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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-08 『Graceful fighter』
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Section-2

更新履歴 21/10/13 文章のレイアウト変更・表現の修正


『行っくよー!』



 そう元気よく叫びながら、真っ先に敵軍へと突っ込んでいったのは、いつも部隊の先陣を切ってくれる栗原さんだ。


 彼女は一気に前進してから、押し寄せる敵に向け、機体に搭載された豊富な武装を一斉に発射する。

 志藤さんに指示されたポイント――包囲の突破を試みる場所へ、雨あられと浴びせかけていったのだ。

 結果として敵は、その砲火に晒され次々と撃墜、ぐっと進軍の勢いを弱めた。


 そこへさらに、橘君と春日井さんが続く。

 栗原さんがダメージを与えた敵に、すぐさま追撃を仕掛け、そこに突破口を作るつもりなのだ。


 要するに彼らは、私達の進む道を切り開く役、というわけだ。

 本作戦において、最も重要な使命を負う三人、と言い切ってしまってもいい。

 その能力を考えれば、極めて妥当な人選である。


 ただ中距離戦主体の栗原さんはともかく、敵の中心へ突っ込む他の二人が、被弾を完全に無くすのは難しい。

 彼らに十全な仕事をしてもらうためには、防御面のサポートが必要不可欠、というわけだ。

 まあだからこそ、私が支援役に選ばれたのだろう。

 作戦を成功させるためにも、しっかりとその役割を果たさねばならない。


 となるとここで考えるべきは、どちらを先に支援するのか、という問題である。


 まず春日井さんの機体は、装甲は薄いが機動力に優れ、被弾が少ないタイプ。

 逆に橘君の機体は、機動力もそれなりにあるが、どちらかと言えば装甲を頼みに戦うタイプ。

 両者の戦闘時のリスクを比較して、重点的に支援する方を決めねばならないのだ。


 そう状況を確認した後、瞬時に思考を巡らして、より良い選択肢を模索した私は――


(……こっち!)


 結局、橘君の機体の前に防御壁を展開した。

 とりあえず、彼の方の支援を行うことにしたのである。


 橘君はそれを見て、お礼代わりのように、こちらへ軽く手で合図をしてくる。

 そしてその後すぐ、今まで以上に大胆な、真正面からの突撃を敢行した。

 私の支援があるから、被害を気にせず突っ込んでいけた、ということらしい。


 そしてそのまま、彼は防御壁を利用して、敵の攻撃を受け止めながら戦い始める。

 ダメージに構わず動けているせいか、見るからに自由自在、といった雰囲気である。

 支援対象として彼を選んで正解だった、と言えるだろう。


 もちろん別に、春日井さんへの支援が不要、と思ったわけでもないのだが。

 しかし彼女のサポートを試みた場合、上手に連携がとれなけば、その動きの妨げとなってしまう可能性があった。

 それではせっかくの機動力が台無しなので、いったんそちらを避けたのだ。


 実際、橘君の横で戦う春日井さんの動きは、見とれるほど華麗にして俊敏だ。

 まさしく蝶のように舞い蜂のように刺す、というところか。

 正直な話、私なんかの技術でついていける気はしない。

 邪魔をせぬよう離れておくのがベスト、という印象なのである。


 とは言え無論、彼女から意識を逸らすということもない。

 完全に包囲されている以上、運悪く被弾することもあるだろうから。


 そうなれば装甲が薄い分、一撃で深刻なダメージを受けてしまうこともある。

 なのでやはり、いざという時のフォローは必須なのだ。

 決して気を抜かず、両者平等に目を配っておくとしよう。


 そんな風に私は、戦況を見定めつつ、味方の支援を継続していたのだが――


(結構……攻めてるみたい)


 その甲斐あってか、しばらくして前方の戦況が、徐々に優勢に推移し始めた。

 前衛の二人が次々と敵機を落とし、道をどんどん切り開いてくれているからだ。

 作戦は順調に進行中、と言っていいだろう。


 しかしそう戦局の有利さに安堵した直後、私は思いも寄らぬ事態に直面する。


(あれ? なんだろう……

 急に疲れてきたような気がする……)


 なぜだか突然、看過しがたい疲労感を覚えてしまったのだ。

 まだ戦いが始まってから、大した時間は経過してないというのに。

 つまりいつもと比べて、格段に気力体力の消耗が早いのである。


 これはおそらく、『普段と戦い方が異なるから』ゆえの現象だろう。

 具体的に原因を述べるのなら、『攻めながら守るのが初めて』だから、とも言えようか。


 だっていつもの作戦では、敵を迎え撃つことがほとんどなので、基本的にその場に留まって戦える。

 自分の立ち位置などを気にせず、しっかり周りを観察しながら、落ち着いた対応ができるわけだ。

 当然、敵に近づく機会も希少であり、重圧を感じる場面は少ない。


 しかし今は、敵の方に向かって、移動しながら戦わねばならない。

 危険に自ら近づいている上、周囲の状況把握の難度も増しているのだ。

 その精神的な負荷と、作業の複雑化が、疲労を大きくしてしまっているらしい。


 加えて、そんな私へ追い討ちをかけるように――


(あっ……また近づいてきた!)


 側面や後方など、進行方向以外にいる敵が、また少し近くなった。

 じわじわとだが確実に、周りの敵が距離を詰めてきているのだ。

 狩りの獲物である哀れな羊に、群れで食らいつこうとする狼さながらに。


 一応その敵には、斉川君や朝倉さんが対応してくれているが、当然完全な足止めは不可能である。

 突破してしまう敵もいるはずだし、そちらにも警戒は欠かせないのだ。


 しかもそれでいて、未だ敵戦力の底は見えぬまま。

 前進と突破をいくら繰り返しても、包囲は抜けられずじまいなのである。

 これではまずい、いつか押し切られてしまう、という焦りを覚えずにはいられない。


 すると次いで、そんな私の危惧を肯定したかのように――


『チッ……突破されたか!』


 その斉川君の悔しそうな呟きに続いて、何機かの『ハウンド』が弾幕を突破し、高速で彼の元へ向かっていくのが見えた。

 このまま接近を許せば、あえなく自爆攻撃の餌食、ということである。


 もちろん斉川君も、それを必死に迎撃していたが、そう簡単に全てを落とせはしない。

 彼の機体は、懐に入られると弱いタイプなので、接近されると対応しづらいのだ。

 すぐにでも支援が必要な、かなり危うい状態と言えるだろう。


 そこで橘君の支援を続けつつ、私は斉川君の方にも意識を向け、そちらへビットを数機派遣する。

 そして単に守るだけではなく、搭載された小口径のプラズマキャノンで、迫る『ハウンド』の迎撃を行った。

 この武装の微小な火力でも、装甲の薄いあいつになら有効だろう、と思ったから。


 結果その目論見は見事に成就し、私は襲い来る『ハウンド』達を撃破、危機に見舞われていた斉川君の救援に成功する。

 早めの対応が功を奏した、というところだろうか。


 それを向こうでも確認したのか、斉川君はすぐにお礼を言ってきた。


『すまん! 助かった!』


 しかし私が、それに返事をするよりも早く――


『うわわっ! 来ないで~!』


 不意に栗原さんの、焦ったような声が聞こえる。

 それに応じて、素早くそちらへ注意を向けると、多数の敵機に追いかけられる彼女の姿が見えた。

 きっと母艦へ後退する最中に、敵の襲撃を受けてしまったのだろう。


 この苦しい状況の中で、彼女がそんなにも早く撤退を試みた理由は、おそらく弾薬類が尽きたから。

 先の襲撃からの連戦になってしまったので、いつも以上に枯渇が早かったのだろう。

 その補給のため、いったん母艦に戻ろうとしたところを、運悪く敵に捕捉されてしまったらしい。


 なら当然助けねば、と私は斉川君の支援に使っていたビットを、すかさずそちらへ向かわせる。

 そして彼女の周囲に防御壁を展開しつつ、一方で敵に牽制射撃も実行した。


 ちなみにこれは、敵を倒すための攻撃ではなく、単純な時間稼ぎ目的である。

 栗原さんの機体の速度を考えれば、それでも十分な支援になるはずなのだ。


 実際そうして私が足止めをしている間に、両者の距離はどんどん開いていく。

 互いの加速力の差を活かして、一気に敵の追撃を振り切ったのだ。

 これだけ離せば、もう安全圏と言って良いだろう。


 それを栗原さんの方も実感したのか、彼女は母艦への撤退を続けつつ、私にお礼を言ってきた。


『ありがとう! 望月さん!』


 ただやはり、それに応答している余裕は無い。

 栗原さんが抜けたせいで、さらに前線の状況が厳しくなり、そちらに集中しなければならなかったから。


 その具体的な影響としては、突破力の大幅な減少が上げられる。

 敵陣を撃ち貫き、道をこじ開けるためのパワーが、致命的に欠乏してしまったのだ。

 いかな橘君と春日井さんとは言え、二人だけでは迫力不足、ということである。


 ゆえに当然、先ほどと比べて、部隊の進軍速度は大幅に低下していた。

 行く手に立ち塞がる敵を排除しきれず、中々前に進めないのだ。

 このままだと、周囲の敵に距離を詰められ、物量で押し潰されてしまうかもしれない。


 無論栗原さんは、一時的に補給に戻っただけなので、ごく短時間で前線へと戻ってくるはずだが。

 しかし切羽詰まった今の状況だと、そのわずかな隙でも命取りになりかねない。

 ここは何か、戦況を変える一手が必要だろう。


 もっとも言うまでもなく、私がそんなものを考え出すのは不可能だ。

 なので結局、志藤さんから指示が来るまでは、このままじっと耐えるだけ……


 ……などと、眼前の苦しい戦況に、私はすっかり気を取られていたのだが。

 そうして注意が散漫になっていたところへ、その油断を叱咤するような、スズの鋭い声が聞こえてくる。


『のどか! 後ろ!』


 それに応じて、私が慌てて後ろを振り向くと――


(あっ……!)



 一機の『ハウンド』が、目と鼻の先、という距離にまで迫ってきているのが見えた――








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