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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-08 『Graceful fighter』
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Section-1

更新履歴 21/10/13 文章のレイアウト変更・表現の修正


 私が今になって、忘れられた人達のことを思い出せないか、と皆に提案したそもそもの理由。


 それはまずひとつに、とても個人的な動機――単純に、自分が好きだった人のことを思い出したい、というものだ。



 だって、大切な記憶を失ったままというのが、あまりにも悲しかったから。

 何とかしてそれを取り戻したい、と強く願わずにはいられなかったから。

 この状況で何を呑気な、という後ろめたさもあったが、やはり正直な気持ちには逆らえなかった。


 またもうひとつは、彼らの方だって思い出して欲しいだろう、ということに気づいたから。

 栗原さんの発した、『忘れられてしまうのは寂しい』という言葉によって。

 それに目を開かれて、私は遅まきながらも、ようやくその可能性に思い至ったのである。


 ゆえにすぐさま、ならその願いを叶えなくてはいけない、と考えた。

 彼らがここにいたという事実を、無かったことにしてしまわないために。

 失われた仲間にしてあげられる、唯一の手向けとして、記憶の復活を望んだというわけだ。


 そして最後のひとつは、スズにも話した通り、大切な人の献身を無駄にしたくなかったから。

 彼が残してくれたものに、きちんと意味を与えたかったから。

 私自身が、この戦いの中で価値ある役目を果たすことによって。


 その真摯な意志は、私にこの上ない力を与えてくれていた。

 例え目前に、自らの命の危機が迫っていようとも、絶対に成し遂げなくては……と思わせてくれるほどに。

 結局はそれこそが、私を最も強く突き動かしている感情なのかもしれない。


 そういったいくつもの理由から、私はあの提案をするに至ったのだ。

 こんな事を言い出したら、皆から顰蹙を買うかも、と怯える弱い心を振り払って。

 だから春日井さんや志藤さんが、自分の提案にすぐ同意してくれた時は、頑張りが認められたようですごく嬉しかった。


 もちろん私自身は、何か具体的な提案をしたわけではないし、議論を主導しているわけでもない。

 要するに現状、この問題に有意義な関わり方ができていないのである。

 相も変わらず、他人に頼り切りというわけだ。


 それでもこのまま、何もせずにいるつもりはなかった。

 失われた記憶を取り戻すため、自分なりに最大限の努力をするつもりなのだ。

 別に『今を生き抜く』という、より緊急な問題を忘れたわけではないが、とりあえずはその達成が当面の目標であった。


 ただそれを実現するに当たって、私にはひとつ、とても気になっていることがあった。

 それはこの問題に対する、スズの動向――彼女がなぜか、あまり記憶の話をしたがらない、という事実だ。


 一応最初の方は、積極的に取り組む雰囲気もあったのだが。

 しかし話し合いの途中から、スズは妙に落ち込んだ顔を見せるようになった。

 私の決意を聞いている時も、どこか苦しそうにしていた気がする。


 しかもその後、誰にも告げることなく、一人で戦いに出てしまった。

 どこか次に予定されていた、記憶に関しての相談から逃れるかのように。

 いつも堂々としている彼女にしては、ひどく珍しい振る舞いであった。


 スズがそういう、何ともらしくない行動をとった理由は、正直さっぱりわからない。

 彼女は私に、自分の内心をほとんど語ってくれないから。

 そもそも想像がつかぬ、と言ってしまっていいだろう。


 だからあの時は、ついついかなり突っ込んだ質問をしてしまった。

 いなくなったクラスメイトの中に、スズにとって特別な人はいたのか、というあれだ。


 だってもしそういう人がいたのなら、そしてそれが落ち込みの原因なら、自分でも彼女の力になれると思ったから。

 大切な人の喪失という苦しみを、完全にではないものの、乗り越えたことがある経験を活かして。

 私は何とか、スズの役に立ちたかったのである。


 ただし無論、そんなのは単なる無神経な押し付けでしかない。

 相手が辛い状態にあると予想していながら、その詳細を話せと要求してしまったのだから。

 それでは傷口に塩を塗るも同様だし、あれはおそろしく配慮に欠けるやり方だった。

 本当に自分は、こういう気遣いが下手な人間なんだな、と心から思う。


 まあだからこそスズも、私に相談をしてくれないのだろう。

 彼女が何も話さないのは、私が頼りないせい、というわけだ。

 なので本来なら、今だって無理に事情を聞き出したりせず、向こうが話す気になるのを待つべきであるに違いない。


 しかしそれは、あくまでも平時の話であり、今回ばかりは事情が違う。

 この先行き不透明な状況で、単独行動なんて危ない真似をする彼女を、一人で放っておくわけにはいかないのだ。

 その想いもまた、私にとっては非常に重要なのである。


 だから今の戦い――スズが単独行動の果てに、敵と遭遇した時のもの――が終わったら、彼女としっかり話そうと考えている。


 スズが胸の内に、どんな苦しみを抱えているのか。

 どういう理由で、こうも無茶なことをしでかしたのか。

 その気持ちを、詳しく聞きたいのだ。

 大切な友人の心情を、もっと良く理解するために。


 そして可能ならば、彼女が抱えた悩みを解消し、憂いなく過ごしてもらいたいと願っている。

 いなくなった人達だけでなく、今ここにいる友達だって、かけがえのない存在なのだから。

 そのためにも必ず、目の前の戦いに勝利し、生き抜いてみせなくてはならない。


 だが、それなのに。

 そうして意志は固まり、やるべき事も定まったと言うのに――


『冗談きついぞ……何機いやがるんだよ、これ?

 くそっ……』


 斉川君の発する、その焦りを帯びた言葉通り、私の眼前には恐ろしい光景が広がっている。

 上を見ても下を見ても、右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、そこに必ず敵がいるのだ。

 完全に取り囲まれてしまった、ということである。


 しかもその数は多く、種類も多彩――今までに戦ったことのある、ほぼ全ての敵機が確認できた。

 そんな連中が、整然と陣形を組みながら、こちらをじっと注視しているのだ。

 そこから発せられる猛烈な圧迫感には、冷や汗がにじむほどの恐怖を感じずにはいられない。


 きっと私達が、ステルス自爆機の群れに気を取られている隙に、敵は包囲網を構築したのだろう。

 完全に囲まれるまで探知できなかったのは、味方の姿も隠せる新型がいたからかもしれない。

 どうやら先の波状攻撃は目くらましで、その間に本命の布陣を済ませる、という作戦だったようだ。


 当然、このまま何もせずにいれば、一斉攻撃を受けて押し潰されてしまう。

 即刻適切な対処が必要とされる、絶体絶命の危機、ということである。


 そんな私の認識を裏付けるように、次いで志藤さんが、慌てた様子で倉田先生に声をかけた。


『倉田先生!』


 先生はすぐ、委細承知という口調で、迷いなくその呼びかけに応じる。


『……さすがにこうなると、素直に撤退する以外の道はなさそうだね。

 こちらには構わなくていいから、早速行動に移ってくれ』


 それでやり取りとしては十分だったのか、すかさず志藤さんが、私達に指示を出し始めた。


『すぐに反転して、艦後方の敵が薄い部分を突破します!

 橘君と栗原さん、それと春日井さんは、すぐそちらへ攻撃を!

 柳井君と望月さんは、突撃する三人の支援!

 斉川君と朝倉さんは、追撃してくる敵の足止めをお願いします!

 美山さんはそのまま、母艦の護衛に当たってください!』


 その内容を鑑みるに、どうやら彼女、戦力を一点に集中して突破するつもりのようだ。

 確かにこの状況であれば、それ以外に選択肢は無いだろう。

 私も突破役の支援要員として、そこにしっかりと貢献しなければならない。


 ただそうなると当然、スズとは離れ離れになってしまう。

 かなりの損傷を受けている彼女を、いったん放置しなければならないわけである。

 四方八方を敵に囲まれた、この困難な状況の中で。


 それがひどく心配で、私は彼女に、すがりつくようにして呼びかけたのだが。


「スズ……」


 スズは全く動揺の無い口調で、そんな私を優しく気づかってくれた。


『私は大丈夫。

 いざとなったら、艦の中に逃げ込んでおくし、心配は要らないよ。


 それより、のどかの方こそ気をつけて。

 かなり無茶な作戦になるはずだから、くれぐれも無理はしないようにね』


 いつもの頼りになる彼女、というわけだ。

 私はその平静を保った反応に、安心しながら答えを返す。


「うん。スズも無茶なことはしないでね」


 ただ同時に、軽い引っ掛かりを覚えもした。

 彼女が先ほど、私が機体の状態を尋ねた際、何か言いかけていたことを思い出したから。

 それがトラブルの報告だった可能性もあるわけだし、戦いの前に確かめておいた方がいいのかもしれない。


 しかしそうして、私がスズにもう一度話しかけようとした瞬間、辺りに橘君の鋭い警告が響き――


『……気をつけろ! 敵が動いたぞ!』


 その直後、志藤さんから戦いの始まりを告げる合図も届く。


『では状況を開始します!

 各自、先ほどの指示通りに行動を!

 絶対に無理はしないでください!』


 残念ながら、悠長に話している暇は無いらしい。

 まあ細かいことにこだわって、かえって彼女を危険に晒してしまっては元も子もない。

 ここはしっかり、目前の脅威に集中すべきだろう。


 そこで私は、素早く頭を切り替えると――


(大丈夫……私にもやれる!)



 そう自分を励ましつつ、戦いに身を投じるため、自らの機体を前進させた――








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