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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-08 『Graceful fighter』
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Section-5

更新履歴 21/10/13 文章のレイアウト変更・表現の修正


 そうして前進を開始した、私の後を追うように、志藤さんから指示が飛んでくる。



『まず中央の『アングラー』への道を開きます!

 斉川君と栗原さんはそのまま正面から敵を攻撃!

 『アングラー』の護衛機を排除してください!


 橘君と春日井さんは、それを援護!

 無事突入路が開いたら、次は役割を入れ替えて、二人を中心に『アングラー』へ接近戦を仕掛けてください!』


 要するに今まで通り、総力を挙げて全軍突撃、というわけだ。

 現状ではもう、それ以外に戦術を選びようがないからだろう。

 となればやはり、ここは覚悟を決めて、一気呵成に敵陣を突き抜けるのみである。


 その認識は皆も同じだったらしく、次いで戦場のあちこちから、迷いのない返事が届いた。


『『了解!』』


 それに続いて志藤さんは、私に少し具体的な指示を出してくる。


『望月さんは私と前衛四人の支援です!

 周囲の敵が彼らを攻撃しないよう足止めします!

 特に『ハウンド』の迎撃を重点的に!』


 そしてその、改めて出された指示に、私がすかさず返事をした頃合いで――


「はい!」


 すでに突進を始めていた味方が、前方に展開中の敵と接触し、正面の『ゴーレム』部隊と激しい撃ち合いを開始した。

 乾坤一擲の突破作戦、その火蓋が切って落とされたわけだ。


 さらに一方では、その周囲の小型機群も攻撃準備を始めていた。

 そこには志藤さんの言葉通り、『ハウンド』の姿も多数見て取れる。

 あれが介入すれば、前衛の被害が拡大、形勢は向こうに傾くはずだ。

 しっかり足止めを行って、味方を守らなくてはならない、ということである。


 こういうケースでは確かに、低火力だが多くの敵に対応可能な私の機体は、適性が非常に高い。

 その役割を私に期待した、志藤さんの思いに応えるため、全力で自らの責任を果たすとしよう。


 そこでまずはと、私は付近の『ハウンド』を目標に設定し、その全てに同時攻撃を仕掛けた。


(当たって!)


 その瞬間、ビット達が前進して目標に接近し、搭載された火器を発射する。

 敵はそれを避けきれず、次々と被弾して爆発、瞬く間に数を減らしていった。

 やはり装甲が薄い分、低火力でも対応しやすいようだ。

 ゆえにそのまま、私は攻撃を継続し、居並ぶ敵機をさらに撃ち落としていく。


 結果としてみるみるうちに、味方側は優勢になっていった。

 支援を受けた前衛が、自由に動き回って敵を撃破、道を切り開いているのだ。

 このペースであれば、そう遠くない内に突破できるのでは、と期待してしまうくらい迅速に。


 だがそうして手応えを得たのも束の間、次いで私は、その優勢がもたらした無視できぬ代償に直面する。


『……くそっ! すまん、突破された!

 一機そっちに行くぞ、気をつけてくれ!』


 そんな柳井君の、謝罪交じりの警告に応じて、後ろを振り向いたところで――


(あっ……敵が!)


 こちらへ向かって猛然と進んで来る、一機の『ゴーレム』の姿を発見したのだ。

 どうやら後方の防御を担当する味方が、接近してくる敵を仕留めきれず、突破を許してしまったらしい。


 これはおそらく、柳井君と斉川君の二人が、その役割を入れ替えたせいだろう。

 柳井君の機体は、斉川君と違って複数の敵と戦いづらいので、波状攻撃に対応しきれなかったのだ。

 前進するための突破力を優先し、防御を犠牲にしたがゆえの事態、ということである。


 ならば当然、あいつはこのまま、こちらに攻撃してくるはずだ。

 そう予測した私が、すぐさま回避運動を行うと、まさしくその直後――


(っ……!)


 『ゴーレム』が頭部の主砲を発射、その砲撃がすぐ側をかすめていった。

 幸い機体には当たらなかったものの、ビットが何機かそれに巻き込まれ、跡形もなく消滅する。

 直撃していれば致命傷、という印象の凄まじい火力である。


 もちろんこんな強敵に、後ろから挟み撃ちにされれば、部隊そのものが窮地に陥ってしまう。

 即刻何か手を打たねばならない、極めて危険な状況、というわけだ。


 しかしその私の憂慮は、幸いにも現実となることはなかった。

 なぜなら――


『このっ! 落ちろ!』


 直後に柳井君がそいつへ対応、その頭部を正確に撃ち抜いて、あっという間に撃墜してくれたから。

 これでさらなる追撃を食らう心配はないし、とりあえずひと安心というところだろう。


 ただし次いで、今の攻撃の影響は、思った以上に深刻なものだったと判明する。

 脅威が無くなったと判断した私が、いったん周囲の状況を確認した際――


(あっ……! 志藤さん!)


 損傷した状態で虚空を漂う、志藤さんの機体を見つけたからだ。

 どうやら咄嗟のことで、『ゴーレム』の砲撃を避けきれなかったらしい。


 しかも損傷の程度は、見た感じ相当に重い。

 直接砲撃に晒されたのか、左腕が丸ごと消失し、左肩の辺りも大きく抉れているのだ。

 致命傷ではないだろうが、非常に大きなダメージである。


 ゆえに私は、そんな志藤さんの状態を危ぶみ、すかさず支援しようとしたのだが――


「志藤さん! 今……」


 そこに彼女は、迷いのない口調で割り込み、はっきりと自分の意志を告げてきた。


『私に構わないでください!

 まだ大丈夫、十分に戦えますから!

 望月さんは今まで通り、周囲の敵への対応をお願いします!』


 その勇敢な言葉で、私は自らの過ちに気づく。

 確かに今の私達には、守勢に回っている余裕など無い。

 前衛が撃墜されてしまえば、それで全てが終わりなのだから。

 目の前の事態に動揺して、作戦をコロコロ変えてはいけない、ということだ。


 ゆえに私は、自身の判断の甘さを悔いつつ、志藤さんに返事をしてから――


「はい!」


 再度自分の役割に集中、迫る敵機に攻撃を繰り出していく。

 自らの危険を省みることなく、あくまで前に進もうとした、彼女の想いを無駄にしないように。


 だが残念なことに、その私の意志が、簡単に実を結ぶことはなかった。

 いくら頑張ろうとも、これまでのようには敵を撃破できず、徐々に押し込まれることが多くなったのだ。


 そうして私が、急に苦戦し始めた原因は――


(駄目……数が足りない!)


 『ゴーレム』からの砲撃や、他の敵との交戦によって、ビットの多くが破壊されてしまったことだ。

 絶対数が不足しているせいで、十分な火力が確保できないのである。


 具体的に言うと、残りはわずかに七機。

 いや、そんな事を考えている内にもう一機撃墜されたので、正確には六機だ。

 要は元の半分ということであり、総合的な戦闘能力は大きく低下してしまっている。

 このままのペースだと、全機撃墜されるのも時間の問題だろう。


 もちろんビットが全て破壊されれば、私は完全に無力である。

 結果として小型機の掃討ができなくなるので、戦況はますます苦しくなっていくだろう。

 味方の動きを助けるためにも、それだけは何とか避けなくてはならない……のだが。


(でも……手を抜くわけにはいかない!)


 しかし例えそうだとしても、攻勢を緩めるという選択肢は無い。

 この苦境においては、志藤さんがそうしたように、『少々のリスクは構わず行動』という気概が必要なのだ。

 苦難困難は元より承知の上、この程度の無茶、どうにか通してみせるとしよう。


 そこで私は、そのまま『ハウンド』を重視し、被害覚悟での攻撃を続けた。

 その代償として、自身の操るビット達が、ぐんぐん数を減らしていく不安に耐えながら。


 ただそれが、さらに繰り返し続き、ついに残りが絶望的な数にまで減少――


(残り五機……もうひとつ落ちたから四機か……

 敵の自爆に巻き込まれて三機……! ああ、また撃墜された!

 さすがに、これは……)


 胸の内に諦めの感情が芽生えてきたその瞬間、突如として耳に、確信で満ちた橘君の叫びが飛び込んでくる。


『よしっ! 落としたぞ!』


 またそれと同時に、春日井さんの上げる勝利宣言も聞こえてきた。


『こっちも! 落としたよ!』


 その言葉通り、敵陣中央で二機の『アングラー』が爆発、みるみる崩壊を始めていた。

 前衛が見事に、敵主力を討ち果たしてくれたのだ。

 おかげで敵の陣形も崩れているし、これならもう、行く手を塞がれることもないだろう。


 そう私と同様、作戦の成功に確信を抱いたのか。

 次いで志藤さんが、即座にクラスメイト達へ、思い切った行動を呼びかける。


『総員、一気に敵陣の突破を!

 残りの敵には構わないで、前進してください!』


 無事に道が開けたのだから、敵に構わず前へ進みましょう、という指示だ。

 もちろん逆らう理由は無いので、私はそれに従い、攻撃を最低限に抑えて一気に加速した。

 そしてそのまま、中核戦力の損失により敵が混乱する隙を突いて、ようやく包囲の突破に成功する。


 その先で私が目にしたのは、どこまでも続く、広大な漆黒の空間だけ。

 敵の姿なんてものは、どこを探しても一向に見当たらなかった。

 こうなれば後は、脇目も振らず逃げるのみだ。


 実際その直後、今まで後ろに控えていた母艦が急加速し、入れ替わりに前へ出ていく。

 一刻も早く逃走を図ろう、という意志が如実に現れた行動だ。

 もし乗り遅れるようなことがあれば、あえなくこの戦場に置き去りである。


 当然志藤さんも、その母艦の動きを見て取ったらしく、すぐさま私達へ最後の指示を出した。


『総員、敵を牽制しつつ母艦に搭乗!

 絶対に遅れないでください!』


 皆も瞬時にそれに応じて、追いすがる敵軍を牽制しつつ、揃って艦に戻り始める。

 いかにも疲労困憊という様子でだが、最後の力を振り絞るように、続々と帰還を果たしていったのだ。


 無論今もまだ、周囲に敵は残っているわけだが。

 しかし互いの距離は、すぐ追いつかれない程度には開いている。

 これなら戦場を離脱するまで、追撃で母艦が落とされるようなことはないだろう。

 もう格納庫に逃げ込んでしまって大丈夫、ということである。


 私は苦難の果てにようやく訪れた、その安定した状況に安堵しつつ、自分も母艦に接近する。

 次いで油断なく周りを警戒しながら、艦のハッチを通過し、格納庫内に進入した。


 すると視界に、無事勢揃いしたクラスメイト達の姿が見える。

 すでにその全員が、帰還を果たしていたわけだ。

 先ほどまでの激闘を思えば、奇跡とでも言えそうな状態である。

 犠牲者が出なくて本当に良かった、と心からの喜びを感じずにはいられない。


 しかしその、久々に訪れた安心できる環境に、私がすっかり気を抜いていた……次の瞬間――


(ふう……やっと、終わった……え?)


 出し抜けに斉川君が、焦燥感で溢れる声を上げた。


『しまった……まだ残ってたのか!

 くそっ、外に例のステルス突撃機がいる!

 あいつ、ここに入ってくるつもりだぞ!』


 その警告に驚いて、私が後方を振り返ると――


(嘘……)


 彼の言葉通り、そこに数機のステルス突撃機の姿があった。

 その連中はまっすぐ私の方――即ち開放中の艦のハッチを目指している。

 つまりは突然現れた敵に、あっさり懐深くにまで入り込まれてしまったのである。


 こうも接近を許した原因は、おそらく奴らが私達を待ち構えていたから。

 包囲の外側で、迷彩を張り巡らして隠れ潜み、接近と同時にそれを解除し突撃してきたわけだ。

 目に見えないから誰もいない、と思い込んだこちらのミス、ということだろう。


 当然、このまま迎撃をしなければ、母艦への侵入を許してしまうわけだが――


(そうか……! 私が邪魔なんだ!)


 格納庫の入り口に私がいるせいで、クラスメイト達は全く動けていない。

 迂闊に攻撃を行えば、私をそれに巻き込んでしまうからだ。

 要は現状、あいつに対処可能なのは自分だけ、ということである。


 そこで慌てて、私は格納庫に飛び込みながら、残りのビットを敵に派遣する。

 防御壁を展開しつつ、その行く手を塞ぐように突撃させたのだ。

 艦への侵入を許す前に、直接ぶつけて破壊するために。

 この方法ならば、防御壁が爆風を防いでくれるおかげで、自身や周りに被害が出ることはないだろう……と計算しながら。


 実際私の差し向けたビットは、直後に敵機と衝突して自爆させ、さらにその爆風を防御壁で抑え込むことに成功した。

 何とか間一髪、侵入前に迎撃できたわけである。

 まあそれに巻き込まれ、ビットは全て失われることになったが、上々の戦果だろう。


 そんな風に私は、無事目的を果たせたことに、一人ホッと胸を撫で下ろしていたのだが。

 しかしその油断を嘲笑うように、次いで眼前の爆風の中から――


(……しまった! 一機仕留められてなかった!)


 突如ステルス自爆機が一機だけ出現、そのまま私を追って、母艦の内部へと侵入してきた。

 どうやらビットの数が足りなかったせいで、全てを撃墜することはできなかったらしい。


 こうなると当然、どう足掻いても対処のしようはない。

 私は完全な丸腰だし、狭い格納庫内では、他の皆も攻撃が不可能だから。

 下手に武器を使って、母艦に被害が出たら元も子もない、ということである。

 もはや今の私にできるのは、着実に近づいてくる敵を、黙って眺めるくらいなのだ……


 ただそうやって、私が目前に迫った脅威に怯え、身も心も縮こまらせた瞬間――


(もう、駄目…………え?)


 突如視界の中央を、大きな影のようなものが横切っていく。

 それは、なんと――


(……スズ?)


 スズの機体、D-1トルーパーだった。

 修理に戻っていたはずの彼女が、急に格納庫の奥から飛び出してきて、私の目の前を通過していったのだ。

 おそらくは全力であろう、と思われるほどの凄まじい速度で。


 しかもその先にいたのは、こちらに迷わず突っ込んでくる、例のステルス自爆機のみ。

 両者の進路はほぼ同一であり、完全なる衝突コースだ。

 考えるまでもなく、彼女の意図は明白だった。


 ゆえにすかさず、私はスズを止めようと、力の限り絶叫したのだが――


「スズーッ!」



 彼女はその直後、私のすぐ前で、迫り来る敵機と真正面から激突した――








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