Section-5
更新履歴 21/10/9 文章のレイアウト変更・表現の修正
何も無いはずの虚ろな空間で、目に見えぬ何かが激しく爆ぜる。
そして閃光と爆風を撒き散らしながら、見る間にその何かは霧散した。
それが消え去った後、同じ場所に残されていたのは、原形を留めぬ数多の金属片のみだ。
その謎の現象が、意味するのは――
(あそこに、何かいた!)
そこに何者かが潜んでいた、という揺るぎない事実である。
そいつに偶然、先の攻撃が命中し、今の爆発が起こったということだろう。
加えてその何者かは、敵である見込みが極めて大きい。
こちらに連絡もなく、身を隠しながら近づいてきた、という点から考えて間違いはない。
当然今すぐにでも、最大限の警戒が必要である。
そう状況を把握した瞬間、私は素早く通信を開いて、倉田先生に事情を知らせる。
「先生、敵襲です! レーダーに反応は無いけど、何かがいます!
すぐみんなを出撃させてください!」
さらに続けて、向こうから返事が来るよりも早く――
(考えるよりも、まず行動!)
迷うことなく、再び頭部の機関砲を連射した。
先ほどと同じように、自分の周囲へ、その弾丸を無造作にばらまいていったのだ。
無論、後続の襲撃に備えてのことである。
またそれと同時に、改めて思考を開始、今ここで何が起きたのかを把握しようとする。
(何……? いったい、何が起きてるの?)
まず大前提として、敵がいたというのは確かだ。
でなければあんな風に、何も無い宇宙空間が爆発し、そこに残骸が生じることなどあり得ぬのだから。
そしてそいつは、おそらくステルス機能を有していた。
レーダーに反応がなく、目視もできなかったことからそれがわかる。
敵はその機能を使って、こちらに気づかれぬよう接近してきていたのだ。
例の難敵、『オベリスク』と同じように。
しかしどうやら、今回の敵は、あれそのものというわけではないらしい。
なぜなら『オベリスク』は、長距離砲撃を得意とするタイプだから。
わざわざ自分から距離を詰めてくる、とは考えにくいのである。
例の迎撃システムも沈黙したままだし、ここはやはり、全く別の敵機と解釈するのが妥当だろう。
集めたそれらの情報から、敵の正体を探っていくと、自然とひとつの可能性が浮かんでくる。
(相手は……『ハウンド』みたいなやつ、かな?)
敵は『ハウンド』のような自爆機ではないか、という推測だ。
だって自ら接近してくる上、機関砲で仕留められるくらい装甲が薄く、撃墜された瞬間に大爆発を起こすのだから。
性質がほぼ同一だし、やはりあいつにステルス機能を付加したものが、先ほど私を襲った奴と見て間違いはない。
そうして何とか、ある程度敵の性能に見当はつけたものの――
(でもそんな奴、どう対処したら……!)
肝心の対処法は、未だ何ひとつ閃いていない。
まあ初めて遭遇する相手で、おまけに詳しい情報が無いのだから、それも当然であろう。
もちろん志藤さんか斉川君がいれば、何か対策を編み出してくれたかもしれないのだが。
しかし残念ながら、未だに味方が出撃してくる気配は皆無だ。
とりあえずは自分だけで対応せねばならぬ、ということである。
するとそうして、私が己の苦しい状況を自覚、避けられず焦りを覚えた直後――
(ぐっ……!)
機関砲の射線の先で、再び爆発が起こった。
しかもその位置は、前回よりもかなり自分に近い。
要は後続の敵機に、確実に距離を詰められているわけだ。
このままであれば、連中が私の元へ到達するのも、そう遠くはないだろう。
しかもその爆発を見て、私がさらに警戒を強めることを決意した矢先に、なんと――
(……っ! 弾が切れた!)
今まで猛然と火を噴いていた機関砲が、突如として空回りを始める。
機体に搭載されている弾丸を、全て撃ち尽くしてしまったからだろう。
まあこれだけ滅茶苦茶に撃ちまくっていれば、それも無理からぬことなのだが。
こうなるともちろん、すぐにでも次の手を打たなくてはならない。
迎撃が止まれば、敵に自由な行動を許してしまうことになるから。
それでは撃墜してくれ、と自ら言っているようなものだし、決して手を休めるわけにはいかぬのだ。
そこで機関砲の代替として、私は慌てて自機の下半身――馬のような形状をした部分――の前面を開放し、そこからミサイルを連続して放った。
これがうまく当たってくれれば、という淡い期待を胸に抱きながら。
しかしそんなこちらを嘲笑うように、放ったミサイル群は、残らずあらぬ方向へと飛んでいく。
まあこれは本来、レーダーで誘導する兵器だし、こうなるのは当然の帰結かもしれない。
ならばと次いで、同じく下半身の側面に搭載された、二門のプラズマキャノンも撃ってみたのだが。
結局はそちらも、漆黒の宇宙へと吸い込まれていくのみになった。
この機体にもっと火力があれば、別の対処もできたのかもしれないが、現状ではこれが限界である。
それを理解した瞬間、私はひとつの困難な選択を迫られる。
(どうする……? 逃げる?
それともここに留まって戦う?)
自らの安全を考慮して、いったん母艦に撤退するか。
あるいは敵の迎撃を優先して、この場に残るのか。
それを即刻、決断しなければならなくなったのだ。
もちろん現在、私は著しく不利な状況に追い込まれているわけだし、基本は迷わず逃げるところだろう。
だが、そうとわかっていても――
(でも……ここを動くわけにはいかない!)
やはり簡単には、この場を離れることなどできない。
帰る場所を守るため、母艦への直接攻撃だけは、何としてでも防がねばならぬからである。
少なくとも援軍が来るまでは、ここで粘っておくべきなのだ。
となれば今、私に必要なのは、あの謎めいた敵の位置を掴む方法だろう。
やたらに攻撃しても無意味なのだから、何とかそれを把握して、的確に仕留めるより他はない。
敵がこちらへたどり着き、恐ろしい自爆攻撃を開始する前に。
ゆえに早速、周りへの警戒を続けつつも、私は必死で思考を巡らしていく。
(何か……何か、あいつの居場所を特定する方法は……?)
そこで最初に閃いたのは、『オベリスク』の時と同じように対処すること。
以前に使った策を流用すればいいのでは、と考えたのである。
だってあいつとは、これまで何度もやり合ってきたし、何機かは撃墜することさえできた。
だからその時と同じ方法を用いれば、今度も何とかなるかもしれない……と、至極真っ当な発想をしたわけだ。
しかしその発想は、妥当であるがゆえに――
(いや、難しいか……)
同時に短絡的でもあり、実現するのは非常に困難なものであった。
なぜならまず、敵機の性能が異なっている。
『オベリスク』は高火力の長距離射撃機であり、攻撃の際にステルス機能が阻害される、という致命的な欠点を抱えていた。
その隙を突くことで、以前は撃破が可能となったのである。
しかし新しい敵機には、そんな兆候など一切見えない。
志藤さん発案の、例の探知システムが無反応、というのが何よりの証明だ。
どうやら攻撃手段を自爆に限ることで、欠点を克服したらしい。
もはや同じ手は通じぬ、と考えるべきだろう。
また同じ時に志藤さんが試みた、『敵軍の配置からステルス機の位置を推測する』という作戦も、現状ではほぼ不可能である。
そもそも他の敵が存在せず、陣形も何もあったものではないから。
要は今までの対策は全て無効、ここで新しくひねり出さねばならぬ、ということだ。
とは言えその道は、今のところ限りなく細い。
自分に成し遂げるのなんて不可能だ、と強く確信が持ててしまうくらいに。
だってまず、目視で探す方法は、成功率が低い上に時間も足りない。
また意図的に自分を攻撃させ、それを回避してから位置を特定する方法も、相手が自爆機では全くの無意味だ。
いずれにせよ、現実味があるとは言い難い。
また見えないなら音で察知、みたいな芸当も不可能である。
理由は言うまでもなく、宇宙空間に空気が存在せず、音そのものが伝わらないから。
もちろん普段は、攻撃やら爆発やらの音を聞いているわけだが。
あれはあくまで、操縦者が状況を把握しやすいよう、後から付けた効果音に過ぎない。
捉えた映像を元にして、擬似的に作り出されたものなのだ。
だから当然、見えぬものの音は再現できない。
透明な状態で忍び寄る相手のことは、端から探知する手段が皆無なのである。
つまり今の私は、完全に打つ手無し、という状態なのだ。
どうやらこのまま、大した抵抗もできずに、奴らの集中攻撃を受けるしかないらしい……
……と、あまりにも八方塞がりな状況に、私はいったん諦めの気持ちすら抱いたのだが。
しかしその思索の最後に出た、自分の言葉をきっかけに――
(……集中、攻撃?)
例の敵機の行動に、ひどく不自然な点があることに気づいた。
(そう言えば……なんであいつ、私の近くに来たんだろう?)
それは母艦がすぐ後ろにいるのに、敵機が私の近くに現れた、というところだ。
自身を捕捉されてはいなかったんだし、普通であればやはり、護衛は避けて母艦を狙うのがセオリーだろう。
なのに先ほどの敵は、わざわざ私に接近し、結果運悪く撃ち落とされてしまっている。
その不可解極まる行動に、あえて理由をつけるとするならば――
(もしかして……連中、私を狙ってきてる?)
護衛を先に片付け、後からゆっくり母艦を仕留めるつもりだった、というところか。
あるいは『オベリスク』と同様、自身に最も近い敵を、優先的に狙ったのかもしれない。
そもそも考えてみれば、雑に撃った機関砲が命中したのも、こちらにまっすぐ向かってきていたからなのだろう。
無論偶然の可能性もあるが、十分に筋の通った推測だし、全くの的外れではないはずだ。
その降って湧いた閃きは、この苦しい状況に、ひとつの光明をもたらしてくれた。
(なら、囮になればいい!)
忍び寄る敵を自分に引きつけられれば、無理に相手を倒さずとも、母艦を守ることは可能――そういう選択肢を、私に与えてくれたのである。
もちろん現時点ではまだ、例の推測が正しいという保証は無いから、先行き不透明な部分もある。
そのうえ陽動作戦なんて試みれば、安全面のリスクもかなり大きくなるわけだが。
しかし状況を鑑みるに、そこまで無謀な作戦でもないはずだ。
例え確実でなくとも、自分の考えには自信があったし、囮役にしたって、味方の出撃まで時間を稼げれば良いのだから。
見えぬ敵を撃ち落とす、なんて無茶をやるよりは遥かにマシだろう。
そう瞬時に作戦を立てた私は、次いで迷うことなくそれを実行に移し――
(よし……!)
機体のスラスターを起動、先ほど敵が来た方向へと移動した。
そして母艦と十分な距離をとってから、ピタリと停止しつつ身構える。
対戦相手の激しい攻撃に備え、ガードを固めるボクサーさながらに。
すると直後、辺りを冷ややかな静寂が支配した。
私が動きを止めたせいで、大きな音を発するものが無くなったからだ。
その静けさがもたらす緊張感と、いつ攻撃されるかわからぬという不安は、時間と共に私の精神を追い込んでいく。
ただ私が、その重いプレッシャーに吞み込まれそうになった次の瞬間、狙い通りに事態が動いた。
(……来た!)
視界のほぼ真ん中、すぐ側と言える位置に、突如空間の歪みのようなものが出現したのだ。
言うまでもなく、先ほど見たのと同じ現象である。
しかもその歪みは、現れると同時に、こちらへさらに接近してくる。
そして間を置かず、携えているプラズマランスの穂先辺りへと接触し――
(くっ……うああっ!)
視界を完全に塞ぐほどの、壮絶な爆発を発生させた――




