Section-7
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『スズ! 大丈夫!?』
私はそう呼びかけてきた、自らの救い主の名を、歓喜しながら叫ぶ。
「のどか!」
もちろん我が親友、望月和歌である。
先ほどの光の壁は、彼女の機体の主武装、多目的サテライトビットによるバリアだったのだ。
おそらく敵襲来の報を受け、それに応じて出撃したところで、危機に陥った私を発見したのだろう。
それですぐさまビットを派遣し、こうして致命傷から守ってくれたらしい。
まさしく間一髪、これ以上ない最高のタイミングである。
しかも、そんな彼女の到来を契機に――
(やっと来た……!)
母艦のハッチから、次々と白色の光が飛び出してきた。
のどかと同じく出撃してきた、他のクラスメイト達の機体が放つ、推進用スラスターの輝きだ。
それらはあっという間に周囲へ広がり、母艦を包み込むように展開していく。
ここまでの戦力が確保できたのなら、きっとあのステルス自爆機の群れにも、十分な対応が可能だろう。
時間稼ぎは無事成功、私は自身の役割を果たせた、ということである。
ただし、その戦果に安堵する間もなく――
『なんだ? 敵の反応なんかどこにもないぞ!
どこから攻撃を受けたんだ?』
斉川君の上げる、戸惑った声が耳に入ってきた。
まだ敵の正体を知らないので、なぜ攻撃されたわからず混乱しているのだ。
このままでは私の二の舞だし、すぐにでも奴の性能を伝えねばならない。
そこで速やかに、自分が知りうる限りの情報を、皆に伝えようと試みる。
「今は見えないけど、『ハウンド』のステルス機能付きみたいなやつが大量に来てる!
だからみんなで弾幕を張って、そいつの突撃を防いで!
ミサイルの爆風とかで、位置はある程度わかるから!」
するとその短い報告だけで、瞬時に事態を把握したのか、志藤さんがすかさず指示を飛ばし始めた。
『全員すぐに、手持ちの武器で攻撃を開始してください!
敵が見えていなくても構いません!
具体的な方向はこちらで指定しますので、その通りにお願いします!』
それを聞いたクラスメイト達は、声に戸惑いを漂わせながらも、一斉に承諾の返事をする。
『『了解!』』
そして志藤さんの指示に従い、揃って周りに攻撃を開始した。
各々自機の射撃武器を構えて、それをバラバラの方向に放っていったのだ。
見た目の印象としては、ただ無駄弾を撃っているだけのような、何とも間抜けな光景である。
しかし、そんな感想とは裏腹に――
『うわっ! ホントにいた!』
直後、母艦の周囲のあらゆる方向に、いくつもの小さな爆発が生まれる。
きっと闇雲にも思えた今の攻撃が、接近中のステルス自爆機に命中、見事その撃破に成功したのだろう。
しかもそのペースは、私一人の時を遥かに上回っていた。
驚くほどの頻度で、敵が次々と撃ち落とされていくのだ。
特に活躍していたのは、斉川君と栗原さんだ。
彼らは機体の潤沢な火力を活かして、自らの周りに濃密な弾幕を形成し、次々と敵を撃墜している。
それは圧倒的、と呼ぶに相応しい戦いぶりだった。
また彼らだけでなく、他のクラスメイト達も、総じて戦果は上々である。
たぶん攻撃の方向を決める、志藤さんの指示が巧みだからだろう。
これなら遠からず、奴らの突撃を防ぎきれるに違いない。
そんな光景を見て、のどかもまた、戦局が味方に有利なものだと判断したらしい。
次いでそれを根拠にして、私に戦場からの撤退を促してきた。
『スズ! ここはもう大丈夫だから、スズはいったん母艦に戻って!
機体が傷ついてるみたいだし、もう無理はしないで!』
その提案を聞いて、私は大いに迷う。
まだ戦える状態で、本当に退いてしまって良いのか、と疑問に思ったのである。
確かに私の機体は、ずいぶんと損傷を負って、戦闘能力がかなり低下している。
しかしまだ、致命傷と呼べるようなものは無い。
後方支援くらいであれば、十分に可能なのだ。
であればやはり、ここは踏み止まって戦うべきだろう。
向こうに援軍が来るなどして、状況が大きく動けば、この傷ついた機体でも役に立つはずだから。
少なくとも戦局が安定するまでは、ここでそれを見極めねばならない。
そこで私は、即座にのどかの提案を断った。
「大丈夫! まだやれるから!
のどかは自分のことに集中して!」
その返事に対し、彼女はすぐさま抗議の声を上げたのだが――
『そんな……! でも、その機体の状態じゃ……』
そこへタイミング良く、志藤さんからの鋭い警告が割り込んでくる。
『気をつけて! 敵が迷彩を解除しました!』
それに反応して、私がすかさず敵の方へ視線を戻すと――
『チッ! かくれんぼは終わりです、ってか!』
そんな斉川君の言葉通り、『ハウンド』に似た形状の敵機が、大挙して押し寄せている光景が見えた。
例のステルス自爆機が、自身の姿を隠すのをやめ、一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。
その数は、容易には数え切れぬほどに多い。
また機動性の方も、先ほどとは段違いに高い。
どうやらこれまでは、隠密性維持のため、動きがかなり制限されていたらしい。
それを解除したので、今は遠慮なく最高速度で飛び回っている、というわけだ。
こうなると現在の戦力でも、あの猛攻を防ぎ切れるかどうか、定かではなくなってくる。
母艦を守り抜くためには、私も休んでいる暇など無い、ということである。
ゆえに再度、私はのどかに向け、自分は大丈夫なことをアピールした。
「のどか! 本当に私は大丈夫だから、のどかはみんなの支援を!」
さらに変わらず心配そうな様子で、渋ったように決断をためらう彼女に対し――
『でも、それじゃスズが……』
力強い言葉で、その不安を振り払おうとする。
「大丈夫! 絶対に無理はしない!
母艦の近くまで戻って、危なくなったらすぐに撤退するから!
だから私のことは気にしないで!」
するとのどかは、一瞬だけ考えるように間を置いてから、意を決した様子で私の言葉を受け入れ――
『……わかった! 本当に、無理はしないでね!』
次いで即座に通信を切り、攻め寄せる敵の方に対応し始めた。
私の提案に納得し、その通りに行動してくれた、ということだろう。
ならばと私も、それを確認した後すぐ、宣言通りに撤退を開始する。
なるべく戦闘が発生している場所を避け、飛び交う砲火を掻い潜りながら、母艦の側まで戻ったのだ。
そしていったん、そこから広く戦場を見渡す。
状況を把握し、自らの成すべきことを見極めるために。
結果として――
(悪くはない、か)
戦局は思ったよりもこちら側に有利、ということがわかった。
敵の数は多いが、どうにかそれを食い止められていたのだ。
実際、援軍が到来して以降は、母艦への被弾もほぼ皆無である。
そんなにも味方が優位な理由は、たぶん敵機の装甲が薄く、火力も低いから。
簡単に落とせる上、防御を気にせず一方的に攻撃できるので、深刻な脅威にはなり得ないのである。
やはりあいつは、ステルス機能だけが取り柄の敵らしい。
おかげで味方は、全員がほぼ危なげなく戦えている。
落ち着いていると言うか、わずかながら余裕さえ感じられるような雰囲気だ。
このままであればおそらく、そう時間もかからず勝てることだろう。
しかしそこで、そんな気の緩みを突いてきたかのように――
(……抜けてきた!)
味方の弾幕をすり抜けて、一機だけ敵が眼前に現れた。
そいつは猛烈なスピードで、母艦へ向け一直線に突進している。
間に他の味方はいないので、このまま進んでいけば、すぐにでも艦のところへ到達するはずだ。
もちろんあの一機では、艦に致命傷を与えることなど不可能だが。
しかし多少であっても、損害が出るのは事実なので、やはりきちんと防いでおくに越したことはない。
そこで早速、私は自らの機体を旋回させ、その突っ込んできた敵に狙いを設定した。
次いで『もし外したら自分に向かって来る』という状況に、少なからず緊張しつつ、慎重にプラズマキャノンを発射する。
(このっ!)
するとその一撃は、正確に目標を撃ち抜き、瞬時に敵機を爆砕させた。
とりあえず、自爆による被害は食い止められたわけだ。
また当然のように、そのせいで大きな爆風が発生したものの、こちらまでは届かない。
敵機といくらか距離があったので、余波程度で済んだのである。
艦の方も無傷だったし、ほぼ完璧な対処だったと言えるだろう。
もっとも、その代償として――
(出力が低下してきた……もう厳しいかな)
プラズマキャノンの出力が低下し、まともに攻撃できない状態になってしまう。
度重なる負荷で、機体が限界を迎えつつある、ということなのだろう。
ミサイルの残弾もわずかだし、のどかに言われた通り、そろそろ本当に引き時なのかもしれない。
ただしその危惧は、すぐさま意味の無いものへと変わる。
直後に通信から、終戦を告げる志藤さんの声が響いてきたからだ。
『敵機の反応が完全に消失、増援もありません。
よって現時刻をもって、状況を終了します。
みなさん、お疲れさまでした』
それと同時に、戦場にいるクラスメイト達の間で、安堵の声が飛び交った。
皆それぞれに、勝利の喜びを分かち合っているのだ。
全員無事で何より、というところか。
その安堵感に浸りながら、私もまたのどかに声をかける。
「お疲れ、のどか。大丈夫だった?」
彼女はそれに、何とも彼女らしく、気づかいを交えて応じた。
『私は大丈夫。それより、スズの方こそ大丈夫?
今さっき、そっちに敵が行ったみたいだけど……』
どうやらこちらの状況も、きちんと把握していたらしい。
他の味方の支援をするため、周囲にしっかり気を配っていたからだろう。
私の機体の状態を知ったら、もっと心配するに違いない。
ただもう敵がいない以上は、別にわざわざそれを隠す必要も無い。
そう判断した私は、早速その質問に応じ、全て正直に報告しよう……としていたのだが――
「うん、その敵は問題無かったよ。でも……」
私がそれを言い終わるよりも早く、突如として通信越しに、倉田先生の苦り切った声が聞こえてくる。
『これは……油断したね。なるほど、敵も考えるものだ……』
そこにはさらに、志藤さんの漏らす、我が目を疑っているような口調の呟きまで続いた。
『そんな……どうやって、ここまでの数を……』
その不穏な雰囲気に急き立てられ、私が慌てて辺りを見回すと、目に驚きの光景が飛び込んでくる。
(こ、れは……)
『バグ』に『ビッグアイ』に『ゴーレム』、『サンフラワー』に『アングラー』、そして『クロコダイル』……
そんな連中が雲霞のごとく、上下左右あらゆる方向に、所狭しと展開しているのが見えたのだ。
その陣形は整然としており、ほんのわずかな乱れすら見えない。
そう、私達はいつの間にか――
(囲まれてる……!)
蟻の這い出る隙間も無いほど、完全に取り囲まれていたのである……
ここでいったん、『美山涼編』の終了です。次回からは、『望月和歌編』の開始となります。
最初に若干の回想シーンを挟み、その後にこの状況からスタートする予定です。




