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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-08 『Graceful fighter』
88/173

Section-3

更新履歴 21/10/13 文章のレイアウト変更・表現の修正


 目と鼻の先という距離にまで迫る、一機の『ハウンド』の姿。



 そいつは今も加速し続けながら、私に向けまっすぐに突撃してきている。

 もしあれと接触し、自爆攻撃をまともに受ければ、装甲の薄い私の機体は木っ端微塵だろう。

 すぐにでも何らかの対処が必要な、極めて危険な状況、ということである。


 だが、十分にそれを理解しているのに――


(あ……え……)


 私は動揺から、つい動きを止め硬直してしまった。

 こういう状況に不慣れなので、咄嗟の判断が遅れたのだ。

 これも常日頃は安全な場所で、味方に守られながら戦っていたことの報いなのかもしれない。

 それゆえ私は、覚悟を決める暇すら無く、その直撃を食らうことに……


 ……なる、かに思えたのだが。

 しかし実際に接触する寸前、突進中の敵と私の間に、何かが割り込んでくる。


『このっ! させない!』


 なんと後方にいたはずのスズが、突如私の眼前に現れたのだ。

 そしてそのまま、敵の真っ正面に敢然と立ち塞がった。

 まるで津波を食い止めるための、防波堤にでもなったかのように。


 結果として直後、両者は思い切り激突し、そこで大きな爆発が発生する。

 それは自身が直撃を受けた、と錯覚しそうになるほどの、かなり激しいものである。

 要は敵に奇襲を受けた私を、スズが身を挺してかばってくれたのだ。


 その光景を見た瞬間、私は声を限りに絶叫した。

 自分が油断していたせいで、代わりに友人が危険な目に遭った、という事実に衝撃を受けながら。


「スズーっ!」


 そんな風に、ますます動揺を深める私の眼前を、スズは勢い良く吹き飛んでいく。

 凄まじい爆風に煽られて、木の葉か何かのように軽々と、あらゆる方向に激しく回転しながら。


 私はそこへ必死で声をかけ、彼女の身を案じた。


「スズ! スズ! 大丈夫? 大丈夫なの?

 答えて!」


 すると思いのほか早く、スズは体勢を立て直し、こちらに答えを返してくる。


『…………うん、大丈夫。

 大したことないから、そんなに心配しないで』


 その言葉を聞いて、私は一瞬だけ安堵しかけたのだが――


(違う……大丈夫なんかじゃない!)


 しかしすぐ、そんな甘い自分を戒めた。

 静止した彼女の機体を観察した結果、激しく損傷していることがわかったから。

 頭部も胴体も傷だらけで、下半身も前面がほぼ完全に吹き飛んでいたのだ。

 一応致命傷では無さそうだが、かなり深刻な状態である。


 目の当たりにした、その傷ついた友人の姿を前に、私は猛烈な後悔に襲われる。


(全部、私のせいだ……!)


 全ては自分が、疲労によって集中力を切らし、周囲への注意を疎かにしていたせい。

 だからそれをカバーするため、スズがこんなひどい目に遭ってしまった。

 そういう自責の念が、急激に押し寄せてきたのだ。

 もはやその圧力で、心は押し潰されそうである。


 だがその一方で、それ以上に強い意志も芽生えてくる。


(このままじゃ駄目! 撤退してもらわないと!)


 もうスズを戦わせるわけにはいかない、今すぐ母艦に避難してもらおう。

 そういう気持ちが、溢れんばかりに強まってきたのだ。


 なぜならそうしなければ、彼女の命が危険に晒されるから。

 運が悪ければ、『また』大切な人を失ってしまうことになるから。

 ここは多少強引にでも、安全な場所へと退避してもらわねばならない。


 そんな想いに押されて、私は彼女に、速やかな撤退を勧めようとしたのだが。

 しかしその直前で、何とも情けないことに――


(でも……どうやって?

 何て言えば、スズは撤退してくれるんだろう?)


 告げるべき言葉を見つけられず、口を開けなくなってしまった。

 具体的に何と言って、彼女を説き伏せたらいいのか、それがさっぱり思いつかなかったからである。


 一応普通に考えれば、『危ないからもう逃げて』というアプローチになるわけだが。


 しかしスズの性格からして、それで納得するとは到底思えない。

 先ほどまでと同じように、『まだ大丈夫だよ』と強がって、必ず戦いを継続しようとするだろう。

 要は彼女を翻意させるためには、何らかの無理を通さねばならぬ、ということなのだ。


 ならどうすればいいのか、スズが納得する理屈は何なのか、と必死に考えて――


(……これしか、ないかな)


 私は瞬時に、ひとつの結論を導き出す。

 これなら何とかなるはず、むしろ他の選択肢は考えられない、というほど有力な手段を見つけたのである。


 ただしそれは、容易には実行に移せぬ、たいへんに恐ろしい方法だった。

 ためらいから二の足を踏んでしまうような難事、と言い換えてもいいだろう。


 なぜならその方法を実行することで、スズに嫌われてしまう可能性があるから。

 恩知らずで自己中心的な人間、と思われるかもしれないから。

 彼女のそういう反応が怖くて、簡単には決断を下せなくなったのだ。


 しかしそれでも、彼女を守りたいのなら、怯え立ち止まっている暇など無い。

 今まで受けてきた恩を返すためにも、なけなしの勇気を振り絞って、行動を起こさねばならぬのである。

 いつも胸の奥にある、『次は私が守る番』という誓いを、今こそ果たすために。


 ゆえにまずはと、私はスズに撤退を呼びかける。


「スズ! もう母艦に戻って!

 その損傷じゃ戦うのは無理だよ!」


 そしてその提案に対し、気丈に振る舞おうとした彼女へ向け――


『いや、まだ……』


 迷いとためらいを振り切って、力強く自分の意志を告げた。

 ひどく残酷な、相手を突き放すための言葉と共に。


「それは絶対に駄目!

 だって……足手まといになるから!」


 次いでその勢いのまま、自身の判断の根拠を提示していく。


「スズが戦場に残ってたら、私はスズのことも守らなくちゃいけない。

 当然その分だけ、他のみんなの支援ができなくなる。

 それはやっぱり、すごく迷惑になることだと思う。

 だからお願い、もう母艦に戻って!」


 つまりは、『邪魔だから下がれ』という意味だ。

 戦力にならぬ者を支援するのは効率が悪い、だからいったん撤退してくれ、と言ったのである。

 誤解の余地が無いように、あえて容赦なくはっきりと。


 その主張をしている最中、私の胸に去来する思いは、当然のようにひとつ――


(ああ、なんてひどいことを言ってるんだろう)


 なんと冷たく、そして身勝手な理屈であろうか。

 これほどまでに一方的で、相手の気持ちを無視した言い分など滅多にない。

 そう自らの行動を、心から蔑む感情のみだ。


 だっていつも、彼女には全面的に助けてもらっているのに。

 どんな時も頼り切りで、ずっとずっと支えられてきたというのに。

 それが突然、これほど偉そうなことを言い出したのだ。

 本来なら、どれだけ図々しいんだ、と罵られても仕方のないところだろう。


 だがそれでも、決して弱気にならず、堂々と自分の意志を告げねばならない。

 スズを納得させ、安全な場所へ退避してもらうためには、迷いを見せるわけにはいかぬのだ。

 その想いを支えに、私は後ろめたさを我慢して、静かに彼女の返事を待った。


 するとしばし、考えるような間を置いた後、彼女から承諾の言葉が返ってくる。

 私が思っていたのよりもずっと、落ち着き払った口調で。


『……うん、わかった。

 じゃあ私は、いったん母艦に戻るよ』


 そしてその選択をした自らの意図を、ちゃんと説明した後――


『でも最低限の修理と補給だけして、すぐにまた戻ってくるから。

 今はボロボロの機体でも、遊ばせておく余裕なんてないからね。

 その時まで、ここはのどかに任せるよ。

 あと――』


 急に優しげな声音になり、いかにも彼女らしい気遣いを見せた。


『大丈夫、全部わかってるから。

 心配してくれて、ありがとう。

 ……それじゃ!』


 直後、スズは方向転換し、母艦の格納庫に向け撤退していく。

 私はその後ろ姿を見て、全身から力が抜けるような感覚を味わった。

 見事に目的を成し遂げたという達成感と、彼女に嫌われなくて良かったという安堵感が、それをもたらしたのだろう。


 とは言え無論、それに身を任せて、このまま呆けているわけにもいかない。

 だってスズの撤退により、全体の戦力はさらに低下してしまったから。

 その不足を補うためにも、私にはよりいっそうの働きが必要なのである。


 しかも、いつも守ってくれる人を失った状態で、である。

 味方の支援と同時に、自身の安全確保まで要求されているわけだ。

 非常に困難な仕事ではあるが、提案を受け入れてくれたスズを裏切らぬためにも、ここは何としてでも踏ん張るしかない。


 そうしっかりと、決意を固めてから――


(言ったからには、しっかりしなきゃ……!)


 私はすぐさま、戦場に意識を戻す。

 スズとやり取りしていたせいで、疎かになっていた味方の支援を再開するため、まず状況を把握しようとしたのだ。


 しかし当然のように、その結果は――


(やっぱり、押されてる……)


 相変わらず敵陣を突破できぬまま、周りの敵からさらに距離を詰められている、という極めて不利なものであった。

 状況を打破できそうな気配が無い、とすら言える雰囲気なのだ。


 その原因はおそらく、未だに栗原さんが前線に戻って来ないこと。

 いつもならもう、補給を終え復帰している頃合いだと言うのに。

 どうやら何かトラブルが起きて、再出撃が遅れているらしい。


 無論このままであれば、戦力不足のせいで、より状況は厳しくなっていくことだろう。

 今さらながら、本当にこういう戦い方で大丈夫なのか、と不安を覚えずにはいられない。


 すると私がそう、ますます危機感を強めているところに、突然志藤さんの声が届く。

 妙に遠慮がちに、しかし真剣な口調で呼びかけてきたのだ。


『望月さん、少しよろしいですか』


 そして彼女は、それにちょっと戸惑いながら答えた私へ――


「えっ? は、はい」


 今後の作戦における、驚くべき方針を伝えてきた。


『実はこれから、私も前線に出ようと思っているんです。

 このままでは道を開く前に、後ろの敵に追いつかれてしまいますから。

 それを防ぐため、少しでも戦力を増強して、敵の数を減らそうと思っています』


 どうやら志藤さんは、自分も積極的に前へ出る気らしい。

 突破口を切り開くために、わずかであっても戦力を足そうとしているのだろう。


 もちろん普段ならば、指揮官役が正面から突撃なんて、考えられぬことなわけだが。

 今はそれだけ、戦況が苦しくなってきているのだ。

 それを覆そうと、彼女はその無茶な決断をしたに違いない。


 もっとも仮にそうだとしても、なぜわざわざそれを私に伝えてくるのか、という点は不可解だったのだが――


『そこで、なんですが……』


 次いでその疑問に答えを出す、まったくもって予想外の提案が、志藤さんから私に告げられた。



『望月さんも、前線に出てもらえませんか?』








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