったうえで、ユウトをなだめるように言葉をつづけた。

「私を使うべき時なんでしょ? それなら使って。それが義のためなのだから、ね」

「俺は反対だ」


 ユウトはチエから視線を外した。チエはユウトの手を取って聖杯城の見晴らし台へ導いた。

「先輩…、私はもともと守るに値しない者です。それなのに先輩は守ってくれる。だから、ここまで一緒に来ました。でも、ほかの人たちに迷惑がかかるなら、私はここにいられないのです」

「チエさん、俺はあんたを守るために存在している」

「そのことで、聖杯城を巻き込んでいるんですか」

「天がチエさんを選んだ。そして俺は、チエさんのために存在している。だから、俺はここを頼った…」

「でも、不浄の私がここにいることはこの聖杯城のみんなに迷惑をかけていることになるわ。それは天に迷惑をかけていること・・・」

「それはちがう! あんたは自分自身を不浄といった。それは違う。あんたを選んだ天があんたを守ることを欲しているんだ。だから、あんたを愛する俺があんたを守ることを誓ったんだ。だから、ここで万ロり切ろうと思っているんだ」

「でも・・・・」

 チエは、ユウトの剣幕に圧倒されて黙った。だが、少し考えたうえで言葉をつづけた。

「でも、それでは私を守るという天が勝利を得ることができないわ・・・・。だから、私を使わなければならないんじゃないの?」

 ユウトはチエに説得されて、しぶしぶ作戦に同意した。

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